炭鉱ガスに引火して、そこで働いていた鉱夫、皆死亡してしまう痛ましい事故は大々的に報道された。ならもう少しは、報われたかもしれない。
あの事故の事は、揉み消されてしまった。何故なら、奴隷のようにこき使っている事が露呈してしまう可能性があるからだ。そうなると雇用主は新たな奴隷を確保し辛くなってしまう。ボク含めて、事故で亡くなった者の存在をなかった事にされた。そして、雇用主はボクらを弔う事すらしなかった。ソイツからしたら、勿体無いんだろう。
ボクが連れてこられた炭鉱は、事故後、廃坑にされた。臭い物に蓋をするように。
恨めしい。
兄弟は、愛されて死んで行くのに、ボクは、愛されなかった。その上、こんな終わり方なんて。兄弟達は亡くなれば、泣きながら弔って貰えるだろう。ボクはそれすらされてない。
あぁ、恨めしい。いつまで、いつまで待てば僕は愛されるカナリアとして扱って貰えるのか?
思えば、全て人間の勝手じゃないのか?
恨めしい。金の為にボクをこんな所に売り飛ばした店主も。道具扱いした鉱夫達も。闇に葬り去った雇用主も。愛さない人間が、恨めしい。
ーーー ーーー ーーー
月日は流れ、炭鉱だった所には草木が生え、覆い隠されて、知るものもほとんど居なくなった。けど、ボクの念は消える事はなかった。
こんな所じゃ終われない。
そう思っているとあの夜がきた。
赤銅色に輝く月が出た夜だ。
その夜、ボクはまた骨を手に入れ、肉を手に入れ、羽を手に入れた。そして、前はなかった力を手に入れた。
グエエエエエエエエ!!!
赤い月明かりに照らされた人気のない山奥、そこには、愛される小鳥カナリアではなく、忌み嫌われる怪鳥「以津真天」がいた。
『いつまでも、好き勝手出来ると思うなぁぁぁ!!!』
羽が生えた怨念は、こんな境遇に陥れた者に復讐するべく、不気味で大きな羽をはためかせた。
思えば、初めて自由に空を飛んだ気がした。
まずは、金のことしか考えない店主だった。
あの守銭奴にボクの苦しみの一端を与えようと「カナリア専門店」があった場所へと向かった。
場所は何故かわかった。これは本能なのか?それとも、怪鳥の能力なのだろうか?けど、街の様子は記憶とは全然違った。あの店から見えた外の景色などどこにもなかった。人力車の代わりに、箱のような物が休まず走り、店に来た人が着ていたような服とは似ても似つかない服を着た人が闊歩し、何よりも、夜なのにもかかわらず、街は明るかった。暗い炭鉱を照らしていた頼りない電球の何倍も明るい光で街は照らされていた。
まるでボクを拒むように。
ボクは嫌な予感がした。でも復讐をする相手はここだと本能が訴えた。ボクは焦りを抑えて、そこへと向かった。
「うわぁぁ!なんだありゃぁ!!」
「きゃぁ!おばけよぉ!」
ボクの姿を見てザワザワ騒ぎ始めたが、気にならなかった。早くこの嫌な最悪な想像を裏切って欲しかったからだ。
本能が訴えた場所にあったのは、明るい街から切り離されたような小さな商店だった。
あの男、カナリア商をやめて、商店なんか開いていたのか。
そう思って、壁を破り、怯えた店主の顔を拝もうとした。
が、そこにいたのは見覚えの無い、老婆と小さな男の子だった。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「大丈夫だから、ばあちゃんが守ってあげるから...」
恐ろしい怪物をみて怯えている孫とそれを必死に庇おうとしている祖母の姿がそこにはあった。守銭奴の男がみっともなく怯えてなどいなかった。
悪い予想は当たってしまった。もうあの男はとっくの昔に死んでいた。
だが、この気持ちはどうすればいい?復讐するべき相手は、もうとっくの昔に死んでいて、その血縁だろう哀れな老人と子どもしか残ってない。このまま諦めて、何もせず帰るべきか?それとも、血縁だからという理由で見知らぬ人間に恨みをぶつけるべきか?
「ぼく、これからいいこにしますからぁぁぁぁ!」
「わしはどうなっても構わん...だから、どうかこの子だけは...」
あぁ、愛されているな...ボクは死ぬまで貰うことのなかった物をあんな子どもがもらってる。妬ましい。
ボクの琴線はブツっと切れた。
いつの間にか、周りの物を巻き込んで、火柱を上げて燃え上がった。
あんなに見せ付けるようにしたあの2人が悪いんだ。ボクは悪くない。
そこからボクは、本能が訴える場所に飛んで行っては、子孫や奴らが作った会社などに八つ当たりして回った。出来るだけ時間をかけるようにした。次は自分じゃないかと戦々恐々させる為だ。炭鉱ガスを浴びせて窒息させたり、豪炎で焼いたり、生き埋めにしたりと、復讐の大義名分の元、悪逆非道を重ねた。それは、討伐隊を組まれるほどだった。
けど、ボクの心は一切晴れなかった。どれだけの人間を不幸にしても、変わる事はなかった。
何年か経った時、ある人間の息の根を止めた。もちろん知らない人だ。
するといつも次の標的を教えていた本能が何も言わなくなった。
もう、復讐は終わったのだ。けど、そこには虚しさしか残らなかった。
ボクは何をしていたのだろう?
その時思い出した。ボクは愛されたかっただけだと。
殺した男の持ち物に、目に着いた物があった。それは可愛らしい女性の写真とサインが着いた物だった。
ボクは、閃いた。
『こんな風になれば今度は愛されるかな...』
以津真天(いつまで)
ちゃんと死人を弔わないと現れる妖怪。恐ろしい鬼の顔に蛇の様な胴体、大きな翼を持つという恐ろしい姿をで、「いつまで、いつまで」と不気味な声で鳴き回り、人々を恐怖させる妖怪。実は、鳴き声意外に実害がない妖怪なんですが、すずめちゃんはバッチリ人を殺しまわるやばい化物になっちゃった。それもこれもぜーんぶ人間が悪いもん!仕方ないね!多分。