メイちゃんは相変わらず見つからないし、帰って来ない。
不安にさせたくなかったけど背に腹は替えられなくて、七海さんにもメイちゃんを見かけてないか聞いてみたけど駄目で、あの海の家にも来てないそうで、新宿御苑で聞き込みをしても成果はなくて、
彼女の性格的に無言でいなくなったりするはずがありません。
だから、記憶が戻ってしまったとか、あの黒いバンの連中に連れ去られたとか、どうしても悪いことが起きてそうに思ってしまう。
ハロー探偵事務所の皆にも焦りが見え始めていた。
片や、ミードによってもたらされた情報が、組織壊滅作戦の進行を緩やかにではあれ更に後押ししてくれました。
私はメイちゃん探しの傍ら、ミードがくれた情報であるパンドラを欲する団体についてを少し辿っていました。
怪盗キッドにかかわってるほうについてはもちろん篠川さんがよくご存知だったから、もう一方についてです。こちらに関しては、ミードから得た情報以外何一つ存在を示すものが無かった。
こんな時に別の怪し気な組織について探っていたのは愚かではあったのでしょう。
しかし言い訳をするなら、ミードがもたらした情報の信憑性を証明する必要がありました。
ミードからあのパンドラが関わるモノとして示された時点で、それが真実か探ろうとすればある程度深く進まなきゃいけなかったわけで……それでもまだ浅い所で済ませようとしていたのに、本当に偶然、幹部と鉢合わせてしまった。
そこにいないでほしかったメイちゃんが居た。ぎょっとした私はすぐさま結城さんにGPS情報を送った。
幹部の人物像にどこか既視感を憶えてはいたのだけど……これでこの『研究機関』が&0のラスボス的集団である可能性が確定してしまった。
「ッ、メイちゃん!!!」
彼女と、そしてもう一人金髪の女性が、二人して何の表情も浮かべずに四方八方から打撃を浴びせかけてくる。
跳ね上げるようにして、上から叩きつけるようにして、横から薙ぐようにして、斜めに袈裟斬りでもするようにして──。
それらを受け、凌ぎ、逸らして、避けて、私は叫ぶ。
「メイちゃん、聞いて! 思い出して!! あなたはこんなところでこんなふうにしてるような人じゃない!!!!」
ハッと鼻を鳴らしたのはメイちゃんたちの後ろで高みの見物を決め込む、白髪交じりのスーツの男。
──鷲尾大。
表でも裏でも少しも染み出すことのなかった、遥か昔から連綿と続いて来た『研究機関』のまとめ役。組織名を『赤の明星』と言う。
そしてその幹部等に渡されるという宝飾品──地位によって物が変わるようです。メイちゃんが持っていたあのペンダントはその内の一種だった──に施された小さな赤い石は、パンドラの赤に焦がれるが故のものだった。嫌な予感は当たってしまった。
こうなればメイちゃんは、『明星の愛し子』として創られた命の中の一人、ということになる。──きっと、もう一人のこの金髪の女性も。
カルトな宗教団体じみた教えを注がれ、パンドラをどこまでも追い求め何者にも譲らないために鍛え上げられた存在。
……そこかしこで、人形とか、兵器とか、勝手な記され方をして。
奥歯を噛み砕く勢いで口を引き結ぶ。
何で彼女がそうなんだ。
彼女のどこがそうだっていうんだ。
命を、個人を、何故こうも踏みにじることができる。
兵器。人形。
──過去私が私に当てていたこともある名詞。
こんな力がある私は兵器だ。その考えは今もあまり変わらない。
人間ではなくゲームのキャラクターではないかと、誰かに操作されて動くものではないかと──その考えはもう、どうでもよくなったけれど。
私が人間じゃないとはもう言わないけど、それでも無から武器を出せてしまう私が兵器であるのは譲らないし、だからこそここに立っているのでもある。
……メイちゃんは、私とは違う。
ちゃんと人間だ。人間らしい『人間』以外にない。
たとえその生み出されかたに他の誰かと違いがあったって、育てられかたが歪んでいた時期があったって、彼女が彼女であるのは何も変わらない。
想いも、意思も、声も、生きかたも、生きてきた道も、それを歩いた足も、全部メイちゃんという『人間』を作ってきた、他の人間と何一つ変わらない構成要素。
「──七篠!!!」
東海林さんの声がした。
そして駆けてきた黄色と赤色と紺色がメイちゃんを押さえようと手を伸ばしたところで──。
