降谷さんの災難   作:千里亭希遊

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4.ふわふわ、もこもこ。

 帰宅後、既に帰ってた母さんに、レンタルかサブスクで見たいアニメがあると言うと、さくっと月額配信サービスを契約して勉強部屋のテレビでも見れるようにしてくれた。なんてありがたいんだろう。

 

 原作の漫画じゃなくてアニメを選んだのは、兄弟皆で一緒に見れるからだ。

 皆には、僕たちが『前』に居た世界が描かれてるらしきアニメがあるってだけ伝えた。

 

 それから連日、アニメ鑑賞会が始まった。

 マジ米花町じゃん懐かし、とか、ええ工藤君が、とかわいわい見てた。

 毛利探偵が何だかすごくコミカルだ……眠りの小五郎……でも、本人が決めるべきところはきちんと決める、そこは変わらなくて目を細めて微笑む。

 

 そしてとある日。

 

「……宮野さん……っ」

 

 ヒロ兄が表情を歪めて口元を押さえた。

 以前同姓同名の女性キャラクターが同じく十億円を強盗して生き延びていたが、今回、明美そのままの姿の女性がジンに撃たれて亡くなった。

 

 どうしてこのようなダブつきが生じているのかを調べてみると、初めの頃はまだアニメが打ち切りになる可能性もあったため、あとあと展開が広がっていくだろうことが明らかな『黒ずくめの組織』についての情報は避けようとしたものらしい。

 今や三十年以上続く国民的作品だけれど、そういう時期もあったんだな。

 そして……つまりは元々の漫画では明美が亡くなる方しか描かれていないわけだ。それが本来の筋書き……。

 

 ……そうか。彼女も『汀』が公安の指示で志保さんを探しに行っていなければ、こうなっていたかもしれないんだ。

 これじゃ、この作品の中でこのあと志保さんはどうなってしまうんだろう。

 

 ……と思っていたら、工藤君と同じ薬で小さくなってしまっていて……『汀』がいない分、解毒剤の完成は僕たちの知るより少し遅れるかもしれない、よな……。

 ……自己卑下の傾向が強い志保さんがひどく痛ましい。

 

 そして後日。

 

「う、うわあ……そのものじゃん……てか俺、死んじゃった……」

「ハッ……仲良くお陀仏だな『萩原(ハギ)』」

 

 研兄は突っ伏し、陣兄が頬を引きつらせて肩をすくめた。

 

「……しかし、つまりあの江戸川少年は実際にこんな目にあってたってことになる、か……? 正体があの工藤新一君とか……」

「この調子ならこの後皆出てくるのは確実だな……」

 

 航兄が神妙な顔で言う。

 皆コナン君と会ったことあるからなあ。

 

「……『汀』は、出てこないみたいだな」

「そうだねえ……あの子がいなかったら俺死んでたんだよな。熟分からされた気分……」

「『萩原』が死んでて、もう一つの爆弾も見つからなくて、加えて観覧車の中まであいつが押しかけて来なかったら……俺もこうやって死んでたんだろうな」

 

 そうだよな、思えばそうなんだ。だから……『彼女』は『松田』のことも夢に見ていたのかもしれない。

 

 やっぱり、『全員死んでた』っていうのはここにいる皆のことなんだと思う。

 ってことは、『班長』も、どこか僕たちの預かり知らぬところで、『彼女』に助けられていたんだろう。

 

 あの決戦で僕の命を救ったのもきっと『汀』だ。

 あの出血じゃ普通助からないだろうに、身体が壊れた瞬間に治すかなにかをしでかしてくれたおかげで、僕は命を繋いだんだと思う。

 

 本当になんて人間だよ、君……。

 

 その後も鑑賞会は続いていった。

 

 赤井やジョディ女史がかなり怪しく描かれている……『黒ずくめの組織』の人間じゃないかってミスリードされそうだ。読者をハラハラさせて惹き付ける手腕がすさまじい。

 

 はは、『安室』と『沖矢』と『世良さん』の誰が『バーボン』なのかを悩ませる描写も面白いなあ……『沖矢』と一緒くたなのか……。

 

 ……『スコッチ』が引き金を引いたきっかけは『バーボン』の足音、か……何だよそれ……。

 

