そろそろ八月になろうかと言う頃。
世間はすっかり夏休みモードだ。
彩も鮮やかな夏の風物詩を宣伝するために、そこかしこで色々と上りが翻っている。
FINEのハロー探偵事務所の皆さんとのグループにて、結城さんが居酒屋で意気投合した人が海の家のマスターで……という、薄っすらと記憶が蘇るような会話が続いていた。
探偵としての仕事って守秘義務もあって普通はこんなところで会話されたりしないんだけど、これはちょっと毛色が違うからか、まず日程を示して空いてる人間を募っておられた。
-『木暮さんはこのどこか、空いてらっしゃいませんか?』
そんな中メイちゃんが私にもメンションを飛ばしていらっしゃる。
うーん。
私は特に予定がない日取りではあるけど、『木暮』だとしたら捜査一課のあの様子じゃ続けて休みなんて取れるわけがないし、行けても一日だろうなあ。
-『おい七篠、木暮さんはアルバイトなんかできないからな』
風晴さんがキッチリ突っ込みを入れている。
-『いえ、お客さんとしてご招待をと思いまして』
メイちゃんのお気遣いがとても嬉しい。
なので。
-『時間が取れそうな日に是非お伺いしてみます』
FINEでの文体は丁寧語にしております。
木暮はギチギチに縦社会に染まってて、年上とあらば丁寧語になる。だから年上のかたも結構いらっしゃるここでは丁寧語なのです。
私が来るかもとなってわいわいして下さってる中、ああ、何かそれらしい服買わなきゃな、とぼんやり思い、私同様女性な研究生の
海なんて、両親が生きてた頃以来だなあ……。
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海の家というと海開きの時期だけ営業される掘立小屋というイメージなのですが、こちらはそうではありません。
まるでお洒落なホテルの一角が砂浜にはみ出したかのような、しっかりとした造りと小綺麗さを兼ね備えています。
白を基調としたその海の家では、木製の椅子やテーブルと観葉植物が良い差し色になっている。
その椅子やテーブルの上で日差しを遮る大きくて真っ白なパラソルが目に眩しい。
椅子にはソファーまで乗ってるよ。お洒落だなあ。
「あ、木暮さん、いらっしゃい」
私に気づいた白鳥さんが声を掛けてくれました。
……白鳥警部じゃないですよ。ハロー探偵事務所の探偵のお一人、白鳥譲治さんです。
ファッションにお詳しくメイクもお手の物で、変装もこなせるかたなんですよ。
「こんにちは。大繁盛ですね」
きらきら笑うお客さんたちの姿を眺めながら、私はそう言ってふふっと笑う。
「……君は……休みか?」
その白鳥さんの声でお気づきになったのか、新宿署の春野さんがちょっと目を丸くしてお聞きになる。
彼は客席にいらっしゃいます。
「ええ。彼らに日程を聞いていたから、非番の日に覗きに来たの。春野さんと秋元さんはお休みなの?」
春野さんも年上なんだけど、彼は佐藤さんを思い浮かべながら話してる時の私が素だと思ってるみたいで、気兼ねせず接するように頼まれたから丁寧語を使えないのです。
ええと、と春野さんの隣に居た秋元さんが少し迷った様子を見せた。そして。
「所用です!」
元気ににこっと笑って言った。
ということはお休みってわけでもない、と。
詳細はもう覚えてないけど、多分これは
特対課のお二人がここに居る理由はなんとなく分かるから、仕事かもしれないことにちょっと首を傾げながらも、丁度空いてた近くの席に通される。
「はい、これメニュー」
と言って、レストランで出されそうなパウチされたメニュー表を、微笑みながら出してくれたのは火村さん。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
火村さんは弁護士でもある探偵さん。料理の腕もかなりのものです。
渡されたメニューを眺めて私はふふっと笑った。
「海の家というよりもう、スイーツカフェみたいですね」
色鮮やかなデザートの写真がずらりと並んでいる。
「俺たちが考えた再建メニューだ」
ぱちりと火村さんがウィンクした。
「見てるだけでも楽しくなれますね。さすがです。しかもこんなにたくさん」
「もう三日経つからな。事前に考えても来たが、お客さんの声を拾ってそこから考えるのもなかなか楽しくてな」
「ああ……それは、
それを思えば彼らの仕事に全然関係ないわけじゃない気もする。
感心しきりでただただメニューを眺めていると、春野さんたちのテーブルにメイちゃんが彼らのオーダー品を届けに来た。
「あっ、木暮さん、来てくれたんですね」
メイちゃんが笑ってくれてる気がした。