「帰りなさい」
その声は大きくもないのに嫌に響いた。
今の今まで私と打ち合っていたメイちゃんがとんっと後ろに跳んで退がっていく。
「ッ、だめ!!! 戻って、メイちゃん!!!」
また、鷲尾がハッと鼻を鳴らす。
「名無しの名か? くだらない音で呼んでくれるな」
「ッ!」
それは、彼女が本当の名を思い出した時のために仮で付けられたものなだけだ。だから、名字と名前が揃えば誰もが首を傾げそうなのは、敢えてのことなのに。
何も、知らない癖に。
『メイちゃん』を知る全員がギロリと鷲尾を睨めつける。
「カンナも来なさい」
鷲尾がそう言うと金髪の女性も退がった。
攻撃の手がなくなったことで私は彼らに追いすがろうとしたけれど、黒いバンが無駄にタイミング良く彼らの後ろについて、三人はあっという間にそれに乗り込み走り去ってしまった。
私は走った勢いのまま地面に腕を叩きつけて蹲る。
「ちょっと、木暮さん!?」
東海林さんが私の二の腕を引いて立たせた。
……今更じんとした痛みが拳と一の腕を覆う。
「あんたの力で思いっきりアスファルトなんか叩いたら……下手したら折れてる。雪原先生のとこ行こ」
そう言って腕を引いたままゆっくり歩きだす彼に大人しく従うしかできない。
「……くやしいです」
情けないほど小さい声しか出なかった。
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お酒の組織で末端の幹部にまで逮捕者が出始めた頃、組織と癒着していた個人や団体も更にひとつまたひとつと陰から潰されていき──ほんと、叩けば叩くだけいくらでも埃が出てくるものですね。
どれだけ巨大な犯罪シンジケートなのかが分かろうというものです。
髪色以外元に戻った工藤君は今は『シャーリー・平井』と名乗っています。そして、高身長だし成年と言い張れないこともないのをいいことに、探偵として活動し始めました。その傍ら一応と大検を取ろうとしています。……本当だったら今年彼は高校三年生だった。
それで、組織の強大さもあって壊滅までには時間がかかるとみて、いつ高校に復帰できるか分からないと判断してる。でもせめて大学は工藤君として蘭さんと同じ学年として過ごしたい。そのためだそう。健気です。
……初め工藤君は『平井
平井は江戸川乱歩の本名から。そして明治時代に日本で出版された翻訳本『不思議の探偵』において、ホームズが『小室泰六』となっていたからです。
だけど今時ちょっと古風すぎるかもとストップを掛けました。
シャーリーはホームズの名『シャーロック』の愛称のひとつです。幼子用みたいだけど、これはこれで、江戸川君な頃にシンガポールで名乗った『アーサー・平井』と並べて違和感ないのかも。
実際シンガポール出身でアーサー君という弟がいる設定にしてあって、あの時のように肌の色を濃い目にしてる。阿笠博士作の日焼けサロンみたいな装置で調整を頑張ってるみたいです。
プラス、コナン君の時と違って楕円に近いオーバル型の眼鏡をかけて、いつも帽子を被ってる。
髪と肌の色が違うとはいえ、メディアに出た時に先代キッドキラーに似てるとなっても困るからね。
とはいえ当然ですがキッドには色々とバレバレのようです。まあそれは工藤君の意図するところで、キッドに引き続き煙たがられるためみたい。
毛利探偵たちにもこれまで同様彼が工藤君なんだってことは伝えられてる。
あと、少年探偵団の皆とは阿笠博士のとこに寄った時に鉢合わせちゃったみたいですね。
また、彼は組織による被害者という当事者であり、情報提供者でもあるために、対策本部にとっては異例の探偵として平井君の姿で参加しています。
彼がいてくれることで彼の周り(つまり組織の存在を知った上で工藤君の帰還を受け入れた皆。幾人かは正式に公安の協力者になって下さってる)も惜しみなく協力して下さるものだから、潰滅作戦は更に力強く進行していった。
じわじわと手足を捥がれている烏丸氏はさすがに異変を察知しているようだったけれど、相変わらずRUMによる暗殺半遂が続いていて、次の影武者を用意するのもままならなくなってきてて、そして降谷さんは敢えてRUMを泳がせて烏丸氏には少しずつしか情報を上げず、という日々が続いている。