 でも確かに、あの時『汀』が叫んでくれてなかったら──。

 

 僕は何も言葉にできずヒロ兄の肩に額をうずめた。

 

 ……『スコッチ』の目元は、ひどく震えていて。

 必死に生き抜いて捜査してきたのに、覚悟を決めて必死に引き金を引いて命を終わらせた。全てを守るために。……『バーボン』への飛び火を防ぐ意図も少なからずあったことだろう。

 

 あの栞が泣いてたのだって無理からぬことだ。

 

「……っ、……っ!」

「ゼロ……」

 

 研兄も陣兄も航兄も黙りこくっている。

 

 足音の主が組織からの追手だったのなら赤井も危なかった。赤井の手が思わず緩んだのだって責められやしない。

 そのあたりも『ヒロ』が即引き金を引いた理由なんだろうが……そもそもは、僕の……。

 

「これ……マジなのか? しかもこの組織って……工藤君をあんなにした……やばすぎだろ……っ、お前らなんつー危険なトコにいたんだよ……ッ」

 

 はっと顔を上げると研兄が顔を覆って俯いていた。

 陣兄が怖い顔で俯いている。

 航兄は眉間にしわを寄せて俯いている。

 

「……公安……公安か……ハッ」

 

 陣兄が吐き捨てるような笑い声を一つついた。

 

「死のうとしたとは聞いたけどよ……実際……実際って言いかたでいいのかは分からんが……見ちまうと……ヤベェわ」

 

 くしゃくしゃの表情で、航兄はヒロ兄と僕の頭をぽんとした。

 

「……お前らが生きてて、良かった」

「……!」

 

 僕はまた、ヒロ兄の肩に顔面をうずめた。

 ぎゅうと抱きつく。

 

 またしばらく鑑賞の日々は続く。

 

「……何だよ……何なんだよ……」

 

 航兄が顔を覆って座ったまま突っ伏し、拳で床を叩こうとしてギリギリで抑えていた。……抑えたの、素直にすごいと思う……。

 

 他の皆は、何も言えずに只々俯いていた。

 

『班長』は事故で亡くなり、ナタリーさんはその失意で自殺、彼女の遺体を引き取りに向かったナタリーさんのご両親まで事故死。

 ナタリーさんを可愛がってくれた恩師とも言うべき人が『班長』が可愛がっていた後輩を殺してしまうところだったし、その恩師は誤解が解けた時には既に遅く服毒自殺。

 

 酷すぎる。

 救いようがないってどころではない悲劇。

 

 あくまでフィクションだって明記すらあるのに、『前』の自分たちと共通する部分が多すぎて、他人事で片付けるのが難しすぎる。

 

 僕たちの『前』では『班長』はナタリーさんと幸せな家庭を築いたから、まだ僕たちの心は救われるけれど、も……。

 

「……『櫛森』がいたから、俺はあれに轢かれずに済んだんだな……確かにな……はは」

 

 航兄が頭を抱えた。

 

「君も、か……」

 

 僕は苦笑した。皆似たような顔だった。

 

「この時ゃあ、『櫛森』とその後輩ポジだった奴もいて、四人で当たったんだよ。俺が高木に手帳を見せたのはもっと余裕がある時だったし、この事故は俺らの結構後ろで起きた」

「……成程な……はは」

 

 はああ、と航兄が大きな溜め息をついた。

 

「……会いてえなぁ……うちの子たちに……」

 

 そう言って項垂れた航兄の肩を、くしゃくしゃな表情の研兄がぽんと叩いた。

 

「しかし……ハッ……見事に全員『零』を置いてきやがったな……ただ、『松田』についてはあんな状況になりゃそうしただろとは思うから……どいつも責められやしねぇ。『櫛森』にゃ改めて感謝しないとな……何でアイツが抜けてんだよ」

 

 陣兄は遣る瀬無さ気に苦く笑う。

 皆もやっぱり、苦笑する。

 

「はは、何だろうな。めちゃめちゃ劇的なのは確かだけど、そもそも何で俺たちっぽいのが漫画作品になってるのか自体、何が何だか分からないことだからねえ」

 

 研兄も苦く笑いながら、肩をすくめる。

 

「今いるのが『及川梗ノ佑シリーズ』っぽいのも何が何だかだしなあ……」

 

