宜しければぜひ最後までお付き合いくださると幸いです。
王が誕生した。
王は女王の腹を突き破り、そのまま周囲のキメラアントを殺し、喰って、
護衛隊と共に巣をあとにする。
東ゴルトー共和国。
そこで王は敵――18号と討伐隊を待ち受けることにした。
そこまでの道中で、王の能力が判明する。
王は『喰らった相手のオーラと能力を自分のものにする』。
能力名はない。自分の名前すらどうでもいい、そういうスタンスらしい。
「プフ」
「なんでしょう、我が王」
「端的に答えよ。余は貴様らの言う敵に勝てると思うか?」
「そう、ですね……難しいと思われます」
プフが額に汗を浮かべながら答えると、王はピクリと反応する。
「ふむ……余でも勝てぬと申すか」
「絶対に、とは申しません。王の能力を知ったことで、一つ秘策が浮かびました」
「ほう……申してみよ。いかなる無礼でも許す」
「何……簡単なことです。それは――」
*
「……女王派が降伏してきた、だと?」
昼食後、ゴロゴロしていた18号の元にネテロから連絡が入る。
『うむ……死にかけた女王の身柄と共にな。
どうも王は既に産まれたようじゃ。というわけでこっちゃ来い。
詳しい話はこっちでする』
「わかった。ウボォー、行くぞ」
「へいへい」
ウボォーギンが瞬間移動にかこつけて18号の胸に触れようと手を伸ばすが
それを18号の手が迎えに行って抑えつける。
「お、恋人繋ぎ」
「そういうのいいから」
ヒュンと姿が消えて、次の瞬間目の前にはネテロがいた。
周りは森の中で、他に人やキメラアントの気配はない。
「来たな。とりあえず中へ入れ」
「中?」
「ノヴの能力じゃ。この穴が異空間と繋がっておる」
よく見ると地面にかすかな歪みがある。
そこに足を踏み入れると、とぷんと音がしてその中へ落ちていく。
「来ましたね。では会長」
そこには討伐隊の面々が全員揃っていた。
「うむ。さて、今日一気に色んな情報が明らかになった。一つずつ話していくぞい」
一、王が産まれた。護衛隊を超える力がある。能力は不明。
二、女王派が降伏。女王の助命を求めてきたが、医療チームの奮闘空しく死亡。
三、王の名は「メルエム」。女王が最期に明かした。
四、王と護衛隊は東――恐らくは東ゴルトー共和国へ向かった。
五、キメラアントには人間だった頃の記憶がある。
六、キメラアントの一部が離反。各地に散り王を目指している。
「……とまぁこんなところじゃ。18号、何か質問は?」
「女王はわたしを呼べば助けられたんじゃないか?」
「かもしれんが、女王は根本が敵性生物じゃ。
実際のところ助かってしまっては困る。無論、医療チームは最善を尽くしたがの」
18号は一瞬眉を寄せるが、気を取り直す。
「じゃあ、人間の頃の記憶ってのはどれぐらい残ってるんだ?」
「個体差はあるが、はっきり残ってる者も多いようじゃ。
思考がキメラアントに寄ってはいるが、姿は違えど人間と言ってよいレベルに思える」
「じゃあ、そいつらは悪人以外は殺すなよ」
「無論そのつもりじゃ。NGLにおる限りは問題あるまいて。
ただし、外に出て王を目指しておる奴らは軒並み危険じゃな。
そっちはハンターや傭兵などに協力を要請した。まぁ何とかなるじゃろ」
「で、わたしはその東ゴルトーって所に向かえばいいんだな?」
「うむ。ワシらも向かうが、やるのはあくまで露払いじゃ」
「分かってる。早速向かうか? ちなみに瞬間移動は無理だからな」
そういう18号をネテロは手で制す。
「まずワシらが先行して潜入する。2日かけてある程度露払いをしておく。
18号はそのあとでいい」
「じゃあ3日後の朝でいいのか」
「うむ。しばらくはゆっくりしておるといい。ただし……必ず王は仕留めること」
「ああ。死んでもらうよ……450億のためにな」
18号はそう言い残すと、瞬間移動で去っていった。
*
「……詰みだな」
王は囲碁、将棋といった盤上遊戯の対局を人間の王者と行っていた。
既に囲碁と将棋は勝利を収め、残すは軍儀の王者だけだった。
しかし、その王者――コムギという生涯無敗の少女に勝てずにいた。
「総帥様、――のところは代えて――が最善の粘りす。それならワダすもかなり困ってますた」
「ふむ……受けの手は好みではないが……」
感想戦が始まり、その数分後にはまた対局が始まる。
それを数時間に及びずっと繰り返していた。
「……詰みか。これで余の0勝35敗だな」
「結果だけ見ればそうすけど、内容はかなり筋がいいす!!