それでも烏丸氏がバーボンの責任を問わないのは、本当に他に事態を漏らしたくないからなのでしょう。こうまで組織が縮小していては、派閥で割れてしまえばもう、ちょっと戦闘力高すぎる不良グループ、くらいのものに成り下がってしまう。
私のほうも、少しずつ薬の開発状況についてを、完成してないふうに多少歪めつつお伝えしながら、素材やマウスちゃんや機材等々について相変わらず烏丸氏にたくさん援助してもらい続けており、それらはミードとベルモットの解毒法のために使っているという日々です。
そんな中併せて、『赤の明星』と『パンドラ』について両者をぶつけるための誘導も続いていた。
何せミードのおかげでその在処も含めてパンドラ自体の情報がこちらにはあるのです。
もちろん篠川さんにも共有しました。彼は只不敵に微笑んでいた。
そして様々な準備が整って、お酒の組織がもう、名の知れた幹部と多少の舎弟たちに末端構成員が少々、といった淋しい状況に陥った頃。
RUMが失踪した。
いや、彼は同じ組織の人間それも、有力幹部にさえ徹底的に己の存在を隠し続けていたのだから、音沙汰がなかろうと何かの機をうかがっているか表の仕事に追われているかだと想定できなくもないのだろうけど、そう判断したのが降谷さんとなれば話は違ってくる。
降谷さんは烏丸氏に伝えないながらもRUMの暗殺行為について色々掴んでたくらいですから、それを狙っての諸々の動きがぱったり静まったとなれば、失踪の可能性のほうが高くなる。
降谷さんはRUMの失踪については烏丸氏にきちんと報告したようです。
すると烏丸氏は肩の荷が下りたと少し安心した様子を見せたそう。内部分裂が起きることなく脅威が去ったことになるからでしょうか。
しかしバーボンが彼らの護衛を解かれることはなかった。ボスのお気に入り状態になってしまった。
ジンはちょっと嫉妬しつつも自分と同格として見ているみたいだった。何だかすごい事態だ。
そして。
今は、世界的合同対策本部がしっかり協力し合いながら同じ落としどころを目指して邁進している。
RUMは秘密裏に世界中で手配され、降谷さんの得た様々な情報が加味された捜査の手によって、潜伏していたピンガとRUMは捕えられることとなった。彼らが逃げ込んでいたのは中米のとある治安の悪い都市でした。
元々はそこに組織の手は伸びてなくて、対策本部にもその国の機関は参加していません。だからこそそこを拠点に選んだのでしょう。
一番近いアメリカ勢が頑張って下さったようです。
その情報ももちろん降谷さんは烏丸氏に伝えて──ひとつ片付いたためか、烏丸氏は私にしばしば薬の完成を催促するようになった。
とはいえ、メスカルが早い内に既に逮捕されていて(諸伏さんが彼女の手下を捕えて以来どんどん情報を得ていたのもありますし、志保さんに関する諸々の所業を問うことでなんとか逮捕状を得られたようです)、薬を作れるような人間が本当に私しかいないから、首輪を作動させる気はない、というか、むしろ斬首するわけにはいかないようでした。
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そろそろ、と次の行動に移ろうとしていた時、怪盗キッドが予告状を
-『紅き月が満ちる時、
赤眼の八咫烏が黒き血潮を注ぐ
呪われた宝石を戴きに参ります。
怪盗キッド(
キッドの予告は世間一般で一大イベントと化しているとはいえ、警察庁は警察庁です。即公開とはならなかったよう。わざわざこんなところに届けられた意味が分からないですものね。
そして上は、『黒』と『烏』がチラつくこの内容に目をつけたらしく、世間に公表しないまま我々の対策本部に回してきました。
そこで緊急会議が開かれることとなった。
これじゃ、この本部にとって一部を掠める程度のものなのに、ここで説明するしかないじゃないですか。
篠川さんが挙手し、ここに示された宝石がまさにこのお酒の組織が所有するもので、つい最近それの管理者との司法取引が終わったことを告げた。『不老不死』云々は迷信と言い切った。しかし迷信でも強烈に追い求める者が存在するのが確かと思えるものです。
どよめく会議室。多分また日本警察への認識が上向いた。……Oh,NINJAとかSAMURAIとかって呟いた奴出て来なさい。……侍関係ある?
