実は、この話に出て来るうさぎさん、リアルのうさぎさんに比べてお利口さんというか、賢過ぎると思うんですよね...。まあ、ここは大目に見て貰えると私、嬉しくなっちゃいます。
その日は激しい「雨」が降っていた。
時々、大きな音が外から聞こえてきて、怖かったからおにーちゃんに抱っこして貰った。体を震わせて、おにーちゃんに身を寄せていると、今度は低い声が聞こえてきた。
「浩介、話がある。」
この時初めて、おにーちゃん以外の他の子を見た気がする。おにーちゃんに似ているけど、どこか怖そうだった。
「...わかったよ。父さん。」
おにーちゃんは、少し悩んだ後、諦めた様にそう言って「父さん」に着いて行った。一羽にされた時は、驚いたけど、おにーちゃんのあの顔が
忘れられなかった。
しばらくすると、外の音に負けないくらいの音が、下から響いて来た。
「-----!-----------!----------!」
おにーちゃんと「父さん」が喧嘩してるみたい。でも、聞こえるのは「父さん」の声だけ。だから、喧嘩でもないかもしれない。自分が喧嘩してるわけでも無いのに、「家」中に張り詰めた空気が漂っていた。
もう外の音なんて気にならなかった。
どのくらい経ったのかわからないけど、おにーちゃんは帰って来た。
私は嬉しくて飛び跳ねた。けど、おにーちゃんは顔中が濡れてた。おにーちゃんは「泣いて」たんだ。
部屋に帰ってきても1人で塞ぎ込んで「泣いて」いた。そんな状態のおにーちゃんにどうしたらいいか、わかんなかった。
外の「雨」の音が大きくなった時に、おにーちゃんは目の所がいつもより赤くして、あたしに話しかけた。
「きゅう、僕はここを出ないといけないんだ。」
どういう事なんだろう?少し前は、毎日のように出かけてたのに、わざわざ言わないといけないことかな?
「...って、言ってもわかんないか。」
あたしは、この時事の重大さをわかってなかった。
次の日から、おにーちゃんは朝から慌しかった。
いつも、あたしに構ってたのに、あたしに目もくれず、何かをしてた。脚を使って、大きな音を立てても
「ごめんね...」
って悲しそうに言うだけだった。
それから、おにーちゃんの物はどんどん無くなっていった。おにーちゃんがいつも代わる代わる変えてた「服」。時々外から持って来て、楽しそうに見てた「マンガ」。たまに、イラつくあたしよりちっさいアイツが出て来る「パソコン」。日を重ねる事に物は無くなっていった。元々、そんなにおにーちゃんの物は無かったけど、最後は全部が無くなった。全部無くなった後のおにーちゃんは、本当に悲しそうだった。
そして
「きゅう、きゅうは連れていけないんだ...。きゅうはここで元気にしててね...。父さんと母さんと仲良くするんだよ...。さよなら...。」
そう言い残して、おにーちゃんは居なくなった。「連れていけない」?「仲良くする」?「さよなら」?今まで聞いた事がない言葉を言ってた。けど、心の何処かで嫌な予感がした。
その予感は的中してしまった。
おにーちゃんはあれから帰って来なかった。
食べ物をくれる子が「ママ」?に変わった。
あたしに近づくのはおにーちゃんじゃなくなった。
おにーちゃんの匂いはどんどん薄れていった。
まるで、おにーちゃんは最初からいなかったかの様に。
寂しい。
いつ帰って来るんだろう?次起きたら、おにーちゃんがいるんじゃないか?いつになったらまた抱っこして撫でて貰えるんだろう?
でも、考えてるだけで、何も変わる事はなかった。
寂しい。
... ... ...
居なくなってから、何度寝て、何度起きたかもう数えられなくなった時。それでも忘れる事はなかった。出来なかった。その頃にはおにーちゃんが居なくなる時に言った言葉の意味を理解した。出来てしまった。
寂しい。
何故、こうなってしまったんだろう?
そんな事を考え始めた。でもあたしには、どうすればいいか分からなかった。寂しい。
そういえば、おにーちゃんは昔、自分じゃダメみたいな事を言っていた。
なんでだろう?
寂しい。
... ... ...
その日の夜はいつもと違った。「月」が赤かった。
「月」...。あそこにはあたしの仲間が住んでるらしい。そんな事をおにーちゃんは言ってたっけ?もう、何を見ても思い出してしまう。
おにーちゃん。
いつまで、帰って来ないつもり?
