「――威勢がいいけど、もう勝負は決まってる♦」
「何?」
ヒソカには準備する時間があった。
ほんの1、2分に過ぎないがヒソカにとっては罠を張るには十分な時間だ。
戦闘態勢を取ろうとした18号だが、手と足が十全に動かないことに気付いた。
――拘束されている。
「僕の『
「……」
「『隠』で隠したら見えないなんて、僕にとってはカモみたいなものだ♠」
「……おい」
「僕の『
「やるなら早くしろ、口だけ野郎」
ヒソカは無防備な18号の顔、腹に『凝』で攻撃力を高めた拳を叩き込む。
鈍い音が響く中、バツン、という何かが引き千切れるような音が聞こえた。
「!?まさか☠」
18号は黙って自由になった右拳をヒソカの横っ面に叩き込む。
ヒソカは今度こそ何もできずに吹っ飛んでいく。
「なぁ、ヒソカ」
18号はゆっくりと吹っ飛ばされたヒソカへと近づいていく。
「早く教えてくれよ」
倒れ伏したヒソカを見下ろす。
「念能力者の恐ろしさってやつをさ」
ヒソカはプッ、と血と折れた歯を吐き出すと、両腕を18号に向ける。
「だったら――これはどうかな♠」
「!?」
次の瞬間、18号の視界は闇に包まれた。
「『
そして、内側は
確かに、何も見えない。なんなら、耳まで覆われているため音も聞こえづらい。
鼻と口も塞がれ、呼吸も少しやりにくい。
「今度こそ、僕の勝ちだ♣」
「……」
18号は片膝をつき、地面に手をつく。
残された触感だけではヒソカの位置を把握することは不可能だ。
「最後は『硬』で決める♦死ぬなよ、18号♥」
右足にオーラを集め、『硬』の蹴りで18号の顎を蹴り上げる――
その寸前、ヒソカは地面に書かれた文字に気付いた。
『 む い み 』
そこには、18号が最近レオリオに教わったこの世界の文字で、そう書かれていた。
「あ☠」
ヒソカ渾身の蹴りは空振りに終わる。
18号の姿がそこから掻き消えたからだ。
――瞬間移動だ。
孫悟空の技である瞬間移動は“場所指定”ではなく“人物指定”で移動する。
つまり、ヒソカを指定して瞬間移動すれば、目の前にヒソカはいるのだ。
18号は迷いなく蹴りを入れる。ヒソカが吹っ飛ぶ。
すぐに瞬間移動。今度は身体のどこかへパンチを叩き込む。
瞬間移動、蹴る。瞬間移動、肘打ち。瞬間移動――
何度か繰り返したところで、ヒソカは意識を失った。
気絶したことで、18号の顔を覆っていた『
「……ふぅ」
18号は闘いが終わったことに安堵し、息を吐く。
(強いな……攻撃は余裕で耐えられる程度だったが、厄介さは伝わった。
というか、瞬間移動がなかったら勝てなかったかもしれん、死にはしないだろうが)
今の18号は神から技のギフトを貰っているため、本来の18号ではない。
本来の18号のままでこの世界に来ていたら、ヒソカには勝てなかったかもしれない。
それも、後手に回ればの話だが。
やはり、念能力者は危険だ。その考えを改めて強く持つ。
(そういう意味では、感謝するべきかもな――)
*
18号は気絶したヒソカと共に、瞬間移動でレオリオ達の元に戻ってきた。
「18号さん!」
ゴンは18号に気付いて声をあげる。
「うわ、ヒソカがボッコボコにやられてる……」
キルアはヒソカの負傷状態と、それをやった18号に引いていた。
「勝ったのか……あのヒソカに」
クラピカは驚愕に目を見開く。
「ああ」
18号はさらっと答える。
「さて、治療を始めようか。まずはレオリオから――」
*
その後、18号はヒソカと戦った3人と、受験者たちを治療した。
「クラピカ、そいつらの番号を控えておけよ。あとで治療費を請求する」
「あ、ああ……(何で私が?)」
「がめつ」
キルアがぼそっと呟く。
「当然の権利だろ。しかし、流石に疲れたな……」
治癒能力は使用すると若干の疲労感がある。