正直、今まで対局してきた誰よりもお強いす!」
「ふん……今日はここまでだ。下がれ、コムギとやら」
「へ……わ、ワダすはまだやれるっすよ?」
「阿呆が。余はそれほど暇ではない。いいから下がれ」
そう言うとコムギはおずおずと部屋から出て行った。
「……強いな。余が敵わぬ相手がまた出てきたぞ、プフ」
「王。その……よろしいのですか。敵との戦いに備えず、このような……」
「心配か?」
「……はい」
プフが正直な心情を吐露する。
「いらぬ心配だな。あの策で勝てぬのならもはやそれまで。
余がその程度の王であっただけのことよ。違うか?」
「王――」
「プフ、貴様も下がれ」
「御意……」
王はプフが退室したのを確認して、あぐらをかいて瞑想を始める。
想起するのは、コムギとの盤面とまだ見ぬ敵との戦い。
勝てるイメージはまだない。だが――
「勝つのは……余だ」
*
3日後。
「そろそろ行くか……」
玄関を施錠して18号はネテロをイメージして瞬間移動する。
周囲の風景は一変し、ウボォーギンの部屋から東ゴルトーの市街地に降り立った。
念能力者たちとキメラアントの激しい戦闘の余波か、ところどころ崩壊し廃墟のようになっている。
「ふぅ……やっと一息つけるのう」
周囲を見回すと、倒れ伏したキメラアント達と、瓦礫を椅子にして座り一服するネテロの姿があった。
「順調みたいだな」
「18号か。ふむ、もう3日経ったのか……」
「王と護衛隊の奴らは?」
「王は宮殿にいるはずじゃ。護衛隊は向かう途中で出てくるじゃろ」
ネテロは宮殿の方角を指を差して示す。
「あっそ……じゃ、あとは適当にやっておくから。あんたらはここで吉報を待ってな」
「うむ……と言いたいところじゃが、少し心配じゃな。奴らの対応がいささか潔すぎる。
正直、ワシがあやつらならお前さんと敵対した時点で、王だけでも逃がすがのう」
「あいつらも多少の勝算はあるんだろ。それに、虫とは言え『王』だ。逃げたくないんだろ」
「王の矜持か……ともかく、18号。あとはお前に託す。負けるなよ」
「はいはい」
18号はネテロに生返事を返すと、舞空術を使うこともなく、すたすたと歩いていく。
*
市街地に入ると、遠くに宮殿が確認できた。
しばらく進んだところで、背後に見知った気配を感じた。
「お前は……あの時の」
「そういえば名乗ってなかったかな。ボクの名前はネフェルピトー。よろしく」
建物の影から姿を現したネフェルピトーがそう名乗ってお辞儀をしてみせた。
「不意打ちしようとは思わなかったのか?」
「それで殺せるならそうしてるよ。でも、キミには通じないでしょ? それに、もう意味はないんだ」
「は?」
「キミを殺すのは王だ。ボクらの役割は、その可能性を少しでも上げること」
ネフェルピトーが戦闘の構えを取り、オーラを纏う。
「狙いが分からないが……とっとと殺せばそれで終わりだな」
「させないよ――『
ネフェルピトーの『発』が発動し、その背後にバレリーナのような人形の姿が顕現する。
ピトーの身体の節々に念の糸が繋がり、肉体の限界を超えた動きを可能とする。
「限界を超えて、舞え……!!」
身体を軋ませて、表情を歪ませながら、18号の懐に向けて突貫する。
ネテロの音を置き去りにする正拳突きに優るとも劣らない速度――だが、18号はあっさりと身を躱す。
「速いな」
「嫌味にしか聞こえないんだけど」
防御を捨て、スピードと破壊力にオーラを割り振り遮二無二攻撃を続ける。
だが、18号には通用しない。軽くいなされ、オーラの守りのない腹を膝蹴りの反撃で破壊される。
「うげ……」
18号のズボンの膝に、人間の血液のような、虫の体液のようなものが付着する。
「はぁ……はぁ……」
膝蹴りで少し吹っ飛ばされ、体勢を崩したピトーだったが『
腹部は欠損し、体液が流れ続けているがキメラアントにとってはまだ致命傷ではない。
「あんまり触りたくないな……靴も汚れそうだし」
虫の体液特有の気持ち悪い感触と温度に、18号が露骨に嫌な顔をする。
「……消し飛ばすか」
手を前に出して、エネルギーを集め気弾を発射しようとする。
「――ま、待っ」
ネフェルピトーの制止を無視して、当たれば消し飛ぶ威力の気弾を二度三度と撃ち放つ。
