----------------------------------- side:Furuya
人の気配がする。
こんな時間に放置された廃ビルにやって来るモノなど碌なものじゃないだろうに、居ることを隠しもせず彼はそこにいた。暗くてよく見えないが、その足元には誰かが座り込んでいるようだ。それが『死体』なんだろう。
「こんばんは。初めまして」
言われて僕も挨拶を返した。
廃ビル自体に光源なんかもちろん無いが、明かりの灯る場所がそう遠くないために真っ暗には程遠い。相手がどんな表情で居るのかが雰囲気で分かる。
「ウルフ
単刀直入。無駄話をしないその嗜好は嫌いじゃない。
……状況的に、ウルフ
上からは彼らを
『嫌だろうと利用してください。私はあなたの協力者です……自惚れるわけではありませんが、もっと信用してください』
先程の汀の声が頭を過る。今更罪悪感のようなものが心の端を刺激した。
「僕たちがそれを携帯してるのは逆に不自然だから、自殺を装うなら適さない。他殺を示唆するとしたら恐らく狙いは蝙蝠なんだろう」
それを想定して僕も手袋を装着する。
「蝙蝠?」
彼はきょとんと首を傾げた。
「……そうか。彼女が『視た』のはついさっきなんだろうな。彼を陥れたのは彼の同僚と協力者らしい」
言った瞬間空気が冷えた。
目の前にいるのは先程までの物柔らかな青年ではなく、鋭利な刃物そのものに思えた。
「……どこの愚か者か知らないけど、それに泥を被せるのと、きみが殺ったことにして飛び火を防ぐのと、どっちを優先すべきかな。きみに任せるよ」
前者を選びたそうな雰囲気を感じる凄みのある声音。だがそれに流されることなく別の選択肢も挙げるのは冷静さだろうか。
前者を装うのも手ではあるが、考えてみれば今は蝙蝠の指紋の写しなどがない。逆に悪手となる可能性がある。
「……今は証拠の捏造を確実にはできないから、後者だ。蝙蝠については別口で色々とやってやるさ」
彼はふふっと笑った。
「自己紹介が遅れたね。私は『篠川大輔』。元々は暗殺なんかを請け負っていた人間だ。けれどあなたの同僚に救い出してもらった。だから、私はその人とその人の仲間のために、この日本を護りたいと思ってる。……そんな私に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってほしい」
彼はそう言いながら『死体』を担ぎこちらに歩み寄ってきたため、その姿がある程度分かった。僕は瞠目する。
彼は僕だった。僕の姿そのものに変装しているのか。
「人形とはいえこれはこの通りきみの友人の姿かたちをしている。だからきみが何と言おうときみには撃たせない」
声音まで僕になった。ベルモット並の変装技術を持っているということか……!?
「ふふ。そうやって驚かれると悪戯が成功した気分だ」
「度肝を抜かれたよ……」
僕が正直に言うと、彼はくすくすと笑う。
「さて、屋上に行こうか。彼女は『スマホと心中』と言っていたけど、持ってきてくれたかい?」
「ああ」
手渡しながら、歩き出した彼の後に続く。『人形』と言うならどの程度の重さがあるかは分からないが、重量を感じさせない足運びだ。
人目がある気配はないが、僕が二人いるわけにはいかないから一応フードを被る。
「……しかしそれ、本当に人形なのか……?」
距離が近くなったことでよく見える。気絶した
「ふふ。きっとつくった人間は喜ぶだろうね。心配なら本人に電話とかをするといいよ」
「いや、連絡はやめておく……『つくった』、か……」
「うん。完全にオーバーテクノロジー。指紋や耳の形も完璧にコピーしてある。今はまだ違法だったり等で日の目を見ない。普段腕を振るえないものだから嬉々としてやってくれているよ。まあ一部まだ無理な部分はあるらしくて、よく似た他の動物の物で代用してる部位もあるらしいけど」
絶句する。
彼は階段を上りながら、顔だけこちらを向いた。
……それでも足を止めないのだから、バランス感覚以上のものを持っているのは確かだった。
「……きみたちは何をしているかを、特に……
再び胸を過る罪悪感。
覚悟と矜持。
『私の覚悟を、軽いものにしないでください』
ふと彼女もそう言っていたことを思い出す。
