翌日。十一月七日。
絶対に何かあると、最初から機動隊と捜査チームが待機しています。
相変わらず夢見が限りなく悪い。
けれど、同じことが起きようとしているんだ。
絶対に止めると逆に気合を絞り出す。
『我は円卓の騎士なり
愚かで狡猾な警察諸君に告ぐ
本日正午と14時に
我が戦友の首を弔う面白い花火を打ち上げる
止めたくば我が元へ来い
72番目の席を空けて待っている』
今日から警視庁捜査一課に配属されている伊達さんが、インカムの向こうでニヤリと笑っている気がした。
私が直接一課を覗きに行ったのは『2』の時のみ。もう皆さんが動いてくれることは確実でしたし、あそこには本当に必要な時にしか行かないようにしている。本来私が何の断りもなく入れる場所ではない……はずですから。
『聞こえたな?』
白鳥さんが予告文を読み上げたその声は、伊達さんのインカムがバッチリ拾ってくれました。
『また一生懸命作ってくれたもんだよなァ……』
やっぱり一番反応が早かったのは松田さんだった。
『我が戦友の首を弔う、ね……確定だな』
そう言った萩原さんの声には苦いものが含まれている気がした。
逆恨みとはいえ、警察が犯人の仲間を死なせたことに違いはない。
『席が72もある円盤状の物っつったら杯戸ショッピングモールの大観覧車しかねぇ』
『でもやっぱもう一個あるんだな、どーする?』
萩原さんの『どーする』はきっと、二つのどっちを担当するか、ってことで。
『大観覧車には俺の隊が向かう。もう一個の謎々はお前らに任せる』
松田さんの高速思考は私には真似できないから、松田さんの答えからの逆算をします。
円卓の騎士はグレートブリテン島のアーサー王伝説。そのアーサー王は5~6世紀の人物です。当時の遺物に仮面に十字というのは実はそう多くもない。
仮面というよりも兜に十字があしらわれることが多くなるのは十一世紀終わり際に始まる十字軍です。
しかし。
ヨーロッパでは5世紀も12世紀も、松田さんが物語の中で仰ったように『中世』なのです。
前者は『中世前期』、後者は『中世盛期』、ではあるのですけれど、『中世』、なのです。
「0と2、12と14、円卓の騎士、アーサー王は6世紀の人物、警察への恨み、四年前犯人の一人が死亡、二人組、爆弾は二か所、円卓の騎士と死んだ戦友、円卓は大観覧車、首級は戦功の証、首、頭、顔、冠、兜……『面白い』花火……?」
伊達さんがFAXを映した画像も送ってくれたので、それを見ながら、ぶつぶつと呟く。
爆弾が『面白い』花火……?
あ。これはきっと繋げられる。
「正午の爆弾には絶対に、爆弾の仕組みとは別に厄介な罠があります! 毎年数字を送り続けた執念深さとこの周到っぷり、きっと二つの爆弾はなんらかで連動しているでしょう。その罠に警察官がかかるのを確認するために、犯人はきっと正午の爆弾を視認できる範囲にいるはずです!」
犯人の動機の一つに警察への復讐があるのは、もう皆ご存知だから。
『ハッ。面白い花火ねぇ……もし観覧車のほうだとするとあの周りは客が多い。おい班長』
『オーケー。たくさんの
松田さんが呼んだだけですべてを把握する伊達さんが行動を開始した。大観覧車付近を捜査するのに充分な人数を割いてくれるはず。もちろん明らかに二個目が存在するので、過剰に動員しはしないだろう。
「死んだ『戦友』なら同じく騎士……騎士の首……アーサー王伝説の円卓の騎士に関しては実物がほとんど現存しません。お墓の場所すら分からないことが多いです。そのため首と言われてもどんなものかが確実には言えません。ただ……アーサー王のブリテン島に限らずその範囲をヨーロッパに広げれば、『騎士と言えば』、という兜がなくもありません」
『十字軍』
松田さんが即答する。
「はい。彼ら十字軍の兜には、目出しと呼吸のための隙間部分を合わせて十字に象ったものが多くみられます。『グレートヘルム』といいます。それは……筒状で、前側の顎の先は尖らせてある場合があります。正面から見ると……」
『病院の地図記号か』
そう言った萩原さんもインカムの向こうで不敵に笑っている気がしました。
「はい。それに、円卓の騎士と十字軍には五百年以上の間が空きはしますが、ヨーロッパとしてはどちらも『中世』です。だから、きっと、繋がっているはずです」
きっと、間違いじゃないはず。
そのセリフを根拠を持って言えればいいのだけれど、答えを知っているがために間を頑張って想像しただけだから、何と言っていいのか。
『あぁ……残るは、どこの病院かだ』
ああそうだ。松田さんは、この人は、自分で答えを導き出した人なんだ。
だから辿っただけの私があれこれ悩む必要なんてない。
彼こそが証明で、皆はそれを信じられる人たちなのだから。
『モール周辺だけでいくつもあるぜ……どっちが十二時なのか十四時なのかも今はまだわかんねーけど、十四時のほうを先に解体しちまったら十二時のほうがどうなるかもわかんねーな』
ああそうか、この予告文からだけじゃ確実な順番は読み取れないんだ。
だとしたら私は答えをどう遡ればいい?
