----------------------------------- side:Furuya
四年前から繋がる因縁の爆弾事件に決着がついた翌月七日、やはり
最初の頃なんて一日中酷かったのだからそれよりマシではあるが、念のために彼女の職場に連絡を入れる。
「……ええ。同一犯だそうですからね。過去の記憶が刺激されてしまったのでしょう」
時間を惜しむのか病院に行きたがらない彼女を半ば無理矢理カウンセリングに連行したこともあるが、火や光、爆発音(自身で発砲すらしているわけで……)等には平然としていて、爆弾そのものには恐怖を抱えていないらしい。七という日付けが悪いのだろうか。
大切なのは休養。そして、彼女は休む時はきちんと休んで見える。彼女が過去ストレス解消にしていた酒だってやめたわけじゃない。皆で、あるいは二、三人で飲むこともある。だからため込んでいるわけでもないはずだ。
実際今回の事件の前まで症状は随分軽くなってきていたように見えた。僕がついていなくても問題がなくなっていたくらいだ。
だが完全に治った様子はなく、再び爆弾事件が起こった今、これだ。
「……君は一体何に怯えている」
その呟きは聞かれていないつもりだった。
だけど彼女はふっと目を開けて微笑んだ。
思わず息を飲む。
「……誰も、いなく、ならないで……下さい……」
「……!」
……そうか。
彼女は爆発で自身が危険にさらされたのが怖かったわけじゃ、なかったんだ。
萩原が、松田が、死んでいたかもしれないのが怖かったのか。
『皆さんの記憶は、とても、眩しかったんです。無関係な私でも、いつまでも皆でいてほしいと、思いました』
そんなようなことを言っていたな。これほどまでに大切に想ってくれていたのか。
「『死なねぇよ!!!』……あいつらは確かにそう言った」
警察学校時代の話だけど。
朦朧としているようだから聞こえているかは分からない。
しかし彼女はまた微笑んだような気がした。
それでも彼女は昼くらいまで、少し眠ってはうなされていた。
少しの間ぼんやりしていた彼女は、ゆらりと起き上がる。
「……ご迷惑ばかりおかけして、申し訳ありません」
「気にするな。いつものことだろう。……それと同じくらい君に僕たちが助けられていることも、忘れるな」
「……」
彼女は眉を下げながら微笑む。これはあまり納得していないな。
その時、コンコンと部屋の扉が叩かれた。
──……いつでも逃げ込めるようにとここの合鍵を渡しているのは、あと一人だけ。
僕が扉を開けると、そこにいたのはやはり
「……悪いけど、聞いてたよ。……聞かなきゃいけない気がした」
「そうか」
彼女のほうを見遣ると、眉を下げているのは変わらず、表情が渋いものになっている。
「汀さん時々オレを尾けてるよね」
「……っ!?」
彼女は驚愕の表情で顔を上げた。僕も思わず瞠目する。
「何か『視た』んだろう?」
息を詰まらせて彼女は顔ごと目を逸らした。
「それはオレに話せないことなのか?」
彼女は少しの間気まずそうな表情を浮かべたまま顔を逸らしていた。
やがて小さく言葉をこぼす。
「……四年前以上に確証がないんです」
-----------------------------------side:Reincarnator
話していいことなのでしょうか。
言葉に出してしまったら本当になってしまう気がする。
それも、今日起こるかもしれないんだ。
原作では諸伏さんも降谷さんも察知できなかったのだろうから、前兆を何も掴めずに起こる可能性が高い。
少し気になる点としては──……。
萩原さんの最期の姿だけではなく、松田さんの最期の姿まで夢に見るようになってしまいました。
加えて、諸伏さんのあの穴の開いたスマホだけがちらっと見えた。
これは、どう解釈すればいいんだろう。
こうなると多分七日に見る夢は、私が正史を捻じ曲げて彼らを生かした場合に起こるものなのでしょう。それを遂行した次の月の七日から見るようになるんじゃないかな。
不安が元になっている精神的なものなのか、何かの警告なのかは分かりませんが。
以前危惧したような、彼らが『運命』のようなものに執拗に殺されそうになることは今のところ起きていません。
もしもその代わりに私がずっと悪夢を見るというのなら上等なのですが、何なのか分からないのでそうもイキれません。
……ともかく、萩原さんと松田さんと違って、諸伏さんは最期の全景が『視えた』わけじゃない。
だから越えたと考えるには早計だと思う。
ただ、一部だけ『視えた』ということは、既に何かを回避しているのかもしれない。
そして逆に言えば一部だけしか回避できていないということ。今のままじゃ彼はきっと命を投げ捨ててしまうんだ。
……ああ、結局有効な対策は何も用意できてない。悪あがきにしかならない物はちょこちょこあるけれど……。
夢見が悪くて動けないのは分かりきってたから、寝る前からポケットに入れてあった物もいくつか。これらが役に立つことはあるんだろうか……。
幸いは、今ここで顔を合わせられていることだけれど──。
せめてこのまま、彼のそばを離れないでいられたら……。
「今日を含めて、七日に気を付けていただけませんか。今は、ただそれだけです……」
──……その時。