 ヒロ兄も眉尻を下げて苦笑した。

 

「……ほら、あれじゃん? 量子もつれが云々とかで、人類が生きてるのは仮想現実、って説あったじゃん? 元々そんなもんだし、平行世界だの本の世界だの、色々あったって不思議じゃなくなってこない? 考えたってどーしよーもねえのは確かだし、生きたいように生きとこーぜ。こういう本だのはエンタメだよエンタメ! わーそっくりさーん! なんてね」

「……ふふ」

「はは。違いねえな」

 

 研兄は、ほんと、ムードメーカーだな。

 

 毎年映画になってるのも知って、それも視聴しつつ。

 

『安室透』含む『前』の僕たちは『警察学校編』として過去が描かれたらしいためか『警察学校組』として結構な人気を誇るのも知り、待ち受ける各々の最期に胸を痛めつつもこそばゆさもあったり。

 

 その『警察学校編』ばかりか、『安室透』に焦点を当てた『ゼロの日常(ティータイム)』という作品までアニメ化されていて、やはりこそばゆい。

 皆が僕を化け物を見るような目で見てきたけど、君たちだって似たようなものだったじゃないか。……『今』だって、成人すればきっとあんなふうになる気しかしない。

 

 佐藤君にトラウマを植え付けてるのが端々で分かる『松田』の所業に皆でジト目を向けて「俺じゃねーし」とふてくされられたり。

 

 この作品と違って『前』の僕たちは皆に協力してもらってたから、ある程度の事情は元々伝わってた。とはいえ、公安の仕事が今更結構筒抜けになってしまったのは複雑な気分だ。

 ……それだけじゃなく、人気作品なのもあって広く全国に知れ渡ってるんだよな。

 本当、不思議な気分だ。

 

 でも、こちらじゃ全部実際に起きてたりしないから、守秘義務がどうこうは考えるものじゃないはずだ。

 研兄の言うとおり、エンタメだエンタメ!

 

 栞に「そういえば、コナン読んだの〜?」って聞かれて、あれからアニメや映画を視聴しているのを明かすと、彼女が目を輝かせて珍しく饒舌になるものだから微笑ましい。

 

 彼女は初めの頃は主人公なコナン君が大好きで、次第に『安室』のトリプルフェイスぶりにハマったらしい。「ちゅうにびょうが刺激されるの〜」なんて無邪気に笑うんだけどちゅうにびょうって何だろう。あとで調べよう。

 彼の劇的な過去を知ってからは『警察学校組』皆が大好きになったのだと言われて、やはりこそばゆい。

 

 ……『汀』も、僕たちを眩しいと言ってくれていたっけ。

 こういう、彼女の『前』と変わらないと感じられる部分も温かい。

 

 本人は明言してないけど、彼女はやっぱり中でも『スコッチ』に思い入れがあるように感じられる。

 彼の『景光(ヒロ)』としての部分を視聴してからは、幼い頃が可愛すぎるとか、映画の精密射撃がすごすぎるとか、僕も同意する部分をきらきらした目で語っていた。微笑ましいな。

 

 そんな中。

 

 とある日、彼女は真っ白でモコモコな子猫を拾って帰ってきたようだった。

 お婆ちゃんが猫アレルギーだったそうで今まで飼わなかったそうなんだけど、彼女猫好きだもんな。よく絵に描くのも猫だし。

 

「ハレちゃん、ゼロくんだよ」

 

 ってにこにこ紹介する彼女と、キラキラした目のふわふわしたその子に、僕は確信した。

 

 ……ハロだ。

 

「わー、ハレちゃんゼロくんにすぐ懐いちゃったね、ふふふ」

 

 ……可愛い。

 

 そばで僕たちが楽器を弾いてると、やっぱりドやシの音が多く聞こえるところで上機嫌になる。

 

 可愛い。

 

-----------------------------------

 

「……無理しちゃいけないって、言ったでしょうが……っ」

「ははは……少し熱くなりすぎましたかね……」

「……今後は……っ、動くときは……ぼくにも、知らせてほしい……詳しくは明かせないけど、強い味方が、いてくれてるから……っ」

「……ふふ。動くなって言わないあなたが、私は結構好きなんですよ」

「……だったら……っ、一緒に歩かせてくれよ……!」

「……! ふふ。……分かりました。今回は……すみません」

 

