降谷さんの災難   作:千里亭希遊

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※お酒の勢いで皆キャラ崩壊します。嫌なかたは飛ばしちゃってください。
※諸伏さんの離脱後の偽名を捏造しています。お声のかた由来。pixiv版とは少し違います。


23.ささやかな宴。

----------------------------------- side:Furuya

 

 それは憂さ晴らしみたいなもので。

 あいつらも交えて飲みたい。第一にそれがあって、それ以上は考えたくなかった。

 ……今は容赦してほしい。

 

 良い肉と良い魚と良い野菜、発泡酒ではないビール、等々を揃えて、それぞれで銘々好みの料理を拵えて。

 鍋を囲んで色々と摘まむ。皆好みはバラバラなのでテーブルの上がちぐはぐに見えなくもないが、気にすることでもない。

 和食多めな中目を引くピザは綿引(わたびき)の希望で、本人が大変幸せそうに口に運んでいるので作った人間の一人としては嬉しい。

 

「本当にお疲れ様です」

 

 そう言う(みぎわ)の眉は下がり気味だ。

 

「……うん。皆頑張ってくれてありがとう」

 

 主役、の景光(ヒロ)の微笑みにも力がない。

 

 この慰労会はそういうものだ。

 僕も苦い笑みを浮かべる。

 

「疲れた、というか……」

 

 ……言葉が続かない。

 何でヒロがこんな目に遭わなければいけないんだ。

 

 ふと目をやると風見が何故か緊張した様子で、そろそろ空になりそうな僕のコップにビールを注ごうとしてくる。

 手でやんわりと制止して僕は瓶ごと取り上げ、自分でコップに注ぐ。

 

「駆けずりまわった分、体力的に一番疲れたのはお前だろう……飛田(ひだ)、今は職場の関係を持ち込むな。気楽に飲んで食えと言っただろう」

「は、はい……! 申し訳ありません!」

「全然なってないじゃないか」

 

 僕は苦笑する。

 何でこんなにカチコチなんだろう。

 ヒロと風見は同じ警視庁公安部に所属するとはいえ初対面だ。潜入捜査官については直属の上司や連絡役にしか共有されない。

 かといって別に風見は人見知りってわけでもなかったと思うんだが。

 まあ、全員が互いに、偽名と分かっていながら偽名で呼び合っている会(?)というのは異様かもしれないが……それは緊張する要素だろうか。

 

「飛田さんも、本当にありがとうございます」

 

 ヒロがふわりと笑いかけるが、風見はその柔らかさにさえ解れた様子を見せない。

 

「自分なんて全然……恐縮です……!」

「おいおい……」

 

 僕はまた小さく吹き出すはめになった。他の皆も似たようなものだ。

 

「飛田さん、オレはただの同僚です。しかもあなたのほうが年上でしょう? どうなさったんですかそんなに畏まって」

「いえ、しかし……! 湯日川(ゆいかわ)さんは引く手数多の大英雄なんですよ?」

「……え?」

 

 ヒロはぽかんとした。綿引と汀も似たような顔をしているが、二人のほうは「へえぇ……!」とどこか目がきらきらしている。

 この話を聞くために風見を連れてきたのではある。

 

「ええと……湯日川さんの生存はまだ一部の関係者しか知りません。しかし、あの組織の幹部まで上り詰めたその能力を買われて、上層部の知ってる方々が『是非とも我が部署に』となっているそうです。

 ただ、身の安全のため、数か月は身を潜めていただくことになるそうですが……その間は、できる範囲で安室さんのサポートをしてほしいそうです」

「その数か月の間に、スカウトの声が大量に届くかもしれない、って話だよ。君の生存がほとんど知られていない段階でこれ、だからね」

 

 ふふ、と僕は笑う。

 なんだかヒロはたじたじとしている。

 彼はやがてふ、と苦笑した。

 

「……オレ、失敗したのにな」

 

 ……君がそんな顔する必要なんかない。

 

「湯日川に責はない」

「……自分、悔しいです」

 

 風見が俯く。

 

「何なんですか? あの女。どうも安室さんに一目惚れして組織に潜入しようと思ったらしいですよ?」

 

 言って彼はぐいっと一気にビールを煽った。

 

「「「……は?」」」

 

 僕と、ヒロと、綿引、三人がそれぞれ唖然とした声をこぼした。

 査問会にはもちろん僕もヒロも出ていないわけで。そこで明らかになったのかもしれれない。

 ……少し引きつった苦笑を浮かべている汀は、さては、知っていたな……あまりのばかばかしい理由に、気を遣って意図的に隠した可能性がありそうだ。

 

「あんなのが湯日川さんを陥れたなんて、悔しすぎます」

 

 皆、一様にやりきれない顔を浮かべる。

 

「……まあ、あの人はもともと公安部にあるべき人材じゃなかった。それが分かっただけでも希望はあるよ。オレたちの所属する公安部はまともだった、ってさ」

「……ええ。上司もたびたび疑問に思いながら、できるだけ簡単な事案について指示を送っていたようです。だから今回の査問で、通りで、と」

「オレは、香月(こうづき)がビビってたのにも気づけてなかったからなあ……そこは、オレの落ち度だ」

「落ち度なんかじゃありません、きっと誰だって気づけないですよ。……安室さんは、分かりませんが」

「「「……あー」」」

 

 風見がこちらを見遣りながらぽそり言うと、ヒロと汀と綿引もそれぞれ妙な顔をして一斉にこちらを見てきた。

 

「な、何だ、君たち……」

 

 汀が肩をすくめた。一体なんだ。僕は思わず溜め息をつく。

 

「僕だって実際その状況にならなければ分からないさ。……木暮(こぐれ)が隠していることに気づけなかったことなんて、山のようにあるぞ」

「うーん、それは、ににちゃんだからなあ……」

 

 綿引がにかっと笑って言うと。

 

「……香月と木暮さんじゃ、ちょっと比べられないかな……」

 

 ヒロもそう言い始める。

 今度は汀がたじたじとなった。

 