降谷さんの携帯が鳴った。
彼はただ無造作にそれを確認したのだけれど──……。
「……っ、これは……!」
降谷さんの表情からして、それは今日だったのでしょう。
「ヒロ、ここに居ろ、絶対に外に出るな」
降谷さんが諸伏さんの両肩を抑えつけるようにして言う。
その声音はとても低い。
「……何が起きてる」
「君が公安部からのスパイだって情報が出回ってるんだ! これじゃきっと既に幹部連中には伝わってる……!」
諸伏さんが目を見張って、そして私に視線が集まる。
私は眉根を寄せて瞑目する。
「……事前に分からなくて、ごめんなさい」
変にビビらずもっと早く伝えられていたら。
「いや、君がたびたび尾行しようとしてくれたおかげで何かあるなとは思えてたから。目をつけてくれててありがとう」
こんな時にでも笑ってそう言ってくれるあなたはどれだけ人がいいのでしょうか。
「借りてた部屋には生活用品しか置いてない。普段から誰かに尾けられてるつもりで行動してる。スマホは二台に使い分けた。今どこにいるかは二人しか分かってないと思うよ」
諸伏さんは引き続きにこにこしています。
本当に、なんでそこまでしててスパイだとバレるのでしょう。
「それより心配なのはゼロと
自分の事より人のことを心配するのですね。
余裕があるということなのか、心配させまいとなさっているのか。
「
「ゼロ……?」
諸伏さんが渋い顔をした。
「むしろ僕は血眼になって君を探す様子でも見せたほうがいいだろう。とにかくヒロはここを出るな。……汀、頼むぞ」
降谷さんは私に、多分あんまり信用できかねる心配げな視線をくれました。
それは私を侮っているとかではなく、単にお二人が私より数段
降谷さんは諸伏さんを切実そうに見遣りながら、ゆっくりと歩いて部屋を出て行きました。
玄関からは何の音もしなかった。動いた気配も分からない。
私も、できるだけ気配を殺しておく。こんなところにまで組織の目が届いているかは分からないけれど、気を抜くわけにはいかない。
「……あの、ヒロさん。申し訳ないのですが、材料は色々あるのでお昼ご飯でも作りませんか? ちょっとまだ独りじゃうまく動けそうになくて」
私はにへらと笑います。
本当は動けない程ぼーっとしてはいないと思うのですが、せめて降谷さんのご指示通り諸伏さんをこの部屋に引き留めておかなければ。
このかたのことですから、巻き込まないようにと一人でどこかへ行ってしまいそうです。
そんな私の思惑なんてきっと彼には見え見えでしょうに、ふわっと笑って下さるのです。
「大丈夫? 君が休んでる間に作ろうか?」
独りにするわけがないでしょう。
「いえ、できるだけは動きたいんです」
その日私は初めて、途中で何か入れられないかを窺いながら、人が料理を作るのを視界の端に収めていました。
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しばらくは二人でのんびりしていたのです。他愛無い話をしたり、少しだけ筋トレしたり、銃器の扱いや、スポッターをするなら気をつけたい点などの有用なお話を聞かせていただいたり。
そんな穏やかな時間がずっと続けばよかったのに。
私は諸伏さんの拳を手のひらで受け止めた。
「……やっぱり置いてく気でしたね」
最終的に狙われたのは顎。脳震盪を起こさせようとしたのでしょうか。
私が苦く笑うと、諸伏さんはふっと笑んだ。ただそれは少し冷たい。
「どんな組織だろうと、マークしていなかった所にまでは手を伸ばすことはできません」
「マークされてるかどうかなんて、君に分かると思うか?」
わざと、そんなふうに言うのですね。
「これでも協力者として色々やってきたのですよ。
本当はそう言い切れることじゃないのは分かってる。だけど、彼を独りにする訳にはいかないから。
「甘いよ」
降谷さんに知らせなきゃ。絶対私ひとりじゃ引き留められない。
しかしメインのスマホはサイドボードで充電中。取ろうとした隙に玄関に向かわれたらお終いだ。そろりそろりとにじり寄るけど、多分意図は察されている。そもそも通話にすぐに降谷さんが出れるかどうかも分からない。
「ゼロさんがここに居ろって仰ったのに、信用できないんですか?」
「ゼロだって万能じゃないよ。人間なんだから」
彼がこうやって私の悪あがきに付き合って下さってるのだってきっと優しさなだけだ。
もうスマホに手が届きそうな距離ではある。並行して、諸伏さんが走り出さないように目を光らせる。
諸伏さんの方が部屋の奥に居るのは幸いだけど、だからこそ最悪窓から何かしらをつたって出て行かれないとも限らない。……もしかしたら、飛び降りも辞さ……あ。
「……ここを出るよりもまず、お持ちのスマホのデータをすべて消して下さい。復元不可能なくらいに」
「……そうだな」
諸伏さんが操作を始めた所で私は飛び出すようにして彼の腕を掴みました。掴めるとは思ってなかった。彼は少し目を見張っている。
自分のスマホを掴むのを諦めたおかげではあるのかもしれない。かなりの痛手だろうけど……。
「絶対、離しませんから。……データを消したら、水没させて粉々にしましょう」
今時、割れたとか水没したとかでも、どうにかしてデータ復元できないとも限らないですしね。それがたとえほんの一部だけだとしても脅威は脅威だ。
