流星街に舞い降りた人造人間   作:女主人公スキー

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2.ウボォーギンと腕試し

「じゅうはちごう? おい、そりゃ名前か?」

 

 

 ウボォーギンが当然の疑問を返す。

確かに、この世のどこにもそんな名前の人間はいない。

それこそロボットでもない限り。

 

 

「色々と事情があるんだ……。今話すつもりはない。

そんなことよりお前……もしかして『念能力者』ってやつか?」

 

「念を知ってるのか? まぁあんだけ強けりゃおかしくもない……か?

あぁそうだぜ。だからさっきのパンチも耐えられたってわけ。

細い腕の割にすげー力だったな。どっから来てんだ、そのパワーはよ」

 

 

 念能力……神が言うには18号を害するかもしれない存在。

転移してすぐにそんな人間に会うとは、運がいいのか悪いのか……。

 

 

「お前は……どれぐらい強い? この世界で何番目とか、そういう指標はあるか?」

 

「はぁ? いや、念能力においてそういうのはないぜ。

単純な強さの差で勝敗がつくこともそりゃあるが、基本的には能力との相性が大事だからな……」

 

「じゃあ、弱いのか?」

 

「あぁ? そうは言ってねぇだろうが。

まぁ、そうだな……。強化系ならTOP5に入る自信はあるぜ」

 

「キョウカケイ……?」

 

 

 ウボォーギンは困惑した。

この女……18号の知っていることのチグハグさに。

 

 念能力という言葉については、知っていてもおかしくはない。

秘匿されてはいるが、流星街では能力者はそこそこいる。

 

 恐らく18号は念能力という言葉だけを知っているのだろう。

詳細は何も知らない、ただそういう厄介な連中がいることしか分からない。

 

 というか、よく見れば18号にはオーラが全く感じられない。

何なんだこいつは……。

 

 

「あー、もしかしてお前、念能力を身につけたいのか?」

 

「……いや、そうじゃない。それにわたしは念能力は使えない」

 

「いや、人間なら誰でも使えるようになるはずだが……。

でもオーラがないんだよな……どういうこった?」

 

「……ウボォーギンとか言ったか。お前、オーラとやらはそれが全開か?」

 

「お前オーラは見えるのか?」

 

「いいから答えろ」

 

「……今やってるのは『纏』ってやつでオーラを留める技術だ。

オーラを全開にするのは『練』という」

 

 

 そう言うとウボォーギンのオーラがほとばしる。

強化系トップクラスの能力者の練は凄まじく、空気がビリビリと震えるほどだ。

 

 そんな練を見た18号は――

 

 

(これが全開か……なら、こいつの戦闘力は精々クリリンぐらいってとこだな)

 

 

 そうウボォーギンを評していた。

 

 クリリン。

スキンヘッドで鼻のない、身長が低い男。

多彩な技が特徴で、後に地球人最強と称される。

間違いなく強いが、18号が本気で戦えば瞬殺できるだろう。

 

(こいつがTOP5なら、確かに単純な力比べなら私に勝てるヤツはいないな)

 

 

 

 

「俺の練を見て汗のひとつもかかないとはな……落ち込むぜ」

 

「まぁ、大したことないからな」

 

「大したことないときたか。クク、こりゃ面白え。で、何がしたいんだお前は?」

 

「ちょっとした実験……腕試しだよ。念能力者にわたしの力がどこまで通じるか、知りたい」

 

 

 そう言うと、18号は大きく深呼吸し、一気にエネルギーを増幅させる。

“素の”18号の紛れもない本気がそこにあった。

ウボォーギンの全身に冷や汗が溢れ出る。

これは……ヤバい。

俺はこんな化け物の肩を馴れ馴れしく触ってしまったのか、と思わず後悔するほど。

二十数年生きてきて、初めて死を意識する。

 

 

「ウボォーギン、今からお前の腹を全力で殴る。死にたくなければ全力で防御しな」

 

「と、とんでもない女だなお前は……!! 殴るのは腹だな、待ってろ!!」

 

 

 ウボォーギンは腹に全オーラを集中させる。

『硬』という念の高等技術だ。

基本的には攻撃に使う技術だが、防御に使うこともある。

今回のように殴られる箇所が分かっているのなら効果的だ。

だが――

 

 

(正直、『硬』でも耐えきれるか分からん! くそ、まだ死にたくねぇぞ俺は!!)