 その時。

 インターホンが鳴る。このマンションはエントランスに住人が迎えに行かないと入り口すら開けられない。

 首を傾げる一同に、僕はニッと笑ってみせた。

 

「お客様のご到着だ。迎えに行って来る」

 

 僕は席を立った。

 

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 三人そろって現れた『お客様』は、全員硬い顔をしていて、とても晩餐を共にしに来たという雰囲気ではなかった。けれど両手にそれぞれ色々と食材を抱えてはいる。

 

 ダイニングに真っ先に駆け込んで行ったのは、ひと際長身な彼だった。

 

「……もっ!?」

 

 駆け込んで行った彼の口を素早く塞いだのは意外にも綿引だった。身長差のために頑張って腕を伸ばしている。

 

「ここには本来本名を語れないって人間がいっぱいいるんだ。今仕事なんて考えたくないのは皆おんなじなんだけど、一応、形式上、で、従ってほしいんだ」

 

 綿引が切なげな顔で頼むのを、萩原は困惑がありつつも受け入れてくれたようで。

 

「……っ。あ、ああ」

 

 息を詰まらせつつも頷いてくれた。

 綿引がふわりと笑う。

 

「ありがとう」

 

 偽名の連中は皆苦笑したり微笑んだり。

 綿引が『語れない』ことを口に出して言ったこと自体が、それを知っている仲だからこそ、ということではある。

 そして形式上こうしているのは、現状を語るがゆえの、条件のようなものになる。

 

 ……本当はこうして顔を合わせてはいけないかもしれなくて、更には現状について伝えてはいけないはずの関係。きっとそれは、皆分かっている。

 

 萩原の後を追って部屋に入った松田と伊達もテーブルに招く。

 ヒロが一番に立ち上がった。

 

「きっと……心配をかけたね。ごめん。そして、ありがとう。オレはこの場では、湯日川(みどり)だ」

「僕は安室透、だ」

「おれは綿引柊星(しゅうせい)。よろしくね!」

「私は木暮愛莉(あいり)、です」

「自分は飛田男六(だんろく)です。よろしくお願いします」

 

 びしっとお辞儀をした風見はまだ緊張しているようだ。……やっぱり実は人見知りなんだろうか。

 

「……俺たちは偽名とか用意しなくていいんだよな?」

 

 松田が少し渋そうな表情で言った。

 

「うん。皆は気にしないでほしい」

 

 綿引が笑顔を見せると、少し皆の空気が和らいだ気がした。

 

「俺は、松田陣平だ。よろしく」

「俺は萩原研二。よろしくね」

「俺は伊達航、だ。よろしく」

 

 三人も名を述べて、そして。

 

「……なあ、肉持ってきたんだが、どうすればいい?」

「俺色々甘い物も買って来たよ。しかし木暮ちゃん以外思えば男ばっかだな」

 

 ビールを抱えていた伊達はキッチンカウンターに載せている。

 肉はひとまず受け取って冷蔵庫にしまった。

 

「ふふふ、スイーツは男子だって食べるでしょ!」

「ふふ、そうだね。ポテチとかもあるよ」

 

 やったーと綿引が喜んでいる姿は微笑ましい。やっぱり彼がいると和んでいいな。

 皆がそれぞれ席に着いていく。

 

「木暮ちゃんやっぱ林檎なんだ」

 

 萩原がちょうど汀が飲んでた缶を目にクスっと笑った。

 

「ええ。相変わらず大好きです。林檎以外も色々ありますよ。萩原さんもいかがですか?」

 

 確かに冷蔵庫には汀が買ってきたらしい酎ハイが結構詰め込まれていた。……あれ全部今飲むわけじゃないだろうけど。……ないよな?

 

「俺はまずビールかな」

「ふふ。萩原さんもいつもの、ですね」

 

 萩原のことだから意図的に和む会話をしてくれてるのかもしれない。

 

 そんなふうにして、ささやかな飲み会は始まって、皆が腰を落ち着けて食べたり飲んだりし始めた中。

 

「さて……皆には話しておきたいと思ったんだ。木暮を育ててもらったからな。彼女は今や優秀なエージェントだ。皆を蚊帳の外にする謂れはないと判断してる」

 

 汀がペコリとお辞儀した。

 そうしたこと自体が本来有り得ないかもしれないけど、汀の特殊さもあって僕だけでは付きっ切りで育てられなかったことも明白だったし、許されないことだとは何者にも言わせない。

 

「……少しだけ伝えたと思うが、湯日川この部屋から出るわけにいかない状態になっている。窓から姿が見えないようにも注意しなきゃいけないくらいにな」

 

 聞いて、合流した三人はそれぞれ心痛の表情を浮かべた。

 彼らだけでなく既に知っていた面々もそういう顔になる。

 

「……今まで居た場所では死んだことにして身を隠しているんだ」

 

 何故そんな目にあっているのか聞きたい気持ちがあるんだろうに、皆黙って聞いてくれていた。

 彼らも同じ警察官で、様々な事情を飲み込んでここに居るんだ。

 

 ……松田は苛々した様子で腕時計を分解し始めた。それでも無言なのは体面として詳細には話せないのをわかってくれている証であって、思わず微笑んでしまう。……一瞬睨まれたが。それでさえも心温かくなってしまう。

 

「というわけで暇ができたらここに来て湯日川の助けになってくれないか。湯日川も生活能力は充分以上だけど、外に出られないのはどうしようもない。僕や木暮は事情でそう通うわけにもいかないんだが、かといって綿引一人に任せるなんて酷だからな」

 

 それが、ここに招いて事情を少し明かしたことの、大義名分。

 

 暗い顔をしていた面々が、一瞬瞑目するなどしてそれぞれ言葉を飲み込んだ様子を見せ、そしてにやりと笑った。

 

「毎日でも押しかけたいね!」

「変な時間に呼び出し食らって帰んの面倒んなった時は押しかけるわ」

「やめろ、松田」

 

 そうして空気は柔らかくなっていく。

 

「チャイム鳴らしても出て来なかったら寝てると思ってくれ」

 

