ヤンデレストライク   作:ホーブ

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ラミエルの抱き枕デカすぎでは......つまりラミエルはデカまくr



目醒めちゃった五大天使 前編 サンダルフォン、メタトロン、ザドキエル、カマエル、ラミエル

『本日のフィナーレは天使シリーズ第二弾獣神化改決定でーす!』

 

「おぉぉぉぉ!!マジかぁぁぁぁ!!」

 

アパートの一室で俺は一人声をあげた。9月末、少々肌寒さを感じるこの季節、世間一般の人にとって衣替えを考え始める頃だろうか。しかし俺にとっては一年で最も熱い時期であると言っても過言ではない。

 

モンスターストライク、略してモンスト、誰もが一度は聞いたことがあるであろうゲームの周年放送が毎年9月末に行われるのだ。

 

今年で12周年、今でも根強い人気を誇る要因の一つは多くの魅力的なキャラクターだろう。

 

そんな魅力的なキャラの中で俺は特に天使シリーズ第二弾のキャラクターを推しているのだ。

 

 

「いつも通り22時に進化解放だから厳選とかしないとなぁ」

 

モンストを起動しボックスを開いて「嫁」と書かれた選抜を選択する、二次元のキャラクターを勝手に嫁判定していることには何も言わないでくれるとメンタル的に助かる。

 

 聞き慣れた音と共に画面に表示される5人の天使。

 

 

「会えたりは.....しないか」

 

そう呟きながら画面をサッと撫でる、瞬間歪む視界。

バランスを取れずそのままベッドに倒れ込む。鉛のように重くなる瞼と遠のき始める意識にこの目眩の正体が眠気であることを理解する。

 

「なんだ.....これ.......」

 

ここまでの眠気は初めてだ、周回をしなければとなんとか目を覚まそうとするがまるで意味がない。

 

「まぁ......いいか....」

 

ここ最近、気付かなかっただけで疲れが溜まっていたのかもしれない、そう考えながら意識を暗闇に手放した。

 

 

『えへへ.......やっと会えるね、マスター......』

 

 

手から滑り落ちたスマホから誰かの声が聞こえていることなんて知らずに。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

遠くに鳥のさえずりが聞こえる。背中からは少しチクチクとした感覚がするし、若干草の匂いもする。

 

「ん.......うぅ........」

 

ガンガンする頭に手を当てながら上体を起こし周りを見渡す、どうやら芝生の上で寝ていたようだ。見た感じここはコの字型の建物の中庭らしく、吹き抜けのような形になっている。

 

「どこだ.....ここ......」

 

そもそも俺は家にいたはずなんだが、なんで俺は外にいるんだ?この建物はなんだ?

 

「確か昨日の夜周回しようとして......」

 

「あ!マスターやっと起きた!」 

 

後ろを振り向くと視界一面に広がるピンク色、それと同時に胸にドンと重い衝撃が加わる。

 

「うわっ!」

 

よろめきながらも飛び込んできたものをしっかり抱きかかえる、

 

「な、なんだよお前。いったい誰だ?」

 

目を下に向けると美少女がいた。

少々赤みがかった桜色の髪を右側でくくったサイドテールは地面につきそうで、黄色の短パンは彼女のエネルギッシュさにぴったり合っている。俺はこの女の子を知っている、知らないはずがない、だってあんなにも.......

 

「サンダルフォン.......?」

 

「やっと会えた!えへへ〜マスターだぁ〜」

そういいながら俺の胸に頭をすり寄せてくる、彼女が動くたびに甘美な香りが鼻腔を刺激する。

 

「え、サンダルフォン、いやでも、ゲームのキャラだし、、、というかやっと会えたって.......」

「も~、マスター動揺しすぎ、毎日の様に私のこと見てたじゃん」

「........お前は俺のボックスのサンダルフォンなのか?」

「そう!私がそのサンダルフォンだよ!」

 

理解が追い付かない、いや理解できなくはないのだがそれを信じることが出来ないのだ......どうやら俺は画面の向こう側の世界に来てしまったらしい.....

 

うまく思考がまとまらない、行き場に困った視線はついついサンダルフォンの方に向いてしまう。だってかわいいもん。

 

「サンちゃんのことばっかり見すぎなの。」

 

誰かが俺の左手を抱きかかえる。

 

サンダルフォンがいるということは彼女がいないはずがない。

 

 

天の書記にして契約の天使。

 

「メタトロン......」

「会いたかったなの」

 

俺の手をぎゅっと抱きしめるメタトロンの顔はいつものようなクールな顔ではなく天使のような優しい微笑みを浮かべている、まぁ実際天使なのだが。

 

「もーマスター心配したんだからね?メタお姉ちゃんとお散歩してたら地面に倒れてたんだから!」

「突然サンちゃんが騒ぎ出すからびっくりしたなの」

 

「それじゃあ行くよ、マスター」

「行くって、どこに」

「目の前の建物、ボックスのみんなに会いに行くよ!」

 

そうか、サンダルフォンやメタトロンだけじゃなくてみんないるのか。

 

 

 

ボックスのみんなに会えるとなると、少し緊張してくるな

 

てことはサンダルフォンやメタトロンだけじゃなくてほかの天使にも......

