26.デートと救援要請
「遅いな……」
18号は苛立ちながら、待ち合わせに使われるモニュメントの前でウボォーギンを待っていた。
G.Iで約束した通り、今日はウボォーギンとデートの予定だった。
一応同棲しているにも関わらず、「デートするなら待ち合わせしたいよな」などと意味不明なことを言うので
仕方なくこうして無意味な待ち時間に興じている。
「悪い、待たせたな」
時間から10分ほど遅れてウボォーギンが遅れてやってくる。
「待たせたなじゃない。帰ってないことをありがたく思え、タコ」
「……マジですまん。一度でいいからやってみたくてな」
「チッ……で、最初はどこに行くんだ」
モニュメントに凭れかかりながらウボォーギンを見上げる。
「ショッピングだな。もちろん、俺が全部払うから付き合ってくれよ」
「当たり前だろ……先に買い物だと荷物になるがそれはどうするんだ?」
「全部後で自宅に送ってもらうから平気だって。んじゃ行こうぜ」
ウボォーギンが歩き出したので18号もそれに続く。
「なぁ、手とか……」
「繋ぐわけないだろ」
「じゃあ、腕組むとか」
「うるさいな。いいから早く歩け」
*
自宅から少し離れたデパートで、食料品、化粧品、衣料品などを買い漁る。
「他人の財布で買い物するのはいいな……」
「なぁ18号、こっち来てくれよ」
「何だ……水着売り場なんかに用はないぞ」
ウボォーギンに連れて来られた場所は水着売り場だった。
「飯食ったら海に行こうと思ってな。どれがいいか選んでくれよ」
「……わたしの水着姿が見たいだけだろ」
「おう。別にいいだろ? それぐらい」
「……はぁ」
18号は面倒くさくなって、適当に目についた水着を手に取って「これで」と言ってウボォーギンに渡す。
「うーん、それも悪くないけどよ。こっちもいいんじゃねーか?」
そう言ってウボォーギンはとんでもなく布面積が小さい水着を取り出して見せる。
「殺すぞ」
*
適当なファストフード店で昼飯を済ませ、レンタカーで海へ辿り着いた。
ウボォーギンにせっつかれ、早速更衣室で水着に着替えさせられる。
「……」
18号は憮然とした表情でウボォーギンの前で水着を晒す。
「おー、いいじゃねーか」
「……で、何をするんだ?」
「海に来たならそら泳がねぇとな。波もあるしサーフィンとかでもいい。経験あるか?」
「ないな……サーフボードってのがいるんじゃないのか」
「借りてくる、待ってろ」
ウボォーギンが海の家でサーフボードを借りて戻ってくると、18号は男達に絡まれていた。
「おい、オレのツレに何してんだ」
「あぁ? ……え、あ……その……何でもないでーす」
凄んで振り返るが、ウボォーの姿を見るとそそくさと逃げ出していった。
「何で追っ払わないんだ? ノしちまえばいいだろ」
「騒ぎになったら面倒だろ。ちょうどいい虫よけもいることだしな」
「オレは虫よけスプレー代わりかよ……」
そう言って、二人はサーフィンをしに海に入っていく。
「うおっ……結構コツがいるな」
「ふん、パワー馬鹿には難しいらしいな。ま、わたしにかかればこんなもんだ」
18号は華麗に波に乗ってサーフィンに興じる。しかし、よく見ると足が浮いている。
「お前、舞空術使ってねぇ!?」
「気のせいだろ」
ひとしきり楽しむと、ビーチに戻ってくる。
「まだ時間はあるのか?」
「おう、まだ余裕はあるな」
「じゃ、あのビーチチェアで休んでおくか。ウボォー、あれ借りて来てくれ」
「あれって、パラソルか? 分かった、待ってろ」
さっき買ったサングラスをつけて、ビーチチェアに腰掛ける。
ウボォーギンが離れたせいか、木に塗られた蜂蜜に群がる昆虫のようにナンパ目的の男がうろつきはじめる。
次から次へと18号にナンパを仕掛けては、すげなく振られ去っていく。
次第に鬱陶しくなってきた18号はこっそり海へ気弾を飛ばして小爆発を起こして全員の視線を逸らし
その隙に瞬間移動でウボォーギンのところに戻る。
「うおっ」
「パラソルはもういい。ここじゃろくに寛げない。もう着替えるからな」
