「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。
試験内容は、生きて72時間以内に塔の下まで辿り着くこと。
では、試験スタートです!」
トリックタワーの頂上は円形の平坦な床だ。
外周は窓一つない外壁、取っ掛かりになるものも少ない。
一人、ロッククライミングに自信を持つ者が降りて行ったが、怪鳥に食われ死んでいった。
「馬鹿が……死んだら治療できないのに」
「もう何も言うまい……」
クラピカは18号の独り言へのツッコミを放棄した。
「キルアとちょっと調べてみたんだけど、隠された入口をいくつか見つけたよ」
「無数にあるぜ。近くのやつに入ったら全員で挑めるかもな」
「とにかくやってみるしかあるまい。あまりモタモタもしていられない」
「だな。でよ……物は相談なんだが……」
レオリオは18号に視線を向ける。
「なんだ、レオリオ」
「今回から、18号とはちょっと離れて挑みたいんだよな」
「ほう?」
レオリオの提案に18号は意外そうな顔をした。
「18号がいると、最悪どうとでもなる気がして緊張感がな……」
「あ~……」
「確かに、ここも瞬間移動使えば突破できるよね」
「それでは私達にとってプラスにはならない、か」
18号は4人を見回して、息を吐いた。
「分かったよ。今後は別行動にする。時々様子は身に来るかもしれないが、いいか?」
「もちろん!」
「結構心配性だよな、オメーはよ」
「それじゃ、下でまた会おう」
「じゃあな」
そう言って、4人は見つけた入口のほうへ走っていった。
それを眺める18号の肩を何者かが叩く。
「じゃあ、ボクと一緒に行こうよ♥」
振り向いた18号に向かってヒソカが誘いをかけてくる。
18号は露骨に嫌そうな顔をした。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない♠あんなに殺(あい)しあった仲なのに♦」
「そこらのザコよりはマシか……足を引っ張るなよ」
「もちろん♠それと、もう一人友達を紹介するね♦ほら、ギタラクル♥」
そう言って、ヒソカが紹介した男――ギタラクルは異様な男だった。
顔中に太い針が刺さっていて、モヒカン頭。目つきも悪く、どう見ても堅気の人間じゃない。
「よろしく……」
顔をカタカタ鳴らしながらギタラクルはそう言った。
「お前の周り、変態しかいないのか?」
「心外だな♠それより、ボクらも入口を探そうよ♣」
「ふん……」
そう言って、3人はそれぞれ入口を探し始める。
「おっ」
探し始めて1分も経たず、18号は入口を見つける。
チラ、と二人を見るとまだ入口を見つけていないか、吟味しているようだ。
(先に行ってしまうか……? うん、そうしよう)
18号は二人が見ていないことを確認して、下へ降りた。
*
降りた先は出口のない部屋だった。
中央のテーブルには3人分のタイマーのついた腕輪が置いてある。
よく見ると、〇と×のボタンがついている。
周りを見回すと、この世界の文字で何やら書いてある。
『多数決の道 君達三人はここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えなければならない』
(三人……ね)
そうこうしていると、天井から音がして二人、人が落ちてくる。
「や♥」
「……(カタカタ)」
「お前……何で」
「『伸縮自在の愛(バンジーガム』だよ♠こんな事もあろうかと、こっそりつけてたんだ♦」
(まさか、肩を叩かれたあの時か? やられたな……)
18号は黙って腕輪を装着した。
ヒソカとギタラクルもそれにならって装着する。
すると、ゴゴゴと壁が動きドアが現れる。
『この部屋を脱出する 〇はい ×いいえ』
〇3×0でドアが開く。
「さぁ、行こうか♣」
「……はぁ」
「……(カタカタ)」
*
「ねぇ、もう変装といていいんじゃない?♠人の目もないわけだし♦」
「……駄目だ(カタカタ)こいつを信用できない(カタカタ)」
「大丈夫だよ♣彼女は約束は守るタイプだ♥」
「……分かった(カタカタ)仕方ない」
「それ、変装だったのか……」
ギタラクルが針の一つを抜くと、顔の形と髪型がぐちゃぐちゃと変わっていく。
30秒もすると顔に刺さっていたすべての針が抜け、黒の長髪の死んだ目の男がそこにいた。
「うーん、いつ見ても不思議♦」
「モヒカン頭が長髪になるのはおかしくないか?」