スクリーンに映し出されたのはミードが提供してくれたパンドラの写真。彼女は遠慮なく壊して、って笑ってた。
丁寧なことに金属スケールを横に置いてくれてて、一目でビッグジュエルだと分かる。
ラウンドブリリアントカットを施された真っ黒なそれは、所々からダイヤに似た虹色の輝きを放っていた。黒いのに内部で反射が起こってるんだと思うけど、理屈は分からない。所々小さく欠けてるのは、例の薬の研究のために採取された痕なのかもしれないね。
そしてもう一枚。
月の光に翳されたそれの内部にはどうみても、赤い別の宝石が存在した。真っ黒に見えるけどちゃんと光を通すような透明度があるんだなこれ……本当、不思議な石だ。
それを踏まえて、ミード確保に関わった私が補完して続ける。
これを狙う組織が二つ存在すること。
それらを簡単に紹介します。
そして更に平井君が引き継いだ。江戸川君が居ない今、彼は二代目キッドキラーでもありますからね。
怪盗キッドは、その一方が手中にするより前にこの宝石を破壊することが目的と思わしきこと。
理由はキッドが尊敬していた黒羽盗一がその組織により殺害されたからだと明かす。
再びどよめく会議室。
1412号も黒羽盗一も世界的に名が知れている。しかも共通するのがマジックだ。
極めつけに、復活して以降のキッドはもうほぼほぼビッグジュエルしか狙わなくなっていた。
果ては、「目当ての物ではなかった」と持ち主に返す始末。
平井君の発言が本当であれば、その「目当て」とは何だったのかが明かされたことになる。そして前述のキッドの不可思議な行動にも説明がつくことにもなる。
当代キッドと盗一さんの関係が言葉足らずである以外は、ほんとに全部本当のことだけれど。
そして次に、風見さんが説明を引き継ぐ。
『黒羽盗一』の殺害事件については『パンドラ』を名乗る犯罪組織によるもので、公安が秘匿したために事故死扱いとなっている。
嘘のような本当の話。
……実は生きてる上にこの場に居るのはもちろん内緒です。
彼が暗殺された理由についてはパンドラに関する何らかの情報を掴んでしまったため、となっている。
まあ嘘とも言い切れない、と思う(遠い目)。暗殺は宝石を狙うなっていうのを無視したせい、みたいだし。
そして風見さんは更に続ける。
これまで公安が秘密裏に追っていた『赤の明星』という研究機関もパンドラを狙っており、既に動き出していること。
……公安も追えてなかったみたいですけどね(そこは嘘も方便!)。こちらは人道に悖る実験まで行っているという情報があること。
そして、『パンドラ』も『赤の明星』も相当の戦力を保持していること。
そのため両者をぶつからせて戦力を削ぐ意図で(各国ざわついた。日本がそんなこともすると思ってなかったみたい)パンドラの所在を薄っすらと匂わせた所、真っ先に飛びついて来たのがなんとそのどちらでもなく怪盗キッドであったようだ、というのを明かす。
しかもこの警察庁に予告状を出してきたあたり、キッドがここに何らかの関与を疑っているのは必至です。
「恐らく1412号は『パンドラ』と『赤の明星』が衝突する気配を察知し、そして、宝石の所有者である烏丸グループを独自に追い、昨今世界で烏丸グループと関わりがあったとみられる団体等の摘発が続いていることと、最近出入りの激しい警察庁を結び付けて、鎌を掛けているとみられます」
静かに重苦しくなる空気。
これだけの人間が何十年も掛けて追う組織に関して、怪盗キッドが短期間である程度情報を掴んだというその可能性は、1412号の恐ろしさと同時に、尊敬した人物のためにそこまでした彼の人情を強く感じさせられて、戦慄するしかない。
