「そろそろこの戦法も限界が出てきたな」
この戦法、とは敵対的な行動をしてきたプレイヤーをボコって、治療代と称してカードを奪う戦法のことである。
「噂が広がりすぎたな……別にクリアは目指してないが」
敵対行為を取ると、豹変してボコボコにしてカードを強奪するカップルがいる。
そんな噂が流れ、二人の姿を見ると逃げ出すか、めぼしいカードを献上するようになってしまっていた。
「やっぱり傍から見たら俺達はカップルに見えるんだなぁ……」
「周りの目よりも本質を見ろ。わたし達はただの友達だ」
「ツレないねぇ……にしても、何か騒がしいな」
騒ぎの元を辿っていくと、広場に爆殺された死体があった。
「
「
死体を遠巻きに眺めていると、二人に誰かが声をかけてくる。
「キミ達かな? 敵対するプレイヤーからカツアゲしてる男女二人組って」
「お前は? まず名乗りなよ」
18号が男を睨みつける。
「俺はゲンスルー。人海戦術でゲームクリアを目指す
キミ達、かなりカードを集めているだろう? 協力してもらえないか」
「ふーん……こっちのメリットは?」
「他の連中の報酬は2億ってとこだが、あんたらは1人につき5億でどうだ?」
ゲンスルーは指をパーにして二人に提示する。
「2人で10億か……悪くないね。ウボォー、どう思う?」
「胡散臭いが、お前がいいなら俺は構わねーぜ」
「そうか……よし、いいよ。協力してやる」
18号の返答を聞いて、ゲンスルーは笑顔を見せた。
「助かる。バインダーを確認させてもらっていいかな?」
「ああ」
ウボォーはバインダーを出現させ、ゲンスルーに見せる。
「指定ポケット26種類……! 素晴らしい戦果だね。キミのバインダーは?」
「いや、カードは全部こいつに預けてる」
本当はバインダーなど出せないが、18号は事もなげにそう言った。
「なるほど……分かった」
「で、俺達はどうすればいい?」
「いや、キミ達は基本的に自由にしていて構わない。
ただ、俺が呼び出した時には集合場所に来てほしい。いいかな?」
「ああ、分かったよ」
「それと、あの死体を見て分かるように
色んな奴がいるが、特にあの死体の下手人――
そう言って、ゲンスルーは18号とウボォーの肩に触れる。
「気安く触れるんじゃないよ」
「18号に触れていいのは俺だけだ」
「悪い悪い、俺の癖みたいなもんなんだ……じゃ、また会おう」
そう言って、ゲンスルーはどこかへと去っていった。
「んで、あいつに協力するのはいいとして……これからどうすんだ?」
「真面目にイベントでもこなすか? やるのはお前だけど」
「だりーな。一回現実に戻んねぇ?」
「瞬間移動で?」
「お前はそれでもいいが、俺は不正とみなされてデータ消えるかもしれねぇし、正規の方法で出るわ」
「確か『
「『
「じゃ、お言葉に甘えて」
18号はそう言って、瞬間移動していった。
*
18号はマチの元に瞬間移動した。
「「「18号!?」」」
同時に3人の声が重なる。
「何だ、騒がしいな……って、何でお前らが」
そこにはマチの念糸に拘束され、連行されているゴンとキルアの姿があった。
「18号、こいつらと知り合いらしいね? このガキ共、
「まぁ、友達だよ。ふーん、お前らが幻影旅団をねぇ……」
「な、何だよ……」
「10年早いね。お前らじゃまだ無理」
「うっ……」
18号に呆れられ、ゴンは落ち込む。
「だって仕方ねーじゃん。全員捕まえたら120億だぜ? グリードアイランド買えるじゃん」
「120億!?」
18号が大声を出して目を輝かせる。
「ちょっと、目の色変えないで。旅団の不利益になることはしないって約束は?」
「冗談だよ。しかしお前ら、グリードアイランドまだプレイできてないのか。わたしはもうプレイ済みだぞ」
18号がマウントを取る。
「嘘はよくないわね、18号。あなたプレイヤーじゃない癖に」
後ろからパクノダに指摘されてしまう。
「チッ……でもゲームに参加したのは確かだろ」
「あーくそ。俺達も早くやりてー。バッテラさんのほうに行くしかねーか」
「ねぇ、この拘束外してよ。もう何もしないから」
ゴンがマチに懇願する。
「って言ってるけど、どうする?」
マチは18号に向き直って言う。
「別にいいんじゃないか? というか、連れ帰ってどうするつもりだったんだ?」