 

「行くぞ、いいか?」

 

「あぁ……い、いやちょっと待て。冷静に考えたら一方的に殴られるのはおかしくねぇか!? なぁ!」

 

「……? ああ、お前もわたしを殴りたいのか?」

 

「ちげーよ! 何か対価をくれって言ってる!」

 

「対価……金は持ってないぞ。どうすればいい?」

 

「よし……! もし俺が耐えきったら俺と同棲してくれ!!」

 

「一緒に住めってことか……まぁ、いいよ。こっちは一文無しだし」

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 

 ウボォーギンは歓喜の咆哮をあげる。

自分より強い女との同棲。共に過ごしていれば育まれるモノもあるだろう。

想像は膨らむ。もしかしたらこの女――18号を自分のものにできるかもしれない。

これまでウボォーギンの身体を支配していた死の恐怖を歓喜が掻き消していく。

その感情の発露が、肉体の底から更なるオーラを吸い上げ、『硬』が強化される。

 

 

「うるさいな……。もういいか?」

 

「おう、ばっち来いや!!」

 

「それじゃ、遠慮なく……!!」

 

 

 18号は渾身の力を籠めて腕を振りかぶる。

瞬間、飛行機と正面衝突したかのような衝撃波が発生する。

0.1秒、ウボォーギンはその場に留まろうと努力したが、すぐに無駄だと諦めた。

自分が本気で防御すれば、ミサイルでも余裕で生き残れると豪語する男が、

スーパーボールのように跳ねてゴミ山をひとつ、ふたつと貫いていく。

18号が殴った場所から800メートル離れたところでようやくウボォーギンの動きは止まった。

 

 

 

 

「まずいな……やりすぎたか?」

 

 

 18号は少し焦った様子でウボォーギンのもとへ駆け寄る。

ウボォーギンは仰向けで大の字になったまま動かない。

 

 

「……死んだか」

 

「――っ、がはっ……はぁ……」

 

「お……生きてた」

 

 

 ウボォーギンは見事耐えきった。

が、ウボォーギンほどの頑強な肉体の持ち主でも、いまや虫の息だ。

全力、限界を超えた『硬』でギリギリ生き残るのが精一杯。

もう一つの防御技術『堅』では間違いなく死んでいただろう。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「この俺が……畜生、一歩も動けねぇ……あちこち骨折してやがる」

 

「重傷みたいだな……こんなとこに医者なんて……いるわけないか」

 

「生き残ってもこのザマじゃ意味ねーな……さっきの話は忘れて――」

 

「待て。何とかなるかもしれない」

 

 

 神が18号に寄越した技とやらに回復系のものがあるかもしれない。

18号の居た世界、『ドラゴンボール』という願望器がある世界は、とにかく命が軽い。

酷い死に方をした者がドラゴンボールで生き返ったりする。

とにかく戦闘してばかりいるあの世界なら、回復の手段は複数あっておかしくない。

 

 ……あった。『デンデ』というナメック星人の治癒能力らしい。これを使えば――

 

 18号がウボォーギンの身体に触れる。

折れた骨の感触に思わず顔をしかめるが、我慢して能力を行使する。

ウボォーギンの身体がほのかな光に包まれる。

 

 

「うお、おっ!? 何だっ!? これは……回復能力ってやつか!?」

 

「……何とかなったか」

 

 

 ウボォーギンの身体が1分ほど時間をかけて、骨折から裂傷に至るまで元の形に修復されていく。

ちなみに、この治癒能力に制限やデメリットはない。

強いて言えば少し疲労感が出る程度だ。

 

 

「お前、こんなこともできるのか……とんでもねぇな」

 

「ん……ああ、まぁね。それはそうと……はい」

 

 

 18号は右の手のひらを上向けて差し出す。

ウボォーギンは首を傾げる。

 

 

「何だ? この手は」

 

 

 ウボォーギンは18号の手を握った。

18号はその手を振り払った。

 

