もののけは君が好き!   作:ジャンクフーズ

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この手の作品において負けヒロインと言うのは死んだヒロインの事だと私は考えます。


虫に囁かれて

 

「...ぐすっ、スー、ぐすっ...スー、うっ、んんっ///....うぅ...ぐすっ...」

 

部屋は暗く、冷たかった。普段は2人の男女が和気藹々として明るい部屋だが、今日は女しかいなかった。その女は、元々ただのうさぎだったが、化け物になってまで男と一緒にいようとする程男の事が好きだった。しかし、その男は他の化け物に奪われてしまった。その寂しさからか、その悔しさからか、女は男の匂いが残っている物をベットの上にかき集めて、それで自分を慰めていた。

 

「おにーちゃん...寂しい...会いたい...怖いよ...助けて...。」

 

これで、もし男がただどこかに行ったというだけなら、すぐにでも追いかけただろう。しかしながら、今は己をほぼ死ぬとこまで追い込んだ怪鳥に連れ去られたのだ。女の心には恐怖で覆い尽くされていた。初めての自分以外の人外との接触。初めての戦闘。初めての痛み。女の脳裏にこびりついて離れなかった。男と直で触れ合いたい。なのに、恐怖で脚がすくんで動けなかった。

それらを忘れるために、目を背けるために、さらに男の私物で慰めた。

目を現実から背ける様に扉をずっとみていた。もしかしたら、愛しの彼が帰ってきてくれるかもしれない。そして、自分を可愛がって抱きしめてくれるのだ。そうして、優しい彼は、優しく抱いてくれるのだ。そんな妄想ばかりしている女の目は暗く、何も写していなかった。

 

部屋が彼女の情欲の臭いでいっぱいになった以外、全てが停滞したまま、夜がふけ、朝となった。カーテンの隙間から、光が彼女を非難する様に降り注いだ。

 

「うぅ...いやだ...やめて...。」

 

女はもう臭いすらしなくなった私物を抱えて、這いずる様に光のない暗い場所へ向かった。暗い部屋の角でまたぐしぐし泣いた。

寝なくても大丈夫な体なのに、精神的に参ったのか、くまが出来ていた。

綺麗だった髪が今では白髪混じりになり、肌も荒れていた。

 

「うっ....っ...死にそう。誰か、あたしを、助けて...」

 

涙は決壊した様にたくさん溢れてきた。

女は強い、しかし同時に脆い。激情によって生まれた化け物であるが故に、誰も避けられない。弱った化け物は、初めて救いを求めた。今まで、自分の力で捻じ曲げられた故に。

そんな彼女に寄って来る者がいた。「きゅう」であるが故に。

 

カサカサカサ....

「ぐすっ...ぐすっ...。」

 

そこには、脚の長い大きめの蜘蛛がいた。彼女から「かわいくない」判定を受けている虫だった。

そんなかわいくない子は驚くべきことをした。

 

“あるじさま、いかがなされました。”

「!?あんた...喋れるの?」

“あるじさまがもとめられたので。”

 

彼女が見下していた存在が、話しかけてきたのだ。そんなかわいくない子にこんな質問が投げかけられた。

 

「まさか、あんたが助けるつもり?」

“いえ、わたしだけではありません。なんぜん、なんまんといるどうほうがあるじさまに、びりょくながら、すけだちいたします。”

「そんなに!?」

 

なんと、沢山の虫が彼女の元に駆けつけてくれると言う。まさに援軍だ。しかし、彼女にはくびきがある。

 

「いや!お断り!だって、あんた達かわいくないもん!そんな子達が集まったところでかわいくないどころか、気持ち悪いだけよ!」

 

 

彼女の判断基準は、愛しの彼だった。

これは、彼女がまだ大好きな彼と同じに部屋に住んでいる、幸せなうさぎだった頃の話である。彼は、虫が嫌いだった。なので、部屋に虫が現れた時は、いつも躍起になって追い出していた。

ある時、彼はこう言った。

 

「はぁ、気持ち悪い。」

 

その時から、「虫は気持ち悪くて、かわいくない、良くない子」と思うようになった。

 

 

そんな背景から、彼女は申し出を断った。しかし、脚の長い蜘蛛は彼女にこう言い放った。

 

“おことばですが、あるじさまは、ごうまんといわざるおえません。”

「はぁ!?」

“あるじさまは、いままで、おにいさまにあいされていたのでしょう。そして、これまで、おもいどおりにいっていたのではありませんか?”

「う、うるさい、うるさい!」

 

彼女には思い当たる節があった。これまで、置いてかれたら、化けて追いかけ、邪魔されたら、“お願い”してどかし、拒絶されたら、“刷り込んだ”。これまで思い通りにしてきた。

 

“そうして、おごり、うぬぼれた、けっかが、いまのみじめなすがたではありませんか?”

「!うぅぅ....。」

 

そうして、蜘蛛に鋭い諫言を言われ、唸る事しかできなかった。

 

“こうやって、いいかえせないということは、あるじさまもそうおもわれているからでは?”

「...ご、ごめんなさい。」

 

そして、子どもの様な怪物は謝った。思い通りに振る舞った傍若無人なうさぎは初めて心から謝ったのだ。

 

“あやまちをあやまちとおみとめになるのはむずかしいことでございます。さすが、あるじさま。すなおでおられる。”

「...ありがとう。」

“もったいなきおことばです。”

「ねぇ」

“はい、なんなりと。”

「あたしに、力を貸してくれる?」

 




忘れてない?きゅうちゃんは虫つかいですよ。
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