ヒロキ君たちと目指してるのはフリーゲームの配布です。広く遊んでほしいのが第一ですからね。
先入観等の払拭のため、シンドラーカンパニーやヒロキ君の名前は出さずにやっていきます。
『平等』を謳うと言っても、それをドストレートに叫ぶようなお話はちょっと作るのも難しい。
正真正銘真面目な話になるわけでして、それに好き好んで耳を傾けて下さるのは、普段から『平等』に関心があるかたに、ある程度限られてしまいます。
この世界では、前世で流行ったような種類のお話があまり話題に上がらないようにみえた。かといって向こうとは需要が違う、なんてことはないと思う。カルチャーショックとか感じたことないしなあ。
治安の悪さ()からか、『悪』や事件等を解決する物語(ヤイバーや探偵しかり)が好まれる傾向にはあるけど、勧善懲悪的な物語はジャンル問わず存在しますし、ミステリ以外が入り込む余地もあると思うんです。
なので私は無から無い知恵を絞るのではなく、前世で好きだった物語をヒントに色々と大枠を書き出していきます。
アマチュア制作の無料ゲームといって浮かぶものは、ホラー、アドベンチャー、RPG、ノベル、とかでしょうか。アクションや弾幕は……ヒロキ君たちには作れちゃうかもしれませんが、ひとまず置いておく。
この世界でも配信は流行ってまして、色んなかたのを覗いてみたのですが、商業以外のフリーゲームのプレイ配信・動画もそれなりに人気があるようでした。
ゲームの内容も向こうの世界とそう差はないように思います。
特撮やミステリが殊更人気なために、一歩目立たなくなってるってだけなのかもしれない。
ミステリの流行を思えば、謎解き要素を含められたら楽しそうかもしれませんね。
とはいえ、配信者さんがずっと立ち止まっちゃいそうな超難易度は控えたい。これでラスト、ってとこなら少し難しいのもアリかな?
そんなふうに色々書き出して皆さんにお伺いして、ファンタジー系アドベンチャーに決まりました。
性格も能力も異なった仲間が複数いて、それぞれの違いを活かして冒険をしていくオーソドックスなもの。ただし舞台は現代。
最初ですしエタらないよう軽いものを作るのだと思ってたのですが……あと私はてっきりツ◯ール的な市販の制作ソフトを使って、プラグインなんかを自作なさるのかと思ってたんですが……こうして大まかな系統が決まって以降、そのためのエンジン作るからシナリオゆっくり考えてね〜って言われて目が点になりました。
アマチュアとは……?
この神童たちこわい。
もういっそプロのシナリオライターさん呼びません??? 私荷が重いよ???
……しかしこのメンバーだからこそ意味があるんだって微笑まれるのです……誠心誠意がんばります……。
主人公たちのイメージカラーを決めつつ、ラフいキャラデザを走りがきしつつ……ってしてたら、絵系も担当することに……どうも私似顔絵とかは得意(前世とった杵柄、な気がする)なようですが、ゲームのキャラクターとなるとうまくできるかしら……。
そんな楽しい作業をあれこれ進めて、共有して、「ここはこういうイベント作れそうだけどどうかな?」なんて頼もしいアイディアをいただいたりしつつ、仕様書がある程度形になって来た頃。
……。
コナン君の行く先々で事件が起きるのは、彼が事件を呼んでるとかじゃなくてそもそもこの世界の事件発生率が高い、というほうが彼の名誉が守られはするわけですが……。
現実の治安としては勘弁してほしいですよね。
でも現実というやつは非情のようです。
連日ニュース番組は酷いことになってます。視聴率とれなそうな事件はきっと扱わないんでしょうに、それでも悲惨なことになってます(強調)。しかもほんと、知能犯多すぎ。
