「さて、まずは状況を整理しようか」
キメラアントは摂食交配という生態を持ち、他の生物を捕食することでその特徴を反映できる。
今回、人間大の女王が生まれたことで人間を餌にしたことで兵隊に人間の特徴が反映された。
そして現状、念能力を多くの兵が得たことで討伐難度は更に上がった。
「オレのせいだ。あの時念で攻撃したのに逃げられたから……」
ゴンが拳を握って悔やむ。
「あいつら元が昆虫ってだけあって無駄に頑丈なんだよな。
そういう意味じゃ見た目ザコでも油断できねー」
「何匹かと戦ったが、常に集団で動いているのが特徴だな。
蟻の特性か、人間の知性を得たからかは分からんが……。
ただ、我が強くなって統率性はかなり薄い」
キルアとカイトが所感を延べる。
「兵隊蟻に関しては各個撃破が有効そうじゃな。
奴らの知性がどの程度かは分からんが、誘導は容易いじゃろうて。
問題は、カイトと18号が戦ったというキメラアントじゃが……」
「……奴はまだ『発』に至っていない。にも関わらず、オレが何もできずに死ぬところでした。
もし何か特異な念能力を開発したら、恐らく会長でも苦戦を強いられるでしょう」
「ほう。それほどか……」
ネテロが手で顎を摩って目を細める。
「資料によれば、恐らくそれは『王』を守護する直属護衛隊の1匹でしょう。
何人いるのかは不明ですが少数精鋭のはず。多くとも3~5匹程度。
そして彼らは女王が王を孕んでいる間は女王を守り、従いますが
王が産まれてしまえば王だけを守り、従うのは王だけになります」
黒いスーツの男――ノヴが紙の資料をどこからか取り出して説明する。
「『王』はもう産まれたのかね?」
サングラスと鷲鼻の男――モラウが疑問を呈する。
「まだだと思いますね。カイト達を襲ったのは明らかに単独行動。
王が産まれていれば、指示がなければ傍を離れることは決してない」
「であれば……狙うべきは『女王』か」
兵隊蟻を削りつつ、巣を探して女王を討伐する。
大方針が決定したがそこに異を唱えるものがいた。
「女王に王を産ませて、王と護衛隊をわたしがまとめて叩くほうが手っ取り早いよ」
18号だった。
「……身も蓋もない作戦じゃな。だが、それなら今18号が女王を殺すほうが楽じゃろ」
「女王は出産を控えた非戦闘員だろ。そんなのを殺したくないね」
「だから、王が産まれるまで待つと? 犠牲が大勢出ますよ」
「そこはお前らが何とかしろ。ウボォーも貸してやるし、他のハンターも呼べば何とか出来るだろ」
18号は全員を見回してそう言い放つ。
「自信はあるんじゃな?」
ネテロが18号に改めて確認する。
「ああ。だが、もちろんタダ働きする気はない。報酬は450億ジェニー貰おうか」
「450億? なんか半端な……」
「こいつ、G.I.で得られなかった報酬をこれで補填する気だ……!」
キルアが18号の思惑を看破する。
「あいわかった。では王と護衛隊は18号に任せるとしよう」
「よろしいので? 強者と戦いたい、と常々仰っていたはずですが」
「無論、18号がいなければワシが矢面に立って戦うつもりだったとも。
そして、ありとあらゆる手を尽くして殲滅したじゃろうて」
ネテロは胸に手を当てる。
「あらゆる手って……まさか『薔薇』ですかい」
「それが最も確実な手じゃろ? だがまぁ、18号がおるのなら話は別じゃ。
犠牲なく安全に事を運べるならそれに越したことはない」
「そりゃまぁ、確かに」
モラウが頷く。
「薔薇って?」
ゴンが質問する。
「『
それに加えて毒を撒き散らし被害を拡大させる、人類史上最悪の兵器です