 

 

「それじゃあ行ってみよー!」

 

「それはいいんだけど.........ちょっと待ってくれ」

 

「どうしたなの、マスター」

 

「えっと、、このまま、行くのかい?」

 

「このままって?」

 

今俺の身体はメタトロンとサンダルフォンにがっちりホールドされている。両側から俺を挟み込む形だ。

その形だと、当然彼女らの決して豊かではないがそれでも存在感のある二つの双丘が俺の脇腹に押し付けられることになる。

男としては嬉しいことこの上ないのだが、やっぱりなんというかいろいろと問題がある気がする。

 

「いや、ちょっと引っ付きすぎじゃないかなって、、、もうちょっと離れてくれても」

「「嫌」なの」

 

彼女らの雰囲気ががらりと変わる。

 

「え?」

「嫌っていってるなの、やっとマスターに会えたのに、やっとマスターと話せたのに、やっとマスターに触れたのに、それを手離すわけがないなの」

 

そう言いながらメタトロンは俺の顔を掴み自分の顔の方に寄せる、向き合ったメタトロンの目に光はなくただ目の前にいる俺の姿が反射しているだけだった。

 

「もしかして、マスターは私たちのことが嫌いになった?ごめんなさい!嫌いにならないで、私マスターに嫌われたらもう生きていけない、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「いや、そんなことはないぞ!すごく嬉しいぞサンダルフォン!」

「ほんとに?嫌いになってない?私のこと好き?」

「あ、あぁ本当だ、大好きだ」

 

なんだったんだ今のは、一瞬2人の目から光りが消えて虚ろで冷たい目になっていた。

何か地雷でも踏んでしまったのか、

いや、深く考えるのはよそう、女の子の考えていることを深掘りするもんじゃない。

 

一抹の不安を抱えながらも俺は彼女らに連れられボックスの中に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

■□■□■□

 

 

ボックスの中に入ると目隠しをされた。

ちゃんとした目隠しではなく、メタトロンが手で目を覆う所謂だ~れだタイプの目隠しなので一応俺自身でも目を瞑っておいた。

 

メタトロンの『だ~れだなの』が聞けて大満足であるが。

 

「もう目を開けていいなの」

 

「ん........」

 

ゆっくり瞼を開く。

 

視界に飛び込んできたのは五人の天使だった。

 

「「「「「会いたかったよ!マスター!」」」」」

 

夢にまで見た光景、何度も会えないかと願った彼女らが目の前にいるのだ。

 

「夢じゃないんだよな.........」

 

頬をつねってみる。

痛い。

 

「改めまして、サンダルフォンだよ!」

「メタトロンなの。」

「ザドキエルです。」

「カマエルだ、よろしく!」

「ラミエルだよ........」

 

そう言って手を伸ばしてくる彼女達、その手を取り俺も答える。

 

「あぁ、よろしくな。」

 

 

 

 

■□■□■

 

「それでは私がボックスの中を案内しますね。」

そういって前に出てきたのは金縁の眼鏡に深緑色の手袋、いかにも秘書といった感じのミニスカートといった装いのザドキエルだった。

 

彼女に連れられ部屋を後にする、美人秘書に案内されるとか現実世界なら垂涎物である。薄い本ならそのまま人気のない部屋に連れ込んでグヘヘといった展開だろうか。

 

紳士な俺は当然彼女に邪な視線を向けてはいない、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけスカートの切れ目に目を奪われていたが

バレてないはずだ。バレてない.....よな?

 

「いま私たちのいる建物は居住棟になっていて、モンスターそれぞれが寝るための寝室や談話室、食堂などがあります。」

「居住棟以外には訓練棟や弾薬庫、武道場など様々な建物があります。」

「浴室は夜11時まで使用可能になっています、モンスターの性別の割合上男湯はやや小さくなっていますが。」

 

頭真ピンクな俺とは違い淡々と施設の説明をしていくザドキエル、イメージ通りしっかりしているんだな。

 

いろいろ言われたが実際ザドキエルの一つ一つの所作に美しさに目を奪われてあまり覚えていないのだが。

 

なんか自分が情けなくなってきたな........SNSで自分より優れた人を見ると劣等感を感じちゃうアレ。

 

 

「マスターがここに来るのは予想済みダムス!」

 

そんな絶望で立ち尽くす俺に向かって話しかける誰かの声。

 

ふりむくと、特徴的なアホ毛と星の装飾が散りばめられた青いミニスカートを身に着けた少女が立っていた。

 

「誰だお前」

「ひどいダムス!」

「ごめんごめんノストラダムスだろ?姿見なくとも語尾で一発だよ。」

 

「まったく、びっくりしたダムス......」

 

「どうしたんだ?ノストラダムス?」

 

「マスターに会いに来たダムス、他のみんなはマスターが来たことまだ知らないけど........私は予言でわかるダムス!」

 

そういってドヤ顔で胸を張るノストラダムス。

 

自信満々でかわいいな、身長も相まってテストで100点をとった中学生のように見える。

 

まぁここは少し構ってやるのもマスターの務めなのかもしれない。

 

「なぁノストラ「ノストラダムスさん?」

 

笑顔でノストラダムスに語り掛けようとした瞬間かぶせられる声。

 

その重く鋭い声に心臓が飛び跳ねる。

 

見るとザドキエルが張り付いた笑顔でノストラダムスに話しかけている。

 

みるみるうちに顔が青くなっていくノストラダムス。

 

「いま、マスターは私と一緒にボックスの中を見て回っています。皆様への紹介はまた後で行うので、マスターとお話ししたいのであればその時にお願いします。いいですか?」

 

「で、でも、やっと会えた「いいですか?」

 

「わ、わかったダムス......」

 

そういって背を向け離れていくノストラダムス

 

「お、おい.........いいのか?」

 

「マスター?」

 

「な、なんだよ?」

 

「女の子と一緒にいるときに他の女の子と話すのはあまりよくないですよ?」

 

ぞっとするような目で話しかけてくるザドキエル。

 

話しかけてきたのは向こうからだったし等と余計なことを言おうものなら顔面に一撃ぶち込まれそうな雰囲気である。

 

「ごめん、気を付けるよ。」

 

「分かってくれたらいいんです。」

 

先ほどまでの表情が嘘のような柔らかい笑顔を浮かべるザドキエル。

 

メタトロン達といいザドキエルといい突然表情が怖くなったり逆に柔らかくなったりするのはなぜなのだろうか........