「あり得ないから変装になるんだよ。おかげでキルには怪しまれてない」
「……キル?」
「改めて紹介しよう♣彼はイルミ=ゾルディック♦」
「ゾルディック……キルアの親族か」
「兄だよ。俺が長男、キルが三男」
「わざわざ家出した弟を連れ戻しに追いかけてきたのか?」
「彼、かなりのブラコンだから♥」
「否定はしないけど、なんかムカつくな」
「お前は……キルアをどうするつもりだ?」
「もちろん連れ戻すよ。キルは一流の暗殺者になれる。ハンターにはならせない。
資格としてはいずれ取ってもいいけどさ。こんな形では取らせない。それに」
「……それに?」
突然早口になったイルミに引きつつ、18号が訊ねる。
「お前も含めて、キルとつるんでいる奴ら……許せない。
キルとあんなに親し気に話して……俺とはまともに話してくれないのに」
「筋金入りだな、コイツ……」
「でしょ♠」
*
先へ進んでいくと正方形のリングがある広場に出た。
すぐに試験官らしき男の声がする。
『ようこそ、死の闘技場へ。君達はこれから死刑囚と戦ってもらう』
『しかもただの死刑囚ではない、全員念能力者だ』
『ルールは2つ。①相手を必ず殺せ。②全勝が突破条件、だ』
「多数決関係なくない?」
「確かにな。わたし達はさしずめ、都合のいい死刑執行人ってとこか」
「そういや、キミって殺しNGじゃなかったっけ?♠」
「別にNGってわけじゃない。殺したあとが面倒なだけだ……死刑囚なら問題ない」
「なるほど♥」
『では、誰が戦うか決めたまえ。それぞれにピッタリの相手を用意している』
「じゃあ、ボクが行こうかな♠」
「「負けたら殺す」」
「応援ありがとう♥行ってくるよ♦」
『44番、キミか。なら『ハンター殺し』、お前が適任だ』
「了解……」
反対側の通路から出てきたのは細身だが筋肉質の男だった。
「ハンター殺し? 随分物騒な二つ名だね♣」
『この男はハンターライセンスを手に入れて売るために、多数の新人ハンターを殺害した。
故に『ハンター殺し』と呼ばれている』
ハンター殺しとヒソカはリングの中央に立って向かい合う。
『では、ハンター殺しの拘束を解除する。それと同時に死合開始だ』
カチャ、という音がしてゴトリと巨大な手錠が外れる。
その音と同時にヒソカは隠を使った『伸縮自在の愛(バンジーガム』をハンター殺しに飛ばす。
しかし、ハンター殺しはそれを事もなげに躱す。
「もしかしてボクの能力バレてる?♦」
「試験官に聞いている。貴様とまともにやり合う気はない」
ハンター殺しはそう言うと、ヒソカと大きく距離を取る。
そして、具現化した銃を構え、撃ち放つ。
「具現化系か♠」
言いながら、ヒソカは初撃を躱して距離を詰めにかかる。
しかし、背中に銃弾を受け、思わず動きを止める。
「躱したはずだけど♦追尾性能でもついているのかな♥」
「正解。それもオーラに反応する追尾弾だ。さぁ、どうする」
ハンター殺しは2発、3発と撃つ。
ヒソカは物は試し、と『絶』でオーラを消してみる。
すると弾丸の性質が代わり、今度は弾丸をオーラが纏いはじめる。
「絶をしても無駄だ。今度はオーラを付与した強化弾。『堅』をしなければ致命傷を負うぞ」
ヒソカは言われた通り『堅』で銃弾をガードする。
『堅』ならば大したダメージは入らないようだ。
「ふぅん、なるほどね♦」
「この2つの弾丸から身を守るには『堅』を維持する、それしかない。
維持できなければ俺の勝ち……! ほら、どんどん行くぞ!!」
ハンター殺しはそう言って、さらに銃を撃ちこもうとする。
「嘘だね♠弾丸に付与した力は3つだ♣違うかい?♥」
「何?」
「たぶん、3つ目の弾丸は『オーラの防御を無視する』んだ♠
『堅』でガードしてる相手は、油断してそれを受けてしまい、死に至る♦そんなとこだろ?♥」
「な……」
「なかなか良い念能力だけど、致命的な弱点があるね♣」
ハンター殺しが4発、5発と撃ってくる。それをヒソカは躱す。躱し続ける。
「対処が簡単すぎる♠全部、当たらなければどうということはない♥」
ヒソカは『絶』の状態で全ての銃弾を躱していく。
一発でも当たれば致命傷になるが、恐怖は全くないようだ。
「馬鹿なっ」
「そして、銃である以上はリロードが必要になる♠」
カチカチ、と空しい音が鳴る。
「ま、待っ」
「はい、お死舞♥」
『周』で強化したトランプを鎌のような形に繋げ、ハンター殺しの首に振るう。
ゴトリ、とハンター殺しの首が床に落ち、少し遅れて血しぶきが雨のように降った。