何も伝えていなかったのにマフィア掃討戦で助力してくれた彼女の姿は──『頼もしかった』。そう感じたのが嫌だった。彼女に人殺しをさせた。僕の中で彼女は、本来そんなことに手を染めなくて良かったはずの守るべき『一般人』だった。
彼らも僕たち同様、気軽に違法行為をしないことは弁えている。
だから、殺しは他に手がない場合だけで、それは僕たちと、変わらない。進んで殺すわけじゃない。喜んで法を犯すわけじゃ、ない。
それなのに、そこばかりに目が行って、それを避けさせるために彼らの矜持に見ないフリをしていた。
僕は、ふ、と自嘲の笑みをこぼす。
「……悪かった」
彼のほうから、ふふっと少し嬉しそうな微笑みの声がした。
屋上に、到着する。
「人形はどこにどう置こうか」
「彼は壁に背を預けて足を伸ばして座っていた」
「じゃあ、それに倣おう。スマホはどう持たせる?」
「胸ポケットへ。ああ……彼が着ていたジャケットをもらってきた。それを着せよう」
「了解」
そして準備を終えた彼は微笑んだ。
「このスマホごと心臓の位置を撃つんだね。銃を今持っているなら貸して。……きみは見ないほうがいい」
「……ああ」
ここは妙な意地を張らずに彼の気遣いを受け入れるべきなのだろう。
僕が後ろを向くと、ほどなく一発の銃声が響いた。
振り向くと彼は少し人形の背をずり落とさせていた。……『死』をよく知っていることを窺わせる。
壁に銃痕とおびただしい血痕。『人形』の胸部で弾ける赤色。……本当に人形なのか? これは本当にヒロじゃないのか? 眩暈がしそうだ。……本当にこうなっていたかもしれなかったんだ。
篠川がやってくれたのは、正解だったのかもしれない。
「じゃあ、私はこれで消えるよ。『死体』の処理はきみに任せる」
「ああ。ありがとう」
彼はにこりと笑う。
「……そうだ。彼女のことだから組織の人間の前に姿をさらしたんじゃないかい?」
「……」
彼もきっと彼女のことをよく知っているのだろう。
「……その通りだ」
「……ふふ」
彼は笑ったが表情は硬い気がした。
「……誰の味方をしてる感じだったかな?」
「彼だ」
篠川は額に手を当て、天を仰いだ。
「君の配下な感じだったらまだよかったんだけど……どうしようか」
「……」
裏切り者の配下をあの銀髪が取りこぼすわけはない。
ライは敵じゃないと彼女は言ったが……加えて、吹聴するような人間ではないとも思うが、彼自身がこちらに何者だと問うてきたらはぐらかせないだろう。
「案としては彼女の人形も後日用意するか、口を割らなかったからきみが拷問の末懐柔したことにするとかかな……今後も前に飛び出す可能性を考えたら後者を勧めるよ……その現場の音声が必要なら、彼女は結構演技ができるから……彼女もこの国のためなら何でもやる人間だし、やらせるといいと思うよ……」
相変わらず彼の顔は微笑んでいたが、声には疲れが滲んでいる気がする。
「……考えてみるよ」
ふふ、と彼は笑った。
「……それじゃあ、私はこのへんで」
「ああ」
彼は背を向けてひらりと手を振り、歩き去っていく。
その姿が消え、ある程度離れただろう間を置き、僕とよく連絡を交わす幹部の女性に裏切り者を始末した報告をすれば、場所を聞かれ、ほどなく数人の幹部がやって来た。
『死体』の確認のようなことをやった者もいたが、『人形』だと気づいた者はいなかったらしい。
幾人かが笑う。
「よくやったわねバーボン。あなたこの子とよく組んでいた気がするけど」
「裏切り者に情なんてありませんよ。惜しむらくはスマホまで破壊してしまったことですが。これでは結局どこの誰だか分からない」
「そうね。でも何かたどれたところでそう意味はないわ。関係者を皆殺しにしたいところだけど……そうなると対象は公安部でしょうから藪蛇になりかねないし、そもそも面倒だわ」
「……なるほど」
「じゃあ、あとは任せるわ。私の領分じゃないもの」
そう言って彼女はふいと背を向けて歩き出す。
「ふふ。では自分の成果ですので僕が処理しておきます」
「ああそう、ボスへの報告はやってあげる。あなたは連絡できなかったわね」
「ありがとうございます」
そしてそれぞれ解散していくが──。
