よろしくお願いします。
「ハスミが淹れた紅茶、美味しかったねー」
「そうですねー」
何もかも笑い飛ばした私達は、和気あいあいとティータイムを満喫していた。
「ありがとうございます」
「私達はそろそろ帰るから、事務作業を邪魔して悪かったねー」
そう言って私とユウカは席を立ち、部室から出ようとしたのだが…
「お待ち下さい」
…案の定、ハスミに止められた。
私はそれを無視して、早歩きで扉まで移動しドアノブに手を伸ばした。
ガシッ!
しかし、伸ばした腕をハスミに掴まれた。
は?さっきまでここにいなかったじゃん。
何?トリニティの生徒ってこれ出来るの?
「先生…」
「…私達は帰るから、手を離して?」
「トリニティ総合学園の正義実現委員会、副委員長の羽川ハスミは告発の内容を全面的に認めます」
!!!
わーお、シャーレ強行犯係逮捕最速記録だ。
記念品はどうしようかな〜?
笑って誤魔化せるかと思ったけど…
ダメかぁ。
「ですから先生、どうか…」
「…お断りだよ」
!?
「な…何故ですか!?」
「私はハスミが身体測定で、どうやって体重をちょろまかしたのか見当もつかない…だから証拠不十分で逮捕しません」
「容疑者が容疑を認めてるんですよ!?」
「本人のためにならないと判断した場合、逮捕は見送るんだよ…?」
「…えぇ!?そうなんですか!?」
ここまでこの活動に、参加して来たユウカも知らなかった事実だ。
「よく考えてみてユウカ、ここで逮捕して本人のためになると思う…?」
「…」
「…この通り、ユウカが即答しないんだから逮捕は見送りで〜す」
私の腕を掴んだ、ハスミの手が震え始めた。
「なら私のモヤモヤしたこの気持ちは…どうしたらいいですか!?」
「知らんがな!?」
私はハスミの手を、振り払おうとした。
「もう二度と同じ過ちはしませんって、教会に懺悔でもしてくれば!?」
「…くっ!」
「うわぁ!?」
私はハスミに両腕を掴まれて…
ドンッ!
壁ドンされた…なんで?
「近いって…離せよハスミ!こんなことして何の意味がある!」
「先生が私を逮捕するまで、私が先生を壁ドンし続けます!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
もうめちゃくちゃだよ、さっきの体重の話が図星だったのか決死隊になった…?
「こんなことしても、私はハスミを逮捕なんてしないからな!」
「なら仕方ありません!壁ドンの先に進んで!先生の減らず口を黙らせます!」
「やぁ〜めぇ〜ろぉ〜!!!」
自暴自棄になってんなぁ!
ハスミはびくともしない!
力が強すぎる!
ユウカは私達を見ながら、顔を赤くしてモジモジしてる。
「しっかりしろぉ!?何発情してんだぁ!?この太ももおませぇ!このままじゃ!別の意味で打ち切りになっちまうぞ!?」
「…ハッ!」
ユウカは我に返って、慌ててハスミを止めようとした。
「ハスミさん!落ち着いて下さい!」
「先生がダメならユウカさん!貴方が私を私人逮捕して下さい!」
「…えぇ!?」
もう訳が分からなかった、誰が自分を私人逮捕してなんて頼むんだよ!?
「先生…どうしたらいいんですか!?」
「落ち着けユウカ!まだ手は残ってる!」
仕方ない!エージェントを呼ぼう!
「エージェントコハル!エージェントコハル!コードレッド!コードレッド!」
ガチャッ!
私の緊急事態宣言を聞いて、慌てて部室に入って来たのが…
ゲーム開発部以来2回目、サングラスをかけたコハルだった。
「コードレッドって何が…なっ!?何してるのアンタ達!?」
「エージェントコハル!容疑者ハスミがご乱心なんだ!助けて!助けてくれ!」
「あぁ…先生、やっと容疑者と呼んてくれましたねぇ!」
「違うからな!告発状の容疑じゃないからな!別の容疑だからな!」
「もう何でもいいです!さぁエージェントコハル!檻を持って来て!私を私人逮捕して下さい!」
「本当にどういう状況なの!?」
コハルは目を回し始めた…
頑張れ!気持ちで負けるな!
「エージェントコハル!深く考えるな!いつもの調子で食らいつけ!」
私の言われた通り、コハルは状況を分析して顔を赤くした。
「ユウカ!武器をエージェントコハルに渡せ!容疑者ハスミを鎮圧する!」
「止む終えませんね…分かりました」
またそんな所に隠し持ってるのか…
ユウカはコハルに武器を投げ渡した。
パシッ!