円卓の騎士と書かれた次に戦友の首、そして最後に72番目の席、となれば順番通りになっているのでは、という発言はしづらい気がする。
「円卓と72番目、そして戦友の首。ヒントが多いほうが先なのではないでしょうか。多分犯人は正午『罠にかかる警察官』が一番見たいんだと思います。だから十四時のほうが先に解体されては困るかと思われます」
『いい読みしてんなァ』
『あー……実際病院のほうは特定に手間取ってるしなー。なるほどねえ』
インカムの向こうで松田さんと萩原さんが笑っている気がする。私が知っているのはあなたがたのおかげなだけです。
『俺のほうは隊とともに杯戸ショッピングモールに到着……班長ももういるな?』
おう、と伊達さんが応える声がする。
『おい
「チャラ?」
萩原さんが苦笑して、ああ、と気まずそうな声をあげました。
『いやぁ、四年前のあれでさ、俺が吹き飛んだら仇を討ってくれって約束しちゃってさ』
『約束なんかじゃねぇ。一方的に言いやがっただけだろーが』
今この世界では吹き飛んでないってことがどれだけしあわせなのか、端々で思い知らされる。
「萩原さんあとでおいしいシードル奢って下さいね」
『ん?』
「私一緒に吹き飛んでたかもしれないので」
『……すまん』
しあわせなので本心から責めているわけじゃないのですが、つい洒落にならないからかいをしてしまう。
「ふふっ、冗談です。流してくださいね。萩原さんに責がないことは私がきちんとそばで聞いていましたから」
本当に流してほしい。気にしないでください。なのでさっさと話を戻しましょう。
「しかし病院だとして……恨みを晴らしたい犯人はきっと、警察官が正午の罠にはまると物理的にも社会的にも甚大な被害となるようにしているでしょうから、そこそこ大きな病院に仕掛けていると思われます」
『とすると杯戸中央病院……いや、正午のほうの様子は窺ってるとしても十四時のほうは目で確認する必要がねぇ。観覧車に割いた人員が即座に移動できる範囲に無ぇ可能性があるな……そして、FAXの発信元からすれば犯人の行動範囲は杯戸町、米花町、須単町、鳥矢町にある程度限られる』
伊達さんが範囲を絞ってくださいました。頼もしいです。
四年前、本命のほうはトラップだらけで間に合わなかったくらいだ。犯人には自信もあるはず。
同時に二か所に居ることなんてできない以上、犯人は十四時を自身が見届けることは必須にはしていないはず。かといって他県とかまで離れると己の御せる範囲になくなる可能性が出てくるから、じゃあ犯人の行動範囲は、となるのですね。
十四時のほうは多分、それ自体の規模はさておき、犯人にとっては一個目の仕掛けが上手く噛み合った時のご褒美、くらいのものでしかない。ヒントを待たれて解かれれば見つかってしまう程度の物だから。
爆発したとして最低、速報ででも結果を見られれば充分であり、正午のから遠い or 行きづらい場所に仕込むだけ仕込んで、自分は本命の──警察官を罠に嵌める正午のものをじっくり見ようとするだろう。
十四時の爆弾が先に解体されたら三秒前のヒントは意味がなくなるけれど、十四時のものが先に解体できたとして、正午のモノもすぐに解体できるとは限らない。更には、あの犯人のことだ。状況が気に入らなければ十四時のほうの解体情報が入った瞬間正午のほうを遠隔で爆発させる、なんて陰湿なケースも想定される。
犯人の目的は第一に警察への復讐なのですから。
そもそも十四時のほうも最後まで見つからない可能性もあるわけで、そちらも時間通りに爆発するとしたら正午から二時間も空けてある。ゆっくり向かっても両方見れる可能性がゼロじゃないってことになるだろう。
