皆で色々と調べたところ、この世界には今の所『及川
これが存在してくれてたら、単なる偶然の一致で片付けられる可能性があったのに。
僕たちは本当に本の中の世界に入ってしまったんだろうか。
また、一つ上な航兄が園でしおりを見かけた時にも、『ああ、あの子か』って分かったらしく、もう『
だけど彼女は精神性もまるっきりただの幼稚園児にしか見えないし、僕たちを見ても何かぴんとくるものはなさそうだから、きっと『前』の記憶はないんだろう。
けど、彼女が『汀』だろうとそうじゃなかろうと、『きちでんじしおり』が皆の言うような最期を迎えるのは受け入れがたいものがあるから、僕たちはそれぞれでできるだけのことをしようと動き始めた。
再び『倒産しないから』って理由で警察を目指してるらしい研兄が、以前から近くにあった空手道場に通ってたんだけど、皆して体力づくりのために次々に通いたがり始めた。警察官な父は「まさかみんな警察官目指すのか」と嬉しさ半分戸惑い半分な様子だった。
僕まで始めたら大変? とさすがに少し心配になって伺ってみたんだけど、両親だけじゃなく祖父母まで爆笑しはじめてしまった。子供が何を気にしてるのと。でも、だって五人ですよ?
祖父母が健在なおかげで、僕たちが通うのは預かり時間の短い幼稚園になってるんだと思う。しおりに会えたのもある意味祖父母のおかげなのかもしれないな。
家は畳が多くて、帰ったら祖父母が時代劇やワイドショーをテレビで見てて、おいでおいでと果物や和菓子をくれる。
ああしあわせだ。
あとやっぱり日本文化って素晴らしい。
こほん。
また、しおりは両親の名前をまだ言えなかった。おとうさん・おかあさん、以外で認識することがまだできないみたいだ。だから父親が『
これまでの園の行事にはしおりのとこはお母さんだけがみえてたんだけど、そうした時たまに僕や班長がしおりに話しかけてることがあるからか、僕と班長と我らが両親は『娘と仲良い子の』みたいな認識をしてもらえたみたいだった。
とはいえ、会話で彼女の父についてがふとあがったとして『旦那さん』『お父さん』等としか呼ばれてなくて、聞き耳を立てても意味はなかった。
今も『及川梗ノ佑』や『及川興信所』、『及川探偵事務所』、等は見つけられてない。
遠回りだろうけど、と、研兄が父さんに捜査に協力してる探偵にはどんな人がいるのか、なんて聞いてみたら、「それはドラマだけの話だよ」と意味深に笑われたそうだ。守秘義務とかがあるのかもしれない。
「……栞ちゃんの……あ、の……その、事件、の時に及川と吉田寺は会うんだ。だからまだ探偵じゃないってこともあり得るかも」
そう言うヒロ兄の顔色が悪い。あれからずっと青い気がする。体調を崩さないか心配だ。
「あるかもねえ……」
研兄が眉間にしわを刻んでいる。
今はここまでで手詰まりか、と思っていた矢先。
しおりと僕は偶然幼稚園バスの下車地点も同じ。年長組な班長……こほん、航兄より一足先に下校が始まっている。
いつもどおり幾人かの園児たちと共に降りると、迎えなんて必須じゃないのに珍しく、しかも父がいて、そしてもう一人知らない男性がいて、その男性に「おとうさん!」としおりが抱きついていって僕は目を丸くする。
この人が、彼女の……。
しおりはお母さんによく似てたけど、お父さんにはそんなに似てないみたいだ。
「おとうさん、れいくんだよ!」
突然彼女から思いっきり紹介されて僕は驚いてしまった。
「こ、こんにちは……! 桜井零仁、です……!」
謎の緊張感に襲われて、僕は思わずギクシャク挨拶をする。
ペコリとお辞儀をしたんだけど、何も返ってこなくてひやりとしながら恐る恐る顔を上げると……。
しおりのお父さんはぽかんとしていた。えっ、何でだ。
「……あ。ごめんな、あまりにもしっかり挨拶してくれたものだからびっくりしてしまって……れいくん、ってことは同じすみれ組さんだろう? すごいねえ、れいじ君」
しおりのお父さんは柔らかく笑ってそう言い、僕と目線を合わせるように少し腰を落としていた。