必死に躱しながら、ネフェルピトーは18号との対話を試みる。
「ボクを殺すのはいい、だが身体を消すのはやめてくれ! 頼む!」
「何言ってる? 意味不明だぞお前」
18号が怪訝な顔をして訊き返し、再び手のひらにエネルギーを集め始める。
「くっ……仕方ない、すべて話すよ。ボクらが考えた作戦は、ボクら3人を王に召し上がっていただくことだ。
王の念能力は『食べた相手の力を取りこめる』んだ。ボク達を食えば、きっとキミを殺せる」
「セルみたいな奴だな……だとして、私がわざわざお前の要求に従うメリットがないね」
「メリット……メリットがあれば
「あればね」
そう言いながらも気弾を放てる状態を維持する18号。
「……宮殿の地下に宝物庫がある。その財宝をキミにあげてもいい、だか「わかった」
18号は集めたエネルギーの形を変え、気弾から『気円斬』を手のひらの先に作り出す。
「これで切り刻んであげるよ。料理しやすいようにね」
「助かるよ――」
ネフェルピトーが返答を返すや否や、18号は大小様々な『気円斬』を精製し弾幕のように撃ちまくる。
そして、そのうちの幾つかは追尾する性能を持つ。
「せめて、一撃だけでも……!」
護衛軍としてのプライドとして、何の成果もなく死ぬわけにはいかない。
そう思って、『
避けられそうならば、身体を折り曲げてでも。避けられないなら、身体を斬り飛ばされながらも。
「……よくやるよ」
18号はそう呟きながらも、手を緩めることはない。
「――あぁ……」
ネフェルピトーの爪が、あとほんの数ミリで18号の肌に届く――しかし、その手は既にどこにも繋がっておらず。
「悔しいな……爪の先すら届かないなんて――」
そう呟いたネフェルピトーの頸を、追尾する『気円斬』が斬り飛ばす。
「終わったか……」
8分割ほどされたネフェルピトーの死体を見て、もう動かないことを確認する。
すると、突然ネフェルピトーの死体が少しずつ、
「……念能力か? まぁいい、王がどれだけ強化されても問題ない」
消えていくネフェルピトーの死体を横目に、18号は宮殿へ歩みを進めていく。
*
宮殿内に侵入する。ゆっくり歩いてきたので、ネフェルピトー戦から30分ほど経っている。
18号は敵の姿よりも先に、ネフェルピトーが言っていた宮殿の地下を探す――が、見つからない。
何か隠し扉のようなものがあるのかも、と思いつつエントランスに戻ると、階段の上から気配を感じる。
「来たな、人間」
動物と魔獣が複雑に混ざり合ったキメラアントがそこに立っていた。
「……誰だよ」
「モントゥトゥユピー。王の護衛軍の1人だ」
自己紹介するユピーをよそに、18号は気もそぞろで警戒する素振りすらない。
「なぁ、地下ってどこから行けばいいんだ?」
「……あぁ!? てめぇ……何を言ってやがる」
「宝物庫があるんだろ? ピトーとかいう奴がそう言ってたんでね」
エントランスを歩き回り、床を叩いたりして地下室の位置を探る。
「床を破壊するわけにはいかないしな。どうしたものか……」
相手にするまでもないと、そういう態度だった。実際、18号にとってユピーは路傍の蟻とさして変わらない。
見た目や言動からして搦め手の念能力を使うタイプでもないのは明らかだ。
能力がシンプルなものであれば、それがどれほど強力であろうと18号にとっては脅威になり得ない。
「……殺す」
そんな態度を続ける18号に、ユピーは青筋を立てて怒りを顕にする。
腕を巨大化させて、怒りのままに18号へ向けて思い切り叩きつける――
「壊すなって言ってるだろ」
ユピーの渾身の攻撃を片手で受け止め、そのままドンッとただ思い切り押す。
ユピーは階段まで吹き飛び、その衝撃で階段は崩落する。
「仕方ない……先にこいつを片付けるか」
18号は崩落した階段に倒れたままのユピーに近づく。
「宮殿は壊さないようにしないとな。どこに地下への入り口があるかも分からないし」
ユピーは起き上がり、再び戦いの構えをとる。しかし、その精神は削られていた。
ダメージはなかったが、羽虫を振り払うような扱いで簡単に伸されてしまったという事実。
それだけで、彼我の実力差をまざまざと感じてしまった。