あの中二病をくすぐる、戯れ言の出夢くんや某大走査線の日向さんのようなぐるぐる巻き(で収監される犯人)がごろごろしてるんじゃないですか? ……ごろごろしてたら中二病になってくれない気がしますよ。
……というのは現実逃避だ。
何でですか。
……いや、この立場ですから遭遇するのは初めてではないですよ。
けれど、ここで起きなくてもいいじゃないですか。
……そんな考えは甘すぎるのでしょう。
志保さんと里崎さんとともに学食でお昼を済ませて、研究室に文献を見繕いに向かったのですが。
扉の前で呆然とする学生が数名。
雰囲気が異様だった。
……妙な、においが、していた。
妙なのに、私はよく知っているにおいだった。
ざわつく胸を極力無視して突っ立っていた学生をすりぬけ、研究室の様子を──。
「……」
室内に入らずとも、扉が開いていればもう目に入ってしまう位置に──流し台を背に……あの日の諸伏さんのような姿勢でぐったりとしている人が在った。
胸部と周りの床をにおいのもととなるもので赤く染めて。
それなのにその色を作り出した物は彼女の近くには見つからなくて。
私は、スマホを取り出しながら、一応片腕を伸ばして入り口を遮った。
そのまま911をコールする。
色々と遭遇しているとはいえ、そのため多少の知識はあるとはいえ、仕事で必然的に関わる以外では、外国でなくとも自身で調査をしようとはなりません。そもそも必ず解決できる自信なんてないですからね。
あれで命があるとはさすがに思えなかったけれど、残念なことにやはり彼女は亡くなっていたそうです。
その人はこの研究室の学生ではありませんでした。学部は同じですが、研究室が入っている階も違う。
けれどこの研究室に彼女をよく知る人物は一人だけいたのです。
トビー・モースタン。
初日私に質問してくれた彼は、彼女の『元恋人』だったのだそうです。
それはそれは仲睦まじく、周囲では有名だったとか。
別れてしまった原因は二人とも周りに話していないらしく、噂が色々飛び交ったりしていたそうです。
そのせいで真っ先に彼に疑いの目が向いてしまって。
だけど。
「2時間目この研究室では二、三年生合同で専門科目の講義が行われていました」
「終わったら皆昼食に出てった。ここはオートロックで、施錠されたのを見てる。トビーは今日IDカードを家に忘れて来てるから自身では解錠できない」
「2時間目彼は実習室で実験に勤しんでいました。多分卒論に関係してるんでしょう。それから学食に向かっていたのも、我々もだったため見ています。いつ頃彼が学食を出たのかまでは目で追ってませんが、我々が学食を出た時、購買で彼がレジに並んでるのを見かけました。そう何度も往復していたら休み時間じゃ……足りない、んじゃないかと、思いますが……」
こう、彼の犯行じゃなさそうだという証言のほうが多かったのに、彼女との関係性からどうしても注目を浴びてしまうことになっていて。
仲が良かったから、同じ研究室の皆は彼を心配する人間ばかりだったけれど、被害者が別の研究室なものだから、周りの視線が不躾なものになってしまっているようでした。
彼は堂々としていて気にしていない様子を見せているけれど、我々は彼が意地っ張りで強がりなことをよく知っているのです。
私にコナン君みたいな頭脳があったらよかったのにな。
そんな中、恐ろしいことが分かりました。
あんなに赤いものが流れていたのに、死因は絞殺だった。ハイネックだったから一目では分からなかった。
血中からは血が固まりにくくなる成分が検出されたそうです。
死亡推定時刻はなんと昨晩夜中頃。
それから昼休みまで彼女はどこに存在したのか?
いったい誰が何の目的でこんな遺体発見をもたらしたのか?
