流星街に舞い降りた人造人間   作:女主人公スキー

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29.最強の蟻の王と最強の人造人間

「――貴様は何故戦う?」

 

 

 荒野に降り立ったメルエムは開口一番、18号に問う。

 

 

「何故って……金のためだよ。別に戦いが好きなわけじゃない」

 

「金……か。下らん理由だが納得はできるか」

 

「お前を殺して、報奨金と宝物庫の宝も頂く。とっとと来なよ」

 

「言われずとも戦ってやる。貴様を倒さねば、キメラアントに未来はない」

 

 

 メルエムは戦いの構えをとる。18号もまた構える。

 

 

「すぐに詰ませてやろう」

 

「もう勝負ついてるよ。お前が気付いていないだけでな」

 

「ぬかせ……!!」

 

 

 メルエムが一瞬で18号へ肉薄する。

ピトーの脚力と元々の身体能力が合わさり、そのスピードはキルアですら追いつけないほどだ。

それでも18号は難なく対応する。

 

 初撃はシンプルな『凝』によるオーラを集めたパンチ。

18号はそれを腕で逸らしつつ、メルエムの脇腹へ蹴りを入れる。

 

 メルエムはそれを流麗な攻防力移動で防御する……が、オーラの壁を貫通して衝撃が生身に走る。

ダメージこそ和らいだものの、大きく態勢を崩してしまう。

 

 

「これほどかっ……」

 

「お前は今まで出会った誰よりも強いよ。それでも、私よりは弱い」

 

 

 身を翻して、メルエムは再び戦闘態勢に戻る。しかし、前方に18号の姿はなく――

 

 

「潰れろ」

 

 

 メルエムの上空に移動した18号が、両手を繋いで上段から思い切り振り下ろす。

攻防力による防御は間に合わず、ほとんどまともに喰らってしまい地面に深くめり込むメルエム。

 

 しかし潰れるには至らない。生物としての頑丈さはもはや埒外のものになりつつある。

飛び上がり、再び18号と相対する。

 

 

「頑丈だな……めんどくさい」

 

「……まだだ。こんな体たらくでは直属護衛軍(あの者たち)に顔向けが出来ん」

 

 

 直属護衛軍を取り込んでも尚届かない戦闘力の差を感じるも、それに屈することはない。

メルエムは再び、18号に突貫していく。

 

 今度は自身に取り込んだ直属護衛軍の能力をフルに活用していく。

まずはシャウアプフの能力『麟粉乃愛泉(スピリチュアルメッセージ)』を発動する。

 

 他人の感情を読み取り思考を推測する能力と、催眠効果のある鱗粉による暗示能力の二つだが、メルエムが取り込んだことで強化されている。

鱗粉ではなく、オーラで触れた相手の思考と感情をある程度自由に誘導できる。一瞬触れただけでも10秒効果が続く。

ただし、触れる直前の思考や感情と矛盾する行動を起こさせることはできない(戦闘中、いきなり自殺させるなど)。*1

 

 

「……感謝するぞ、プフ」

 

 

 メルエムは『隠』で見えなくしたオーラを『円』の要領で18号に伸ばしていく。

18号はオーラは見えるが『隠』を使われると見えない。なのであっさりとそのオーラに触れてしまう。

 

 

「……?」

 

 

 18号はメルエムの攻撃を回避せず、受け止める――と、メルエムによって思考が誘導される。

そこからはほぼ一方的な展開になる。

 

 18号は思考誘導により、防戦一方になりメルエムの有効打が増えていく。

時折、不自然に思われないよう18号にも反撃を許すこともあるが、分かっていれば回避は可能だ。

 

 

「おかしい、何だこれは」

 

 

 とは言え流石に18号も『何かされている』ことに気付く。急いで距離を取るが意味はない。

メルエムが本気で『円』を使えば戦闘中でも1㎞は伸ばすことができる。

 

 

「――死ね」

 

 

 『怒り』のエネルギーを爆発させると、オーラ量は一時的に跳ねあがっていく。

それはモントゥトゥユピーの能力であるが、メルエムはさらに洗練させている。

腕の形態を変化させ砲身を形成すると、増やしたオーラを集中し――放った。

 

 18号の放つ気弾のようなビーム砲が18号に直撃する。

エネルギーフィールドを張れば無傷で済んだだろうが、思考誘導によりその選択肢は除外されている。

 

 

「……」

 

 

 後方の岩山まで吹っ飛ばされた18号は、瓦礫の中から立ち上がる。

深い溜め息を吐きながら、服についた砂や埃を払い落とす。

 