……まあ昨日の件からも分かる通り、四年前以来猛奮起したお二人の成長は恐ろしいものだったみたいだから、四年前のやつと同程度だったらきっと本当に『三分もありゃ充分』なんだろうけれど。
『なら……米花病院か米花総合病院か米花中央病院だな』
萩原さんがぱっと仰って少しびっくりしました。どうしたらそう行きつけるんだろう、めちゃくちゃ興味があります。
「どうしてですか?」
『犯人が恨みに恨んでる俺たち警察官が元々いるのは警視庁。そこから杯戸ショッピングモールに向かってるのがいっぱいいるとしたら、最も面倒になるのは引き返すこと。だから警視庁自体からもある程度距離があって、杯戸ショッピングモールから引き返すと更に距離が開く大病院つったらその三つになる。西米花病院もまあ怪しいけど、ちょっと近いかな』
おお……この世界の地理に関しては前世チートなんて全くの無意味なので、すごく参考になるし頼もしいです……!
「萩原さんすごいですね! 私ちょっと米花病院調べてきます!」
相変わらず私には語彙力がありません。
愛車を目指してマンションの駐車場に行った私は思わず棒立ちになりました。
「……随分楽しそうなことをしてるじゃないか」
ニヤリと目の前で不敵な笑みを浮かべているその人の声は、インカムからも聞こえてきました。
『零!?』『降谷ちゃん!?』
皆それぞれ驚いた声をあげています。
「
「そうです!」
「じゃあ片っ端から行こうじゃないか。焦る松田なんて是非見てみたい」
ああそうか……私じゃ
言葉ではなく仕草で乗れと指示されて、私はFDの助手席に収まります。ちなみに以前後部座席に乗ったら睨まれました。なんてことでしょう。
『オイ、いつから聞いてた』
松田さんの声が怖いです。このグループ通話アプリって途中参加したら通知音が鳴るはずなのですけど、降谷さんもしかしてシステム的に何かしましたか?
「いつからだろうね?」
くすくす笑う降谷さんです。これはもしかしたら既に諸伏さんもいたりするのかもしれない。
「ともかく、範囲は絞れたにしろ正午までそう時間がないんだ。萩原の隊はどこに向かう?」
『俺は米花中央病院だな。挙げた中で一番遠いから』
「了解。僕たちはそれ以外を何軒でも回る。用心に越したことはない」
『オーケー! 頼んだぜ降谷ちゃん! 汀ちゃん!』
内心で舌を巻く私です。萩原さんも一発でアタリを探り当てているようなものだよね。そして萩原さんが怪しいと見たそこは彼に完全に任せられるから、ってことで降谷さんは他を『何軒でも』回るって言ったんだと思う。本当このかたがたは眩しいです。
《 サイトロ 》は現在いるフロアの間取りと罠の位置を視認させてくれるチートな
ちなみに何らかの構造物内でなければ何も起こりません。どこかの道で使ったら全世界丸見え、とかいうことにはならない。
降谷さんと諸伏さんにお見せした最初の『ボール』です。
つまり同じ建物の同じフロアに居る『仲間』にも見えるわけで、降谷さんは少しだけたじろいでいる気がしました。
既知の品物ではあってもやっぱり非現実的なモノだからでしょうね。降谷さんのそんな雰囲気はたいへん珍しいので内心微笑む。
「米花病院の全フロア確認しました。爆発物はありません」
「米花総合病院に向かう」
原作でそこにないことを知ってはいるけれど、何のイレギュラーがあるか分からないので各所一階一階慎重に調べます。
それにしても、現地に着きさえすればそのフロアに設置された
被害が大きいことが狙いなのだから病室内に設置されることはないでしょう。
ナースステーションに近すぎると置こうとすれば見咎められるかもしれません。
