ヤンデレストライク   作:ホーブ

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アルセーヌノタイツクンカクンカシタイ


「欲望」     アルセーヌ

「いたぞ!逃がすな!」

「待て!」

人々が寝静まった真夜中に怒号とサイレンが鳴り響く。

コートを羽織った男たちが街中を駆け回る。

「おい!新入り!遅れるなよ!」

「は、はい!」

 

リーダーらしき男が後輩に活を入れる。

 

もっとも、その後輩というのは俺のことだがな。

 

言動からしてわかるとは思うが俺達は警察だ。

 

誰を追っているのかというと稀代の快盗アルセーヌ。

数年前にこのファントムシティに現れた盗みの天才だ。

 

こいつは金持ちから財宝を奪い貧しいものに分け与えるという、うちの市長よりも正義の味方のような振る舞いをしているが、俺たち警察には関係ない。

 

悪党を必死に探し必ず捕まえる、それが俺達警察の使命だ。

 

もっとも、刑事課配属初日からこんな大事件を担当するとは思っていなかったが。

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

先輩の叫び声で我に返る。

 

先輩が指を指した方を見ると屋根の上に誰かがいるのが見えたが、暗くて顔がよく見えない。

 

「逃がしてたまるかよ......やっと尻尾出したんだ......」

「俺が終わらせます.......」

 

実をいうと俺達警察はこれまでアルセーヌの姿すら見ることはできてなかった、もちろん顔や年齢、性別までもがわかっていない。

そんなアルセーヌがやっと姿を見せたんだせめて顔ぐらいは拝ませてもらわねぇとな!

 

「降りたぞ!俺は右から回り込むからお前はそのまま追いかけろ!」

「はい!」

 

俺と先輩は二手に分かれてアルセーヌを追う。

 

「クソ!速い!」

 

入り組んだ細い路地に入ったアルセーヌを必死に追いかける。

 

 

このままじゃ逃げられる........どうすれば.......

 

その時、地面に酒瓶が落ちてるのが見えた、中身はまだ入っているようだ。

 

 

「一か八か、やるしかねぇな......」

 

俺はその瓶をとりアルセーヌの前方に投げつける。

瓶はアルセーヌの頭上で街灯に当たり砕けて中身がアルセーヌの顔に直撃する。

 

酒が目に入ったのか、目を抑えて少しよろける。

 

この好機を逃すわけにはいかない。

 

俺はスピードを上げてアルセーヌに飛びつく。

振り払おうとするアルセーヌの力を利用し逆に地面に押し倒しフードに手をかける。

 

「怪盗アルセーヌのお顔を拝ませてもらおうかァ!」

 

そう言いフードを剥ぎ取ってアルセーヌの顔を見た俺は言葉を失った。

 

「なっ........................」

「...............」

「お前.......女だったのか............」

 

こいつが女だったからだ。

しかもなかなか美人だ。

 

「おい!どうした!」

 

突然先輩の声が響く、

 

「.....!」バッ

「あっ!おい待て!」

 

想定外の出来事で混乱しているとその隙にあいつに逃げられてしまった。

 

「..........」

「逃げられたか........お前顔見たんじゃないのか?どんな顔してた?」

「.......女でした。」

「はぁ?うそつけ!」

「いや......ほんとなんです!」

「あの身体能力で........信じられん......しかし惜しかったなぁ。」

 

悔しがる先輩の言葉を聞くと悔しさが滲み出てくる

もうちょっとだったのに.......

 

「あとちょっとだったのに.........」

「なぁに、顔がわかっただけでも大勝利みたいなもんだ、今日は早く帰ってもう寝るんだな。」

「わかりました.......」

 

 

家に帰ると俺はアルセーヌの顔の似顔絵を描き始めた

画力と記憶力が無駄にいいので被疑者の似顔絵を頼まれることが多い、おかげで家には大量の似顔絵が溜まってしまった。

「目はもうちょっとでっかかったかなぁ.........」カキカキ

「よしっ!こんなもんだろう!」

我ながら上出来のものができた。

「しっかし見れば見るほど美人だよなぁ、だからといって何か変わるわけではないが.......」

 

ガタッ

 

「ん?風か?まぁいい、今日は寝るか........」

 

そう言って部屋の電気を消し俺は布団に入った。

 

布団に入って目を瞑るとフード剥いだ時のあいつの顔が思い浮かんできた、思えば俺が刑事になろうとした理由もテレビで見たあいつの事件がきっかけだったっけ。

人一倍正義感が強かった幼少期の俺はこの悪党を絶対に捕まえるとその時決意した。

そんな俺が今日アルセーヌの顔を見れたというのはある意味運命なのかもしれない、アルセーヌを捕まえるのは俺だということを示しているのだと俺は思った。

「運命か.........」

そんなことをつぶやきながら俺は意識を闇に手放した。

 

