1.流星街に舞い降りた人造人間
「何だ、ここは……?」
――流星街。
瓦礫、ゴミ、死体、人間。
あらゆるものが捨てられていく巨大な街。
そこに一人の女性が立ち尽くしていた。
*
彼女の名前は『人造人間18号』。通称18号と呼ばれる人造人間だ。
こことは違う別の世界で生まれ、ドクターゲロという悪の科学者によって
永久エネルギー炉を体内に持つ人造人間に改造される。
孫悟空という男を殺すため、戦いの日々が始まり――
色々あって、自由の身となったはずだったのだが……。
ある時、彼女の体内に埋め込まれた爆弾が、突如爆発してしまったのだ。
彼女は死んだ。
そして、神――それも、その世界における最上位の神――に邂逅する。
ロボットのような見た目をした神は18号の死は手違いであると謝罪し、
書き直――もとい、時間を戻さなくてはならないと言った。
しかし、神と言えど時間に逆らうのは簡単ではなく、暫く力を溜めないとできないらしい。
「話は分かったよ。で? それまで私は待ってればいいのか?」
「待っててくれるならそれでもいいですよ。ただ……すごく時間がかかるのでおすすめできません」
神は少し気まずそうに言った。
「……何時間ぐらいかかるんだい?」
「そうですね……最速で5年ぐらいですかね」
「5年!? 冗談じゃないよ、そんなに待ってられるか!!」
18号は思わず声を荒げる。
「18号さんならそう言うと思ってました……とは言え短縮は不可能なんです。
そこで――別の世界で暇つぶしするのはいかがでしょう?」
「……別の世界?」
18号は首をかしげる。
「ええ、5年間そこの世界で好きに過ごしてください。
そこはこの世界とはまったく違った魅力的な世界ですので、たぶんお楽しみいただけるかと」
「ふーん……まぁ、ここでぼけっと待つよりはマシか」
「でしょう? あ、とは言えあなたの実体を異世界に転移するので……。
そこで死んでしまったら、ここに戻って待ってもらうことにはなるので注意してください」
「ああ、分かった……けど、そんなに危険な世界なのか?」
死んだばかりだった18号は少しその異世界に警戒を強める。
「普通に戦えばあなたの敵になる存在はいませんね。
ただ、その世界には『念能力』というものが使える人がいまして。
その能力にハマると、あなたと言えど死ぬ可能性は十分にあります」
「念能力……そいつは私にも使えるか?」
「残念ながら使えません。あなたはその世界では異世界人なので、身体のつくりが違うんです。
ただ、念能力を使うのに必要な『オーラ』は、こちらの『気』と似たようなものなので、視認はできます」
「見えるなら何とかなるか……」
「それと、お約束として……転移に際してちょっとした力の贈り物をしておきます」
神は18号に向けて手をかざし、光を放った。
「……力? まぁ、貰えるものは貰っておくよ。で、どんなの?」
「18号さんはご自分専用の技ってあまり持ってませんよね?
ですから、こちらの世界の住人の技をいくつか伝授しました」
「なんだ技か……それなら異世界で使える金のほうが良かったな」
「……」
*
そんなこんなで、18号は異世界――『HUNTER×HUNTER』の世界に転移した。
5年間、この世界で気ままに過ごし、そして神が時を戻して元の世界に戻る。
5年、長いようで短い、束の間の暇つぶし。
とは言え異世界転移したのだ。
普通の感覚なら不安を感じたり、はたまたワクワクを募らせているものだが……。
(あのクソ神……こんな掃き溜めみたいな場所に転移させやがって……。
ふざけんじゃないよ……今度あったらぶん殴ってやろうか……)
18号は激しく苛立っていた。
前述した通り、ここは流星街。
瓦礫、ゴミ、死体、人間。
あらゆるものが捨てられていく巨大な街……。
だからこそ、異世界人のスタート地点としては相応しい。
戸籍がなくても、流星街出身と言えばそれだけで納得してくれる。
そう思った神なりの配慮だったのだが……。
(チッ……とりあえず舞空術で適当な街まで行くか。
こんな場所じゃ何も楽しめないしな)
18号が飛び立とうとした時、背後から声がかかる。
「ねぇお姉さん、何してんの?」
「見ない顔だよね、どこから来たの?」
「ここ、どんな場所だか分かってる? 危ないよ~?」
軽薄な男達数人が18号に声をかけてくる。
この街の住人らしく、身なりはボロボロだ。
もちろん18号は歯牙にもかけず無視を決め込む。
「無視かよ……。なぁ、こっち向けよ」
「今ならやさしく色々と教えてあげるぜ? 手取り足取り、な?」
「あ、もしかして不細工で人には見せられない顔なのかな~?」
最後の男の言葉にイラつき、18号は男たちに顔を向ける。
「うわっ、すっげー美人……」
「思った通り、気の強そうな女だな」
「ばっか、そこがいいんじゃねぇか」
男たちは好き勝手に18号を品評し始める。
18号のイライラはさらに募っていく。
しかし、ほんの少し冷静になって考えてみると
こんなクズ共でもこの異世界では貴重な情報源だ。
この世界について聞き出してみてもいいかもしれないと18号は思った。
「なぁ、お前ら……」
「「「!!」」」
思ったより低めの声で話かけられ、男たちは少し驚いた。
「一つだけ質問に答えたら、さっきの侮辱はなかったことにしてやるよ。
なぁ、ここらで一番大きい街はどの方角にある?」
どうやらこの女は相当キレているようだ。
男たちはちょっと煽りすぎたか、と言動を後悔するが、それでもこちらは男三人。
気が強いと言っても線の細いか弱い女性に何ができる?
