7.ハンター試験へ
「船で行くのか? 私が連れていってやってもいいが」
「試験会場の場所はザバンってとこだが……。どうも受験者それぞれに交通機関が指定されてるな。
指定された船で会場へ向かえ、と俺らの受験案内には書いてある」
「言う通りにするしかないわけか……面倒だな」
「とりあえず18号、お前は大人しくしといてくれ。頭脳労働は俺担当だ」
「……お前、わたしをバカにしてるだろ」
試験会場を探し当てる試験がはじまる。
二人が乗った船は、いくつかの島を経由して目的地の港へ向かう。
ちなみに乗船する客はすべて受験者だ。
その中には子供や、見慣れない民族衣装の者もいた。
18号とレオリオは大部屋の船室の隅で暇をつぶしていた。
最初の数時間は穏やかなものだったが、夜が近づくと騒がしくなってくる。
嵐とぶつかったのだ。
船が大きく揺れる。船室内は阿鼻叫喚の大騒ぎとなる。
そんな状況でも18号は家から持ってきた携帯ゲームをしていた。
レオリオも平然とした様子で本を読んでいる。
民族衣装の青年はハンモックで熟睡していた。
黒髪の子供は、受験者たちを介抱している。
「ふふん、今年はちったぁ骨のある奴もいるみたいだな」
船室の様子を見に来た船長が呟いた。
*
その後、さらに大きな嵐が来るとの通告で、殆どの受験者は救命ボートで近くの島へ逃げてしまった。
残ったのは18号とレオリオ、民族衣装の青年、黒髪の子供だけだ。
「残ったのは4人だけか。名前を聞いておこうか」
船長が4人を順に観察しながら言った。
「オレはレオリオだ」
レオリオが先陣を切って名乗る。
「私の名はクラピカ」
続いて、民族衣装の青年が名乗る。
「オレはゴン!」
元気よく黒髪の子供が名乗る。
「……18号」
ぶすっとした顔で18号が最後に名乗った。
「18……? まぁいい、じゃあハンターの志望理由も聞いておこうか」
「なんであんたに答えなきゃならないんだ?」
「同じく、回答する必要性を感じないな」
「えー、いいじゃん理由を話すぐらい。オレは親父がハンターで、どんなものかやってみたくなったんだ」
「……」
船長は大きくため息をついた。
「あのな……もうハンター試験は始まってるぜ。
何のために交通機関が指定されたと思ってる。篩にかけるためだ。
この船での試験官は俺様だ。失格になりたくなきゃ質問に答えな」
「……私はクルタ族の生き残りだ。4年前私の同胞を皆殺しにした『幻影旅団』をハントする。
それがハンターを志望する理由だ」
「幻影旅団……」
耳慣れた言葉に18号が反応する。
「知っているのか」
「いや……名前しか知らない」
「ニュースで聞いたのか? 俺も名前ぐらいしか知らないな」
「オレは聞いたことないよ」
「幻影旅団はA級首だぜ。熟練のハンターでも手を出せない超実力者集団て話だ。
ま、志望理由としては申し分ない。で、レオリオ。お前は?」
「俺の志望理由は金だ。医者志望でね。そっちで大成するにはどうしたって金がいる」
「正直な奴だな。まぁそれも立派な志望理由ではある。
で、次――ゴンはさっき聞いたからいいとして、18号、とか言ったか?
お前さんはどうしてハンターを目指す?」
「わたしも金だよ。それと身分証明が欲しい。生まれが流星街なんだよ」
18号はあらかじめ決めておいた設定を語る。
「ほう……。思ったよりまともな理由だな」
「ねぇ、流星街って?」
「公式には無人とされている空白地帯、それが流星街だ。
そこにはあらゆるものが捨てられる。ゴミ、瓦礫、そして人も」
「そんな場所があるんだ……」
ゴンは自分が何も知らないことに気付かされた。
無我夢中でくじら島から飛び出してきたが、世界は広い。
もっと色んなことを知りたい。そう思った。
「ねぇ、3人のこともっと教えてよ。クラピカ、クルタ族ってどんな人達なの?」
「む……そうだな。説明するより見せるほうが早いな。ゴン、この紙にアシダカグモを描いてくれるか?」
「クモ? いいけど」
ゴンはさらさらと紙にアシダカグモを描いていく。
その紙を受け取ったクラピカはその絵をじっと見つめる。
するとクラピカの眼が緋色に輝いていく。
「クルタ族は『緋の眼』と呼ばれる特異体質があるのだ。強い感情の昂りによって発現する。
恐らく幻影旅団はこの眼を狙って同胞を虐殺したのだろう……」
「そうなんだ……クモで緋の眼になったのは何で?」
「クモは幻影旅団のトレードマークなのだよ」
「クモが? 変なの。じゃあレオリオは何で医者志望なの?」
「今度は俺か。実は昔、友達が流行病で死んじまってな――」
レオリオは身の上話をゴンとクラピカに聞かせる。
そしてゴンは最後に18号に水を向けた。
「18号さん! 流星街についてもっと詳しく教えてよ」
「悪いけど、クラピカって奴以上のことは知らない」
「そっか……じゃあ、レオリオとはどういう関係?