 桜井は泣きそうな顔で苦く笑った。

 

 吉田寺は親が所轄署上層部である男のストーカー犯罪を暴いたものの、弁護士が手強く執行猶予付きの信じられない程短い懲役が下されたのみに終わった。

 加えて出版社近くの歩道橋の階段で突き落とされ大怪我を負った。そればかりか突然の左遷で売れないゴシップ誌のライターに回された。

 

 吉田寺は家族には不注意で落ちたと説明して入院中。栞は泣いたし妻は心配で真っ青になった。

 零は物語についてをだいたい思い出しているため、背景を察知して胸を痛めた。栞とともに足繁く見舞いに通う。

 

-----------------------------------

 

「……えっ!? ゼロくんも紫燿(しよう)受けるの……!? 彩穎(さいえい)じゃなくて……?!」

「都内屈指の進学校なんか行かなくても警察官は目指せるし、何より栄養士資格とかの取得も目指したいからな」

「栄養士?」

 

 栞がこてんと首を傾げた。

 

「警察官以外にも選択肢を持っておくにこしたことはないだろう? 喫茶店経営にも憧れてるんだ」

 

 栞は少しぽかんとしたあと、ちょっと俯いて両頬に親指以外の指先をちょんと添えた。

 ……何考えてるか分かった気がした。

 僕は苦笑する。

 

「なあ、ポアロのこと考えてるだろう」

「……っ! ご、ごめんなさい……」

「何で謝るんだよ。僕もポアロを全く意識してないわけじゃないしな」

 

 実際に働いて楽しかったからなんて言えないけど。

 

「……!」

 

 栞が目を丸くして僕を見た。

 そしてふっと笑う。

 

「ゼロくん、喫茶店似合いそうだよね。ああいうお店ってお洒落っていうかカッコイイっていうか……レトロっぽい雰囲気とかに憧れちゃう」

 

 世間一般の喫茶店のイメージってそういうのもありそうだな。

 栞の場合ミーハーに見えなくもないけど。

 僕はクスっと笑う。

 

「それって褒めてくれてるって取っていいのか?」

「……!」

 

 また目を丸くする栞。

 彼女はすっと視線を逸して俯いた。何だか少し赤くなってる気がする。

 

「……ゼロくんは自覚が足りなすぎると思うよ」

 

 僕はくすくすと笑う。

『前』と違って僕たちに対して女性が目の色を変えて騒ぐようなことがないのは、少しありがたい事態だった。今は栞だけしか僕は見えない。それが恋愛感情なのかはよく分からないから、彼女が僕以外を見ているようなら身を引く気ではあるけれど。

 

 じっと栞が僕の左腕を見て、触れないくらいの位置で少しだけ手を伸ばす。

 

「……元通りになりますように」

 

 彼女は小さく言った。

 

 ……コレへの不安が拭えないから警察以外の選択肢を残そうとしてる部分もあるのを、彼女は察しているんだろう。

 警察官は……いざって時にほんの少し力が足りないだけで致命的にならないとも限らない職業だ。

 そういう部署ばかりではないのも分かっては、いるけれど。

 

 あの日、母さんが心配でたまらなかったとはいえ、己の幼さを弁えず突っ走ってしまった代償。

 完治の望みはあると言われているけど、ふと動きづらくなる可能性は一生消えないだろう。

 

「栞が紫燿目指してるのってやっぱ芸術コースか?」

「うん! 美術専攻したいんだ。それで、将来的に学芸員資格取得を目指すの」

 

 思った以上にしっかり考えてるみたいで僕は目を丸くした。

 けど。

 

「君も昔警察官になりたいって言ってなかったっけ」

 

 彼女は眉を下げて苦笑した。

 

「……身長、足りなくて。あと三センチだけど、もう伸びそうにないの。運動も苦手だし……」

「……あぁ……ごめん……」

 

『汀』と違って栞は結構低めなんだよな。

 三センチ足りないってことは百五十一か。可愛くていいと思うけど。

『前』は警察官の身長制限は英弘(えいこう)一年に撤廃されていた。だけど『今』は既に英弘十八年になるのにまだあるから、いつ撤廃になるのか予想がつかないし、もしかしたら撤廃されないかもしれない。