いざとなれば無理矢理モノにしてしまえばいい、などと思っていた。
「教えてあげるからさ、ちょっと俺らのシマに来てくれよ」
「都会の男より刺激的な遊びも教えてやるよ」
「痛い目みたくなかったら大人しくついて来い、分かるよな?」
「……」
気付けば18号は男三人に取り囲まれていた。
正面に一人、左右に一人ずつ。
こちらが抵抗すれば羽交い締めにし、シマとやらに連れていくつもりなのだ。
「ああ……分かったよ。
お前らがとんでもない馬鹿ってことがな」
18号はひとつため息を吐くと、完全に油断している正面の男に掌底を喰らわした。
2メートルほど上空へ吹っ飛ばされた男を、思わず目で追いかけてしまった左側の男の腹に肘打ちを。
そして、何が起きてるか分かってなさそうな右側の男を横っ腹から蹴りつける。
この間、5秒もかかっていないだろう。
男たちは全員昏倒し、暫く起き上がる気配はない。
かなり手加減したので死んではいないだろう。
(何が楽しめる世界だ……イライラしかしてないぞ今の所)
今度こそ、どこか大き目の街を探して飛んで行こうとしたその時。
またしても18号に声をかける者がいた。
「見てたぜ、今の!! あんた強いな!
しかも超がつく美人じゃねえか!!」
今度の男は声がとにかく大きい。
18号がチラっと目を向けると身体もとんでもなくでかい。
ドスドスと足音を立ててこちらへ近づいてくる。
そして、よせばいいのに無遠慮に肩に手を伸ばす。
「しかしいくら腕に自信があってもこの流星街は危険だぜ。
犯罪者がうようよいる。ま、俺も人のこた言えねぇが。
……なぁ、あんた都会に行きたいんだろ?なんと俺は都会でマンション借りててな。
良かったら俺の部屋に泊まりに――」
男が口説き文句を言い終わる前に、18号はその男の腹を殴っていた。
苛立ちは限界に達していたのだ。
だから、普通の人間なら死んでもおかしくないレベルの力で殴ってしまった。
18号の頭の中では男はすでに吹き飛んで、瓦礫やゴミの中に埋まっているはずだった。
――しかし。
男はその場に留まっていた。
……僅かに右足が後ろに下がっていたが、それだけだ。
(こいつ……強いな。まさかこいつが例の――)
「……わたしは今最高にイラついてるんだ。言葉には気をつけな。
それに、名前も名乗らない男についていく女はいないよ」
「くくっ、それもそうだな。すまねぇな、悪気はなかったんだ。
……俺はウボォーギンという。幻影旅団、って聞いたことないか?」
「知らないね」
「俺らも有名になったつもりだったが、まだまだかぁ?
まぁいい、そこの団員をやってるもんだ。
あんたに話しかけたのは本当に親切心からだ。
こう見えて、女には優しい男なんだぜ?」
「はぁ……どうだか」
「本当だって。困ってる女を助けたい、それだけだぜ。
……なぁ、あんた名前は?」
そう問われ、18号は目を伏せる。
名前――18号は元々は人間で、ゲロによって改造された。
だから18号ではなく、本当の名前がある。
だが、思い出せない……。
だから、便宜上こう名乗らざるを得ない。
「……18号」
この人間味の感じられない、名前とも言えない名前が、18号は反吐が出るほど嫌いだった。