どこかにこのややこしいことを画策した人間がいる。
勘弁、してください。
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「一体何のつもりよ」
「何の話だ」
「とぼけないで。あなたたちが噛んでないなら逆に無能だわ」
「だから、何の話だと聞いている。お前が噛みつきそうな話題などその辺に掃いて捨てる程だろう?」
クックック、と喉を鳴らして嗤う様にシェリーはおぞましさをおぼえた。
「……今回の警察沙汰よ」
「……ん? ……ああ、あの研究室の件か?」
メスカルはニヤニヤと嗤ったままだった。
「舐めないでもらいたい。我々なら発覚などしない」
「わざとらしいミスリードだったらすすんでやる癖に」
「杜撰な仕事はしない主義でね」
「……」
シェリーは冷ややかな目を更に眇めた。
「じゃあせめて私の周りで騒ぎが起きないよう、その無駄に広い幅を存分にきかせてなさい。そんなこともできなかったの?」
「過分な信頼に感謝しよう。だが、毒入りだと知らない者を怯えさせるのはさすがに毒には不可能でな」
知られていないからこそ口に入る隙ができるのだから。
「……既に解毒薬を作ろうとしてる人間が現れてないといいわね」
「心からの心配痛み入る」
鷹揚に構えるメスカルに、シェリーは忌々しさをおぼえた。
「お前こそ下手に嗅ぎ回って目立つなよ。あぁ、むしろ何もするな。もし彼女が働くようなら見たいしな」
ふむ、と何か楽しげに思案する様子を見せられ、シェリーは危惧と怒りで唇を噛む。
「考察なんぞが会話に上がるかもしれない。録っておいてもらおうか」
「プライベートな会話まで報告する義務なんかないわ」
「……シェリー、お前は立場を弁えているはずだな?」
「……っ」
「お前の大事な大事な姉が少し痛い思いをするかもしれない」
「…………無理よ」
「ほう。案外冷た」「知らないのかしら。彼女の護衛の耳は人間の域を超えてる。盗聴器なんて波長に気づかれかねないわ」
「でたらめを」
「知らないのね。それくらいきちんと調べなさい。あの護衛は音を操作して彼女を護っていることすらあるのよ」
憶測を拡張したシェリーのそのはったりが、里崎の持つ能力のほぼ核心をついているなどとは彼女はあまり思っていなかった。櫛森自身が謎に盗聴探知機能付きのスマホを所持しているなんて情報は万が一にも漏らしたくない。里崎の特に隠されていない素性が探られるほうがましだと思っていた。
シェリーがたどり着いた『里崎桔梗』のその存在が、公安によって作られたモノだなんて知る由もない。
櫛森のほうが里崎より身体能力が高いなんて、そういう守りではなく精神をサポートするために就いているのだなんて、知る由も、ない。
「……お前がファンタジーなどを信じるとは思っていなかったな」
「馬鹿ね。あなたたちが実現させようとしてることは何? 充分ファンタジーだわ。世界にこういう超科学が存在しないと思ってるなら、そもそも研究所の目標を否定してることになるけど?」
「……」
メスカルの表情が消えたことでシェリーの内心の溜飲が少しだけ下がる。いい気にさせてばかりでいるものか。
「……それらしき会話があがれば報告しろ」
不機嫌そうにそれだけメスカルが言い、二人は偽りの日常に帰った。
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我々の研究室は捜査のために封鎖された。しかし証拠隠滅や逃走の危惧云々以前に容疑者の絞り込みが全くできずに、通報当時現場にいた面々すら、現場を動くななどと言われることもなく、全員が自由の身だった。
担当となったらしき二人の警官には謎の既視感があって私は首を傾げた。
グランバーグ警部は背が高く体格もよく、亜麻色の髪をした男性。
レイヴン警部補は痩せ型で厳しい顔つきの黒目の男性。
……あぁ!
