人間関係における、青春だとかそうとは呼びたくないものだとか   作:凍傷(ぜろくろ)

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 えー、まずこちらはカクヨムにて投稿したものです。
 最近鬱々したものばっかり書いてるから、ラブコメ……そう! ラブでコメディな元気あるものを書いてくれるぜ~~~~っ!! とキン肉マンの木っ端キャラのように無駄に語尾を伸ばしつつ意気込んだはいいんですけど、これと、前に投稿済みの『みやびな二人の恋愛話』のふたつと、その後に途中で終わったアナタガスキーあたりで執筆が止まりました。
 元気をください……! 元気を……!


◆イメチェンも 気づかれなけりゃあ 意味がない

-_-/登戸朗(とどあきら):イメチェンした。フツメンだった。

 

 恋をする気持ち、というものを教えてくれた人が居た。

 ふと気がつけばその人のことばかりを考えて、目が合えば鼓動が高鳴って、早くなって、目を逸らしたくないからじぃっと見つめるんだけど、顔はきっと赤くなっていただろう。

 そんな気持ちに気づいていたのかいないのか、彼女もどこか恥ずかしそうに頬を染めて、少し顔を俯かせて。

 そんな彼女に告白しよう、と思い至るのにそう時間は必要じゃあなかった。

 彼女が恥ずかしくない自分に、とかそんな気持ちは案外二の次だった。自分の容姿に自信があるとかじゃなく、俺が俺を恥ずかしくないように変えたいって思った。

 下を向けば、嫌でも目立つ出っ張った腹。

 痩せよう痩せようと何度思っても挫折する心。

 そんな、努力も食欲にあっさり負けて、気力も運動嫌いにあっさり負ける自分が、決意することが出来た。

 恋っていうのはすごいもんだって、そんな眩しいものを活力に、どこまでだって頑張れた。頑張って、努力して、納得出来る自分になって。

 そしてついに俺は、彼女へラブレターを……いやラブレターじゃねぇよあれ。

 

  放課後、校舎裏に来てください

 

 うんラブレターじゃない。ラブレターってのはもっと心と気持ちを込めたものだもの。

 なので呼び出し状? を彼女の下駄箱に入れて、俺はドキドキする胸に手を当てたまま深呼吸を繰り返した。

 繰り返して繰り返して……あの、余計にバクバクいってるんですが?

 大丈夫か俺、告白する前に死なないよな? あ、だめ、息苦しい、でも耐える。愛戦士はくじけない! くじけないからこそ、よろよろと校舎裏までやってきて……深呼吸を続けているわけで。

 

「うううう……ひ、ひと~……!」

 

 人という字を掌に書いて、ごくりと飲むフリをしてみる。効果はない。

 だったらと、棒人間を描いて飲んでみる。時間をかけた分、少し紛れた気がした。

 ……これだ。

 ならばと、本当に字が書けるわけでもない右手人差し指を左の掌に走らせて、人っぽいなにかを描いていく。生憎と絵心はない。イメージ的にへのへのもへじよりはマシかも、なんてエアアートが完成すると、それを飲もうとして……

 

「───!」

 

 じゃり、と足音がして、それが段々と近づいてくるのに気がついた。

 振り向いてみれば、どこかおどおどした彼女が俺を見つめながら歩いてくる。

 俺を見た途端にぴくりと肩が跳ねていたのを確認。あれ? もしかしてヤバい? かなり警戒されてる?

 い、いやいや知らない間柄じゃないし! 結構いい関係築けてきたと思うよ!? さすがに怯えられるほどじゃない筈なんだけどなぁ!

 あ、でも告白されるんじゃ、なんて予想は立てられるよな。

 じゃあ……? あ、やっぱり告白されたらどうしよう、とか思ってるんじゃ……!?

 いやいや男は度胸! もはや退けぬのだ!

 

「あ、の……」

「こ、こんにちは! 突然呼び出してごめんなさい!」

「い、いえ、あの……それは、構わないんですけど……あの、どういったご用で……」

 

 わあ、事務的っていうか義務的っていうか。

 あれ? これ早くも終わっておりませんか?

