……ふと、ぴくりとも動いてくれない僕の手の近くに、誰かの靴が見えた。女性物の革靴。どこか見覚えがある気がした。
その足の主がこれもまた見覚えのあるパンツスーツの膝を折って座り、僕の頭のほうへそっと手を伸ばす。
──……有り得ない。
僕が無我夢中で、こちらに伸ばされていないほうの手を掴むと、『彼女』は少しびくついたようだった。
『……駄目ですよ、動かないで下さい』
……懐かしい声。
人は声から人を忘れると言うけれど、たびたび思い出しては苦笑することになるこの声は、全く変わらず僕の中に居座り続けていたらしい。
「……動かないわけにいくかっ……助けられないのはもう御免だ!」
『……駄目です』
『彼女』の──
『あなたまであの子の運命に巻き込まれることはありません』
「……運、命……だと?」
『……私は忘れちゃってましたが、あの子は今日いなくなるはずなんですよね』
「っ、そんなのは僕たち次第だッ!」
『私はあなたに消えてほしくないです』
「僕だって消えるつもりはない!」
『……
「うるさい……『前』の君がここにいるはずなんかないんだ、どうせ僕のひねくれた生存本能が見せてる幻覚だろう……っ!」
『……ふふっ、ご自身でひねくれたなんて仰るんですね』
心底可笑しそうに笑っている声が憎らしい。
その表情を見てやろうと僕は必死に首を回した。
……が。
「……なんて顔してるんだ」
汀は泣いていた。ぼろぼろと大粒の涙を零しながら。声は全部いつもの強がりだったらしい。
……ああ、最初の頃の彼女も、こうして
『だって……頭に、こんな、怪我して……』
「これくらい何でもない……ただ……早く兄さんたちに知らせて、来てもらわないと……」
『……』
汀が黙り込んだ。
「み──、……!」
何故黙るのかと彼女の名を呼ぼうとしたら、慌てた様子の彼女に指で口を塞がれる。
『駄目です、呼ばないで下さい。戻りたければ、名前を呼んではいけない気がします』
「戻る……?」
彼女が苦笑してふっと周りを見た。
つられて周りに目を遣ってぎょっとする。
「ここは……どこだ……!」
真っ青な……きらきらと星の煌めく夜空に青い光を灯したような、謎の空間に、僕たちはいた。果てない空間の中に浮いているだけのような視界。しかし浮遊感も落下感もない。
『……分かりません。あの子がやってるゲームの
「……ファイナルファンタジー、か」
『はい。それのフォーティーンですね』
「細かいな」
『シリーズものといっても、まったく同じ世界での話というのはあまりないみたいなので』
「……確かにそうだな」
『あなたもやったことあるんですね』
「父さんが好きでな」
『ふふ、そうですか』
「……なあ」
こうやってゆっくり話してる時間なんてないんだ。
「お前は戻りかたを知ってるんじゃないか」
『……それは……やってみないことには……』
汀がゆっくりと立ち上がり、ふっと目を伏せて手を前に構える。
現れたのは、魔法使いなんかが持っていそうな、大きな立方体型の水晶のようなものがついただけのシンプルな細身の長杖。
僕は地に伸びた姿勢のままぽかんと見上げ、彼女はへちゃりと苦笑した。
そして彼女はふっと表情を真剣なものに変えると、僕に杖の先の白い石を向けて──。
ふわりとした緑色の光が僕を包んだ。
頭の痛みが和らぎ、あれだけ動きづらかった身体が楽になった。
僕は立ち上がりながら彼女にジト目を向ける。……ああ、やっぱり彼女は栞と違って背が高い。
「…………お前、ほんと……」
『あはは、自分でもわけがわからないですね』
彼女の笑顔が引きつっている。
『でも……星海っていうのは冥界のような所でして。現実でもちゃんと治ってるかは謎です』
「冥界……」
『ええ。
「戻るには……」
『……想いが動かす力って、とてもとても、大きいんです』
「……うん?」
『だからあなたは、あの場に戻るんだって強く想って下さい。私はあなたに蘇生魔法を……《 レイズ 》をかけます』
「ここはあのゲームの世界なのか?」
『だったとしてもなかったとしても……これは、あの子がフォーティーンで白魔導士をする時に使ってた杖です。あなたを治したいと思ったらこうやって出てきたのですから、ここでは願えば叶うってことでしょう?』
「……成程な、理屈は分かった。屁理屈だがな」
ふふふ、と汀は柔らかく苦笑した。
そしてまた、ぴ、と僕に杖を向けて少し眉を下げた。
『命大事に、ですよ』
「それはゲームが違うだろう」
『会社は同じです』
「……ふ。これこそ屁理屈だな」
『そうですよ』
「……お前は来れないのか。便利そうなんだけど」
汀がきょとんとしたあと盛大に吹き出した。
『それはあなたの隣に降谷さんが並び立つような無理ですね』
「……お前は何でここに居るんだ?」
『うーん。生命には二つか三つの構成要素があるという説をご存知ですか? 魂魄思想とかです』
「ああ、天に上る魂と、地に還る魄、か」
『ええ。フォーティーンでのそういう類の説に、生命は、命、記憶、魂、で構成されるってようなものがあるんです。生命力を失えば死に、冥界で記憶は洗われ、魂は輪廻する。だから……私はただの記憶の塊、とか?』