 

■□■□■

 

その後食堂に案内されるとモンスターたちが集合していた。

 

その前に引っ張り出された後は、俺のことを見るや否や飛び込んでくる子や、泣いて喜ぶ子、いろいろ質問してくる子がいて対応にとても困った。

 

午前中の件もあったので心中も穏やかではなかったしな。

 

モンスターたちとかなり長い時間触れ合った後は、天使たちに連れられ談話室に行くことになった。

 

「で、なんでお前らそんなに不機嫌なの?」

 

「鈍感マスターには教えないよーだ」

 

サンメタ姉妹に挟まれ廊下を歩く、窓の向こうはすっかり日が落ちておりガラスに自分の顔がはっきりと映し出されている。

 

「ここが談話室なの、私たちが入り浸っている部屋なの」

 

中に入るとラミエル、カマエル、ザドキエルが座って待っていた。

 

机の上にはお菓子やジュース、カードゲームなんかもあるみたいだ。

 

「さっきまでみんなと話してて楽しそうだったなの。今からは私たちとの時間なの.......」

 

丸机を囲うようにして座る、夢にまでも見た天使たちとの至福の時間、楽しませてもらおうじゃないか。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

夜も更けてきて、時折睡魔に意識を持っていかれそうになり始めてきた。

壁に掛けられた時計を見ると0時を回るところだった。

そういや俺どこで寝るんだろ。個室とかあるわけないし、まぁ廊下でも何でも寝れなくはないのだが。

 

「なぁ、俺ってどこで寝たらいいんだ?」

「私の部屋で私のベッドの中で一緒に寝るんだよ」

 

そう食い気味に答えたのはラミエルだった。

 

「まじで?」

「うん」

ラミエルと一緒に寝る、夢にも思っていないことだが

 

「ここが私の部屋だよ」

 

部屋に入り中を見渡す、広さは20畳ほどで1人部屋にしてはかなり広い部類に入りそうだ。

床に敷かれた月と星が描かれたマットや羊をモチーフにしたカップといった彼女のイメージ通りのインテリアが目を引くが一番は部屋の真ん中に鎮座するキングサイズのベッドだろう。深い青色を基調とした高級感あふれる作りになっていて天幕まで付いている。

 

「なぁ、ラミエル。ボックスのみんながみんなこんなでっかいベッドで寝てるのか?」

「ううん、私だけだよ。普通のベットじゃ我慢できなくて、作ってもらったの」

 

なるほど、このサイズのベットだから俺と一緒に寝ることになったのか、確かにこれなら身体が密着することもないし絵面的にも不味くなることもない。

 

 

 

「ふわ〜あ、眠いねマスター」

そういいながらラミエルはベットに乗り仰向けになった

 

「ん、来て」

 

ラミエルが中央にいるので俺は右端の方で横になる、まぁ借りている身だし別に端っこであっても構わない

 

ベットは今まで体験したことがないほどフカフカで目をつぶるとすぐに夢の世界につれて行かれそうだ

 

「ねぇ、マスターこっち向いて」

「ん?どうした?」

「えい」

 

身体を内側に向けたその瞬間、全身を強く引っ張られる

ラミエルの妖精が俺の手を引っ張ったのだ、ふかふかベットの魔力によって完全に脱力していた俺は流れるままに二回転ほどしてラミエルの胸の中にすっぽり収まった

 

 

「やっとマスターに触れた........嘘じゃない.......よね?」

「え、まぁそりゃ」

「なんか信じられないなぁ......こうして触ることができるなんて」

 

そう言いながら俺の頬つついたり、頭を撫でるラミエル。

この幼女、見た目の割に母性に溢れすぎている。

 

「ねぇ、マスター?」

 

「なんだ?」

 

「マスターはこうやって女の子と2人で寝たことある?例えば....彼女とか?」

 

「なんだそりゃ嫌味か?されたことねぇよ、そもそも彼女もいないのに.......つーか、画面の向こうから分かんだろ!」

 

「えへへ、ごめんね。そっかぁ、初めてなんだぁ.......」

 

ラミエルの俺を捏ねくり回す手の速度が上がる、暗くてよくわからないが口角も上がっているように見える。

 

「なんだよ、、、そんなに面白かったか?」

「うぅん、なんか嬉しくて。てことは......これも初めてだよね?」

 

「なん......」チュッ

 

「おやすみのチューとか......えへ......」

 

キスされた、ちゅーされた、ちゅー、ラミエルに。

 

俺明日死ぬのかなぁ。天使のキスって実在するんだ......