「またナンパか? 18号は美人だしなぁ……俺がついてないと駄目か」
「お前にじろじろ見られてるのも大概不快だがな……次誘うならプライベートビーチでも用意することだ」
「へいへい。じゃ、着替えて次に向かうか」
18号は更衣室に入り、ロッカーのカギを開ける。
すると、そこで携帯電話が鳴っていることに気付く。発信元は不明、番号だけが表示されていた。
切ろうかとも思ったが、とりあえず出てみてから考えることにして電話に応答する。
「もしもし」
『やっと繋がった! 18号、助けてくれ!!』
「キルアか? 何があった」
『ゴンの恩人のカイトって人が殺されそうなんだ! たぶん18号じゃなきゃ勝てない。頼む!!』
「報酬は?」
『オレ達の全財産出す。だから早く!!』
「よし、今からそっちへ行く」
18号は着替えるのをやめて、キルアのオーラを探り瞬間移動した。
*
「来たぞ」
18号は水着のままキルアの傍へ辿り着く。
周りを見ると森の中だ。少し遠くから微かに音が聞こえる。
キルアは気絶したゴンを背負っているようだ。
「ああ、助かる……って何で水着!?」
「どうでもいいだろ……で、状況は?」
「そ、そうだな。あっちにでかいオーラの奴がいるの分かるか?」
「……あれか」
オーラは見えないが禍々しいオーラを肌で感じることは出来た。
「そいつと戦ってる。既に腕を斬り飛ばされてまずい状況だ。急いでくれ!!」
「分かった。お前は安全なところまで離れときな」
そう言って、禍々しいオーラを頼りに瞬間移動を試みる。
*
「次の武器を寄越せっ」
『ひゃはは、次こそいい番号が出ろよー? ドゥルルル……『4』!」
カイトの念能力『
「ちっ、片手で扱いにくい武器を次から次へと……!!」
具現化された槍に付与された能力は『必中』。
敵が回避したとしても、伸びたり曲がったりして必ず当たる。
ただし、4回敵に攻撃しないと消すことができない。
カイトは懸命に敵――猫のような特徴を持つキメラアントへ片手で槍を振るう。
横薙ぎ、突き、飛び上がっての降下突き。次々攻撃は命中するが、片手では威力は出ない。
そもそも、これまでも大した
「なんかキミ、ずいぶんヘンテコな能力を使ってるね。何で?」
猫型蟻は攻撃を受けながら、素朴な疑問をぶつける。
「あの日のオレに聞いてくれ。全く使いにくいったらないぜ……!」
そうぼやきながら、4回目の攻撃を繰り出す。
猫型蟻の横薙ぎの爪撃を態勢を低くして躱し、下から心臓を狙って突きを放つ。
「甘いよ」
攻撃は命中するが、片手ということもありオーラと元々蟻が持つ肉体の頑強さに阻まれる。
そして、猫型蟻は槍を掴んでカイトを強引に引き寄せる。
「ごぁっ!!」
猫型蟻の強烈な膝蹴りがカイトに炸裂し、数十メートル先の木に叩きつけられる。
あまりの衝撃と痛みでカイトの動きは止まってしまう。
「終わりかな。片手の割には善戦したんじゃない?」
猫型蟻はそう言って、右手の爪を伸ばして手刀の形をつくった。
さらに、オーラを刃のように変化させて首を狩る準備をする。
「よく言うぜ。お前はまだ『発』を使ってないくせに」
「『発』……ああ、能力のこと? ボク、まだ考え中なんだよね」
「はは……とんでもねぇな。もしかして他の奴らも念覚えてるのか?
あの時、ゴンの攻撃で目覚めさせちまったか……」
「まぁね。でもバカが多いから、殆どはゴミみたいなもんだよ」
そう言いながら、猫型蟻は1歩2歩とカイトへ近づいていく。
「それじゃ、トドメを刺すよ。安心して? 君の首と死体は誰にも渡さないし大事にするから」
「そりゃどうも……最後の武器をよこせ。『
最後の力を振り絞ってカイトは立ち上がった。
『ひゃはは、弱気に聞こえるが目は死んでねぇな? 行くぜぇ……『9』!!」
具現化された武器は『ブーメラン』。付与された能力は――『幸運』。
可能な限り幸運を引き寄せるが、その代わりブーメランが戻ってくるまで『絶』状態になる。
(死んでたまるか……!!)
