アウトローと雪の華   作:なっぞのひと

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再構成で再投稿です。


2.迷いウマは大食いの芦毛

 

「秀ちゃん!一番卓にビール一本!」

 

「ういっす!一番卓にビール一本!」

 

肉の焼ける匂いと、七輪の熱気で汗が止まらなくなりそうな中、秀一は店の中を忙しく動き回っていた。

 

「四番卓上カルビとロース追加で!」

 

「ういっす!上カルビとロース!」

 

働くことは意外に悪くなかった、というより暴力の世界の外は意外と優しかった。

 

暴力のスリルという意味では刺激的ではないが、暴力のない毎日も面白いことが多くまた違った意味で刺激的だった。

 

今日は休日で昼営業があるので、回転準備で店の裏手で七輪に火を入れていた。

 

 肉の仕込みで余った小さいホルモンや固いスジの部分と昨日の余りの肉を秘伝のタレに一晩漬けたものを網に載せて焼いていく。

 

賄い飯として朝から焼肉が食えるのは実に有り難い、健康的とは言い難いが。

 

肉の焼ける匂いが胃袋と唾液腺を刺激してくる。

 

 女将さんから習った直火で炊いた二合炊きの土鍋飯を茶碗に盛る、しっかり炊けたから米が立っている。

 

 ビールケースとコンクリブロックを机と椅子代わりにしていざ食事と思ったら、塀の裏からクソでかい地鳴りの音みたいなのが聞こえてきたので、白い髪が腰ぐらいまで伸びたトレセン学園のウマ娘が居た。

 

 なんか困った様に周囲を見渡してからまた凄い地鳴りのような音が聞こえた、震源地はこのウマ娘だろうか。

 

 ストリートレースによく居るアウトローのウマ娘とはいくらか面識があったが、純粋な学生としてのウマ娘を見たのは数えるほどしかなかった。

 

 休みは平日で昼間しか外に出ないし、学園生達が外に出る時間は焼肉屋でずっと働いているせいか、トレセン学園のお膝元の商店街でも学園生とニアミスする事は殆どなかった。

 

 (この音は絶対こいつだな、腹減らすのはキツイよなあ、施設でよく喧嘩してご飯抜きのペナルティー喰らってたっけ。)

 

「なあ、あんた腹減ってんのか?」

 

気がついたら声をかけていた。

 

「ああ、駅の近くのウマーバックスに向かっていたんだが、気がついたらこんな所にきてしまったんだ。そうしたら肉の焼けるいい匂いがして…お腹が空いてきた。」

 

「駅前のウマバって、全く逆方向だろ…。」

 

「そうなのか済まない、都会の道は何処も同じに見えてわからなくなるんだ。」

 

 (迷子な上に腹空かせてんのか、しゃあねえな道教えてもわかんねえだろうし困ってんのを放っておくのもだめだろ、声かけたんだし。)

 

「しょうがねえな、俺がウマバまで案内してやるよ、後な、腹空かせてんなら飯食ってくか?俺の賄い飯でよけりゃあ喰うとい。」

 

ウマ娘の耳が動いてる。

 

「いいのか?でもタマが知らない人に付いて行くのは駄目だめだと。」

 

  一般常識としてはとうぜんであり、状況が状況でなければやってることはナンパとかわらない、ウマ娘は外見が良いのと、眼の前のウマ娘は天然と言うか無防備すぎるから尚更だ。

 

 邪な考えを持つ奴は居るだろう、タマってのは面倒見が良いんだろうなと秀一は考えた。

 

それならば知っている人になれば良いと自己紹介してみることにした。

 

「高槻、高槻秀一、表の焼肉屋の萬服(まんぷく)で働いてる、でアンタは?」

 

「私はオグリキャップ、宜しく頼む高槻。」

 

「じゃあオグリさんで、もう知らない人じゃないな。」

 

「確かに、お互いに自己紹介したなら知り合いだな。」

 