 

「なっ、なんで謝るのっ」

「本人の努力じゃどうしようもない部分もあるからな、そのへんは……」

 

 思わず彼女の頭の天辺をぽふりとすると、彼女は眉を下げたままへへへと笑った。

 

「ゼロくんたちは皆高いよね。憧れる」

「父さんが高いお陰だな」

 

 うちは祖父母もそれなりに高いほうで、母も平均くらいだと思う。

 栞のとこはお母さんが少し低めな気はする。

 

「……同じとこ目指してることだし、受験勉強一緒にやるか?」

「……! うん、頑張る!」

 

 栞がふわっと笑った。

 

 ……やっぱり、『前』みたいな殺伐とした道に進んでなければ、基本癒し系なんだよなって、しみじみしてしまう。

 

 どうもこう『前』の『彼女』と重ねてしまって、自分でもどうかと思って内心で自嘲の笑いを浮かべる。

 しかし『転生』らしき事象を実際に経験している手前、別人であっても『性分』ってものは変わらないって説があるのらしいのを、こういう時には意識してしまう。

 

 ともかく。

 志望校は事件が起こるとみられる高校時代に彼女から離れたくない、って理由で栞に合わせた部分もあったりするけど、将来栄養士資格や調理師免許がほしいのも本当だし、人生二度目とはいえ僕も油断せず頑張ろう。

 

 二人で懸命に勉強して(ハレが頻繁に構って構ってと来るのでしばしば中断した。僕たちはどうもこの白いふわもこに弱い)、栞も言ってた進学校である彩穎にまさに通ってるヒロ兄が、自分は大学は推薦が決まったからって言って勉強を見てくれるようになったり。

 

 うちで勉強してる時には同じく彩穎に通ってる航兄も顔を見せてくれた。彼は高校在学期間が僕たちとかぶりはするから少し迷ってたけど、栞が志望校をはっきり決めたのは僕たちが中三になってからだったし、あまりにも皆で合わせようとしたら栞も窮屈かもしれない。

 

 ヒロ兄は将来的に警察大学校に進むのを目標にしてるそうだ。だからまずは国家公務員総合職試験の突破を目指してる。腐敗を正すために上に行くんだって。

 ヒロ兄ならきっと大丈夫だ。本当、頼もしいよな。

 

 そんなこんなで、僕と栞は無事志望校に合格した。

 

 しかし栞がバイトを始めたいと言い出して僕とヒロ兄は必死でとめた。

 

 僕たち一家が襲われたり吉田寺さんが階段から落ちたりと世の中何が待ち受けてるか分かったものじゃないと散々訴え、反対するのに加勢してほしくて吉田寺夫妻にも密告し、多分吉田寺さんは身の危険も感じてるだろうし目論見通り真剣に反対してくれた。

 

 バイトしたいって言い始めた理由が件のファイナルファンタジーを買う(ちょっと仕組みが複雑そう……?)ためだったんだけど、それくらいなら母さんたちがさくっと出すわよもっと頼って! と彼女のお母さんがプリプリしたふうに言ってくれたものだから、栞はしょんぼりしつつも折れた。

 

 社会勉強してみたいのにとか、月額だし自分で払いたいのにとか、画材だってばかにならなそうだし、とか色々言ってたけど……バイトするとしたら休日か放課後になる訳だし、暗い夜道を歩かせるなんてとても考えられない。

 

 僕たちが同じバイトを始める手もあるけど、だとしてもシフトが合わせられなくなる日ができそうだ。

 

 美術部に入った栞に対して僕は軽音部に入った。これまで美術にはそう興味を示してなかったのに僕が栞に合わせたら、さすがにびっくりされるだろう。

 

 どうもうちの学校の軽音部は幽霊部員だらけみたいでほとんど集団活動してなくて、部室で勝手に筋トレしてようが楽器かきならしてようが顧問も見に来ないものだから誰にも咎められず、帰宅時間を栞にきっちり合わせられるのも良かった。

 

 栞から過保護とか言って邪険にされることがなかったのは、実際事件に遭ったような奴が心配してバイトに反対までしてきたのを慮ってくれてるんだと思う。あとやっぱり押しに弱い。