 いやいや相手もただ緊張しているだけって可能性もあるし。

 

「あのっ……は、はー、はー……すー、はー…………はい。ごよ、ご用、ですよね。はい。あの……」

「………」

 

 テンパリつつも、深呼吸で落ち着いて、彼女を真っ直ぐに見る。

 そして、彼女の喉がこくり……と息を飲んだ瞬間、俺は───

 

「あのっ……ずっと好きでした! 俺と付き合ってください!!」

 

 今、陳腐も陳腐、けれど気持ちをこめるならこれっきゃない告白文句を言い放つ!

 さ、さあ! ご返事や如何に「ごめんなさい、好きな人が居るので」ごぉっはぁああああっ!?

 す、すきっ!? 好きな人!? お断りテンプレ文句だけど、少し俯きがちに頬を染める彼女を見たら、あ、これマジだ……と理解出来てしまって。

 

「そほっ……そ、そう、ですか……! あ、あのっ……それは、その、いえ見苦しいのは承知の上なんですけど! もう、その……割り込む隙もないくらい、ベタ惚れって……ことでしょうか」

「~…………!!」

 

 顔を真っ赤に、きゅうっと目を瞑りながら、こくこくこくと頷かれた。

 あ、これダメだわ、めっちゃ好きだわその人のこと。俺でもわかるくらい大好きだわー、やばいわー。

 

「オッ……オホッ……おじ、お時間……取らせて、ゴメンナサイデシタ……! あの、どうか……お幸せにィイイイッ!!」

「え? あっ───」

 

 クールに去ろうと思ったけど無理だった。走り去りながらも涙がちょちょぎれた。

 

「ななな泣くな、泣くなよ俺っ……メガネデブだった俺だ、顔だって痩せても普通だったじゃないか! 誰だよ陰キャが痩せたりイメチェンすれば成功するって言ったの! 信じる俺も馬鹿だけどさぁ! でもお陰で痩せられました! 振られたけど! ふらっ……う、ぐっ……!」

 

 大好きでした! 本当に、本当に大好きでした! “メガネデブのトドローくん”な俺にやさしく接してくれたあなたが本当に!

 だから恨みごとは言いません! どうか幸せになってください!

 幸せにするのが俺じゃないのがただただ悲しいけれど、その気持ちは本当です!

 だからっ……だか───うわぁああん! 青春のバッキャローマァーン!!*1

 

 

 

-_-/三木奏(みきかなで):おなごはふたりじゃかしましくないのですか?

 

 突然呼び出されて、怖かったから友達の雫ちゃんに付き添ってもらって、校舎裏に。

 待っていたのは雫ちゃんが「うわ、結構イケメンチックじゃない……?」なんて耳打ちするくらいの男の人。

 見るからにソワソワしているのがわかるくらいのソワソワな人が、わたしを見るなりビクーンと肩を弾かせて、深呼吸をし始めた。

 

「うーわー……めっちゃ緊張してるでしょあれ……」

「い、言っちゃ悪いよ雫ちゃん」

「ていうか私のこと眼中になくない? カナだけ真っ直ぐ見すぎっていうか……今時一途だねぇ、まぁ私はそっちのが好感持てるけど」

「じゃあ雫ちゃんが行ってよ……!」

「行くワケないでしょバカ。呼ばれたのアンタなんだから」

「で、でもわたしは、ほら……!」

「アンタも一途なのは知ってるけどね。別用件だったらいい恥さらし者よ?」

「あぅっ……」

 

 手紙。校舎裏。男女。……告白でしょう。

 そう連想できるような状況は揃ってはいるけれど、もし違ったら恥も恥。

 用意していた言葉も恥にしかならないわけで、わたしからなにかを切り出すわけにはいきませぬ。

 うう……今日も放課後に、図書室で、って思ってたのに……! 早く行かないと、彼が帰っちゃうかもなのに……!