ジンが、一発、『人形』の頭部を撃ち抜いた。
つい先程は被弾で派手に血が散っていたのに、今は既に心臓が止まっていることまで現わしてみせるのか、それほど血は流れない。
──ヒロの姿をしたものが明らかな致命傷を穿たれたことに酷く胸が痛んだが、『見て』から少し経っているせいかそれは比較的小さなもので済んだのかもしれなかった。
フン、と鼻を鳴らして彼も踵を返す。
……生活痕がないのを確かめたかったのだろうか。死んだふりを疑っただけで『人形』だと気付いたわけではなさそうだが、やはり彼からは裏切り者に対する執念深さを感じた。
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降谷さんが部屋に現れたのは明け方でした。
諸伏さんの腕にしがみついている私を見て彼は一瞬目を丸くして、そしてくすくす笑い出す。
「こんな状況じゃなければ微笑ましいのに」
「ゼロからも言ってくれ。オレはもう逃げないよ……」
諸伏さんは弱りきったご様子です。でも思い知っていただければいいと思う。
「君には重い前科があるからな。
こう仰るのは逃げ出した諸伏さんへの当て付けみたいなものだろうなぁ。でも褒めてもらえたので私はへらりと笑います。対して諸伏さんはとってもマズそうな顔です。
「……しかしまだ起きてたのか。休むのも役目だぞ」
「さすがにそこまで気を抜けないよ。ゼロこそ大丈夫なのか?」
「あぁ、ひとまずはな。……
やっぱり妙なところで技術の発達した世界です……。
「死体として僕が処理したし、ひとまず死亡の偽装はできたとみていいだろう。そして組織は公安部からのスパイという以外の情報を得てはいないらしい。本名も、出身も、家族も掴めず、幽霊のように消えた、とね。
……それで、汀……裏切り者は協力者と警視庁公安部の同僚だって?」
「過去視です。似顔絵を描いておきました」
私は二枚の絵を差し出します。クロッキー的な鉛筆画です。
「こういう能力もあるんだね君……」
諸伏さんが目を丸くしています。
「能力というか、ただの趣味です」
多分、前世とった杵柄というやつです。
「けどこっちの男性は……紛れもなくオレの協力者だよ。いい奴だと思ってたんだけどなぁ……」
協力者と捜査官の絆は深い。
諸伏さんの前ではいい顔をしていたんだろうなと思うと……ほんっと……ハラワタが煮えます。
「臆病風に吹かれた、か。……送られてきたのは……拡大のせいでボケてはいたが、確かにヒロの制服写真だった」
「そんなのが残ってたのか……」
諸伏さんは片手で額を覆っています。
「最初から配属が決まっていたわけじゃないからな。あの頃どこかで映り込んでいたなら回収のしようもない……それを拾ってきた能力は評価できるが、残念なことだ」
降谷さんはそう言いつつ眉をひそめています。
一瞬瞑目した降谷さんはやがてニヤリと嗤う。
「……僕らが猟犬なら、奴らは蝙蝠だ。両側から捻り潰してやろうじゃないか」
萩原さん曰くの閻魔大王オーラ(本家)は、凄まじいものがありました。
けれど……危機回避に必死だったけれど、考えてみれば、です。
今まで彼はたくさんの縁を切った上で、努力に努力を重ねて、必要があれば悪事に手を染めてまで、この国を脅かす組織を必死に探ってきたのです。
それがこんな形で潰されるなんて。……信頼していた仲間に、裏切られるなんて。
どれだけ悔しいだろう。
これから彼はどうするのかな。
表に出るわけにはいかないだろうから、内勤とかになるのでしょうか。
……私は、何ができるだろう。そう思いながら宙を眺めていると。
「汀は数日ここにいてくれ。ヒロに外出させるわけにいかないから、色々揃えてくれると助かる」
ばればれだったのか話を振ってくれました。
このお部屋にはまだ家具すらほとんどない。もしかしたらつい最近用意したのかもしれませんね。
「お任せください」
けれどそういえば布を被ってたからここがどこだかわかっていない。
マップアプリで周辺のお店を探してみましょう。……あ、スマホ……。
「君、日給なのをいいことに土日も構わず研究室に出ずっぱりだろう。日によっては徹夜で朝帰り、起きたらまた出勤。そんなだから何日か休んだって文句は出ないな? ……というか有給は消化してるのか?」
