ヒロキ君から、家に遊びにこない? ってお誘いをいただきました。少し驚いたと同時に嬉しくもありました。
お家に招こうと思ってもらえるくらい気を許していただけたのかな、とか。
直美さんもいらっしゃるそうですし、彼の家が『友達を招く場所』であるくらいには、穏やかな場所だってことなんだろうな、とか。
つまりは、シンドラー氏とヒロキ君の仲は良好なままなのでしょう。監禁なんて悲しい事態は起きそうにないように思います。
『今のところは』なだけじゃないことを祈りつつ、教えてもらった住所へと参ります。
やはりシンドラー邸だったので、もう大丈夫だって期待していいのかな?
迎え入れてくれたのはにこやかなシンドラー氏とヒロキくん。ほっとする温かな光景です。
最初はボードゲームでしこたまヒロキくんに負かされたりとわいわいしてました。シンドラー氏もヒロキくんに参加を請われて照れながらも参加し、なかなかいい成績を収められたり。
そしてやっぱり、日本やアメリカの童謡や民謡をみんなで歌ってみたり。アメリカの歌にはシンドラー氏もヒロキくんに誘われて、やっぱりはにかみながら参加してくれたり。
あぁ、しあわせな光景です。
「
ここでも雑学強いみたいな扱いをされて、いやそれは多分単なる年の功であって、と思ってしかしふと疑問が湧く。
前世の私は何歳まで生きたんだろう。
思えばどんな人間だったのかはほとんど覚えてないんです。知識面はある程度残ってて、コナンに限らず好きだったものに関してはかーなーり覚えてるっぽいのですが……。
今生きてるこの世界と食い違うものはきっとあの世界の記憶なのだろうし、あちらで『コナンという作品を読んだ・見たはずの記憶』通りのことがこちらで起きてきたのだから、『転生した』可能性を単なる妄想だと片付けるのは無理があると思う。
だから『私』は確かにあちらで生きていた、はず。
その実感もなんとなくあるし、性別も変わらなかった気もするし、趣味嗜好もあまり変わらない気がします。
ただ、何処に住んでどう生きたのかはどうにも思い出せない。
だから合計何歳、とか分からないし、その分大人びてるような気もしないし、年の功って言葉が使えるのかはよく考えると謎。……考えないようにしよ。
まあ、今を生きるのに不都合はないから困りはしないのだけれど。
あまり前世に引きずられるものではないのかもしれかいから、幸いでもあるのかな。
……さておき。
私はバツが悪くて苦笑します。
「単なるミーハー心です。伝説とか古代とか、都市伝説とか、興味といってもかなり偏ってまして」
学問として嗜んでるわけじゃないからなあ……。
シンドラー氏はしかし、楽しそうに小さく笑いました。それは決して失笑とかではなく。
「むしろ都合がいい。私にはコレクション趣味があってね。歴史的価値のあるものからいわくつきのものまで、色々と揃えている。展示館のようにしているから整頓もされている。ヒロキの研究にも多少役に立ったものでね。話の種に、皆で見に行ってみないかね?」
私は一瞬ヒヤリとします。顔に出さなかったのは日頃の訓練の賜物でしょうか。
……そこにはきっと、
シンドラー氏は一体何を考えてるんだろう。深い意味がないことを祈りながら、私はミーハーであればそうするであろう、目を輝かせた驚きの表情を浮かべました。
「よろしければ是非! わぁ……素敵な機会をありがとうございます!」
わくわくとはしゃいだ笑顔を見せると、彼は再び楽しそうに笑いました。
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コレクションルームへと続く廊下を連れ立って歩いていく。
しかし情況によっては何らかの凶行も起きかねないわけでして……。
緊張で堂々巡りな思考に陥ってるうちに到着してしまった。
保存のために手を尽くされた独特な雰囲気の空間には、一目で演技でも何でもなく感嘆しきってしまった。