『44番の勝利だ。お見事』
「どうも♠」
そう言って、ヒソカは18号とイルミの元に戻る。
「背中撃たれちゃったよ♠治して♥」
「30万ジェニー上乗せな」
「はいはい♣」
(安……)
『次はどちらが行く?』
「俺が行くよ」
『301番――ギタラクル、もといイルミ=ゾルディックか。
キミの詳細な能力は知らないが、操作系ということだけは聞いているよ』
「まぁ、そこは調べれば分かるからね」
『よって、君の対戦相手は『殺戮人形』が相応しい。出ろ』
「わ、分かった」
反対側の通路から気弱そうな男がビクビクと震えながら出てくる。
『彼は親に言われるがまま念能力を作り、その能力で親の望むまま人を殺し続けた。
能力は操作系で、自己操作で実力以上の力で戦う。誰が呼んだか『殺戮人形』』
「自己操作かー(針人間にはできないな)」
「お、俺の能力はそれだけじゃない……。俺は最強なんだ……」
「へー。でも自分で最強って言うやつ、大体弱いよね」
イルミの挑発に、男は激高しオーラを爆発させる。
「こ、後悔させてやる……!」
『では、死合を開始したまえ』
開始の合図と共に男は能力を発動させる。
「『
イルミは身体に異変を感じた。肉体ががくっと重くなった感覚。
(デバフ系能力? 他人に影響を及ぼす場合は、最低でも接触する必要があるはずだけど。
何か強い『誓約』でも課しているのかな)
「これで、お、お前は俺より弱くなった……」
「なるほど、それで?」
イルミは身体の感覚を確かめながら訊き返した。
「この状態で、もう一つの自己操作&自己強化能力を使えばどうなると思う?
ふ、ふふ……怖いか?」
「いや……別に」
「その顔が恐怖に引き攣るのが楽しみだ……『
能力を発動させると同時に男は猛然とイルミに襲い掛かる。
男の戦闘スタイルは「敵を自分より弱くした上で、自身を強化し身体能力の差で圧倒する」というシンプルなもの。
だが、シンプル故に対処は難しい。
「死ね、死ね、死ね……!!」
「っと……ふっ……おっ……」
男の猛攻にイルミは防戦一方のように見える。
だが、それでいてイルミにダメージはない。
「死ね……がっ!?……ぐふ……」
「キミね、能力に胡坐かきすぎ。修練不足じゃない?」
隙を見つけて反撃されると、今度は逆に男にばかりダメージが累積していく。
そこそこのダメージだが塵も積もればで男は次第に追い詰められる。
「何が起きてるんだ?」
「オーラを見てごらんよ♥」
疑問を呈す18号に、ヒソカが答えた。
言われた通りオーラを見てみると、それはおかしな動きを見せていた。
アメーバのようにオーラがうねうねと動き続けているのだ。
「オーラの攻防力移動♠『流』って言うんだけどね♦彼、それが病的に巧いんだよね♥」
イルミは男の70のオーラを纏った攻撃には、80の防御で受ける。
防御はその逆――なのだが、男は防御のオーラ移動がいまいちで、攻撃は素通しに近かった。
「ば、ばがな゙……ぐぉぇ!!」
大きな一撃を喰らった男は腹を押さえながら、ジリジリと後ずさる。
(まずい、このままでは、ま、負)
その時、イルミの身体の重さがふっとなくなる。
「お、戻った」
「あ……ああああああああああっ!!」
男が『
「必ず相手に勝利すること。一瞬でも敗北が頭を過ぎれば能力は解除され、再使用はできない」。
「あー……つまんない人生だったね? ご愁傷様」
「ふっ、ふざけ――」
イルミは制限されていたスピードを駆使し、男の攻撃を全て躱す。
そして『硬』で強化された貫手で『殺戮人形』の心臓を貫いた。
『死合終了。301番の勝利だ。素晴らしい』
「歯ごたえのない相手だったなー。というか、そもそも賞金首ハンターに捕まってる時点で……ねぇ」
「言えてる♣」
「弱体化する奴、多分複数相手には使えないんだろうな……」
18号はそう呟いて、『殺戮人形』が捕まった理由を想像した。
『さて、最後はキミだな。406番』
「ん……」
『正直、こちらとしてもキミは底知れなくて困っている。
誰でも結果は同じだろうが、君を殺せそうな能力を選んでみたよ』
「どうでもいい、さっさとしろ」
『では『マッドガッサー』、出たまえ』
「ヒヒ、了解」
対面の通路からは『マッドガッサー』と呼ばれた筋肉質の男が出てきた。
「こんな美人の苦痛に歪んだ顔が見れるとは、俺ぁついてるぜ」
「……気持ち悪い奴だな」
とっとと終わらせようと独りごちて、18号は準備を始める。
『では、死合開始』