「……ふっ、またそのゲームか」
僕が苦笑すると、汀はへちゃりと笑った。
『……私はあなたに危ないことしてほしくないからこのまま雑談しててもいいのですが……真相が分からないことを議論してたら終わらなそうですけど、いいんですか?』
「……よくない」
汀は眉を下げて笑った。
『……本当に……死なないで、下さいね』
「死ぬつもりはない」
『……』
汀の表情が歪む。
やがて、は、と小さく息をつくと、キッと真剣な表情でこちらを向いた。
『……いきますよ』
しゅるりと汀の周りで何かの光が素早く流れたかと思うと、彼女の掲げた杖から僕に眩い光が流れ込む。
ふっと、彼女が笑った気がした。
『……皆さんの未来が幸せで溢れていますように』
ぐっと強く引っ張られる力を感じながら、彼女のそんな小さな声が聞こえた気がした。
待て、まだ礼も言えてない。
思わず手を伸ばそうとしたけど、もうどちらに彼女がいるのかも分からなくて──。
はっとした。
「……いッ……」
飛び起きると後頭部がずきりと痛みだす。手をやると多少の血が移った。これくらいならまだいい。
周りをざっと見渡して、転がっていた栞の巾着と僕の信玄袋と……白猫のぬいぐるみを掴む。クッションとかにできるかもしれない。
くそ、栞はどこだ……!
僕はあたりを見回しながらヒロ兄に電話をかけた。
『どうした?』
「悪い、恋愛脳からは助けられたんだが……別の奴に連れ去られた」
言葉にするとますます情けない。
『なッ!! それまさか……!』
「可能性は高い……僕は頭をやられたから万全じゃない。場所は下宮より奥に入った『お猫さまの宮』だ。通報も頼む」
『猫、か……』
「……ああ、知らなかったよ猫が祀られてたなんて……下宮の案内板を見れば分かる。ただ、姿が見当たらないから薮に入った可能性もある。見つからなかったら僕のスマホのGPSを辿ってくれ。栞のスマホも残念ながら僕が持ってる」
『わかった……っけど、やられたって、ゼロ怪我してるんだろう!? 無理はするなよ……!?』
「はは……情けないよ……声を聞かれたら逃げられるかもしれないから、切る」
『ま』
僕はスマホと栞の巾着とぬいぐるみをまとめて信玄袋に収納すると、小型の懐中電灯を取り出してあたりを伺う。
細かな白い砂利で敷き詰められた地面と石畳は、足跡が残るようなものじゃない。
引きずられたような跡もないから、栞はきっと抱え上げられたんだろう。
くそ。僕はどれくらい星海(?)に居たんだろう。その間にどこへ……栞がどれだけ怖い思いをしてることか……。
花火の音はまだひっきりなしに続いてるから、それ程経ってない、と思いたい。
……焦るな、焦りは最大のトラップだ。
懐中電灯で照らした場所にキラリと光る二つのもの──双眸が現れて少し驚く。……猫だ。猫が祀られてる社だし居てもおかしくない。……だけど。
身体の色は──汀の髪の色で。
瞳の色は──汀の瞳の色だった。
ふわふわなハレと違って細くスラリとした毛並みのその猫は、懐中電灯の光をものともせずじっとこちらを見つめている。
猫に構っている時間なんてない。だけど……その猫の近くに茂る低木の枝がいくつか折れていた。
近付くと、折れ口はまだ新しいのが分かる。
汀の色をした猫はじっと僕を見上げている。
「お前まさか……来てくれたのか」
猫は答えてくれない。ただじっと見上げてくる。
しかしやがてふいっと目を逸らすと猫は小さく駆け出した。
やはり無関係か、と思うも。
少し走った先で猫は立ち止まり、また僕をじっと見つめてきた。
「……!」
多分、案内してくれる気なんだ。『無理』だと言っていたのに。
行かせたくなさそうだったけど結局送り出してくれた彼女は、思えばいつだって僕の意志を尊重してくれていた。
だから今は──非現実的だろうと、信じて進もう。
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僕が走るのに丁度いいペースで、少し進んでは猫は立ち止まる。猫が足をとめていた場所では必ず何かが通ったらしき新しい痕跡が見て取れた。
猫が汀に関係してるとして多分栞がいる場所は既に分かっているんだろう。それでも『証拠』といえるものがはっきり分かる場所をわざわざ示してくるのは、信用してくれというアピールか、それとも僕たちが『
「──っ!」
血痕。少ない、が、だとしても。
脈が嫌な跳ねかたをする。
猫が音もなく駆けていく。
また、血痕。
ゾッとする。
猫が駆ける。僕はその跡を追う。
その繰り返し。
そして──。
「──!!」
猫は暴漢の後ろ側に回れるよう誘導してくれたらしい。
……何で、何で必死に口を結んでるんだ。
声を上げてればもっと早く──。
僕は防犯ブザーのボタンを押した。けたたましい音が鳴り響く。
目の色を変えて暴漢がこちらに向かってくるが、僕は鳴ったままのブザーを適当に投げ捨てた。この暗い中では容易に見つけられまい。