外来受付とか待合室は人込みに紛れて何か置いておくには適しているかもしれません。
そういう思考を巡らせた上で、本当なら探知機や手探りでの捜索をしなければいけない。
けれど《 サイトロ 》があれば見渡すだけで終わる。
それにしても、降谷さんのヤベーほうの運転で酔わなくなった私はきっと少しは頑張っていると思いますよ。
「米花総合病院全フロア確認。爆発物なし」
「念のため西米花病院に……」
『その必要はねーぜ! 見つけた、爆弾だ! 解体作業に入る!』
萩原さんの元気な声がした。
やっぱりそこだったのかという不謹慎な安堵を投げ捨てて言う。
「降谷さん、このあと我々はどうすべきでしょう」
「わざわざ二個だと予告してくれているんだ。隠し玉があるなんて無様な真似はしないだろう。だから」
ニィッと降谷さんが笑います。
「犯人が待ち構えているだろうショッピングモールに──」
そんな降谷さんのセリフを遮って爆発音が聞こえた。
まさか。
『何の音──』
『落ち着け、爆発したのは制御盤らしい。おかげで大観覧車が止まらなくなっちまったがな』
萩原さんの慌てた声を遮って、冷静な松田さんの声がします。
『72番が下りて来るまでに防護服を着こんでたわけだが……止まらないとなると乗り込むのが少し面倒だな』
「できないのか?」
『抜かせ……面倒なだけだ。まあ狭ぇから俺一人になるだろうが、とっとと解体して──』
「いや」
ああ、やっぱり降谷さんはそう言うのでしょう。
「今ので犯人が松田のことを見てるのは確定した。ぎりぎりまで時間を稼げ。爆発する寸前が一番犯人の油断するところだろう?」
それはきっと、皆への信頼の言葉。
ハッ、と、松田さんが笑ったのが聞こえた。
『いいぜ、面白ぇ……どうせ三分もありゃ充分だ、最後の一本だけ残して一服でもさせてもらう……』
『おい、爆弾もだが観覧車はもともと禁煙だろう』
『今くらいいいじゃねーか。頑張って働いてるお巡りさんにご褒美くらいくれよ』
『ったく……』
伊達さんは呆れたような声で注意しているけれど、それ以上言わなかったから黙認したのかもしれない。
そしてそれから少し間を置いて、再び爆発音が聞こえる。
『おい、陣──!』
『落ち着けって萩原……またどっか制御がイカれて観覧車が止まっちまっただけだ……』
『ってことは宙吊りだろ! 落ち着けるかよ! ……ほらよ、こっちの解体は滞りなく終了したぜ。だが情報はここできちんととめておくから、お前もとっととやれよ?』
『ハッ、今の振動で妙なスイッチが入ったらしい……水銀レバー。四年前と同じだ』
『おい! 制御盤が直っても観覧車はそのまま動かすな! 例の水銀レバーだ、少しでも振動すれば即爆発する!』
伊達さんが警察無線に向かって叫んでいるようだった。
水銀レバーについては捜査本部で情報共有済みだから、きっと全員それが何なのかきちんと把握している。
『……勇敢なる警察官よ 君の勇気を称えて褒美を与えよう 騎士の弔いを彩る大きな花火の在処を 表示するのは爆発の3秒前 健闘を祈る……ハッ、『面白い』花火ってわけだ』
『なっ、3秒前だと!?』
『だから落ち着けって萩原。もうお前が
ククッと松田さんが笑う。
『面白い花火ねぇ……本当頑張ってアレコレ作ってくれたもんだ……そらよ、あと一本切りゃぁこいつはお寝んねだ』
「よくやった。僕たちも杯戸ショッピングモールに着いたから、園内を──」
その時だった。
『確保ォオ!!!』
伊達さんと松田さんと萩原さんが警察無線を携帯しているからか、その声がインカムを通してはっきりと聞こえてきました。
けれどこの声って。
──……佐藤さんだ!!