そう、キヴォトス人にもよく効く。
只者ではないハリセンだ。
「エージェントコハル!ブン回せ!」
コハルはハリセンを構え、心の中でハスミに謝罪した。
「エッチなのは…」
そしてコハルは猫のように飛び掛かった!
「ダメェ〜!!!」
ペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッ!
「いててててて!ぐわぁ〜!!!」
「いったぁ…私はいったぁい!」
「だから何で私まで〜!?」
「死刑〜!!!」
こうして逮捕するかどうかの攻防は、一旦仕切り直しとなった…
ハスミが少しだけ冷静になり、4人で話し合いが始まった。
「私としては、告発の内容をもう二度としないと約束してくれればそれでいいよ…?」
「…そうは行きません、それでは正義実現委員会の副委員長として示しが付きません」
とまぁこのように、話し合いはいつまで経っても平行線である…
「告発の件は他に誰が知ってるの?告発者だけ?」
「いえ…分かりません」
「なら心の中に秘めてもらうで、終わりでいいんじゃない?」
「で…ですが!」
「そもそもさぁ、容疑者ハスミの立場で考えてね?告発の内容を信じる生徒いる…?」
「…」
お…?これは効果ありだな。
「一理ありますね、正義実現委員会の副委員長がそんなことするなんてウソだと思いますよ…?」
「ユウカもそう思うでしょ…?百歩譲ってだよ?その立場を利用して、あえてそんなことしたのならマズイけど…」
「ちょ!?先生!?」
あ…
「…そうですねぇ、先生のおっしゃる通りです!私は正義実現委員会の副委員長の立場と信用を利用して!」
「コラコラ!ウソ言うなぁ!」
「ウソじゃないです!本当に!本当に私は悪い子なんですぅ…」
今にも泣き出しそう…どーすんのぉこれぇ?
「ユウカさん、容疑者ハスミ…先輩は何を?」
ユウカはコハルと目を合わせることなく…
「知らない方がいいわ」
…力なくそう言った。
「えぇ…?」
コハルはハスミが、何をやらかしたのか全く分からなかった…
「あぁーもぉー!分かったよ…」
私は頭を抱えて、これから渋々妥協案を出す覚悟を決めた。
でもなぁ…なんかハスミ暴走気味だから、怖いんだよ。
「容疑者ハスミが納得出来る方向性で、やればいいんでしょ!?」
「分かっていただけましたか!?では早速、私を逮捕して檻に…」
「…どんだけ檻に入りたいんだよ」
閉所平気症…?でいいのか?
「待って、まだ逮捕はしません…」
「…ではどうしたら?」
「実況見分をします…」
「…実況見分?」
「一応確認だけど、身体測定で体重をちょろまかした動きって…今すぐ出来る?」
「出来ます」
「…はぁ!?」
コハルはぶったまげた、そらそうよ。
「…これってさぁ、今回が初めて?」
「…」
「「…はぁ!?」」
コハルだけではなく、同時にユウカもぶったまげた。
あれ…?雲行きが怪しくなってきた…?
「エージェントコハルに聞くけど、容疑者ハスミが身体測定で体重ちょろまかした…なんて信じる?」
「そんなこと!ウソよ!ウソ!」
「ほら〜これが普通の反応だって…」
「…くっ!」
何がくっ!だよ…
ハスミ…後で冷静になったとき、ショックで寝込むんじゃないぞ。
「とにかく!身体測定のとき、何があったのか…この目で確かめる」
「それで実況見分…では保健室から体重計を借りてきますか?」
「その心配はないよ…?」
「…え?」
私はシッテムの箱を出して、電話をかける。
「既に手配済みだから」
「やけに準備がいいですね…?」
「あーもしもし?私です!シャーレの先生です!例の物を持って来て下さい!よろしくお願いしま〜す!は〜い!」
「誰に電話を…?」
「私1人じゃ体重計を運べないから、誠実運送っていう業者にお願いしたんだ」
「…お金はどうしたんですか?」
「出来たばかりの会社で、最初は無料で仕事を受けて名前を売ってるんだって〜」
「誠実運送…?」
ハスミは記憶を整理して、思い出そうとしたが聞いたことがない会社の名前だった。
そうこうしている内に…
…えっほ!えっほ!えっほ!えっほ!
廊下から声が聞こえて来て…
ガチャッ!