グレグソン警部とレストレード警部のイメージに似ているのかもしれない。
さまざまな作品等がオマージュとなっているこの世界でも、ホームズシリーズはそのままで存在する。だからもしかしたら二人は、一緒にいれば周りから言われたことがあるかもしれませんね。
お二人は『お前たちの中に犯人がいる』との思考を隠す様子もありません。我々──特にトビー君への視線と態度がとてもきつい。警察なら尚更、証言を重視してほしい所なのですけどね……。
だから当然こちら側から煙たがられている。
ただ、取り調べは丁寧(念入りとも言う)なようで、ひとりひとりに行われた聞き取りの姿勢は真面目だった。そしてあからさまな疑いの態度ではあっても、横柄ではなかった。
「まったく。ハイスクールまでだったら夜中キッチリ施錠されるんですけどねえ」
嫌味っぽいけど気持ちは分からなくもない。研究のためとはいえこちらだって警備の皆さまに申し訳ないとは思う。
「……鍵に通したIDの記録は残っているんじゃないんですか?」
施錠解錠に使用されたIDカードが誰の物かという記録が残らないなら、学生証や職員証それぞれがキーとして使える意味はなくならないだろうか。逆に危険度を上げかねない。
「正面玄関のものはそうでした。というよりあそこは専用のキーがなければ開閉できない。けれどあなた方はあっちこっちのドアから出入りしているでしょう。困ったことにあれらの鍵はそれぞれ独立してて、棟自体のセキュリティシステムに繋がってないんですよ。だから規定時間外に解錠しても警報が鳴るだの警備が飛んでくるだのしないわけです」
私は思わず額に手のひらを押し当てた。ちょっとセキュリティ自体が甘めなのかもしれません。
閉まる分にはオートロック。そしてIDカードを通した上でそれぞれのドアで違うらしい8桁の暗証番号を入力しなければ解錠はできない。それだから日中は開け放たれているが、夜はきちんと出入りのたびに、誰に言われなくとも皆防衛本能のようなもので閉じる。
夜に出入りする必要のない人間はたいてい暗証番号も知らない。そしてそれを必要とし始めれば、教えてくれるのは夜中に籠もることのある先輩がただった。私の場合教えてくれたのはマーロウ教授だけれど。
各研究室等々の開閉と変わらない方法ではあれ、てっきり管理はきちんとまとめられていると思ってた。
「日常的に誰も彼もが利用しているせいで、指紋なんかをとってもなんの意味もない。まったく、頭が痛いですねえ」
……となれば凶器が見つかりでもしない限り決定的な証拠を得られないということでしょうか。
研究室の皆が出払っている隙に彼女の遺体をああして置いた方法も不明だ。普通に運べばどうしても目立つでしょう。だからそう大きく動かしたわけではないという見当だけは的外れじゃないはずだ。きっと現場も学内ではあるはず。
「というわけで、十五日の夜はどちらに?」
棟の暗証番号を知っていてIDカードも持っている人間は全員が容疑者というわけです……。
「家にいましたよ。私はボディガードと一緒に住んでいますので、証人は彼女です」
「ボディガードねぇ……」
レイヴン警部補が私の隣に座る里崎さんに胡乱気な目を向ける。
「あなたは何故そんなものを連れてるんですか?」
もっともな疑問だった。
「世の中物騒でしょう? 私の保護者はとても心配症でして」
「……それだけで大学側は随伴を許したんですか?」
「事情もあるにはあるんですよ。何故か私は『七日』に事件に巻き込まれることが多いんですが、そのせいでPTSDがあって、動けなくなることが多いんです。その日の防衛と介助のために、彼女はいてくれています」
「……」
グランバーグ警部もレイヴン警部補も変な顔をしています。
