19.地下競売開始
「アジトまで案内するぜ、18号」
無事、新居を購入した18号は5日ほどかけて家具の購入などを済ませ、
幻影旅団の呼び出しのある8月末に備えた。
そして、来る8月31日。二人は幻影旅団のアジトへ向かっていた。
「こんな辺鄙なとこにあるのか?」
「一応お尋ね者だからな。アジトはいくつかあって、今から行くのはその内のひとつだ」
廃墟のビル群の中、廃倉庫の扉を開く。
中には誰もいない。
「一番乗りか? それとも、場所を間違えた?」
「いや、そんなはずは……」
その時、18号の身体を何かが拘束する。
「……これは」
「マチの念糸!?」
物陰から旅団員が続々と姿を現す。それぞれ、武器を持ち戦闘態勢をとっている。
そして、高所に視線を向けると、そこには逆十字があしらわれた黒いコートを羽織った人物がいた。
「どういうつもりだ、マチ」
傍らに潜んでいた女旅団員、マチを18号は睨みつける。
「団長命令なの。大人しくしていて、18号」
「……ウボォー、お前は何か聞いてたか?」
「誓って何も聞いてねーよ。どういうことだよ、団長!」
団長と呼ばれた逆十字の男。髪はオールバックで、額にも十字のマークがある。
「お前がウボォーギンのツレの18号か」
「そうだ」
「いきなり拘束するような真似をして悪いな。だが、マチから話を聞いて警戒しないわけにはいかなかった」
「……わたしの力を恐れているというわけか、団長サマは」
18号は鼻で笑ってみせた。
「まぁな。聞けば、ヒソカにも勝ってハンター協会の会長にも勝ったんだろう?
まさに人類最強だ。そんなのが自由に動いてたら、俺達としてはやりにくい」
視線を向けるとヒソカが手を振っていた。イラッとした。
「というわけで、18号。今ここで誓ってくれないか?
俺達、幻影旅団の邪魔や不利益になることは決してしない、と」
「……元々、ウボォーギンを裏切るような真似はしないと言ったはずだが」
マチとシズクをチラッと見る。
「それだけじゃ弱い。例えばここでヒソカを殺しても、それはウボォーギンの不利益にはならない。
ウボォーギンはヒソカを嫌っているからな」
「断ったり、反故にしたらどうする?」
「その時は――俺達全員でお前を殺す」
団長は18号に背を向ける。
「それ、脅しになってるか? お前らにわたしを殺せると?」
「殺せないかもな。でも四六時中、お前を付け狙うことはできる。嫌じゃないか?」
18号はそんな日々を想像して、げんなりとした顔をした。
「分かったよ。絶対に幻影旅団の不利益になる行動はしない。
こんな口約束で安心できるか知らないがな」
「安心できるとも。お前は義理堅い性格だ。よっぽどのことがなければ約束は守るさ」
「分かったような口ききやがって……」
18号の返答を聞いて、マチの拘束が解除された。
「それでは、本題に移ろう。明日、ヨークシンで地下競売が開かれる。俺達はそこを襲撃し、お宝を盗む」
「何を盗むの? やっぱ本とか?」
「世界一高額なゲーム、出ると聞いたね。それか?」
マチと、細目で身長の低い黒衣の男――フェイタンが問う。
「全部だ」
団長――クロロ=ルシルフルは宣言する。
「地下競売のお宝、まるごと掻っ攫う」
「おいおい、本気かよ団長!! 地下競売は世界中のマフィアが関わってんだぞ!?
スジモン全部敵に回すことになるぞ!!」
「怖いのか?」
「嬉しいんだよ……! 命じてくれ団長!! 今すぐ!!」
「俺が許す、殺せ。邪魔する奴は残らずな」
オオオオ!! とウボォーギンが咆哮し、廃倉庫が活気づく。
「これから作戦とチーム分けを説明する。その前に……部外者は出て行ってもらおうか」
「はいはい……ウボォー、約束は忘れるなよ」
「おう。しばらく帰れないと思うが、人肌が恋しくなったら呼んでもいいぜ?」
「バーカ、それはお前のほうだろ。じゃあな」
*
18号は自宅に戻り、その日(8月31日)は一日家で過ごした。
翌日、昼からヨークシンの街の様子を見ながら、買い物をしたりして暇をつぶしていた。
夜8時ごろ、オークションが始まる2時間前。
何か騒がしいな、と思って声のするほうへ歩いてみると、そこにゴン、キルア、レオリオがいた。
近くの人に話を聞くと条件競売をしているらしい。
ゴンに腕相撲で勝てばダイヤが貰える。参加費用1万ジェニー。
試しの門を攻略したゴンに一般人が勝てるはずもなく、ゴンは連勝を続けていた。
1時間ほどその様子を眺め、人がまばらになった時に3人に声をかけた。
「何やってんのさ、あんたら」
「お、18号じゃねーか。オメーも来てたのか」
「まぁね……で、これは?」
ゴン達の説明によると「グリードアイランド」というゲームを買うための金策中らしい。
しかも8億ジェニーが失敗が重なって500万ジェニーまで減ったとか。
「……天空闘技場のほうが稼げるだろ」
18号は呆れながら言った。
「確かに……。オレらは200階行ったからアレだけど、レオリオならそれで稼げるよな」
「いや、それはそれ、これはこれだろ。オレが稼いだ金はオレのもんだから」
「だよね。流石にオレのためにレオリオにそこまで負担はかけられないよ。
でもこのやり方じゃ89億なんてかなり厳しいし……」