展示されているのは古代文明由来であろう品々を筆頭に、シンプルなものから華美なものまで様々だ。
一品ずつケースに展示されていて、それぞれの間隔はそこそこある。ひとつひとつ丁寧に扱っているであろうことと、それができるだけの広さの建物も所有できる力量が感じられる。
……私個人としては、出土品はその地元に所在するほうが好みではあるんですけどね。原位置を離れてしまえば失われる情報も多いし、権利的な部分もありますし。
しかしコレクターがいらっしゃるからこそ現存できている品々だってあるのだとは思います。
ひとつひとつご自身で説明できるあたり、自身の虚栄心などのために所有してるだけなどではないことが分かって更に好印象です。
しかしとうとう、です。例のナイフと思われる品の前まで来てしまいました。
でもシンドラー氏もヒロキ君も穏やかな様子のままだ。何事もありませんように。
「さて、これは何だと思う?」
皆をふわっと見回すようにして、シンドラー氏が問いかけます。その表情は楽しげ……何かの期待に満ちている? 気さえしました。
お二人以外、皆一様に首をひねっています。もちろん私もそうみせる。
何せほとんど特徴がない。他にもシンプルな様子のものはあった。けれど、なにか、が違う。
現代の市販品とまではいかないかもしれないけれど、量産品ではある気がした。特徴としては、年代物であろうことと、施されたほんの少しの模様がそれほど機械的には見えないことくらいしか、ない。
「……素材が特殊だったりするんでしょうか?」
直美さんが恐る恐るといった様子で伺う。
だがシンドラー氏は微笑んだままゆっくりと首を振った。
「いや、いたって普通の製品だ」
氏は成分等を含め、百五十年近く前に一般に流通していたものだと説明してくれた。なので皆更に首をかしげる。
こうなれば物ではなく事に関わることが予想されるわけだけど、それでは可能性は無限に近くなりそうだ。
「……これは、『切り裂きジャック』が第一の事件で使用した凶器だと言われている」
不毛な問いと明らかなためか、氏はあっさりと答えを口にした。当然ながら皆固まってしまう。
しかし重い空気にするわけにはいかないのです。
「……すごいですね……! 切り裂きジャック事件の犯人は特定されていませんでしたよね? もしかしたら何かの手がかりになるかもしれないじゃないですか! 技術は進歩してきてるわけですし」
前世の記憶なんて戻っていなかった私ならきっと真っ先にこう思ったんじゃないかなぁ、というのを口にします。
シンドラー氏は苦笑した。ひやりとしたものが胸をよぎる。
「君は、何故そのような悍ましい物まで集めている、などとは、言わないんだな」
焦燥に拍車が掛かる。
どうか不穏な方向に向かっていらっしゃいませんように。
「いわくつきの物ほどミーハー心はうずくものですから!」
不謹慎だと言われかねなくても胸を張るようにして言ってのける。
シンドラー氏はくすくすと笑った。私はへらりと笑い返す。
「実はこの品は、ヒロキの研究に一役かった物なんだ」
皆目を丸くする。
「切り裂きジャック事件の遺留品の中には、犯人のDNAが僅かに掴めたものも存在する。それと、このナイフから検出された被害者のDNAとの間にヒロキは血縁関係を見出した。それからヒロキは、DNAを追いかけることに興味を持ったんだ」
シンドラー氏はどこか誇らしげです。杞憂で、終わってくれる?
「ということは、もしかして犯人を見つけたんですか……?!」
危ない橋でしかないけれど、何も知らない私ならきっと。
「ああ。そしてそのDNAは何と、私の先祖のものでもあることも分かった」
それは恐れていたセリフだったけれど、氏は笑顔のままだった。
「実に百五十年程、代をいくつも重ねているものの追跡を、ヒロキは可能にした証明だ」
シンドラー氏は、誇らしげだった。
もう完成してたんだ……!
