「じゅうはちごう? おい、そりゃ名前か?」
ウボォーギンが当然の疑問を返す。
確かに、この世のどこにもそんな名前の人間はいない。
それこそロボットでもない限り。
「色々と事情があるんだ……。今話すつもりはない。
そんなことよりお前……もしかして『念能力者』ってやつか?」
「念を知ってるのか? まぁあんだけ強けりゃおかしくもない……か?
あぁそうだぜ。だからさっきのパンチも耐えられたってわけ。
細い腕の割にすげー力だったな。どっから来てんだ、そのパワーはよ」
念能力……神が言うには18号を害するかもしれない存在。
転移してすぐにそんな人間に会うとは、運がいいのか悪いのか……。
「お前は……どれぐらい強い? この世界で何番目とか、そういう指標はあるか?」
「はぁ? いや、念能力においてそういうのはないぜ。
単純な強さの差で勝敗がつくこともそりゃあるが、基本的には能力との相性が大事だからな……」
「じゃあ、弱いのか?」
「あぁ? そうは言ってねぇだろうが。
まぁ、そうだな……。強化系ならTOP5に入る自信はあるぜ」
「キョウカケイ……?」
ウボォーギンは困惑した。
この女……18号の知っていることのチグハグさに。
念能力という言葉については、知っていてもおかしくはない。
秘匿されてはいるが、流星街では能力者はそこそこいる。
恐らく18号は念能力という言葉だけを知っているのだろう。
詳細は何も知らない、ただそういう厄介な連中がいることしか分からない。
というか、よく見れば18号にはオーラが全く感じられない。
何なんだこいつは……。
「あー、もしかしてお前、念能力を身につけたいのか?」
「……いや、そうじゃない。それにわたしは念能力は使えない」
「いや、人間なら誰でも使えるようになるはずだが……。
でもオーラがないんだよな……どういうこった?」
「……ウボォーギンとか言ったか。お前、オーラとやらはそれが全開か?」
「お前オーラは見えるのか?」
「いいから答えろ」
「……今やってるのは『纏』ってやつでオーラを留める技術だ。
オーラを全開にするのは『練』という」
そう言うとウボォーギンのオーラがほとばしる。
強化系トップクラスの能力者の練は凄まじく、空気がビリビリと震えるほどだ。
そんな練を見た18号は――
(これが全開か……なら、こいつの戦闘力は精々クリリンぐらいってとこだな)
そうウボォーギンを評していた。
クリリン。
スキンヘッドで鼻のない、身長が低い男。
多彩な技が特徴で、後に地球人最強と称される。
間違いなく強いが、18号が本気で戦えば瞬殺できるだろう。
(こいつがTOP5なら、確かに単純な力比べなら私に勝てるヤツはいないな)
「俺の練を見て汗のひとつもかかないとはな……落ち込むぜ」
「まぁ、大したことないからな」
「大したことないときたか。クク、こりゃ面白え。で、何がしたいんだお前は?」
「ちょっとした実験……腕試しだよ。念能力者にわたしの力がどこまで通じるか、知りたい」
そう言うと、18号は大きく深呼吸し、一気にエネルギーを増幅させる。
“素の”18号の紛れもない本気がそこにあった。
ウボォーギンの全身に冷や汗が溢れ出る。
これは……ヤバい。
俺はこんな化け物の肩を馴れ馴れしく触ってしまったのか、と思わず後悔するほど。
二十数年生きてきて、初めて死を意識する。
「ウボォーギン、今からお前の腹を全力で殴る。死にたくなければ全力で防御しな」
「と、とんでもない女だなお前は……!! 殴るのは腹だな、待ってろ!!」
ウボォーギンは腹に全オーラを集中させる。
『硬』という念の高等技術だ。
基本的には攻撃に使う技術だが、防御に使うこともある。
今回のように殴られる箇所が分かっているのなら効果的だ。
だが――
(正直、『硬』でも耐えきれるか分からん! くそ、まだ死にたくねぇぞ俺は!!)
「行くぞ、いいか?」
「あぁ……い、いやちょっと待て。冷静に考えたら一方的に殴られるのはおかしくねぇか!? なぁ!」
「……? ああ、お前もわたしを殴りたいのか?」
「ちげーよ! 何か対価をくれって言ってる!」
「対価……金は持ってないぞ。どうすればいい?」
「よし……! もし俺が耐えきったら俺と同棲してくれ!!」
「一緒に住めってことか……まぁ、いいよ。こっちは一文無しだし」
「うおおおおおおおお!!!」
ウボォーギンは歓喜の咆哮をあげる。
自分より強い女との同棲。共に過ごしていれば育まれるモノもあるだろう。
想像は膨らむ。もしかしたらこの女――18号を自分のものにできるかもしれない。
これまでウボォーギンの身体を支配していた死の恐怖を歓喜が掻き消していく。
その感情の発露が、肉体の底から更なるオーラを吸い上げ、『硬』が強化される。
「うるさいな……。もういいか?」
「おう、ばっち来いや!!」
「それじゃ、遠慮なく……!!」
18号は渾身の力を籠めて腕を振りかぶる。
瞬間、飛行機と正面衝突したかのような衝撃波が発生する。
0.1秒、ウボォーギンはその場に留まろうと努力したが、すぐに無駄だと諦めた。
自分が本気で防御すれば、ミサイルでも余裕で生き残れると豪語する男が、
スーパーボールのように跳ねてゴミ山をひとつ、ふたつと貫いていく。
18号が殴った場所から800メートル離れたところでようやくウボォーギンの動きは止まった。
*
「まずいな……やりすぎたか?」