「こんな金のことしか考えてない女に、俺達が……」
「ふん。悪いが、私の金のために死んでくれ」
その言葉を皮切りに、二人が凄まじい速度で激突する。
ユピーは身体を自在に変化させながら、18号へ有効打を放つべくオーラを溜める。
怒り――それが自分の力を増幅させることを、先程のやり取りでユピーは掴んでいた。
しかし、その怒りのボルテージが最高潮に達することはなかった。
「心臓か頭か、選んでいいぞ」
「ほざけっ!!」
ユピーが怒りのままに身体を膨張させて、遮二無二攻撃を繰り広げる。
その広範囲かつ高威力の攻撃が、速度を伴って何度となく襲ってくる。
恐らくネテロでもすべてを回避することは不可能だろう。
だが18号はその殆どを群衆をすり抜けるように回避し、途中で面倒になったのかバリアーを張ってユピーへ肉薄する。
「終わりだ」
18号は左手で気円斬を作り、放たずにそのまま腕を振ってユピーの首を斬り落とす。
さらに右腕を振り抜いて心臓を貫いて破壊する。
「……うぇ」
18号が右手を抜くと、ユピーの血液と体液がその手に纏わりついていた。
眉間に皺を寄せて、その液体を振り払うと同時にユピーの身体が力なく崩れ落ちる。
その死体は、ほんの数瞬目を離していると忽然と姿を消す。
「またか……」
恐らく、ネフェルピトーの時と同じく透明になれる念能力者か何かが死体を回収したのだろう。
18号には別に前の世界のサイヤ人のように強い奴と戦いたい、という感情はない。
なので、道理としてはこのまま王の強化を見過ごす意味はない。
「……まぁいいか」
切り札もある。加えて治癒能力もあれば、自分の敗北する姿は想像できない。
戦闘が長引く懸念はあるが、それよりも目の前の金銭を求める欲求が18号を支配していたのだった。
*
宮殿の左塔で、王――メルエムはコムギと軍儀に興じていた。
「詰みだな」
「ですね。さぁ、気を取り直してもう一局やりましょ……う?」
高速で盤面を初期局面に戻すコムギを、メルエムが手で制す。
「どうやらここまでのようだ。下がれ」
「総帥さま……わかりますた」
コムギはペコリと一礼して、部屋からよたよたと退出する。
それを見届けて、メルエムは部屋の外に待機するプフと対話する。
「来たのか」
「はい。ピトーとユピーは既に斃れ、死体は確保してあります」
プフはそう言って入室し、優雅に一礼する。
「そして、次はお前というわけか」
「はい。いえ、そのつもりでしたが……許されるなら私は王に殺して頂きたい」
プフはそう言って、王に平伏した。
「……女は何をしている?」
「地下の宝物庫を探しているようです。しばらくかかると思われます」
「調理と食事の時間は充分取れるな。良かろう」
メルエムはプフに向けて静かに殺意を込めたオーラを発する。
「余自らの手でその命、貰い受けよう」
「……有難き幸せ……!」
メルエムは腕にオーラを集めて、一気にプフの心臓を貫く。
「其の方らの忠誠、余は決して忘れぬ。大儀であった」
「王……御武運を……どうか、生きて――」
プフはメルエムに寄りかかるように息絶える。
「そこにいるな」
メルエムはプフの死体を横たえると、虚空に向かって呼びかける。
「は……はい」
突如として現れたのは、カメレオンのような見た目のキメラアント。
「プフを持っていけ。くれぐれも丁重にな……そして、直ちに調理を始めよと料理長に伝えよ」
「は、はい……」
カメレオンのキメラアント――メレオロンは息を止めると姿も気配も消える。
しかし何を思ったのか息を吐いて再び姿を現す。
「王様――オレは喰わないのか? オレの能力を取り込めば、誰が相手でも楽勝なのに」
「愚問だな。それは余の矜持に反する……それに、お前の能力で勝ってしまっては護衛軍の者どもに申し訳が立たぬわ」
「……それで死んでもいい、と?」
「無論だ。元より、あやつら以外の不純物を取り込むつもりはない。分かったらとっとと去ね」
「――ああ」
メレオロンは再び息を吸い、プフの死体と共に姿を消した。
メルエムはそれを見届けるとその場に座り込み、瞑想しながら料理の到着を待つ。
しかしそれはすぐに妨げられる。部屋の外に人間の気配を感じたからだ。