ヒロキ君は今数え年で九つ。映画で、十歳当時で既に自由の効かない状態だったことが語られてたから、それ以前には、ってこではあったんだろうけど……本当、神童ですよね……!
「すごい……! 私も同じ学部にいるけど、どんなプログラムなのか思いつかないよ……!」
声音で、それが直美さんの心からの言葉だと分かった。
ヒロキくんがくすっと笑いました。
「君のことだから少しは想像ついちゃってるでしょ?」
「そんなことないよ!」
直美さんは即答したけれど、二年後に老若認証システムを実現させる人なのですから、本当はヒロキくんの仰る通りなのかも……。
シンドラー氏もくすっと笑う。
「君たちは本当に……私にどうこう言わないのだな」
私たちは、きょとんとした。
そもそもあれにはちょっとした謎もある。
「第一の犠牲者とジャックに血縁関係があったとして、その二人とトマスさんのDNAに繋がりがあるってことですよね? ジャックに兄弟がいてもおかしくないですし、そちらの子孫な可能性だってありそうです。まだまだ何が隠されてるかわかったものじゃないです」
そもそもですが、と私は続ける。
「里崎さんが仰ったように、祖先は祖先です。百五十年なんて遠すぎてよく分からないですし、ジャックみたいな超有名人だと、むしろ持て囃される面もあるかもしれません。それに、明らかに世の英雄よりは殺してないですもの」
シンドラー氏が小さく噴き出してしまった。
くすくすとヒロキ君も笑う。
「だから言ったでしょ?」
ヒロキくんはシンドラー氏に笑いかけ、くるりと里崎さんのほうを向いた。
「里崎さん、もう一回言ってみて」
「ええと……先祖がなんだろうと、私は私です……?」
指名された里崎さんが少したじたじと言う。
うんうん、と無邪気にヒロキ君が微笑む。
「僕にもね、そうだなって実感があるよ。だってお養父さんは、僕にとってすごく素敵で大切な人だもの。そして恩人でもあるんだから」
ヒロキくんが自慢げに胸を張って、シンドラー氏は照れたようにはにかんだ。
ああ、大丈夫なんだ。ヒロキくんはこれから監禁なんてされないんだ……!
そしてそれは私が届けた結果なわけじゃない。里崎さんだ。だから私が夢に見ないのかもしれない。
皆、穏やかに笑ってる。
「だからこそ、だ。君たちの計画に是非支援させてもらいたいと思っている。すべてはその個人の行い次第……人は皆平等なのだという思想をこっそり浸透させるんだろう?」
ああぁ……! ヒロキくんの願いとシンドラー氏の思いは、その点で重なれるんだ……!
なんて素敵な現実なんだろう。
「そう! 今までにもストレートに訴える人々がたくさんいた。でもまだまだ世界は格差だらけだ。だから、もっと意識の深いところに刷り込んでいくのを目指したいんだ。もちろん暗示や洗脳じゃなしにね!」
今まで少し具体的な所は進めてきているのだけれど、そのもととなるヒロキくんの本心をハッキリと言葉で伝えてもらったのは、計画の始まりになったあの日以来で。
ヒロキ君は、シンドラー氏が支援してくれる意志をみせてくれたことを、そしてこの目標を共有できていることを伝えたくて、今日ここに案内してくれたんだ。
私の杞憂は、愚かでさえあったんだ。
それがすごく幸せだった。
「素敵な計画です……! あの、私も、ずっと人種差別をなくしたくて……!」
ああ、直美さんもそうだった。そうなんだ。この強い思いは皆に実感を伴って共有できるものなんだ。
「君は、東洋人という理由でいじめを受けたと聞いている」
心から痛ましそうにシンドラー氏が言った。
「そう、なんです……でも、皆さんに会えて一人じゃないって思えました。改めて、計画、一緒に頑張らせてください!」
「もちろんさ。僕も頑張るよ!」
「微力ながら、私も頑張ります」
「里崎さんは主力ですからね! 私こそ微力ながら頑張ります!」
また里崎さんはたじたじとなってしまう。
「うう……大役……務まるよう精進致します」
「大丈夫だよ! お世辞でも何でもなく、僕はすごく好きだもの」