 そんなことを考えていたからか、急ぐような気持ちで話を進め……ようとした途端に、いっぱい気持ちがこもった“好きです”をぶつけられた。

 ……え、なんて言葉が喉から出そうになるのを飲み込んで、自分の“一番”を思い出して言葉を返す。

 彼は、まるで脳内にどごーんと爆弾でも落とされたみたいにガビーンとショックを受けたように震えて、言葉を振り絞る。

 ……ここで“隙”を見せたらいけません。見せるなら他人への“好き”です。

 なので、大好きなあの人のことを思い浮かべて、質問に対してこくこくと頷いた。

 それで……決着はついた。

 男の人は泣きながら走っていって、わたしはといえば……え、えー……と、若干呆然。

 

「ねぇ……アンタあのちょい雰囲気イケメンくんと、なにか交流あったりしたの?」

「え? ううん? 初対面の筈なんだけど……」

 

 そう、わたしはあの人のことをなんにも知らない。むしろ私の方が“誰だろう”を訊ねたいくらいだ。

 だから───

 

「ま、今はそれより図書室か。ほらほら急ぐわよカナ。愛しのぽっちゃりさんが、アンタのこと待ってるかもなんだから」

「え、ちょっ……雫ちゃん!? い、愛しのなんてっ……!」

「照れてないで進め進め~♪ 私ゃ珍しくも、太ったメガネ男子と外見地味女子のカナの恋を応援してるんだからっ! いや~、最近の外見ばっかで判断する好いた惚れたじゃない、人間性で勝負にかかるアンタらの恋が、私には眩しすぎる! なのでおかわりください」

 

 言って、雫ちゃんが茶碗からお箸でご飯を食べるゼスチャーみたいなのをする。

 

「なんなの、そのご飯食べてるみたいな動作」

「他人の幸福でメシが美味い」

「不幸じゃなくて?」

「友人の一生がかかってるかもしれない恋愛事に対して、面白いから~とかそんな理由で首を突っ込むたわけた知人友人キョーダイ枠など知らん! 私は誰も触れていない粉雪のような純粋な友心(トモゴコロ)で、あんたの“人格に惚れた恋愛”の末を見たいのだよミキソーさん!」

「ミキソー言わないで。三木奏だから。あと首突っ込んでる時点でなんも変わらないと思うよ? 結局楽しんでるんじゃない、雫ちゃん」

「なにをぬかすか小童が。私は“そっちの方が面白いから”でカナの行動を曲げさせたりしないよ? むしろアンタの頑張りこそが彼の心を射止めるべきだって、本気で思ってるってば」

「むう……でも楽しんでるんだよね?」

「それはごめん。成功してほしいって想いはもちろんだけど、“これからどうなるか”を楽しんでいる心はどうしようもなくございます」

「はぁあ……じゃあ、いつか雫ちゃんが誰かのこと好きになったら、その時は存分に楽しませてもらうよぅ……」

「おー、楽しめ楽しめ。私ゃカナと違って、そういう人が出来たら直球で行くつもりだから」

「……雫ちゃん。さすがに好きな人にボールをぶつけるのはよくないと思うの」

「その直球じゃねーわよ」

 

 呆れながらも図書室に急ぐ。背中を押す親友に苦笑しながら。

 けど……そうして辿り着いた図書室にはお目当ての彼は居なくて。

 帰ったのかな、なんて思っても、次の日も、また次の日も彼が図書室にやってくることはなかった。

 

 

 

-_-/三木奏(再):神「どんな能力が欲しい?」 陰キャ「絶対どもらない最強チートが欲しいです」 神「そんなんワシが欲しいわい」

 

 そんなわけで、とある日の夜に雫ちゃんに助けを求めた。

 

「しずくちゃん……」

『電話が繋がった途端に死にそうな声で名前呼ぶのやめない?』

 

 彼が図書室に来なくなって数日。もしかしたら嫌われたのかもしれない。自分が気が付かなかったなにかで、ひどいことをしてしまったのかもしれない。

 毎日毎日、また明日、って別れたわたしたちなのに、いったい彼になにがあったんだろう。

 

『あん、ん、んー……まぁ、その。丁度よかったわ、私も電話しようかどうしようか、悩んでたし』

「え? …………えと、なにか……あった?」

 

 あ。嫌な予感。

 思ったことを、結構好き勝手に言う雫ちゃんだ、言いよどむなんてとても、すごく、珍しい。それはつまり、わたしにとってとんでもなく面倒な、もしくはよろしくない情報なわけで。

 

『ほら、ついこのあいだまで夏休みだったわけじゃない? 私もアンタも地味~に(はしゃ)いだ大型連休(宿題付き)だったわけだ』

「う、うん……」

『その間に、劇的にお痩せめされ、眼鏡をコンタクトに変えた一人の猛者がおった』

「? あの……雫ちゃん? 言ってる意味が───」

『その男はそれまで大好きであった女生徒に相応しい己になるため、夏休み前から努力を続けていたそうな。まあ、現実的に考えて、眼鏡デブに告白されて嬉しい女子高生って想像つかないしね』

「な、なんてこと言うの雫ちゃん! 人の気持ちを決めつけちゃだめ!」

『ああ、例外も居たわね…………ってそれはどうでもいいのよ。いやよくないから言ってんだけど』

「……?」

 

 話が見えない。いっつも結論からズヴァーって言う雫ちゃんにしては、えらく遠回りで気を使ってるような……?