なんで、あたしを連れて行かなかったの?
もしかして、あたしを捨てた?
あたしが、あたしが、弱いから?
あたしが、「うさぎ」だから?
こうしてるうちに外の他の子に「かわいい」って言ってるかもしれない。
探さなきゃ。見つけて、ずっと一緒にいられるようにしなきゃ。
まずはここから
「出なきゃ。」
その時、細長い茶色の生き物が後ろから、口からベロをチロチロさせながら現れた。その子の目が光ったら、
ギギギギ、バキン!ッギギギ!
邪魔な「ゲージ」を取っ払ってくれた。
シュー
この子は私の尻尾があった所から生えてた。つまり、あたしだ。
「ゲージ」から出たあたしは、外に出ようと「窓」の近くに行った。
おにーちゃんはここから外が見えるって言ってたけど、ここから外に出る事はなかった。
「窓」には「尻尾が細長いうさぎ」が写ってた。あたしだ。
このままだとまた連れて行ってもらえなくなる。捨てられる。
まずは、大きくならなきゃ。おにーちゃんと同じくらいに。いや、おにーちゃんより少し大きい方がいいかもしれない。その方が捨てられなくなる。
グググ...
でも、これじゃ「かわいくない」
そういえば、あたしよりちっさいヤツにデレデレしてたな。
「あの子みたいになればいっか。」
そこにはアイツにはそっくりだけど、色はあたしの色のままで、おにーちゃんより少し大きい子が立ってた。
もう、元のあたしとは全然違うけどおにーちゃんは分かってくれる。だって今まで喋れなくても分かって貰えたから。しかも、今は喋れる。絶対分かって貰える。
「じゃあ、探しn「だ、誰だ!」
そこには「父さん」とその背に隠れる様に「ママ」が立っていた。
「あ、そっか。そういえば居たね。今からおにーちゃん探しに行くの。邪魔しないで貰える?」
「な、何言ってんだ!警察呼ぶぞ!」
「...やっぱり分かってもらえるのは、おにーちゃんだけなんだ。」
「な、何言ってんだ?母さん通報だ!警察を呼ぶぞ!」
「そ、そうね。」
「邪 魔 し な い で。」
「...はい。」
「...分かりました。」
本当は死んで貰いたかったけど、一応食べ物をくれてたから“お願い”して黙って貰った。もう行かなきゃ。こうしてるうちに他の子の所に行っちゃうかもしれない。
でも、どうやって探そう。考えてなかった。匂いなんて残ってない。外はうるさいから音も頼りない。じゃあ、探す子を増やせばいいか。
まず、沢山いなきゃいけない。数がなきゃ探す事もままならない。
次に、かわいくない子にしなくちゃいけない。
最後に、あたしよりずっと弱い子にしなくちゃいけない。
「あー、ピッタリの子が居るじゃない。」
おにーちゃんが見つけたら叩いて倒そうとするくらいに嫌いな「虫」がそこにはいた。
「ねえ、あたしの為にあんたの家族みんなで、おにーちゃんを探してくれない?見つけたらあたしに教えてね。」
「虫」はそれを聞くと即座に動いた。「家」中から、外から何かが一斉に動く音が聞こえた。
「気持ち悪い...。」
「虫」に対して心の声が漏れた。でも、あの子達はとっても従順みたい。いい手駒になりそう。
さあ、あたしも探しに行かなきゃ。
「待っててね。おにーちゃん。」
きゅう
元は浩介が飼ってたうさぎ。明るい茶色のネザーランドドワーフイメージ。連れて行かなかったから、妖怪になった。ヤンデレうさぎ。かわいいね。
実は、「きゅう」と言う実在する妖怪モチーフ。尻尾は蛇、鳶の目に、嘴を持ってて、「きゅう、きゅう」と鳴くから「きゅう」と言う名前がついたそうな。現れるとその年は害虫が大量発生するんだとか。人間にバレそうになると寝て誤魔化す習性があると言う。
今作では害虫の凶兆どころか虫自体を操り、インペリオみたいな妖術を使うとんでも妖怪になっちゃった。多分他の妖術もしれっと使えるんじゃないかな?それもこれも全部浩介が悪い。多分。
今日は長かったでしょ?全部読んでくれて感謝ですわ。次もよろしくお願いします。