しかし実はこれらの情報の流れに関しては多少公安が仕向けた部分もある。
当代怪盗キッドは、只情報を与えられるだけでは逆に興味を失くす可能性がある。だから回りくどく示すに留まった。
彼にとっては自身の手で掴まなければ意味がないのです。何せ怪盗ですもの。
キッドにだけ掴めそうなところにそれとなくお酒の組織の情報を仕込み続けてきた。怪しまれないようゆっくりと、そこかしこで、です。
そしてこの予告状が警察庁に届くに至った、という訳ですね。
当代怪盗キッドをこれに噛ませようと言ったのは私です。『赤の明星』と『パンドラ』と『怪盗1412号』の三つ巴になれば、彼は大いに場を混乱させてくれるはずだ。
……というのは建前で、私個人は彼がキッドをやってる理由を知ってるから、蚊帳の外にしたくなかっただけなんですけどね。
まあそれで現在に復活したのは二代目で、篠川さん自身は今はキッドじゃないといつメンに知られてしまって、彼は苦笑いしてたけど。もともと、警察と司法取引が成立してるのに怪盗を続けてたという可能性は、少し低いと思うのですけどね。
そしてこの対策本部で明かす気はないけれど、新宿署の皆とハロー探偵事務所の皆にも動いてもらう手筈です。
何せメイちゃんがいるのですから。
なので、その予告状はむしろ『パンドラ』と『赤の明星』を引きずり出すために公開するべきものだと提示します。
お酒の組織の対策本部としてはほぼ関係のない──むしろ目の上のたんこぶなそれは、すんなりと許可され、予告状は日本警察の手に委ねられることとなりました。
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『
どこのどんな宝石なのかが全くの謎という今までになかった事態に、逆に報道は加熱して、有識者が場所の特定を目指すような番組コーナーが増えてった。
『紅き月が満ちる時』がこのところ世間が沸いてるブラッドムーンを指しているのだけは明白です。
その日この日本で赤い月が満ちる皆既月食は20時11分からの十五分間のみ。
それ以外がさっぱり分からない様子だけど、当然のことだと思う。
パンドラは世に知られていない宝石です。展示なんかもされたことがない。意味深長な暗喩で書かれたところで誰にも伝わるわけがなかった。
この点恐らく、キッドは警察庁が捜査二課に情報を渡すとは思っていなかったと思われます。
警察庁を宝石の在処を匂わせた総本山とみて、彼はこんな分かる者にしか分からないような文言にしたのでしょう。まあ在処を匂わせた我々は警察庁に関わってないわけではないけど……。
もしあの怪盗さんが予期せぬ公開に慌ててるとしたらちょっとくすっとしますが、彼なら物ともしてない気もする。
捜査二課への情報提供は平井君にお任せされた。
提供元は守秘義務があって明かせないと言う平井君に、中森警部はちょっと胡乱な目をしていたけど。
今回予告時間通りにキッドにパンドラを盗まれてしまうのはたいへんよろしくありません。
そんなことになればキッド一人が『パンドラ』と『赤の明星』の両方から追われることになる。
月に翳して本当に赤いものが内包されているのを確認出来たら、キッドはその時点で破壊するでしょう。
そうするとキッドは更に両者の凄絶な恨みを買うことになる。
ぼんやりと在処を匂わせたとはいえ、それがどういう警備体制にあるかとか詳しい情報はどこにも漏らしていません。
石を狙う者皆に先を争って探させ、その裏で警察側がひそかに制圧していくという計画は、果たして成功するのでしょうか。
キッドが指定した時間には十五分しか猶予がない。
彼はそんな間に盗んで逃げ果せる自信があるのだろうか。
「……絡繰り屋敷、だとォ……?」