声音からも歓迎してくれてるのは分かるんだけど、やっぱりまだ表情はあまり動かせないままみたい。でもなんとなく分かるくらいには変わってきてると思う。
「ええ。お仕事ご苦労様」
私は彼女ににこっと笑いかける。
鮮やかなビタミンカラーのスイーツがサーブされた席では、秋元さんが素直に「わー、綺麗ですね!」と感嘆の声をあげ、実はスイーツに目がない春野さんも何も言わないながら目を輝かせていた。
それらを見遣りながら私もクリームソーダをオーダーする。
『すごい! 都会ってこんなに可愛い食べ物があるんだ!』
そこに聞こえた第三者の声は、幼い少女のものだった。
春野さんたちのテーブルにあったタブレットはビデオ通話中で、そのお相手が……確か、大手術のために入院中の女の子、のはず。
「七篠君、木暮君、こちら大島七海さん。わけあって知り合った子なんだ」
私とメイちゃんがそのタブレットを見つめてるのに気付いてか、春野さんがそう紹介して下さった。
「初めまして。七篠メイです」
メイちゃんがそう言って丁寧にぺこりとお辞儀をしたので私も彼女にならう。
「私も初めまして。木暮愛莉です」
『二人とも海の家の店員さん? ねえ、もしかしてマジョキュアのスイーツとかある?』
挨拶もそこそこに尋ねる大島さんに、メイちゃんがきょとりとした。
「マジョキュアとはなんですか?」
『えっ、マジョキュア知らないの!?』
大島さんが画面の向こう側でおもいっきり目を真ん丸にしてる。
『選ばれた女の子たちが星座の力を借りて、悪いやつに立ち向かうアニメ! みんな知ってるよ』
私はプロジェクトのためのリサーチで少しだけ目にしていたのだけど、そうなんです、この世界、魔法少女ものもきちんと存在してる。
そこに、私が頼んだクリームソーダを白鳥さんが運んできてくれた。
もともと綺麗だけどこの暑い中では余計に魅力的で、小さく歓声をあげつつお礼を言って受け取る。
私は早速浮かんでるアイスにスプーンを入れた。
少しソーダの絡んだバニラアイスはとっても爽やかで、口に含む瞬間暑さを忘れさせてくれる。
ああ、しあわせ。
マジョキュアの星座の力について秋元さんと春野さんが説明を引き継いでいた。
大島さんは顔を合わせるたびにマジョキュアのお話をしてくれるらしく、それで覚えたらしい。
私は春野さんたちの席の空いてるとこに招かれたので遠慮なくクリームソーダとともに移動する。
『マジョキュアはね、ふわふわの可愛い服に変身して、どんな敵にも絶対負けないの!』
一生懸命そう語る大島さんの目はきらきらしていた。可愛いなあ……。
『苦しいときも誰かのことを思うのをやめないし、悩みながらも前に進もうとするんだ。そういうところが応援したくなるんだよねー』
彼女がそう言ってにこっと笑うと、少女特有に細いツインテールがさらりと揺れた。
『わかった? マジョキュアのこと』
「……よくわかりませんでした」
『ええーっ』
メ、メイちゃん……!
いやでも彼女記憶喪失だからなあ……子供の頃の憧れなんて、よく分からないのかもしれない。
「ただ、マジョキュアについて熱心に語るあなたのことは、素敵だなと思いました」
……彼女もこういうところだよね。
大島さんがぽかんと口を開けている。
そしてやがて。
『……変なひとー……』
照れ隠しのように少し目を逸らしながら言う大島さん。
「変、ですか」
しかし素直なメイちゃんはそのまんま受け取ってしまうのですよ。
『だって普通大人はアニメの話をする子どもを〖素敵〗とかって言わないもん』
少しそっぽを向いたままほんの少し拗ねたように大島さんが言う。
しかし当のメイちゃんは真剣に考え込んでしまっている。
彼女には多分まだ、『普通』が何なのか分からないんだと思う。
少しして、メイちゃんは大島さんにどう声をかけたものか迷う
そこに助け船を出すように春野さんが口を開く。
「きっと七篠君は自分に正直なだけだ。だから七海さんもそのまま受け取るといい」
彼はふわっとメイちゃんに微笑み、そして大島さんにも笑いかけた。
『……そ、そっか……』
たじたじと、しかし照れた様子で大島さんが小さく俯く。やがて。
『うん、あなたのそういうところ、私もいいなって思う。変って言ってごめんね、メイさん』
「いえ、そんな……」
今度はメイちゃんがたじたじとなってて私はふふっと笑ってしまった。
「二人とも素直で可愛いと思うわ」
「……木暮さん……」
弱ったように眉尻を下げてこちらを見るメイちゃんにますますくすくす笑っていると、画面の向こうの大島さんもえへへっと笑っていた。
そうこうしているうちに、画面の向こうで大島さんを呼ぶ声がする。何かの時間みたいだ。
