降谷さんの災難   作:千里亭希遊

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9.ボイルストン・ストリートの俊英。

「先月の七日も休んだわね」

 

 翌日のゼミ終了後、軽い挨拶を交わしつつ志保さんが尋ねました。

 

「ああ、宗教的なものなんです。『七日』は厄日的なものだから外に出てはいけないんですよ。数字がダメらしくて、旧暦とかなんとかは関係ないみたいです」

 

 ひっさつの嘘八百、私の良心に致命傷(いつもの)。

 

「そうだったの。日本人にしては珍しいわね」

「そうそう。宗教に理解なんて無いに等しいですから、大変だったんですよ。職場には『体調不良』で通してます」

 

 そっちのほうが本当に近いけれど、きちんと色々話すと皆三年前のトラウマだって誤認させてしまうからね。

 

「それで通るのね」

「皆優しいですからね。あぁ、有給の消化には役立ってます」

「何それ」

 

 志保さんがくすくす笑ってくれます。

 

「けど、体調が悪いわけじゃなさそうで安心したわ」

「えぇ、ぴんぴんしていますよ」

 

 日付けを越えれば悪夢は終わるから、今日の睡眠は比較的マシです。ちなみにどうも『七日』というのは日本時間らしいです。器用な夢ですね。

 こちらでは六日十一時〜七日十一時なので、昨日のお昼頃に落ち着いたわけです。

 

「ねぇ、櫛森(くしもり)さん、元気ならショッピングにでも行かない? ゼミも一段落付いたから」

「そういえば春物の時期ですね」

「あなたも気になるブランドがあるの?」

「いえ。ブランドは今までこだわってなかったから、まだよく知らないんです。気に入ったら適当に買っちゃったり……もしかして、お詳しかったりします?」

「ある程度なら、だけど」

「わぁ、宜しければ色々教えて下さい!」

「えぇ、喜んで」

 

 十八時頃までは仕事をしていようかと思ったのですが、マーロウ教授がウィンクしながら、「Have fun.」なんて言って背中を押すものだからそのまま街に繰り出すことになりました。教授なかなか楽しい人ですね。

 

「そういえば、こちらのかたは?」

 

 研究室の隅の方に控えていた里崎さんがすっと合流して志保さんに会釈をしたからか、志保さんが尋ねてきました。

 廊下に出て駐車場に向かいつつ、お名前の紹介です。

 

「里崎さんです。私のお世話をして下さっています」

「里崎桔梗と申します。あなたは宮野志保さんですね」

「えぇ、そうよ」

 

 里崎さんがふわりと微笑んだ。志保さんもふっと笑って返してくれている。

 

「ボディガードかしら」

「えぇ、そうですね。お出かけになるなら私が運転致しますよ」

 

 くすりと里崎さんは笑っていて、志保さんも似た微笑みを浮かべています。

 

「あら、単なる護衛じゃないのかしら」

「カラオケ仲間です」

 

 予定、ですけどね。と内心で思いつつ、私はにかっと笑って言いました。

 うん。もしかしなくても探り合いですねこれ。

 

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「……里崎さん」

「えぇ。いかがしましょう。まきますか?」

「……待って。多分私のボディガードよ」

 

 おかしな道順なのに目的のショッピングモールにはきちんと近付いている。そんな後ろについたり一、二台挟んだりしつつしっかり着いてくる黒いカムリがあった。ちなみに里崎さんのお車は紺のエクイノックス、かっこいいです。

 

 そういえば私のミラジーノは諸伏さんに預かっていただいています。半年放置は可愛そうと言ってたら貸しておいてって言って下さったんですが、メンテ引き受けて下さっただけだったりしません……?

 な、何かでお役に立ててますように……。

 

「宮野さんにもボディガードがいらしたんですね」

 

 私と志保さんの二人は後部座席に座っています。

 内心では志保さんと呼んでいますが、『宮野さん』だと明美さんもいらっしゃるからでして、さすがに知り合ってすぐ名前呼びする度胸はありません。

 

「えぇ。何かと物騒でしょう、この国」

「ふふ、日本もあながち平和ボケできなくて」

「あらそうなの。今時ボディガードの一人や二人いて当然よね」

「もちろんです」

 

 私はスマホの画面を志保さんに見せました。一瞬怪訝な顔をなさいますがすぐに把握なさったようです。

 

「……盗聴の心配はないと言いたいの?」

 