 

「念能力ってのは本当に面倒だね……」

 

 

 18号へ追撃を加えるべくメルエムが迫る。しかし18号はすぐさま舞空術で後退する。

決してメルエムの間合いには近づかない――メルエムとて近づくことはできない。

 

 状況を打開しようとメルエムはオーラを細く伸ばし、18号へ飛ばす。

それを察知した18号が逃げながらエネルギーフィールドを展開すると、オーラはバリアに阻まれ飛散する。

 

 

「さっさと終わらせるよ。害虫退治に時間をかけるのも馬鹿らしい」

 

 

 言いながら、両手を翳し大小の気弾をメルエムに向けて放つ。

 

 

「こんなもの、効かぬ」

 

 

 メルエムは躱しながら『堅』でガードし、尚も18号へ迫る。

 

 

「『気円斬』」

 

 

 左手で気弾を放ちながら、右手で気円斬を生成し、次々に投げつける。

 

 

「詰まらぬ技だ」

 

 

 そう強がるが万一当たれば、メルエムの頑強な肉体であろうと真っ二つになる技だ。

軌道をしっかり見切って丁寧に回避し、少しでも距離を詰めていく。

 

 ふと18号を観察すれば、気弾や気円斬を放っているせいかエネルギーフィールドは解除されている。

舞空術の速度もやや落ちているようで、ここを勝機と見て第三の能力を発動させる。

 

 

「『黒子舞想(テレプシコーラ)』――」

 

 

 肉体を操作し限界を超えた動きを可能とする、ネフェルピトーの念能力。

さらにモントゥトゥユピーの『怒り』の爆発力を掛け合わせることで、一気に距離を詰めることに成功する。

 

 

「っ――『太陽拳』!!」

 

 

 18号は攻撃を中断して咄嗟に『太陽拳』を使い、激しい光でメルエムの視界を奪う。

 

 

「無駄だ。捉えたぞ――」

 

 

 エネルギーフィールドを展開する暇もなく、メルエムは既に18号に肉薄していた。

今度は零距離でさきほどのビーム砲を放つつもりだ。

 

 対する18号は思考誘導されながらも渾身の蹴りを放つ。

それをメルエムは片腕に施した『硬』で的確に防御する。

 

 

バキャゴッ

 

 

 ――外殻と骨が砕ける音がした。

 

 

「――馬鹿な」

 

 

 ビーム砲を放つことは叶わず、メルエムは思い切り吹っ飛ばされていく。

混乱の中、18号を見遣ると赤いオーラに包まれている18号が遠くに見えた。

 

 

「何だ、其れは」

 

「『界王拳』って技らしい。戦闘力を倍加するんだってさ」

 

 

 瞬間移動で背後に現れた18号が興味なさげに説明する。

 

 

「これだけ差があれば思考誘導しても無意味だろ?」

 

 

 言いながら、18号は容赦なく追撃を加えていく。

メルエムはもちろん思考誘導を使い、それぞれの攻撃を躱すことを試みる。

が、当然ながら攻撃の速度も上がっているため全てを回避するのは困難だ。

だからと言って『硬』で防御しても、それを容易く貫いて強烈なダメージが肉体を破壊していってしまう。

 

 

(――『詰み』だな)

 

 

 最早逃れようのない死のイメージがメルエムの脳内に駆け巡った。

 

 

「『魔閃光』」

 

 

 錐もみ状態で吹き飛ぶメルエムへ向け18号が気功破を放って、勝負は決した。

巨大なクレーターの底で、ボロボロのメルエムが倒れている――しかし、まだ息絶えてはいない。

 

 18号はメルエムにトドメを刺すべく近づいていく。

 

 

「じゃあな、蟻の王」

 

 

 18号が拳を振りかぶり、振り下ろすまでの数瞬。

メルエムは半年にも満たない人生の走馬灯を見ていた。

ここまで完膚なきまでに敗北した以上、死ぬことはもう受け入れていた。

王としての矜持で、みっともなく生きようとは微塵も考えていない。

 

 だが、それでも――心残りはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまぬ……コムギ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その微かな声は確かに18号に届いた。

命を刈り取るはずだった拳はその寸前でピタリと止まる。

 

 

「コムギって、あの盲目の軍儀女のことか」

 

「……そうだ」

 

「今際の際でこぼすほどの関係なのか、お前ら」

 

 

 18号はついに拳を戻し、戦闘態勢を解除し弛緩する。

 

 

