ダンジョンに魔力極振りを強要されたのは仕方のない話   作:ヴラドミア

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ある昼下がり

仄暗い洞窟の中、その青年は一人でゆっくりと歩いている。その手には何も握らず、腰につけた巾着と肩から提げたバッグはパンパンに膨らんでいる。

青年はそれなりの高身長で、筋肉がしっかりとついているがどこか華奢に見える体つき。作務衣と呼ばれる服装に、大きな羽織を纏って、どこかダボついた格好をしているが、その身に武器の類は見受けられない。

 

ここはダンジョン。文字通り、魔物が湧き出る場所で、悠々と歩く彼のように無防備な姿で彷徨うなどある得るはずもない。しかし一帯には魔物の影も形もなく、細々とした綺麗な石が転がっている。これはダンジョン内で発生した魔物が死んだときに生まれるもので、魔石と呼ばれる。

青年のもつ荷物が膨れているのはこの魔石を集めているからだ。

 

魔石はダンジョンを探索する冒険者が彼らが所属するギルドへと持ち帰ると換金できる。そのため、多くの魔物を倒して生計を立てる冒険者が多い。青年も同じく、ダンジョン探索で稼いでいる。

 

落ちている魔石を拾い上げ、吟味する。小さな欠片はそのまま捨て、比較的大きな魔石はパンパンなバッグに無理矢理詰め込む。ゴリと音を立てながら、無理やり入れることはできても、そろそろバッグは締まらなくなってきた。荷物を整理するにもあまりの量に面倒が勝ってしまうし、仕方がないと落ちているものをいくらか両手で抱えていくことにした。

 

 

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「これ、換金お願いします」

「え、えぇ……」

 

ドサリ。そんな擬音ですら生易しいと思えるほどに、膨張しまくった袋をいくつか置いて、青年は言った。無表情な仏頂面に、声音も申し訳なさなんて一片足りとも見せず、少し濁った金の瞳がギルドのカウンター越しにその職員―エイナ・チュールを射貫いていた。

少し引いたように顔をひきつらせながらも、別の職員が鑑定用の部屋へと運び込む。

 

「もう、一気に大量に換金するのは控えてって前から言ってるでしょ!」

「荷物、あれでも入りきらなかった分は置いてきたんだけど……」

 

エイナのお叱りの言葉もさほど届かず、青年は困ったように言い訳をした。それに対してエイナはため息を吐きながら返す。

 

「はぁ……あれだけの量だし、全てを選定するのは時間かかっちゃうよ」

「……じゃあ入れ物だけ、返してもらえれば」

「半分だけね」

「なんで―――」

「また同じことを繰り返すからに決まってるでしょ!換金結果は二日後、バッグ二つだけ返してあげるけど、残りはギルドが一時的に預かります!」

「半分じゃ―――」

「問答無用!」

 

鬼気迫るエイナに青年は空になったバッグ―しかもあまり大きくないポーチ―を受け取ってすごすごとギルドホールを後にする。

その後ろ姿を見届けて、エイナは再度溜息を吐いた。

 

「まったく……」

「相変わらずすごいね、アルドーくん」

「何度言っても直らないから大変よ、ミィシャ。一週間、担当変わってみる?」

「それは無理、ロキ・ファミリアの人たちも大変なんだから。」

「そうだよね……」

 

隣で感心した様に青年が去ったほうを見る同輩にエイナは苦笑するしかなかった。

 

 

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アルドー・トーリス、16歳。剣や短剣による近接攻撃と盾による防御、魔法による遠隔攻撃と出来ることの多いオールラウンダー。駆け出しの冒険者でありながら、その継戦能力の高さゆえに独りでダンジョンに潜るソロとして活動している。

狐人特有の大きな獣耳、明るい茶髪は短く、光を宿さない金の瞳は気だるげな印象を抱くだろう。表情の変化は少なく、マイペースで掴み所がないが優しい人物だというのはギルドで彼を担当するエイナの談。

 

「ただいま」

 

そんなアルドーは呟くように言った。彼は一人暮らしで、家のなかには誰もいない。

持っていた荷物や装備、外套を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込む。

 

継戦能力があるからと言って、それは疲れないと同義ではないし、腹が減っても我慢が利くだけである。

食事は帰ってくる道中で済ませたし、あとは身綺麗にして寝るだけだ。横になり、ごろごろと転がりながら服を脱いでいく。

 

十代半ばのまだ途上な肉体に、大きな尻尾。脱ぎ散らかした服や下着はそのままにして、起き上がってはシャワールームへと足を動かす。

身を清めた後は軽い服に着替えて、ベッドにダイブする。彼の寝巻きは袖口は肘まで、裾は膝下程度まであるシャツで、下半身は下着のみというラフ過ぎる格好だ。

 

 

 