 ヒロは少し困ったように笑うが。

 

「叩き起こす」

 

 松田が言ってそしてまたやめろと言われる。

 そして話は最近皆どうしてるとか、班長にのろけ話を求めるとか、この街爆弾仕掛けられすぎなどの愚痴とか、萩原のプレイボーイぶりとか、松田のやんちゃぶりとか、他愛もない楽しい話になっていく。

 

「……そーいや千速の奴白バイだって? かっ飛ばしてんのが目に浮かぶぜ……」

「姉ちゃんだってそんな……いや、有り得そう……」

「萩原さんお姉さんいらっしゃるんですか?」

「そうそう、すげー跳ねっ返りのな……」

「陣平ちゃんってばまたボコボコにされるよ」

「ハッ。望む所だ……」

 

 本当に、楽しい。状況を考えればどうしても完全に喜ぶことはできないが。それでも。

 公安に配属されてから、こんな日が来るとは思ってなかったのに。

 

 風見はまだかちこちだな。

 機を見て話を振ってみるか。

 

 そのうち酒が入っているのもあってかとんちんかんな話も飛び出し始める。

 妙な内容になる前にまともな流れを作るか。

 

「そういえば綿引は何歳なんだ? 酒はいけるのか?」

 

 気になってたことを聞く。

 

「んー、駄目だよ、おれ十七。だからノンアルコールだけ飲んでる」

「……へっ!?」

「未成年だァ……?」

「ははっ、おっさんばっかですまんな、時間は大丈夫なのか?」

「うん。今日は泊まりだよ」

「酒飲みなんてほっといて、眠くなったら寝ろよ?」

「あはは、ダイジョーブ。飲み会の雰囲気って好きなんだ、楽しいもん」

 

 僕も結構驚いた。今いるメンツのせいで小さく見えるが身長はそこそこあるしな。

 人懐っこい性格と喋りかたで実際以上に若く見てしまっているだけかもしれない、という懸念は要らなかったようだ。

 

「おれもににちゃんと同じで向こうの学校飛び級で卒業したの。んで働きながらホワイトハッカーやってる。だから会社の飲み会にも何度か顔出してるよ」

「それ話していいの?」

「うん。おれはこのへん隠すことでもないからさ」

 

 偽名を使ってはいるが彼らは本業を偽る必要はないからな。……汀はその中でも特殊として。そもそも協力者で偽名を持っている人間も彼らくらいだろう。

 

「そーいえばににちゃんって?」

 

 萩原が聞く。

 

 櫛森(くしもり)汀にも木暮愛莉にも全く掠りもしない呼びかただからだろう。萩原が聞いている。僕も気になってた。

 

「ああ、木暮さんのことだよ。何かニックネーム付けようよって言ったら、本人が『ひよこちゃん』なんて言ったからさ、もっとかわいいのにした」

「ブフッ」

 

 班長が吹き出した。

 汀、一体何なんだその感性は。

 

「ににちゃんにひよこ……数字の『2』が関係してる?」

「んー、多分それは秘密」

「そっかー」

 

 言われて、萩原はそれ以上追求しようとしなかった。やっぱりできた奴だよ。

 

「じゃあ飛田さんはいくつ?」

 

 風見がカチコチなのは萩原も気になってたのかもしれないな。

 風見は少し驚いた様子を見せながらも答える。

 

「自分は二十七です」

「へえー、じゃあ俺らの一個上だね! 何してる人?」

「安室さんの部下です」

「マジ?」

「飛田、何でそんなに固くなってるんだ? 彼らは皆僕の同期だ。要するに皆お前の一個下だ。気楽にするといい」

「ヤバい、安室ちゃんから貫禄を感じる……」

「アンタとーるにこき使われてそうだな……」

 

 松田は何を言ってるんだ。

 

「……なあ飛田さんよ、とーるの奴どんな感じだ? 相変わらずゴリラか?」

 

 僕は思わず吹き出した。

 

「え、ええと……」

 

 風見は本当にどうした。まだ硬いぞ。

 

「飛田、今日は無礼講だ。好きなように話すといい」

「……!」

 

 何故ごくりと唾を飲み込む?

 

「俺たち皆年下なんですよ。畏まらないで下さいって」

「てめえが敬語になってんじゃねーか……」

「だって年上だったでしょ?」

「い、いえ……いや、ほら、安室さんも無礼講っておっしゃ……言いましたし、あ……言ったし」

 

 僕を含め何人かがくすりと笑った。

 

「こりゃ普段のとーるがよっぽどガミガミしてんな? 目に浮かぶ気がするぜ……」

「え、そう? 透は結構ヤンチャだけど優しいし、世話好きなイメージだから……あ。上司として口は厳しくしつつ、その実すごく面倒見が良さそう」

 

 ヒロ、そのイメージは何なんだ。

 

「「「それだ」」」

 

 そして待て、皆何でそんなにタイミングぴったりなんだ。

 

「さすが幼馴染、ってな……」

 

 松田がにやりと笑っている……。

 

「そう……そうだ……! 安室さんが言った通りにすれば、気づけばいつも全部うまくいってるんだ……!」

 

 松田が吹き出した。

 

「オイアンタどっか危ない宗教の信者みてえだぞ」

「……実際崇めてる人はいそうな気がするな」

 

 オイ班長、君まで何を言い出す。酔ったか?