18号は少し焦った様子でウボォーギンのもとへ駆け寄る。
ウボォーギンは仰向けで大の字になったまま動かない。
「……死んだか」
「――っ、がはっ……はぁ……」
「お……生きてた」
ウボォーギンは見事耐えきった。
が、ウボォーギンほどの頑強な肉体の持ち主でも、いまや虫の息だ。
全力、限界を超えた『硬』でギリギリ生き残るのが精一杯。
もう一つの防御技術『堅』では間違いなく死んでいただろう。
「おい、大丈夫か?」
「この俺が……畜生、一歩も動けねぇ……あちこち骨折してやがる」
「重傷みたいだな……こんなとこに医者なんて……いるわけないか」
「生き残ってもこのザマじゃ意味ねーな……さっきの話は忘れて――」
「待て。何とかなるかもしれない」
神が18号に寄越した技とやらに回復系のものがあるかもしれない。
18号の居た世界、『ドラゴンボール』という願望器がある世界は、とにかく命が軽い。
酷い死に方をした者がドラゴンボールで生き返ったりする。
とにかく戦闘してばかりいるあの世界なら、回復の手段は複数あっておかしくない。
……あった。『デンデ』というナメック星人の治癒能力らしい。これを使えば――
18号がウボォーギンの身体に触れる。
折れた骨の感触に思わず顔をしかめるが、我慢して能力を行使する。
ウボォーギンの身体がほのかな光に包まれる。
「うお、おっ!? 何だっ!? これは……回復能力ってやつか!?」
「……何とかなったか」
ウボォーギンの身体が1分ほど時間をかけて、骨折から裂傷に至るまで元の形に修復されていく。
ちなみに、この治癒能力に制限やデメリットはない。
強いて言えば少し疲労感が出る程度だ。
「お前、こんなこともできるのか……とんでもねぇな」
「ん……ああ、まぁね。それはそうと……はい」
18号は右の手のひらを上向けて差し出す。
ウボォーギンは首を傾げる。
「何だ? この手は」
ウボォーギンは18号の手を握った。
18号はその手を振り払った。
「握手なわけないだろこのタコ。治療代だよ、治療代!」
「治療代!? お前が怪我の原因なのにかよ!?」
「……この能力を使うと疲れるんだよ。本当はやりたくなかったが、わたしは優しいからな」
「本当かよ……まぁいいか。ほれ、受け取りな」
ウボォーギンはズボンからよれよれの一万ジェニー紙幣を取り出し、18号に渡した。
18号は当然ながらこの世界の文字は読めないし、通貨の価値も分からない。
幸い、数字は似たような形なので辛うじてわかったが。
「おい、これで何日ぐらい食えるんだ?」
「あ? そうだな、贅沢しなきゃ10日から15日は食えるんじゃねーか?」
「じゃあ全然足りないね。5万……いや、10万出しな」
「今そんなに持ってねぇよ……なぁ、さっきの同棲の話、まだ有効か?」
ウボォーギンはボリボリと頭をかきながら18号に尋ねる。
「……チッ。まぁ、1万ぽっちじゃホテルに1泊が精々だからな……いいよ」
「なら、とりあえず俺の部屋に行こうぜ。治療代はまた後で払うからよ」
「分かった……案内しろ」
「おう」
そう言ってウボォーギンは先導して歩いていく。18号はその後ろを歩いていく。
5分ほど歩いたころだろうか、18号が痺れを切らして声をあげる。
「おい、ウボォーギン」
「あ? 何だよ、18号」
「あと何分ぐらい歩くんだ」
「ここからだとあと20分ぐらい歩いて、そっからタクシーで30分ぐらいだな」
「……お前、空は飛べないのか?」
「何言ってんだ? 人間が空飛べるわけないだろ。
念能力ならできるかもしれんが、まぁそんな奴はいないだろうな」
「はぁ………………おい、手を取れ」
18号は右手を差し出した。ウボォーギンは先程振り払われたこともあって警戒する。
迂闊に触って嫌われたくなかった。
「いいのかよ、触って」
「早くしろ」
「へいへい、で?」
18号の女性らしい手をウボォーギンのゴツゴツした大きな手が包み込む。
「しっかり捕まってろ。飛ぶぞ」
「飛ぶ? ――うおおおおっ!?」
言うや否や、18号は凄まじい勢いで空に飛び上がる。
彼女の世界では『舞空術』という空を飛ぶ技もあるが、18号には標準で空を飛ぶ能力が備わっている。
「どっちに行けばいい、ウボォーギン」
「あ、ああ。こっから東にある街だ」
「東だな、飛ばしていくぞ」
「飛ばっ!? おい、急にスピードを上げるな! 落ちるだろ!!」
時速150キロは出ているだろうか。ぐんぐんと街が近づいてくる。
物凄い風圧がウボォーギンの全身を襲う。急いでオーラで全身を守る。
「別にお前なら落ちても死なないだろ」
「そりゃそうだが!! なぁ、掴むのは腰じゃ駄目か!?」
「駄目だ。落ちたらまた治してやるから安心しな。治療代はもらうけどね」
「――な、」
なんて女だ。
華奢な身体のくせに俺より強く、改めて見てもとんでもない美人。
治癒能力に加え、空まで飛べる――まさにスーパーマン、いやスーパーウーマンか。
性格はかなりキツいし、金にがめつい印象はあるが、悪い奴ではないし寧ろ優しい部類に入るだろう。
(惚れたぜ……18号。完全に惚れちまった……。
お前の言うことなら何でも聞いてしまいそうだ。
今から同棲できるってマジかよ、夢でも見てるのか俺は……!)
ウボォーギンは歓喜と胸の高鳴りを抑えられずにいた。
逆に18号はウボォーギンの手汗が気持ち悪くて、このまま落としてやろうかと真剣に悩んでいた。