「これで、終わり――!」
猫型蟻が一気に距離を詰めてくる。
それと同時に、カイトが渾身の力でブーメランを放つ。
「ひょいっと」
初撃はあっさりと躱される。だが、ブーメランは弐撃目がある。
「ボク、そこまで馬鹿じゃないよ?」
そう言って、背後から迫ってきたブーメランを指で掴んで止める。
「それじゃ、さよなら」
オーラの刃が無防備なカイトの首に迫る。
「――『気円斬』」
縦に放たれた高速回転する気の刃が、猫型蟻の右腕を斬り飛ばす。
「「は?」」
猫型蟻とカイトの声が重なる。
「……間に合ったか」
猫型蟻の背後に立つ水着姿の女――18号はそう言って息を吐く。
「誰だ?」
「えっ、キミのナカマじゃないの?」
猫型蟻は斬り飛ばされた腕を拾いながら、油断なく18号とカイトを交互に見た。
「森に水着で来る変態女の知り合いはいない」
カイトは正直な感想を口にする。
「こ……これは不可抗力だ。海水浴のあと、キルアにお前を助けろって頼まれたんだよ」
「キルアに? まさか18号ってお前のことか?」
「そうだ……わたしも有名になったもんだな」
言いながら、猫型蟻を無視してカイトに近づく。
「とりあえず、キルアとゴンのところへ帰るぞ」
「お、おい……あいつはどうするんだ」
カイトは猫型蟻を顎で指す。
「キルアからはお前を助けてって言われただけだ。あれを倒せとは言われてない」
「し、しかしだな……」
カイトは噂レベルではあるが18号の実力は知っている。
ネテロ会長を圧倒したというその力があればあの猫型蟻にも勝てるかもしれない。
これは千載一遇のチャンスだ。そう思ったが……。
「こっちはデートを中断して来てるんだ。ごちゃごちゃ言うな」
「くっ……わかった」
カイトは渋々従うが、猫型蟻は黙っていなかった。
「不意打ちで腕を斬り飛ばしたぐらいで、随分な自信だね。ボクを倒せるつもり?」
「……そっちこそ、片腕でわたしに勝てるつもりか?」
「この程度、人間相手じゃちょうどいいハンデだ、よっ――」
ネフェルピトーが太腿を膨らませて足に力を溜め、一気に解き放つ。
一瞬で18号の懐まで詰め寄る。プロハンターでも反応不可能な速度だ。
「邪魔するな」
そう言って、18号は猫型蟻の頭に肘打ちして地面に叩きつける。
「!? な、何……が……?」
猫型蟻は地に伏して、脳震盪により身動きが取れなくなった。
「なぁ、斬られた腕はどこだ? あれば治せるんだが」
「え? いや、分からん。あれからそこそこ時間も経ったし場所も移動したからな……。
もう野生動物に持っていかれたかもしれん」
「そうか。じゃ、悪いが腕は諦めてくれ。行くぞ――」
18号はカイトの肩に触れて、キルアを目指して瞬間移動を発動させた。
*
移動した先は検問所のような場所だった。
そこにキルアと、気絶したまま寝かされたゴンがいた。
「カイト!! よかった、無事だったか……」
キルアが18号とカイトの元へ駆け寄る。
「キルアか。お前のおかげで助かったよ。
……それはそうと、よく18号に連絡できたな。携帯電話は没収されたはずだが」
「ああ、例の施設で拾ったんだ。万が一に備えてな。
たまたま18号の携帯の番号を覚えてたのは、マジで運が良かった」
「ふっ、抜け目がない奴だ。お前はいいハンターになるよ。暗殺者にしておくには惜しい」
カイトはゴンの傍に近寄ると、頬を叩いて覚醒を促す。
「ゴン、起きろ」
「――…………っ!? カイト!! 無事、だったの!?」
「ああ、この通りな」
ゴンはきょろきょろとあたりを見回すと18号を見つけて声をあげる。
「もしかして、18号が助けてくれたの!?」
「まぁな。間一髪だったが」
「悪いなゴン。俺らの全財産、報酬として18号にやることになっちまった」
「あ、そうなんだ。別にいいよそれぐらい」
ゴンは改めてカイトのほうに向き直る。
「ホント無事で良かった……。あ、でもカイト。腕が……!」