 

当然俺の顔は真っ赤だ、部屋が暗くて本当に良かった。

本当なら興奮で目がギンギンになるところだが眠気には勝てない、ラミエルの手つきがまるで赤子をあやす母親のようで、どんどん眠気がわき上がってくる。

 

「おやすみ、マスター」

 

薄れゆく意識の中、ラミエルの囁き声が頭の中に響いていた。

 

 

 

■□■□■

「ん.....今何時だろ」

 

寝ぼけ眼を擦りながら時計をみる。

ぼやけてよく見えないが短い針は2と3の間、丑三つ時と言ったところか。

 

いつものベッドではないし、なんなら違う世界なのだから眠りが浅かったのかもしれない。夜でも車の走行音が聞こえる現実世界と違ってこの世界の夜は本当に静かで虫の羽音一つ聞こえない。人間静かすぎるとどうにも寂しくなるもので、自分の置かれている状況に対しての不安がどっと溢れてきた。

 

俺はこれからどうなるのだろうか、この世界はなんなのだろうか、夢か?現実か?実はあの日の夜俺は死んでいてこれは死後の世界なのか?

 

駄目だな、こんな答えがないことを考えていても意味がない。必死に頭を回したって無駄だ。

 

一旦トイレでも行って落ち着こうか、横でスヤスヤと寝息を立てるラミエルを起こさないようにそっとベッドから降りたその時だった。

 

「どこ行くの?」ガシッ

 

氷のように冷たくそして重みのある声に身体が固まる、特に後ろめたいことをしてるわけでもないのに冷や汗が止まらない、ギギギと音が鳴りそうな程ぎこちなく首を後ろに向けるとベッドから半身を乗り出したラミエルが俺の手をつかんでいた。

 

こちらを見つめるラミエルの目にもやはり光はなく黒く沈んでいて、それに見た目からは想像できないような万力のような強い力で俺の腕を締め上げてくる。

 

 

「こんな時間にどこに行くの?」

 

動揺してうまく声が出ない俺にラミエルはそう続ける。

何かしゃべらないといけないのに、怖い、怖い、こわい、こわい

 

「どこに行くのって言ってるの!」

ラミエルの絶叫がこだまする。

五秒ほどの沈黙の後、我に返った俺は何とか口を動かす。

「と、トイレだ、トイレに行こうとしてたんだ」

「本当に?私たちの前からいなくなろうとしてない?どこかに行こうとしてない?」

「行くわけないだろ、、どうやったら帰れるかもわからないんだし。」

「ふーん.....わかった、案内してあげる」

 

「いや、場所も昼に教えてもらったし、別にトイレくらい」

「ついてきて、分かった?」

 

トイレぐらい1人でいける、そう続けようとしたが有無を言わさぬラミエルの雰囲気を見るにここは素直に従っておくのが吉だろう。

 

「.....はぁ、わかったよ。」

 

 

■□■□■

 

『マスタ~、いる?』

「いるよ」

『早く出てきてね、じゃないと私』

「わかったから、ちょっとまってくれ」

 

結局あの後ラミエルに手を引かれながらトイレまでやってきた。

個室の中にまで入ってこようとするもので、何とか説得(?)をして個室に一人という状況というわけだ。

 

「はぁ.....一体何がどうなってるんだ、メタトロン達だけじゃなくてラミエルまで.....やっぱりおかしいよな。というかそもそもなんで俺はこの世界に.....」

 

「私がお答えしようか。」

 

突然降りかかってきた真上からの声に身体が飛び跳ねる。

 

恐る恐る目線を上に向けると紫色の髪の毛が暗闇からプランと垂れていた、よく見ると天井のあたりに黒黒とした穴が空いていてそこから紫のネクタイを締め黒いコートを羽織った少女が頭を下に向けこちらをみている。

 

上半身だけ穴から出てるのか....?

 

「何をやってるんだ.........ホームズ......」

 

「変な登場の仕方をして済まないね、ただ色んな意味で時間がないんだ許してくれ。」

 

『マスター、まだぁ?』

 

「もうちょっと待ってくれ!........おい、こんな状況で話せるのか?」

 

「手短に小声で話すから問題ない、それで君はなぜこの世界に来たのかが気になっているんだな?それに加え天使達の異常な様子もか。」

 

「あぁ、何かわかるのか?」

 

「あくまで私の予想なんだがな、君をこの世界につれてきてのは天使達ではないかと私は考えている。それに、もしそうであるなら、彼女らの異常な行動も説明できてしまうんだ。」

 

ラミエル達が呼び出した......?俺を、この世界に.......一体何のために.....

 

「なんで、彼女等が俺を?理由はわかるのか!?」

 

「落ち着け、静かにするんだマスター、理由はわかるが今は時間がない。もしこの世界から脱出したいのなら明日の夜2時にこのボックスの中庭に来てくれ。私の考えでは明日の夜を逃すと、現実世界に帰ることは難しくなってしまうだろう。」

 

「ッ......分かった、考えておく。」

 

 

「おっと時間切れのようだ、よろしく頼んだ。幸運を祈っているよ、マスター。」

 

そう言いながらホームズは天井の穴に吸い込まれるように消えていって、彼女の姿が完全に見えなくなるのと同時に穴も消えてなくなってしまった。

 

「時間切れって何のことだ.......」

 

そう呟いた瞬間

 

ドォン!という音ともに倒れてくるトイレの扉、ただの木の板になったそれを踏みながらラミエルが入ってくる。

 

「遅いから、見に来ちゃった」

 

「お、おぉ..........」

 