中森警部がとっても嫌そうに表情を歪めています。
多分、公安事件だからとして所在地は明かさずに伝えてるのも、そして悩んでるところに横から正解が提供されたのも、その表情に一躍買ってる。
そう。パンドラが厳重にしまわれているのは、様々なギミックの施された古い洋館です。ミードも知らないようなはるか昔、烏丸氏が郊外の山一つをその館を作るために買い取ったものらしい。
工学系に明るく、その管理を引き継ぐことになったミードは、四十数年怠ることなくメンテナンスを行って来たのだそうです。
お陰で、先に進むための
彼女はその全ての詳細を私たちに預けてくれたんだけど、マジもんに凶悪です。命に係わるものがたっくさん。
それだけ必死に隠してきただろうことと、辿り着けた者はいないだろうことがよく分かった。パンドラに関する話がおとぎ話としてさえ世に出回っていないのも頷けるというものです。
となると『パンドラ』や『赤の明星』がどこから情報を得たのかが気になるところではありますが、今は考えたって分かりそうもない。
罠のヤバさを図面で目の当たりにした中森警部は、いつものように一般人がギャラリーとして押し寄せることの危険性を早々に理解して下さったみたい。念のためと屋敷の位置は警部たちにも当日までお伝えせず、公安がその屋敷に先導する形をとると言っても今度は嫌な顔をなさいませんでした。
マスコミにはどこから漏れるかわからないですからね。
とにかく、謎を解いたら解除されるものはまだいいんですが、気付きづらいものを踏んだらとか押したら等々で起動するトラップは避けるのタイヘンすぎるのでは……?
複合ギミック、恐ろしや。
もちろんトラップなら私は解除できる。でもギミックは無理です。発動すれば害がもたらされるような罠は消せますが、然るべき手順を踏めば扉が開きますよ、みたいなのは消せません。
ギミック解除失敗でトラップが発動するようなら、罠のほうだけは解除できます。失敗しても何も起こらなくなるだけです。
我々は、『パンドラ』の構成員と『赤の明星』の戦闘員をある程度それらに引っ掛からせる腹積もりです。だから丸ごと消しちゃいけない。
《 呪印解除 》はワンフロア丸ごとの罠を消し去るものです。命に危険がある罠だけを選別して解除する、みたいなことができない。
自分でもそれに思うところがかなりあるけど、そうしないとこちらの手数が足りない。
犯罪組織とそして命を弄ぶ研究者といっても、こんな物騒な屋敷の中に人間を突入させるのだから、私は仕掛けを覚えて少しでも彼らの命を拾えるようあとについて進入します。ギミックもトラップも全て頭の中に叩き込みました。
ゾロ目の皆も同じく全部覚えてご一緒して下さるみたいです。頼もしや。
中森警部たちには、ミードが使っていた管理者用通路で、最奥で眠るパンドラの下へ直行していただきます。
その通路は警察が入った後で潰す。安全に入れるここは、絶対に侵入者に使われる訳にはいかないからです。
警察の皆さんがお帰りになる時には、私が《 呪印解除 》で全部消滅させますので問題ありません。
……まあその時には私の首にある凶器までなくなっちゃうんですけど、消滅の通知が烏丸氏に届くようなシステムじゃないことを祈ります。今の進捗状況を鑑みれば、もう首元の隠れる服しか着なければ良い、はず。
キッド案件とはいえ、今回ばかりはもともとの仕掛けがものすごくヤバいので次郎吉さんはお休みです。
「俺も罠全部覚えて突入します」
にこっと圧のある笑顔で返されたので何も言えませんでした。
彼も諸伏さんたちや毛利探偵たちの手によってめちゃめちゃ鍛えられてますし、もう子供な姿じゃないから断りようがないのですよ!
