「起きろ、ゴン」
聞き覚えのある低い女性の声でゴンは目を覚ました。
「あれ、18号……? ってことは……」
「ああ、何とかなったよ。あいつらのお蔭でお前はギリギリ捕球できた。
ま、その代わりに死にかけたけどな……もう治ったが」
ゴンは身体を見回したり、動かして体の調子を確認する。
どこにも異常はないし、なんなら使ったオーラもかなり戻ってきていた。
「わたしはボールを投げられない。レイザーを倒せるのはお前か、外野の奴らだけだ」
「わかった。ありがとう、18号。これならまだやれるよ」
「よし。それじゃ、反撃開始だ」
18号はボールをゴンに託して、耳元で囁く。
「思いついた作戦が一つある。まずそれを試すよ。
まず………して………だ」
「……それなら間違いなくアウトにできるね。でも……」
「納得できないか?」
「うん……ちょっとだけ」
「ならこう考えな。勝負はさっきので終わった。
わたしから見れば引き分けってとこだが……ゴンの年齢から考えれば勝ちに近い引き分けだな。
で、こっから始まるのは試合だ。ゲームクリアのためのな」
「……わかった。やろう、18号」
ゴンは受け取ったボールを片手で掴み、投球の態勢をとる。
「オレはてっきり、またあのジャンケンの能力を使うのだと思っていたが……」
レイザーは眉をひそめて18号に問う。
「必要ないよ」
「何?」
「お前如きをアウトにするのにそんなのいらないって言ったんだよ、糸目野郎」
「……面白い、やってみるといい」
そう言ってレイザーは油断なく身構える。
「いつでもいいよ、18号」
「――『太陽拳』!!」
カッと激しい光が18号の前方にいるレイザーに直撃する。
「なっ……」
何も見逃すまいと両目を開け、『凝』までしていたのが裏目に出る。
もはやレイザーには白い光以外何も見えない。
当然、ゴンが投げるボールにも反応できない。
脚に当たったことを認識した時にはボールはもう床に落ち、外野に転がっていた。
『レイザー選手、アウト』
「……バック」
誰しもが聞きたかった声が18号参戦から数分で聞こえてきた。
その事実に、外野は否が応にも盛り上がる。
「うおおおおお!?」
「あっけねーなおい……」
「あれ、屋内でも使えるのズルくない?」
ザワザワと騒がしい外野を背に、ようやくレイザーの視界が回復する。
「……やられたね。だが、同じ手は二度食わないよ」
レイザーは片目を閉じて太陽拳に備える。
「これで死角ができたね。これが狙いなんでしょ?」
「……ん? ああ、そうだな」
「……?」
18号の生返事にゴンは首を傾げる。
「もう一度やるぞ、ゴン」
「え? 作戦は?」
「大体さっきと同じだよ。それで勝てる」
「……わ、わかった」
言われるがまま、ボールを投げる態勢をとるゴン。
「同じ手は喰わないと言ったはずだが」
「通用するよ。手も足も出ずにお前は負ける」
「……おい、まさか」
「行くぞ――『太陽拳』!!」
再び眩しい光が18号より前方の空間を包む。
レイザーは光が収まるのを待って、もう片方の目を開ける。
――しかし。
「『太陽拳』」
禁断の『太陽拳』二度打ち。
当然、レイザーの両目はやられてしまう。もう何も見えない。
「さぁやれ、ゴン」
「えっ……いや、あのさ18号……」
「もたもたするな。奴の視力が回復してしまう」
「あのさ……流石に卑怯すぎない??」
レイザーの視力がわずかに回復する。
「『太陽拳』」
三度打ち。
「卑怯ってお前……方法にこだわってる場合じゃないだろ」
「それは分かるけど……でも流石にこれは」
「……ちっ。分かったよ。だが、わたしが考えた策はこれだけだぞ」
「大丈夫。オレも勝てそうな作戦が一つあるんだ」
そう言ってゴンは18号の耳元で囁く。
「……なるほど。それならうまくいきそうだ。二度目は通じないだろうが」