「じゃあ、オグリさん店の裏手行こうか。」

 

オグリを店の裏につれて行くと、最初に七輪に載せていた肉と野菜が焦げていた。

 

「やっちまったな、勿体ねえが。」

 

焦げた肉と野菜を片付けると、再び肉と野菜を七輪に乗せ始めた。

 

ジュージューと肉汁と脂の匂いとタレの焼ける香ばしい匂いが食欲を唆る。

オグリさんは表情にこそ出ていないが、耳がよく動いている

 

「もう少ししたら焼けるからな、それまで待ってな。」

 

「高槻だったな、この焼肉は本当は君の食事じゃないのか?どうして私に出してくれるんだ」

 

肉質こそ良いが乱雑に切り分けられた肉を見てオグリキャップは申し訳無さそうにしていた、腹が減っていても他人の食事を奪ってまで食べようとは思わない

 

「道に迷った挙句、腹を空かせた奴に声かけておいて放っておくのはいい気分じゃない。」

 

割り箸で肉をひっくり返してやる。

 

「あとガキの頃は施設に居てよくやらかして罰として飯を抜かれてたから、暗い部屋で一人腹を空かせてる時の辛さはなんとも言えないからな。」

 

「君は悪い人間なのか?そうは見えないが」

 

「昔は喧嘩ばかりしててな、今は更正生活を頑張ってるところさ、受け入れてくれた此処の大将と女将さんの為にも。」

 

「そうか、きっと更生できるさ。」

 

焼けた肉と丼にご飯を盛り付けてさしだすと、突然スマホが鳴ってオグリが出た瞬間関西弁の怒声がきこえた

 

『コラ!オグリ、アンタ今どこにおんねん!?』

 

「ああ、タマか今、高槻の所で焼肉をたべさせて貰ってる所だ。」

 

『高槻って誰や!?オグリ!アンタあれ程知らん奴について行くなと言うたやろが!』

 

「高槻は知らんやつじゃないぞ、ちゃんと自己紹介をして貰った。」

 

『そうやなくて、そいつが悪い奴やったらどないするんやと言う話や!』

 

「高槻は更生中だから悪い奴じゃないぞ。」

 

『ああ、もう!埒が明かんその高槻って奴に替われや!』

 

オグリさんからスマホを受け取った直後。

 

『おい、アンタ!オグリに声かけてナンパでもするつもりやったんか!?オグリに手ェ出そうもんなら、ウチが許さへんで!』

 

やっぱり、言われるよな気持ちはわかる。

 

「いや、オグリさんがうちの店の裏に迷い込んできて腹鳴らしてるのが聞こえたから、俺の賄い飯を出してるだけだよ。」

 

 

『うちの店って事は、アンタ飯屋か何かか?』

 

電話越しの相手の声が少し落ち着いてきた。オグリさんは肉や野菜を取って自分で食べている

 

「そうだよ、商店街のハズレの萬服って店で働いてる、これから賄いを喰おうって時に腹の音が聞こえて外出たら、困った顔してうろついてるオグリさんが居てほっとけないから声をかけた。」

 

『萬服か、じゃあナンパとかそういうのやないんやな。』

 

「ないない、これから仕事でバンダナにエプロンだしね、ナンパするつもりならもっとお洒落して洒落た店に誘うよ、だがこっちも更正中で仕事前だしそんな暇はねえよ。」

 

『あー、オグリの世話してもろうてたのに、変なこと言うてもうて、ホンマ、すんません。』

 

「大事な友人だろ、心配する気持ちはわかるよ、状況が状況だし疑われても仕方ない」

 

ちょっとバツが悪そうにしていたので笑って答えた。

 

「むしろ、待ち合わせしてたんなら放っておけないとは言え、そういう事を確認しなかったこっちのほうが悪いだろ、心配をかけさせるような事をして此方こそ済まねぇ。」

 