「だめ! ゼロくん、やだ、だめ、逃げて──!」
悲鳴も上げてくれてなかった栞が今更絶叫している。
キラリと懐中電灯の光を反射したのは──柳葉包丁か。
血に染まったそれを見て頭に血が上りかけるが、栞はまだ叫べるほどではあるのだと自身の猛りを押さえつける。
僕は鍔付きの特殊警棒だけ取り出してあとは足元に落とした。振り下ろされた包丁を弾き返し、そのまま踏み込む。
相手は少し怯んだけどまた向かって来ようとしたから、少し立ち位置をずらして受け流す。
そうやって、僕たちの荷物──特にGPSを発してくれてるスマホ──や栞の居る方向から少しずつ距離を取っていく。
時折地面の砂を蹴るなどして目を潰そうとしてくるあたり何か慣れてるな。慎重にいこう。
ブザーの音とGPSアプリを辿ってヒロ兄たちがすぐに来てくれるだろうから、制圧を焦りはしない。スマホと栞に近づけさせないことだけを考える。
僕に死なないでと願いながら送り出してくれた──背中を押してくれさえした汀のためにも、幼い頃の失敗と同じ轍を踏んだりしない。
暴漢と打ち合いながら様子を伺っていると、栞はどうやら後ろ手に縛られているようだ。足首も多分。そして更に、近くの木に繋げられている。
だから逃げろ、とは言えない。
彼女はずっと僕に首を振っていた。
声を上げないのは犯人を刺激しないためなんだろう。
……自分が危ない目に遭ってるっていうのに、僕が追いついて来ないよう悲鳴を押し殺してたような奴を、僕が置いて逃げるわけないだろうが。
ガキリと包丁の刃を受け止めて特殊警棒が軋む。
こんな状況だから『正当な理由』が認められて軽犯罪法には触れないだろう。
受け止めて、受け流して、蹴りを避けて、砂や枝を避けて。
何度繰り返したか分からないそれを、また受け止めて──。
バチッと火花が散って僕の身体が跳ねた。
は……?
……スタンガンか……っ!
「ゼロくん──!!」
栞の声が信じられないくらい近くでした。
何で──。
やめろ、馬鹿なことをするな!!
ガキョ
と、何だか表現しがたい鈍い音がした。
大きな影が地面に倒れ込む。
「……バカ……! 二人とも、無茶しすぎ……!」
「ヒ……ロ……」
ぎゅうっと、栞と二人して抱きしめられている。
「……ヒロお兄さん……っ」
「……ちょっと待っててな」
ヒロ兄は僕たちの頭の天辺をぽんぽんすると、地面に沈んでる暴漢をビニール紐で縛り付け始めた。そうしながらふっと腕時計を見遣ると、
「十九時二十四分、現行犯逮──あ、まだ無理だ……」
コントのようなことを言っていた。
まあ、無意識の癖だよな。
ふらふらするのをなんとか堪えて状況確認に努める。
……倒れ伏した暴漢の頭の付近で、コーラの350ミリ缶が潰れて中身をぶちまけていた。
そういえば変な音がしてたな。
……ヒロ兄……もしかして、これ投げて当てたのか……? 現状を鑑みるに、多分三人で揉み合ってるような体勢になってたと思うんだけど……。
ていうか、犯人、生きてるか?
心配になった僕は思わず暴漢の脈を取った。……正常だ。良かった。
しかしヒロ兄はすぐに固い表情になって栞のもとへ駆け寄る。
「……栞ちゃん……っ、止血、するね……」
ヒロ兄の声も表情も悲壮だった。僕はフラフラだし、頼んだよ。
「……オイ、生きてるか、ケーサツ連れてきたぞ」
陣兄の声がしてそちらを見ると、彼の後ろを制服の警官がついてきている。
僕たちは色々あってあまり警察を信用してないから、逆に緊張を深めた。
「……うわ、君たち大丈夫かい!? 誘拐犯ってこいつ?」
しかしその警察官が少し頼りない声をあげたものだから僕たちは少しだけ毒気を抜かれてしまう。駄目だ、気を引き締めないと。
「誘拐だけじゃねえな。拐われてたそこの女子も、助けに向かったうちの弟も血だらけだ」
「……え」
包丁なんか食らってな……あ。
僕は後頭部から浴衣の首の後ろをなぞる。
……あー。
余程酷く殴られていたらしい。まあ、汀が泣いてたくらいだしな……『満足した』か。あれで僕を殺せたと思ってたのかもな。
「救急車まだ来れなそう? オレが病院まで運んだほうが早いか?」
ヒロ兄は僕たちの惨状に表情を歪めながらそう言った。僕たち兄弟はこの祭会場まではヒロ兄の車で来ている。
「緊急車両といえど祭で混んでるから、まだ立ち往生中らしい。この警官は自転車で来た奴だ。ヒロが運んだほうが早いかもな。俺と航のことは気にするな」
そこまで家から遠いものでもないけど、少し申し訳ない。かといって陣兄たちにまで治療に付き合わせるわけにもいかないか。
「ひえっ」
「!?」
情けない声がして身構えると、犯人が目を覚ましていて、
「しお──!」
ドガッ
と、黒い影が走ってまた鈍い音がした。
犯人が吹き飛んで近くの茂みに突っ込む。
そして。
「往生際の悪い」
そこにいた黒スーツの男は──。
絶対、アイツだ。
──赤井秀一。
彼はぱっと警察手帳を開いた。それを示した相手はどこか頼りない制服警官。
「公安警察だ。この場は我々が預かる」
──!