「なかなか面白い『発』だったし、ノブナガは勧誘するつもりだったみたい」
「はぁ? 誰がなるかよ」
「人殺しの仲間になんてなりたくないね」
マチは大きなため息をつく。
「状況分かってんの? 今なら、あんたら簡単に殺せるんだけど」
「さっきまでならね。でも18号の目の前じゃ無理でしょ。な?」
「まぁ、流石に止めさせてもらうかな」
マチはそれを聞いて、念糸の拘束を解除した。
「もういいよ。どこへでも好きに行きな。ただし、二度目はないよ」
「ありがとう! 町中でばったり会うのはセーフだよね?」
「敵対しなきゃね。ノブナガは勧誘してくるかもしれないけど」
「うぜーなアイツ……ま、いいや。んじゃな」
ゴンとキルアは走って去っていく。
と思ったらゴンが立ち止まって18号へ振り返る。
「ねぇ、旅団にクラピカの記憶と能力奪わせたの、18号ってホント?」
「……マチに聞いたのか」
「うん。120億が欲しいってのはホントだけど、クラピカのことを聞いてってのもあってさ」
「……そうだと言ったらわたしを恨むか? ゴン」
18号はゴンから目を逸らして呟く。
「ううん。クラピカの事を思ってのことでしょ? だから恨むとかはないよ。
でも……ずっとモヤモヤしてるんだ。これで良かったとも思うけど、そう思えない気持ちもあって……」
「そうか……わたしも同じ気持ちだよ。後悔はないが、罪悪感は残ってる」
「やっぱり18号はいい人だね。改めてそう思ったよ……ゲームで会ったらまたよろしく!」
「ああ。まぁわたしはプレイヤーじゃないけどな……」
ゴンは手を振って、キルアの元へ走っていった。
18号も小さく手を振り返す。
*
その後、18号はウボォーギンと共に自宅に戻り、データが消える9日まで自由に過ごした。
「そろそろゲームに戻るか……」
ウボォーギンは18号の膝に後頭部を預けながら呟いた。
「なんだ、嫌そうじゃないか」
「俺的にはあんまり面白くないんでな。でも、お前が飽きるまでは付き合うぜ」
「そいつはありがたいね……ほら、とっとと起きな」
「うし……じゃログインするぜ」
ウボォーギンは起き上がり、自宅に持ってきたジョイステに『発』をする。
ウボォーギンが消えたのを確認して、18号も瞬間移動した。
*
グリードアイランドに戻ると、早速『
『やっとログインしてきたか。もう戻ってこないと思ったぞ』
通信の相手はゲンスルーだった。
「悪いな。俺達はお前らみたいなガチ勢じゃないもんで」
『ふっ、まぁいいさ。実はうちのギルドの念願だった指定カード90種が集まってな。
いよいよゲームクリアが近づいたんで、集合がかかってる。『
「ふーん……どうするよ、18号」
「クリアしたら報酬10億だろ? 行こう」
『それじゃ待ってるぜ』
通信が切れた。
二人は『
「来たな、こっちだ」
案内された先の洞窟では、60名以上の人数が集まっていた。
「さて……全員揃ったようだな。知ってる者もいるだろうが、ついに90種の指定ポケットカードが集まった。
おおっ……とざわめきが広がる。
「ゲームクリアの時は来た。俺達の手で、この閉塞した状況を打ち破ろう!!」
うおおおお!! と歓声が次々にあがる。
「俺からも一ついいか?」
ゲンスルーが右手をあげて立ち上がる。
「突然だが……俺は
そこからはゲンスルーの独擅場だった。
ジスパーという古参の男がゲンスルーに襲い掛かるが、
ゲンスルーの能力の一つ『
それによって、誰もゲンスルーに手を出さなくなる。
ゲンスルーのもう一つの能力は
触れた場所に時限爆弾を設置する『
この爆弾は爆発すれば確実に死ぬ性能を持ち、解除するにはゲンスルーに触れて
「
ここまでの説明を終えると、メンバーそれぞれの身体に爆弾が現れる。
18号とウボォーギンも例外ではなく、それぞれ右肩と左肩に爆弾が表出する。
そしてゲンスルーはメンバー全員の命と引き換えに自身のもつ9種を除く、
81種の指定ポケットカードをメンバーに要求した。
渡せば、もう一つの解除法で全員を爆弾から解放してやると言って。
「なぁ……爆弾の出来てるところ……」
「ああ、頭や胸に出てる奴もいるぞ。やべーな」
「うわ、あいつ……尻に……」
「そういう趣味なのかねぇ……」
二人は爆弾が肩にあるというのに、何故か余裕の表情をしている。
