片方靴の依頼人(ホームズシリーズ・プロローグ)赤い靴⑧10,000字   作:源公子

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第36話 ……なのに尚も話は続く

 事件が無事解決し、やっと私とワトソン君は元の時代に帰ることができた。

 おかげで女王蜂の分蜂に間に合い、私は「実用養蜂便覧」(*注1)の執筆に取り掛かる事ができた。

 

 ある朝、テーブルの上に五代目からの手紙が置いてあった。モリアーティのところに、ちゃっかり居候している黒兎が届けて来たらしい。封のところにウサギの足形がついていた。

 

 

 それによると、ピエロはモリアーティの雇った弁護士のおかげで死体損壊罪には問われたが、情状酌量が認められ、比較的刑もかるく済んだ。(*注2)

 モリアーティはピエロのお父さんを刑務所の近くの病院に移らせて、ピエロがお父さんとマメに面会できるよう取り計らった。アリス嬢も時々行くそうだ。

 

 お墓は完成し、チャン家の血筋の男達がみなお参りにきてモリアーティに握手を求め、首の印が消えて喜んで帰っていった。

 その数の多いこと……さすが人口世界一の国、華僑だ。

 

「良いことするって、地味に疲れるね」

 モリアーティはぼやいているようだが、善行は施すに越した事はない。

 すっかり良い子になったモリアーティの様子に、五代目も安心して結婚できそうだ。

 

 

 こうして穏やかな日が戻って来た。

 しかし私はあれ以来どうもノックの音がトラウマになってしまったようだ。

 

 ただの郵便配達の悪意のないものだと分かっていても、あのメチャクチャな世界を思い出してどきりとするのだ。しかし日々の平和の中で、記憶もやがて薄れていった。

 

 

 蜂たちの冬支度も済んだ11月のある日、ノックの音で私がドアを開けると――

 

 バタン! 私はドアに鍵をかけ、裏口に逃げた。

 そこに黒兎が二本足で立っていたからだ。

 

 

「ホームズ アケロ! マザー ニ イワレタ カラ チャント ノック シタンダゾ」

 

 嫌だ! 私は、もうあの世界と関わるのは真っ平なんだ。

 

「ニガス モンカー」

 

 声と同時に天井にホールが開き

 黒兎が私の頭の上に降ってきた。

 

「黒兎、上から来るのだけはやめろと言っただろう!」

 首をさすりながら私が言うと、黒兎が喚いた。

 

「ソレドコロジャナイ! ホームズ、 モリアーティ ト フィフ ガ ユウカイサレタ ンダ!」

 

 ……to be continue.(続く) えっ、まだ続くの?

 

 *******

 

(*注1)「実用養蜂便覧、付・女王蜂の分蜂に関する諸観察」ホームズさん引退後

     の最大著作。「最後の挨拶」に載っています。

 

(*注2)死体損壊罪は日本なら懲役3年くらい。アメリカは州によって違うので、

     ちょっとわかりません。(CSIとかでやってなかったかな。ラスベガス

     ・マイアミ・ニューヨーク……カリフォルニアじゃないか)

 

 

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