確かにこれはバレると不味かったかもしれない。いや確定で不味いな。

 

「ふぁ〜あ、眠いね、マスター早く部屋に帰っておやすみしよ?」

 

そう言いながら俺の手を引っ張って行くラミエル。

 

彼女が、俺をこの世界に呼んだのだろうか............彼女にそんなことができるように見えないが。

 

部屋に着いた頃には眠気も割と戻ってきていた、俺はどうするべきなのだろうか、そんな事を考えながら俺は意識を手放した。

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 

 

「起きろ!マスター!」

 

下腹部あたりに重さを感じる、なんだこれ

俺はさっきまで幸せな夢を見ていたのに、俺の至極の時間を邪魔する奴は誰だ許さんぞ

 

文句の一つでも言ってやろうかと思い目を開ける、視界に飛び込んできたのはカマエルだった

そう、カマエルだった。いや他のものも多少は目に入るだろうって?いや、冗談抜きでカマエルしか目に入ってこなかった。

それ程までカマエルと俺の距離が近かったのだ。

鼻と鼻がくっつきそうなほどで、カマエルの長い髪の毛が顔にかかる度にシャンプーのいい匂いがする、君たちはそろって良い匂いがするのね。

 

「んぅ、えぇ、あぁ、なにしてるんだ....カマエル」

 

「見ればわかるだろうマスターを起こしに来たのさ」

 

俺の胸に手をついているのをみるにカマエルは俺に馬乗りになっているのだろう。

 

これ体勢的にまずいなぁと思いながらもろくに運動していなかった俺の腹筋ではその重量を跳ね返すことはできないようだ。

 

「.......カマエル」

「なんだい、マスター」

「重いし、眠い」

「重ッ!って、そんな事ないし!」ズンッ

 

「うお!上下に動くなカマエうぐっ」

顔を真っ赤にして俺の腹の上で跳ねるカマエル。

 

彼女の身体が沈み込むたびにお腹が押され情けない声が出る。

「重くないもん!重くないもん!」ユッサユッサ

「ちょ、うっ!まっ、ぐぇ.....わるかっ!うぐっ」

 

 

なんというか、傍から見ると騎乗位のようにしか見えない気がする。

こんなところ誰かに見られでもしたら......

 

「やめろカマエル!ラミエルが起きたりしたr」

「うぅん.......マスターうるさい......何やって......え?」

 

 

終わった、、、

言い逃れができない、もし昨日みたいになったら.....

「違うんだラミエル!これは誤解で!いや特にやましいことはしてないんだけど!」

「うぅん......今日はカマエルの番なのね、ほどほどにしてよ?約束、忘れないでね?」

「任せとけ!大丈夫だって! 多分........」

「もし破ったら....私どうなるかわからないよ?」

「うぅ、分かってるよ........」

 

今、天使の中でのヒエラルキーが垣間見えた気がするな.........

というか俺抜きで随分話し込んでいるが何の話をしているんだ?約束が何とかと言っていたが.....

このままずっと話し込んでくれれば.........だんだん眠気が、あーーーー寝れそう、おやすみなさ

 

「ということだマスター!さっさと起きて行こう!」

 

ですよね~

 

「どういうことだよ。てか行くってどこに」

「朝のランニングだ!」

「えぇ......俺最近運動してないし、眠いし、めんどくさいし」

「いいから行くぞ!」

「ぐぇ~」

 

カマエルに強制的に布団から出された俺はランニングウェアに着替えて居住棟の裏口の前で待つように言われた。

 

服に関してはこの世界に飛ばされたときに着ていた物しか持っていなかったので汗をかくのは嫌だとゴネたのだが

 

 

『それなら私のを使ってくれ!なに?汗が付いたりしたら嫌だろうって?せめて洗って返すって?いいや!嫌じゃない!洗濯もしなくて構わない、というかそっちの方が..........』

 

とのことでランニングウェアを貸してもらった、というより押し付けられたといった方が正しいかもしれないが。男の汗が付いた服とか嫌じゃないのかね。

 

カマエルが来るまでその辺を適当にぶらつく、女の子の着替えは時間がかかると言うし紳士ならばここは文句の一つも言わずに時間をつぶすべきだろう。

 

それにしても

 

「でっかいなぁ.......ここ」

 

 

メインとなるレンガ造りの建物に加えて、それを囲うように建っている大小さまざまな建物。まるで大学のキャンパスみたいだ。

まぁボックス枠8000ぐらいあるから規模間で言えば地方の国公立大学ぐらいはあるのかな?

 

 

「ごめ~ん!待った?」

 

近場の建物の外観をあらかた見終わった頃、背後から砂を蹴る音とともに声が聞こえてきた。

身体を少しひねり首を後ろに向け言葉を返す。

 

「少し待ったが気にしなくていいぞ。ちょうど建物をみて回るいい機会になったし全然大丈夫だ。」

「ごめんねぇ、少し準備に手間取っちゃって........」

 

 

そう肩で息をしながら両手を合わせてごめんなさいのポーズをするカマエル。

イケメンならここで気の利いた一言でも言って一緒に走り出したりでもするのだろうか。

 

実際俺も何か声をかけようとはした、がカマエルの姿が目に入ると頭が真っ白になってしまった。

 

いやなんて言うか、、露出度高い.......高くない?