「――今やるか? ウボォー」
「ヤツも今は警戒してやがるからな。別にいつでもやれるなら後でもいいんじゃねーか?」
「じゃあ一旦泳がせて、漁夫の利を頂くとしようか」
「おう」
その後、ゲンスルーは取引場所と日時を言い残し、『
残されたメンバーは阿鼻叫喚の様相を呈していた。
結局、時間もなく戦闘に自信のないメンバーが多いこともあって、立ち向かわずカードを渡すことになる。
メンバーの1人、無精ヒゲの男が二人に近づいてくる。
「お前らはゲンスルーがスカウトしてきた奴だな。お前たちの指定ポケットも渡してくれ」
「やれやれ。お前ら、揃いも揃って情けねぇな。これだけの人数でたった一人を倒せないなんてよ」
「なっ!? お、お前らだって手を出さなかったじゃないか」
「わたし達はあえて手を出さなかったんだよ……いつでも倒せるからね」
「何!?」
18号の発言にどよめきが起こる。
「さて、そんなわたしからお前らに提案だ」
「提案……?」
「お前らがゲンスルーに渡す予定の指定ポケットカードをウボォーギンに寄越しな。
そうすりゃアイツを倒して、ここに連れて来てやるよ。
で、『
18号の提案でどよめきは更に大きくなる。
「それをどう信用しろって言うんだ。大体、お前らゲンスルーの仲間かもしれないだろ」
「だったら逆に聞くが、ゲンスルーは信用できるのか?
カードを渡したら爆弾から解放してやると言ったが、ゲンスルーにそれを守るメリットは?
弱いとは言え、60人以上いるんだ。戦えなくても嫌がらせぐらいは出来るよな。
そんな不穏分子をわざわざ生かしておくメリットって……なんだ?」
「うっ……それは、確かに」
「俺の見立てじゃ、カードを渡した瞬間に爆弾が爆破しても不思議じゃないな。
いきなり信用しろってのも難しいのは分かるが……時間はないぜ」
「……」
洞窟の中は沈黙に包まれる。
「分かった。お前たちに賭けてみよう。だが、カードを渡すのはゲンスルーを捕縛して連れてきてからだ」
「妥当なとこだね。もし反故にしたら全員生き地獄を味わうことになるから」
18号はそう言って、メンバー一人一人を睨めつける。
「それじゃ、行ってくる。ウボォーはここで待ってな」
「悪いな。じゃ頼むわ」
*
その頃、ゲンスルーは本当の仲間であるサブとバラと談笑していた。
「くっくっく、今思い出しても笑えるぜ。あの時のクズどもの間抜け面はよ」
「そんなにかよ。まぁ、群れて強くなったつもりの弱者の集まりじゃあな」
「なぁゲン、本当に俺達を殺しに来そうな奴らじゃないんだよな?」
「人数が人数だしな。心配するのは当然だ。だが、あり得ないね。
そんな勇気のある奴はあんな集団に加わらない。だが、そうだな……。
あの二人組は実力はそこそこあるかもしれない」
「あの二人組?」
「お前らも聞いたことあるだろ。敵対プレイヤーをカツアゲする男女二人組だよ。
ただ、あいつらも俺が口上を垂れてる間、手を出してこなかった。結局その程度のチキンってことだな」
「ああ、そいつらなら聞いたことあるな。確か、女のほうを矢面に立たせて
何かしようとしてきたら、大柄の男が出てきて締め上げるってやり方らしい」
「美人局かよ……ま、とにかく心配は無用ってことだな」
ゲンスルーは飲み物を取りに席を立つ。
まだ約束の時間には遠いし、ギルドのメンバーは話し合いの最中だろう。
万が一誰かが襲撃や交渉に来たとしても、サブとバラが戻ってくる連中を警戒している。
ゲンスルーは油断していた。自分が18号達を誘うという、致命的なミスを犯したことも気付いていなかった。
「それより、500億の使い道をどうするか考えておくべきだ――なっ!?」
ゲンスルーが呑気にコーヒーをカップに注いでいると、18号がその背後に瞬間移動して来た。
即座にその背中に肘打ちを叩き込むと、ゲンスルーは壁に打ちつけられ、身動きが取れなくなる。
「とりあえず、その手を切り落とさせてもらおうか。ついでに足もね」
18号は小さな『気円斬』を発生させ、ゲンスルーの両手両足を斬り飛ばす。
「ぐわぁぁ!! お、俺の手が……足……」
「ゲン!! この糞アマ!!」
サブとバラが18号に飛び掛かる。
だが、18号はヒラリと躱してサブの顎にアッパーをかまし、バラには回し蹴りをお見舞いする。
