本編とオニキス君のモノローグが少し違う?
モノローグや解説に嘘が含まれているのは針の常なの。細かいことは気にしないなの。
(夜明けだ…)
助けに向かったはずの族長を逆に抱えて戻って来たマヌルは、俺の知っている奴とは全く異なっていた。
弱っちかったマヌルに何があったのかは分からない。
ただ、圧倒的な強さでニンゲン共を薙ぎ倒し今もルリ姉ぇを救ってくれたマヌルに、俺は今までとは違う感情を抱き始めていた。
(何か…声をかけるべきか…でも、かけるとしても今更なんて…)
逡巡していた俺の目の前で、マヌルがふらりと身体をよろめかせる。
「お、おい!大丈夫か?!」
咄嗟に身体を支え声をかけた。
「ああ…うん、大丈夫。少し…疲れただけで…」
「そ、そうか…ならいいんだけどよ…すぐに休める場所を…」
周りを見渡すと、既に皆がルリ姉ぇやアイツの為に寝床を用意し始めていた。
そして、俺の視界の隅に倒れたままの…ニンゲン共の姿が映る。
「………なあ、マヌル…その、あのニンゲン共なんだけどよ…」
まだ、息がある。
あの戦いの中でもマヌルは敵を殺さないように立ち回っていたのだろう。
それは多分…マヌルも…同じ、ニンゲンだから。
「え…?ああ…あの人たちか……」
思った通り、マヌルもどうしようか戸惑っているようだった。
しばらく視線を彷徨わせた後、マヌルが口を開く。
「ごめん。僕の力は、皆を仲良くさせる事に使うって決めたんだ。だから…」
(殺すなって事か…)
いくら助けてくれたマヌルの頼みでも、その頼みは受けられないと口を開こうとしたとき、マヌルが言葉を続ける。
「だから、オニキス。君に任せるよ」
………は?
「君はニンゲンが嫌いなんだったよね…だから、君に任せるのが1番いいかなって…」
マヌルの目は、澄んでいた。
(今、コイツは、100%の善意で、俺に…)
わざわざ生かしておいて、自分は殺さず、君なら丁度いいと、完全な善意で。
ぞわり、と鳥肌が立つ音が聞こえたようだった。
「ごめん、ちょっと疲れちゃったから…他の話は…また……あと…で…」
そう言ってマヌルは俺の腕の中で意識を失った。
呆然とする俺に、仲間が声を掛けて来る。
「おい、マヌルはどうしたんだ!?」
「あ…ああ…つ、疲れて倒れちまったみたいだ…ルリ姉ぇ達と一緒に運んでくれるか…」
「そうか…分かった。すぐに準備する」
離れていく仲間を見送り、俺は…
倒れたニンゲン共を、じっと見ていた。
ーーーーーーーー
『後処理』を終え、皆の元へ戻りマヌルと族長の看病をしていた時、騒ぎが起きた。
「俺は、ニンゲンを許す事は出来ん!」
寝ている怪我人の横で大声で騒ぐソイツを、俺は漫然と眺める。
(コイツはなんでそんなに騒いでいるんだ…?)
ニンゲンはクオンツをなんとも思っていない。
そんな事、分かりきっていた事なのに。
戦おうと言ったのも、子供を里に残したのも、自分の判断だったはずなのに。
さっきまで命を救われ、更にルリ姉ぇ達を助けて貰うために薬草を集めたりと頼っていたその口で、マヌルが全ての元凶かのように騒いで…
ジャスパーまで同調し始め、カルセドの兄貴の事までマヌルの責任にし始めた事で、俺の中に暗い気持ちが更に渦巻いていく。
言葉に出来ないような感情がぐるぐると脳内で廻る中で、一つの言葉が俺の心を凍らせた。
「オニキス…お前の判断に俺は従う」
「俺もオニキスに任せるよ…」
(…………お前らもかよ?)
恩人を殺す決断を、自分ではしたくないって?
俺は元々殺そうと言っていたんだから丁度いいって?
俺の責任で、俺の意見で、俺に言われたからやっただけだって?
(そもそも、わざわざ助けに行った族長がマヌルを殺すのを許すわけねぇ…しかも、マヌルの強さを見ただろ…)
(族長には、オニキスが決めたから従ったとでもいうのか?)
(マヌルを殺し損ねたら、オニキスが殺そうと言ったんだとでもいうのか?)
悪辣な思考がぐるぐると巡る。
コイツ等はそんな事考えちゃいない。分かってる。分かってるんだ。
(でも、心の奥で責任を負いたくないと思ってるのも事実だろ…)
…どちらにせよ。
俺の意見、俺の選択、そんなものは…もう決まっている。
俺は、マヌルを助けるために全力を尽くした。
マヌルへの皆の悪感情を消すため、俺自身の罪も告白した。
俺が感じたマヌルへの感情を、はっきりと自覚したから、迷う事はなかった。
【恐怖】
(俺は、族長並に強いアイツを敵に回したくない)
(俺は、完全な善意で自分の同族を殺させようとするヤツを敵に回したくない)
(俺は、)
(俺は、あんな化け物の敵にはなりたくない)
殴られ、溢れる涙がなんの涙なのか、俺には…もう、分からなかった。