ギィ、とゆっくり扉が開かれるとそこにコムギの姿があった。
「総帥さま……」
「下がれと言ったはずだが」
「す、すんません。でも、あの……」
「何だ。余は今気が立っている。用件があるなら簡潔に言え」
メルエムはそう言ってコムギを睨む。
コムギは見えないながらもその圧を感じ取ったのかビクッと身体を震わせた後、意を決して口を開く。
「総帥さま……ワダす何だか胸騒ぎがして……。総帥さまが遠くに行ってしまうような……」
「……」
メルエムは黙って続きを促す。
「ワダす、もっと総帥さまと軍儀を指したいです。明日も、明後日も……叶うならワダすが死ぬまで」
「ふん……心配せずとも良い。それより自分の心配をしておけ――明日には余が勝つ。そうなれば貴様の命はない」
「……はいっ。約束ですよ。明日、必ず」
コムギはにぱっと笑みを浮かべると、今度こそ自分の部屋へ帰っていった。
「約束……か」
それから、メルエムはただ黙って待ち続けた。
およそ一時間、料理が来るまで何をするでもなく、ただひたすらに。
「――王」
「……入れ」
そしてついに――メルエムの元に護衛軍を調理した料理が届く。
*
「……そろそろ行くか」
1時間ほどかけて宝物庫の場所を特定した18号は、
気付けばメルエムと思しきオーラは、護衛軍を食したのか凶悪に膨れ上がっていた。
そのオーラを目指して18号は歩みを進める。道中、人の気配を感じて立ち止まる。
「誰だ……?
だが、そのオーラは微弱なものだ。キメラアントはほぼすべて念を習得しているはずだ。
暫くすると、通路の奥から人間の少女がよたよたと姿を現した。
「……人間がなんでここに?」
「へっ? あ、あの……どなた様でしょう……」
「わたしは……王様に会いに来たんだ」
まさか王を殺しに来たと言うわけにもいかず、適当に誤魔化す。
「王様……あっ、総帥さまのことでしたか。ワダすと同じですね」
「で、お前は?」
「はい、ワダすはコムギと言います。軍儀のチャンピオンということで、対局相手として呼ばれまして」
「ふーん……軍儀ってのはよく分からないけど、ボードゲームだろ? そんなのもやるのか。王……総帥さまは」
最初に想像していたよりも理性的な――戦闘力はともかく、知性だけなら自分より上かもしれない。
知性で隔絶した力の差を上回れるわけではないが、18号は少し警戒を高める。
「総帥さまはとてもスジがよくって……今はワダすが勝ってますが、いつか負かされるかも」
「そう……悪いけど、
「あっ、そうですね。ワダすもトイレに行く途中でした。んだらば、またどこかで」
「ああ、またな」
コムギはそう行って、18号とすれ違って去っていった。
18号は振り返ることなく、メルエムの居る塔の一室を目指す。
「ここか」
メルエムの放つオーラの威容が、ビリビリと扉越しに伝わってくる。
キルアが秒で逃げ、ノヴの毛髪と体毛がすべて抜け落ちるほどの圧倒的強者の『圧』だが、18号は気圧されることはない。
ノックをすることもなく、ドアを勢いよく開け放つ。
「――其の方が『18号』か」
中に入ると、メルエムが片膝を立てて座っていた。
18号の姿を認めると、すっくと立ち上がり、正体を問う。
「そうだ。お前が蟻の王……メルエムか」
「……メルエム?」
「王の名前だと聞いたが。知らなかったのか」
「ああ、初耳だ。そうか、それが余の名前か……教えてくれたことには感謝しよう」
メルエムが感謝の言葉を述べた次の瞬間、その姿が消失する。
そして、殺意を籠めた拳が18号の顔面に突き刺さる――前に、その腕は18号の手で掴まれ止められる。
「随分な感謝の態度だな」
「……なるほど、余の配下を難なく屠れたのも納得だ。貴様は強い」
「そりゃどうも――で、ここで戦るのか?」
「場所を変えるか。余と貴様が本気で戦えば、ここは瞬く間に瓦礫の山となろう」
「そうだな……適当な荒野にでも行くとしよう」
そう言うと、二人は連れ立って外へ出る。
メルエムはユピーの能力である変化能力で背中から翼を生やして荒野へ飛び立つ。
その後を18号が舞空術で追っていく。
『人智を超えた戦いだ』と後にネテロが評した戦いが始まろうとしていた――。