『それはお互い様や、ウチも心を鬼にしてオグリを一人で行かせとるからな学園から真っ直ぐなのにどこをどう歩いたんやホンマに。』

 

「お互い様と言ってくれてありがとな。で、俺が店に事情話してからウマバまで連れていくかい?」

 

『いや、アンタにそこまでさせるのはアカン、アンタこれから仕事なんやろ?ウチがオグリ迎えに行くわ待っとってくれ、焼肉萬服やな。』

 

確かにその方が有り難いな、電話が切れた直後オグリさんがまた呼びつけてきた。

 

「高槻、お替りはないのか?まだ食べたり無いんだが。」

 

「全部喰ったのか、んでまだ足りないのか・・・」

 

「すまない、とても美味しかったんだ。」

 

美味しいなら仕方がないな。

 

「じゃあ、カレーがあるな余った細かい肉だけを集めて煮込んだ奴が米は俺が食う前だった冷えたのだけど、冷えた飯に熱々のカレーも中々だぞ。」

 

「ああ、頂こう」

 

(遠慮なく食うなあ、そして実に美味そうに喰っている、そして俺の飯はたぶん夜の賄いまで無い。)

 

こんだけ美味そうに喰ってるなら、まあ良いかと思ってしまう、そして裏手に女将さんがやってきた。

 

「秀ちゃん、そろそろ時間だから開店準備しようか?」

 

女将さんはオグリをみつけると

 

「あら、オグリちゃんじゃない何でここにいるの?」

 

 秀一は女将さんにオグリさんが裏路地で迷っていた事と腹を空かせていたのを見かねて裏手で自分のまかない飯を与えていた事ともうすぐ友人が迎えに来る事を話した。

 

「秀ちゃん、こういうときは私か旦那にちゃんと伝えて頂戴、この娘兎に角沢山食べるんだから、あなたの賄いだけじゃ足りないわよ。」

 

「ういっす、たしかに凄え量喰ってますね。」

 

3合の飯と大鍋一杯分のカレーとか500グラムの肉がすぐに消えたからなあ。

 

カレーを食べ終わったオグリさんが女将さんを見て驚いた。

 

「女将さんじゃないか、ここは女将さんのお店だったのか、ということは高槻はここの店員なのか。」

 

「そうだよ、久々だねこの子は新人の秀ちゃん、よろしくね。」

 

「高槻、さっきも話したけどここの店員、宜しくもう少ししたら。デカい関西弁のお友達が迎えに来るってさ。」

 

「そうか、タマが迎えに来るのか、色々とありがとう。」

 

10分ぐらい女将さんとオグリさんが会話していると大将が小柄なウマ娘を連れて裏にやってきた、多分この小さいのがタマさんか?その小柄なウマ娘はオグリに真っ先に駆け寄った

 

「オグリ、ホンマにスマンかった、心を鬼にして一人で先に行かせるべきではなかったわ、でも知らん奴に着いてったらアカン言うたやろ!」

 

怒られてるのにオグリさんはそれでもご飯から手をはなさない。

 

「それに関してはオグリさんは悪くないよ、最初は知らない人には着いて行かないってのは守ってたんだ、電話でも話した通り、そこを俺が連れてきた。」

 

そのウマ娘は秀一を見て驚いていた、そりゃあ190近い体格である。

 

「アンタが高槻でええんか?なんかでっかいな、2mぐらいあるんとちゃうか?」

 

「俺は187センチだよ、2mもないよ、あんたがオグリさんのお友達のタマさんでいいのか?」

 

「自己紹介遅れたわ、ウチはタマモクロス、この度はオグリの奴がお世話になりました。ホンマにありがとうございます。」

 

自分とそんなに年齢は変わらないのにしっかりしているなあと思ってしまう。

 

「ご丁寧にどうも、高槻秀一です。というか、オレとそんなに歳は変わらないと思うからそんなに畏まらなくてもいいよ。」

 

「なんや、アンタデカイのに高校生なんか?」

 