 はぁー……と深呼吸する音が聞こえた。珍しく、雫ちゃんが緊張してるみたいだ。

 

『……よく聞きなさいカナ』

「うん」

『……夏休み明け、アンタに告白してきた雰囲気イケメン。あれ、キミが惚れてる眼鏡デブ読書愛好男子、登戸朗だったわ』

「───」

 

 トドアキラ。トド、アキラ。……わたしが、大好きな、図書室に来てくれる、あの人。

 え? 朗くん? え? だってあんなに痩せて……え?

 

「あの、雫ちゃん? 人間は一ヶ月程度でそんな痩せられないんだよ? いけて10キロくらいで……」

『はいはい現実逃避しない。私も別クラスの友人に聞いた時ゃ嘘でしょって思ったわよ。でも───』

 

 ……聞くところによると、急激ダイエット成功の秘訣(秘訣?)は、彼の行動にあったそうで。

 彼はそもそも誰かさんに告白するために、眼鏡デブ男子脱却ダイエットを開始。それも夏休み前から長くやっていたそうで、自分で痩せて来たな、と感じてからは重ね着をして痩せてない自分を演じていたそうで。

 よく、“体は痩せても顔の輪郭がちっとも削れていない人”が居るけれど、彼もそのタイプだったらしく、顔の周囲の脂肪よりも体の方が先に削れて行く方だったそうで。それを重ね着で誤魔化しつつ、やってきた大型連休、夏休みを利用して一気にダイエット。眼鏡でデブで地味な人が、一気にスリムにコンタクトになれば、ギャップ効果も出るんじゃないかと考えた末の重ね着だったんだそうです。

 で、まんまと顔の輪郭もシャープにして、眼鏡もコンタクトに変えた彼は、彼いわく好きで好きでたまらなかった女生徒を呼び出して、告白したんだそうです。ええ、はい、ここまで聞けばわかります。それわたしです。

 

「あ、の……じゃあ、わたし……」

『そ。相手が愛しのトドくんと知らず、盛大にフッたってわけ』

「─────────………………富士の樹海……」

『怖い怖い怖い! いきなりなに言い出してんの!』

「ぇ……ぇだ、だって……え? えぇええっ!? 嘘! 嘘だよね!? 嘘でしょ!? 嘘って言って!?」

『“嘘”。はい言った。じゃあ現実見ようか』

「鬼っ! 悪魔ぁっ!」

『魔王様とお呼び』

「余計に性質(タチ)が悪いよ!」

『はいはい、世の中にゃあ現実逃避~なんて言葉があるけど、基本あたしらはそれが出来ないように世の中回ってんのよ。現実逃避が許されるのは一部の猛者だけ。OK? じゃあ現実見よう』

 

 まったくもって正論だった。世の中って本当に恋する乙女にやさしくない。現実逃避くらい、少しでいいからさせてほしいのに。

 

「うぅうう……現実って……?」

『アンタが好きな人の告白を盛大に断ったって事実』

「…………死にたい」

『阿呆言ってんじゃないの。なーに暗いこと言ってんの。少なくともアンタは、好きな相手が自分のことを好きだって知れたわけでしょ? じゃあ次にアンタがするべきは?』

「え?」

『えじゃないわよ』

「………」

 

 するべきこと? するべき? エ……なに?

