「ふざけんじゃねえ!ここまでやるのかよ・・・蒼真てめえ、必ずぶっ殺してやる」
深夜の公演で、右肩と左膝を対角線上に壊され起き上がることも出来ずにのたうち回りながらも目の前の男に罵声を浴びせた。
「そんな怖いこと言わないでくれ、そっちが仕掛けてきたんだろ。」
蒼真と呼ばれた男は仕掛けてきた相手を見ずに心底めんどくさそうにその場を離れようとした。
「うるせえ!どうでもいい、こっちはてめえにやられた仲間のケジメつけなきゃならねえんだよ!」
残った手と足で無理やり立ち上がり、再び襲いかかったが直後に脇腹に右腕を肘から圧し折るような左ミドルキックからそのまま流れるように下がった顔面に顎への左肘打ちを叩き込まれた。
飛びそうになる意識を口の中を肉を噛み千切りながら歯を食いしばって耐えて、頭突きを狙おうとするもキャッチされ頭を捕まれた。
そのまま何度も膝蹴りを叩き込まれながらも、頭を強引に持ち上げ、頸動脈に噛み付こうとした。
その瞬間再び肘で無防備な顎を打ち抜かれて今度こそ意識を失った。
「バカというか何というか、でもどんな理由であれ仲間のために闘うことが出来る奴は嫌いじゃないんだけど、コレ救急車呼んだら俺が傷害で捕まるな、スマホ割れなくてよかったわ。」
蒼真は男を抱きかかえるようにしながらスマホを取り出してに電話を掛けた。
「もしもし、叔父さん、車出して欲しいんですけど?場所は・・・・」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
〜翌日〜
「痛ってえ、まじでクソが!」
全身の痛みでベッドから跳ね上がるように飛び起きたら、更に痛みだした、痛すぎて何処が痛いのか分からないし、どこに連れてこられたかも分からないが手当されているのはわかった。
「起きたか?ここ病院な、死にかけてたから叔父に車出してここ迄運んでもらったんだよ。」
「ハァ?何でアンタが、痛っ!」
「デカイ声は出さないほうがいい、お前口の中で肉噛みちぎってんだろ?」
少し深呼吸して痛みが落ち着くのを待ちゆっくりと口を開く
「なんでアンタが、俺の事助けてんだよ、仕掛けたのはこっちだろ。」
「放っておいたら死んでたろうし、救急車呼ぼうにも傷害で捕まったら、俺のプロライセンスの取り消しが確実だからな、後は仲間の為にあそこまでやろうとする奴、俺は嫌いじゃない。」
「それはあんたが、俺等白夜叉のメンバーを無差別に襲っていたからだろ」
その言葉に蒼真は動じなかったどころか、首を傾げながら
「いや、バイト帰りにお前の仲間がオヤジ狩りやってるところに通りがかって、口封じにしばかれるか、金をわたしてからしばかれるかどちらか選べって聞かれて無視したら襲われたから撃退しただけだ、その逆恨みかしらねえけどお仲間から狙われてまた撃退した後に、お前に襲撃された、それだけの話だよ。」
淡々と返された言葉に頭を抱えたくなるが痛みで体が上手く動かない。
「アイツら言ってることが違うじゃねえか、あんたの言ってることが本当なら、彼奴等全員ケジメをつけなきゃならねえ・・・俺を含めて。」
「ケジメの前にお前入院費払えるの?保険とかないみたいだけど。」
やべえ、頭の中が真っ白になる
「怪我させたのは俺だから、病院代は保険無しでも俺の所が持つけどな、ケジメつけるんならボスの連絡先教えろ、俺が挨拶に行く。」
ボコボコにされて、病院代も肩代わりされた上にボスにケツを拭かせる事を考えると、プライドがズタズタどころではない
「俺にも特攻隊長のメンツがあるんだよ。」
「そんなチンピラのローカルなメンツなんて知るかよ、お前はこれから白夜叉ってチームを抜けてまっとうに働くんだよ、社会に出て労働の喜びと有り難みを知るといい。」
「はあ?」
「はあ、じゃないお前が俺に対して果たすべきケジメだ、教えなきゃ調べりゃいい話だからな、んでそういやお前の名前は?俺の名前は一方的に知っていたみたいだけど、そんぐらい答えてもいいだろ?」
蒼真の問に秀一は舌打ちした
「高槻、高槻秀一(たかつきしゅういち)」
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一ヶ月後
「高槻秀一君ね、秀ちゃんで良いかしら?」
「ういっす」
「ういっす、じゃねえよ返事はハイだろ、俺に恥をかかせんな高槻。」