一夜明け、すでに太陽が空の頂を通り過ぎた昼下がり。パチリと目を覚まし、欠伸を溢しながらもゆっくりと動き始める。

洗面台で顔を洗い、今日は何をしようかと考えると最近自分のファミリアの拠点へ顔を出していないことを思い出した。自由気ままでいることを許されているのでファミリアに所属していると言えど馴染んではいない。集団行動には慣れていないので、ファミリアのメンバーと何かをするというのを避けているのだ。

 

ただし、冒険で得られた<経験値(エクセリア)>を自分の物にするにはファミリアの主―神の力が必要となる。アルドーは口煩く小言を聞かされるのだろうなと予感して、ほんの少しだけ嫌そうな顔をした。

 

 

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「おお、アルドー!丁度いいところに!」

 

ヘルメス・ファミリアの拠点『旅人の宿』に到着したアルドーはその玄関を潜ろうとした矢先、掛けられた声に振り向いた。

 

「ヘルメス……?」

「おいおい、お前は相変わらず俺のことを呼び捨てにするんだな?」

 

金髪に帽子、キザったらしい声音で、ファミリアの主神ヘルメスは苦笑した。その隣に侍るヘルメス・ファミリアの団長―アスフィ・アル・アンドロメダは片手を額に付け、少しだけ項垂れる。

 

「まぁいいさ。そんなことよりもだ、アルドー。今から俺たちと一緒に来てくれ。」

「ヘルメス様、まさか……!」

「ああ、アルドーも連れていこう。戦力は多い方がいいだろ?」

「それはそうですが、彼はまだレベルも低い!危険です!」

 

なにやら主神と団長が言い争う事態となるが、当の本人は蚊帳の外だ。連れていくとか、危険だとか、なるべくなら任務を受けたくはないと考えているアルドーにとっては内容がわからなくても乗り気ではない。

 

「アルドー、ここに顔出したってことはステイタス更新しに来たんだろ?」

「まぁ。ヘルメスがいることにはあまり期待はしてなかったけど……」

「よし、早速しよう!してやる代わりに俺たちと来い!」

「ええ……」

 

そう言ってヘルメスはアルドーと肩を組み、『旅人の宿』に入る。

 

「どうなっても知りませんからね!」

 

アスフィは吐き捨てるようにそう言って後に続くのだった。

 

 

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ステイタス更新を経て、やけに真剣なヘルメスから夜に装備を整えて広場に集合と言われ、ダンジョンへ向かうための装備に着替えたアルドーが家から出るとそこに待ち構えていたのはアスフィだった。

 

「団長?」

「来ましたか。道すがら、詳細をお伝えします。」

 

曰く、これから人探しにダンジョンに潜るらしい。ヘスティアという神のファミリアの団員が行方不明、それに準じてヘファイストス・ファミリアからも一人行方不明になっているそうだ。そしてそれはタケミカヅチ・ファミリアのメンバーである数名が、彼らに怪物進呈(パス・パレード)を押し付けた事に依り発生。

 

行方不明者を捜索するのにヘルメスが協力を進言。ダンジョンへの捜索隊としてアスフィが巻き込まれた挙げ句、ヘスティアとヘルメスの二人がダンジョンに侵入するという話になり、その護衛がアスフィだけでは足りないと判断し、協力を要請したという流れらしい。

 

「要請って、俺は同意したわけじゃ……」

「じゃあ命令です。文句はヘルメス様に言うように。私も巻き込まれた身ですから、帰ってきたら私とヘルメス様を折檻しましょう。いいですね?」

「ええ……」

「残念ですが、拒否権はありません。ヘルメス様が異常に乗り気なので。」

「理不尽」

「あなたも冒険者でしょう。」

 

反論すら受け付けない姿勢を見せられ、アルドーは押し黙る。事の詳細を聞いていたらいつの間にか広場に到着していたようで、そこには知らない人数名とヘルメスが立っている。

 

「お、よく来てくれたな。期待してるぞ?」

「これ、ヘルメスからの謝礼は期待していいのか?」

「もちろんだ、楽しみにしててくれ!」

 

ヘルメットを被ったヘルメスはあまり格好つかないんだなと思いながらも頷いた。

 

「ヘルメス、彼は?」

「ああ、紹介しよう。こいつはアルドー、俺の眷属の一人で遠近両刀の冒険者だ。レベルは低いが、腕は悪くない。」

「そうか。僕はヘスティア。アルドーくん、来てくれてありがとう。よろしく頼むよ。」

「え、あ、はい。」

 

握手のために手を差し出されれば握り返してしまうのが性というもの。握り返してしまったがゆえに、アルドーはこの強行軍からは逃げられない。

横でニヤニヤと笑う主神に静かに空いている手を握りしめた。

 

タケミカヅチ・ファミリアのメンバーとも、なんならそこに同席していたタケミカヅチ、ヘファイストス、ミアハという神々とも自己紹介を済ませ、想像していたよりも厄介なことに巻き込まれたのだと実感する。

 

そこにもう一人、緑の衣に身を包んだ人物が加わり、ヘスティアが指揮を執る。

 

「行こう!ベル君達を助けに!」

 

 

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