「ひ、は、はい!」
制服警官がカチコチな様子で敬礼した。
「青木さん、この子たち俺が病院に送っても?」
「研兄!?」
つ、次々と……しかし研兄、公安と接点あるのか。
「それは緊急車両を譲れってことか?」
そう問う『青木さん』は、だが苦笑していた。
「景が支えてるその子、もう意識ないから」
「!?」
僕たちは青くなる。
「あなたなら他の足が出来るまで犯人押さえとけるでしょ」
「ああ。早く運んでやれ」
「行くよ、景、零」
「陣、必要だったら使ってくれ」
言ってヒロ兄が陣兄に何かを投げた。
「おー」
掌で受け止めたものを陣兄が見ている。多分車の鍵だろう。
「零」
研兄が僕の腕を引く。
「えっ、ちょっ……」
「黙って。お前ちょっと自分の状態に無頓着すぎ」
声音の固さにも、そういえばさっきから「ちゃん」付けで呼ばれてないのにも気付いて、僕は黙って研兄に抱えられた。……気付いたら病院だった。
-----------------------------------
栞が隣で眠っている。
幼稚園には『お昼寝の時間』なんてものがなかったし、その後も栞が居眠りしたところとかを見たことはなかったから、寝ている姿を見るのはそういえば初めてなんだなとぼんやり思う。
後頭部が酷いことになってるらしい僕と、酷い刺創が複数あるらしい栞は同じ病室に詰め込まれていた。
……何だか母さんと同じ病室に入院していた時を思い出す。
……あの暴漢がそうとはまだ完全には断定できないけど、『連続
でも……もっと早く、見付けてあげたかった……。
カラリと病室の扉が開くと、そこにいたのは『青木さん』で僕は驚く。
「……何だ、起きていたのか」
話しかけてくれたけど、僕はぼんやりとしていて答えられない。
「いい。無理をするな。多分痛み止めやらなんやらが効いてる」
ポケットに手を突っ込んだ飄々とした様は『前』と変わらないのに、今は……父さんと同じくらいの年齢だろうか、渋くて落ち着いた男だった。
「……
……そうか。やっぱりあの暴漢は『女子高生連続猟奇殺人事件』の犯人だったのか。
「だからお前が側にいても諦める訳にいかなかったんだと」
そうだな。無差別の単独犯だったら、側に誰かいたら諦めるんだろう。なのに、僕が居ても、そして追いついても、ヒロ兄が合流しても、全く退く素振りを見せなかった。
むしろ、せめて捕まるなら目標を達成してから、というふうな執念を感じた。
「日を改めもしなかったのは、まあ、大人の事情が絡む」
……はは。
誰かの昇進でも関わってたのかな。
「だから、な……お前が一人でも一生懸命戦ったからこそ、お嬢ちゃんは生きてるんだ」
……。
何が、言いたいんだ。
「だから誇れ。ただし驕るな。それから……すまなかったと思っている」
……!
それは、アニメの『安室透』が、『赤井秀一』に言われて激怒した言葉と同じもの。
だけど『今』は──。
「こんなことがないように、
何が……何が、言いたいんだろう。
「だから安心して年相応に過ごせよ。桜井さんとこは少し色々ありすぎだ」
……!
「お前たちが平和にしててくれたら、俺たちも救われる」
……その気持ちは、よく分かる。
この、丁寧に言葉を重ねてくれる男に何か返せるものはあるだろうか。
必死にどこか動かそうとして、ぴくりと反応してくれたのは利き腕だった。
ふらりと情けなく持ち上がったそれに、彼は少し怪訝な顔をする。
僕は少し指を丸めた。
彼は少し考える様子を見せた。
そして。
彼も右の拳を丸めると、僕のそれに小さく触れた。
よく分かってくれたな。
僕は満足げに笑ったつもりをして手を下ろす。
彼はふっと苦笑した。
「……大した精神力だよ。俺はお前みたいなのは気に入ってるんだ。……生きろよ。死ぬな」
お前が死にそうに聞こえるんだが。
そういうの、フラグって言うんだろう?