めちゃくちゃ優しそうな人だ。どことなく服装が『前』の白石さん──あの赤井の父だった御仁の偽名だ──に似ている。記者っぽいかも、と思ってしまった
ぽふんと一瞬、僕の肩に父の掌が置かれる。
「息子がいつもお世話になってます。桜井です」
にこにこ笑いながら父がしおりのお父さんに名刺を渡していた。まあ大人になったらそのほうが自己紹介としては手っ取り早いんだろうけど、僕はまたひやりとする。
しおりのお父さんはもしかしたら、警察が嫌いかもしれないのに。
「ああ、ご丁寧にありがとうございます。私は吉田寺といいます」
にこにこと交わされる名刺。そして。
「おお、警察官でいらっしゃいましたか」
「悠学館の編集者さんなんですね」
「ほんといつもうちの娘がありがとうございます。この子、家でずっとれいじ君の話ばかりするんです」
「そ、そんなにしてないよ!」
しおりがあわあわしている。
「ふふ、それはこちらこそ、ですね。いつも零と遊んでくれてありがとうね、しおりちゃん」
今度は父さんがしおりに目線を合わせようとしゃがむ。
「あ、ありがとうは、れいくん、です……」
もじもじしながら彼女はお父さんの脚の後ろに隠れてしまった。
……しかし、そんなに家でまで僕の話をしてくれてるのか。
僕の心臓が少し嫌な跳ね方をする。『前』の僕が彼女に近付いた時も、初めは──。
今は潜入なんかしてる訳じゃないのに、似たような状況になっていることに自嘲する。
……でも、彼女に理不尽な終わりなんかが襲ってほしくない。
彼女の命のためならなりふりなんて構うものか。いっそ『今』なら、彼女が応えてくれるようなら最後まで責任を持つよう選ぶことも辞さない。だからこそ、再び警察を目指すかを迷っているのではある。
カフェ店員もすごくやりがいがあって、楽しかったしなあ。今の僕には選択肢が無限にあるんだから。
話に合わせてにこにこしつつ内心ではこうぐるぐる考えてるうちに、皆歩き出してて、分かれ道でバイバイして──。
「おとうさん、きょうおやすみなの?」
「そうだよ。だから迎えに来たんだ、レアだぞー」
言いながら父さんは僕を軽々と抱え上げた。
「レア?」
僕はわからないふりをしてコテンと首をかしげる。
「うーん、少ないから貴ちょ……大切、かな? あとはほら」
父さんは僕を片手で支えてぴっと掌サイズ──僕にとっては顔くらいあるけど──のキャラクターものなチョコレート菓子を差し出してくる。
「自分であけられるか?」
「うん!」
僕は喜び勇んで開封して、いただきまーすとお菓子に齧り付く。
……『前』の僕は家族を早くに亡くしてしまって、こういうのはあまり多くは味わえなかった幸せだから、つい思いっきり享受しにいってしまう。実は大人だった経験もあるけど許してくれと、何も知らない父さんに甘える。
「中にシールも入ってるだろう?」
言われて、もぐもぐしながら確認する。
「うん、はいってる! ……なんか、きらきらしてる」
……多分『レア』を教えてくれようとしてるんだろうけど、ピンポイントに当てたってことか? 父さんすごいな……。
「ちょっとだけ見せて?」
言われて、父さんの顔の前にシールを掲げる。
「……うん、良かった。普通のシールは後ろは白いだけなんだよ。こうやってきらきらしてるのは珍しくて、強いキャラクターだったりする。こういうのも『レア』っていうよ」
「へえー! だい……そう、すい、はー、です?」
読み仮名が振られてるとはいえ、僕はまだすらすらは読めないことにしてる。
ふふ、と父が笑った。
「うん、本当にレア中のレアだね。敵なんだけど、とっても強いうちの一人だよ。……そうか、ギリシャ神の名前のキャラもいたかあ」
最後のは独り言みたいだった。
「てき……おとうさんがやっつけてくれる?」
子供らしいかはわからないけど、イタズラ心で無茶振りをしてみると、父さんは噴き出した。
「ぼくがかい?」
「うん、だっておとうさんはけいさつかんだから、せいぎのみかたでしょ?」
「ふふふ、そうだなあ、できるだけ頑張るよ、そいつ強いからなあ」
「が、がんばってね……!」
相手は神の名を冠するような