 

翌朝

机の上に置いたと思っていた似顔絵がなくなっていた、ただ部屋には大量の似顔絵が溜まっているのでスケッチが紛失するのはよくあることなのでそんなに気にはしなかった。

「あれ、俺似顔絵どこ置いたかなぁ........まぁ、いいか」

 

警察署

 

「先輩、おはようございます。」

「おぉ、おはようさん。」

「先輩に言われてたスケッチなんですけど、なんか無くなってて........昨日描いたはずなんですけどねぇ.......」

「おいおい、そんなんで大丈夫かぁ?新米さんよ」

「すんません」

「まぁいい、今日も外回り行くぞ」

「はい!」

 

(新米のくせにいい目してるじゃねぇか)

 

その日から俺はとにかくアルセーヌを追い続けた。

とにかく毎日外に出て走り回り、聞き込みを続けた。

 

俺が外に出るようになったからアルセーヌも今までの沈黙がうそのように姿を現すようになった、ただ俺以外のやつの前に今まで通り一切姿を見せなかった。

 

アルセーヌがこちら側の事情を知ってるわけないからたまたま俺が外に出ているときにあいつが外に出ているのだろう。

 

しかもあいつは顔を出すことを厭わなくなった。

 

「こっちよ、捕まえてみなさい」

「待て!」

 

俺は血眼になってアルセーヌのことを追い続けた。

アルセーヌに関する情報も日に日に集まってきた。

あいつの行動パターンも予測できるようになってきた。

 

「あいつを捕まえるのはこの俺だ」

 

その決意は日に日に強くなっていった。

 

[newpage]

 

「さて、今日は誰の穢れた欲望をいただきましょうかね」

穢れた欲望と正義に満ち溢れたこの街で私は暗躍している

 

「くそっ!私の宝石が!探せ!」

いつもと変わらず今日もとある富豪からお宝を頂いた

欲望にまみれたそいつの顔は実に醜い

「はぁ.......ほんと醜悪な顔ね.......さぁ、ずらかりましょうか」

難なく宝石を奪った私はいつも通り闇に姿を消そうとした。

 

「待て!」

そこに怒号が響く、振り返るとコート姿の男たちが私を追いかけていた

「あら、国家の犬の登場ね」

いつものように追手を撒いていく。

屋根から屋根へと飛び移り街中を駆け回る。

細い路地に入ったところで私を追いかけているのは一人になっていた。

 

(今回も楽勝ね、話にならないわ)

そう思ったその時頭上で何かが炸裂した。

咄嗟に上を向くと液体が顔に降ってきた。

 

匂いでわかる、これは酒だ。

アルコールが目に染み、痛みで目が開けられなくなり、視界が閉ざされたことで足元がおぼつかなくなる。

不味い。

直感的にそう感じた瞬間全身に衝撃が走った。

追手の刑事が突っ込んできたのだ。

地面に押し倒されるフードを剥がされる。

 

そしてその男と目が合う。

 

「なっ............」

その男は私の顔をみて言葉を失っていた、おそらく私が女だとは思っていなかったのだろう。

しかし、それよりももっと混乱していたのは私だった

 

一目惚れしてしまったのだ

 

正義感に燃える曇りのない眼、鍛え上げられた身体、穢のない純粋で真っ直ぐな心

こんな人間は見たことがなかった、私が見てきた人間はみな傲慢で私利私欲を満たすことだけを考える、そんな人間だった。

 

だからこんなに綺麗な人間を見るのは初めてだ。

私はそんな彼に心を奪われた。

 

「おい!どうした!」

 

瞬間別の男の声が響く、我に返った私は体をひねり出し闇の中に姿を消した。

 

危うく捕まるところだったが今の私にはそんなことはどうでもよかった、運命の相手を見つけたのだ。

 

彼の顔と声が頭から離れない、今すぐにでも会いに行きたい

 

そうだ、家の場所を把握しておけばいつでも会いに行ける

 

そう思った私は帰宅している彼をつけていった。

彼は町外れの一軒家に住んでいた。

 

彼が家に入ってしばらく経ったあと、窓から部屋の中を覗くと紙に囲まれながら彼は一心不乱に何かを書いていた。

 

目を凝らしてみると、私の顔が描かれていた。

周りの紙もよく見るとみんな人の顔だ、おそらく彼は昔から被疑者の似顔絵を描いていたのだろう。

 

私はとても嬉しかった、今彼は私の顔を頭の中で必死に思い浮かべている、そう考えるだけで心が躍る。

彼が私のことを考えてくれている、そのことだけで私の心は満たされる。

 

 