「何を想像してるか知らんが……ただの遊び相手に過ぎぬ。

直前に交わした約束と、まだ勝てていないことが心残りではあるが……もう構わぬ、殺すがいい」

 

「うーん……なんか興が削がれたな」

 

「余を殺して……金を得るのではなかったのか」

 

「もちろんお前には死んでもらうよ。だけど、人類に不利益が生じないなら今じゃなくてもいい」

 

 

 18号は懐から携帯電話を取り出し、ネテロを呼び出すことにした。

 

 

 

 

「これは一体、どういうことじゃ? 18号よ」

 

「見ての通り、勝負はついた。あとはコイツの処遇をどうするかだが……」

 

「殺さんのか?」

 

「流石に放置はできないし、死んでもらわないとお前ら(ハンター協会)も困るだろ。

だが……今、この場で殺すのは後味が悪くなりそうだ」

 

 

 そう言って、18号はコムギとメルエムの関係をネテロに説明する。

 

 

「ふむ、あの軍儀のチャンピオンというおなごと、こやつがな……まぁ、気持ちは理解した。

しかし、それではどうするつもりじゃ? ワシに何を求めておる?」

 

「コムギに念能力を覚えさせて、コイツをコムギの傍から離れられなくする――ってのは可能か」

 

「……まぁ可能じゃが。だが、コムギが念を習得し『発』を作り上げるまで数か月はかかるぞ?」

 

「数か月か……わたしの傍に置いておくのが一番なんだろうが、面倒くさいしな……」

 

 

 18号は他の方法を考えるが、メルエムを閉じ込めたり抑え込めるものが他にあるとも思えず黙り込む。

それを眺めながら、ネテロも同じく考え……しばらくして口を開いた。

 

 

「ならば、一つ提案があるんじゃが」

 

「……何だ?」

 

「お主やメルエムほどの強さがあれば、暇つぶしには打ってつけの場所がある。

メルエム、お前さんも()()()()()()()()()()には興味があるじゃろう?」

 

 

 地面に倒れたまま二人の会話を聞いていたメルエムがピクリと反応する。

 

 

「で、何処だよ」

 

「無論――『暗黒大陸』じゃ」

 

 

 

 

 その後。

数日かけて諸々の手続き、渡航許可などを得て一行は暗黒大陸へ渡る。

その中にはゴンやキルア、ウボォーギンの姿もあった。

 

 コムギの『念』習得はモラウとノヴが見ることになった。

やはり、習得までには相当時間がかかる見込みだが戦うわけでもなし。半年以内には間に合いそうだ。

 

 そして、数か月後――いくつかの『リターン』を人類にもたらして一行は帰ってきたのだった。

 

 

 

 

 暗黒大陸から帰還した18号はメルエムを連れて東ゴルトー郊外の小さな家を訪れる。

ハンター協会が用意した一軒家で、コムギとメルエムがひっそり暮らせるように配慮されている。

生活に必要なものは宅配で届き、コムギの貯蓄が尽きればハンター協会が費用を負担することになっている。

 

 インターホンを鳴らすと、バタバタと音がしてコムギが扉を開けて現れた。

 

 

「そっ……総帥さま!! お待ちしてますた!! どうぞ中へ……!」

 

「久しいなコムギ……息災だったか?」

 

「は、はい。でも、その……あれから念の修行で軍儀ができなくて……気が狂いそうですた」

 

「そうか。苦労をかけたな」

 

「い、いえいえ! そんなことは、全然!! あ、それとあの……18号さん? もお久しぶりです」

 

「わたしのことは気にしなくていいよ。ただの見届け人だ」

 

 

 中に入ると、リビングの真ん中には軍儀の盤と駒が用意されていた。

 

 

「それでは……早速わだすの能力を説明します。総帥さまは、盤の前に座ってください」

 

「ああ。それと、余の名前はメルエムだ。もう総帥ではない、今後はそう呼べ」

 

「はっ、はい。わ、わだすの名前はコムギです!」

 

「知っているわ、阿保が」

 

 

 コムギとメルエムは軍儀の盤を挟んで座り込んだ。

 

 

「わだすの能力は……まずメルエム様と軍儀で対局する必要があります。

それでわだすが勝てば、晴れてメルエム様へ能力が発動するんす」

 

「ふむ……余が勝てばどうなる?」

 

「わだすは死にます。その場合は、お手数ですが18号さんに『後処理』を任せろ、と師匠から言われてます」

 

「誓約か……余を縛り付けるならば命は賭けざるを得んか」

 

「はい。そして、能力が発動すると――」

 

 

 コムギの説明が続く。要約すると……

 