「でしょ? それじゃ、頼むよ18号」
「ああ」
すると、18号はボールをゴンの目の前で両手で掴む。
そして、ゴンは拳にオーラを集中させる。
「おや、さっきはジャンケン能力は使わないと言っていたが?」
「そんなこと言ったか? 悪いな、忘れてくれ」
「……」
レイザーは黙って身構える。
「最初はグー……ジャン、ケン――」
「“チー”!!」
「!?」
ゴンがそう叫ぶと、ゴンが出した「チョキ」の手のようにオーラが二又に分かれ、
レイザーを挟みこみ、蛇のようにぐるぐると巻きついていく。
今回も「グー」でボールが飛んでくると思ったレイザーは反応が遅れ、しっかりと拘束されてしまう。
それを見て18号はボールを外野のウボォーギンに素早くパスする。
「ウボォー!!」
「おう!」
ボールを受け取ったウボォーギンは無防備なレイザーの背中にボールを叩きつける。
『レイザー選手、アウト』
「……バック!」
これでレイザーは後がなくなった。
次レイザーをアウトに出来ればゴンチームの勝ちになる。
「……やられたな。まさかチョキが拘束技だとは」
レイザーが悔しそうに呟く。
「オーラを刃に変化させて斬る技と迷ったんだけど、グーと威力が違いすぎて使わない気がしたんだよね」
「それでチョキのイメージから「挟む」技というわけか。なかなか厄介な能力だ。
しかもこれは変化形も使ってはいるが、拘束力を高めるために強化系が殆どのリソースを担っている」
「へへ……まぁね。レイザー、これで形勢逆転だね」
跳ね返って外野に落ちたボールをウボォーギンが18号にパスする。
しかし、18号はそのボールをあろうことかレイザーへ放り投げる。
「どういうつもりだ?」
「お前もわたしに挑まずに終わるのは消化不良だろ?」
「オレの球を1人で受け切れると?」
「当たり前だ。それでお前を完璧に負かして、完璧に勝つ」
18号はくいくいっと手招きをして挑発する。
「この狭いコート内でオレの球を1人で受けきれた奴はいない」
「早くしろ」
「……後悔するなよ」
レイザーはボールを中空に放り投げ、そのまま自分も飛び上がる。
そして、バレーのスパイクで18号目掛けてボールが槍のように飛んでいく。
18号は腹と腕でしっかりとボールを受け止める。
50㎝ほど後ろに押されてしまうが、そこでピタリと止まる。
「……流石だな」
「それほどでも。さて……最後の攻撃だ。どうする? ゴン」
「別に作戦でも何でもないんだけどさ……オレ、あいつをぶっ飛ばしたい」
「ぶっ飛ばしたい、か……確かにレイザーは無傷だしな」
「うん。何とかならないかな?」
「そうだな……。うーん……」
18号はしばらく考え込む。
「それじゃ――こういうのはどうだ?」
18号がゴンに囁く。
「いいかも……それ」
「だろ? なぁレイザー、お前も勝つなら完璧に勝ちたいよな?」
「……なに?」
「ゴンの全力をお前はレシーブで無力化したが、受け止めてはいないよな。
次はお前もゴンの全力を受け止めてみろ。受けきれたらこっちの負けでいい」
「ほう……」
「シンプルで分かりやすいだろ? あぁ、安心しろ。
わたしが相手だとゴンは100%の力は出せない。精々80~90%ぐらいだ。
それなら受けきれる気もするだろ?」
「いいだろう。もちろん、『太陽拳』や『ジャンケンチー』は使わない、真っ向勝負と考えていいんだな?」
「もちろん」
その答えを聞いて、レイザーはコートの前方側で『堅』を維持した状態で待機する。
「オーラの攻防力移動で凌ぐつもりか」
ウボォーギンがレイザーに声をかける。
「そんなところだ。インパクトの瞬間は腹に、その後は脚にオーラを集めればコート内で受けきれるだろう」
「だったら、もっとライン際ギリギリに行ったらどうだ?