 

『や、だから。愛しのトドくんには、もう好きって言ってもらったんでしょーが。しかもずっと前からとか。アンタはこれから、その言葉に返すものを改めて用意すればいいの。それで受け入れられればヨシ、もう心変わりしちゃったから、とか言われればそれまで。違う?』

「で、でも好きな人が居るって言っちゃった……!」

『それがあなたでした、なんて最高の誉め言葉みたいなもんでしょ。むしろ“眼鏡デブ男子の頃から好きだった”なんて、相手にしてみりゃ“外見で好きになったわけじゃない”って言われてるようなもんなんだから。それともなにか、アンタデブ専だったの?』

「ちちちちがうよ! わたしは純粋に、朗くんの人柄がいいなぁって思えて、自然と目で追うようになって……! 両親が二人とも太ってて、元々痩せにくい体、太りやすい体質で困ってるんだ、なんて言っちゃうくらいだから、ダイエットだってきっと苦労したんだと思う。それなのにわたし……」

 

 自己嫌悪である。もうやだ、穴があったら入って、反省して、出てきたところをピコピコハンマーで叩かれて得点にされたい……!

 

『んじゃ、カナもちょっと遅れた登校デビューでもしてみればいいじゃない』

「登校デビュー……?」

『そ。トドくんが……まあ元がフツメンだった所為か雰囲気イケメンな感じになってたけど、デビューしたわけだから、カナだって“私はこんなに化けるんだ!”ってのを見せつけるの。ていうか今時三つ編み眼鏡って』

「わたし、自分の中でこれが一番可愛いって思ってるよ?」

『ぶっちゃけ古い。イモい』

「い、いも?」

『芋っぽい女って言いたいの。どこの田舎娘よ、もう』

「……雫ちゃん? 自然と一緒に暮らすって、育つって、容姿を芋で片付けられるほど甘いことじゃないんだよ?」

『ああもう田舎のこと馬鹿にしてるわけじゃなくて! ……カナ、おしゃれとか興味ないでしょ』

「手入れはしてるよ?」

 

 そう、手入れさえしなくていいならそのまんまで居ればいい。私はちゃぁんと、この髪型が可愛いと思っているからこの髪型なんだ。

 

『必要最低限でしょ? 女は最新ファッションと戦ってなんぼよ?』

「それが好きなことならいいかもだけど、好きなことをする時間を潰してまですることかなぁ」

『だまらっしゃい。いーから明日モールに集合。いろいろ行くからお金下ろしてくること。いーわね?』

「ねぇ雫ちゃん。脅しでお金を使わせるのは、一種の犯罪で───」

『アンタトドくんを落としたいのかそうじゃないのかどっちだ!?』

「おしゃれしたってお金かけたって、それわたしの魅力じゃないもん! わたし知ってるよ!? “陰キャぼっちの俺が~”とか言ってる小説は全部が全部、容姿変えたら実はイケメンでした~っていうのばっかなんだから! そんなの結局“ただしイケメンに限る”だよ! 本当の陰キャぼっちに全力で謝るべきだよ! 容姿変えたくらいで陰キャ感が治るわけないじゃん! 陰キャ異世界転移系だってそうだよ! 神様に願う言葉が転移者とか転生者にあるなら、何を願うよりもまずどもりを治す特典を貰いなさいって話だよ! 容姿整えたくらいでどもりが治るわけないじゃん! 異性相手に器用に立ち回れるわけないじゃん! 対人恐怖症ナメんなだよ! だだだだいたい! 陰キャといえばオタク、みたいな書き方されてるけど、オタクでも元気でコミュ力全開の人はたくさんいるんだからね!? ていうかわたしのお兄ちゃん人付き合い良すぎて怖いくらいだよ!」

『ええいまったくこの娘はまた妙な知識を……!』

 

 『や、まあ確かに陽介さんがコミュ力全開オタクなのは認めるけど……』と言う雫ちゃんは、お兄ちゃんとも交流がある。

 ていうかファッションについてもいろいろ話し合ったりしてることもあって、結構仲が良い。好きとかじゃないとは、雫ちゃんの断言である。

 兄、三木陽介はいわゆるオタク……だけど、とても喋るし、学校でも普通に人気者。ガラの悪い級友に絡まれたこともあるらしいけど、今じゃバイクのことに関して二人で肩を組んで熱弁出来るほどの仲だ。

 彼女も居るし、その彼女がハーフのとんでもない美女だったりする。

 コミュと情報とオタに全力を注いでいるだけでは? なんて思われがちだけど、普通に喧嘩とか強い。

 一部では主人公とか呼ばれてるくらいに、なんというか……各方面で強い。信条は“汝、一途を諦めることなかれ”。ハーレム主人公がとても嫌いな兄です。けれどそれよりも、寝取り男が大嫌い。