上下とも黒い伸縮性の高そうなピチッとしたタイプのウェアはカマエルの豊満な身体の曲線をこれでもかと強調されている。

それに上下とも丈がとんでもなく短い。

特に上に関してはちょっと動いたらこぼれそうなのだ、なにがとは言わないが。

 

そりゃガン見である、視線オールインである。

 

「それじゃ行こうか!マスター」

「お、おう。」

 

走り出したカマエルの後を追う。

彼女の動きに合わせてピョコピョコと動くポニーテールが小動物みたいでかわいくてついつい眺めてしまう。

 

「ねぇ、マスター。」

「なんだ?」

「さっき胸見たでしょ?」

「うぉ!いや、えっと、み、みてないぞ?」

「うっそだ~、女の子は視線に敏感だからね?」

「す、すまん。」

「ほんと、別に私は大丈夫だからさ。」

 

「他の子には絶対そんなことしないでね。」

 

そういいながら振り返ったカマエルの顔は笑っていた、取ってつけたような、作り物のようなそんな笑顔だった。

 

■□■□■

身体が熱い、、、、、胸が苦しい、、、、、足が痛い、、、、、、

 

走り始めて一時間は経っただろうか、前を走るカマエルのペースは依然として落ちない。なんならスタートの時より上がってるんじゃないか?

 

休憩を.......休憩をくれ......

 

一時間走り続けるとか昭和の野球部も真っ青だろ。

 

このまま走り続けると俺はどこかで力尽きることになるだろう、てかもう力尽きたい。とにかくカマエルに現状を伝えなければならないのだがもう叫ぶ気力もない。

 

.........物理的に止めるしかないか。

 

俺とカマエルの距離は25m程度といったところ、全力をだせばいけるか?

 

いや、いける、俺ならやれる、栂の木二中のウサインボルトと言われた俺をなめるなよ。

 

軽くスピードを落とし息を整えてまっすぐ前を見る、一瞬全身の力を抜く、そして全力で地面を蹴る!

 

乳酸がガンガンに溜まって鉛のように重い足を必死に動かす、スピードが上がるにつれて肺がキリキリと痛む、足を動かせ、あと半分、あと10メートル.............5メートル.......

いける!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

カマエルに向かって手を伸ばしたその瞬間、俺の身体が跳ねた。

突然の浮遊感、足がもつれて転んだのか。ここにきて運動不足が祟ったか。

 

慣性、理系の皆さんなら学校で習ったことがあるだろう、そうじゃない人も一度は耳にしたことがある言葉なのではないだろうか。

 

運動している物体が動き続けようとする性質、それが慣性。この世界に存在する限り絶対に逃れることが出来ない、それはもちろん俺も例外ではない。

 

ルイージ横Bよろしくトップスピードで射出された俺はカマエルの横側に頭から突っ込む。

 

スローモーションのように動く視界にカマエルの顔がはっきりと映る。

 

あ、めっちゃびっくりしてる。

 

カマエルと3秒ほど見つめ合った後地面に叩きつけられ2回転程して止まった。

 

「ぐふ、うぅ..........」

「ま、マスター!大丈夫?!」

 

慌てて駆け寄ってくるカマエル。うつ伏せだから顔はよくわからないが声が半泣きだ。

 

痛む全身に無理をいわせてなんとか起き上がる。

 

「ッテェ.........大丈夫だ、カマエル」

「ほんとに?って............え........」

「ん?どうした?」

 

鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるが。

 

「なんだよ俺の顔になんか付いてんのか?」

「い、いや、あ、、、」

 

なんか気まずいじゃないか。少し目線をそらし右頬を掻いた瞬間だった。

 

べちゃぁ.........

 

ん?べちゃぁ?

 

何かネトっとしたものが手についている気がする。

 

頭によぎる嫌な感覚に目をつぶり、恐る恐る右手を見る。

 

真っ赤な液体が右手にべっとりとついていた。

 

おっふ、まじか....

 

どうにも怪我というのは認識すると痛み始めるものであるらしく、ズキズキとその存在を主張し始める。

 

 

てかよく見たら全身傷だらけじゃん、膝に腕に腰も、ところどころ服も破けているので戦場帰りみたいになっている。

 

「あ、あ、あぁっぁ、ますたー」

「ち、ちが、ちがでて」

「大丈夫だって、頭はちょっとこすっただけだし他のもただのかすり傷だ」

「あぁ、いや、死なないでマスター!やだやだやだやだ」

「いや、死なないでしょ!このぐらいで!」

「あ、あたしのせいだ、あたしのせいで、あたしが、、、、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

膝をついて頭を下に向けながらよく分からないことを呟いているカマエル。

その足元からポタポタという音がするので目を向けてみると小さな水たまりができていた。

 

..........責任を感じているのか?運動不足の馬鹿が勝手に転んで勝手に怪我をしただけなのに。

 

なんて優しい子なんだ。

 

膝をつきカマエルと顔の位置を合わせる。

 

「何だかよくわからないけど、俺は大丈夫だからな。そんなに心配すんなよ。」

彼女の頭に手を乗せ優しく撫でる。

 

「だからさ、顔を上げてくれ。」

 

小刻みに震えていた身体が徐々に落ち着きを取り戻していく。

 

良かった、もう大丈夫みたいだな。

 

「とりあえず、もう帰ろう、さすがに俺もこれじゃ走れねぇわ」

 

ゆっくりと顔を上げるカマエル。

 

その顔に浮かぶのは朝見せてくれたような太陽のように明るくそして力強い笑顔...............ではなく瞳孔から光が消え口を半分開き絶望に染まった表情

 

 

 

アイエエエ!?ヤンデル!?ヤンデルナンデ!?