「……じゃあな。機会があれば、また会おう。多分ないほうがいいんだがな」
ニヤ、とニヒルに笑うと、彼はヒラリと手を振って病室を出て行った。
そりゃ、公安警察になんて普通は会わないほうがいいんだろうなと、内心で苦笑する。
ああ、また眠くなってきた。
-----------------------------------
僕たちの容態が落ち着くまで家族は引っ切り無しに見舞いに来てくれた。
ありがたいけど、ちゃんと自分の時間を過ごしてほしくて栞と二人して申し訳なく思ってた。
ベッドの上で起きてられるようになったら、さすがに頻度を落としてって頼んだよ。
「……猫?」
ヒロ兄がリンゴを剥きながら首を傾げている。
「ああ、あの時あの場で猫を見なかったか?」
「……それって、ほっそりした猫ちゃん?」
栞が横から話に入ってきて、そしてあの猫の色を口にした。
「見たのか?」
「うん。えっと、あのへんあの人がばら撒いたナイフが転がってたんだけど」
……恐ろしいことをさらっと言うなよ……そんな状態だったのか……!? 暗かったから分からなかった……。
「ふ、二人とも顔が怖いです……! えと、でも、私じゃ届かなくてですね、でも猫ちゃんが拾って持って来てくれたから、ロープを切れたんです……!」
「そうなのか」
「ヒロ兄……納得するな……縄解けてないほうが安全だったんだ……」
僕は汀に怒りを募らせる。
「どういうことだ?」
「栞は木に繋がれてたはずだった。なのに僕と犯人の間に割って入ろうとした。どれだけ危険だったか分かるだろう?」
「なッ!!」
「だ、だってゼロくんが切られると思って……!」
「ああいう時は逃げてくれ。そして外部に助けを呼ぶんだ」
栞が俯いてへちゃりと眉を下げた。
「……もうしないでほしいけど……ありがと。僕を庇いたかったんだろう。……でももし僕の代わりに栞が死んでたら、きっと僕は犯人を殺したよ」
「……!」
栞ががばっと僕を見たかと思えば痛みに呻いてベッドに沈んだ。ヒロ兄が「栞ちゃん!?」と血相を変えて彼女のほうへ近寄る。
「ゼロ、脅かすなよ……」
「事実だ」
「正直に言うな。そういうのは胸に秘めてろ。……あと殺すな」
「……分かってるよ。気が触れない限り法を侵す気はない」
はあ、とヒロ兄が溜め息をつく。
「要するにね栞ちゃん、ゼロは自分の目の前で君が死んだら気が触れるんだって」
「は?!」
曲解みたいな言い方をするな!!
栞がぽかんとヒロ兄を見上げて、そして僕を見た。
「だ、誰だって幼馴染が目の前で死んだりしたら気が狂うだろう!」
「「!!」」
ヒロ兄も思い知れ!
「ご、ごめんなさい……」
「ごめん……」
しゅんとする二人に溜飲が下がる。
が。
「でもそれは
ヒロ兄が真剣な顔で言い募るのに栞が後押しされたのか、似た顔で二人して僕を見つめてくる。
思わず噴き出した。
「言葉の綾だよ、栞が危ないことするから。でも僕も不覚を取って悪かったよ。だが、動けるようになったらまず自分の身の安全を確保するんだ。僕は一人なら何とでもなる。……そうなるように鍛える」
「……けど、不覚ってどうしたんだ。左腕か……?」
「いや、スタンガンを使われた。本当に単なる不覚だ。夜目でも鍛えるかな」
「うわ……それでふらふらしてたのか……」
ヒロ兄は僕の頭をぽふりとやろうとして躊躇い、肩に手を置いた。そんな気を使われなきゃいけないくらいかと僕は苦笑する。
まあ、入院してるくらいには頭部を傷めてるんだよな。『前』みたいにさっさと退院できるように身体鍛えとかないと。
……でも、栞がいる間くらいはここにいてもいいかもしれない。この件の犯人は捕まったとはいえ、僕たちが僕たちの平和を願えば願うだけ、今は似たような輩が幾らでも湧いてくるだろうから。
「……ああそうだ、栞ちゃんが言ってた色の、細身の猫な、オレも見たよ。研兄のパトカーに乗るときにね」
「駐車場にいたのか」
「うん。とてとてパトカーの屋根に上って……それで……信じないだろうけど、オレたちに向かって『にゃあ』って鳴いて消えた」
「……は?」
「栞ちゃんもゼロもぐったりしてたから見てないんだろう? 研兄も消えたのにビビってたんだからな」
「走り去ったとかじゃなく、消えた?」
「……うん。あと、その『にゃあ』に被って……『本当にとめてくれて、ありがとう』って聞こえた気がした」
「……丁寧語じゃなかったか?」
「……丁寧語だったな」
ふっと噴き出すようにして笑う。
「研兄は聞いたのか?」
「いや、『にゃあ』ってしか聞こえなかったって」
「……じゃあそれ惚気だ。ヒロ兄だけにしか分からない何かだ」
「は?」
僕はどう伝えてやろうかと思案する。
ああそうだ。
僕は人差し指と中指を立ててみせた。ピースサインってやつだ。
「……!?」
「色からしてそうだろう?」
「いや、だって……」
「魂と記憶は別物、って可能性があるんだって」
「んん……?」
「まあ、そのうち話してやるよ」
栞に縄を切らせた件について怒り合おうじゃないか。
栞が首を傾げている。ハテナが周りを飛んででもいそうだ。
「栞、もし怖くないなら、だけど……あのお社、ハレ連れて行ってみないか」
「!! 絶対行くよ!」
めちゃめちゃ食いつきがいいな。
まあ、お社の存在知った時から考えてそうなことだしな。
「ハレなら『ににちゃん』探しに協力してくれるかもしれないよ」
ヒロ兄に言うと、彼は苦笑した。
「あの猫は……還ったんじゃないかな」
少し切なそうな目をする彼に僕はきょとりとする。
「だから、消えたって言っただろ」
「また出てきても変じゃないだろ、アイツなら」
ヒロ兄が噴き出した。
「ゼロ、あの子限定で現実主義を捨てるよな」
「仕方ないだろ」
くすくすとヒロ兄が笑う。
「二人とも、あの猫ちゃんの知り合いだったってことですか?」
「ああ」
きょとりとしつつも興味津々な様子で聞いてくる栞に、僕たちは苦笑する。
「懐くまでが大変で、懐いてからもどこか気を許してくれなかった。今思えば本っ当に猫っぽいな」
「ああー、確かに。でも」
「ああ、その先は言うな。聞きたくない」
「ええ?!」
ふふ、と栞が笑う。
「退院したらみんなで探しに行きましょうねっ」
「ああ、行こう」
「う、うん……出てこない気がするけどなあ……」
ヒロ兄だけ少し浮かない顔をしてるけど、退院したあとの予定がひとつくらいあっていいだろう?