 

「崇めてます! 安室さんは最高の上司です!」

 

 丁寧語に戻ったりで口調が不安定な風見は絶対に酔ってる。でも偽名で呼んでるうちはまだ大丈夫……と信じたい。

 

「ちょっと分かるかも。安室さんは the charisma って感じ」

 

 綿引の発音が異様に良かったのは留学経験ゆえか強調か。

 

 そこに汀が更にピザを運んできた。今度はシーフードで、綿引が目をキラキラさせている。食べ盛りだろうし、彼のリクエストなのかもしれない。

 

「うわー! 旨そう!! ににちゃんも天才!!」

 

 屈託の無い笑顔と賞賛が妙な流れを浄化する。

 やっぱり綿引が居てくれてよかった。

 汀が照れたような笑顔を浮かべた。突拍子もないことをしでかさなければこいつも癒し系なのにな。

 

「湯日川さんと安室さんのも最高だったよ! 生地なんてパリパリもふわふわも作ってくれたし。おれデリバリーじゃないピザ初めて食ったかも!」

 

 綿引の言にヒロも照れた様子だ。

 

「すーぐなくなっちゃったもんな。俺挽肉乗ってたの好き」

「分かるわ」

「チーズたっぷりだったやつだろ? 色々褒めてたらいくらでも長くなりそうなやつ。セーブするのが大変だったぜ」

「……若い……若さを感じるっ。自分は一切れで満足感が……」

「アンタ一個しか違わねえだろーが」

「この頃ひとつの差が大きく感じないか?」

 

 そう言った風見は真顔だったがやっぱりこいつ絶対酔ってるな。

 

「おいやめてくれ」

 

 班長は自分で老け顔とか言って年齢の話になるとしばしば頭を抱える。

 例の爆弾事件の時といい、身体能力的にも衰えは見られないし気にし過ぎだと思う。

 

 ……あはは。

 やっぱり、このメンバーで集まれるのは良いな。こう気の滅入ることがあってもどうにかやっていけそうな気がしてくる。

 

 どうやら風見のかちこちもなんとか溶けてきたようで、ますますわいわいと盛り上がっていく。

 ……綿引や汀が戸惑うような内容にならなければいいが。

 

----------------------------------- side:Morofushi

 

 少し心配だったんだ。

 何せ今日は一月八日。

 汀さんは七日に調子を崩す。先月も昨日も酷くうなされてた。

 彼女の部屋が今はもう完璧に安全とは言えないのもあって、ウチに泊まるようになってて良かったと思う。……いやろくな介抱はできなかったけど。良かったのは一人にさせずに済んだ点くらいかな……。

 

 ゼロだって知ってるだろうにと思ったけど、昨日彼が居なかったのは多分オレのことであちこち動いてくれてたからだろうから、何も言えない。

 まあ逆に、今日この日にこんなふうに集まってるのは、オレや皆がそばにいたなら、って信頼みたいなものからかもしれないけど。

 

 ちょっと眠そうにしてるのは彼女が空けた酎ハイの缶の数や日本酒や焼酎の量のせいじゃないと思う。酒豪っていうか彼女もうウワバミだから……。

 

「木暮さん、眠いなら無理しちゃ駄目だよ」

「ヒロさん……?」

 

 しかし彼女はきょとりとオレを見たのみ。はぐらかす気だな。

 

「寝れてないだろ」

 

 彼女はただ苦笑して酎ハイに口を付けた。今飲んでるのは白ブドウらしい。

 

「何なに、木暮ちゃんまた何か無茶したの?」

 

 隣に居た萩原が揶揄うように問うてきた。汀さんはジト目を返す。

 

「またって何ですかまたって」

「自分の胸に聞いてみな? オレの時も陣平ちゃんの時もメチャクチャだったんだ。普段からそうなんだろうし湯日川ちゃんにも何かやったに決まってる。安室ちゃんの苦労が偲ばれるねえ」

「なっ、な……!」

 

 汀さんが泡を食ってるけど、言い返せないだろ?

 

「その通りだ。……まあ、オレに関してはオレがしっかりしてなかったせいだけどな」

 

 思わず自嘲してしまう。こんなこと言ったら空気を重くするのにな。

 

「……湯日川さんは悪くないです」

 

 汀さんがつらそうに顔をしかめた。こんな顔させたくないのに。

 オレはシワが寄ってしまった彼女の眉間をつんとつついた。

 

「ごめん、今のナシ。まあ、今日は休んでおきなさい。君にとって普段何でもないかもしれないけど、寝不足の上この量はね……」

 

 今彼女の近くにある空の缶(500mlのもあるぞ)は三つだけど、彼女ちょくちょく洗って潰してたからね……。

 

「うん寝ときな寝ときな。ここからは男だけのムフフな話だ」

「何だよそれ」

 

 萩原のバカな発言に笑うけど、そう言って寝せようってことかもな。汀さんは目を白黒させてる。

 

「ほらほら、立って。じゃないと抱っこして連れてく」

「えっ、そこまでします……?」

 

 更にあたふたする彼女。

 

「それとも、聞きたい? ムフフな話」

 

 にこっと笑って萩原の話に乗っかると、彼女は絶句して、渋々な様子で席を立った。

 

「……み、耳を塞ぎますのでそこのソファとかで」

「駄目駄目、ゆっくり寝られないだろ」

 

 オレは彼女の手を引いていつもの部屋に連れて行く。

 

「ちゃーんと来客用の部屋に来客用の布団あるから」

 

 萩原たちに汀さんがだいたいここで寝泊まりしてるの知られたら何か言われそうだから、本当のことではあることを言いながら。

 彼女を部屋に押し込めて、扉を閉めて、そして。

 

 オレはそのまま後ろから彼女を抱きしめた。

 

「!」

 

 同じマンションの部屋に寝泊まりしてるとはいえ、あれからゆっくり話す余裕がなかったから。

 

「……ごめん」

「な、何で……」

 

 また、彼女はあたふたしてる。

 

「無茶をさせた。血を吐くほど殴った。それに……君の気持ちなんて聞いたこともないのに強引にキスした。しかも酷いの」

「っ、それは……!」

 

 彼女が腕の中で身動ぎしたけど、離さないよ。

 

「それは……そうなるまでに色々なさった上でじゃないですか。手段の一つでしかないです」

 

 今度はオレが絶句した。

 

「……本当にそれだけだと思ってる?」

「え……?」

 

 彼女の身体から力が抜けた。

 ……本気で戸惑ってるのか、分かってないのか。

 

「……あんな状況じゃなかったら、君に抱きつかれたら襲ってたかもだよ、オレ」

「っ!?」

 

 彼女の身体が強張って力む。オレはふっと苦笑した。

 