危険と隣り合わせな職業なことは分かってるから、いつも僕たちは無事を祈っています。
「チョコも、おいしい。おとうさんありがと」
上機嫌でお礼を言うと、父さんはクスっとわらって僕の頭をぽんぽんした。
「どういたしまして。ほんとに僕たちの息子たちは、いい子だなあ」
嬉しそうにそう言ってくれるのが、とってもこそばゆい。
ああそうだ。この状況、利用してみるか。
「……そうだ! おとうさんと、しおりちゃんのおとうさんの……シール? もみせて! レアー?」
「ん……? ああ、名刺か……」
ふっと父さんが笑った。
ほんの少しだけ間があったから、迷いはしたのだろうけど。無関係なのもあるし、当然だとは思う。
父さんはごそごそとポケットから名刺入れを取り出した。
写真のときも、「あの子たちはそんなことはしないよ」と信じてくれたから、見せてくれる可能性はあると思ったんだ。
「これは、どっちかといえばシールじゃなくて、『カード』かな。父さんのはともかく、栞ちゃんのお父さんのはレアだぞ。とっても有名な会社なんだ」
二枚とも差し出してくれたから、僕は慎重に丁寧にしっかり受け取った。急に風が吹くことも有りえないことじゃないし。
そして──。
僕は、父さんに見えなさそうなのをいいことに、苦笑いを浮かべる。
ここにきてそんな甘いことはないとは思っていたけど。
そこにはしっかりと『吉田寺啓寛』という名前が、読みがな付きでかかれていた。
ライターではなく編集だったけど、今後何か動きがあるのかもしれないな。
「きれいなもようがある……! だからレアってこと?」
出版社のロゴを見て、僕は無邪気にそう言ってみた。
父がふふ、と笑う。
「でも、おとうさんもレアでしょ! かっこいいもようあるし!」
ぼくはそう少し不満な声をあげる。
ふふふと笑う父が、僕が名刺を返すのを受け取りながら、また僕の頭をぽんぽんした。
「とうさん、かっこいいから、だいすき! ぜったいレアだよ」
きゅっと抱きつく。
……レアだ! 父さんが何と言おうとレアだからな!
「あはは、ぼくも可愛い零が大好きだよ」
僕は膨れた。
「ぼくはおとこのこだ! かわいくない!」
父さんが噴き出す。
「うん、でも、ぼくにとってはとても可愛いくてたまらないんだ。愛してるよ、零」
「……!」
……こそばゆくて、嬉しくて。
僕は増々父さんをぎゅっとする。
父さんはまたふふっと笑った。
……そういえば、吉田寺氏は父が警察官であることを知っても特に嫌悪感などは示さなかった。
感情を隠してるとか、誰彼構わず敵意を向けはしない誠実さなのかもしれないけれど。
確か……娘の事件の前にも、いくらたどり着いた真実を訴えても警察の腰が重かった、ということがあって、嫌悪感が増していったとかだったか。
その件がまだ起きてないのかもしれないな。
……色々と、皆に報告しないとな。
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報告したらヒロ兄がぼろぼろに泣き始めて僕たちはオロオロした。でも無理もないよな。……心が痛い。
「なんで……っ! なんで彼女が『栞ちゃん』にならなきゃいけないんだ……!」
僕たちが本の中に入ってしまったんだとしたら、そういうことになるんだろう。彼女が『前』で何かしたか? 僕たちを……だけじゃなく、たくさんの人の命を懸命に助けてくれたのが業だっていうのか? ……そのために『悪事』に手を染めさせてしまったこともありはするけど……こんなのは、とても受け入れられない。
本の筋書きなんて知るか。たとえ定められてるとしたってそんなの知るか。
彼女が事件に遭うとしたら高校の……恐らく二年生の頃になるらしい。僕たちは、特に僕はまだまだ未成年で頼りないだろうけど、どれだけだって努力して、彼女に痛ましい最後なんか迎えさせない。
聞けば、皆には僕たちみたいな登場人物は覚えがないらしい。そもそも存在しなかったか、もしくは物語中に描かれる必要のなかったモブといったところか。
なら、イレギュラーがイレギュラーなことしたって構わないだろう?