それを20人分使ったことで、だるさを感じる18号。
「ねぇ、18号さん。ヒソカはどうするの?」
「当然治療するさ。すべての負傷者はわたしの金蔓だ」
「すごいこと言ってるぞこの女」
「こいつはずっとこうだぜ……俺も修行中何度巻き上げられたか……」
レオリオは修行中のことを思い出して遠い目をしている。
「しかし、治療しちゃっていいのか? このまま放置して死なしたほうが世の為なんじゃねーの?」
「何も言い返せないが……今回は助けることにする。次はない」
そう言って、18号はヒソカを治療していく。
1分ほどでヒソカの傷は綺麗さっぱりなくなった。
が、意識はまだ戻らないようだ。
「さて……先頭集団とは完全にはぐれてしまったわけだが」
クラピカが思い出したように言った。
「今から追いつけるかな?」
「厳しいと思うぜ。まだ霧もあるし……」
「くそ、今回は不合格か……」
レオリオは地面に拳を打ちつける。
「いや、あの試験官のオーラは覚えている。瞬間移動で飛んでいけるはずだ。」
「マジ?」
「流石だな……」
「ありがとう、18号さん!」
「そういうことは早く言えっての!!」
「ズルっぽいから使いたくなかったんだよ。
ほらお前ら、わたしの身体に触れろ。変なとこ触るなよ」
それぞれ、18号の肩と両腕に触れる。
「なぁ、ヒソカも連れてくとか言わないよな?」
「置いてくに決まってるだろ。そこまでお人よしじゃない」
そう言って、18号は瞬間移動を発動させた。
*
「あと30分……」
サトツがそう呟いた時、突如自分の目の前に5人の受験者が現れた。
18号、レオリオ、ゴン、クラピカ、キルアだ。
「なんと!?」
サトツが驚きの声をあげる。
何度か試験官をやったが、瞬間移動する受験者など初めてのことだ。
「あと30分か、余裕で間に合ったな」
「わたしはちょっと休憩するぞ」
「おう、お疲れ……30分だけだが、のんびりしてようぜ」
それぞれ、思い思いに束の間の休憩時間を味わう。
そして25分が過ぎ、リミットが近づいてくる。
「ヒソカ、来ないな」
「気絶していたからな。流石にこのまま失格だろう」
そう思っていると、茂みの中からヒソカが姿を現した。
「ヒソカ!!」
「やぁ♥何とか間に合ったよ♦」
「馬鹿な、一体どうやって!?」
「くくく♠奇術師に不可能はない♣」
「わたしには負けただろ」
18号はヒソカの前に立つ。
「そうだね♦悔しいけど完敗だよ♥僕の怪我を治してくれたのはキミかな♠」
「ああ、そうだ。後で治療費を請求させてもらうぞ」
「もちろん、言い値で払わせてもらうよ♠いくらだい?♥」
「そうだな……」
18号は考え込む。
金にがめついと言われる18号だが、治療費に関しては良心的だ。
ウボォーギン相手でも、初回以外は10万ジェニー程度で抑えている。
貯金に勤しむレオリオには、お小遣い程度しか請求していない。
一般人に対しても、財布にある分以上は請求したことはない。
「――100万ジェニーだ」
((((やっす))))
18号は相場が分からなくなっていた。
「おい、18号!! それじゃ安すぎるぜ。もっと吹っ掛けていい!」
「そうなのか? じゃあ……」
18号は少し考えて改めて値段を提示する。
「3倍の300万ジェニーだ」
((((いやだからやっす))))
「くくく♠わかった、後できっちり払わせてもらうよ♥」
「300万か……何買おうかな」
「あいつ、絶対後で後悔するぞ……」
その時、ジリリリとアラームが鳴る。
「皆さん、お疲れ様でした。ここ、ビスカ森林公園が二次試験会場になります」
サトツは辺りを見回す。
およそ150人の受験者が残っていた。
(豊作ですね、今年は……それだけに惜しい。
二次試験の担当がブハラとメンチでは……)
10名以下……いや、合格者ゼロもあり得る――とサトツは独りごちた。