 そう、これは盗聴探知アプリの画面です。スマホそのものに探知機が内蔵されている特別仕様です。公安強い。

 

「なんだか警戒なさっているようでしたから」

「じゃあそれが偽証だって判断される可能性もあるわね?」

「証明できませんから、そこはしかたがありません」

 

 だけど、と私は志保さんに笑いかけました。

 

「この車の中でくらいは、宮野さんが気を抜けるといいなと思っています」

「……あなた、どこまで知っているの」

「ほとんど何も。アレ(・・)がボディガードというには少々殺気立っていることくらいですかね」

「…………そう」

 

 志保さんの表情が少し暗くなりました。

 

「……宮野さん。七日については嘘です」

「え?」

「体調不良のほうがまだ正解に近いかもしれません。起きていられなくなるのです」

 

 驚いた顔で私を見る志保さんに、私はにこっと笑いました。

 

 そして少し腕まくりをします。二の腕に三年前の裂傷痕がある。これは爆発で破片となった何かによるものだろうとのこと。

 

 人前で突然全快するのは論外なので小回復をこっそり挟む程度にしていたのですが、そうすると大きな怪我はどうしても痕が残った。他のどこかにも火傷の痕やら色々残っています、ハハ。

 暑い季節には服に隠れない傷跡をメイク等で隠したりしています。

 

「両親が事故で亡くなったのは九年前の十月七日です。三年前の十一月七日、東京で爆弾事件に巻き込まれて死にかけました。それの解体にあたってたかたは大切な友人で……こう、私にとって七日は鬼門のようでして。だいぶマシになっていたのですが今年こうでしたから、ぶり返してしまって」

 

 そもそも事件で私が怪我したことが理由なわけではないから、この言いかたも語弊があるけれど……。

 

 ……うん。考えないようにしてたけど両親の命日も七日なんですよね。

 志保さんは驚いた様子のまま固まっています。

 

「ね、日本も物騒でしょう? 里崎さんはそんなふうに動けなくなる私のために、わざわざ着いてきてくださったんです」

 

 彼女はルームミラーでちらっと笑顔を向けてくれました。

 

「……そう、だったの……」

「あっ、暗い話になってしまいましたね、どうかお気になさらず! 今日は本当に宮野さんにブランドをお教えいただくの楽しみにしてるんですから! 一緒に思いっきり羽根を伸ばしましょうね!」

 

 志保さんは少しの間目を伏せていました。

 

「えぇ、そうね。たくさん、たくさんあるんだから。今日だけで全部回れないかもしれないわよ」

「ふふ、機会がありましたら、今日だけと言わず、連れ回して下さい」

「……考えておくわ」

 

 志保さんは、ふっと笑ってくれました。

 

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 それから最初は大きめのショッピングモールに繰り出しました。作中で見たフサエブランドも海外進出してたみたいで紹介してもらいました! イチョウがモチーフではあるけれど、春物ももちろん出ているようです。かわいいなぁ……このお財布……ということでさっそく買っちゃったり。

 

 ……ちょっと離れたところにずっと『志保さんのボディガード』の気配がします。十中八九組織の人間なんだろうなぁ……監視ガチガチですねぇ……。

 

 やっぱり今すぐ彼女の救出に着手するのは現実的ではないように思います。今は……仲良くできたらな。そうしたら少しは計画が練れるようになる、はず。

 

 ……ふう。

 志保さんは最初からずっと気さくに接してくれていた訳ですが、探り合いになったあたり、やっぱり警戒心は持っておられたのですね。

 当然と言えば当然なのかもしれない。彼女は組織のメンバーを察知することができるくらいですもの。……人殺しをしたこともある私に何か感じ取っておられてもおかしくない。

 

 ショッピングモール内で下着コーナーに寄ったりして監視者に嫌がらせをしつつ、モールのまわりにも個人の服屋さんがちらほらあるのを志保さんに案内していただいて、楽しくてテンション上がっちゃいました。

 私は同僚の石上(いしがみ)さんと服を見に行くときもついあれもこれもと買ってしまうんですよね。今回も言わずもがな。フランクリンさんが七人くらい去っていきました。

 

 私は最近地雷系にも少しハマっちゃってまして。全身固める勇気はまだ出ませんが、一点混じるだけで雰囲気が締まる。かっこかわいい……! しかしやっぱりアメリカにはあんまりそれっぽいのはないかも。しょんもり。