会長は敗勢になれば、それを体内に仕込んで自爆するつもりだったのでしょう」
「念能力者だけじゃ斃せないかもってことか……まぁ納得だけど」
キルアが表情を曇らせる。
「しかし……18号に任せるのはいいが、敵がどんなものか見てみたいものじゃのう
「……見に行くか?」
「「「「「え?」」」」」
*
「うぅん……まだ頭が痛い」
猫型蟻は後頭部を押さえながら巣に戻ってきていた。
そこに、蝶のような羽をもつ蟻が近づいてくる。
「ピトー、どうしたのです? 頭など押さえて。頭痛でしょうか?」
「プフか……少々まずいことになったよ」
「まずいこと?」
プフ――『シャウアプフ』は首を傾げる。
ピトーと呼ばれた猫型蟻――『ネフェルピトー』はきょろきょろと辺りを見回す。
「ユピーはいないのかな? 彼とも共有しておきたい」
「呼んできましょう」
しばらくして、シャウアプフがユピーと呼ばれた魔獣型の蟻――『モントゥトゥユピー』を連れてくる。
「何かあったのか、ピトー」
「うん。ボク、負けちゃった」
「「は?」」
プフとユピーが口をポカンと開ける。
「冗談……ではないようですね。一体誰に?」
「人間のメスだったね。金髪で、スタイルの良い感じ。あとなんか水着だった」
「水着、っつーと海に入る時のアレか? 何でそんな格好を……」
「知らないよそんなの。なんかデートの途中とか何とか言ってたけど」
「そんなことより、その人間のメスとの戦闘の詳細を教えてください」
プフがピトーに詰め寄る。
「んーとね。何か『キエンザン』って技でまず右腕を切断された。
あ、今はくっついてるのは、能力をそういう能力にしたからだよ。
で……そいつがボクを無視して元々狩るつもりだった人間に近づくもんだからさ。
そいつを挑発して襲いかかったんだけど……一発でノされちゃった」
「ピトー、あなたを一発で……?」
「オレでも絶対無理だって断言できるぜ。本当に人間か、そいつ?」
「分からない。というか、オーラを感じなかったんだよね」
「レアモノでもない、ですって……!? あり得ない、そんなこと!」
プフが思わず取り乱す。
「ともかく、あの女は危険だよ。王の喉笛にも届き得る強さだと思う」
ピトーが2匹に向けて真剣な目で語る。
「それほどか……」
「王が産まれた暁には忠言を申し上げねばなりませんね。命を捨てる覚悟で……」
「そうだね。出来れば二人にも姿を確認してほしいところだけど……。
流石にそう上手くはいかないか……な…………!?」
その時、ピトーの目が見開かれる。
「どうしました、ピトー?」
「……来た」
「何?」
ユピーが訊き返す。
「あの女が来た。しかも、仲間を大勢連れてる。女以外全員レアモノだ」
「何!? まさかいきなり女王を狙ってきたか!?」
「いや、戦意は感じない。敵情視察ってとこかな。随分大胆だけど、ちょうどいい」
ピトーが18号の気配を感じた方角を睨む。
「……行くんですか?」
「プフもユピーも気になるでしょ? ボクを負かした相手が、さ」
「それは……」
「まあ、な」
「それじゃ、行こう。あいつは瞬間移動の能力がある。急いで行くよ」
*
18号は全員を連れて、ネフェルピトーの
「クソジジイ、いつまでも触ってんじゃないよ……ウボォー、お前もだ」
18号が胸に近い腰を触るネテロと、尻に近い背中に触れるウボォーギンの手を振り払う。
「「気付かれたか」」
「ハモるな」
戯れる3人をよそに、ノヴとモラウが遠くに感じる敵の威容を感じて冷や汗を流す。
「あれが護衛隊の念……なんて禍々しい……」
「化け物だな……」
18号から離れてネテロもネフェルピトーの瘴気のような『円』を見る。