それなら、あんたそんな小さいのに高校生なのかと返したくなったが胸の中にしまっておく。

 

「いや、中学校は途中で行かなくなってるから正確には小卒だな、ちなみに捨て子で施設育ちだったから正確な歳はしらねえ。」

 

タマモクロスは気まずそうな顔になり、女将さんと大将は驚愕していた、話してないもんな。

 

オグリさんは飯を喰ってる。

 

「あー…なんかスマン。」

 

「いやいや、何だかんだで昔も今も楽しく過ごせてるから問題ないよ、女将さんと大将は俺の事受け入れてくれてるし。」

 

フォローは入れたけど難しい。

 

「俺の周りだとそう珍しい事じゃないさ、それよりも偶にで良いから店に喰いに来てくれよ、オグリさんや他の友達つれてさ、年の近い話し相手があんまり居ねえんだ。」

 

「おおきに!今度はみんな連れてお客さんとしてお邪魔させてもらうで六平のおっちゃんのカードで。」

 

タマモクロスも此方が話を反らしたことに合わせてくれた

 

時間的にそろそろ店を開けなきゃいかん開店15分前だ。

 

「ウチも店開けなきゃいかんけど、そっちはウマバ行かなくて良いのかい?」

 

「せやな、ちょいと長居しすぎたわ!おい!オグリ!いつまでも喰うてないでウマバ行くで!大将と女将さんと高槻またな!」

 

タマモクロスはまだまだ飯を喰いたそうなオグリさんを店の外へ引きずって行った。

 

 

タマモクロスとオグリが去った後、大将と女将さんは神妙な顔で秀一を見ていた。

 

捨て子だった事は話していないというか、蒼真から紹介されたときも何も聞かずに引き受けてくれたので、話すタイミングが遅れてしまったのはまずかったかと思った。

 

普段ほとんどしゃべらない大将が珍しく口を開いた。

 

「秀一、ウチの息子にならないか?」

 

「あら、良いわね秀ちゃんいい子だし、あの子達も懐いてるし良いと思うわ。」

 

 突然の申し出で驚く秀一と裏腹に、大将と女将さんの夫婦はノリノリだった。

 

「嫌だってんなら、それはそれでしかたないが、お前の将来のために身元保証人は必要だろ。」

 

「そうよ、それに家族や帰る家だって必要でしょ?」

 

施設ぐらしで白夜叉に拾われてから施設にも戻らずたまり場で仲間と暮らしていた秀一はどうして良いのかわからない気分だった

 

「俺、女子供に手を出すような事や薬とかエグい事はしてないっすけど喧嘩ばかりやってきたクズですよ?」

 

「でも更生中でしょ、それになっちゃんが連れてきた子だからそんなどうしようもない子じゃないと私は信じてる。」

 

女将さんは秀一に対して優しく行った

 

「気持ちは嬉しいけど、なんというかそんな事されても何も返せないっすよ。」

 

 

「恩送りって言葉知ってるか?秀一」

 

 

「知ってるわけ無いでしょ?俺、小卒なんだから。」

 

 

大将の言葉に学のなさで返した。

 

 

「俺達に何も返さなくてもいい、お前が恩を感じたのなら、その思いを誰かの為に使ってやれ。」

 

 

「そうっすか、でも俺は誰かの役に立つこととか出来るんすかね?」

 

 

「そうだな、俺達の家族になって全うに暮らせ、それから考えれば良い。」

 

 

秀一は少し考えた

 

「あー・・・よろしくお願いします。」

 

 

「よし!そうと決まれば明日から役所で手続き始めないとね、秀ちゃんはご飯食べて七輪に火を入れな!」

 

 

家族というものはよくわからない秀一だったが、受けた恩は誰かに報いたいその気持ちは本物だった。

 




前に投稿した番外編を再構成しました。

ただでさえ遅筆なのに2つもかけるのか心配になってきました。
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