原作のスマホも、降谷さんが回収したから辿られずに済んだだけなのかもしれない。
諸伏さんはくすりと笑った。
「随分念入りだな」
「あなたはそれと心中しかねませんから」
優しくて強い人だから。物語以前に、そういう人だともう知っているから。
そんな強さを現実でまで見たくはないから。
彼の腕を引いてキッチンに向かい、ボウルに水を溜める。彼を奥側に追いやるのを忘れない。
彼はぽちゃりと迷いなく水没させた。ひとまずの安堵。けれどまだ、気は抜けない。
「それ一台だけですか?」
「いやもう一つ
「……そっちは公安に提出したいですか?」
「できればね」
「ではそれをこの部屋で死守してくださ──」
私は私用のほうのあの、傷に見せかけてHが刻まれているスマホをお釈迦にさせたことで、少し安心してしまっていたのかもしれない。
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軽い水音を立てスマホを掴み、諸伏さんが走り出す。
すり抜けかけた彼の腕に縋り付くようにして絡まる。足を踏ん張る。ついでに《 自己強化 》や《 防御強化 》の魔土器を床に放る。絶対に離さない。
「行かせません」
諸伏さんはくすりと笑う。
「こんな部屋の中じゃスマホなんて砕けないよ」
「包丁の柄でも使えば叩き割るのは不可能じゃないでしょう」
「そうかもしれないな」
諸伏さんの笑みは柔らかいけれど、やっぱり、冷たい気がする。
砕いたらこの部屋に欠片が残りかねないから、万が一の可能性を排除しようと外に持ち出そうとしている。下手をすれば『スコッチがここにいた』という物証になりかねない、なんてことのために。
「……行かせない」
私は必死になって両腕で諸伏さんの胴にしがみつく。
これでも私は多少ゴリラに近づこうとしているんです。
思いっきり彼を引っ張って棚と棚の間な位置になる壁に背を預ける。足払いしづらくするためと、背中ががら空きだと肺の裏を突かれでもしたら呼吸困難を起こして前後不覚になってしまうからです。
私の体重程度諸伏さんにはどうということもないだろうけど、彼の目的は私を置いていくことだから、抱えて行くより振りほどこうとするでしょう。させません。
「……これじゃオレの両腕は自由だ。本当、甘いよ、汀さん」
また頭部を狙おうとされて、それを片手で往なして、その隙に逃げようとされたけれど必死にまた両腕で彼にしがみついて壁に引き寄せる。
腕を掴んで引きはがそうとされるけれど、折られたって放すものですか!!
すると今度は、彼は私の脇腹を思いっきりくすぐりはじめました。ちょ、ちょっとそれ、こんな状況で笑うなんて嫌ですよやめてください。
「……ッ、な、何するんですかああああばかあああ!!!!」
そう声を絞り出すことで力んで、その勢いで腕の力を強める。
絶対、放さない!
諸伏さんはくすくす笑っている。
「君にばかなんて言われたのは初めてだな」
こんな状況じゃなければそんな言葉かけようと思う相手じゃありませんからね……。
「……じゃあ、これは?」
……今度は両耳から首筋を指で触れるか触れないかの強さで辿られる。
「……な……っ! ……ッ」
お腹に力を込めてぞわぞわを耐えます。
もう降谷さんのロミトラに引っ掛かった頃のような脆弱な精神力と体力はしていませんから!
そのまま、さっき脇腹にやられたのとは違ってそっと首をくすぐられる。ウウッ。
首をすくめて、しがみつく腕に思いきり力を込めて。
「……さすがにちょっと痛いなあ」
「!」
困った声で言われて思わず腕を緩めそうになるけれど、駄目だ。今その良心は要らない。
視線を合わせたまま、じっと数秒。
「……強情」
困ったような笑みのまま、彼は私の頭部を両手のひらで挟んだ。
目を見開いている間に彼の顔が近づいて、はくりと私の唇が食まれる。
「……っ!」
頭の中は恐慌状態なんだけどだからって怯むわけにいかない……!
ふわふわと食まれ、かと思えば小さく啄まれて、私は思わず目をぎゅっと瞑った。
すると彼はふっと笑って、だから唇は離れた訳で、ほっとして目を開こうとしたのだけど──。
「っ!?」
今度は噛み付くような勢いで唇を吸われて思わず及び腰になりかけて──。
──駄目だ!!
離すわけには、いかない……!
「っん、んぅう……っ」
驚愕と恥ずかしさと混乱と、強制的に煽られるナニカとで思わず声が
振りほどきたいのにがっちりと掌で顎を固定されてて無理そう……。
吸われて、ふわふわと辿られて、小さく啄まれたかと思えばまたはくりと大きく食まれて、吸われて、れろ、と舌でじっくりなぞられて、また、吸われる。
立て続けに鳴るリップ音で余計に心臓が跳ねて、体温が急に上げられていく。
「んむ、っふ……くぅ……ぅぅっ」
な、何か、どうやったら相手を手玉に取れるか、みたいなの、を、よく分かっておられる、ような……うぅぅ……。
……やがて、ようやく離してもらえたかと思えば、今度は彼は親指の腹を私の唇に押し当ててゆっくりとなぞっていった。そして真ん中のあたりを捏ねるようにしてふわふわと押される。
……切なさに似たナニカを掻き立てられすぎて、もう苦しい。
……っ。何をされたって……!