①メルエムはコムギの周囲100mから離れることができない。

②コムギを含め、人間に危害を加えることはできない(繁殖行為も含む)。ただしコムギに命の危険がある場合は別。

③コムギはメルエムと1日1局は必ず軍儀で対局しなければならない。

④メルエムが通算戦績で勝ち越せば能力は解除される。解除されればコムギは死亡する。

⑤能力が発動中にコムギが死亡した時、メルエムも死亡する。逆も同様。

 

 

「この通算戦績は今からのものか? それとも、これまでの戦績も含めるのか」

 

「今からすね。なので、能力が発動したあとメルエム様が2連勝したら能力は解除されます」

 

「ほう……そうはさせない自信がある、と」

 

「はい。まだまだ負けませんよ」

 

 

 コムギはドヤッと胸を張って、ふんすと鼻息を鳴らす。

 

 

「大丈夫なのか、それ……」

 

 

 コムギの強さを知らない18号が不安げにこぼす。

 

 

「メルエム様はお強いですが、わだすもメルエム様との勝負で強くなってる気がするんす。

だから負けることはあっても、負け越すことはありませんとも」

 

「言うではないか、コムギ……早速打つぞ」

 

「はいっ」

 

 

 そう言って、二人は盤面の駒を並べていく。

 

 

「よろしくお願いすます」

 

「余の先手だな。行くぞ」

 

 

 対局がはじまる――

 

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 

「逆新手返し、だと……よもや、このような……」

 

「やっぱりすごいです、メルエム様は……対局を重ねるたびに互いが高まっていく感覚がするす」

 

「……そうだな。だが、いずれ追い越してみせよう」

 

「はい。それと、この能力はメルエム様にしか使えない誓約があるす。破ったらわだす死にます。

今後はメルエム様としか軍儀はできません――責任、取ってくださいねや」

 

「ふっ……それは良いな。いずれ余は必ず勝ち越す。貴様は1人で死ね」

 

「望むところですっ」

 

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 

「詰みだな」

 

「ありがとうございますた。これで、能力が発動するす」

 

 

 目を凝らすと糸のような細いオーラが二人を繋いでいるのが見える。

 

 

「これで、お前が勝ち越しているうちはメルエムは何もできないわけだな」

 

「そうす」

 

「そこまでせずとも、貴様に負けた時点で人類に仇なすつもりはないがな……」

 

「鎖をつけておかないと不安なんだろ。わたしみたいに金でどうにかなるタイプじゃないし」

 

「ふん、そんなものか……コムギ、もう一局だ。次は勝つ」

 

「はい、やりましょう」

 

 

 二人は再び盤面に駒を並べていく。それを横目に18号は瞬間移動の準備をする。

 

 

「それじゃ、わたしは帰るぞ。一応、ネテロの爺さんに報告しないといけないし」

 

「そうか」

 

「18号さん、ありがとうございますた」

 

「ああ、またな」

 

 

 そう言って18号は瞬間移動を使いその場から消え去った。

 

 

「……コムギ」

 

「はい、なんでしょう」

 

「余の……キメラアントの寿命はそれほど長くない。護衛軍を喰らったことで多少延びたが、それでも4、50年が精々だ。

仮に余が勝ち越せなかった場合、貴様は天寿を全うすることはないだろう。それでも――」

 

「50年もメルエム様と対局できるなんて夢みたいす。わだす、今とても幸せですよ?」

 

「ふ……殊勝なことを言ってくれる。ならば、余がもし無気力な軍儀をしようものなら、その場で自殺しろ。そうなった我らにもはや生きる価値はない」

 

「そうはならないと思いますが、わかりますた。メルエム様、不束者ですが、これからよろしくお願いすます!」

 

「ああ――よろしく頼む、コムギ」

 

 

 二人は堅い握手を交わし、互いに礼をする。

そして二局目が始まる。公式に棋譜が残ることのない、遥か高みを目指した勝負は今後、何千何万局と続いていく。

果たしてメルエムはコムギに勝ち越せたのか、その結果はハンター協会すら知ることはなかった。

 

 ただ事実として、50年後にキメラアントと老婆の遺体が協会の手で手厚く葬られたことだけが、非公式文書にて記されている。

*1
また、効果時間内にもう一度触れても効果時間は加算されない。触れ続けた場合は継続するが直前の思考から大きく逸脱させることは不可能。




護衛軍全吸収メルエムの戦闘力=フルパワーのフリーザぐらいを想定してます。
念能力なければ18号は普通に勝てます。
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