「ミューズさん!聞いてますか!出番まであと2組ですよ?」
私に話しかけるこの少年と出会ったのはもう十年も前のこと、彼が5歳のときに出会った
十年前、私は音楽の素晴らしさを広めるために旅をしていた
「さすがに疲れたわね、今日はこの宿に泊まろうかしら」
1日の疲れを休めるために宿を取り部屋に入る
この宿は後ろには森があり窓からの眺めは最高だった
「大きなお庭があっていい宿ねー、ここならいい曲が作れそうだわ!」
窓の前に椅子を持ってきて視覚と聴覚を研ぎ澄ませる
「〜♪」
その時微かに、自然のものとは違う音をミューズの耳が捉えた
「あら?なんの音かしら……」
目を閉じ、耳を澄ませる
「これは…………ピアノ?」
聞こえていたのはどうやらピアノの音のようだった
「でもこれ曲を弾いてるわけじゃなさそうねぇ......」
聞こえている音にリズムは無い、弾き方は乱雑だ
でも、その中にミューズの心に引っかかる何かがあった
「うーん.......誰か引いているのか気になるわねー.....探しに行きましょうかね........ 」
ミューズは宿を飛び出し裏山の方に駆け出していく
「音がなっているのはこの辺ね......」
木に隠れ音が鳴っていた方をみると古ぼけたピアノのとその前に小さな男の子が座っているのが見えた
「髪が長くて表情がよくわからないわね........あっ!」
どうにかして表情を見ようと悪戦苦闘していると不運にも木の根に引っかかりそのまま男の子の前に倒れ込んでしまった
「イテテテテ.........あ、どうも............」
「お姉ちゃんこんなところでなにしてるの.........?」
「え、あ、うーんと、虫取り虫取り!」
「ほんと.......?」
男の子はジト目でこちらを見つめてくる、まぁこんな風貌で虫取りなんてするわけないしなぁ.........
「あ、あはは........そ、そんなことより!このピアノは君のものなの?」
「ぴあの......?なにそれ?」
「え.....もしかしてピアノしらない.....?」
「しらないよ、どんなものなの?」
「えっとね......今君の前にあるやつ.......」
「え......これ?これピアノっていうんだ.........でもこれってどうやって使うの?」
「使い方もわからなかったのね.......いいわ!私が教えてあげる!ちょっとそこで見ててくれる?」
「うん、わかった」
男の子が座っていた椅子に腰掛ける
椅子の感じからしてここに置かれてかなり時間が経っているようだ
(ちゃんと音なるかしら.......まぁ大丈夫でしょ)
軽く鍵盤を鳴らしてみる
ちゃんと音が鳴るようだ
「それじゃ、いくわよ!」
男の子にそう言って鍵盤を弾く
弾いてる曲はさっき風景を見ながらイメージした曲だ
ミューズが奏でる1音1音は、鳥がさえずり、風が木々を揺らし、水滴が地面を打つ、そんな雄大な自然の風景を感じさせるものだった
男の子の方をチラリと見る
男の子の目は輝いていた、音楽に感動している目だ
(いい目してるじゃないの!音楽の素晴らしさを理解してくれてそうね!)