「来年は花火見ような」
「うん」
にこにこ頷く栞を、僕たちは二人で柔らかく見つめる。
また来年がある、って、しあわせなことだよな。
これがずっと、続きますように。
/
おしまい、です。お付き合いありがとうございました。
散らかしてた伏線(?)の回収ターンみたいな感じでした。
書いてる人がコミュ症びびりですみませんでした、ご感想、誤字報告、ご評価ほんとうにありがとうございます。
吉田寺栞のコナン世界への転生体。
栞が悲惨な最期を遂げたため、汀には栞の死因を始めとした前世のパーソナルな記憶が欠けている。
K学組とは順番が逆であるため栞に汀の記憶はない。
特に猫派犬派とかなく可愛いものは可愛い派。ハロ最強。
大怪我してるのに何でもないなんて言って『
でも、真っ直ぐ前を向いて突き進むのが彼なんだとも思うから、彼女は結局後押しする。
名前を呼ぶなというのは冥界だからとかではなく、『桜井零仁』の世界における彼女の魂を持つ者は『吉田寺栞』だからです。
『桜井零仁』にとって既に故人である汀のほうに『居場所』が釣られたら彼は本当に冥界の者になってしまいかねない。
彼女は何となくいやな感じがする、程度に認識して、勘に従った。正解です。
コナン世界で繋がりができたから、皆さんと一緒に転生していける縁がなくもないけど、何の因果か彼らが彼女の過去に行ってしまったので今回はついていけなくなった。
別の世界・時間軸に行く道もあったけど、後ろ髪引かれて冥界に留まる。普段はだいたい冬眠みたいな状態だけど、降谷さんが迷い込んできたので起きた。冥界があんな見た目だったのは彼女のイメージによるもので、ゲームの中に入ってしまったものではない。彼女がゲーム脳なだけ。
冥界で彼らを眺めていたとして関われないので縁が切れてついていけなくなる可能性があった、が、可能性は繋がることにならなくもないようだ。
冥界で降谷さんにかけた回復魔法は《 ベネディクション*1 》だけど、肉体は現世にあるのでそっちは回復できなかった。魂は全快した。しかし肉体は瀕死のままだったから《 レイズ 》対象のままだった。このへんの理屈も彼女のゲーム脳によるゴリ押し。
(ここでは《 迅速魔 》→《 レイズ 》と使っているため詠唱が無い。本来8秒)
《 レイズ 》だけじゃ肉体は瀕死のままだからそれでも頑張って動いてた降谷さんは健気&ゴリラ。
猫(汀)
普段から飼い猫を大切に愛していて社に通うとも熱烈に慕ってくれた栞と、同じく通うと考えてくれた降谷さんの眩しい魂を気に入った社の猫たちが、名前が招き猫に似ている汀に形代を貸してあげてるに過ぎない。
形代は汀の使い魔状態で、同じ魂が同時に存在することは不可能だから中身がそこに居る訳じゃない。
汀が降谷さんを現実に送り返したのは社の猫たちのテリトリーでのできごとだったため、自分たちの気に入ってる魂を助けようとした者として彼女の存在を捕捉した。冥界はすべての平行世界と時間軸に繋がっているようなないような場所で境界が不安定なのでこういうこともある。
栞の手首の縄を一生懸命切って、ナイフを彼女に渡したのは、あなたも絶対見ているだけは嫌だよねと思ったから。
決して、降谷さんが死んじゃうくらいなら『自分』がどうなったってみたいな腹づもりではない。断じて。……少しはあったかも。怒られろ。
ただ、ほとんど記憶がないから栞の動けなさ加減を侮ってたふしがある。やっぱりどこかでぬけさく。
普段はアプリの位置情報は一括オフにしている。SNSに写真投稿したら実は〜みたいなことにならないための自衛。こんな危ない目に遭うなんて思ってなかった。
実際に飼い猫を連れてたまに通ってくれるようになったため社の猫たちはますます彼らを気に入る。その飼い猫と、しばしばついてくる綺麗な魂をした諸伏さんも気に入る。