「オレにとって君はそういう対象だ。好きなんだ。そんな人がオレを助けるために無茶をした。……君は危機に陥ったのがオレじゃなくても無茶をするのは分かってるけど……堪らないんだよ。何でそんなことができるんだ」

「だって……!」

「……だって?」

 

 本当に、何でここまでしてくれるんだ。

 

「……皆さんは、憧れです。それに私にたくさんのことを教えて下さいました。……優しく接して下さいました。恩人なんです。……絶対死んでほしくないです。当たり前じゃないですか」

「……それだけ? 期待しちゃ、駄目か……?」

「……っ」

 

 彼女は息を詰まらせる。

 

「こうやってオレに抱きしめられるのは、嫌か?」

「……!」

 

 ……こんなこと聞いたら、困らせるだろうけど。

 

 沈黙が続く。

 

 ……だけど。

 

 彼女はあろうことかこの状況で首を振った。

 オレは息を飲む。

 

 駄目だと理性が叫ぶ。

 

「……でも……っ!」

 

 彼女の苦しそうな声がオレの目を覚まさせる。

 

「……分からない、んです……」

「……オレ以外にこうされたら?」

「……!」

「……はは、ゼロだったら振りほどかないか」

 

 また、思わずの自嘲。オレこそ酔ってるのかもしれない。

 彼女の身体からまた力が抜けた。

 

「ゼロさんは仕事以外でこんなことしません」

「……っ」

 

 彼女は、きっと壊滅的に自尊心がない。

 

 彼女を振り向かせて掌で頬を挟んで、目を合わせる。じっと見つめる。逸らさせない。

 

「君が思ってる以上に皆君を大切に思ってるよ。そんな君を軽んじるのは、君本人でも許さない」

「……!」

 

 暗くても分かる苦しそうな顔。

 ……きっとこう言ったって彼女は分かっちゃくれないんだろう。

 オレは苦く笑った。

 

---------------------------------- side:Furuya

 

「なーんか遅くない?」

 

 萩原がヒロと汀が消えて行った方を見やりながら言った。

 

「あの二人、あれからゆっくり話せてないからな。無茶の件でしっかり叱ってるんだろう」

「……あー。ほんと何したのあの子? って聞いていいことじゃないか」

 

 僕は苦笑する。

 

「まあ、だからこそ大勢居る前では諌められない」

「なるほどねえ」

 

 萩原はそう言ってビールの缶に口を付けた。

 

 ……実の所はそれだけじゃなくて、親友の想いが汀に届くことを願ってるんだけど。そんなことは周りには言わなくていいだろう。

 

 ふと思い至ったが、もう日付けを越えて結構経つ。皆かなり壊れてきてる気がするな。

 

「オイ肉いれるぞ肉、買って来たやつ」

 

 松田は目つきも声音も怪しいな。

 酒以外を腹に入れたほうが良さそうだ。僕は苦笑して冷蔵庫に向かった。

 

「綿引、明日は仕事か? おっさん連中はほっといて寝たほうがいいんじゃないか?」

 

 班長が声をかけていた。ほんと気配りができるやつだな。

 綿引は「あー」と少し思案するような声を上げた。

 

「そーさせてもらおうかなぁ」

「風呂は?」

「もう済んでるよ〜」

「そうか、挨拶とかいいからな。あと静かにするように言っておく」

 

 綿引はくすくすと笑った。

 

「おれどんな環境でも寝れるから気にしないでいーって。久しぶりなんでしょ?」

「それは、そうなんだが……」

「気になるようならおれひとりで帰らなきゃになる」

「送る」

「だーから、安室さんも飲んでるし送るなら徒歩でしょ? 今からそれはやだからさ」

「遠いのか?」

「そこまでじゃないけど、今は歩きたくないの~」

「そうか」

 

 僕が苦笑すると彼も少し笑った。

 

「じゃ、おやすみー」

「ああ、おやすみ」

 

 小さく手を振り合って、綿引が客間のひとつに入っていくのを見送った。

 この部屋をヒロにあてがったのは、セキュリティもだが部屋数の多さもポイントだ。皆巻き込む気だったからな。

 もとは作業班の詰め所にでもしようかと思ってたんだが、出番がないままだったからちょうどいい。

 

 テーブルに戻ると松田が唸っていた。

 

「もうビールねーぞ。買って来る」

 

 僕と風見で抱えてきた分もそう少なくなかったはずだけど、班長が持ってきてた分までもう無いのか?

 いや、飲む人間が六人もいればこんなものか。

 

「僕が行く。あと……班長、頼む」

 

 明らかに酔いが回った様子の松田は外に行かせたくない。萩原も風見も同じく。

 

「オーケー。しかし皆仕事は?」

「通常出勤だ。めいっぱい飲む」

「……何がなんでも叩き起こすからな」

「よしっ、安心して飲める!」

「あんまり調子に乗るなよ」

 

 まだ張り切るつもりらしい萩原に班長が苦笑する。

 しかし二人で持てるだけ買い込んできた僕たちこそ調子に乗ってるのかもしれなかった。

 

 帰った時にはヒロが戻ってた。ゆっくり話はできたんだろうか。

 

「とーる、米〜」

「はいはい」

 

 早々に松田に呼ばれた僕は炊飯器ごと持っていく。いい具合に中身が残っていたのは米以外にも主食系がちらほらあったためだろう。ピザしかり。

 

 ご飯を汁が跳ねないよう加減して入れていると、松田がIHのスイッチを入れた。

 土鍋で本格的にやりたい時には使えないが、テーブルやこたつで囲みたい場合、一基のみで薄手のIHヒーターは手軽に運べて良い。

 外出できないヒロにとってもガス缶を買いに行く手間がないほうが助かるだろう。

 

 ……多分皆たびたび予告なく押しかけるだろうし。いつ暇ができるか分からないことのある職でもある。ヒロの状況からして、来れるだけ来たいと思ってくれるだろう奴らでもある。

 

 鍋の中身が焦げないようゆっくりと混ぜている松田はご機嫌な様子だった。何度か具も出汁も追加されてきた鍋でのおじやだ。絶対美味いもんな。

 そしてその松田お手製おじやのおかげでますますビールが進んだわけで。

 

「オイ待て何してる湯日川脱ぐな」

「らってぇ……まふらが、心配かけら罰ってぇ……」

「呂律がおかしすぎる! 水!」

「そろ前に脱がなきゃぁ……」

「ソレに使命感はいらん」

 

 松田お前ヒロに何を言った??? ケラケラ笑ってないでとめろ! 萩原も「いいぞ湯日川ちゃん脱げ脱げ〜」じゃない!