「ヒロ兄……僕たちで絶対に阻止するぞ。幸い父さんだって警察官なんだ、吉田寺さんだって、うまく説明できればきっと力を貸してくれる。動けるのはひよっこな僕たちだけじゃないんだ。……ほら、泣いてる暇、ないだろ? しっかりしろ」
叱咤の意味もあるけど、これ以上沈んでたら本当にヒロ兄は壊れてしまいそうだ。何とか気を強く持ってほしい。
ヒロ兄は、意を決したようにひとつ短く呼吸をして、ごしごしと涙を拭った。
「……ああ、そうだな……取り乱しすぎた……それに……『栞ちゃん』にも酷いな、まるでガワだけのキャラクター扱いだ」
ヒロ兄は自嘲の笑みを浮かべる。目が赤くて痛ましい。
「まあ、俺たちにはそう見えなくもない、からなあ……あんま気にすんな。あの子に悲惨な目に遭ってほしくないってのは……たとえ『櫛森』だろうとなかろうと、『前』に視聴した時からだしな。『助けたい』それに、理屈はいらねえ。そうだろ?」
そう言って航兄がヒロ兄の肩をぽふりとする。
ヒロ兄はくしゃりと目を細めて苦笑した。
「ああ……そうだな。ゼロから話聞いてる範囲だけでもめちゃくちゃいい子なんだ……罪もない子があんな悲惨な目に遭うなんて、許せない」
「ああ、めちゃくちゃ素直でふわふわしてて、陰で人気もありそうなんだぞ。皆にも……特にヒロ兄には直接会わせたい。絶対何がなんでも守りたくなるからな。庇護欲がそそられるっていうのはああいうタイプなんだと思う。実際会ってるのとないのとでは、気合が違うかもしれない」
まあ、なんだか怯えてるというか、遠慮してるような様子なのにこうして一番激しく感情を揺らしてる彼には、彼女への認識をきちんと定めるためにも会ったほうがいい気がする、っていうのが本音なんだけど。
ひく、とヒロ兄の肩が震えた気がした。
「めちゃくちゃ褒めるじゃねえか。『前』のお前は『櫛森』への当たりは結構強かった気がするが」
陣兄がなんだかニヤニヤしてて僕は眉間にしわを寄せた。
「デレ期かねえ〜」
研兄がにこにこしてる。こいつら……なんだかむっとするな……。本音を隠したのは悪手だったのかもしれない。
「『今』の彼女は覚えてないんだから、『前』のあいつを引きずって当てはめるのは理不尽だろう」
「ふふふ」
柔らかい微笑みがどことなく不快だなんて、研兄は器用なのかもしれないな(棒)。
陣兄のニヤニヤは素直に不快だ。
「まあ、またあのとんでもない道具使ってめちゃくちゃしだしたらげっそりするが……」
またハラハラさせられるのはごめんだ。
「……なあ」
ふと研兄が真剣な顔をした。
「そういや気になってたことがあるんだけど……『汀ちゃん』が使ってた、間取りとか爆弾の位置とかが分かっちゃうやつ……何か名前ついてたっけ」
「ああ……何かあった、と思う……」
……出てこない。
こんなに記憶力悪かっただろうか。
僕が眉間にしわを寄せていると、研兄が頭をぽんとしてきた。
「まだ思い出せないだけだろ、れいちゃんの頭まだこんな小さくて可愛いんだから。これからこれから」
……やっぱり研兄は、人の機微に敏いよな。
でもあっさり悟られたことに僕は口をへの字にして黙ってしまった。
にこにこして研兄は立ち上がった。
「ちょっと来て」
そう言って、研兄は勉強部屋に僕たちを導いた。
一昨年陣兄とヒロ兄も小学校にあがってるから、今は三人の机とか本棚とか色んなものが並んでる。
勉強部屋とはいっても、子供部屋と呼んでる部屋が別にあるから呼ぶには簡単でそう言ってるだけで、テレビとかゲーム機とかもある。……ほんと、こんなに豊かな環境をくれてる家族が暖かくてたまらない。