隣りにいた蒼真から注意された
「返事できるだけ良いじゃない、なっちゃん。じゃあ、今日から住み込みでバリバリ働いてもらうからね秀ちゃん」
女将さんになっちゃんと呼ばれた蒼真はやりづらそうだった。
「ハイ、よろしくお願いします。」
あの喧嘩から一ヶ月後、秀一は退院直後に蒼真に連れてこられた商店街にある奴の知り合いの小さな焼肉屋で働く事になった。
ボス名義で持っていたスマホを蒼真に没収されたせいで、白夜叉の仲間とはあれから連絡は取れていない、確かな事は蒼真の交渉がボスに通って白夜叉から抜けることになったと言う事だった。
どういう交渉をしたのかは蒼真は話そうとしなかったが、交渉の数日後に顔を腫らして見舞いに来たのは覚えている。
少し考えていると女将さんが
「ハイハイ、ぼーっとしないの、これから離れに案内するから、ついてきてね。」
離れに行こうとする直前に蒼真が
「じゃあ女将さん、俺は帰ります。」
「もうちょっとゆっくりするついでに、ご飯ぐらい食べていけばいいのに。」
「そろそろ、この辺りの学区も授業が終わって外出してこの辺に来るのも増えてきますから。」
「ああ、この辺りはよく来るからねえ、商店街のお得意様だから彼女たちは。」
「そういうことです。」
「なっちゃん顔が良いんだからちょっと声かけて2、3人引っ掛けて店に連れてきなさいよ。」
蒼真はため息をついた
「ご冗談を、彼女たちは学生でありアスリートであり、レースと学業が本分です。そんな暇はないでしょう、俺も同じくキックボクサーですから殴り合いが本分ですからそんな暇はない。」
「なんでそんなにウマ娘を避けるのよ、なっちゃん。」
「俺達みたいなマイナースポーツやってる連中からしてみれば、超えられない壁ですから、彼女らは、身体能力も容貌も圧倒的に人を上回ってレースも華やかで、どうしても影に隠れてしまうのを実感してしまうので。」
「そりゃあ見た目は可愛い子ばかりだけど、普通の女の子と変わらないんだけどねえ、街のアイドルみたいなもんよ。」
「バールで仕事してるときはお客で来たら普通に対応しますよ、それじゃあ帰ります。」
女将さんとの会話を終えて蒼真は帰っていった。
女将さんから裏手にある離れに連れてこられた古いがそれなりに広く庭もついていた。
「家賃は2万で給料から天引きさせてもらうからね、それと食事は家で出すから気にしないでいいからね。」
蒼真の紹介とはいえ、初対面の自分を引き受けてくれた女将さんにちゃんとお礼を言わなきゃと自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直す。
「女将さん、こんな俺を引き受けてくれて有難うございます、だから俺、頑張ってみます。」
最敬礼で女将さんに挨拶すると女将さんは笑って
「良いのよ、ここで頑張ってればきっと良いことあるから、今日の仕事はうちの店の味知ってもらうために今日は腹いっぱい食べてもらう事とうちの子たちと遊んでもらおうかね、ちょっと待ってな。」
女将さんは店の方へ行き二人の低学年位の男女を連れてきた。
秀一を見た瞬間
「でけえ、すげえでけえ!」
そりゃあそうだ187cmの90キロと秀一はかなりデカイ。
秀一の様なデカい人間を見ると大抵の人間は怖がるか離れるかだったので、この反応は新鮮だった。
蹴ってくるし棒立ちになったところによじ登ってくる子供達をどう扱えばわからない、降りられないと頭にしがみついて離れてくれないのでしゃがんで下ろしてやった。
ゲーム機とかスマホとかそういったのは店にあるんだろうが、外で遊べって意味だと考える
子供が好き嫌いではなく禄に遊んだことがない。
施設でも体がデカかったのとイジメやってた奴らをぶっ飛ばしたら避けられていたし、施設でも学校でも喧嘩していた思い出しか無い。
精々やってたことは殺るか殺られるかの鬼ごっこぐらいのもんだったので、手加減しながらその要領で追いかけましわしてみると、スライディングやら何やらで器用に躱されてしまう。
2時間ほど振り回され、退院したばかりの身としてはかなり疲れた。
その後に大将と女将さんとその子供たちと食べた夕食は美味かった。
このお話は蒼真流がトレセン学園でジム管理人になる数年前、中卒ボンクラアウトローこと高槻秀一が社会復帰し中央でトレーナーを目指す話。