 

「あぁー、でも心配といえばずっと連絡くれなかった安室ちゃんも同罪だよね〜」

「……は?」

 

 萩原の発言で一斉に五対の目がこちらを向き、僕の背筋を悪寒が駆け上がる。

 目つきのおかしい松田がびしっと、無駄に綺麗に伸びた手を振り下ろした。僕の方向に。

 

「確保ォ!」

 

 無駄にしっかりしたいい声で放たれた号令で皆が一斉に僕を捕らえようと動き出す。

 数人酔ってヘロヘロだったのはどこいった!?

 

「馬鹿! いくら防音しっかりしてるとはいえ集合住宅だぞ! 綿引も汀も寝てるんだ! 収まれ!」

 

 フェイントとか時間差とかいい連携をするな! 風見お前初対面の奴らとタイミングバッチリ合わせて挟撃とかするんじゃない! 単なるじゃれ合いじゃなくなってきたぞ!!?

 近所迷惑にならないよう静音を心掛けて全員床に転がすのは非常に骨が折れた。やつらもできるだけ音を立てないように襲ってきてた点については褒めたい。

 

 ひいはあ息を乱しながら転がる連中は誰からともなくくすくすと笑い始めた。

 

「オイ班長負けてんぞ」

「狭すぎて動きづらい」

「それかぁ〜」

「酒もある」

「あと多分透のゴリラ度も上がってる」

「オイ安室もっと飲め」

「らめらよまふらぁ、オレらちら透に無理やり何かさせうのは無理ぃ〜」

「ほんっと漫画みたいなんですから……」

「飛田さんまた丁寧語なってる」

「だって五対一ですよ? 全員静かにのしたんですよ? 上司以前に畏怖の感情でですね」

「なるほどそれは仕方ない」

 

 全員何を言ってるんだか……。

 

「これ以上バカやる前に皆寝ろ」

 

 ため息をつきながらそう言うが、転がった床で萩原と班長が既にすよ……と寝入り出したことに気づく。

 

「うわ、一番重そうな奴らから寝やがった」

「運んでやる気なのか? 相変わらず優しいな」

「ぁ"あ? オメーに運ばせんだよパツキンゴリラ」

 

 これまでのちょっとした仕返しにからかうと、松田はすごい声で唸った。目付きも危ういので君こそ早く寝ろ。

 

「湯日川さぁん、ゆい、かゎ……グスッ」

 

 その向こうで風見が転がってるヒロにすがりついている。何してるんだ。

 

「……ろうしぁんれす、か」

 

 始め呂律が回っていなかったヒロが風見に目をやった瞬間、思い切り正気の戻った目をした。

 なんだなんだという感じでもそもそとヒロの周りで僕と松田も腰を下ろす。松田が缶ビールを回してくる。

 

「あなたが生きていてよかった」

「…………!」

 

 風見が小さく言った言葉に、ヒロだけでなく僕と松田も息を飲む。

 

「あんな奴らのせいで……あんな……ッ……グスッ」

 

 はなをすすりながら言う風見。松田は誰もいない方向に視線を流しながら缶蓋を開けた。プシュッというその音につられたように、皆めいめい手元の缶を開け始める。

 

「自分は悔しい。あんなのがいたなんて」

 

 同じ部署の同僚、だもんな。

 性質上お互いの存在は知らなかったようだが。

 

 内容を問いただす訳にいかないためか松田が今度はスマホを分解し始めた。おい酔っててそれ組み直せるのか? ちなみに腕時計はきっちり元に戻したようで正確に時を刻んでいる。

 

「なんであんなのに邪魔されなきゃいけないんだ」

 

 公安部なんかにそもそもいるはずがない思考の者がいた。そんな訳のわからない存在のために、慎重に慎重を重ねて潜っていた仕事が台無しになった。

 

「……」

 

 思えば思うほど理不尽さに言葉も出ない。

 

「……公園の砂場で城を作ってたんだ。それこそノイシュヴァンシュタインとかを目指してさ」

 

 ぽつり、とヒロが話し始める。怪しかった呂律は鳴りを潜めていた。きっと例え話を始めたんだろう。

 

「無理かもしれなくてもさ、下から少しずつ、こつこつと。中央の一番大きな建物の屋根まで作って、屋根の上の小さな塔を作ろうとしたら……サッカーしてた知らない子のオーバーヘッドシュートが失敗してこっちに飛んできて、そんなので砂の城なんか一気に崩れちゃうんだ。それで、蹴った子の親があらあらごめんね、って笑って、オレはボーッとそれを見てる。……そこで目が覚めるんだ」

 

 例え話ではあるんだろうけど、実際見た夢でもあるのか?