「……これでも離れないのか」
どうにか腕の力を緩めないでいられた私に、彼は悲し気に眉根を寄せた。
「……っ、はぁ……っ、汚れ役を、演じてまで……危険から、遠ざけようとするかたを……っ、離すほど、抜けてはいませんよ……っ」
「……舌でも入れられたらどうするんだ」
「……そんなの、構いません……っ」
「……!」
諸伏さんは目を見張った。
私に純真そうなイメージでも持っていらっしゃったのでしょうか。
……諸伏さんが私をどうにかしようとすればするだけここに引き止められるのですから。
「それだけで済むとは限らないのに? ……思い切り抱き潰したりしたら、さすがに君も動けなくなるだろうし」
「……!」
顎を固定するように包んでいた彼の掌が片方、首をすっと辿って、心臓の上の辺りで止まる。息を飲んだ私の喉がひゅっと音を立てた。
もう一方の腕が腰に回されて、押し付けられた掌の存在感が更に強くなる。
言い知れぬ圧迫感に圧し潰されてしまいそうだ。
……そうですね、もしそんなことになれば絶対に正気を失わないなんて豪語できない。
だけど。
「私の貞操なんて、あなたの命に比べたら、軽いものです」
「……頼むなんて言ってたけど、ゼロだってそこまでしろとは思ってないよ」
それは、あまり関係ないんです。
「私があなたを行かせたくないんです」
「……君はゼロのことが好きなんだろう」
私は眉を下げて笑った。その気もない脅しを掛けておいてそんなことを気にして下さるのですか。あなたのほうが甘いのではないですか。
……それだけ、優しいのを、知っているけれど。
「きっと私が好きだったのは……『秋本さん』です。もう、いません」
「っ……!」
どうしてあなたがそんなに苦しそうな顔をなさるのですか……。
……その偽名はきっともう存在しないもの。
だけど初めて諸伏さんに会った時に私は降谷さんをそう呼んだから、きっと諸伏さんは察してくれるはずだ。
彼は瞠目して、そして、切なげに眉根を寄せる。
「……その根本にあるのはゼロだ。いくら自分を偽ろうと変われない部分がある。そしてそれがその人の本質だ。……本当は分かってるくせに、君は逃げてるだけだ」
「……いいえ。どうしても違うと思ってしまうんです。ゼロさんに『秋本さん』は重ならない。だから……恋しいと感じない」
「……!」
多分これには虚勢が混じっているのでしょう。目を逸らしたいだけだと言われても否定はできない。だけど、人前で肯定することは絶対にしない。
多分認めれば私はこの立ち位置でいられなくなってしまう。それは何よりも嫌だった。
ここで私の覚悟だか意地だかを悟ったのか、彼は強行突破を図った。
私を持ち上げて首元を掴み、背負い投げの要領で床に叩きつける。
やっぱり捕まえられてて下さった内は単なる手加減だったのです。
だけど、何も障害物のないところに投げたのは優しすぎました。
私は腕を振りほどかれはしたものの受け身を取って跳ね起きる。
「これが何だかわかりますか!!」
ポケットに準備していたものを取り出しながら、走り去ろうとした諸伏さんにそう叫ぶと、彼はぴたりと足を止めた。
これは、最終手段です。
こうすることで呼び寄せる危険を自分で回避できる自信なんてない。
だから使わずに済むことを願っていた。けれど私は力不足だった。
でも、どうしても彼を独りで死地に向かわせたくない。
まだ振り返ってはくれない諸伏さんの背に言葉を続ける。
「……格安SIM。セキュリティ皆無のスマホです」
「!!!」
さすがに彼は振り返った。これだけで察してしまったのかもしれない。
奪おうとこちらに走り寄る彼ですが残念、取り出した時には既にコールしていました。
心配だったけれど現状が現状だからか相手はすぐに出てくれます。
『誰だ』
彼の言葉が聞こえるか聞こえないかのうちに──。
「
血相を変えた諸伏さんが私の手からスマホを奪い取り、すぐさま通話を切って電源も落とす。
そして私を片腕で俵のように担ぎ上げると脱兎のごとく玄関から飛び出した。それでも鍵をかけたのは、まだ『家』として使える可能性に、気を使って下さったのでしょう。
そのまま彼はめちゃくちゃな進みかたで走り続けます。
「降ろしてくださいッ! 体力は温存すべきです!」
「……なんで
答えてくれずに逆に聞かれる。
「言ったでしょう。私の情報網だって捨てたものではないんです」
諸伏さんの舌打ちなんて初めて聞いたのかもしれません。
「もし通信が傍受されたとして、中身があれなら私は追う側だって」
「あの家にオレがいたってことになるだろうが!! こういう時にどれだけ執念深く網を張る連中だか君は知らないだろう!! 君をあんな、……っ」
それ以上は、言葉にするのをやめたご様子でした。
こんな怒った声は、今まで聞いたことがなかった。
……でも、私の身の安全を考えてこんなふうにされるくらいならもう、表立って『組織の人間の協力者』として認識されてしまう方がマシなんです。そのほうが多分『我々』も動きやすくなりはするだろうから。
ある程度走ると諸伏さんは、私から取り上げたスマホを思い切り壁に叩きつけて割り、更に残骸からメモリーカードとSIMカードを摘み出すとそれらも壁に擦るようにして幾度か折りました。その上靴のかかとで何度も踏み砕く。
これに残った情報は降谷さんの『安室透』なスマホへの発信履歴のみですからここまでする必要はなさそうですが……でも、スコッチに捕まったバーボンの協力者のスマホが壊されたとかには装えるのかもしれません。
「あなたのもそうやって処分して下さい……!」
けれど彼は答えてくれないまま再び走り出す。
「降ろして下さ──」
少しして、さすがにそうお願いしようとしたその言葉は続かなかった。
私は背中から壁に叩きつけられる。気を張っていたつもりだったのに回避行動を取る暇もない。
ああ、やっぱり私なんかでは彼に敵わない。
ここで置いて行かれたら、単に『逃げるスコッチに巻かれた』ふうを装えて、私の命がすぐに脅かされることにはならないでしょう。
とどめに鳩尾にまで拳を食らう。私は小さく咳を吐き出した後はもう何もできなくなった。
ずるずると壁に背を擦ってへたりこむ。
「……何て無茶をするんだ。本当に」
これで私が組織に目をつけられるかどうかは分からない。存在を認識されても、バーボンの手下、程度だろうけれど、つまりは裏切らないかを常に窺われる存在になる。どうかしたら降谷さんにも累が及ぶでしょう。
そして下手をしたらこの今の諸伏さんの居場所を辿られているかもしれない。
でもそうだとすると、降谷さんにも諸伏さんの居場所が知れている。
それに賭ける。
少なくとも、諸伏さんがあの部屋を出てしまったことは伝えられた。
「君に出会うべきじゃなかったよ」
危険にさらしたくなくて言ってるそんなセリフは捨ておけない。
私は意地で声を絞り出す。あなたたちに出会えたことは、幸せ以外の何物でもない。
「わたしは……しあわ、せ……です……っ」
だめだ、息ができない。
意識が、暗転する。
諸伏さんのあのスマホはもう、不完全なものだから、どうか、どうか──……。
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『あいつはもうダメだ。危険です、切り捨てるべきです……』
誰だろう。
『あいつが警察官として動いていたのを、悟られた可能性があります。このままでは辿られて、公安部そのものが危うくなる……』
『君なら逆に、彼は公安部にスパイとして潜り込んだ、だとでも装えないのか?』
ニヤリと嗤うその人のことも知らない。
……ああ。
これは《超える力》による過去視なのでしょう。その異能の出典元では『過去を視たい』と思うと逆に発動したためしがなく、本当に不意にしか起こらないことです。だから常日頃、この力のことは考えないようにしていた。
それでもあの主人公の危機を幾度も救った異能ではある。この今に『視える』ということはこれはきっと……!