「……筒抜けなんですね……」
きっと、四年前に
苦笑するくらいしかできない。
「協力者になってからはそれなりに消化していますよ」
「本当なんだか……」
降谷さんが胡乱な目をしています。諸伏さんも疑いの目を向けてきます。
「……それどうせ、休むためとかじゃなくてこっちの仕事をするためだろう……」
当たりですけどただにっこり笑っておきます。
休んだってすることないですし。……何か趣味でも作りたいところですね。そうだ、里崎さんをお誘いしてカラオケに行こう。楽器ももっと触りたい。未来のハロくんと遊べるようになりたい。……そういえばハロくんって女の子なのかな、男の子なのかな。
「まあ、そういうことで、生活については汀に任せて、ヒロはしばらくはここから出ないでくれ。死んだことになったとはいえ、裏切り者に敏感で用心深い奴がいるからな」
「……ああ。分かってる」
恐らく銀髪さんでしょう。まったく気が抜けません。
「……オレにできることは、ないか?」
そう言った諸伏さんはつらそうだ。無理もない。
「できるだけ君の所に持ってくる」
「……ありがとう」
不敵に笑った降谷さんに、諸伏さんは依然少し苦しそうなままだけど、ふわりと笑いました。
ああ、そうだ。
唐突に思いつく。
「あの。……捻り潰すと仰ってましたが、情報はかき集めてきますので、ヒロさんにも策を練っていただきませんか?」
「ホォー……」
降谷さんがニヤリと嗤いました。そして。
「……愉しそうだね」
諸伏さんはそう言ってふわりと笑ったのですけど、目がとても冷たい気がしました。
----------------------------------- side:Furuya
「……汀。君アイツに姿をさらしただろう。拷問の末懐柔したことにする案を出されたし、そうすべきとは思うんだが……とすると証拠が要る。音声を録ろうと思うから迫真の演技をするように」
「うーん……ライは敵じゃないと思いますけど……まあ、念のためあったほうがいいといえばいいですね。ああ、今後私がバーボンの手下として動けるなら他の幹部に提出するのはいい手だと思います」
「……」
ケロっとそんなふうに言うのは彼女の肝が据わっているのか、これが『覚悟』ということなのか……。
僕は頭痛を抑えるように額に手を当てた。
ため息をついて顔を上げる。ヒロが顔を強張らせていた。無理もないだろう……。
「ああ。ジンという人がとても執念深くて慎重で、疑い深いのは知っています。どうせなら映像にしましょう」
にこりと。平気な顔でそう言う彼女はいったい誰なんだろう。呆然とする。
彼女たち協力者の情報網も、覚悟や決意も、やはり僕たちは侮っていたのかもしれない。
裏の世界に染まってほしくないと、そう思っていたのは、きっと甘さだ。
……そして多分ここまで言う程でも、裏の世界に染まり切っているとかではないのだろう。あくまで目的のための手段と割り切っていて、きっと僕たちと、まったく変わらない。
「……でも、ですね」
彼女はふと心苦しさのようなものがにじむ微笑みを浮かべる。
「ゼロさんはお優しいので、意図せず手を抜きそうです。変装した篠川さんに頼みます」
「……いや……僕はその責任の一端を負いたい、んだが……」
ヒロの『人形』に対して心に痛みを覚えた僕が、それができるという自信を持ってはいけないのかもしれないが。
にこりと笑った汀は、すすす、と僕のかなり近くまで歩み寄ってちょこちょこと手を振る。耳打ちがしたいのだろう。
「じゃあ……懐柔と仰るなら拷問だけじゃだめですから、ロミトラ仕掛けるところをください」
「……!?」
それは……それは。
そんな映像まで、撮ろうというのか。
……ジンを納得させるのは容易ではないのだろうが、だとしても。
やっとのことで口をついたのは淡泊な懸念だけだった。
「……裏ビデオとして出回りかねないんだが……」
「私は髪とかお化粧とかである程度変装するので……最悪、構わないのですけど……ゼロさんのがそうなるのは嫌だなあ……」
嫌そうではあるし最悪の場合はと言ってはいても、内心穏やかじゃない。そこまで、できるのか、彼女は……。