「調べていただければわかることかと。私の両親の命日は九年前の十月七日です。三年前の十一月七日、東京で爆弾事件に巻き込まれて死にかけました。かと思えばその解体に当たってたのは大切な友人で、同じく長期入院することになってましたね。他にも小さなことが色々と……」
……ということにしておきましょう。友人になっていただいたのは事件後だなんて内緒です。
警察のお二人がひいたように口をへの字に曲げています。
数秒その状態が続いて、お二人はどちらからともなくため息をつきつつ肩の力を抜きました。
「……その。なんというか。……ご愁傷様です」
「……迷信、で片づけられたらどんなにいいだろうか……」
グランバーグ警部なんて十字を切っている。お二人とも、基本的にはお優しいのかもしれない。
「…………『legal guardian』か……そうか……ご両親が既に……はぁ……」
レイヴン警部補が何故かぶつぶつと呟いていた。何か彼にも事情があるのかもしれない。
まあ私は成人しているのでそう『法的後見人』なんて出てくるものではないですし、公安は『保護者』と言っていいのかよく分かりませんけれどね。何事も嘘でもなくて分かりやすければいいんです。きっと。
「警部!!!」
そんな微妙な雰囲気の中、叫ぶようなそんな声と共に空き教室の扉が音を立てて開かれた。
現れたのは制服の警察官。日本でいえば所轄の刑事さんなのかもしれない。
「おい、ドアを壊すなよ。始末書が好きなのか?」
「それどころではありません、また死体が!」
「……なんだって?」
……ねえ。
勘弁してください。
今度は、先日遺体となった彼女の所属していた研究室で、我々の研究室の男子学生が、彼女と同じ状態で発見された。
彼は、トビー君の親友だった。
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連続殺人。
まだ続く可能性が、生まれてしまった。
「……里崎さんは、何か分かったこと、ありますか?」
夕食後、家でくつろぎながら私は彼女に聞いてみる。同じく強行犯6係に特殊な席を持つ身です。『現場』を知っているはずだった。
ふふっと彼女は笑った。
「あなたは現地の警察に任せるものだと思っていました」
「ええ。きっとそうするべきなんです。下手を打てば国際問題になりかねないのも分かっています。だけど……まだ続く可能性がでてきてしまいました」
里崎さんは真剣な表情になりました。
「もちろん、警察のみなさんが解決してくださるなら動く気はありません。……だけど、間に合わない可能性もゼロとはいえない。だからこれはただの保険です。……それに」
私は小さくひと呼吸をおいた。
「『目の前に助けを必要としている人がいるのに、我が身かわいさで動かないのは怠惰である』って言葉を聞いたことがありまして。私はそれを支持したいと思っているんです」
一言一句覚えてるわけじゃないけど、強く印象に残っている。カッコイイと思った。見習いたいと心から思った。
私は内心でふっと笑う。たくさんの信条を分け与えてくれたあのゲームが私は本当に大好きだったんだ。
想いが動かす力を教えてくれたあの物語が、今、私が欲する『もう一つの未来』を切り開く力をくれている。
思えば世界を越える物語でもあった。
……何が起こったって不思議じゃないのかもしれないね。
自分の存在への不審が少し薄れたような気がした。
大好きだったゲームのデータになれてるならもう本望なのかもしれないじゃない?
私が人間じゃなかろうとやれることをやればいいんだ。
……さておき。
「状況はまとめてみたんです」
私は里崎さんに入手した限りの情報を書き留めたものを手渡す。
※年齢は数え年
リサ=ドレッバー(23)
スタンフォード研究室6年生。マーロウ研究室6年生トビー=モースタン(28)の元恋人。別れたのは2ヶ月ほど前。