『そんな面倒なことをするより、貴女があいつを売って潜入するほうが有益です』
ニヤリと。
その笑いは、気分が悪くてしょうがない。
『私がどうやって奴らに売るというんだ。繋がりがない。さすがにおかしいだろう』
セリフとは裏腹に引き続き彼女は嗤っている。
『そこは俺が繋ぎますよ』
『フッ。……だが、奴らに提示できるような明確な証拠はあるのか?』
『ぬかりなく』
彼が差し出したのは、諸伏さんがスコープで杯戸ショッピングモールの様子を探っていた時などの写真数枚。
ということは、この人は諸伏さんのスポッターでもしていたのだろうか。……つまりは、この状況を見るに彼の協力者。
それが、別の公安の人間の昇進か何かのために諸伏さんを売った……?
潜入するようなひとは実力を認められているってことだろうから。
ニヤっといっそう笑みを深めてその人は更に一枚の写真を取り出す。
かなりぼやけてはいるけど、目線の合わない、制服を着た、恐らく警察学校時代の写真──!!
彼らは色々やらかしていたから、通りすがりに一般人が撮っていた可能性はあるのかもしれない。
もしくは偶然の映り込みとか。拡大したものならこのぼやけ具合も頷ける。
何でこんなことで情報が漏れなきゃいけないんだ。
……同じ協力者として、虫唾が走るどころじゃない!!!
こんなものを用意する能力があったくらいなら、その腕で諸伏さんを支えてよ!!
くらくらする。
いや、それ以前に私は意識を刈り取られていたせいで朦朧としている。
……そんな場合じゃない!
……揺れている?
カンカンと足音が聞こえる。
……誰かに背負われて──。
ああ! まずい!!
「……駄目えええええええぇぇえぇえええ!!!!」
私は力のかぎりに叫ぶ。
私を背負っている人がぎょっとした気がするけれど、足音だけじゃ誰だか分からなくても、声では分かるでしょう?
踊り場に目をつけて降谷さんの背から飛び降りる。
ああ、もう屋上は目前じゃないですか。ギリギリすぎる。
そのまま屋上へと駆け上がる。
銃声は、聞こえなかった。
見えたのはまず赤井さん。私は壁に背を預けて座り込んでいた諸伏さんのそばに駆け寄る。プライベートなスマホは水没させたのにこれということは、組織で分けて使っていたほうにも一応の懸念があったのでしょうか。それとも水没だけではやはり不安だったのか……もしくは、『大切なデータを守って死んだ』ことを装い、これ以上の追及を防いで周りを守るためか……。なんて人だ。
赤井さんはシリンダーを抑えつけているままだった。見知らぬ声で『駄目』と聞こえたからには手を緩める必要はないと判断してくれたんだと思う。
私はそれの銃身に拳を叩きつけて弾き飛ばして、そして諸伏さんを覆い隠すように抱き着いた。
きっと今は赤井さんが身分を明かした後なのだろうけど、私は知らないフリをしないといけない。
「……彼は……!」
諸伏さんが言いかけたけれど、赤井さんはばっと距離を取った。
「……ここは退いてほしい」
私は口調を変えて呼びかける。
降谷さんの姿が見えないけれど、扉の陰とかから様子を窺っておられることでしょう。
多分、ここで赤井さんと降谷さんがお互いNOCだと知るのは得策じゃない。
「あなたがたは一緒に行動していたと聞いている。情があるなら、退いてくれ」
「待ってくれ、彼は──……」
尚も言葉を紡ぐ諸伏さんの唇を人差し指で押さえる。
「もう何も言わないで」
私は彼を担いだ。
「ちょっ、こら!」
そのまま走り去ろうとすると──。
足元に銃弾が撃ち込まれて、私は諸伏さんを担いだまま跳び退る。
赤井さんの方からだ。他にも銃を持ってたのかさっきのリボルバーを拾ったのか。
「俺の手を離れるなら逃がすわけにはいかない」
どう情報が洩れるか分からないですものね。
「舐めないでもらいたい……それに、我々に何の得もないのにわざわざ他に口を割るわけがないだろう」
私はそれだけ言い置くと階段を駆け下りる。
その後ろを追って来たのは降谷さんだけだった。しばらくして彼は──恐らく赤井さんの視界から外れてからだろう──私を追い越すと目配せをした。
頷いてしばらくあとをついて走ると彼のFDが見えた。
跳ぶように後ろに乗り込むと、降谷さんは急発進させる。それでもめちゃくちゃな運転ではない。そんなことをしたら逆に目立ってしまうよね。
とっても狭い後ろの座席には広い布があった。
降谷さんは諸伏さんを捕まえられた時のために準備していたのかな。私は諸伏さんと二人でそれを被り、できるだけ姿勢を低くする。
少しして、諸伏さんのほうから苦笑が聞こえた。
「……オレなんか担いだまま階段を駆け下りるなんて……随分、逞しくなったな……」
私はふふっと笑う。
「それでもあなたたちには敵いませんから。いつまでも頑張り続けます。何が何でも大好きな人たちを守りたいので」
お二人はただただ絶句していました。
「……だからって無茶をしすぎだ。何故か追ってこないが
少しして聞こえた降谷さんの声音はとても重い。当然だと思う。だけど。
『好きな奴を守りたいと思って何が悪い』
それは偽りの姿だったとはいえ降谷さんご自身が言った言葉だ。だからきっと彼は否定できなかった。