 

 警戒を続ける日々の中、とうとう連続猟奇殺人事件が始まってしまった。

 

 父さんや既に警察官になってる研兄が歯を食いしばって捜査にあたってて、吉田寺さんも陰で一緒に動き支えてくれてるようだった。

 

 僕たち兄弟はドラマで知ってるから、過去吉田寺さんが必死に立件したもののほぼ握りつぶされたあの事件と同一犯だと踏んでるけど、名を変え素性を誤魔化し隠されてるらしき奴にたどり着くのはさすがに困難を極めた。

 

 無力を痛感するけど、証拠を掴めなければ主張したって意味をなさない。

 それに事件が起こる正確な日や場所はさすがに皆覚えてなかった。

 

 事件が起きたことで見回りが表面上強化されたけど、実際に真剣に勤めてるのは多分一握りだ。署の大部分には隠蔽する気しかないだろうし、もしかしたら……吉田寺氏への報復が目的の犯行だから、故意の見逃しすらやってそうで恐ろしい。

 

 犯人についてがいっこうに掴めず、皆が焦燥を募らせる中。

 

 高校二年の九月七日、部活の皆と花火大会に行くと言う栞に、花火ってことは暗い時間確定だし何だか嫌な予感しかしない僕は、僕も兄弟で行く予定なんだよとしれっと言った。

 兄弟たちには事後報告で有無を言わさず行くぞと指示したし、父にも花火大会に行くことを主張強めに伝えた。

 

 去年から疎らに酷い事件が起きてるため花火大会の警備はかなり強化されたようだし、規模も縮小されたみたいだ。

 

 いっそ中止してくれと思わなくもないけど、それじゃ過剰な自粛だと不満もあがることだろう。

 美術部の皆も危機感が足りないといえばそうなんだけど、『こんな中でも開催されるなら体制が整ってるはず』って思えて、どうしても安心感は生まれるものだしな。

 

 あまりにも口酸っぱく女子に行くななんて言うのは華の高校生には酷だろうし、接点のない生徒に無理矢理要求できるものでもないし、下手したら栞が疎まれかねない。

 

 いつ起きるか分からないから、こういう時は何がなんでも着いて行こう。

 

 警戒と、緊張とを、最大限に張り詰めて──。




/

 降谷さんが「中二病とは」の知識を得たようです。…オリ主???

 紫燿しようは商い、彩穎さいえいは英才(単純)。

 降谷さんは『前』はモテモテで騒がれるのを多分学生時代には鬱陶しい面倒くさいとドライだったんじゃないかと妄想してます。交際相手が嫌がらせ受けることとかもあってげんなりしてそう(そういう系の夢も大好きですふふ)。ただ『安室さん』は仕事のためと割り切って大いに利用してる、とかな妄想。

『今』はあんまり周りに騒がれないおかげで、『普通』になれたってコト?と少し新鮮な気分で安心して現状を楽しんでるけど、外見も現実的な範囲でかっこよさそう。降谷さんだし。栞ばっか構ってるのが明らかなせいで表立って騒がれないだけ。栞を『守るべき者』とみてるから周りには内面も穏やかと見えててますます人気ありそう。その実もし騒がれるようなら鬱陶しい面倒くさいとなるであろうドライさは変わってない。

 栞がふわふわしてて女子の庇護欲(母性?)までくすぐるのであんまり嫌がらせされないから、そこも降谷さんの楽観のもと。誰か栞に嫌がらせする者が現れようものなら周りの友人が即制裁を下してそう。

 降谷さんはファイナルファンタジーシリーズにオフラインの1人用ゲームってイメージがあるのと月額課金制オンラインゲームってものをよく知らなくて「月額? アップデートごとに追加料金? なんか複雑そう……?」ってなってる。

 彼らの危惧通り栞は本来バイト帰りに襲われる筋書きだった。

ハロ
 降谷さんを慕い続けてて、彼の近くに行ける可能性が高い色んな動物に転生して、ずっと彼との縁を放さない。
 たすけてくれて、なまえもくれたやさしいおにいさん、ずっといっしょにいたい、だいすき。おにいさんのきらきらしたたましいは、どこにいたってはろのめじるしになるんだよ。
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