死亡推定時刻:4月15日22時頃〜16日1時頃
遺体発見:16日13時頃 マーロウ研究室
目撃情報:15日20時頃帰宅すると言ってスタンフォード研究室を後にしたのを複数名が見届けたものが最後
アルセニー・スモール(25)
マーロウ研究室6年生。同研究室トビー=モースタンの親友。互いに「my buddy(相棒)」としばしば呼び合っていたほど。
死亡推定時刻:4月17日0時過ぎ頃〜2時頃
遺体発見:17日15時頃 スタンフォード研究室
目撃情報:16日、リサさんの遺体発見を知って廊下に集まりざわつく学生たちの中にいたのは複数名が目撃していたが、いつの間にかいなくなっていたとのこと。顔色が悪かったという証言もある。
トビー君
被害者二人との関係性から何らかの関与を疑われているものの、犯行を行った可能性は低いとしうる証言が多い。本人も聞き込みにて周りの証言と矛盾のない発言をしている。
・15日夜は所属していたサークルの同期生たちとバーで飲んでいた
・16日2時間目(〜11時50分)終わりまで東館実習室にて実験を行い、その後アルセニー君を含む友人たちと学食へ
・16日12時半過ぎ、友人たちと別れて学食と同じ建物内の購買にて残り少なくなっていたためシャープペンの芯を購入。複数名の目撃証言がありレシートも所持。ポイントをつけようとして学生証が財布にないことに気付き家に置き忘れたかと思うも、未だに見つからないそうだ
・購買を出たあとは東館に戻り実験を再開。目撃証言もあり。14時近くに知らせに来た友人によって事件を知り呆然としていた。研究室に向かった時には既に警察が規制線を張っており、現場には近づけていない
・16日夜は研究室の皆に連れ出されてバーへ。沈む皆で励まし合ったり追悼したりしていた。アルセニー君も複数名が呼ぼうとしたが電話に応答がなかったため、悲しみ疲れて寝てしまったと判断しそっとしておこうとなる。(もし無理やりにでも呼び出していればと皆悔やんでいた)
・17日は前日の深酒により自宅で昼過ぎまで寝ていた。友人からの事件について知らせる電話により起きた。
※自身の所属する研究室と、薬学部本館、東館、北館の、自身が利用する教室等に近い出入り口及びその教室等については8桁の暗証番号を先達から伝え聞いているが、それ以外まで知っているものはいないと考えられる。つまり各研究室で知っている場所が異なっている場合が多い。
※各館の正面玄関は専用のIDカードが必要でデータが記録される。規定時間外に解錠しようとすると警報がなり警備が飛んでくる。
※正面玄関以外の出入り口は全てスタンドアロンで警備システムに組み込まれていない。IDも記録されない。
「……これ、本当に記録されないんでしょうか」
里崎さんがぽつりと零した。
「え」
「あまりにも無防備すぎるでしょう? 管理がそれぞれに任されてて、中央に記録されないだけなんじゃないでしょうか」
「……!」
「結構古い学校ですし、管理が代を跨いで引き継ぎそびれてるとか、あり得ないことではないかもしれません」
「なるほど……!」
規定時間外の出入りも研究のためならさもありなんとするなら、目をつぶるから管理も自分たちでしなさい、なんてことがあるかもしれませんよね。
翌日、警察の皆さんと教授たちにその可能性をお伝えし、キーの仕様書や管理引き継ぎ情報は見つからなかったものの、分解という強硬手段に出たところ、メモリーカードが内蔵されているのが分かりました。きちんと取り出し口もあったけどわかりづらすぎて皆ため息をついた。
データはやはり解錠したIDの記録でした。
そして。
遺体発見時の解錠の一つ前の記録は、両方トビー君のIDだった。
……いったい、何なんですか?
