「いらっしゃいませ! 闘士登録ですね。承りました。
それではこちらに必要事項を記入してください」
18号は天空闘技場1階ロビーで闘士として登録するべく受付で闘士登録用紙に記入する。
(名前、ファイトマネー振込先の銀行口座、免責事項、あとは……格闘技経験?)
格闘技となると0年になるが、それなりに戦闘経験はある。
とりあえず1年と書いておくことにした。
「登録を受理いたしました。それでは、番号を呼ばれるまでお待ちください」
しばらく待つと18号の番号が呼ばれ、18号は試合会場に向かう。
試合会場はリングが複数用意されており、同時進行で行われる形式のようだ。
「109番、142番、Dのリングへ」
審判の声のあと、18号はリングへ上がる。
対戦相手は大柄の男だ。耳を澄ませると観客がこちらを注目している声が聞こえる。
「うお……見ろよDのリング。すげぇ美人の女がいるぜ」
「うへへ、いいスタイルしてんなぁ。ここに来るってことは腕に覚えがあるんだろうが……」
「相手が悪いな。女であんな身長差じゃなぁ」
そんな観客の声をよそに18号は思案に耽る。
(とりあえず100階までは勝つ。そして100階以降は適度に負ける必要がある。
ファイトマネーのない200階に行く意味はないからな。ということは、だ)
18号は対戦相手の男を見る。
(賭けのことを考えると、それなりにオッズが高くなるように戦わないと駄目だ。
圧勝はできない。とは言え、辛勝を演出するにも限度がある。それなら――)
18号は結論を出すと、戦闘の構えを見せる。
「くくく、何だその素人丸出しの構えは。姉ちゃん、悪いことは言わねえ。棄権しな」
「その素人にあんたは負けるんだよ」
「ふん……後悔するなよ」
審判がレギュレーションの説明をする。
「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断する。3分以内に己の力を示してください。
では……はじめ!!」
男は試合開始と共に、18号を張り手でリング外に押し出そうとする。
18号はそれをひらりと躱す。
「くっ!? 速さに自信ありか!」
男は次々と攻撃を仕掛けていくが、18号には掠りもしない。
「ノロマ……」
「こ、このアマ……!!」
18号の挑発に乗り、大振りのフックを放つ。
それを冷静に屈んで躱すと、男の懐に潜り込む。そして――
「~~~~っ!?」
膝蹴りによる強烈な金的が決まり、男は悶絶し声にならない声をあげる。
「それまで! 142番、50階への入階を許可する」
「どうも」
18号は50階行きのチケットを受け取り、さきほどの受付へ戻る。
「ファイトマネー152ジェニーです。振込か現金か選択できますが」
「現金でいい」
18号はそう言って、自動販売機でジュースを買って50階へ向かう。
(さて、とりあえずは100階までサクッと終わらせるか)
*
「さぁ、話題の女闘士18号、いよいよ100階へのチャレンジがかかった6戦目。
注目の対戦相手は――」
18号はリングに上がり、軽く手を振り歓声に応える。
これまでスピードと金的を狙った一発KOを狙ったことで、妙な人気を博していた。
対戦相手の細マッチョの男は、同じくスピードをウリにしているようだ。
「それでは、はじめ!」
男が猛スピードで18号に詰め寄り、手に持ったナイフで切りかかる。
その時、18号の携帯から着信音がする。
「ちょっと待て、電話だ」
「誰が待つか――な!?」
18号は左手で男の右手首を持ち、攻撃を止める。
男は手を振り払おうとするが、溶接されたように右手は固定されている。
18号は右手で携帯電話を操作し、電話に出る。
「ウボォーか」
『おう、やっと着いたぜ。今どこまで行ったんだ?』
「90階だな。今ちょうど戦ってるところだ。これに勝てば100階だ」
『今かよ。じゃ、一旦電話切るぜ』
「ああ。……悪い、待たせたな」
男は顔をひくひくと引き攣らせた。
どうにか動かせる右脚で18号を蹴ろうとするが、それも右手で止められる。
「自慢のスピードとやらも形無しだな」
そう言って18号はそのまま股間を蹴り上げると、男はそのまま崩れ落ちて倒れた。
「そこまで! 18号選手、100階へ進出してください」
*
18号は与えられた個室でウボォーと合流していた。
「とにかく、俺は賭けの限度額いっぱいまで18号にベットすりゃいいんだな」
「そうだ。わざと負ける時は相手にな。それで10億ジェニーまで稼ぐ」
「10億ね……了解。9月まで暇だし手伝ってやるよ」
そう言ってウボォーギンは18号のキャッシュカードを受け取る。
「9月に何かあるのか?」
「ああ、旅団が全員で取り掛かる大仕事があるんだと。
そういや、団長がお前にも来てほしいって言ってたが、どうする?」
「旅団には入らないぞ?」
「そうじゃなくて、実際に会って確認したいことがあるんだと」
「ふぅん……まぁいいよ。お前の顔を立ててやる」