 

 アレコレキャイキャイお買い物して、ヒロキ君やハロー探偵事務所の空田さんに聞いたお店を探して夕食となりました。

 

「櫛森さんは、何者なの?」

 

 それ聞いちゃいますかぁ……。

 

「薬学部研究生ですよ」

「ただの研究生が彼らの尾行に気づいてるのは異常だわ」

「色々修羅場を(くぐ)ってたこともある、ただの研究生です」

「……確かに、聞いただけでも結構なものだけど」

「でしょう?」

 

 私はくすくすと笑います。

 まさかあなたの情報が入ってきて様子を窺いに来た公安関係者ですとか言えない。今は。

 

「……まあ、いいわ」

 

 志保さんは肩をすくめて、仕方ないわね、というふうに微笑みました。

 

 夕飯が終わった後も多少お店を歩いて、里崎さんも案外お買い物なさってて、志保さんもなかなかのもので、私も結構だから、里崎さんのお車が大きめで助かりました。私のミラジーノだったら窮屈だっただろうなあ。

 

 志保さんは大学まで送り届けてほしいとのこと。

 ……やはりお家というか、組織関係だろうけど、場所を辿らせてはくれないようです。

 

「じゃあ、今日はありがとう。またね」

「こちらこそ。またぜひ」

 

 そう言って、この日はお開きとなりました。

 

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 休日午前のおなじみ、里崎さんとランニングです。そして例の公園で柔軟体操。

 柔軟をきちんとやらないと怪我の原因になるので甘くみてはいけません。きっちりゆっくり十五分はかけるのが良いそうです。

 

 もともと運動場ではないので、人々の邪魔にならないよう、隅っこを使わせてもらっています。平坦であればどこでもいいので。

 ピッチやストライドを鍛えるのに歩幅を変えて軽く走ったり、持参のミニハードルを並べて膝を上げる意識をしたり。腕は身体の向きと平行に振ります。肩に力を入れない。肘は九十度。拳は重り(振り子?)な感覚。

 

 走っているだけでは瞬発力が消えていっちゃうので、その場でジャンプするなどします。

 顎を引いて背は真っ直ぐのまま、両腕は一緒に振って、最高点で拳も膝もぐっと上に持ち上げます。今の私ですと三十回程で適度でしょうか。

 少しの骨休めで多少屈伸などを挟んだりして、ミニハードルを挟んで左右交互に、軸足のみで同様のジャンプをします。これは片方二十回くらいに留めましょう。間はやはり数秒の一呼吸。次に動足も。

 あんまり欲張るとハムとか前頸骨筋とか痛めかねませんからね。程よく程よく。

 

 休憩を挟みつつ繰り返し、あとはなんとなく縄跳びを持ち出してのんびりくるくる跳ねていると「櫛森さん、里崎さ~ん!」と呼ぶ声が聞こえます。

 

「ヒロキ君! こんにちは~!」

「こんにちは!」

 

 齢八歳の笑顔はキラキラしていて良いですね。しかしこう幼気(いたいけ)なのに頭脳は大人を凌ぐ。本当に、私などがこうやってお話できているのは奇跡のようなものですよね。

 ……ってあれ。今日はお連れのかたがいらっしゃるようです。あ、もしかして!

 

「今日は前に言ってた人と一緒に来たんだよ」

 

 にこにこと仰るので予想は当たったようです。

 女の子だ。篠川さんのご連絡では『少年少女』だったので、薬学部が志保さん確定だから、工学科はヒロキくん確定のようです。

 ただ飛び級するほどの工学系の俊才となれば、分野的に組織が重視してるフシがあるので楽観はできないのですけどね。

 

「初めまして、直美・アルジェントです。ヒロキ君が、公園で日本のかたと仲良くなったから来てみない? って誘ってくれて」

 

『ナオミ』自体はアメリカ人にもいらっしゃいますけれど、漢字の直美さんだそうで、やはり日本人とのハーフでいらっしゃるようです。

 

「会えて嬉しいです! 私は櫛森汀といいます。日本の東京から来ました」

「里崎桔梗と申します。同じく東京から参りました」

「皆が皆だね、僕も東京生まれだよ。首都なだけあるなあ」

「私はボストン(ここ)で育ったんです。母が日本人で父がイタリア人なんですよ」

「わぁ、古代から発展してきた地域じゃないですか。アルカイックな雰囲気とかに憧れます」

 