たじたじな里崎さんは珍しいのでにやにやです。
この穏やかな空気が、愛おしくてたまらない。
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諸伏の元に降谷によって大量の書類が届けられる。
同じところに潜入している身のため報告内容が重なることもある。それでも二人は所属が違うから、それぞれで作らなければいけない。
彼らが互いの仕事を知ってからは、こうして共に書類を作ることも増えた。
本当なら繋がりを悟られないよう極力接触しないのが賢明なのだろう。
しかしほかならぬ組織によってたびたび組まされるようになった今、むしろ『スコッチ』と『バーボン』の性格では、打ち解けないほうが不自然になってしまう。
「君のおかげでかなり片付いてるそうだ……届けといてなんだけど、あまり無理をするなよ?」
「それ絶対
諸伏がクスクスと心底笑い、降谷は口をへの字に曲げる。
「最後にいつ寝た? 本職に、表向きは探偵、そして組織の幹部。こうやって離れて見てると、改めてヤバい奴だと思うよ」
「誉め言葉だと思っておくよ」
「前向きだなぁ」
ははっと彼は苦笑して、すっと真顔になる。
「はぐらかされないからな。いつ寝た。あと、何時間?」
答えることなく降谷はすっと新たな書類を机上に置いた。
「……
「……」
明らかにはぐらかされたことに不満の表情を浮かべながらも、諸伏はそれを手に取った。
「で、ゼロはどう判断をつけたんだ」
「まずは目を通せ」
「……結果は予想がついてるんだけどなぁ」
それは形式的には櫛森の『健康診断結果』だった。……ただし書類として打ち出されるまでに三か月以上が経過している。
「本人が気にしてたけど、ほんとまだちょっと軽いよね」
「真っ先に言うのがそこなのか」
降谷は小さく笑う。
女性の体重についてなど巷では、デリカシーに欠けると詰られることのほうが多い話題だろうに。
ただ彼らは彼女のトレーニングにしばしば付き合う立場にある点、その枠から外れる猶予がありはするだろう。
「ちょっとしたはぐらかしだよ。ゼロを見習った」
「君の予想はきっと的中だ。彼女は正真正銘ただの『人間』。それ以外のなにものでもない」
またうやむやにする降谷に諸伏は内心でため息をつく。
「そりゃそうだろ」
「何か機械的なものが埋め込まれてるわけでもない」
「定期検診のたびにこう探られてるの、彼女なら気付いてるだろうな」
今回に限っては渡米前の健康状態チェックとして行われたものだ。
「……きっと、徹底的にやってほしいとすら思ってる」
「そうだろうね」
諸伏はふわりと笑った。
「ゼロが言ったように、彼女のこれは『ギフト』だって、オレも思うよ。だけどそれでもゼロは……現実主義者だからね。証明したいんだろう? 彼女の存在が
降谷は自嘲で歪んだ笑みをこぼす。
「つまり僕は現状彼女がおかしいと思ってるわけだ。存在するはずがない、非科学的だ、非現実的だ……」
「珍しく自虐するなぁ。そうじゃないだろ」
諸伏は肩をすくめた。
「四年前、最初の『検査』で彼女の銃を調べようとした。だけど彼女の手を離れると跡形もなく消えてしまうし、彼女が握っている状態でもあらゆる映像に映らない。お陰で実際会うまで裏理事官は半信半疑だっただろうしな。だけど」
諸伏は一度コーヒーを口にして、言葉を続ける。
「彼女のあれは科学では証明できないけど、実際に物理的な影響を及ぼす。それが『現実』だ。ゼロだって本当は分かってるくせに」
「……何も分かってないよ」
降谷は俯き、くしゃりと自身の髪を握りしめる。
「……一生、だ。彼女は死ぬまで公安に監視される。それで……万一この国に不都合があると判断されてしまえば……」
「後悔してる? 彼女を協力者にしたこと。彼女が望んだのに」
今の所彼女の能力について知る者に彼女を忌避している様子はない。
『悪い凶器にならないための使い道を下さい』
強い瞳で真摯に言った彼女の願いを、今更否定する?