「しっかし見れば見るほど美人だよなぁ、だからといって何か変わるわけではないが.......」

 

彼はスケッチを完成させるとそう呟いた。

その瞬間体中に電流が走った。

好意を持った人間からの言葉というのはこれほどうれしいものなのか。

恋は人を盲目にするとはよく言うが確かにそうだと実感した。

 

彼が寝た後私は彼の似顔絵を盗み出した、彼の努力を無駄にするというのは少し心が痛んだがそれでもこのスケッチは欲しかった、彼が私を見てくれた証拠なのだから。

 

その日から私は彼の前にだけよく姿を現すようにした。

そんな私を彼は追いかけ続けた、好きな人と関われるというのはこの上ない幸せだった。

でも彼は私を追いかけることだけでなく人助けやほかの犯罪者の逮捕にも尽力していた。

彼の正義感からすれば当然のことなのだろうがそんな彼を私はますます好きになった。

 

そんなことを続けていると自分の心の中にある感情が浮かび上がっているのを感じた。

私はこの感情を知っている。

私利私欲のみを突き詰めるあの悪人たちのものと同じ穢れた欲望だ。

どうやら私はどうしようもないくらい彼を欲しているらしい

この穢れた欲望を持った人間が行き着く先も私は知っている

だからなのか、私の中にある正義感はしきりに危険を訴えているように感じた。

でも私はそっとその感情に蓋をした。

[newpage]

最近何かがおかしい。

生活のいたるところに違和感を感じるのだ。

まずアルセーヌを追い始めてから感じたことだがあいつとの接触回数が俺だけ以上に多いのだ、追い始めて最初のほうは運命だと勝手に思い込んでいたが偶然とは思えない頻度で姿を見せるようになった、そのおかげであいつの情報も大量に手に入ってはいるのだが.....

あとは俺が欲しいものがよく玄関の前に置かれているのだ

最初は先輩からのご厚意かと思ったが先輩はそんなことしてないの一点張り、しかも誰もいないところでボソッとつぶやいたような物さえも置いてあるのだ。

その代わりといっては何だが俺の似顔絵の数が明らかに減っているのだ、しかもなくなっているのは女の似顔絵ばかり

泥棒が入ったと考えたが金目のものは何も盗まれておらずなんなら逆に増えていたのだ。

先輩はコアなファンでもいるんじゃないかと笑っていたが

誰も不幸になってはいないから別に悪いことではないのだが少し恐怖は感じている。

 

まぁそんなことは置いといて警察署に一通の手紙が送られてきた。

差出人は怪盗アルセーヌ

内容は

この世で最も純麗な正義を今宵いただく。

とのことだった。

 

「先輩.........これっておそらく。」

「正義のダイヤのことだろうな。」

実はこの警察署には国宝である正義のダイヤが保管されているのだ、もともとは国の保管庫にあったものなのだがセキュリティシステムの点検と改良に伴い一時的に警察署に移されているのだ。

もっともこの情報は警察署内でも限られた人間しか知らないはずなのだが........アルセーヌはどこから情報を得てるんだが......

「まぁいい、向こうから来てくれるに越したことはない。」

「今日で終わらせましょう。」

俺の正義感はいつにもなく燃え上がっていた。

 

 

深夜

「なかなか来ませんね.......」

「後十五分で日がかわっちまうぞ.....?」

そうして先輩が腕時計に目を向けた瞬間。

 

バァン!

 

破裂音と共に視界が真っ白になった。

 

「クソっ!煙幕k....」ドサッ

「先輩!」

視界を奪われたと同時に響く発射音、おそらく麻酔銃か何かだろう先輩だけでなく他の同僚も倒れていく。

 

このままじゃ不味い。

 

「どこにいやがる!」

「ここよ」

「!」

目の前から声が聞こえる

 

「綺麗ねぇ」

「ッ!.........」

 

あいつが姿を現し俺の顔に手を当てる。

あいつと目が合う。

あいつだ、アルセーヌだ、捕まえないと。

あれ、体がピクリとも動かない、なんだ、この感覚は

怖いのか?俺があいつを恐れているのか?

