ペットっていつまでも子ども気分だから飼い主に懐くんですって。
羽が折れた小鳥のようだった彼女を連れて、かなり遠くまで逃げて来た。周りの喧騒も聞こえなくなった。そこで僕は切り出した。
「ここまで来れば大丈夫だろう。...怪我とかはない?」
「うん、怪我はしてないけど、変装用の服がちょっと燃えちゃって...その...何か隠せる物をボクに貸してくれない?」
あまり気づかなかったが、すずめちゃんはかなり目立つ服装だった。これじゃ誰か気づくかもしれない。なんなら、何人かに気づかれたかもしれない。
ボクが身に纏ってる物でで貸せるのは上着くらいだった。これが無くても最悪、肌着がある。上半身裸じゃないからまだ許容出来る。
「その、いやじゃなかったらこれ、着て。」
「い、いやいや嫌じゃないよ!ありがとう!大事にするね!」
すずめちゃんはひったくるように、僕の上着を受け取った。すると、着るのではなく、顔に押し付けて固まった。
スー「これが浩介の匂い...」
「...何してるの?」
「あ、ああ、なんでもない、なんでもない。はははは...えへぇ...」
そう言うとおずおずと着た。そしたら蕩けた顔し始めた。まるで優希を見てるみたいだ。
かなり、変わった子だと思った。こんな感じだったっけ?とてつもなく、こう、ぶっちゃけて言うとアホになってるように感じる。
そんなどこか上の空なアイドルに、これからの話を振った。
「...これからどうしよっか?」
「結婚...」
「...ふざけてる?」
「...あ、ああ、じょ、冗談、冗談だよ!ちょっと嬉し過ぎて...んん!え、ええっとその、ボクの家に来てくれないかな?怖くて今日は1人で帰れそうに無いんだ....」
「え!?」
僕は驚いた。非常に魅力的な提案だ。行きたいと思った反面、仮にもアイドルなのに、ちょっと危機管理が疎かじゃないだろうか?これを明るみに出されてしまうと2度と表を歩けないかもしれない。と言う咎める気持ちも出た。
僕はその提案を却下した。
「それは、やめておこう。確かにファンとしては行きたいけど、君はアイドルだ。その考えははっきり言って浅はかだと思うな。」
「え...」
すずめちゃんは、驚愕の顔を浮かべた。まるで目の前で飼い主が消えるマジックを見たペットのようだった。
「え、なんでぇ!?ここは二つ返事で来てくれると思ってたのにぃ!だって、浩介ってボクのファンだよね!?そこはいいよ!じゃないの!?」
すずめちゃんは焦り出した。
断られるなんて微塵も考えてなかったみたいだ。にしても、取り乱し過ぎやしないだろうか?
「いや、そのファンだからこそだよ...推しのアイドルのスキャンダルが報じられるのは見たくないし...何より...他のファンに刺されたくない。」
「じゃ、じゃあ、ボク、アイドルやめる!」
「いやダメでしょ...。」
「じゃあどうするのさ!」
「ほら、マネージャーに電話したりして迎えに来てもらいなよ。」
「ヤダ!浩介が一緒じゃなきゃ、動かない!」
「えぇ...」
彼女はそう言うとその場に座り込んだ。子どもみたいだ。こんな子置いていけないし...
「ジー...」
「わかったから...着いてってあげるから...でも、どうやって行くんだ?貴重品持たずに逃げてきたから今無一文なんだ。」
駄々っ子は笑顔になって、僕の腕に絡み付いてきた。
「よーし!無一文な浩介はボクが出してあげる!ボクに感謝しなよ!」
「着いてきてっていったのはそっちなんだけどね...」
「なんか言った?」
「いや、なんでもないよ。」
「よし...一つ目クリア...」
こうして、アイドルもとい駄々っ子とタクシーに乗って子どもの家についていった。気分は懐いた親戚の子どもを家に返すおじさんだった。
タクシーに乗ってる間、駄々っ子はずっと僕の腕から離れる事はなかった。
「ね、離れてくれない?腕が痺れて来たんだ。」
「ヤダ!だってだって...その...ヤダ!」
「何それ...」
彼女は嬉しそうだ。
すると今度は僕の顔を見始めた。穴が開くんじゃないかって言うほど
「僕の顔に何かついてる?」
「目と鼻と口がついてるよ!」
「...はぁ」
「アハハハハハ!」
こんな子ども騙しな罠に引っかかるなんて。呆れて、ため息しか出なかった。本人は嬉しそうだけど...。
彼女は、今度は腕に顔を擦りつけて来た。
推しにこんな事されて嬉しいはずなのに、鼻水をつけられてないか心配になってくるのは何故だろう。昔こんな事する子がいたな...
「ねぇ、君。他の女の子の事考えてる?」
突然、只者じゃない雰囲気を纏い出した。先程までの駄々っ子はどこに行ったのだろう?
「い、いや、子どもの頃に遊んでた子の事を思い出したんだ。」
「...その子とはどんな関係?」
「よく遊んでたってだけさ。今はどうしてるかなんてわかんないし。」
「......なら許してあげる!仕方ないなぁー!次はダメだよー!」
一丁前に彼女ムーブしている。こう言うのをませてるって言うのかな?
そうこうしていると、彼女の家に着いた。タクシーから降りた時に見た運転手さんの顔は、少し印象に残った。申し訳ない気持ちになった。
「もう少し、もう少し...。」
金糸すずめ
元カナリア。レモンカナリアのイメージ。実は、そこまで鳴くのは得意じゃない。メスだからかな?この子は愛されたがりなカナリアだが、実際のカナリアはそこまで懐かない。どこまで言っても愛される事しか考えてないけど、全く愛されなくて拗らせた怪鳥。こんな子のファンになってしまった浩介くん。君はすごい(白目)