頼もしい戦力でもあるけど。
キッドの予告状を公開する流れにしたのは『パンドラ』と『赤の明星』をつつくためではあったのだけど、ちょっと危惧してたキッドを出し抜くためにブラッドムーンより前にやって来るようなことはなかった。
警察と連携を取るわけでもなく屋敷の持ち主として名乗り出もしなかった烏丸氏が、こっそりと残る構成員をかき集めて防御を固めたせいなのかもしれない。
それでキッド登場の混乱に乗じたほうがまだ突破できると思ったのかもね。
ちなみに、屋敷の場所をキッドに知られてるのが明らかなわけですが、ミードが烏丸氏に咎められるようなことはなかったそう。
彼女は本来あまり外に出してもらえないみたいで、それで疑いようがなかったようでした。
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組織をじわじわと確実に追い詰めていく形をとっていますが、速攻かけて勢いで壊滅戦に持ち込むのと迷っていました。
どっちも書いてみたくて他に一個シリーズが生まれました。「https://syosetu.org/novel/346274/」です。気が向かれましたら是非。
&0はメイちゃんの出自について今やほぼ全部神のみぞ知るなのですが、パンドラに似たような赤い石に何か重要な意味があって、コナン世界にはみ出したここではパンドラがその位置に嵌まった、的な捏造を起こしました。
研究機関名やその設定等全て捏造です。
『カンナ』は作中で行方不明になった金髪の女性で、その髪をその親と思わしき人物が鷲尾に渡しております。そこからクローンが作られて戦闘を叩き込まれたという妄想です。多分成長促進剤や高速学習システムを開発済。
転生者
彼女が『お酒の組織』と呼ぶのは、赤井さんたちが工藤君に「君の言う黒ずくめの組織」という言いかたをなさるからです。特に名前はないからなのでしょう。
木暮の顔でFBIとCIAに深く関わっているため肩書は捜査一課の刑事だけど会議に出ない訳にいかない。実際の働きっぷりで資料作成や説明に適任なのもあって、これについては篠川さんも同じ。
メイちゃんのことは気がかりでたまらないけど日本のお巡りさんすごいでしょフフンしてる。
降谷さんと諸伏さん
潜入捜査官は姿を現す訳にいかないため、会議については資料作成等の裏方を担っている。ただ彼らなくしてこの場がないことは確か。
表に出ずとも正義のために突き進むのが彼らの矜持。
キュラソー
キュラソーが映画でベルモットに殺されそうになっていた理由について、彼女が知ってしまった『組織の秘密』っていうのが「ボスが烏丸氏であること、小さくなっていること、ベルモットがその娘であること」だったっていう設定でした。
これを教える前に転生者たちが脅されることになってたのにはちょっとおこ。
もっと汀と話させてくれてたら良かったのに。
ピンガ
最後まで暴れて抵抗して生け捕りにできるか分からないくらいだったが、そこは赤井さんが頑張った。
RUM
目の力が戻ってたらどうなったか分からないけど、もちろん転生者は彼に新薬を渡したりしてない。
烏丸氏
パンドラは彼の求めるものと少し違っていて、成長後なら使うことがあるかもしれない程度にしか思ってないから、転生者を手中にしてる今あまり重要視していない。
しかし自身の所有物に手を出されるのは面白くないので一応守りに出はした。徐々に組織が切り崩されてきているため、派遣された構成員もあまり深入りせず帰還するよう申し付けられている。
ジンにNOCの炙り出しを強化するよう命じてはいるけど今の所成果はないようだ。