「……これでもできるだけあんな発信なんかせずに済むよう動いていたんですよ。でも、私じゃああでもしないと独りにさせてしまってました。実際、途中で退場させられましたし……」
「僕が拾わなきゃどうなってたことか……」
「……ごめんなさい」
これからやらなきゃいけないことは、きっと山積みだ。
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「そうだ、バーボン、彼は」
言いかけた諸伏さんの唇を先程と同じく人差し指で押さえる。諸伏さんは首を傾げた。
「バーボンをコードネームで呼んだくらいには用心しているくせに、
「……」
「それに、あの人の意思がない所で伝えていいことでしょうか」
「……っ……!」
合点がいったというような反応をくださいます。
スコッチに伝えようとはなさったけど、同じNOCという背景があろうとバーボンに話そうとなさった事実はない。
「何をこそこそ話してるんだ」
そんなこと言って降谷さんにはきっと丸聞こえなのだろうけれど。
「抑えてくれていたのですからバーボンにもバレバレでしょう? このまま逃げてもきっと深追いはされません」
降谷さんのほうから小さく舌打ちが聞こえた気がします。
「……君にそう呼ばれるのは嫌な気分だよ」
「嫌だろうと利用してください。私はあなたの協力者です……自惚れるわけではありませんが、もっと信用してください」
「確かに君は成長したが」
降谷さんはふうと小さくため息をついた。
「……今まで裏切り者を取り逃がしたことはないんだよ。あの組織は」
「じゃあ第一号ですね」
「……本当、君は、変な所でポジティブだな」
「変だな──」
変だなんて。いつでも私は。
それは言葉にならなくて、けほっと勝手に出てきた咳には血が混じっていた。
ああ。まったく。私が力不足なばっかりに。アドレナリン過剰で痛みに気づいていなくて悪化したのでしょう。
諸伏さんが不審に思ったのか私の手首を掴んで引き寄せ、手のひらを指で辿る。
布を被っているおかげで、暗くてよく見えないからだろう。
「ちょ……っ、君、まさか被弾して──」
「ちが、違います……あなたがぽんぽん投げるから……」
念のため、スコッチとも諸伏さんとも声に出さない。
二回目は受け身も何もできなかったし
赤井さんにとんでもない疑いがかかるよりは正直に言ったほうが良いでしょう。
「病院に……!」
「大丈夫です。これくらいどうってことありません」
言いながら《 軍用エリクサー 》を使用する。全快する薬です。チートにも程があるからほんとは隠しておく気だったんだけどな。
喀血した程なら応急処置的な《 快気 》で安心できたものか分かりませんからね。
両チート、怪我をしてることが世間的に明らかな時に使用すれば怪しいが過ぎるので、病院に連れていかれたような時は大っぴらに使ったことはありません。最初に《 快気 》を試した時脱臼後の痛みを治してしまったのはともかく。
掌サイズなフラスコ状の容器に満たされた怪しげな液体を飲み干すと、栄養飲料のような風味が一瞬鼻と喉を掠めた。空になった容器はどこへともなく消えてしまう。このスキルについてはモーションよりもアイコンが重視されたものか、ゲームみたいにキラキラした回復エフェクトを自分に振りかけるような挙動をする必要はない。
暗いながら、諸伏さんが『まだ何か不思議アイテム隠してた……?』みたいな困惑の表情をなさってるのが分かる。
「……バーボン、今でもあの部屋は安全なんでしょう?」
私みたいな特殊な人間を住まわせておいて厳重な防御や監視がないなんて考えられない。
そしてだからこそ、降谷さんは諸伏さんに『ここから出るな』と言っていたんだと思う。
「こうなっては100%とは言えないが、それ程ヤワなセキュリティじゃなかったのは確かだよ」
「だから出るなって仰ったんですよね。……私がもっと信用できる人間だったら良かったのですが」
恨みがましさと再認識のため諸伏さんをジトっと見つめながら口に出す。
諸伏さんが部屋を出たのは私に危険が及ぶのを良しとしなかったからであって……。
「だがいくら何でも今からあそこに戻──」
「自分のスマホを置いて来てしまったんです」
降谷さんは溜め息をつきました。
「……連絡先を覚えているようならこれを使え」
ぽんっと私の上に何かが投げられた。布から手だけ出してそれを掴む。
全部言う前に私が公安関係者に連絡をしたがってるのを察してくださったのでしょう。
「ありがとうございます」
緊急用かなにかかな、全然使っている様子がないスマホだった。
覚えていた番号にコールする。
『誰だい?』
少し経って出てくれた人はその口調からして、コールの主が誰だか察していることでしょう。
「こちらウルフ
『了解』
それだけで切れる。
「……今のは……?」
諸伏さんが怪訝そうに聞く。
「『我々』は特に、あの組織に潜入するあなたたちのために用意された人材だったんですよ」
「……え」
諸伏さんにも気づかれてなかったかもしれないなら、少しは有用だと思ってもらえるだろうか。