研兄はそのテレビとゲーム機をつけた。
「すごく人気でシリーズがずっと続いてるRPGに、ファイナルファンタジーっていうのがあるんだけどね、最近、最新ハードで過去作のリマスターが次々に発表されてて、父さんが懐かしい懐かしい、名作だから気が向いたら是非やれ、って出てる分全部買ってくれたんだけど」
……父さん気前いいなあ。気が向いたら、って言って強くは押し付けないとこも父さんらしい気がする。
研兄は「ちょっと待ってね」と言って少しマップを進んで行った。
そしてやがて。
「見て見て、ここ初めて来たから周りが全然分からないんだけど、この《 サイトロ 》って魔法を使うと……」
「……道具屋とかが分かるようになったな。あと宝箱もか」
陣兄がふむと画面を眺めている。状況把握が早いってことは、彼も既にこのシリーズに触ったことがあるのかもしれない。
「ね。似てない?」
「《 サイトロ 》……《 サイトロ 》……」
パチッと、僕の目の前が弾けた気がした。
「……え、うわ!? れいちゃん!?」
研兄のそんな声が聞こえた気がした。
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ふわっと意識が浮上する。
「……! れいちゃん、大丈夫!?」
「……ん……」
僕はふらりと身を起こす。額からはらりとハンカチが落ちた。濡れててひんやりする。
皆が心配そうに僕を囲んで見下ろしてた。
ああ、僕、ひっくり返ってたんだろうな。
「大丈夫……色々一気に思い出して、パンクしかけたんだと思う」
「マジか……危ねえ、下手したら廃人コースだったかもなあ……ごめん、もっと慎重になるべきだった」
「いや、情報が増えてありがたいよ」
『前』なら、僕はそんなにヤワじゃないから安心しろなんて言えただろうけど、五歳児のか弱い身体なんて自分でも完全に把握できてる訳じゃないから、見栄は張らないでおこう。
「……まあ、そういうことならやっぱ、下手に騒いでじーちゃんとばーちゃん心配させてなくて良かったな。説明できねー」
「コソッとハンカチ濡らして来たぜ」
陣兄と航兄が苦笑して、ヒロ兄が心配そうな困り顔で額に手を当ててくれてる。
「ありがと。……うん、『汀』が使ってた件の『ボール』は確かに《 サイトロ 》だったと思う。他にも、透明化が《 バニッシュ 》で、罠解除は《 呪印解除 》とか言ってたかな」
「……あいつそんなことまでできたのか? いったいどんな装置仕込んでたんだ……」
もっと頼み込むなりして
散々彼女の検査結果を見ていた僕たちは、あれがまったく種も仕掛けもない物だったのを知っているけど、ややこしくなりそうで皆には伝えてなかったから、そういうふうに理解してたんだな。
「あんなすごそうなの、『陣平ちゃん』でも再構築できたかな?」
研兄がくすくすと笑ってる。陣兄は膨れた。
「ああ? ナメんなよ、
「でも、これと名前が同じなら魔法だったかもしれないだろ? 分解なんてできたかな?」
「……」
研兄に言われて陣兄は考え込んだ。
今僕たちが本の世界に入ってしまってる可能性がある以上、『前』のことであっても、どんな不思議も否定することは危険な気はする。陣兄もそう考えてるんだろう。
「でも……魔法、か。非科学的で、他にそんなものを使える人間がいない中、本当に……よく彼女は真っ直ぐ生きてくれていたものだよな。……最初、彼女はあれらを怖がっていたんだよ。それでも、自分から、封印するんじゃなく世のため人のために使っていくことを選んだ。……強いなあ」