ゴンは肩を落とす。
「89億って……とんでもない額だね」
「しかもオークションだから89億貯めれば絶対落札できるってわけでもないし」
「別の方法を考えなよ。金策もそうだけど、効率悪すぎ」
18号の尤もな指摘に、レオリオが頭を抱える。
「いいアイデアだと思ったんだがな~……」
「別の方法か。例えば?」
「そんなの知らないよ。それはお前らが考えることだろ――ん?」
その時、18号の携帯が鳴る。
「……クラピカから? ……もしもし」
『18号か。至急、頼みたいことがある。今大丈夫か?』
「平気だけど……何かあったのか?」
『簡潔に用件だけ伝える。ある人物を18号に護衛してもらいたい』
「護衛……それだけか?」
『ああ、それだけでいい。報酬は5000万ジェニー。どうだ?』
「乗った」
『では、今すぐ瞬間移動で私の近くに来てくれ。詳しく説明する』
そこで通話は終了し、18号は3人に向き直る。
「クラピカから仕事の依頼だ。ちょっと行ってくる」
18号は手を振って瞬間移動でクラピカの元へ移動した。
*
「来たか」
18号の姿を確認したクラピカは依頼内容を説明する。
クラピカは現在、ノストラードファミリーというマフィアに身を寄せており
そこのボス――ネオン=ノストラードという少女が地下競売に参加する予定だった。
しかし、彼女の念能力である占いで、地下競売に参加する複数の顧客に死を想起させる予言が出る。
恐らく地下競売に参加すると死ぬ。ネオンは自分は占えないが、参加すれば死ぬ可能性は高い。
しかし、ネオンは自分で競り落としたいので、絶対に参加したい。
「で、私にそのお嬢様を護衛しろと」
「そうだ。キミなら可能だろう?」
「まぁな。で、そのお嬢様は?」
「こっちだ、案内しよう」
案内されたホテルの最上階、スイートルームにその少女――ネオンはいた。
「あなたが、私を守ってくれるの?」
「ああ、そうだよ。……ところで、同行するのは私だけか?」
「流石に部外者にボスを託せんよ。こちらからも2名同行する」
別の部屋から2人の男が18号の前に姿を現す。
「護衛団のリーダーを務めるダルツォルネだ。よろしく頼む」
「スクワラだ。部外者を入れるのは反対なんだが……ボスのためだ、仕方ない」
ダルツォルネは18号に近づき、地下競売の流れについて説明する。
「それと、流石にそのラフな格好では会場に入れん。こちらで用意するスーツを着てくれ」
「堅苦しいのは苦手なんだが……分かったよ」
*
午後10時、地下競売が始まる。
会場には数多くのマフィアが詰めかけている。
その中に、サングラスをかけた18号と、二人の護衛、そしてネオンの姿もあった。
壇上にどこかで見覚えのある小さい男と大きい男が二人出てきて、18号は防御の態勢に入る。
「お前ら、死にたくなければ私の前に立つなよ」
「何?」
壇上で、身長の低い男がマイクの前に立つ。
「それでは、堅苦しい挨拶は抜きにして――くたばるといいネ」
図体のでかい男――フランクリンが両手の指を銃口に変え、そこから強力な念弾を乱射した。
マフィア達は逃げる隙すら与えられずハチの巣にされ、無惨な死体へと変わっていく。
18号は念弾を全てバリアーで防ぎ、振り返ってネオンの口を塞ぐ。
「声を出すな、奴らに気付かれる。このまま脱出するぞ」
「ど、どうやって?」
スクワラが恐怖に震えながら訊ねる。
「わたしの身体に触れろ。それで瞬間移動で離脱する」
そうして18号達は無事、地下競売から生還した。
「……今、誰か消えなかった?」
「気のせいだろ。俺は見てないぞ」
「それよりお宝のが大事ネ」
*
18号達はクラピカの元へ戻ってきた。
「地下競売の参加者は私達以外全員死んだ。敵は……幻影旅団だ」
どうせいずれ分かることだし、隠す意味はないと思って素直に話すことにした。
「何だと……」
「あいつらはやばい。俺達じゃあの念弾の能力者すら勝てないぞ……」
スクワラは実力差に心が折れたのか、ガタガタと震えている。
「18号さん、あんたを雇って正解だった。しばらく地下競売は開催されないだろう。
安全が確認できるまではな」
「安全? 幻影旅団を潰さない限り、それは保証できないだろ」
「その通りだ18号。相手が誰であろうと組員が殺され、地下競売と面子を潰された。
マフィアは幻影旅団を始末しようとするだろう。だが――出来ると思うか?」
クラピカが、その力を目の当たりにした二人に問いかける。
「……不可能だ。念能力者としてのレベルが違いすぎる」
「ああ、ダルツォルネの言う通りだぜ。逆にマフィアンコミュニティが壊滅状態になりかねない」
ダルツォルネとスクワラはそう言って、床に座り込む。
「えー? じゃあ地下競売はもう開催されないってこと?」
「お嬢様も見たでしょう、奴らの力を。今回ばかりは諦めてください」
「えー……」
ネオンは肩を落として落ち込む。人体収集が趣味なせいか、死体を見たショックは薄いらしい。
「……私の能力なら――幻影旅団を狩ることができる」
クラピカがそう呟くと、全員がクラピカに注目した。
「複数相手は厳しいが、各個撃破なら可能だ。協力してくれないか?」
そう言ってのけたクラピカを、18号は複雑な表情で眺めていた。