「安いもんだ、腕の一本ぐらい……今、こうして生きてることが奇跡に近い」
「なんかどっかで聞いたようなセリフだな、おい……」
「全部終わったら、知り合いの医者にかっこいい義手でもつけてもらうさ。それより……」
カイトは道路のほうへ目を向け耳を聳てる。
「誰か来るな。討伐隊か」
「ああ、第一陣が来るって聞いたぜ」
「誰が来るのかね……迎えに行くか」
そう言ってカイトは道路のほうへ向かう。
「……わたしは帰っていいか? ウボォーの奴も待たせてるし……何より着替えたい」
18号は周りの視線を気にしていた。
「あー……うん。帰っていいよ……もしかしてデートの途中だった?」
「まぁ、な。じゃなきゃ水着でこんなとこ来るか」
18号は瞬間移動でウボォーギンのいる海水浴場に戻ろうとする。
「いや待て。帰ってもいいが、おっさんに事情を説明して戻ってこい」
が、キルアは18号を引き留める。
「……何でだ」
「一つは18号が居れば犠牲を出さずに討伐できるから。
もう一つは……そこを主張すればハンター協会から金をふんだくれる」
「分かった。すぐ戻ってくる」
18号は即答してすぐさま瞬間移動して行った。
「チョロいな」
「キルア、また悪い顔してる……」
*
「なんでおっさんまで来るんだよ」
18号と一緒にやってきたウボォーギンを見て、キルアが文句をこぼす。
「こっちはデートを中断させられたんだぞ? 話を聞く権利ぐらいはあるだろ。
それに、なんかやべぇ生き物を討伐するんだろ? 戦力は多いほうがいいんじゃねーの?」
「おっさん、色々ゴンと被ってるんだよ。馬鹿は二人もいらねー」
「何だとぉ!?」
ウボォーギンはキルアを小突こうとするが、素早く逃げられる。
「まぁまぁ落ち着いてウボォーさん。オレは来てくれて嬉しいよ」
「お前は良い奴だなぁ、ゴン」
そう言ってウボォーギンはガシガシとゴンの頭を撫でる。
「それで、ここはどこなんだ? さっき戦った奴は?」
18号がキルアに問いかける。
「ここは『
機械文明を捨てて自然の中で生きていこうって連中が集まって暮らしてる」
「NGLか……聞いたことあるな。確かやべえ麻薬の出所だとか」
「詳しいなおっさん」
「まぁ、それなりに闇には通じてるんでな」
キルアが咳ばらいをして話を続ける。
「で、さっき戦ったのは『キメラアント』、人間大の蟻と思ってくれていい。
人間を食ったことで人間の知性や特徴を取り入れつつある。
更に言えば、恐らく念能力を会得している可能性が高い」
「人間を餌にしてやがるのか。そりゃ駆除対象だな」
ウボォーギンが小さく呟く。
「さっき戦った奴ぐらいのがいっぱいいるってことか?」
「いや、流石にあいつはトップクラスの個体だろ。一般の兵隊はオレ達でもどうにかなるレベルだったしな
あいつはオレ達はもちろん、おっさんが2人いたとしても勝てないと思うぜ」
「そんなに強えのか……」
4人がキメラアントについて話し合っていると、そこにカイトが3人のハンターを連れて戻ってくる。
3人のうち2人はこの場の誰も知らないハンターだ。
黒いスーツを着た優男と、でかい煙管を背負ったサングラスと鷲鼻が特徴の男。
そしてもう1人は――
「あれは……」
「「ネテロ会長!?」」
会長自らが、という驚きと同時に脅威度を考えれば当然の選択とも思える。
「ふーむ……懐かしい面々が揃っておるのう。ハンター試験以来か」
ネテロ会長はそう言いながら、18号に近づく。
「しかしまさかお主がいるとはの、18号」
「相変わらず目線がいやらしいジジイだね……そろそろ枯れときなよ」
「ほっほっほ……さて、キメラアント討伐に向けて話し合いを始めるとしよう」
人間を喰い、念能力を得たキメラアント。
外部に情報が出ないNGLでの、未曾有の
しかし、どこかで何とかなりそうな気配を誰もが感じる。
人造人間18号。この女の存在が、極度の緊張感を和らげていた。