「後悔がないと言ったら嘘になる。だけど……彼女が僕達の味方で良かったとも、思う。もしあのままあちら側に渡っていたとしたら……いや、忘れてくれ」
「……分かったよ」
降谷と櫛森が出会った当時の二人の立場について、諸伏は察しがついている。
捜査関係者以外に情報を漏らしてはいけない。それを降谷が一瞬忘れかけたことに気づいた諸伏は小さく苦笑した。降谷は少し余裕をなくしているらしい。
「その一生の監視を解きたいから、現実的な証明がほしいんだよな。あわよくば、そこから彼女の能力をなくしてしまえたら、なんて思ってる」
降谷は俯いたまま反応しなかったが、つまりは肯定なのだろう。
「そしてそれをオレに怒られたい」
降谷の肩が小さくぴくりと動いたようだった。
「『私の覚悟を軽いものにしないで下さい』だったな。あの言葉は忘れられない……忘れたくもない。……なあ、ゼロ。オレたちと彼女の間には信頼関係がある。それだけでいいだろ。証明だの何だのは、お偉いさんとかから催促されたらでいいじゃないか」
「……あぁ、僕は彼女の『正義』を信頼している」
この国を護る道に反するものではないと、知っている。
「性根が真っ直ぐなのも、知っている」
だからこそ、手を引く者によってはどんな道を突き進むか分かったものではなくは、あるけれど。
今は。
「彼女は僕たちの味方で……仲間、だ」
「うん。それだけで充分だろ?」
『今は』という言葉をどうにも拭い去れないとしても。
……彼女以外に同様の『証明不能』な者が在り、もし『敵対存在』であったならという、不穏な可能性が生まれてしまっているのだとしても。
「ああ。そうだな」
そうなのだと、幼馴染と確認し合いたかった。
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数日後、研究室にて。
「そう。そこが何とかなれば、もう少し現実的にできると思うんだけど……」
志保さんが難しい顔で文献にかじりついています。
「なかなか難題ですね」
私も似たようなものです。
彼女の卒論についてです。
テーマは、『細胞をより良い状態に
健康な細胞は分裂前には何の異常もありません。分裂時に何らかの傷がつくと腫瘍となり、ガンの原因にもなることがある。
それを健康な状態に戻せれば、ガンの根絶が可能になるかもしれない。
もとの細胞が情報源だから個人による部分もあるし、癒すではなく『戻す』というのが適切なのかもしれない。
実現すればガンだけでなくもっと様々な病気を癒せるかもしれない。
それだけじゃない。もしかしたら擬似的に『若返り』さえ可能にするかもしれない。
志保さんがそんな夢のようなものを追求しょうと思ったのは、何も無謀というわけではなく、糸口があったからだそうです。
それはご両親の研究だった。
例の薬を開発できちゃうようなかたがたですものね。そしてそれを復活させた娘さんです。
きっと無理筋じゃないんだろうな。
もしかしたら、彼女が組織で研究していたのもこれだったりする……?