「とんでもない広さの円じゃな。生物としては完全にワシより強い」
「念能力込みならば、勝てる可能性はあるでしょう?」
「いいとこ五分ってとこかのう。18号に負けてから、鍛え直してきたが……どこまで届くかわからん」
ゴンとキルアもピトーの円を観察する。
「この触手みたいにウネウネしてんのアイツの『円』かよ」
「これに触れたらアイツに気付かれちゃうんだよね。掻い潜って巣に潜入……とか絶対無理だね」
「ああ。でも王が産まれたら基本王の周囲を守るはず。
さっきみたいにオーラに触れたらアイツが飛んでくるなんてことはないと思うぜ」
そんな話をよそに、18号は何気なくネフェルピトーの『円』の中に入り込む。
「お、おい18号!?」
「これで気付いたな。ちょっと宣戦布告でもしてくるか。
お前らはここで待ってろ――いや、ネテロ。お前だけついて来い」
「宣戦布告とな……ワシを連れていくのは何でじゃ」
「たぶん交渉になるからな。わたしが勝手に決めていいなら1人で行くが」
「それは困るのう。では遠慮なく」
ネテロは両膝をついて、18号の尻に顔を埋めて太腿を両手でさわさわと触れる。
「……命が惜しくないのか」
「セクハラはできる時にしておくのがワシの主義でな。
それに無意味な殺しとかせんじゃろ、おぬし」
「チッ……転移先に置いていってやろうかな」
「間接的に殺されるのは嫌じゃなぁ……。殺されるなら女子と心に決めておるんじゃ」
「変態め……行くぞ」
*
ネフェルピトー、シャウアプフ、モントゥトゥユピーの3匹は18号が現れた地点へと急行する。
その時、目の前に突然2人の人間――若い女と年老いた男が現れる。
「……っ!! コイツだ。コイツにボクは負けたんだ」
「この女が……? 見た目はまったく強そうに見えませんが」
「本当にオーラを感じねぇ。レアモノじゃないってのは確かだ」
18号を観察していると、その後ろからネテロが顔を出す。
「お主らが王直属の護衛隊で合っとるかな?」
「……そうですが、貴方は?」
「うむ。ワシはお主らキメラアントを討伐しに来た討伐隊のリーダーじゃ。
尤も、お主らと直接戦うのはこの娘……18号になるがの」
ネテロはそう言って18号の肩に触れるが、軽く振り払われる。
「用件を聞いてもいいかな」
「ちょいと宣戦布告をね。とりあえず王が産まれるまではお前ら3匹と女王には手を出さない。
ただし王が産まれたら、その瞬間からわたしはお前らを潰しに動き始める」
18号は3人を指差してそう宣言した。
「何で今女王とボク達を殺さないのかな? そのほうが合理的だと思うけど」
「非戦闘員は殺したくない。それに今女王を殺そうとすればキメラアント全体を敵に回すことになる。
それは面倒くさいからね。わたしとしては王とお前らだけを相手にしたい」
「……なるほど、理解はしました」
プフは頷くとネテロへ顔を向ける。
「では、王が産まれるまでは女王と我々には手を出さない……ということでよろしいですか」
「うむ。犠牲を減らすため、他の兵隊蟻は排除することにはなるがの」
「それは問題ない。大事なのは王の身、それだけだ」
ユピーはそう切って捨てるが、プフは(有用な能力者はこちらで保護しておきますか)と内心で思う。
「……王の誕生はいつになりそうかの?」
「さぁね。エサがいいこともあって順調なのは確かだけど。
いずれにせよ産まれたとしても教える義理はないよね」
「そりゃそうじゃ。こちらとしては兵隊蟻から尋問で聞き出すしかあるまいて」
聞くべきことは聞いた、とお互いが感じ、しばらくのあいだ沈黙が流れる。
「……なぁピトー。こいつ本当に強いのか?