恋人じゃないのは匂いで分かるんだけど」
「匂いって、犬かおめーは!?」
「はぁ……わたしはレオリオの家に居候してるんだよ」
ため息をつきながら、18号は簡潔に説明する。
「匂いが似てたのはそういうことなんだね」
「もういいだろ私のことは……船長、嵐はまだ抜けないのか?」
「……あと1時間てとこか? そろそろ激しくなりそうだな」
船長の予想通り、嵐は一段と激しくなり転覆の危険性が高まる。
ゴン、レオリオ、クラピカの3人は船員の仕事を手伝うべく、甲板へあがる。
18号もついていったが、雨に濡れるのを嫌って屋根の下で大人しくしていた。
その時、船員の一人が海へ投げ出されそうになる一幕もあったが
ゴンが身を投げ出して船員を掴み、二人がゴンの足を咄嗟に掴んで引っ張り上げて事なきを得た。
「危なっかしい奴だな、お前はよ!!」
「私達が助けられなかったらどうするつもりだったんだ……」
「二人なら絶対反応するって信じてたからね。それに18号さんが最悪何とかしてくれるかなって」
ゴンが18号に視線を向ける。
「彼女が? どういうことだ、ゴン」
「18号さん、たぶん滅茶苦茶強いんじゃないかな? 根拠はないけど」
「野性の勘ってやつか? まぁ、当たってるぜ。俺も本気の18号はまだ見たことないが」
こうして、船は港まで辿り着いた。
*
「ドキドキ二択クイ~~~~~~ズ!!」
船長のアドバイス通りにザバン市へ向かう道中、不気味な町で老婆に道を塞がれた。
そして二択のクイズに答えられなければ失格だと言う。
「お前の母親と恋人が悪党に捕まり、一人しか助けられない。
①母親、②恋人……どちらを助ける?」
「そんなの答えなんかあるわけ……いや、そういうことか?」
「ああ。レオリオ、恐らくお前の考えてる通りだ」
「……うーん」
レオリオとクラピカは何かに気付き、ゴンは必死に考えている。
そして18号は――
「両方だ」
「は?」
「わたしなら両方助けられる」
「あのなお嬢さん、これはどちらかを選ぶ問題で……」
老婆は呆れながら問題の意図を説明する。
「実際助けられるのにそんな選択をする意味ないだろ」
しかし、18号も譲らない。
「じゃあ、母親を助けてる間に恋人の頸動脈を斬られたらどうするのじゃ!?」
老婆はムキになって反論する。
「わたしには治癒能力があるからな。問題なく助けられる」
「ぐぎぎぎぎ……!!」
老婆は地団太を踏む。
「婆さん許してやってくれ、彼女はゴリラなんだ」
「誰がゴリラだって?」
18号が拳を振り上げ、ギリギリと握りこむ。
「じょ、冗談だって冗談!!」
*
その後、魔獣の凶狸狐(キリコ)のナビゲーターの罠を看破し、遂に試験会場に到着した。
係員からナンバープレートを渡される。
レオリオ【403】
クラピカ【404】
ゴン【405】
18号【406】
「君達で406人目だよ。見ない顔だけどハンター試験は初めてかな?」
「そうだけど、あんたは?」
レオリオが訝し気に尋ねる。
「俺はトンパ。10歳から受験し続けて今年で35回目のベテラン受験者さ」
「35回!?」
ゴンは驚愕する。
「分からないことがあったら聞いてくれ。試験の内容は毎年違うから答えられんが。
受験者についてはリピーターも多いからな」
その時、広場から悲鳴が聞こえた。
「アーラ不思議♥腕が消えちゃった♠」
そちらに視線を向けると、奇術師のような男が受験者の腕を切断していた。
しかし、切ったはずの腕の先が見当たらない。
「44番、奇術師ヒソカ。去年、試験官を半殺しにして失格になった危険人物だ」
「そんな奴もいるのかよ!?」
「門戸が広いとは聞いていたが……気を引き締めねばな」
3人がヒソカについて話していると、ヒソカがこちらに気付き、近づいてきた。
レオリオとクラピカは戦闘の構えをとる。
「構えなくていいよ♠まだ何もしないから♦あれは無礼な奴だからイラッと来ただけさ♥」
「ねぇヒソカさん、さっきのよく見てなかったんだけど、何したの? 腕はどこ?」
「あれかい? 奇術だよ奇術♥それより君、いいね♦さっきのを見て物怖じしないなんて♠」
「確かに怖かったけど、別に快楽殺人鬼ってわけでもないでしょ?」
「ふふ、もちろん♦雑魚を殺すのは趣味じゃない♣(ストレス解消にはなるけど♠)
殺るならそれなりの強者じゃないとね♥」
ゴンとの歓談を楽しんだあと、ヒソカは18号に近づいていく。
「やぁ♠君、さっきから微動だにしていないけど、緊張してるのかな♣」
「うるさい、失せな」
「退屈してるんだろ♥力を十全に発揮する相手がいなくてさ♣良ければ相手になるよ♦」
鼻が触れそうなほど顔を近づけるヒソカに、苛立ちを募らせた18号は
舌打ちのあと、凄まじい勢いで右足を蹴り上げた。
しかし、ヒソカはこともなげにそれを躱してみせた。
「凄い蹴りだね♦当たっていれば僕は天井のオブジェになっていただろう♥」
「……次は当てる」
「期待してるよ♠あと、『11番』によろしくね♦」
「!」
11番とは、旅団員のNo.11――ウボォーギンのことだ。
そう言えば、最近団員の入れ替わりがあったと聞いたが……。
(こりゃとても下剤入りジュースを振る舞う雰囲気じゃねーな)
トンパはそっと下剤入りジュースをバッグに仕舞った。
*
ジリリリリ、とけたたましいアラームが鳴る。
すると壁の穴から試験官らしき人物が姿を見せる。
「現時刻をもって受付時間を終了いたします。それではこれより――」
試験官は地面へ降り立ち、長い通路の真ん中に陣取る。
「――ハンター試験を開始いたします」
感想、評価ありがとうございます。