「さて……始めようかの。準備はいいかな?」
「いつでもいいよ」
戦闘の舞台は近郊の荒野へと改められた。
相対する18号とネテロの他に、ゴンを除く受験者8名と試験官たちも観戦している。
「さて……ルールは一つ。ワシの攻撃を避けるなり防ぐなりして掻い潜り、ワシに一撃を喰らわすこと。
その際、瞬間移動は禁止とする。あれ、ほんまマジで意味わからんレベルでずっこいからの」
「チッ……分かったよ」
「ワシは全力でやるが、その代わりこの場所から動くことはせんよ。攻撃を避けたりもせん」
「ふん……吠え面かいても知らないからね」
「それと、お主がまいったと言えばそこで攻撃をやめる。無論、お主は不合格になるが」
「死んでも言わない」
二人の距離はおよそ100m。何もなければ18号ならば一息で辿り着く距離だ。
18号は舐められていると思ったし、速攻で終わらすつもりでいた。
「それでは、始め!」
審判の開始の合図と同時に、18号は迷わずに突っ込んでいく。
ネテロはそれに動じず、左手で祈りの所作と共に右手で掌打の型を作る。
「『弐の掌』」
18号はネテロの背後に巨大な観音像を視認した。
視認した次の瞬間、巨大な手により吹き飛ばされる。
「……っ! 何だ、今のは……!?」
「ほっほ、何じゃろうな? さぁ、まだこんなものではなかろう。来い」
「言われなくても……!!」
再び18号はネテロに向かって突っ込んでいく。
今度はネテロの所作を注意深く観察しながら――
「『壱の掌』」
だが、回避はできなかった。ネテロが掌打の型を作るのと、攻撃が放たれるのはほぼ同時だ。
今度は巨大な観音像の手刀打ちで地面にめり込んでしまう。
「……くそ、速すぎる。これじゃ近づけない……」
「どうでもいいけど、当たり前みたいにノーダメージなのやめてくれんかのう。自信なくすんじゃけど」
「知るか。お前らが弱すぎるのが悪い」
18号はめげずにネテロに向かっていく――
*
「すごいな、あの爺さん……あの18号を圧倒してやがる」
「ダメージないなら意味なくね?」
「まぁそうだが、少なくともネテロ会長なら18号の足止めは可能ということか」
レオリオ、キルア、クラピカが感想を述べていく。
対して試験官は――
「あの百式観音をまともに受けて、ノーダメージですか」
「会長の念は初めて見たけど、とんでもない能力ね……」
「時間制限を設けなかったのは悪手でしたかね。時間をかければ18号さんが勝ちますよ、これ」
「確かにあのコ、全然汗かいてないわね。息もあがってない」
*
(信じられん。たった数十回の攻撃で、僅かだが対応しつつある)
ネテロは驚愕する。18号の類まれなその戦闘センスに。
百式観音は見てから回避は不可能だ。
つまり、回避するためには攻撃を予測するしかない。
18号は何度も攻撃されるうちに、ネテロの攻撃パターンを少しずつだが解析しつつある。
(このままでは完全に対応されるのも時間の問題か。仕方ない)
「――奥の手を出す」
すると、百式観音の姿が消えていく。
(いや、消えたわけじゃない。そこにある! このジジイ、『隠』で隠しやがった!!)