なんでだ、別に命がかかっているわけでもない、でも俺の脳と身体はこれ以上ないくらいにこいつを警戒している。

 

いや、俺がここで怯んでどうする。

俺が守らないと誰が宝石を守るんだ。

 

「てめえに宝石はやらねぇぞ!」

そう言ってあいつを突き飛ばす。

正義感を取り戻した俺はアルセーヌ相手に叫ぶ。

 

「宝石?何の話かしら?」

「..........は?お前今なんて。」

「あぁ、正義のダイヤのこと?そんなものに興味ないわよ、宝石なんて人間の穢れた欲望の象徴、いらないわ。」

「じゃあなんでお前はここに!何が目的だ!何を盗むつもりだ!」

「それはもちろん、あなたよ。」

そう言ってアルセーヌは顔を上げた

その目は闇に染まっていた、一点の光もない深い深い闇だ。

「ッ!............」

あいつの目に身体が吸い込まれる、恐怖で身体が動かなくなる。

「そんなに怯えなくてもいいじゃない?大丈夫、悪い様にはしないわよ。」

「だ、誰がお前のものなんかになるか!何を言ってるんだお前は!」

「あら、どうしてあなたに選択権があると思っているのかしら?言ったじゃない、盗み出すって」

あぁ、そういうことか

すべてわかった、気づきたくなかった。

こいつははじめからダイヤなんか眼中にない、こいつの目にあるのは俺だけだ。

 

「やっと私のものに........」

そう言ってあいつは注射器を取り出した。

 

逃げないと。

俺の脳が痛いぐらいに信号を出している。

でも身体が動かない。

あいつが近付いてくる。

「く、くるな..........」

にげろ、うごけ、うごけ

「あ、あぁ、くるなぁ!」

「ふふ、大好き♡」

そう言ってあいつは俺に抱きついてきた。

 

[newpage]

 

彼と出会ったその日から私は彼の前にだけ姿を現すことにした。

彼に自分のことをもっと知ってもらいたかった私はいろんな情報を彼にだけ伝わるようにした。

彼が私を必死に追ってくれている、彼が私のことを考えてくれている、そう考えるだけで心が震えた。

でも彼は刑事だ、私だけでなく他の犯罪者も追っている。

その中には当然女の犯罪者もいる。

彼が私以外の女のことを考えている、それが気に食わなかった、だから女の犯罪者の似顔絵は全部捨てた。

これで彼の家には私の似顔絵しかなくなった。

 

彼に尽くしたかった私は彼が望んだものは何でも手に入れて彼に与えた。 

 

彼の家には私が上げたものが増えていった、私の私物も彼の家に置いていった、私が触れたものを彼が使っているその事実もまた私の心を震わせた。

 

そんな生活を続けていた私だがついに我慢ができなくなった。

 

彼が欲しい。

 

その欲望が抑えきれなくなった

自分でもわかっていた、これが穢れた欲望であって自分が抱いてはいけない感情であるということ、だからそれを理性で押さえつけていた。

 

しかし、時が経つにつれてその感情はどんどん大きく、そして身体を蝕んでいった。

 

そしてついに欲望が理性に打ち勝った。

 

彼に対する欲望がとめどなく溢れ出てきたのだ。

 

もう限界だった。

 

私は彼を手に入れることを決めた。

 

私が彼の前に姿を見せた時、彼の目は恐怖に染まっていた

何故だろうか、私はこんなにも愛しているのに、私は彼の美しさに目を奪われているのに、私は彼の全てを求めているのに、私は彼と一緒にいたいのに、私は彼に危害を加えるつもりはないのに、私は彼の望みを叶えてあげるつもりなのに。

 

でも彼はすぐに正気を取り戻し私に向かって叫んだ。

「てめえに宝石はやらねぇぞ!」

何を言っているのだろうか、宝石なんか一銭の価値もないというのに、そんなものよりもはるかに価値のあるものがあるというのに。

 

だから私は彼に正直に伝えてあげた、私が欲しいのは彼であると。

 

それを聞いた彼の目は再び恐怖に染まった、おそらく全てにに気がついたのだろう、そして気付くのが遅すぎたことも。

 

そして私は彼を手に入れるために一歩一歩、彼に近づいていった。

 

ついに彼が私のものになる、そう考えただけで興奮が止まらなかった。

 

「く、くるな..........」

 

一歩近づく度に彼は怯えた声を出す。

 

「あ、あぁ、くるなぁ!」

 

怯えた彼もとても美しかった。

 

「ふふ、大好き♡」

私は彼に抱きつき睡眠薬で眠らせた。

 

そして彼は私の物となった。

 

彼を手に入れた私はこの街を離れ山奥の隠れ家に彼を連れて行った。

 

「ねぇ、欲しいものはない?」

 

「...............自由」

 

「あら、あなたには十分与えているじゃない?好きなものはいつでもすぐに用意してあげるし、見たいものはいつでも見せてあげる、これ以上の自由はないじゃない。」

 

「.........たしかにそうだな、感謝してるよアルセーヌ。」

 

「わかってくれたらいいのよ、あなたの欲望はいつでも満たしてあげるわよ、それがどんなものであろうとね。」

 

彼が私の欲望をしてくれるように私も彼の欲望を満たしてあげないといけない。

 

そうすればきっと彼は私だけを求めてくれる筈だから。

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