 

「握手なわけないだろこのタコ。治療代だよ、治療代!」

 

「治療代!? お前が怪我の原因なのにかよ!?」

 

「……この能力を使うと疲れるんだよ。本当はやりたくなかったが、わたしは優しいからな」

 

「本当かよ……まぁいいか。ほれ、受け取りな」

 

 

 ウボォーギンはズボンからよれよれの一万ジェニー紙幣を取り出し、18号に渡した。

18号は当然ながらこの世界の文字は読めないし、通貨の価値も分からない。

幸い、数字は似たような形なので辛うじてわかったが。

 

 

「おい、これで何日ぐらい食えるんだ?」

 

「あ? そうだな、贅沢しなきゃ10日から15日は食えるんじゃねーか?」

 

「じゃあ全然足りないね。5万……いや、10万出しな」

 

「今そんなに持ってねぇよ……なぁ、さっきの同棲の話、まだ有効か?」

 

 

 ウボォーギンはボリボリと頭をかきながら18号に尋ねる。

 

 

「……チッ。まぁ、1万ぽっちじゃホテルに1泊が精々だからな……いいよ」

 

「なら、とりあえず俺の部屋に行こうぜ。治療代はまた後で払うからよ」

 

「分かった……案内しろ」

 

「おう」

 

 

 そう言ってウボォーギンは先導して歩いていく。18号はその後ろを歩いていく。

5分ほど歩いたころだろうか、18号が痺れを切らして声をあげる。

 

 

「おい、ウボォーギン」

 

「あ? 何だよ、18号」

 

「あと何分ぐらい歩くんだ」

 

「ここからだとあと20分ぐらい歩いて、そっからタクシーで30分ぐらいだな」

 

「……お前、空は飛べないのか?」

 

「何言ってんだ? 人間が空飛べるわけないだろ。

念能力ならできるかもしれんが、まぁそんな奴はいないだろうな」

 

「はぁ………………おい、手を取れ」

 

 

 18号は右手を差し出した。ウボォーギンは先程振り払われたこともあって警戒する。

迂闊に触って嫌われたくなかった。

 

 

「いいのかよ、触って」

 

「早くしろ」

 

「へいへい、で?」

 

 

 18号の女性らしい手をウボォーギンのゴツゴツした大きな手が包み込む。

 

 

「しっかり捕まってろ。飛ぶぞ」

 

「飛ぶ? ――うおおおおっ!?」

 

 

 言うや否や、18号は凄まじい勢いで空に飛び上がる。

彼女の世界では『舞空術』という空を飛ぶ技もあるが、18号には標準で空を飛ぶ能力が備わっている。

 

 

「どっちに行けばいい、ウボォーギン」

 

「あ、ああ。こっから東にある街だ」

 

「東だな、飛ばしていくぞ」

 

「飛ばっ!? おい、急にスピードを上げるな! 落ちるだろ!!」

 

 

 時速150キロは出ているだろうか。ぐんぐんと街が近づいてくる。

物凄い風圧がウボォーギンの全身を襲う。急いでオーラで全身を守る。

 

 

「別にお前なら落ちても死なないだろ」

 

「そりゃそうだが!! なぁ、掴むのは腰じゃ駄目か!?」

 

「駄目だ。落ちたらまた治してやるから安心しな。治療代はもらうけどね」

 

「――な、」

 

 

 なんて女だ。

華奢な身体のくせに俺より強く、改めて見てもとんでもない美人。

治癒能力に加え、空まで飛べる――まさにスーパーマン、いやスーパーウーマンか。

性格はかなりキツいし、金にがめつい印象はあるが、悪い奴ではないし寧ろ優しい部類に入るだろう。

 

 

(惚れたぜ……18号。完全に惚れちまった……。

お前の言うことなら何でも聞いてしまいそうだ。

今から同棲できるってマジかよ、夢でも見てるのか俺は……!)

 

 

 ウボォーギンは歓喜と胸の高鳴りを抑えられずにいた。

逆に18号はウボォーギンの手汗が気持ち悪くて、このまま落としてやろうかと真剣に悩んでいた。

 

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