「ありがたいこった。で、俺はどこで寝泊りすればいいんだ?」
ウボォーギンは笑みを浮かべながら18号に問いかける。
「……ニヤニヤしてんじゃないよ。この部屋に泊まらせてやる」
「報酬はいくらほど頂けるんで?」
「はぁ……添い寝でいいならいくらでもしてやる。それでいいか?」
「よし、請け負ったぜ。後でやっぱなしとか言うなよ?」
「はいはい……」
*
100階以降は原則、2連勝で+10階に昇格。2敗ごとに-10階に降格となる。
審判の判断でさっさと上に上げられてしまう場合もあり、力加減を間違えると200階に行ってしまう。
18号は手加減しながらコツコツと、190階まで昇ってきていた。
今日の対戦相手はウボォーギンすらも超える2m30㎝はあろうかという超大男だった。
今回はわざと負ける予定だ。既に賭けは試合前に終了しており、予定変更はできない。
「18号ぉ……お前と当たるだろうと思って俺は対策してきたんだぜぇ」
「……ん? ああ……その鉄のパンツのことか」
大男は股間を鋼鉄のパンツで守っていた。
「これで金的攻撃は封じられたなぁ。どうするよぉ、えぇ?」
「……」
ここまで露骨に対策してくる相手は初めてだった。
どうせ負けるつもりだからむしろ都合はいいが……今後真似する奴が出てくるかもしれない。
「来いよぉ。女の軽い蹴りなんか俺には効かないぜぇ」
「……じゃあ、遠慮なく」
18号は男に向かって跳びあがり、力を弱めたパンチやキックを繰り出す。
「くくく、女ってのはか弱いなぁ」
男は18号の蹴りを止め、その脚を片手で掴む。
18号はぶら下がり、身動きが取れない。
「終わりだぁ!!」
18号は男によってリングの外へ放り出されてしまう。
「そこまで!! 勝者――」
*
18号は185階にあるバーでソフトドリンクを飲んでいた。
すると、入口から今日戦った大男が入ってきた。
目敏く18号を見つけると、隣にドカッと座り込む。
「女がいると思ったら18号じゃねぇかぁ。俺に負けた、なぁ」
「……」
「今日でお前の快進撃もおしまいだなぁ。金的できなかったら、女は男に勝てないもんなぁ」
「……」
「どうだぁ? 俺様の女になるなら他の奴らに口を利いてやってもいいぜぇ」
そう言って、男は18号の胸を鷲掴みにする。
「ひひ、いい感触だぁ」
「……図に乗るなよ、クズ野郎」
「あぁ? な……にぃ?」
18号は男の右手を掴み、両手で握り潰す。
まるで袋に入ったクッキーを揉み潰すように、男の右手は粉砕骨折し、ぐちゃぐちゃになる。
「お、お、俺の右手がぁぁぁぁ!!!」
「もう使い物にならないな。まぁ、わたしにセクハラしてその程度で済んで良かったじゃないか」
18号は席を立ち、男の肩を掴み囁く。
「治してほしいか?」
「ぁ? な、治せるのかぁ?」
「あぁ、キレイさっぱりとな。ただし……5000万ジェニー払ってもらうよ」
「ごっ……そんな暴利、払えるかぁ……!」
「何? 左手も壊してほしいって? 欲しがりだなお前は……仕方ない」
「わ、わわわ分かった、治してくれぇ!」
男は残った左手で振込の操作をする。
「毎度」
入金を確認した18号が治癒能力を行使すると、みるみる男の右手が元の形に戻っていく。
「二度とつまらない真似をするんじゃないよ。次はない」
そう言って、18号はバーをあとにした。
*
自室に戻ろうとする18号だったが、その道中――背後から金属バットで殴られそうになる。
18号は片手で受け止め、男を投げ飛ばす。
「次はない……と言ったはずだが」
振り返ると、先程の大男が10人ほど取り巻きを連れて18号を取り囲んでいた。
「許せねぇ……女が男に逆らうなんてあっちゃいけねぇんだぁ……!」
「お前みたいなクズに靡く女なんていないよ……これからはね」
「何ぃ……?」
「だって、今からお前は両腕を失うんだからね」
「ほ、ほざけぇ!!」
大男がそう叫ぶと、取り巻き達が武器を持って襲い掛かる。
その時、18号の背後から大きな声が聞こえた。
「俺の女に何してやがる!!」
声の主はウボォーギンだった。
ウボォーギンは一撃で半数を薙ぎ払うと、18号の前に立つ。
「ウボォーか」
「嫌な予感がしてよ、様子を身に来たぜ。
余計なお世話だろうが、ここは俺にカッコつけさせてくれや」
「ああ、任せるよ。だが……俺の女ってのは訂正しろ」
「けっ、耳聡いな」
「それと……あの大男。あいつ、わたしの胸を揉んできたんだ」
それを聞いたウボォーギンは怒りを露わにする。
「何だと!? 許せねえ……オレもまだ揉んでねーのに!!」
「二度とそんなことができないようにしてくれるか? 具体的には両腕を粉々に」
「承ったぜ……まさか、治療したりしねぇよな?」
「次はないって言ったからな。迷惑料として金は貰っておこう」
「オーケー、任せとけ」
ウボォーギンは男たちににじり寄る。
「じゃ、先に帰ってるぞ」
その後、11人が棄権し天空闘技場を去ったことがちょっとした騒ぎになったのだった。