しみじみとそう思う。
「うん、すごいねえ」
泣きそうな、優しい顔で、研兄が笑った。
そういや『萩原』も彼女を想ってたんだよな。ほらヒロ兄、競争相手は『今』も手強いんだから、それに僕たち以外にもいる気がするし、あとで後悔しないためにもちゃんと向き合うんだぞ。
という意味を込めてじっとヒロ兄を見つめると、彼は圧を受けたように少しだけ強張った。正確に汲み取ってくれたらしい。僕はにこりと笑っておく。
「……それと……『及川梗ノ佑シリーズ』の『吉田寺の過去編』についても少し思い出したよ。及川役が剣崎修で吉田寺の妻役が星野輝美……探偵左文字にも出てた二人が出てるって話題だったんだよな。吉田寺役と彼の娘役は新人だったけど、上手いって評判だった」
「うおっ、さすがの記憶力」
「大袈裟だよ研兄。全部『ヒロ』の受け売りだし」
僕は本当に皆で録画を観る機会は逃してて、引退後の余暇にBlu-Rayで見たんだ。
「なあゼロ……やっぱそうやって『前』を指してる時みたいに、『
「そんなの周りがびっくりするだろ。せめて反抗期くらいまで待て」
何故か皆が一斉に噴き出した。
「お前に来るかあ? 反抗期……」
陣兄がジト目でニヤニヤしてる。この……。
僕は『松田』に『ボクちゃん』なんて言われたことがあるの、未だに覚えてるからな。
僕はふっと笑う。
揶揄われないようあらかじめ主張しておこう。
「僕はね、『前』の家族は早くに亡くしていたから、今回は思いっきり甘えてみたいんだ。……陣兄のひねくれっぷりがすごく参考になるしね?」
今度は僕がニヤリとしてみせる。
「あ゙?」
小二にしてドスの利いた声が出せるのは尊敬に値するよ。
「ふふ……でもオレも想像できないなあ。だってゼロ、家族みんな大好きなのがメチャクチャ分かる」
ヒロ兄がそう言うのには何の含みもないから反駁する気があまり起きない、けれど、だ。
「僕の演技力は捨てたものじゃないだろう?」
胸を張るけれど。
「良心には負けそうな気がするぜ。母さんと父さんが泣いたら即負けるだろ」
航兄がカラッと笑う。
「あー、でも、父さんと母さん、笑って受け止めそう」
「「「あー」」」
研兄の言葉に全員納得してた。……僕もそんな気がしてきた。
「んで、じーちゃんとばーちゃんに雷落とされて即負けしそう」
陣兄が続けて、僕は反論の言葉を失った。めちゃくちゃありそうだ……。
そんな時、だ。
「皆ここかー?」
噂をすればなのか、コンコンというノックとともに祖父の声がして、僕たちは返事をしつつぞろぞろと集まって扉を開いた。
そこには軍手を嵌めつつ焼き芋をいっぱいに抱えた祖父がいて、すごく甘くていい匂いがした。
「食うだろ?」
にこっと笑う祖父に、僕たちはいちもにもなく頷いてはしゃぎ、お茶の間に移動した。
ああ、緑茶がとても合う。やはり日本は素晴らしい……。
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ドラマ勢は俳優さんには似ていません。
ここでの《 サイトロ 》の仕様はFF3のピクセルリマスター版のものです。
栞
憧れの警察官が目の前にいるとなってミーハーしてたところ父に家でのれいくん話を暴露された上ミーハー対象にありがとうなんて微笑まれて隠れた。憐れ。
吉田寺啓寛
栞が家でしばしば『れいくん』の話をすることに「もうから娘に男が近づいてる……!?」といい気がしてなかったけど、初対面で幼児と思えないようなキッチリした挨拶をされるなどして段々氷解する。