『あーあ、呼ばれちゃった。じゃあね、春野さん、秋元さん。……メイさんと愛莉さんにも、また会えたらいいな』
大島さんがばいばい、と手を振って通話は終わった。
何故か黙り込んでいる春野さんと秋元さん。
そこに火村さんがやってくる。
「メイちゃん、休憩時間だ。そのまま春野さんたちと一緒にお茶するか?」
「よければもう少し、七海さんについて説明したいのだが……どうだろう?」
とすかさず持ち掛けたのは春野さん。
そしてメイちゃんは残る一席にお招きされ、大島さんについてのご説明が始まりました。
彼女と春野さんたちが出会った切っ掛けはなんと補導だそうです。
大島さんは病気を治すため、出身の伊豆諸島から本土の病院に入院することになったそう。
知らない土地で友だちも居ないから心細くなったのか、彼女はその入院先から飛び出して、よりにもよって夜の歌舞輝町を歩いていたのだそうです。
春野さんは幼い頃に転校を繰り返していて、慣れ親しんだ環境を離れる気持ちが分かる気がしたということで、以来気になってお見舞いに通うようになったそうです。
そして、大島さんを補導した時一緒だった秋元さんは、彼女を気遣う春野さんを手伝いたいと思ったそう。
そして、海が見たいと言う大島さんに応えるため、ライブ通話を提案したのが秋元さんなんですって。
それで評判の海の家に来てみたらハローの皆さんがお手伝いをしていた、という。
ほとんど覚えてなかったけど、そういうことだったんですね。
「──それで、だ。何故こんな話をしたかというと、君たちに協力を仰ぎたいと思ったからなんだ」
これって多分原作ではメイちゃんだけが言われたことなんだろうなあ……。
「私たちに、ですか?」
メイちゃんがきょとりとしている。
「ああ。先ほど七海さんが、君たちに対して『また会えたらいいな』と言っただろう?」
そういえばそうでしたね。
「あの子が『次』に期待するのを見たのは初めてだ」
……なんてことでしょう。
「俺たちに対しては、いつもそれきりになっても構わないような挨拶しかしなかったからな」
「どうして……」
メイちゃんが困惑してる。
「俺たち最初に刑事の顔で出会ってますからね。どうしても壁があるのかもしれません」
秋元さんが眉尻を下げながら苦笑気味に言った。
「あるいは……。いや、考え過ぎか」
春野さん、その意味深な言動はなんですか。
「いずれにしろ、七海さんは君たちを気に入ったのだろう。だから……君たちさえ良ければ、少しの間俺たちと行動を共にしてもらえないかと思ってな」
「え」
メイちゃんはまた少し困惑してる。
「それいいですね。きっと本当に『次』があったら、七海ちゃんも喜びますよ」
秋元さんがおひさまのような笑顔で言う。
「うーん。今日だけなら大丈夫だけど」
私も少し困りながらお答えする。
非番は今日だけって設定ですからね。
「ああ、今日中に次の機会はあると思う。七海さんは少ししたらまた時間ができるはずだ」
「なら、喜んで」
私はにっこり微笑む。
「私も……私で、お役に立つのでしたら」
メイちゃんも、未だ戸惑いつつもそう返していた。
「ありがとう。ぜひお願いしたい。火村さんには俺から話してみよう」
春野さんはほっとした顔で微笑み、ようやくスイーツに向かって手を合わせた。
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いつもより短いですが間に合いませんでした!(こら)
コナンについてはたくさんぼかしているのですが、クロスオーバー先のアンゼロに関してはサービス終了しているため新規では現在閲覧手段がなく、原作を知りようがないため結構がっつり引用しています。
(やってた人間は現在もオフライン版での閲覧が可能です)
それにちょっと抵抗があったのと余裕がなかったため、pixivではさぼって書いてないお話になります。なんてずぼらな(再)。
初出な皆と新宿署の皆の似顔絵全部かけてなくてごめんなさい!
余裕が出来た時に追加します!
転生者がアンゼロの彼らに出会ったのはコナン原作の五年前で、今回はその二年後のお話になります。つまり松田さんと諸伏さんの件がある直前の夏です。
アンゼロがサ終するまでの物語は一年以内に起こってることのようですが、この世界では数年かけてゆっくりのんびり進んでいきます。
年齢は順当に重ねられていくため、ここでは、
オリ主:25
警察学校組:26
七篠メイ:不明
結城怜二:37
風晴優人:27
白鳥譲治:28
火村匠:33
春野隆宏:34
秋元奏太:25
ということになります。
計算苦手マンなのでミスってたらすみません()。
実際その計算ミスでpixivでは時系列狂ってましたので……(がくぶる)。