「さらに威力を抑えての連撃じゃ! 『弐の掌』、『参の掌』、『壱の掌』!!」
見えない攻撃と、パターンを読ませない連撃に、18号は遂に一歩も進むことができない。
*
「ズリーぞ、クソジジイ!!」
「流石に瞬間移動なしでは勝てないのか……」
「いや、まだなんか隠し球ありそうだけどな」
「このまま会長の体力切れを狙うのも手ではありますが……」
「あのコがそんな選択するかな? 意地でも殴りに行くでしょ」
*
(……ジジイ、息があがってきてるな。このまま体力切れを狙っても合格だけど……)
18号は思案する。何か、突破する方法はないものかと。
(別に回避にこだわる必要はない。防御してもいい……だが、生半可な防御だとやっぱり吹き飛ばされる)
自分の中の可能性を探る。神からのギフトには防御系の技はなかった。
(わたしってあんまり防御とかしなかったからな……だが、何かあったはず)
その時、はたと思い出す。
(あれなら、わたしにも使えるんじゃないのか)
*
「ほっほ、そろそろ諦めたらどうかの?」
「ほざけジジイ、遊びはここまでだよ」
「何じゃと? まさか、まだ何かあるというのか?」
「いいから、来なよ」
18号が手をクイクイと曲げ、ネテロを挑発する。
「糞餓鬼が……! 『九十九の掌』!!!」
見えない攻撃が四方八方から回避しようのないスピードと数、範囲を伴って襲ってくる。
「――」
凄まじい打撃音と衝撃波が観客まで波及する。
18号の姿は土煙で見えないが、どうせダメージはないだろう。
問題は、ネテロに近づけているのかどうか。
ややあって、土煙が晴れる。
そこには尚も攻撃を受けながらも、悠然と歩を進める18号の姿があった。
更に、18号の周囲には防御障壁のようなものが張られていた。
(17号がピッコロ相手に使っていたエネルギーフィールド(バリアー)。
あいつが使えるならわたしだって使える。
これで奴の攻撃は完全に無効化できる……!)
「……よもや、これほどとは……」
ネテロが思わず嘆息する。
連撃を止め、威力重視で『壱の掌』を放ってみるが、18号の歩みは止まることはなかった。
「まだあるよな?」
「あん?」
「あんたのとっておき、最終手段ってやつがさ。使ってみなよ」
「……あるにはあるが、駄目じゃ。『零の掌』は使ったら寿命が大幅に縮むという制約がある」
「そうか。じゃあ、終わりにしよう――」
18号はエネルギーフィールドを張ったまま、一気にネテロへ迫る。
ネテロも虫の抵抗のように攻撃をするが、すべて無意味に終わる。
そして、あっという間にネテロの目の前に到達した。
「強かった。楽しかったよ、ネテロ会長」
「はっ、嫌味にしか聞こえんわい」
「それはそうとあんた、わたしの胸やら尻ばっか見やがって……スケベジジイが」
18号はそう言って、ネテロの頬に強烈な平手打ちを放つ。
「老人を痛めつける趣味はないんでね。これでいいだろ」
「いちち……ここまで見事に負けたら認めんわけにいかんわな」
ネテロは両手を上にあげる。
「まいった。降参じゃ」
「そ、そこまで! 勝者406番、18号!!」
*
「それでは、新たにハンターになられました皆さんに向けて、説明会を開かせていただきます」
会長秘書のビーンズがハンターライセンスについて説明を始める。
それを聞きながら、4人は18号とネテロ会長の戦いを振り返る。
「無敵すぎるな、18号は……」
「強いとは聞いてたけど、ありゃとんでもねーな。会長、一応人類では最強らしいぞ?」
「その最強が手を尽くしても、結局何のダメージもなしだもんなー。化け物すぎ」
「オレも観たかったな……」
結局、最終試験終了まで眠っていたゴンがぽつりと呟く。
「オレらの最終試験はアレだが、18号のは確か協会の誰かがカメラを回してたぞ。頼めば見せてくれるんじゃね?」
「本当!? 後で頼んでくるね」
ビーンズの説明が協会の規約に移り変わる。
それを全く聞いていないヒソカとイルミも雑談に興じる。
「18号のこと、もうネットで噂になってるよ。会長、新人ハンターに敗北!? だってさ」
「早いな♠これで彼女も有名人かな?♥」
「流石に信じる人は少ないでしょ。あの会長の強さを知ってる人なら猶更」
「それもそうだね♣18号もだけど、良いものを観れた♦」
「ネテロ会長のこと? ちなみに何点?」
「99点♥年齢的に、あれ以上伸びしろがないのが残念かな♠」
「ちなみに18号は?」
「一億点♥」
*
「それでは、ここにいる9名を新たにハンターとして認定いたします!!」
――第287期 合格者――
・ゴン=フリークス
・クラピカ
・レオリオ=パラディナイト
・ヒソカ=モロウ
・イルミ=ゾルディック
・ハンゾー
・ポックル
・ボドロ
・18号
18号はハンターライセンスを眺め、感慨にふける。
「ようやくだ……ようやく、これで……」
「銀行口座が作れる……!」
「そこかよ!?」