篠川さんが『対例の組織のために』と言っていたように、あの組織を探る者のために存在する、自らは公権力を持たない
「持ち帰りたいんですよね? データが残ってるほうをこれにコピーしてください。いいですか、バーボン?」
「……好きに使え」
データコピー用のケーブルを繋いで諸伏さんに微笑む。萩原さん曰くの閻魔大王オーラ(降谷さん仕込み)なあれです。スマホの画面の光のおかげでとってもよく見えるはずですね。
彼はたじたじとしながらも、組織用らしきスマホを繋いでくれます。
「でも、持ち帰るのは少しの間控えてください」
「……え?」
「裏切り者はあなたの協力者のようです。そしてそれに唆された同僚がいる」
「……は!?」
諸伏さんがぎょっとする。
「我々の誰かがあなたの協力者になれていればよかったのですが」
公安なんて本来、愚か者の入る隙は無い。けれど協力者なら。
きっと、警視庁上層側の沽券にかかわる繋がりなんて無視してゾロ目の誰かをつけるべきだった。
フッと降谷さんの嗤う声がした。それはとてもとても鋭くて冷たいものだった。
車の進行方向が少し変わった気がする。
「フ……どおりで……膿は徹底的に排除してやるよ」
「信頼しています。……バーボン、一役買って下さい。先ほど言った廃ビルに向かえば
「……!」
「でも、他に手があればそのように。私の提案よりもバーボンの考えを支持します……ただきっと、本当に
本人が実際にやろうとしたことをトレースするのは有効な手法ではあるでしょう。あんな状況が二度起こるわけはないから、赤井さんにだけは偽装だと伝えられそうなのもポイントです。今NOCだと明かし合いはせずとも、『協力できる人間』と認識するのは良いことなんじゃないかな。そこから先に踏み込むかどうかは二人が決めることだ。
「死体って……」
「都合よくあなたに似た本物が用意できていたらそれでしょうが、全身が人工物な偽造死体かもしれません。多分深く追求してはいけないことです」
どっちにしろ違法か表に出せない技術だからだ。詳細を知る者なんて増やさないに越したことはない。
私にもソレが何なのかの詳細は知らされていない。
残念なことに裏社会がとっても発達している世界ですから、そこにどっぷり浸かってるも同然な
「バーボンには自殺を見届けたというか、阻止できなかったというか……もしくは自ら殺したとかで、組織にそれを装っていただきたいのです」
「……分かった」
「組織を完全に欺けるとは限らないので、死体処理には気を付けてください」
「そのあたりはその『協力者』とでも相談してみるよ」
「よろしくお願いします。……そっちの、本物のほうのスマホをバーボンに渡してください」
諸伏さんは素直に、彼のスマホを降谷さんの方へ差し出す。彼は運転中だけれどさくっと回収したようだ。
私はコピーしたほうのスマホを諸伏さんに渡す。私なんかが管理を肩代わりできるものではない。
それから皆しばらく無言だった。
FDがどこかで停止する。
「2222は降りろ。……君は上だけでも着替えろ。後ろに置いてある」
降谷さんの言葉に従って私は先に降りました。どこかのマンションの地下駐車場だ。
降谷さんが窓をあけて私に鍵を渡してくる。そのディンプルキーの断面形は特殊で、五角形の一辺が欠けて内に凹んだものだった。原作で、断面が星型をした、合鍵づくりが困難そうな鍵が出てきたような気がします。あれのようなものでしょう。部屋の番号はキーホルダー的なプレートについていますね。
程なく諸伏さんも車を降りてきました。
上は先程までのジャケットコートではなく厚手のトレーナーになっていて、更に深くキャップを被って眼鏡もかけている。
私はすかさず彼の腕を捕まえた。はたから見たら腕を組んでいるような様相。
「二人とも、僕が戻るまで
鍵を指さしてそう言った降谷さんの表情は鬼気迫るものがありました。原作の、目のあたりが黒く陰ってそうな雰囲気です。
降谷さんはスムーズにFDを発進させて去って行きました。件の廃ビルに向かって下さったのでしょう。
私は諸伏さんの腕を引いて、恐らくセキュリティが凄まじく頑丈であろう部屋に向かう。
「……もう絶対放しませんから」
「君が何をするか分からないから、もう逃げたりしないよ……」
上階に向かうエレベーターの中、諸伏さんは切なげな苦笑を浮かべた。
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潜入組は矜持と気遣いから、ゾロ目は遠慮から、互いに踏み込めてなかった結果が生んだ大惨事でもあります。
仕事を振られないからゾロ目は実力を示せる機会も与えられず、ゆえに潜入組は彼らを知らず。裏理事官を始め上からはきちんと連携をとるよう指示が下りてるけど、とはいえ降谷さんと諸伏さんはオリ主を知りすぎてて、『民間人を巻き込むべきではない』気持ちを拭えなかった。自分たちでなんとかしてみせると思ってた。
もっとオリ主始めゾロ目を頼りにできてれば、諸伏さんは部屋を出なかったかもしれない。
諸伏さんのバレた原因については意図的にくだらねえ奴らになってます。スッキリしなかったら申し訳ない。