汀の身長が高くなったりハイスペックになったのは栞がヘナチョコだった後悔のためかもしれない。
初めの因果では多分降谷さんたちはいなかった。彼らがいなかったらバイト帰りに襲われてたので先輩との云々もなかった。
汀がひょんなことから半端に記憶を残してコナン世界に転生したことで、『もう一つの未来』が拓ける。
栞にはチートなんてないし、転生K学組もそうはちゃめちゃなチートじゃないので、皆でそこそこ長生きするんだと思います。
死後次はやっぱり汀になるけど、もしコナン世界の知識を持ったままになったとして降谷さんたちが桜井兄弟だとは気付かない。似てるかもとは思うかもだけど、彼らには当然『未来』の記憶なんてないので、確かめようもないことは決めつけてかからないと思われる。勝手に取引に出て行かずに取引相手には上司みたいなのが居るのを打ち明けてそう(勝手に囮になりそうではある)。チートが無い場合は助けられたあと公安目指して頑張ってそう。
降谷さん
犯人が潜んでるのに気付なかったのは花火のせい。
引きずるつもりはないはずだったのに、前世の柵がなく汀への想いを抑えなくて良いのもあって、栞の『汀と同じだな』と感じる部分に遠慮なく惹かれている(無意識)。
汀の滅茶苦茶さに辟易してたふうだったけど、設定裏話の最後の通り何だかんだ落っこちてて、汀っぽい何かが全部琴線に触れて愛おしくなる。ああここは汀とは違うんだなって点が見つかることも新鮮で好き。懐が深すぎる。
だから、冥界で汀と会ったり猫が出てきたりして何か引っかかりを憶えるも、栞=汀かどうかはあまり気にしてない。似てるし彼女と同じ魂だとは分かってるから。
彼女が誰か他の人(ただし降谷さんが認められる奴に限る())を見つめるなら潔く身を引く気ではあるけど、多分そうなったら公安目指し始めるか、どこかで汀っぽい所がある人(最早洗脳)を見つけて追いかけるかもしれない。警察官を目指すかカフェの経営を目指すかは栞次第として自分の意志の優先度を下げている。もうやっぱり洗脳。人生二度目だしいいか、というのも大きい。
栞を救った時の戦闘でもう左腕は大丈夫だと感じたけど、用心してマッサージは続けてもらうしリハビリちっくな運動も欠かさない。謹厳実直。
諸伏さん
前世での超人進化っぷりと今生の栞が心配過ぎたのとでゴリラゴリラゴリラ。やっぱり汀は業が深い。
年の差ってずるくないか、と思ってる。
ただ前世で幼馴染が本音を握り潰してたのを痛いほど見てきたから、今生は応援するのもいいかなと思ってはいる。前世夫だった余裕かもしれない。ただゼロと萩原以外には譲らないからな、栞ちゃんの意志第一だけど、とも思ってる。それに備えて(?)栞の中で自身の存在が大きくなるようさり気なくアピールしてはいる。彼にここまでさせるとかやはり汀は罪深い。
将来は警視総監になってるかも。汚職警官潰すね。そして松田さんに殴られる(じゃれつかれる)かも。
猫については会いたかったら神社の敷地内でなら会えはする。彼らになら猫たちが会わせてくれる。でも「この子は汀だ」とあまり感じられない諸伏さんは何となくの感覚で使い魔に過ぎないのを無意識に察してる。ただ、『とめてくれて』発言のこともあって偽物だとかは思ってない。もしかして栞ちゃんの生霊みたいなものが入ってる……? もしくは潜在意識的な分身……? とかは思ってる。彼も汀→栞な転生順だと思ってる。
あまりにも形代を呼びすぎると、社の猫たちに染まりすぎて、汀のみならず栞と降谷さんとハロと諸伏さんも眷属になってしまって囚われる可能性がある。肉体の死後魂が社に仕舞われる。猫たちが気に入る=猫たちを愛する神社の神々全員から好まれる。汀は冥界から動けないまま猫を使い続けるしかない。危険といえば危険。諸伏さんは猫を呼ぶのはあまりよくないのではとなんとなく感じてて、神からの圧というか重い好意を感じ取ってる……?
