なんで転生者ってみんな化け物なのかわかるかもしれない話 作:綿鍋
ぴとりぴとりと何かが落ちる音がした。
それはおそらく液体で、生暖かく。私の中から漏れ出ていた。
「が…ぐ…」
幾らやっても慣れない喪失感が私を満たす。
「ワンッ!」
粗く、生暖かく、獣臭い口が近づいてくる。
それもまた後ろ足や目から緑色の命を吹きだしながら迫ってくる。
ここまで迫ったのはいつぶりだろうか、私は口角を上げながら目前に迫る牙を肩で受け止め、痛むという事すら無くなってきた肉体に力を込める。
「ガ…フガ…!」
流れでる生命を感じながら私はかろうじて残った左手だったモノで私諸共獣の頭蓋骨を粉砕した。
…
……
「今は1798回目」
見慣れた天井、苔むしてじめじめとしているがここで唯一空が見える。
そして怒りを感じた。
私はあそこへ辿り着かねばならない
そんな強迫観念に似た想いが胃からせり上がり、胃液だけをぶち撒ける。
ガリガリと壁に爪で印をつけた。
泥の様な目覚めと共に私は立ち上がり体の調子を確かめる。
健康的な手足に、たいして役に立たないボロ切れ、手足にはここに落ちる前枷となっていた金具が繋がる先もなく彷徨っている。
ふと気がつく。
首輪がなくなったようだ。
「っ〜!よっし!」
嬉しさのあまり天を仰ぐが天井を見るとまた気分が悪くなって情緒がジェットコースターだ。
そして落ち着いてみるとそれ以外はなにも変わっていない、毎度毎度指の爪先ほどしか変わっていかない景色にうんざりするがそれに追い討ちをかけるように頭の中に痛みが産まれ、酷く無機質な声が響く。
*番犬の討伐に成功、異界適正を永久向上、テンポラリ技能:『鋭角への跳躍』抽出、スタックします。*
「いらねェ…」
ガチャは失敗、しかも安い方の技能でがっかりだ。
*『首枷』の解除を確認、魂の強度、容量の拡張及びギフト■■■■の適応を開始*
「グッ…オゴォ…」
待望の枷の消失も相変わらずこちらの意思とか全く聞いてくれないのでありえんくらい苦しい、いや、ちょ…
どうやら気絶していた様だ。死亡時に勝るとも劣らない疲労感に総合的なテンションはダダ下がりである。
というか今更ながら1800回近く死んでこの後何回死んだ後に両手両足の枷が外れるのか…
そう考えていくと外れた喜びを塗りつぶして更に気分が沈む…しかし動かなければ進まないのだ。
「なんで異世界行きたいとか答えちゃったかねェ…」
私はうんざりしながらノブに手をかけ、部屋と変わらない光度の通路に出る。
ここは『狭間』エルデなリングは無いがいわゆる神的な存在により管理されている場所、そしてそんなところにいる私は何なのか、もちろん天使なんてものでも無ければそもそも生きている訳でもない訳で
「絶対詐欺だよなぁ」
死人かと言われると部分的にそうであるとしか言えない、現状について完璧にわかっているわけではないが、この場所の意味と私をここにぶち込んだ存在は判明している。
転生、という言葉はいささか陳腐化してきているが、この場所は転生する為の施設だ。
勿論文明の極みたる現代社会の科学の結晶であるとか、そういうものでは無い、『狭間』とはまさしくその通りで世界と世界の接点、底にほど近い魂の通用口的な物である。
そして私は『異世界転生』というデカ目の釣り針にかけられた哀れな詐欺の被害者と言う訳だ。
「詐欺だなんてひどいじゃないか、僕は真っ当に死ぬかそれとも異世界に行くか、その二択を提示しただけだよ?」
通路を進んだ先、クソでかい古風な門とそれに対してあまりにそぐわない近代的な会社のデスクに肘をついた男が戯けて返してくる。
「ホンニャ」
デスクの前には2頭身で武具を持った謎生物が集まっている。彼らは元人間、現魂の転生者予備軍だ。
一応私もそれに含まれている。
「思考を読むだって?馬鹿言っちゃいけないよ君等が垂れ流しているものを供養してるだけさ」
アレは神、と便宜上呼べるモノだ。少なくとも私より存在が上のモノである。
「それにねぇなんだかんだとみんな異世界に転生しまくっちゃってるけどさ、チョー大変な訳よ!主に後始末的な意味で」