確か心の声で、本当は研究していたのは別の薬だとか……いや、
あ、開発できたら莫大な富になるかも、か……。
そんな利用のされかた、許せない。
本当に、早く彼女を組織から救出できるよう、頑張りたい。
……ただ、懸念がないわけでもないのです。彼女が例の薬を完成させる前に離脱が成功してしまったら、工藤君はあの時に命を落とすかもしれないんだ。
それを防げるかどうかは、正直なところ当日にならなければ分からない。
よく考えて、慎重に行動していかなければいけません。
そんな日々を送る中。
『君の健康診断結果がこちらにも届いたよ』
降谷さんからお電話をいただきました。渡米前のチェックでしたから、私のもとには随分前に届いているものです。
降谷さんにまで届いているのは、彼が私の保証人みたいなものだからでしょう。公安にとっては要注意人物でしょうしね。
どれだけだって調べて、少しでも彼の懸念事項が減ってくれたらいいのですけど……私のファンタジックな能力はきっと解明されはしないことでしょう。
でもだからこそ、何度だって素直に調べに応じます。
『相変わらずいたって健康でなによりだ。そちらで身体を壊してはいないだろうな?』
「もちろんです。いつでも気は引き締めていますよ」
だって私はいろんな意味であなたの力になりたいのです。たとえほんの少しでもいいですから。
七日だけはどうしようもないかもしれないけど、それがあるからこそ、他では不調を起こしたくない。
『ただ一点、やはり
「……足を引っ張りそうなときは、さすがに弁えます」
そんな存在になりたくない。
『……言っただろう。滅茶苦茶ができるように鍛えてやるって。君の無茶の範囲はきっと僕たちには測れないだろうしな』
……できることが、違うから。
だから、できる限りのことは全てやろうとしてくださっている、気がする。
……ああ、本当に私は、周りに恵まれている。
『食事量は増やせそうか?』
「うーん、贅肉になる可能性が怖いですね」
私の
自身に適度な運動量はある程度分かっているので、それをオーバーし過ぎるエネルギーは摂取したくないのです。
それに合わせての今の食事量は、実は人並み以上ではあるんですよ。志保さんなんかたまにひいています。
『そうか。僕のほうでも他の方法を考えてみる』
ここで更に食えって言わないのが降谷さんなのですよね、きっと。
「ありがとうございます。自分でも考えます」
ああ。彼を始めとしてみ、こうやって気にかけてくれる人ばかりです。しみじみ、幸せだ。
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「やはり彼女がいると進むようだな」
メスカルはニヤリと笑った。
「あら。私の実力だと思ってはくれないのかしら。彼女は聞き上手なのよ?」
シェリーがしれっとした様子で無表情に肩をすくめる。
「フン。お前のことだ。目を逸らさせたいんだろうが……抱える荷物は少ないに越したことはないだろう? 利用できるなら利用しろというだけだ。引き続き協力を仰げ。それが組織からの命だ」
「……分かってるわよ」
シェリーは、不機嫌を隠さずに答えた。
/
転生者
ヒロキ君については彼女の影響がないとも言えないのに、自意識薄弱のため完全に傍観者気分。
プロジェクトではアイディア等担当。たまに奇抜なことをあげて皆が爆笑したり驚いたりする。転生者だからね……多分盗作ではない。やってもオマージュかパロディ。参考程度。
降谷さん
現実主義者的には複雑だけど、きっと本心では彼女を普通の人間と何も変わらないと思ってる。身内にはとっても優しいけど意地っ張り。
諸伏さん
変なところで素直じゃないし頑固だよな、って内心微笑ましい。
真面目さゆえでもあるんだけど、って少し心配。
あまり難しく考えるなよ。
ヒロキ君
もちろんプログラム担当。テキスト監修等も。
ノアズ・アーク(制作中)
きっと自己破壊の未来は消えた。計画でも大活躍しそう。
直美さん
やはりプログラム担当。あときっと結構綺麗な言葉知ってる。
シンドラー氏
資金源だけ大盤振る舞い気味にやる気でいたのに、ヒロキ君にのせられて気づいたら何やかやさせられてそう。かなりの親バカさん。
樫村氏
シンドラー氏によってあれよあれよという間に計画に引っ張りこまれる。関係良好。
里崎さん
自意識薄弱仲間。作曲担当。作詞は全員。
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