開始の合図と同時に、男は口を大きく開けて、見えない何かを吐き出した。
「死になァ!! 『
18号はそれを躱すと、右手の人差し指と中指を立てて、相手に向ける。
「『魔貫光殺砲』」
開始前から密かに指先に溜めていた気を解放し、螺旋状のエネルギー波を飛ばす。
「……あ?」
超高速で放たれるそれに反応できるはずもなく、男は成す術なく眉間を貫かれた。
「今の技、やば♥」
「あのスピード……回避も簡単じゃないね」
ヒソカやイルミをもってしても、魔貫光殺砲を突然放たれたら何も対処できないだろう。
それほどの威力とスピードを兼ね備えた技なのだ。
『……』
「……? おい、私の勝ちだろ」
その時、『マッドガッサー』の殺人への執念が、放った念を強化する。
毒ガスが意志を持ったように集まり、18号に直撃する。
『殺した後も気を抜かぬ事だ。『死後強まる念』というものもある』
「う……」
18号は膝をつく。強烈な眩暈と吐き気に襲われる。
即座に治癒能力で自身を治療する。
「……治ったか。毒にも効くか不安だったが……」
『ふっ……406番の勝利だ。これで全勝、先へ進むがいい』
リングの中央に下り階段が現れる。
それを受けてイルミとヒソカが駆け寄ってくる。
「危なかったね♠いやぁ参考になったよ♥」
「キミを殺すなら毒は有効なわけだ。強力な奴ならあるいは……」
「目の前で殺す算段を立てるんじゃないよ……わたしはお前らと違って善良な一般市民だぞ……」
「善良なのは認めるけど、一般市民はない♦」
「……」
「ほら、先へ進むよ」
3人はトリックタワーを下っていく。
*
そこからは様々な仕掛けや罠、仲間割れを誘う部屋など色々あった。
そして、18号は――
「なんか面倒になってきたな……」
「どうするつもり?♠」
「この辺、タワーの外側に近い。もう外壁から下に降りたほうが早いだろ」
「一理あるね。ボク達も連れてってくれるなら、それでもいいよ」
「ええー……♣ホントにやるの?♦」
「ああ、離れてなヒソカ」
18号は両手で四角形を作る。
「『気功砲』」
四角形の形で外壁が破壊され、外の風景が見えた。
「よし、行くぞ。手を掴んでろ」
「はいはい♠」
18号達は壁から飛び出し、猛スピードで降りていく。
怪鳥がそれに気付き、狙いを定め急降下する。
「狙われてるけど」
「無駄だ、わたしのほうが早い」
18号はあっという間に地面へ到達し、衝突寸前で浮き上がり、ふわっと着地する。
怪鳥が少し遅れて18号達に迫るが――
「『魔閃光』」
18号の両掌から強烈なエネルギー波が放たれ、怪鳥は消し炭となる。
「すご♥キミ、いくつ能力持ってるの?♦」
「さぁな。それより、わたし達が一番乗りみたいだぞ」
「そりゃそうだろうね」
そう言うとイルミは針を顔に指し、ギタラクルの姿に戻る。
「それじゃ、俺はゆっくり休ませてもらうよ」
「ボクも休もうかな♠四次試験が楽しみだね、18号♥」
18号は二人の姿を見送ると、レオリオのオーラを探し瞬間移動する。
レオリオの元へ移動すると、そこは休憩部屋のようだった。
4人と見知らぬ小太りの男はそこで思い思いに過ごしていた。
「18号!?」
「休憩中か?」
「え、あ、いや……」
レオリオはしどろもどろになっている。
「レオリオが女囚人の色香に惑わされてな。50時間のペナルティを支払わされているのだよ」
「おいクラピカ、言うなよ!」
「50時間ってまずくないか? 大丈夫なのか」
「あーまぁ何とかするさ。そっちはどうなんだ?」
「わたしはもうクリアした(ちょっとズルはしたが)」
「マジか……はえーな」
レオリオの驚愕をよそに、18号は全員を見回す。
「瞑想中か。オーラは捉えられそうか?」
「オレより筋はいいと思うぜ」
「そうか……で、見覚えのない男がいるようだが」
「ああ、こいつはトンパだ。新人潰しのトンパ。俺らの足を散々引っ張りやがるクソヤローだ」
18号はトンパに視線を向ける。
「新人潰しね……お前のせいで不合格になったら怪鳥の餌にしてやる」
「ハハ……心配しなくてもキミ含め、今年のルーキーは優秀だ。俺じゃ何もできないさ」
「ふん……。レオリオ、下で待ってるからな」
「おう、またな18号」
18号はヒソカのオーラを探して、トリックタワーの麓に戻っていった。
*
60時間後、タイムリミットが来て合格者が締め切られる。
レオリオ達5人は残り5分前で下まで辿り着いたようだ。
『タイムアップ!! 第三次試験、合格者は25名で締め切りとする!!』