最近どういう設定が多いのか知らないが私がいた世界、まぁ濁さずに言えば地球であり日本な訳だが、そこから異世界転生やら転移する人は何人かいたようだ。
…まぁコイツからの伝聞なので全部信頼するのは難しいが、この狭間と言う空間での転生管理者という仕事の徹底ぶりを見るに仕事人としてのコイツは信頼するに値するのだろう。
「当たり前だけど魂だってエネルギーな訳よ、それもある程度の質量すらある。そんな割と物理よりの物を壁の向こう側にねじ込もうってんだからそりゃ穴も空くし、世界のエネルギー総量も減るし、散々なわけっすわ」
ちなみの開いた穴からは異世界の怪物が、エネルギーは減ることで世界そのものが滅びるとかいうガチ目の厄ネタである。
そして管理者いわく今までの転生者を転生させてきた神々はその力どころか存在の全てをエネルギーに‘‘変換‘‘されたそうだ。
…まぁ好き勝手してきたやつへ制裁、まではヒトでも考えるが、上位存在はやることなすこと割と効率重視なので恐ろしい。
そしてそれを見届けさせられた後に爽やかなイケメンスマイルで「じゃぁ、君はどうしようか?一応被害者だから融通はきかせるよ?」って言われてすぐ返事できなかった私は悪くないと思う。
「いいかい、君等を次に行かせるのも異世界に行かせるのもどちらにせよ大変なわけよ」
「ホンニャホンニャ」
というかあれだ。彼らは新入りなんだろう。私のように慣れた奴らは壁や立てた武具の上に座って門の開放を待っている。
良く見れば何人か減っているが、まぁ次になったか、もしかすると満足して転生にまでこぎつけたんだろう。
そして相変わらずジロジロと視線がうっとおしい、このボロ切れと鎖は経緯と見た目とつけてきた相手を考えなければこの狭間でかなりの強さだが…望んで得た武具を持つ彼らにそんなふうに見られる程良いものじゃないのだ。
「んあーもういいや、とりあえず門の先でいい感じのバケモン倒して、帰ってこれれば転生出来るから、希望の能力はある程度もらったでしょ!ほら、行った行った!」
ガコン、とわりかし大きな音と共に門にわずかな隙間が開く。
この時、動きが二つに分かれた。
ここでの生活が長い奴、少なくとも三桁の死亡を繰り返している奴らは後ろに、何もわからない奴やまだまだ死にたての奴らはその隙間に向けて思いっきり前進した。
「ホッ」
目で捉えられたやつは多くないが感覚としてわかる様になってくる。死の気配、殺意、敵意、そういったものとは全く異質の無関心、張り詰めたワイヤーが引きちぎれる様な音と共に何個か頭が吹き飛び胴が裂け、四肢だったものがあたりに撒き散らされる。
「ぐっぐっ」
カエルだ。
全くもって緊張感のないピンク色の丸いカエルがそこにいた。
問題はそのデカさだ。
「ムンビか…今日は荒れそうだなぁ…」
認識フィルターがなければSAN値直葬ものの惨劇とおよそ死ぬ前の世界ではあり得ない生物、それも無関心に蟻でも潰すかのような気軽さでこちらの命を奪える相手、中に入るまでもなくこんな化け物が犇く場所。
そう、ここは狭間、死後の世界の中でもわりかし最悪な方の場所だ。
Tips:地名『狭間』
様々な呼ばれ方をするが最もマイルドな表現ではこう呼ばれる。
一番嫌ないいかをするならば『煉獄』であり『辺獄』、異世界転生という○ne piece を求める大馬鹿共の大半を諦めさせ、極少数の怪物を産み出し、なぜか永住を選ぶ狂人すらいる世界と世界の境界である。
Tips:認識フィルター
魂のみの状態で極度の恐怖や狂気に包まれた場合通常の霊魂は跡形もなく吹き飛んでしまうため蘇生が難しくなる。なので手間を減らすためにあらかじめ魂達の認識にはフィルタリングがなされており、同じ霊魂は武具の違う2頭身のデフォルメキャラ、世界の狭間に入り込んだ異界の怪物は特徴や大きさを残してサ○リオとかそういう系のファンシーな感じになっている。
尚、それはそれでキツイという意見もあるがコミカルな分衝撃も減るのでこの形が最も優れているとされている。