「ゼロさんなら徹底的にデータを削除してくださると信じています」
にこっと彼女は笑った。
肝が据わっているのを、彼女たちは頼るべき同胞なのだと、分からされた気がした。
後日。
「スコッチの協力者を捕えているのですが、情報を引き出そうとしても全然吐いてくれないんですよ」
ハッ、とジンは嗤った。
「お前のことだからぬるい聞き方をしてるんだろう。俺に回せ」
「随分舐めてくれるじゃないですか。その様子はちゃんと撮ってありますよ」
僕はそのデータをパソコンで開いた。
汀があなたは見ないほうがいいですよと苦笑していたんだが、この状況では見ないわけにはいかないだろう。
そしてそれは想像を絶するものだった。
表情を変えないでいるのがやっとだった。
けれどこれを持ってきた汀は傷を負った様子が全然なかったから、合成だとか、あのオーバーテクノロジーだとかで作られた映像なのかもしれない。
この場にいた幹部連中は、ジンを含めて黙り込んでいる。
しばらくしてジンは大嗤いを始めた。
「……俺はお前を侮っていたらしい」
「いえいえ、まだまだですよ」
そう言って笑ってみせるが内心は穏やかじゃない。
今後こういう仕事を回されたら胸糞悪いんだが、僕の領分ではないと言い張って避けられるだけ避けよう……残念なことに愉しんでできる奴はいるようだから、それの愉しみを奪ってはいけないとか言えばどうにかなるはずだ。
「今まであのスコッチの働きを支えていたくらいですから、かなり有能です。まだかろうじて生きてはいるので、せっかくですから懐柔できたら僕の配下としていただきますね」
「……これで恐怖をおぼえない人間なんかいないでしょうね。自殺でもしそうなくらいだけど……生かしておけるようなら支配なさい。逃げるようなら……分かってるわね?」
そう言うベルモットだが、かなり引いている気がする。
「もちろんです」
以来、僕はしばしば一部の幹部連中から恐れを抱かれたフシを感じ取った。これでもしかしたら、もっと上まで食い込めるかもしれない、が……まったく嬉しくない。
裏切り者に敏感なジンはやはり本当に懐柔できたものか疑ってきたので、汀が言った映像も……まったく気が進まないながら……撮っていったのだが……頭が、痛い。
「今の様子なら、そのうち懐くと思いますよ」
僕は無理矢理にこりと笑ってみせる。内心では目が死んでいる思いだ。
ジンは、やはり大きく嗤った。
/
転生者
用意された死体の詳細については教えてもらえないようです。
いつか知ることはあるのでしょうか。
スマホ……いやあの家はしばらく様子見したほうがいいですよね。
そういえば諸伏さんのデータをコピーしたほうのスマホが生きてますね。安心。
裏ビデオ()撮影は何も考えてないおバカはそう深刻なものだと捉えもせず、強く使命だと思ってて、別に治せるしなあ、怯えた演技うまくできてるかなあ、とか思いつつケロりとやり切る。
ロミトラフェーズの時は傷痕をメイクで作った。特殊メイク的腕もあがってきているようだ。
怖い奴。
降谷さん
のちのち転生者のスマホは彼によって無言で手渡される。
しれっとやってくれちゃう保護者。
えっ……汀、何を言っている……?
怖い。
まだライもスパイだとは知らない。
諸伏さん
内心大嵐。
……え?
篠川さん
にこにこ(憤怒)。
……からの。
怖い。
災難。彼女には『味方』という認識がきっちりあるのもあり普通に無理。転生者の過剰というより斜め上の信頼が重い。あの子サイコパス???
恐ろしいものを感じつつ、『手抜きはだめですよ』と転生者ににっこり笑われ、内心震えながらもやり切った。地獄だった。
こんなものでしょうかなんてさらっと言われ、にこにこ笑いながらお疲れ様でしたありがとうございますなんて言われ、倒れたくなる。
そして何やら薬(前回も出た《 軍用エリクサー 》)を飲んだかと思えば傷はすっかり消えた。彼女の非現実的とも言うべき規格外さを改めて思い知るが、どういう事態なのかからは目を逸らすべきなのだろう。
幹部の皆さん。
怖い。
ジン以外ドン引き。
ロミトラフェーズに関しては、拷問フェーズでしんどくなったのかジン以外見ようという者は出なかった。