負けたってのを疑うわけじゃないが、どうもまだ信じられねぇ」
「そうですね……。姿を見ただけではそうは見えないのも確か」
「そう言われてもな……ここで戦うわけにもいかないし」
3人は18号をじっと見つめる。
「……そんなに弱そうに見えるか?」
「まあ見た目はただの娘っ子じゃしな」
「仕方ない……ジジイ、わたしと戦え。こいつらに分からせる」
*
突如始まったネテロと18号の
ネテロが祈りの所作をつくると、背後に巨大な観音像が現れる。
18号対策で『隠』によって隠されたそれは18号には見えていない。
そして右手で祈りの所作を維持しつつ、左手で掌打の構えを取った。
「流石に二度目となると、何となくわかるな」
不可視の攻撃のはずだが、18号はギリギリで躱してみせた。
「見切った、と?」
「まさか。ただの勘だよ」
「女の勘というやつか。そりゃ侮れんな」
さしもの18号もすべての攻撃を回避は出来ず、時たま攻撃を喰らい後退する。
「瞬間移動やあのバリアーみたいなのは使わんのか?」
「すぐに終わったらつまらないだろ。わたしも、あいつらも」
ついにネテロに肉薄した18号はそのまま肉弾戦を仕掛ける。
ネテロは時折『百式観音』を織り交ぜつつ、オーラの攻防力移動を駆使した格闘戦に応じる。
「……どう見る、プフ。ピトー」
18号とネテロの闘いを観戦していた3匹の蟻のうちの1匹、ユピーが2匹へ問いかける。
「爺さんのほうもかなり強いね。けど、長期戦になれば恐らくボクらでも勝てると思う。
あのメス……18号とか言ったっけ? あれは……一周回ってもうよく分からないや」
「どうやら戦うのは2回目のようですが、あの攻撃を避けられるのは理解できませんね。
あれは本来必中攻撃の類のはずでしょう? 敵は耐えて凌ぐのが前提。それを勘で避けたと言われたらもう……」
プフが嘆息を吐く。
「しかもまだ、あのメスは
「王なら勝てる……と信じたいですが」
「……王の能力次第、と言いたいところだな。普通に戦えば敗北の公算は高いだろう」
プフが希望的観測を述べ、ユピーが現実的な考えを述べると、3匹は沈黙しただ2人の戦いを見守る。
「……ま、こんなもんでいいだろ。あまり手の内を明かすのもな」
「そうじゃな……というか、お主相手だと体力がもたんわい」
肩で息をするネテロを置いて、18号は3匹を振り返る。
「これで分かったか? わたしの強さが。全部見せたわけじゃないがな」
「うん、よく分かったよ。悪いけど、今すぐしなくちゃいけない用事ができた。帰らせてもらうよ」
「好きにしな」
18号の返事を聞いて、3匹は猛スピードでその場を去っていった。
「巣はあっちのほう……だと嬉しいんだがの」
「そこまで馬鹿じゃないだろうし、そこは今考えても仕方ない」
「ワシらも戻るとするか」
言いながら、ネテロは18号の尻に手を近づける。
が、その手を18号は掴んで思い切り捻じり上げる。
「あいたたたた」
「見え見えなんだよ、魂胆が」
*
巣へ戻った3匹はそのまま小部屋で話し合いを始める。
「まず王が産まれてからの方針を決めよう。選択肢は3つある。
①王と共にどこかへ逃げて隠れ住む。
②人間たちと話し合い、和解する。
③徹底抗戦。
この3つだ」
「①と②は王が認めないと思うが」
「私もそう思います。なので、③しかありませんね。
現段階で何か勝ち筋は見えましたか?」
「さっきユピーが言った通り王の能力次第だ。
今やるべきことは僕たちの念能力を鍛えて洗練させておくこと。それと――」
「有用な念能力者の確保、ですね。
王、もしくは私達とで
「だね。そこは手分けして探そう」
そう言って、3匹はそれぞれ動き出す。
王が産まれてしまえば、キメラアントは王派(王と護衛隊)、女王派、王を目指す者に分かれる。
だからこそ、王派に引き込むなら今のタイミングしかない。
そして5日後――遂に王が誕生した。