転生者(2222 / ウルフ04)
悪夢は代償なので別にイキってもいいのだけど、そうなのかが分からないのでやっぱり不安なまま。
ずっと気を抜かずにいられるところだけは良い点かもしれない。
諸伏さんについては殉職時期が私にははっきり分かりかねてるのですが、この年にしてみようと思います。
この捏造世界ではプラーミャが逃走していれば、厄介な弾を残した奴は誰だとなって真っ先に探りを入れていたとしました。NOCバレの引き金の一つがそれだったとして(刺激された程度)転生者の夢に出た。
それで完全回避はできていないので、実際に起こりかけています。
最後の手段と用意してた悪手を打つはめになった。
諸伏さんがまだ部屋にいたうちに鳩尾とか狙うべきだったのかな。でも痛いことしたくない。
もっとしがみついてられるよう、ゴリラを目指して頑張らないと。
きっと違うそうじゃない。
篠川さんに指定したビルは念のため赤井さんと会ったのとは別の所にした。
ずっと現場はどこだろうと調べ回っていた廃ビルのうちの一つ。
各所廃ビルのままかどうかも継続的に調査してきていた。
降谷さん
転生者が夢に見る理由は彼が予想するものと少し違うけれど、転生者の心情としては合ってる。
諸伏さんを探すフリをしながら、途中誰かに遭遇すればそれとなく的外れな動きをとるよう誘導したと思われる。
転生者からの電話に仰天する。一体何をしてくれてるんだ。
部屋を出てしまった諸伏さんにも、めちゃくちゃな転生者にも頭が痛い。
気絶した転生者を拾ったのちしばらく諸伏さんの捜索を続け、彼が走る姿を目に留め車をおりて追う。迷ったが転生者を車に残すとロクなことがない気がしたので背負って行った。途中例の遺書めいたメールが届いて肝を冷やす。
二人を運んだのは万が一の備えにと買ってあった、もとからかなりセキュリティの高いお部屋。今まで使ったことはなかった。今後更に警護を固められる。
しかし普段生活している和室なご自宅が一番誰にも悟られてないのかもしれない。
諸伏さん
時系列狂ってるpixivではこれは彼が転生者への想いを自覚する前に起きてるため、寸止めだったりします。しかしこっちでは触れる程度にしろ既にキスし済みですらあるためこうなった。
なので少しえっちな雰囲気にもなりましたが、苦手なかたはごめんなさい。
護衛(監視?)も既に始めてるし、ガード堅いくせにノーガードなことがある(自己評価の低さゆえ)彼女の様子にヒヤヒヤしっぱなし。
転生者に尾行されていることには早々に気づいていた。
立場上危ないので不審に思いつつ巻いてそのままにしていたが、護衛がてら逆に彼女のことを探って、毎月七日は様子がおかしいことに気づく。
その七日に気配を消しつつ彼女の家を訪れてみればPTSDか何かで悩まされている様子。
話を聞いていると自分たちの誰かがいなくなることを恐れているらしい。
尾行の理由はもしかして、と出て行ってみれば──。
彼女の普段の鍛錬と『ボール』のことを知ってるから失神させるためにかなり本気で殴ってる。常人なら死んでたかも。好きな相手にそんなことするはめになったのはかなりこたえた。可哀想。
『幸せ』とか……こんな時に言うなよ……。一瞬踏みとどまりたくなるけど振り切った。意志つよつよ……。
降谷さんと同じく、めちゃくちゃな転生者に頭が痛い。
どうして彼女はここまでできるのだろう。
……ゼロのことが好きなんだろうに。
降谷さんが帰ってくるまでずっと転生者にしがみつかれるはめになり気が気ではない。
「逃げないってば」
「信用できません」
「……」
多分自業自得。
篠川さん(0000 / ウルフ01)
ケースデッド。死亡偽装が必要。特秘はゾロ目たちと潜入捜査官たち本人以外に情報を漏らさない。他は追加情報。
潜入組が
多分『能力』的にはゾロ目たちのほうがよほど異常。降谷さんたちは資質と努力の結果異常。
赤井さん
話を聞かれていたタイミングではないのに『口を割る』だなんて、何か情報を握られている?
単に自殺を止めようとしていたのを察しただけか?
何にしても、あの女は何者だ?
裏切り者
諸伏さんの協力者は小心者すぎて就いた最初からNOCバレに怯えている。
その協力者と元々知り合いだった公安部の女性が『とても優秀な私』ならその人より上手くやるなんて吹きこんでた。
(プラーミャが逃走に成功していたら、プラーミャやその手下が諸伏さんについて探ってるのを嗅ぎつけて更にビビるという設定)
女性はこの協力者と顔を合わせる中でほんの少しだけ姿を見かけることになったバーボン(スコッチと一緒に行動してたから)に一目惚れ。あの組織に潜入できたら会えるはずなんて愚かなことを考える。
愚か者×2。
協力者が末端を経由して「重要な情報を持ってきた情報屋の女がいる」と幹部に繋ぎを作る。
公安部だから情報はほとんど消されていたとか言って写真だけ提出。あまり知っていることを明かすと同部署な女性の身も危ういと判断。
裏理事官
先代さん。
誤字報告、ご感想ありがとう御座います!!
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