私はそもそも、助けを必要とする人のために動くことのできる人間なのだろうか。
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グランバーグ警部とレイヴン警部補には、ますますトビー君への疑いを強めている様子がみてとれた。
「トビー君は学生証を紛失してるんですよ? 第三者が不当に所持してるってことじゃないですか」
「……紛失が虚偽だったとしたら? あくまで自己申告なんですから」
「そんなあからさまに怪しいことしませんよ。彼は賢い学生です」
「身内を庇いたいのは分からなくもありませんが」
教授陣および私に言い募られて、グランバーグ警部は不機嫌そうだった。
……客観的事実でもあるのに。彼の賢さは成績だけでなく、日常でもたびたび発揮される鋭い観点からよく分かることであって。
「だとしても、他人がわざわざ、IDが記録されているかも不明だった解錠に彼のカードを使う理由のほうが分かりません。拾得もそう簡単なものではないはずです」
「……警備のことなんかよくわかりませんでしたから、私はむしろてっきり記録されて当たり前だと思っていましたが」
「トビーを疑わせたい奴の仕業かもしれないでしょう」
グランバーグ警部もレイヴン警部補もイラつきの滲むため息をついた。
「とにかく! 今はまだ証拠もなにもありませんから確かなことが言えないのは事実です。今回アイディアをきちんとこちらにも伝えてくださったのには大変感謝しております。これからもご協力をお願いいたします」
そういうことをきちんと言ってくれるのだからきっと、本当にいい人たちではあるんだろうな。
「ええ。きちんと真実にたどり着いてくださいね」
マーロウ教授はそう言って微笑んだけれど、目は笑っていなかった。
我々は未だに封鎖されている現場から追い出されるようにして解散した。
「……ミセス・シャルパンティエのとこでクエン酸ナトリウムの500グラムボトルが数本行方不明になっていたそうよ」
「……」
自然とスタンフォード研究室の教授陣と別れてから、ぽつりとミズ・モーガンが言った。我々は黙り込む。薬学部のまた別の研究室だ。
「数本、って」
ドクター・フェリアが眉をひそめる。関係ないけれど彼はファーストネームがスタンフォード。一人目の被害者であるリサさんの所属する研究室の教授はファミリーネームがスタンフォード、だ。
師など敬う人のファーストネームをミドルネーム等に継ぐ文化もあるから、こういうことはそう珍しくない。日本だと名字と名前に同じ字がくることはあまり多くないけれど。
さておき。
リサさんとアルセニー君の遺体から検出された、血が固まりにくくなる成分というのが主にその『クエン酸ナトリウム』でした。
輸血用の赤血球濃厚液の抗凝固剤であるCPD液にも含まれている成分だ。
クエン酸ナトリウムそのものは人体に有害だから、遺体から検出されたということは意図的に使用されたということになる。しかも死因には関係がないため、死後に注入した可能性が高い。
「……我々だって知らないのに、モースタンがミスタ・スタンフォードやミセス・シャルパンティエのとこの暗証番号まで知ってるとは考えられない。その上どこも薬品庫にもロックをかけていて、持ち出しには申請とそこの教授の許可と、履歴への記入を必須にしている」
ミズ・モーガンが眉根を寄せながら言う。
「……この分じゃ、亜硫酸塩もどこかの研究室から消えてるんじゃないか」
マーロウ教授も表情が厳しい。
……亜硫酸塩はワインによく使われている酸化防止剤です。それも遺体から検出されているもので、こちらも一定以上で人体に有害となる成分。だから……。
犯人は血液が固まらないよう、そして赤いままであるよう固執しているとみられます。
……何の為になにをしているの???
遺体発見時の『
死亡推定時刻の偽装ができる薬物でもないし、わざわざ手間をかけて現場で血を流させる意味も、何もかも、分からなすぎる。
「共同で使ってる実験室の保管庫だって怪しいわ。……よくよく在庫と記録をチェックしないとね」
ミズ・モーガンは、他の研究室にも『それとなく』聞いてみると言った。
遺体のこの詳しい状況は警察と、こうやって捜査に協力できる可能性を持つ両教授陣と……犯人しか知らない。
だからクエン酸ナトリウムと亜硫酸塩のことは事件と繋げずに調べをつける必要があるわけです。
「……何か、他にも分かったことがあればすぐに共有するように。ミスタ・スタンフォードにもお伝えしないといけないね」
「そうですね……」
また、さすがに、夜間、大学全体で学生たちの出入りが禁止されることになりました。
教職員に関してもやむを得ない場合以外での自粛を求められました。
/
転生者
実は6係として殺人事件を担当することがしばしばありはした。
しかしやはり慣れはしない。部屋に入らず、ご遺体に心の中で手を合わせる。
里崎さん
同じく6係として以下略。
加えて実はミステリにハマってたりもする。
しかし事件で心躍らせたりしないし何なら内心青褪めてる。
でも
志保さん
メスカルが絶対何かしてると疑ってる。
メスカル
さて、どう出るか……。