 私はミーハーを発揮します。

 

「ふふ、よくご存知ですね」

「神殿とか、紀元前後の建築物が今も使われてたりするんですよね? 古代ってロマンありますよね〜……!」

 

 そのロマンもローマが元になってる言葉みたいだから、発祥はイタリア半島ですよね。

 

 ふふふと皆笑っています。

 

 しかしやはりハーフさんといっても日本に馴染みがなかったりするのかな。日本語は話しておられるけど。

 

「櫛森さんは色々知ってるよね。専攻の薬学以外のこともさ」

「ただミーハーなだけですよ」

 

 私はこそばゆさにはにかむ。

 お勉強してる訳じゃなくて、欧州時代にせっかくだからと憧れのギリシャ神話とかアーサー王伝説とかの聖地巡礼しただけです。もちろん日本の古代にも興味津々です。文献のない時代の謎とかワクワクですよね。

 

「薬学部のかたなんですね!」

「えぇ、今はMCPHSにお世話になっています」

 

 直美さんがへぇ~な感じでいらっしゃいます。

 

「……あのね、櫛森さん、嫌じゃなかったらでいいんだけど、僕たちが最初に会ったときに話してくれた研究の話、またしてくれない?」

 

 ……えぇと、私の失敗談ですね。

 ふふふ、だからお気遣いいただいてるのですね。言葉選びからヒロキくんはおずおずとしておられる気がします。

 

「構いませんよ。ヘンテコな失敗談ですけどね」

 

 何か彼が得るものがあったってことなのかな。だから直美さんにも聞いてもらいたいとか?

 お役に立てるようなら、打ち明ける恥ずかしさも幾分か薄れるというものです。

 

 という訳であの日話した内容をつらつらと並べました。うん、改めて、黒歴史すぎる。新しい研究テーマはぼんやり浮かんではいるのですが、今は周りの助手役が楽しさも需要も大きいんですよね。

 

 直美さんはじっと何事か考え込んでおられるようでした。

 

「……どんな危険を生むのか、常に想定しなければいけない」

 

 ぽつりと彼女が復唱しています。

 

「はい。私はそれを考えられていませんでした」

「……例えば、行方不明の人を何年も経っていても見つけられるシステムがあったとしたら、何が危険になるでしょう」

 

 ヒロキくんもこんな様子でお聞きになった気がしますね。

 

「行方不明の人が自ら消息を断っている場合が考えられますから、探したい側と探される側の関係をきっちり調べなければ危険でしょうね。例えばDV加害者は被害者を再び支配したがる傾向にあるように思います」

 

 この例は実は悲しいことによく聞くのです。傷害事件の捜査にあたったら背景は……みたいなことがちらほら……。

 

「……!」

 

 直美さんが息を飲んだように思います。多分志保さんと同じくらいのお年な気がします。私みたいに猪突猛進してた可能性がありはしたのかな。

 

「でも、警察にとっては行方不明者の捜索だけでなく、指名手配犯の追跡にも素晴らしい効果を上げられそうです。情報管理さえしっかりできれば、世界が変わるかもしれないとさえ思います」

 

 直美さんの表情がぱっと明るくなりました。

 

「私なんかの話で役に立てているかは不安しかありませんが、ご静聴ありがとうございます。どうにも恥ずかしい話でして」

 

 やはり恥ずかしさは完全に拭えない。私は後ろ頭に手を添えてへらっと笑った。

 

「ちょっと方向性に迷ってしまっていて、本当にこのまま進んでいいのか、不安だったんです」

「研究あるあるですねぇ。しかし他人の私からすると、見つかるわけにいかない人を探さない規定が徹底されれば、画期的な気がしますね」

 

 気分的には『私みたいな工学無関係の人間からすると』なんて言いたいのですが、残念ながら萩原さんや松田さんのおかげで多少の知識がある。私の周りの人々優秀すぎて怖い。

 

「警察、かぁ……希望が見えた気がします。被害者を追い詰めるシステムにならないよう頑張ります!」

 

 意気込んでいる直美さんに、はっとする。

 

「うん。てことはやっぱりあなたがそのシステムを作ってるんですね」

「はい!」

「ヒロキくんといい、なんでみんなこんなに天才なんです!?」

「……櫛森さんだって薬学部卒業したスピード異常だよ。三年で博士号でしょ」

 

 盲目的な猪突猛進って勢いがすごいんですよ……。単にそれなだけです。

 

「皆さんみたいに十代でまともな方向に行けてないので……」

 

 差が著しいと思うんです……。

 

「直美さん聞いた? こうやって自分のこと棚に上げるんだよこの人」

 

 ヒロキはにやっとしつつも目がジトッとしている気がします。

 

「日本人にとっては謙虚が美徳なのですっけ」

 

 直美さんがくすくす笑っています。

 

「ここまでだと逆に嫌味だと思う」

「そ、そんなー……」

 

 たじたじとしてしまう。

 

「櫛森さんはご自身が規格外なことをご自覚なさって下さい」

 

 里崎さんまで……!