曲が終わり男の子に話しかける
「ねぇ、どうだった?」
「すごい.......すごかった!お姉ちゃんすごいよ!僕もお姉ちゃんみたいになりたい!」
男の子は目を輝かせてこちらを見る
「ふふ、いいわよ!音楽の素晴らしさをもっともっと教えてあげるわ!」
その日から男の子との日々は始まった
指導を始めてからというのものの私は彼に驚かされ続けた
彼は天才だったのだ
私が教えたことをすぐにやってのけた
おそらく彼に匹敵するピアニストは今も未来も過去もいなかっただろう
彼の才能をもっと世界に知ってほしかった私は彼を大会に送り込んだ
街で行われる小さな大会だったけど彼は自信満々だった
勿論彼は圧巻の演奏をしてそこで優勝した
彼の実力は世間に知れ渡ることになった
それからも様々な大会に出場し実績を残し続けた
そしてついに、彼は世界一権威ある大会に出場することになったのだ
大会の前日、自分は音楽の神様であることを彼に伝えた、音楽の素晴らしさを広めるためにこの世界にいることも
私は彼にこういった
「あなたの演奏は人々の心を動かす力がある、あなたが演奏することは私にとっても幸せなのよ?だから頑張ってね!」
彼は
「ミューズさんのために僕も音楽の素晴らしさを世界中に広げます!」
そう言ってくれた
私はとても嬉しかった
でも
でも
彼が大衆の前で演奏すると胸の奥がムズムズする
彼の音楽が世界中に広がることを考えるとムカムカする
彼が他の女に褒められているのを見るとイライラする
なんでだろう
なんでだろう
なんでだろう
[newpage]
「ミューズさん!」
「あ、ごめんごめん!どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ、あと2組で出番なんですよ」
「なんだ、そんだけじゃないの.......あなたなら大丈夫よ、絶対に.......なに?緊張してるの?」
「そんなんじゃないですけど........その........」
「ほらぁ!緊張してる!絶対に大丈夫よ、あなたは天才なんだから!」
「ですよね........大丈夫ですよね!」
「大丈夫よ、ほらもうあなたの番よいってきなさい」
そういって彼を送り出す、胸の奥がムズムズするが気の所為だろう
席に戻る帰りに二人の女にすれ違った
「ねぇねぇ!次の出番の人めちゃくちゃイケメンじゃない?ピアノも上手いし!私は狙っちゃおうかなぁ」
「あんたじゃ無理よ!私が行くんだから!」
彼女らの話を聞いた私はムズムズが大きくなるのを感じだた
なんでムズムズするの?
彼が褒められてるだけじゃない?
なんで、なんでなの?
なんで私は彼の演奏をみんなに聞いてほしくないの?
そう思いながら自分の席につく
ちょうど彼の演奏が始まるところだった
彼が選んだ曲は私と彼が出会ったときに私が弾いた曲だった
彼が鍵盤に手を伸ばした瞬間から会場の空気がガラリと変わった
彼の鳴らす1音1音に皆の心が突き動かされる
柔らかく、そして力強いそんな音だ
良い
彼の鳴らす音は素晴らしい
その時彼がこちらの方をちらりと見た
とても楽しそうな目をしている
彼が幸せそうという事実だけでいい気持になれる
でも、それと同時に
とても胸がムズムズする
なんで
なんでなの?
自分が教えた彼が音楽の力でみんなを幸せにしている
素晴しいことなのに
なんで!なんで!
なんで私はみんなに彼の音を聞いてほしくないの?
なんで私は彼が有名になればなるほどモヤモヤするの?
もしかして
私は彼を独り占めしたいの?
そんなわけない!
私の使命は音楽の力でみんなを幸せにすること!
でも、でも..........
私は彼を独り占めしたい......
彼の演奏は私だけのものにしたい.......
その時彼の演奏が終了したようで、観客みな総立ちで割れんばかりの拍手が彼に送られた
私はそれが雑音にしか聞こえなかった
[newpage]
僕がミューズさんと出会ったのは十年前のことだ
幼い頃の話なのであまり良く覚えてないがピアノの前に一人でいたところに声をかけられてピアノを教えてもらったらしい
物心ついた頃からミューズさんとずっと一緒だった
家族がいなかった僕にとってミューズさんは初めてできた家族だった
彼女は不器用だけどいつも元気いっぱいで一緒にいると楽しかった
初めての大会の時僕はとても緊張していた
その時控室で彼女がピアノを引いている音が聞こえた
僕はその音にとても勇気づけられて自信がでてきた
僕はその大会で優勝した
大会が終わってからは色んな人や音楽家と関わりを持つことになって色んな演奏会や大会にも招待されるようになった
そしてついに世界で最も権威のある大会に出場することが決まった
出場が決まった日僕と彼女は抱き合って喜んだ
でも少し彼女は複雑そうな顔をしていた
大会の前日、彼女から自分は音楽の神様であること、音楽の素晴らしさを広めるためにこの世界にいることを教えてもらった
「あなたの演奏は人々の心を動かす力がある、あなたが演奏することは私にとっても幸せなのよ?だから頑張ってね?」
彼女にそう言われた
僕は嬉しかった
僕がみんなに音楽を届けることが彼女の幸せにもなるんだから
僕は絶対に優勝することを誓った
そして今日、大会本番
僕の番がきた
少し緊張している
でも僕ならきっと大丈夫
だって彼女が大丈夫って言ってくれたから
選んだ曲は彼女と初めてあったときに彼女が引いてくれた曲
この曲だけはずっと頭の中に残っている
一礼し椅子に座り鍵盤に手を伸ばす
目を閉じ故郷の街の風景を思い浮かべる
大丈夫だいけるさ
ふっと微笑み鍵盤を弾く、彼女との思い出が頭の中を駆け巡る
彼女に教えてもらった記憶、彼女と話した記憶、彼女と旅をした記憶
様々な記憶が駆け巡る
あぁ、楽しい
音楽は素晴しい!