ただそうなったらそうなったで、彼らは大好きなor懐いてくれて可愛いから愛せる猫という生物に囲まれて過ごせるし、社の信仰が廃れるまで平穏だし、汀も彼らとの縁が切れずにすむ。神社の敷地内であれば参拝者を守るために動けたりもするので、正義感もある程度満たされる。魂の時間は永遠のようなものなので、社がもし廃れたら、その後転生して別の生を受ける可能性もなくはない。
萩原さん
まーた俺の立ち位置遠いのかよ…。
でも転生なんてものが実際に起こるのを知ったから、今生で平和を脅かす気はない。
次があるかもと思わせてる点本当に汀は業が深い。彼と汀は、転生で記憶が無くなったとして結ばれるまで縁は続くのかもしれない。…業が…深い…。
実は既に公安からスカウトが来てたりする。そのうち連絡が途絶えるかもしれない。
この世界はコナン世界ほど爆発しないので、爆処だけにこだわる必要もないかもと思ってる。
…うちを襲ったり栞ちゃんのとこ襲ったり…絶対に許さないからな…。
怒らせたら怖い人。敵に回す奴らは愚かの極み。
松田さん
頻繁に爆発しなかろうがまずは器用さを活かして爆処を目指すんだと思う。あとは臨機応変にどこへも行ける。
不正汚職冤罪etc絶許だから将来監察官になってるかも。
売られた喧嘩は買うぜ。潰す。
萩原さんが見たという千速さんと思しきひとが気になったけど、横に旦那がいるなら徒らに乱す気はない。引きずるのも女々しいかね、と思ったりしてる。
他方、今生でも栞に目を向けられてる三人(やっぱり萩原さんの思考に気付いてる)が眩しくもある。
ただ、彼らが控えめな部分を見せるときは見ていて面倒だと思うことはある。
つまり表に出さない萩原さんは面倒くせえ奴と思ってる。ただ、彼らしいとも思ってて、嫌いじゃない。
伊達さん
何だか除け者のようになりがちだけど、話がどうしても汀や栞を中心に展開されてるためであり、彼にとってはナタリーさんが大切な訳で、ナタリーさんが汀や栞みたいにヤバい目に遭わないというだけ。ナタリーさんは業なんか深くないので。
普通に兄弟たちともその周囲とも仲がいいし一緒にワイワイする。
むしろ願わくば汀や栞に巻き込まれないでください。
しかし今生桜井家にいるため結構危ない目に遭いはするかも(詳細は後述)。でも多分皆で生き抜くし、最後には勝つんだと思う。
青木さん
赤井さんと同じ魂を持ってるけど記憶は引き継いでない。もしくは、栞と同様むしろ前世なのかも?
今は警視庁公安部にいて風見さんっぽい立ち位置にいるけど、そのうちゼロに引き抜かれるかもしれない。
降谷さんは「父さんと同年代くらい?」なんて思ったけど実はかなり後輩。桜井父とても童顔。必然、降谷さんたちも……伊達さんはわからない()。
石に耳ありで『犯人』と言わず『あれ』と言った。
本音では「君たちのおかげで進展しそうだ、後は任せてきちんと青春を謳歌してくれ。君たちには感謝してるし気に入ってる」くらいに思ってるけど、これ以上危ない目に合ってほしくないのと、降谷さんの性格をよく知りもせずにへたに褒めて増長させて優秀な芽を潰してしまうのはいけないと、濁して伝えた。怪我してほしくないから、死んでほしくないから、潰れてほしくないから、頑張って言葉を尽くした。明美さんを喪ったような経験をしていないから、さざなみの頃の赤井さんくらいにはまだ喋るほうな人なのかも。
降谷さんは彼の真意を察したから、笑って拳を合わせた。
及川
桜井陽介が家族を喪い自身も重症を負わされていたたところを、某所轄署の腐敗を探っていたゼロ(もしくは警視庁公安部)の人間(前世赤井さん・記憶無し)に助けられ、死亡を偽装した上での公安配属となる。
桜→(お)、井(い・水)⇒及川
菊→(き)、陽(よう)、乃(の)、介(すけ)⇒梗ノ佑
愛する妻の名前だけでもと偽名に入れた。
少し桜川と迷ってたんですけど違う字なほうがいいなぁってなった。
私立探偵を仮の姿とし、所轄署の腐敗を探る中、同じく所轄署を探っていて編集から不人気部署のライターに左遷させられたほどな吉田寺と、ゼロの陰からの誘導により知り合う。
同じく家族を喪った吉田寺に共感しているが、役作りと精神面の荒みにより、皮肉屋で表面上あんまり優しく接することがない。
このシリーズの捏造コナン世界と違って第一種探偵なんて資格は存在しないため、本来は捜査権等がないはずが、彼が関わる事件には刑事事件だろうと正規の解決がもたらされる。ただし彼の活躍は何故か表沙汰にはならない。警察に太い繋がりがあることが噂されるが、その実本人が警察官だしバックにゼロがいる。
空手の達人で、しばしば吉田寺や自身の身を守る。
桜井家が健在なので、誕生しない。
五兄弟は「吉田寺さんまず父さんとこ来るようになっちゃってるし接点無くさせちゃったかな…?」なんて首を傾げる。
ゼロの目にとまってるのは変わらず、将来がむしゃらに昇進した結果警視正になり裏理事官の一人となる。ゼロ、吉田寺、息子たちとともに(黒田さんみたいに他の役職を兼任してるため姿を隠したりはしてない)某所轄署の腐敗と戦い続ける。
山内行夜のヒット作のひとつではあったが、心が痛む面が多いため、他のスカッとするシリーズのほうが世に求められ、そちらにかかりきりになっているうちに、及川=桜井の設定を作中で描く前にこの世を去っている。
メモ書きはたくさん残っていたようだが、他人には正確に読み取れなかったようだ。