 ぴえんってやつです。この言葉コナン世界では存在しなさそうだけど……。

 

「ふふ。……櫛森さん、ありがとうね」

 

 ヒロキくんがにこっと笑っています。

 

「本当にありがとうございます。ちょっとこのまま続けていいのか不安になってしまってて」

「機会があったから聞いてみたんだ。それで、櫛森さんの話が聞けたら、何か見えるかもって思った」

「ヒロキくんもありがとう」

 

 直美さんがヒロキ君に微笑んでいます。ふふ、和みますね。

 

「そうそう、ここに来たのはもう一つやりたいことがあるからなんだ」

 

 そう言えば初めてお会いした時に仰っていましたね。てっきりそれだと思ってたのです。

 

「皆で日本の歌を歌ってみたくて」

「わぁ、素敵! でも私あんまり知らないの」

「私も流行りの歌はあんまり。音楽の授業で習う歌なら皆で歌えそうかなって」

「あ、そうだ。『Twinkle, twinkle, little star』はどう? あれの日本語版があってね、『きらきら星』って言うんだ」

 

 言いながら、ヒロキくんは日本語歌詞を地面に書き始めました。

 

「可愛い歌ですよね。大好きです」

「ふふ、そうだね」

 

 そしてヒロキくんが書き終わり、皆で顔を見合わせて、そしていつものようにヒロキくんの「せーの」で始めます。

 

 ふふ。この時間が大好きです。安らげる。

 きらきら星は対旋律を知らないので、素直に皆で一緒に歌います。

 

「ふふっ、本当に可愛い。楽しいです」

 

 直美さんがにこにこしておられるので私も温かい気分です。

 

「楽しいですね」

 

 そんな感じでもう何曲か歌って、お昼の時間ということでお開きとなりました。

 

 ……むう。そういえば、直美さんが寂しそうにしてたっていうのは何でだったんだろう。

 

-----------------------------------

 

 篠川さんに電話で色々とご報告など。

 二人のマル対に無事遭遇できたようなのと、彼らがどんな人物なのか等。

 

『引き続き二人の動向には注意しておいて』

「承知しました」

 

 そしてふうと一息つくと、里崎さんに声を掛ける。

 

「里崎さんは先にお風呂入っちゃってください。警察官(シェパード)さんたちにも近況なんかをお伝えしておきたいです」

「承知しました」

 

 ふふふ、と笑いながら里崎さんは準備をして脱衣所に向かいました。

 用心のため私の寝室に入り、シェパードさんではなく猟犬(ハウンド)さんにコールします。

 

『何かあったか?』

安室(・・)さん、小暮(・・)です。マル対二名に接触しました。私の出向先の少女を黒服たちが監視しているのを確認しました」

『……!』

「お心当たりはありませんか?」

『……いや。今のところは』

「そうですか。海外のことなので安室さんにはあまり動かないでほしいのですが、マル対のお名前だけはお伝えしておきます。きっとその方が都合がいいと判断します」

『君の独断か……安易に捜査関係者以外に情報を漏らしてはいけないと教えなかったか?』

「承知の上です。……彼女の名前は宮野志保。日常を監視されてるくらいです、恐らくそう簡単に救出はできません」

『……そうか。薬学方面の動向に注意しておくよ』

 

 ほんの少し間があったような気がしますが、声音が平常な所はさすが降谷さん、なのでしょう。

 彼の前からエレーナさんが去った頃はまだ志保さんはお腹の中にいた気がしますから、彼女の名前まではご存知ないはずです。けれど、『薬学関係』『宮野』で可能性を見出せるはず。

 