 

       

(「.........治さなきゃ」)

 

 

「な、なんか言ったか?」

 

「私が治さなきゃ!!」

 

瞬間カマエルの右手が俺の顔に向かって飛んでくる

 

上体をそらし寸での所でそれを避ける

 

「あっぶねぇ!なにやってんだよ」

 

抗議の意思も込めてカマエルの方を睨む

 

彼女の右手にはキラキラと光る白銀のメスが、左手には針が握られていた。

 

 

お前それどっから出したねんというエセ関西風のツッコミがまず頭に浮かんでくるがそれどころではない、このままだと俺はこの場で治療されてしまう。

 

 

逃げるしかねぇ!

 

「マスター!逃げないで!私が治すから!」

「落ち着けカマエル!まずその両手の物騒なモンを下ろせ!メスはねぇだろ!メスは!」

 

全力疾走もむなしくカマエルに捕まった引き倒された後馬乗りにされる。

 

この体勢朝も見たぞ.......違うことはカマエルの目が死んでいることと俺が危険に晒されていることだが。

 

「ちょっと待ってくれ!考え直せ!な?」

 

「私が責任取るから、ちゃんと元通りにするから」

 

「聞いてねぇぇぇぇぇ!」

 

「それじゃあ、いくよ?マスター」

 

「麻酔無しは流石に不味いYO!」

 

 

 

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

「ごめんよ~マスター」

「いいんだいいんだ気にしてないから.....」

「うぅ.......」

「ほんとびっくりしたんだからね、メタお姉ちゃんと散歩に来たらカマエルが血だらけのマスターにまたがってたんだから。」

「マスター私たちと会う時いつも倒れてるなの。」

 

 

あの後恐怖のあまり気絶した俺をカマエルがしている所を見かけたサンメタ姉妹が俺を救護室に運んできてくれたらしい。

 

ちなみに傷は全部縫われていた、天界の外科医ぱねぇ.........

 

「大丈夫ですか?マスター?これ疲労回復に使えるのでまた飲んでください。」

 

そう言って液体が入っている小瓶を渡してきたのは透き通るような金髪を短めに切りそろえた看護師風の装いをした少女

 

「ナイチンゲールか、ありがとう大丈夫だよ。」

「いえいえ、びっくりしました.......突然運び込まれてきたんですから。何事もなさそうで安心しました。」

 

そういって微笑む彼女、ソプラノの美しい声も相まって目も耳も奪われてしまう。

本当にかわいい、確かにこれは白衣の天使といっても差し支えないだろう。

 

「マスター、私たちの事忘れてるなの」

 

突然の呼びかけで現実世界に引き戻される。

見るとメタトロンがジト目でこちらを見ていた。

 

「どうしたメタトロン」

「別にいいなの、そうしてナイチンゲールとずっと一緒にいればいいなの」

「........怒った?」

「怒ってないなの」

そういってそっぽを向くメタトロン

どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。

 

「ねぇマスター?お腹すいてない?お昼も食べてないでしょ?」

サンダルフォンが割り込んで話しかけてくる

時計を見ると夕方の5時を示している、昼ご飯を食べていないと空腹感を感じる頃合いだろう。

 

「うーん、そうだなぁ、何か食べたくはあるが」

 

「よしっ!じゃああとちょっと時間がたったら食堂に来てね!」

「なんだ、一緒に行けばいいじゃないか。」

「いいからいいから、ほらカマエルもメタお姉ちゃんも行くよ!」

「あ、おい........行っちゃった.........」

 

メタトロンは最後までこっちを見つめていたが大丈夫だろうか

てか、ちょっとって言ったってどのくらい待てばいいんだ......?

 

「マスター?少しお話が」

 

そう言ってナイチンゲールが俺が横になっているベットに腰掛ける

「どうした?」

「今夜、マスターはここからいなくなってしまうんですよね?」

身体がびくりと震える

「ど、どうしてそれを......」

 

バレているのか......どうしてバレた?会話を聞かれていたのか?何よりも他のモンスターたちにもバレているかもしれないのか.......

 

「ホームズから聞きました」

「ホームズが?」

「ええ、彼女が私にマスターのことを助けてやってほしいと、今日の朝会ったときに。このことは私とホームズ以外知らないのでそこは安心してください。」

「そうなのか、なら天使たちの様子がおかしいことも知っているのか?」

「もちろん知っていますし、どうしてそうなっているかも私はわかります。」

 

「それは、どんな理由なんだ?」

「それは........言えません。この世界から帰ろうとしているなら特に。」

「そうか......」

「ただこれだけは断言することが出来ます。もしあなたが帰ろうとしていることが彼女たちの耳に入ったのなら、あなたはただじゃ済まないでしょう。彼女らは何が何でもあなたをこの世界に引き留めようとするはずです。」

 

「それにマスターも少しは感づいているのではないでしょうか?彼女たちの行動の理由。」

 

「...........まぁ心当たりがないことはない」

 

「ナイチンゲールは俺が元の世界に帰ることについてどう思っているんだ?」

「.......正直なことを言えば、帰ってほしくありません。これは全員思っていることだと思います。」

「だから、さっき渡した薬を使わないでほしいというのが本音であったりもします。」

 

お互いに黙りこんで少し気まずい時間が流れる。

 

「でも、マスターにはマスターの世界があります。だから画面の向こうの私たちの存在を意識してくれるだけで十分です。」

「だからマスター、私たちの事忘れないでくださいね?」

 

そういって笑う彼女の目尻には少し涙がたまっていた。

 

「さて、そろそろいい時間になったんじゃないでしょうか。食堂、いったらどうです?」

「ん、あぁそうだな。いろいろありがとうな。」

 

救護室を後にし食堂に向かう。

 

少し待つように言われたのはなぜだろうか。

 

何かサプライズでも用意されているのか?それとも俺と一緒に飯は食いたくないとか......?