松田さんは結局爆処に残っているから、多分この世界で二人には接点がない。
つまり二人の物語が生まれていない。
そこに少しの切なさはあるけれど、出会って、かつ松田さんが生存すれば、高木刑事との物語が生まれなくなる可能性が出て来る。
佐藤さんも、松田さんへの恋心あっての高木さんへの想いではきっとないはずだから、きっと、きっと。
松田さんと高木さんはどこか似ているみたいだから、彼女のタイプがきっと彼らに共通する部分で、だから恋をする。そういうことなんだと、信じてる。
生きていたら、松田さんには別の物語がきっとあるだろうから。千速さんに一途だった所もあるみたいですし。
ひゅう、と口笛を吹いたのはきっと松田さんなのだろう。
もしかしたらここで松田さんと佐藤さんがお互いを評価して、なんて出会いはあるかもしれないね。
『被疑者を尋問したところ、今回は単独犯のようです! だから! 観覧車の爆発物処理班、今すぐ解体して!』
『オゥよ……残り二分ゼロ三秒、解体完了、と。あとはどっか安全な場所に……』
『ウワァアアァアアアアア!』
ほっと一安心というところでどこか悍ましい叫び声がした。
『何事だ!』
『ッ……申し訳ありません! 手錠での拘束はあるものの、逃走されました』
『何だとォ!?』
私は走ります。
降谷さんが呼び止めた気がしたけど、とまるわけにはいきません。
私結構ゴリラに近づけたと思うんですよ。
『近づくなあぁあアア! 遠隔起動するぞ!!!』
『クソッ、被疑者は手に何か持っています!』
「……松田さん、爆弾って解体完了してても爆発するものなんですか?」
『もともと火薬の塊だからな。回路を全て絶とうが、信管抜いてようが、もし更に爆薬の中にでもなんか埋めてあんなら……俺は触ってねぇな』
「……」
物語の強制力とやらで絶対爆発させるマンにでもなっているのかもしれないけれど。
私も四年前とは違います。
爆発させて犯人の留飲を下げることも必要がない。もう絶対捕まるから。
ならば。
私は《 バニッシュ 》を使って姿を隠し、走ります。
観覧車の中で曲芸のように暴れまわった人々を前世チートで知っていますからね。
ガシッと、私はゴンドラの一つによじ登って、そこから鉄材を伝って上って行きます。
『オイ!! 汀!! お前どこで何してる!!!』
『またなんか無茶してんのその子!?』
「周辺の人々をひとり残らず避難させてください!!! 早く!!!」
私は声の限りに叫びます。
『全員離れてください!! 捜査員及び機動隊員は避難誘導を!』
『こっちです! 他人を押さないように!』
伊達さんや佐藤さんの声や、他の人たちの声も聞こえた気がしました。
犯人の来るなという叫び声も引き続き聞こえます。
間に合って、間に合って──。
72番ゴンドラはあれですね。
鉄骨を、つたって、つたって。
私は扉をコンコンとノックします。
「松田さん、四の五の言わずに開けてください」
「オイ……まあいい」
がちゃりと鍵を開ける音とともに扉が開く。
中に入って私は例のマスケットを抜きつつ《 快気 》を使って《 バニッシュ 》を解きました。
「ッハ、ご立派なモンをお持ちで」
「ええ。とっても立派だからさくっと吹っ飛ばしてみせますよ。水銀レバーのほうはもう無効なんですよね?」
「ああそうだ」
「では、遠慮なく」
私は座席背面にあたる南東方向めがけて《 チャージブラスト 》をぶっ放して風穴を開けた上、ショットガンと変化した銃身を構えながらその穴から爆弾を放り投げ、更に《 スキャッターガン 》で多少斜め上方めがけて吹き飛ばしました。
扉を利用せず敢えて風穴を開けたのはそちらには大きな池があるからです。まあ大観覧車自体がめちゃくちゃデカイため高度があり、砕けないままそこまで落ちることはまずないでしょうけれど。
多分遠隔起動とか関係なく私が撃ったせいではるか上空で爆発したそれは、小さな灰や部品の欠片だけを降らせて消えていった。
犯人は再び無事佐藤さんが取り押さえ、以後、逃走は叶わなかった。
/
町や施設の位置関係は書いた人の適当な捏造なので信じないでください。
転生者
アーサー王伝説? 伝説って言葉だけでもう惹かれるミーハー。
曲がりなりにも留学先がイギリスなので、ミーハーな彼女はゆかりの地を巡ったりしていた。
そして現在、どんどんメスゴリラに近づいてきている。でも見た目は細いし出るとこ出てるまま。ファンタジー。