みんなを一つにする力がある
音楽で世界を一つにできる!
夢中で鍵盤を弾く、チラリと観客席の方をみる
彼女の姿が見えた
彼女は微笑み返してくれた
夢中で鍵盤を弾く
もう曲が終わってしまう
会場を見渡すと泣いている人もいた
僕の音楽が人の心を動かしたんだ!
曲が終わり一礼する
割れんばかりの拍手が僕を包む
彼女の方をもう一度見る
彼女は複雑そうな顔をしていた
感極まってしまったのだろうか
そんなことを思いながら舞台袖に下がっていった
[newpage]
結果発表だが
優勝は勿論彼だった
これで良かったんだ
彼の音楽は素晴しかった
この大会のことは大々的に報じられて彼の人気もますます高まるだろう
これで.......良かったんだ......だってまだ彼は私の教え子
私のものなんだから
私はこれを絶対に手放さない
絶対に
絶対に
大会後祝勝会といった感じで夕食を食べに来た
「ミューズさん!やりましたよ!」
「えぇ......そうね.......」
「その、どうしたんですか?元気ないですよ?」
「いや、全然!そんなことないわ!」
「そうなんですか......それならいいですけど」
「今日の演奏、とっても良かったわよ!最高だった!」
「ありがとうございます!」
「次はどこに行きましょうかねぇ........」
「そのことでお話があるんですけど.......」
「え、ど、どうしたの?」
なんかすごく嫌な予感がする
「その、僕......そろそろ一人でやっていきたいなとも思ってて」
「え?」
「その、僕もミューズさんみたいに音楽の素晴らしさを色んな人に広めたいなって、ミューズさんが僕にしてくれたみたいに、僕も世界中の子に音楽の素晴らしさを教えたいと思って」
「え、あ、そう.......なの」
「その、どうですか......?」
え
なん
なんで
そんな
彼とはなれる
そんなの嫌よ
だって彼はまだ私の教え子なのに
彼は
彼は私のものなのに
なんで
わかってる
彼が私に感謝してることも、悪意のかけらもないことも、本気で音楽の素晴らしさを広めようとしてることも、全部わかってる!
でも!
でも!
やっぱり嫌!
手放したくない!
彼は私のものなの!
そうだ.......彼も私とともに旅をすればいいのよ
そうすれば彼は大会に出ることもなければ私の下から離れることもない
これでいいじゃないの
「まだ、早いわよ」
「やっぱり、そうですかねぇ......」
「でももう大会に出るのはやめましょうか」
「え?」
「私と一緒に、一緒に!旅に出ましょう?」
「は、はい.......」
「うん、それでいいわ、私と一緒に音楽の素晴らしさを広めにいきましょう?」
「.....わかりました!」
ごめんなさい
君のやりたいことをやらせてあげられなくて
ごめんなさい
自分の気持ちを優先してしまって
でも
でも
我慢できないの
耐えられないの
彼の音は私だけのものにしたいの
だからね?これからもずーーーーっとあなたの音色を聞かせて?
その音色が私達の未来を照らしてくれるんだから
小説の文字数何文字ぐらいが理想か
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~5000
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5000~10000
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10000~15000
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15000~