サブは意識が飛び、バラは辛うじて意識は残ったが右半身の骨が粉砕され、動けない。
念には念を入れて、18号は3人の脚の骨を丁寧に折っていく。
男3人の悲鳴が城内に響く。
「さて、あんた達をアイツらの元に連行させてもらうよ」
18号は斬り落とした手足をゲンスルーの背中に乗せつつ、3人に触れてウボォーギンへ瞬間移動する。
*
「おっ、戻ってきた」
18号はゲンスルー、サブ、バラを床に転がす。
「ほら、ゲンスルーは倒したぞ。全員脚の骨を折ってあるし、ゲンスルーに至っては手足を斬り落としてある」
「容赦ねぇなぁ……後で治すとは言え」
「こいつらのカードと引き換えにな。とりあえず、わたし達から爆弾を解除するぞ」
18号とウボォーギンは痛みで悶え苦しむゲンスルーに触れ、
「「ボマーつかまえた」」
と言うと二人の肩の時限爆弾は消えてなくなった。
「ふぅ……。じゃ、お前らもやりな」
その言葉を皮切りに、ゲンスルーにギルドメンバー達が殺到する。
60名分の「ボマーつかまえた」が洞窟に木霊し、全ての時限爆弾は解除された。
*
「さて、約束は守ってもらおうか」
「……分かった。皆、カードを出してくれ」
そうして、指定ポケットカード81種がウボォーギンの元に揃う。
一気にクリアに近いプレイヤーがここに誕生した。
「ゲンスルー達の処遇はこっちに任せてもらうよ」
「え? ああ……それは構わないが、どうするんだ?」
「とりあえず治療費としてカードを奪って、指輪は破壊する。でも、それ以上は何もしないよ」
「そ、それじゃまた新しいデータでログインしてくるかもしれないじゃないか!?」
「そうだな。それが?」
「お、俺達に復讐してくるかもしれないだろ!?」
「知るか。わたしにそこまでする義理はないよ。怖いならゲームから離れるんだね」
18号はそう言うと、ウボォーギンと共にゲンスルーに近づく。
ギルドメンバーは蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。
「起きな、ゲンスルー」
「うっ……」
「命が惜しいなら、カードを寄越しな。キレイさっぱり治してやるよ」
「そんなことできるわけねぇ……それとも、『大天使の息吹』を使ってくれるのかよ」
ゲンスルーは息も絶え絶えに18号を睨む。
「そうか。なら、見本を見せてやるよ」
そう言って、意識を失っているサブに治癒能力を行使する。
そして、再び両脚の骨を折った。
「わ、分かった。カードは全て渡す。だからサブとバラも治してやってくれ」
「殺人鬼のくせに仲間想いなんだな。じゃ、バインダーを出しな」
カードの譲渡は問題なく終わり、これでウボォーギンが持つ指定ポケットカードは90種になった。
「そういや、瞬間移動で無理矢理連れてきたけど、データ消えてなかったな」
「確かに。指輪さえあれば大丈夫ってことなのか……。
じゃあ、この指輪をわたしがつけたらプレイヤーになれるのか?」
「なれるかもしれねーけど、登録名はゲンスルーになっちまうぜ?」
「それは嫌だな……。まぁいいや、とりあえず治すよ」
18号はゲンスルー、サブ、バラに治癒能力を行使する。
「……ところで、ゲーム内で指輪を破壊したらどうなるんだ?」
「知らね。やってみろよ」
18号は3人の指輪を握り潰した。
すると、こちらに向かって何かが猛スピードで近づいてくる。
「また会ったな」
「お前は……あの時のGMか」
18号がゲーム開始時に会った男性GMがゲンスルー達の前に立つ。
「キミ達はプレイヤーの資格を失った。よってゲーム外へ追放させてもらう。『
こうして、ゲンスルー達はグリードアイランドからいなくなった。
そして男性GMは18号達に向き直る。
「その指輪、壊れないようになってるはずなんだがね……」
「へぇ……そうなんだ。確かにちょっと硬かったかも」
「それじゃ、失礼するよ。ゲームクリアまであと少し、頑張ることだ」
そう言い残して、男性GMはどこかへ飛んで行った。
「だってよ。どうする?」
「まぁ乗りかかった船だ。最後までやってみるか」
18号はまだ知らない。ゲームクリアすればバッテラという男から、500億の報酬が貰えることを……。
書き溜めが尽きたので次回からは少し間が空きます。