…部室の扉が開かれた。
「着いたっすよ〜後輩〜!さっさと運んじまうっす〜!」
「ハイッ!先輩っ!」
…
「えぇ!?」
今度はハスミがぶったまげた、そらそうよ。
「…フフッ(笑)」
「…ブフゥ(笑)」
ユウカとコハルが轟沈した。
作業服姿で帽子には誠実運送と書かれ…
体重計を運んで来たのは…
イチカとツルギの2人だった…
「あ〜誠実運送さん?ご苦労さまです!」
「この荷物、何処に運べばいいすか〜?」
「…この広い場所までお願いします!」
「はい畏まりましたっす〜!よし後輩!あと少しっす!運んじまうっす〜!」
「ハイッ!先輩っ!」
「…フフッ(笑)…ブハハハハハッ(笑)」
私は耐えられなかった。
だって先輩のイチカが、後輩のツルギに1人で荷物を運ばせてるんだもん…
…ちょっとぐらい手伝いなよ。
ゴトッ
ツルギが指定された場所に荷物を置いた。
「よ〜し後輩!少し休憩するっす!」
「ハイッ!先輩っ!」
「〜〜〜(笑)」
コハルはもう必死に笑いを堪えた。
そんな中…
「…」
ハスミは私のことを睨んでいた。
…私の差し金だと思ってるな?
まぁ、実際そうだけど…
私はお冠なハスミを無視して、イチカに声をかけた。
「2人はこれから休憩…?」
「…ご利用ありがとうございまっす!そうっすねぇ!そろそろ休憩っす!」
「あそうなんだ〜そしたらさぁ…ここで休憩してかない?」
「いいすか〜?でしたらここで休憩するっす!良かったっすね後輩!先生と休憩出来るっすよ〜!」
「ハイッ!ありがとうございますっ!」
ツルギ、ハキハキ喋るなぁ…
「先生〜!」
「…はい?」
「給湯室にマイカップあるんすけど?使っていいすか?」
「配送先にマイカップ置いてあるの?凄い偶然だねぇ?」
よく考えてみたら、とんでもないことしてて全員轟沈した。
「あはは(笑)そうっすねぇ〜(笑)」
「きひひ(笑)」
「フフッ(笑)」
「〜〜〜(笑)」
コハルはバタバタしてる、今にも吹き出しそうだ…
「ではマイカップを取って来るっす〜!行くっすよ!後輩!」
「ハイッ!先輩っ!」
イチカとツルギはマイカップを取りに、給湯室へ向かった。
それを確認したハスミは、再び私を捕まえて…
ドンッ!
壁ドンした、なんで…?
「うわぁ!?なになに!?」
「なんであの2人が…あんなことしてるんですか!?」
「…なんのこと?」
「恍けないで下さい!いつもならこの時間には部室にいるのに、今日は2人共いないので…おかしいと思ったんですよ!」
あーそうなのかー…
それで私を睨んでたの。
ハスミの後ろから、何かがニュッと出た。
よく見たらツルギだった。
「お客さん…」
!!!
「暴力は…いけませんよぉ?」
「…うっ」
もうマイカップ取って来たのか…
「ここまで来たら、なるようにしかなりませんから…」
ツルギはハスミにギリギリまで近付いて…
「…ジタバタするんじゃねぇ!!!」
!?
…ツルギに凄まれ、ハスミは私を解放した。
「よくやったっす!後輩!先生を窮地から救ったっすね!エライっす!」
「ハイッ!ありがとうございますっ!」
褒めるイチカに頭を下げるツルギ。
私はその頭を撫でた。
「ありがとうね、後輩さん」
「は、はあぁぁ…どどどどういたしまして〜っ!」
「いやこの後輩マジパネェっすよ!力持ちでリアルユンボなんすよ!」
適当過ぎるイチカの例えに、全員轟沈した。
「リアルユンボって…(笑)」
「スケバン共を千切っては投げてるところを、運送会社にスカウトしたんっすよ〜」
「あ、そうなの…?」
「そうっすよね?後輩?」
「ハイッ!先輩っ!」
よく分からないけど、これはこれでいい関係を構築してるのかな…?
「〜〜〜…」
コハル…大丈夫か?
両手で口を抑えてて堪えてるけど、笑い過ぎてヘイローが消えそうだ…
先輩がボケまくってるけど、ゲラゲラ笑ったら失礼になるかもしれないし…
コハルの立場的にも、この状況はキツイな。
ぶっちゃけこの3人は、気にしないと思うよ…
イチカとツルギが、マイカップで紅茶を飲んで休憩し…
「容疑者ハスミの紅茶、美味いっすね」
「ハイッ!美味しいですっ!」
一段落したところで…
いよいよ実況見分が始まる…