 

 へッ、と松田が不機嫌そうに息をつく。

 

「……碧の旦那はよ、それでもまた一から城を作り直すんだろ。ブッ壊した奴をシメもせず」

「……そして謝らせようとも、しない」

 

 松田と風見が少し不服そうに、呟くようにそう言った。

 

「うん。だって知らない子だからそんなの疲れるだけだよ。……それに、向こうは単に自分のやりたいことを頑張ってただけのつもりなんだし、謝罪させても本心じゃ何とも思えてない。オレの身体もぴんぴんしてるし尚更ね」

「公園なんかでオーバーヘッド練習すんな、っての自体が頭から抜けてる、ってか」

「そうそう」

 

 ふふっとヒロが笑って缶ビールを口に傾けている。

 

「もしかしたらオレの知らないところでお母さんにシメられてるかもしれないしね」

 

 それが査問会だったのかもしれない。

 

「そういう夢も見て、思ったんだ。自分が一生をかける気で挑んだことにかぎって、下らない横槍で頓挫する、そんなことって残念だけどそう珍しくもないんだよね。……特にこの都心では」

「……犯罪、か……」

 

 風見がぽつりと言った。

 

「そう。下らない感情やばかみたいな理由で、毎日毎日人々が理不尽に何かを奪われている。時には命すら、ね。幸いなことにオレは命までは奪われなかった。だから……これからもその理不尽に立ち向かうお巡りさんでいたい。今は、そうしていられそうなのが、ただただ嬉しいんだ」

 

 僕は思わず彼の首に腕を回してすがりつく。……僕も結構酔ってるんだからな。

 

「っわ、ゼロッ、あ、透、こぼれるだろっ」

 

 そんなのあとで片付けるから。

 

「……あんなメール送ってきやがって」

「……ッ」

「逃げ場はもうあの世しかないようだ? じゃあな?」

 

 僕が。そして必死に引き留めようとした汀もきっと。

 いったいどれだけ恐ろしかったことか。

 

「いくらこれまで逃げ切れた奴がいないからって、隠れてろって言うのを振り切ってまで死のうとするな……ッ」

 

 ヒロが、息を詰まらせている。

 

「……オイオイ……」

 

 松田の声がまるで地の底から響くようだ。

 

「こいつ自分のスマホごと心臓撃ち抜こうとしてたらしい」

「……ッ、ゼ」

「らしい?」

「あぁ。とめたのは木暮だ」

「……まァたアイツか……」

「や、ちが、いや、違わないんだけど、あれは」

「周りを守りたかったら生きて守り続けよう。……ともに。皆で」

「……ぅ……あぁ……っ」

 

 頷いてそして、ヒロは静かに泣き始めた。風見は既にべしょべしょに泣いている。かたや松田はパーツが小さすぎて最早粉々になっていたスマホをきっちり組み直していた。

 

 僕も泣いていたのかもしれない。

 

 気づいたら起き上がっていた萩原と班長も交えてまた皆で飲み始めて。

 

 

 

 翌朝起きたら酷いことになっていた。

 なんで皆半裸なんだよ。まずいな覚えてない。エアコンのおかげで皆冷えてなさそうだからまだいいが。

 これだから鍛えてるやつ(※運動部には上を脱いで走り込みをする男性がままいる)しかいない集団は。

 そんな肉々しい死屍累々に檄を飛ばす。

 

「おい起きろ皆! まず風呂だ、酒臭いままで出勤はさせないからな」

「んん〜……」

 

 もそもそと起き上がる面々に僕は吹き出す。

 

「酷い顔しかいない」

「鏡を見ろ」

 

 そして、姿見の前で阿鼻叫喚が始まる。

 

「だぁああれだ俺の眉班長並にしやがったヤツはよォ……あと頬の傷が安っぽい、子供のら……いや、ガキの落書きそのものだな……」

「オレまつ毛すごい上にヒゲも増えてるんだけど」

「なにこのキスマーク。野郎にたくさんかかれても嬉しくない。あと誰かまつ毛すごいの趣味なの?」

「俺のこれは眼鏡のつもりか……? ハナマルとかほんとガキだなあ。ナタリーLOVEってかいたやつは事実ではあるが出てこい」

「……なあ、クマがめちゃめちゃ強調されたビジュアル系みたいになってるんだが。なんなんだこのクオリティ? ……おい誰か木暮が置いてったドレッサーあさっただろ」

「じ、自分のパンダメイク気合入りすぎてて落とすのもったいないんですけど……頬に竹や笹まで……ッ」

「いやその顔で登庁できないから。落としてくれ」

「ねー湯日川ちゃんこういうの得意だったよねぇ?」

「お、オレぇ!? 人の顔に何かかく趣味無いよ、教場旗かいたからって人聞きの悪いこと言うなよ〜!?」

 

 ヒロがあわあわとなっている後ろでくすくすと笑っている声がする。

 

「わ、綿引」

 

 こんな顔見られたくなかった。

 ……せめて汀はまだ起きてこないでくれ。

 

「おはようみんな」

 

 パジャマの綿引がにかっと笑う。一同どもりながらも挨拶を返す。

 

「み、未成年の笑顔で成仏させられそう」

「すまんなこんなおっさんどもで……」

「俺先入るわ」

「あっ待てずりーぞ陣平ちゃん!」

「うっせー早い者勝ちだ」

「化粧落としは濡れる前に使えよ。オイルみたいなやつだ」

「よく知ってるね。けどそれで落ちるの?」

「落ちなかったらあとは力だ」

「力」

 

 綿引が吹き出す。

 

「やっぱ皆たのしー人だね。皆で会えてよかったよ」

 

 皆『に』ではなく『で』なのは。

 

 うん、そうだな。

 

 だけどな?

 

「なぁ洗面台で顔だけでも先に落とそ?」

「なに話してもまともに受け取れねえ……」

「オイ待て開けるなまだ脱いでるとちゅ」

「別にいいだろ〜? 減るもんじゃないし」

「バカか!?」

 

 松田が浴室に慌てて飛び込んだであろう扉の音がした。まあもともと上裸だったしすぐ脱げただろう(遠い目)。

 くすくす笑い続ける綿引にますます居心地の悪いおっさんども。

 

「だから飲み会の雰囲気って大好きなんだ」

「へっ!?」

 

 綿引、飲めない年だからって楽しみ方を別のところに向けてないか?

 

「馬鹿騒ぎってたのしーじゃん。早くおれも飲めるようになりたい」

「だめだよ綿引くん、こーゆーの見習わないでね……」

「場合によってだね!」

 

 にこにこ笑う君の将来が心配だ。やはり飲むときは帰らせたほうがいいのかもしれない……?