このあとこっぴどく怒られたあとでよくやったと褒められはする。でも厳重注意。
爆弾に対して《呪印解除》の
もともと魔土器を使うのは最後の手段だとも思っている。あまりやすやすと使っていると情報が流れ、それ以上のチートを目指し研究する輩が出てきて世界がますますカオスになるとみている。
この世界の技術も充分現実離れしているため、ファンタジーを科学で成し遂げる可能性がないとも断言できない。
そして悪夢は二人分になった。
降谷さん
ぶち切れてるけど、誰も犠牲が出なかったし犯人も捕まったので比較的心は穏やか。
しかし翌月からまた七の日に転生者が調子を崩しているのをばっちり発見してモンペ化の危機がぶり返す。
同じ十一月七日に同一犯による爆弾事件が起こったがため、未然に防ぎ解決したとはいえ大怪我したことがフラッシュバックしているものと判断する。
萩原さん
陣平ちゃんより早く解体したけどあっちのほうがトラップ多かっただろうからなあ、と、更に爆弾の研究を進める。今回の犯人は捕まったけど、この世界ほんとよく爆発するからねえ。
四年前の松田さんの気分を少し理解する。本当にごめんな、陣平ちゃん。
あの直後は、観覧車内にいる転生者に指示を飛ばして松田さんの防護服を脱ぐ手伝いをさせる。
松田さん
最初に出した転属希望は受理されず、約束どおり後続を待った。
しかし未だに彼の目に留まる後輩が現れず、爆処に留まったまま。
けれど実際転生者の不安の通り二回目の爆弾事件が起きたので、これでもよかったのかもしれないとも思っている。
萩原さんに敗けたと自分で判断して(頑固)、同期たちと転生者に酒盛りで全部奢った。
「オイ
「企業秘密です」
「うるせぇ見せやがれ」
「嫌です」
「なんか見られてマズいもんなのか? お前それ怖がってたじゃねーか……調べたほうが何が何だかわかるだろ」
「ですから、企業秘密です。A secret makes a woman woman……女の身体調べて何する気ですか?」
「いかがわしいように持ってって逃げようったって無駄だぜ」
「しつこい男は嫌われるんですよ」
「嫌いなのかよ」
「企業秘密です」
みたいなじゃれ合いが起こる。
『バーボン』な『安室さん』はぴくりと反応をするが、そういえばこいつ変装も習っていたよなとひとまず置いておく。件のセリフは『世界的な有名女優』の言葉であって、彼女の変装技術についての評判はそうとうなものだから、参考のために彼女について色々調べた時に、かっこよさげなセリフに感化され、引用した可能性もあるだろう。
伊達さん
日付で予想してたとはいえ警視庁配属当日にでかい事件が起こって内心苦笑するしかない。
ハロ嫁でこの事件の一ヶ月後の配属という明言があったようです。多分この世界の捜査一課にはこの年の十一月七日にこの事件が起きる想定があったから、それに備えて早まったと思われる。
昨日も昨日だったし都心ってのは本当に事件が多いもんだなと気を引き締める。
配属早々部下たちは素直に指示に従ってくれたし、避難誘導も滞りなく進んだので、ますます職務にやる気が出た。ここなら一生やれるぜ。
指示飛ばす側ってのも、なかなかやりがいがあるもんだな。
諸伏さん
もちろんこっそり通話グループにいた。
実は距離を置いて大観覧車周辺をスコープで探っていたけれど大きな出番はなかった。
個人としては淋しいけれど、解決して本当に良かった。
『遊園地』に来ているにしては挙動の怪しい人物を幾人か警察無線で報告したりしていた。犯人は見事にその中の一人だった。
一度逃げた犯人が手に握っていた何らかのスイッチを狙撃しようかとも思ったが、同期たちの通話を聞いていてこれは現地の人間が(たとえメチャクチャでも)解決するだろうと、ギリギリまで待機を続けた。
潜入先を思えばそうぽんぽんスナイプして痕跡を残していいわけでもないはず。加えて転生者と同じく、同期たちへの確かな信頼もあってのこと。
佐藤さん
捕まえた爆弾犯を仲間に任せ、上司の某警部さんに状況説明等をしていたところ犯人が逃走するも、スイッチを押させないようじりじり会話を引き延ばし、爆発が聞こえた瞬間ぎょっとしたものの、使命感の元即座に動いて確保した。
ほどなく上を見上げたが、爆炎の上がるようなゴンドラはなく、宙に爆発の余韻を見たために、どこぞの見知らぬバカが無茶したなと溜息をつく。
Next phase:H.M.