「探りには出ないでくださいね。本当に今はまだ危険です」

『分かってる』

「あなたは意外に無茶をなさいますから、念を押してお願いいたします」

『……君に言われたくない』

「私の独断が安室さんの致命傷なんかになったら、後を追いますからね」

『バカなことを言うな! ……そんなことには、しない』

「信じていますよ」

『信じろ』

「ふふ。承知しています。……それから、もう一人の少年に関しては今のところ影は見えません』

『……だから、捜』

「安室さんはそこ(・・)に居るかたですから」

『……あのな』

「皆さんはお元気ですか?」

『……。ああ。随分やる気に満ちてるよ。毎日毎日模擬の爆弾を作っては解体してるらしい』

「……。皆さん仕事の虫すぎませんか?」

『きっと皆君に言われたくない』

 

 諸伏さんはお元気かなあ……潜入中のかたのことなんて気軽に聞けないけど。

 

「私も身体を壊さないように気をつけますので。と言いますかこっちにいる限り大人しさ百倍増しですよ」

 

 私が護りたいのは日本ですし、アメリカを護りたい人たちも私に出しゃばってほしくないでしょう。アウェイで常人にできないことまでやる気はありません! ……多分。

 

『……どうだか』

「何ですか、安室さんに抑えろと言っておいて私が抑えないでどうするんですか」

 

 うん。そうなんだよね。だからさっきの『多分』はナシだ。何が何でも抑えましょう。

 

『……僕もそれを信じよう』

「ええ、信じてください」

 

 ふふ、と、何故か笑ってしまって。

 ああ。お話しできるって楽しいな。皆さんの居る日本に、早く帰りたいな。

 いや、こちらでの日々も温かいのですから、そんなこと言ってたら仕事できません!

 

「そちらは朝でしたね。お休みのお邪魔になりましたか?」

『充分寝てる』

「……。それは信じられませんね。どうせ三時間とかでしょう」

『……』

 

 無言は肯定ですからね!?




/

転生者
 海外の学校でほんとにそんなぶっ飛んだ飛び級できるのか書いた人は知りません(無責任)。しかし降谷さんが原作開始時に29ということはこうなってしまうのです……。転生者もともとチートだあ☆
 転生者はその映画一回のみ出演するゲストキャラは名前を思い出せない程度の能力。
 ヒロキくんと直美さんのお話はもう少し続きます。
 二人との時間も、里崎さんとの日常も、降谷さんとの電話も癒し。研究室でのお仕事も楽しい。運動もしてるのに睡眠が浅いのは何故……。
 実は枕が変わると寝れない系。イギリスでも最初そんな感じだったのを忘れている。そろそろ慣れる。
 知ってるかい転生者、里崎さんはとても耳が良いんだよ。

降谷さん
 機密をバラすんじゃない。
 でも私情としてはありがたくはある。
 転生者の思った通りエレーナ先生の娘ではと予想したけど、釘を刺されまくったのでなんとか抑える。ひとまず続報を待っていよう。
 転生者的には機をみて宮野姉妹を救出できそうとなったら彼に協力してもらいたい。プラス、エレーナ先生をずっと探しておられるのだろうから情報を流したい。

志保さん
 転生者について、善性のようなものに見えるのに不穏な空気を少し見出して謎に思っていた。
 付き人のような人も同じく。
 気になって探っているような姿勢を見せてみたら、過去色々あったことを明かされて、それが原因かしらと思っていたりする。素直。
 残念ながらそれどころではない。

ヒロキ君
 彼も公園での時間を楽しんでくれているようです。
 直美さんをここに連れて来る機会をうかがってたけど少し時間がかかってしまったと思ってる。
 寂しそうに見えることがある点についてはまだ聞けていない。

直美さん
 彼女の生い立ちはうろ覚えです、すみません!
 パンフレットは持ってるのですけどネ。

里崎さん
 柔軟体操と筋トレなどしつつ転生者のトレーニングの様子を見守っていた。
 (わたくし)はあそこまでやれません、ご自身の規格外さを理解してないようですね……。
 降谷さんはアレどころではないのを彼女は知らない。超人ってことは聞いてるけど常人の範囲で考えてる。目の当たりにしたらきっと固まる。
 車も好き。もしかしたら必要に迫られればカーチェイスできる系の人かもしれない。転生者はできない。
 ゾロ目は公安の協力者であると同時に実働担当のバックアップでもあるため、転生者の動向は共有されている。
 里崎さんも篠川さんも実働担当の一人だけれど普通の人間だから、転生者ほどの無茶はできない。
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