 

 そんなこんなで、ささやか(・・・・)な酒宴は幕を閉じた。




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アンケートご回答ありがとうございます!
めちゃめちゃほっとしました、お付き合い下さる皆様、貴重なお時間をこちらに使って下さって本当にありがとうございますm( _ _ )m
このまま「長いよ!」ってかたがたくさん増えない限り、現状〜ちょっと長めを目指して参ります(ㅅ´ ˘ `)

転生者
 同期の皆さんが一緒にいるところをいつまでも見ていたい。でもソファは許されなかった。
『ひよこちゃん』に関してはFF14の某ジョブで某キャラから主人公が呼ばれるもので、ふと頭に浮かんでしまったらしい。
 今は『秋本さん』を忘れるのに手一杯。加えて前世の最推しに迫られてる状況に大混乱してる。嫌じゃないことについて、前世に引きずられてる……? 現実のこの今の目の前の『諸伏さん』をちゃんと見れてる……? と不安。
 隠れ家(セーフハウス)のリビングにドレッサー置いたのは諸伏さんも変装に使えたらと思ってのこと。こたび悪戯(HQ(ハイクオリティ))に使われたが、扱いは丁寧だった模様。
 大勢座れてるテーブルは「皆で集まれたらいいなあ」という彼女の願望のもとに購入された。家具業者が、運んできたものを「他にもたくさん運んでもらっていますので」とか言ってにこにこと取り上げられて呆然としたとかなんとか。プチゴリラ。

降谷さん
 改めて、諸伏さんが生きていて嬉しいし、みんなにも会えて嬉しい。
 ヒロみたいに真正面から汀が好きだってぶつかるような人間がいれば彼女の自己評価の低さはどうにかなってくれるんじゃないか? と応援してる。
 仕事でロミトラ仕掛けた立場から転生者に想いを向けたら潜入捜査官失格だと思ってる。今後も仕事が第一と思ってる。頑固。
 萩原さんも転生者が好きなのには気づいてない。女性みんなに優しいからなと思ってる。日頃の行い。
 萩原さんと伊達さんは寝かけていたところ、風見さんが話し始めた内容が内容で聞き耳をたてはじめた、というのを察知し、諸伏さんの所業をはっきり皆に密告した。もうこんなことするなよ。
 実は皆上裸だった元凶。諸伏さんに、本当に胸とか頭とかに穴開いてないよな??? と人形のこともあり確認したがる。
 そのうち全員名誉の負傷話をさせられ始めるが一番傷痕が酷かったのは萩原さんで、皆びっくり。爆発のせいなので少し転生者の無茶についても話にあがったのち、謎の筋肉の見せ合いが始まる。皆良い感じに仕上がってるなんて盛り上がってしまった。あつくるしい。
 へろへろと床に転がる人間が現れ始め、誰かによって落書きが行われ出すと、おもむろにメイクボックスを持ち出し、何故か伊達さんに眼鏡をかこうとして途中で寝落ちした。
 脱いだ原因を始め酔ってて皆いっさい覚えてない。

諸伏さん
 萩原さんの転生者への想いに気づいてないのは降谷さんに同じく。
 彼女はかなり攻めないと理解しないと察しているためとっても攻めに出てる。
 スパイバレ直後は裏切りを知って怒りに燃えたりもしていたが、日を追うごとに情報が集まってくるのと反比例して胸中は平坦になっていった。そんな時に砂場の夢を見て、案外こんなものなのかもなと思った(思わないで)。
 風見さんがめちゃくちゃ悔しがってくれて心があたたかくなった。この人かわいいかもしれないと思い始めている。風見さんをパンダにしたのはこの人。でも酔ってて覚えてない。

風見さん
 降谷さんのご友人がた限定人見知りが発動していた。ハイパーハイスペック上司のご友人たちはやはり皆ゴリラだった。皆で真のゴリラを捕まえようと連携したのは楽しかった。
 事前に「安室と呼ぶように」と練習させられたので「ふ……安室さん」とはならない模様。他の皆もさくっと覚えてしれっと偽名で呼び合い続けるものだから実は気が抜けなかった。
 降谷さんにクマをかいたのはこの人。自分には窘めてくるけどご自身はちゃんと休んでますかの意。でも酔ってて覚えてない。

松田さん
 公安だって知ったから、そしてそれなのに無理を通して(ある意味無理を利用して)繋ぎを作ってくれているのを知っているから、突っ込みたいけど突っ込めない。怒鳴ってやりたいけどできない。そんな時は分解と再構築で発散することにした。あまりにひどいと他人のものも分解し始めるかもしれない。酔ってても完璧にこなすからそこは安心(何も安心できない)。
 萩原さんのほっぺに赤マジックでキスマークいっぱいかいてやった。お前も強気になれよ全く肝心な時にはと思ってる。ついでに伊達さんのほっぺにもハナマルかいた。諸伏さんのほっぺにもまるかいて明るくしてやった。元気出せよ。降谷さんのクマがすごいことになってたので目尻に赤をひいて少し顔色を良くしてあげた。でも酔ってて覚えてない。彼のこの赤が一番落ちづらくてやられた面々は悲鳴をあげる。
「油性じゃねーか!」

萩原さん
 伊達さんのほっぺに濃いめのルージュでナタリーLOVEってかいた犯人。男前な眉いいよなぁと思って松田さんの眉を太くした。地味に伊達さんに似せられるよう見比べながら頑張った。降谷さんの目元だけすごいことになってたのでそれに合うように全面的にかっこよくメイクしてあげた。このメイクボックスどこから来たの? あぁあのドレッサーだろうなぁ。きちんと片付けた。でも酔ってたので覚えてない。

伊達さん
 自分含め皆まつげバシバシにした。諸伏さんにはついでにヒゲを増やした。でも酔ってたからなぜ自分がそんなことに走ったのかからして何も覚えてない。

綿引くん
 歩くのだるかったのもあるけど、楽しい場からって去りがたいでしょ。
 朝方ガヤガヤしてたから起き出したら想像もしなかったカオスに大笑い。
 ににちゃんがこの人たちにずっと一緒にいてほしいって言ってたのもわかった気がしたよ。
 帰らなくてよかったってにこにこ。(見習うのはやめようね?)
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