 

期待と不安が入り混じりながら食堂のドアを開ける。

 

瞬間響く破裂音

 

「「「「「「マスター!これからよろしくね!」」」」」」

 

みると何人かのモンスターがクラッカーを持っている。

 

どうやらサプライズの方だったみたいだ。

 

「マスター!私の豚まん食べてみてくれ!」「わしが釣ってきた魚を食べるのじゃ!」「ピタパンもあるよ?」「私が全部食べる!」「落ち着いて」「ますたー!」

 

はっきり言って俺は悩んでる、まだ悩んでる、自分の決断でこの子たちを傷つけてしまうのでないかと。

 

でも、いまこの瞬間ぐらいは、それを忘れて楽しんでもいいんじゃないかな?

 

■□■□■

 

料理もあらかた食べ終わり周りの話し声も落ち着いてきた、小さな子は瞼を重そうにし何人かその場で眠っている子もいる。

 

そろそろ頃合いかな。

 

「今日はありがとうな。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。」

 

「また明日どら〜」「明日は私達と遊ぶといいことあるかも〜」「私の写真、一緒に見よ?」

 

「おう、また........」

 

そこまで言って言葉に詰まる。目の前のモンスター達の顔を見る、こいつらは明日も明後日もこれからもずっと、ここに俺がいると思っているんだろう、その気持ちを裏切ると思うと心が痛む。

 

......でも、それは現実世界の奴らも一緒だ、俺には俺の世界がある、俺の帰りを待ってくれる人もいるんだ。

 

「?どうしたドラ?」

「いや、なんでもない、また明日な?」

そう言いながらパンドラの頭をくしゃくしゃと撫でる。

どらぁと言いながらとろけた顔をするパンドラを焼き付けるようにじっと見つめる。

 

『私たちの事忘れないでくださいね?』

ナイチンゲールの言葉を思い出す。

 

これからは、こいつらの存在を、画面の向こう側のことをもっと意識して生きていこう。

そう思いながらその場を後にした。

 

■□■□■

 

「えへへ〜マスターと一緒〜いっぱいお話しよ〜?」

「夜更かしは体に良くないぞ、それに俺は今日1日中走らされているんだ悪いが早く寝るからな?」

 

俺の寝る部屋はラミエルの部屋と決まっており、ラミエルは基本俺にべったりなので完全に一人になることはできない。

ならば、前のようにトイレに行くふりをして逃げるのはどうか。

これも無理だろう、ラミエルが起きている状態では直ぐにバレて見つかるのがオチだ。

言い方は悪いがラミエルを完全に撒く必要がある。

 

策はある、俺一人なら不可能だったが今の俺には頼もしい味方がいる。

 

「なぁラミエル、こっちの世界の話なんだけどさ。寝る前にホットミルクを飲むと睡眠の質が向上するらしいぜ」

「そうなんだ」

 

睡眠に関することだからもっと食いついてくるかと思ったんだが、、、以外と興味なさそうだな。

 

「というわけでだ、はいこれ」

「?」

「ラミエルの分だよ、俺だけ飲むのもなんだしな。それともミルクは苦手だったか?」

「ううん大丈夫、ありがとう、マスター」

そうはにかみながらも大事そうにカップを受け取り、一口、二口と啜るラミエル

 

三口目に移ろうかという時だった

「あれ、なんか........フラフラする」

「どうした?ラミエル」

「ますた〜、、眠いか、、も、、、、、」

 

倒れ込んでくるラミエルを両手で受け止める、腕の中の幼女はスヤスヤと寝息を立てていて、幸せそうな夢を見ているようだった

 

 

彼女のカップに入れたのは今日の昼渡された小瓶の中身、ナイチン謹製即効睡眠薬だ。【※超強力】とは書いていたがここまでの物とは、ナイチン恐るべし。

 

 

ラミエルをそっとベッドの上に寝かせ頭を撫でる。

このまま彼女を深い眠りの世界に落とさなければ、行動を起こしたときに起きてこられては困る。

 

 

 

撫で続けて15分は経ったか。そろそろ頃合いだろう。

 

彼女を撫でる手を止めゆっくりとドアの方へと移動する。

 

その時だった。

 

「ますた、いか、ないで」

「ッ!........」

気づかれたか?

そっとラミエルの様子を伺う。目を開ける様子はない、ただの寝言のようだった。

 

今朝見た安らかな寝顔とは違って、目尻に涙を浮かべた不安げな寝顔に胸がチクリと痛む。

 

「ごめんな、ラミエル」

 

彼女が夢の世界から目覚めることがないようにそっと部屋を出た。




いやー最近更新が少なくて申し訳ないです。
本当はこれを周年記念日に投稿する予定だったんですが........
思いの他文量が増えてしまって前後編に分かれることになりそうです。

どのくらいの文量が一番読みやすいんでしょうかね..........

小説の文字数何文字ぐらいが理想か

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