それならより可能性は高いだろ」
「ふっ……大した自信だな。まぁいいだろう」
そう言って、レイザーはコートの真ん中、ライン際ギリギリに立つ。
「行くよ」
「ん、いつでもいいよ」
ゴンが拳にオーラを集めはじめる。
女性である18号に遠慮しているのか、これまでに比べればやや控えめ。
だが、まともに受け止めればアウトにもなり得るオーラ量だ。
「さいしょは……グー」
「ジャン……ケン……」
その時、18号がボールを支えていた片方の手を外し、ゴンの肩に触れる。
そして――二人の姿が掻き消える。
突然の事態に二人の姿を探すレイザーが、最後に目下に目を向ける。
そこに二人はいた。
「グー!!!!」
流石に『堅』で耐えきれるわけもなく、レイザーの足は早々に地面から離れそのまま壁へ激突していったのだった。
『レイザー選手、アウト! よってこの試合、ゴンチームの勝利です!!」
*
その後、重傷を負ったレイザーを治療し、その目覚めと共に『一坪の海外線』イベントは終了した。
『一坪の海岸線』はその場で2枚複製し、ゴンとゴレイヌとウボォーギンに分けられた。
「さて、約束通りカードは譲渡しよう。その代わり……」
「報酬は18号が独り占め、だろ? 分かってるよ」
相変わらず守銭奴だな、とキルアがぼそっと呟く。
「90種もあるならこれでクリアできちゃうかもね」
言いながら、ゴンは
「で、どのカードが足りねーんだ?」
「えっとね……」
ゴンは
ウボォーギンもまた
「……これで最後だね」
「99種そろったか……ゲームクリア?」
ゴンはウボォーギンから最後のカードを受け取ると、
その時、どこからかアナウンスが聞こえてきた。
『プレイヤーの皆さまにお知らせします。たった今あるプレイヤーが99種の指定ポケットカードを揃えました。
それを記念しまして今から10分後に全プレイヤー参加の指定ポケットカードを題材としたクイズ大会を開催いたします。
最も正解率の高いプレイヤーにNo.000『支配者の祝福』が贈呈されます』
「最後はクイズかよ。奪った俺らは無理だなこりゃ」
「ゴン、頼む」
「う、うん。でもオレもたぶん7割ぐらいしか答えられないかも」
ゴンが自信なさげに返しながら、改めてバインダーを眺めてイベントを振り返っていく。
「ツェズゲラがたぶん自力で一番集めてるっぽいし、割と厳しいな……ん?」
キルアがプレイヤーリストを確認すると、ツェズゲラは現在G.I.にいないようだった。
「何かあったのかしらね? ただの用事で外に出てるだけ?」
「さぁな。ともかくこれなら勝機あるぜ。負けたほうが罰ゲームだからな、ゴン!」
「その勝負、乗った!」
ゴンとキルアはわいわいと騒ぎながら、クイズ大会に臨む。
「わたしは帰るよ。報酬はまた振り込んどいてくれ」
「お、じゃあオレも帰るわ。どうせ無理だしな。
こうして、18号とウボォーギンはグリードアイランドをクリアへ導き、報酬500億を手にしたのだった。
*
後日。
18号の携帯が鳴る。発信者はゴン=フリークス。
「ゴンか。どうした?」
「あっ、18号? あのさ、G.I.の報酬のことなんだけど……」
「ああ、500億のことか」
「うん、それなんだけど……色々あって、50億ぐらいになりそうなんだ」
「……は?」
「G.I.を集めてたバッテラさんは、婚約者の病気を『大天使の息吹』で治したかったみたいなんだけど、
オレ達がクリアする数日前に亡くなったらしくてさ……」
「……」
「それで、500億は違約金って形で全プレイヤーに分配されることになったんだ。
ゲームクリアしたオレと、プレイヤーの募集に協力したツェズゲラさんが50億。
残りの400億はカードの収集状況に応じて1億から10億くらいを残りのプレイヤーに払うみたい」
「……そうか……」
「もちろん、その50億は18号に振り込んでおくよ。じゃ、説明はしたから……またね18号」
そう言い残して通話は切れた。
「……はぁ」
18号は盛大にため息をついてソファにどさっと座り込む。
時折「1/10……50億……」と呟いたり、「落ち込むようなことじゃない」と自分に言い聞かせたりしていた。
「18号よぉ~、あの約束覚えてるよな?」
「……」
ウボォーギンが18号の隣に座り、何も知らず無神経に話しかける。
「デートの約束したよな? とりあえず今度の日曜あたりで考えてんだが」
「……うるさい」
「あ? 何で不機嫌なんだよ。もしかして生r――おごっ!?」
最後まで言い終わる前にウボォーギンのみぞおちに18号の裏拳が叩き込まれる。
「もう寝るか……お前はそこで朝まで寝てろ」
「……ひ、ひでぇ……」
そのまま朝までウボォーギンは痛みで寝ることはできなかった……。