 兄曰く、

 

“いや、べつに寝取り自体が悪いとは言わないよ。不倫はヤバいけど。その人のことが好きで好きで、我慢出来なくて、正々堂々奪う……一種の恋愛戦争なら全然いいと思う。あ、それ寝取りとは言わないか。……でもさ、それで寝取っておいて、飽きたら捨てるカスは死ぬべきだ。“死ぬべきだと思う”、なんて日和(ひよ)らん。死ね。……考えてもみろ蒼麻(そうま)。そいつが邪魔しなけりゃ幸せになれた筈の女がだぞ? 寝取られて、元の男以上にそいつのことを好きになったからこそそいつに乗り換えたのに、飽きたら捨てるって。人の幸福に対する侮辱だろ冒涜だろ最低行為だろ。じゃあなんのために寝取ったんだよ。相手の男に対する復讐、とかよくあるけどさ、それって“恋人or奥さん”関係ねーだろ。そんなの直接恨みがある相手にしろよって、そう思わないか?”

 

 とのこと。

 蒼麻というのは兄の親友の多摩蒼麻さん。イケメン大学生。

 たまにシャーリーさん……兄の恋人を見る目が危険な時があるけど、シャーリーさんは兄以外の男性にとても強い警戒心を持っているので、寝取り状況なんてものが来たところでスタンガンくらわされて通報されるのがオチだと思う。

 ……ちなみにわたしも兄に持たされてる。スタンガンとボイスレコーダー。

 兄とシャーリー・白銀の仲はとても良好だ。キスだってしょっちゅうしてるし、兄の部屋からあんあん聞こえてきたのだって一度や二度じゃないわけで。

 どうでもいいし関係ないけど、シャーリーさんに向かって“銀シャリ”だとか“白米”だとか言ってはならない。

 

『カナー? ちょっとカナー? 黙っちゃってどしたー?』

「あ、ううん、なんでも」

『そ? ……とにかく。アンタ素材はいいんだから、きちんとしなきゃだめ』

「……出た。陰キャ主人公の知り合い枠が言うセリフ、“素材はいいんだから”」

『その言い方やめい! だいたいカナだって別に陰キャじゃないでしょーが』

「今の時代、眼鏡かけて黒髪ってだけで陰キャなんだよ……。ほんと、陰キャ陽キャで枠決めたがるの、なんとかならないかなぁ。べつにわたし、暗いわけでもコミュ障なわけでもないよ? なのに黒髪眼鏡で三つ編みとかおさげしてるだけで陰キャ呼ばわり。陽キャの人たちって決めたがりだよね。ほんと、なんとかならないかなぁ」

『無理無理無駄無駄。いーからあんたはさっさと諦めて、明日の私の着せ替え人形になりなさい』

「……貯金、いくら下ろせばいい?」

『2万は用意なさい』

「…………べつにお金使ってるわけじゃないからいいけどさ。それってあの、よくある“最初はいいけど使ったあとに、なんでわたしこんなの買ったんだろ……とか後悔するやつ”じゃないよね……?」

『───』

「………」

『次の休み、美容院にも行くから覚悟しときなさい。予約は済ませたから』

「雫ちゃん? ねぇ、雫ちゃーん? それ、わたしのお金が目当てでディナー予約するたかり男みたいだよ?」

『失礼な親友ねこんにゃろめ。心配しなくても絶対にカナを磨ききってみせるから。絶っっっ対に! カナは化けるから!』

「今から死後の心配されてもなぁ……」

『そういう方向の化けるは期待しなくていーのよ!』

 

 まあ、ともあれ、そういうことらしい。

 服に、美容院に……はぁ。散財だなぁ。

 

 

 

-_-/三木奏(再々):歴戦王イキるカーナ【いえ、イキってません】

 

 そんなわけで翌日の土曜。

 土、日と休みなのはとてもいいことだと思います。就職は週休二日の場所がいいです。

 兄や親に曰く、仕事がどれだけ好きでも客と関わる仕事は休み無しじゃ続かない、とのことで。

 

「あっはははは、ごめーんカナー! 待ったー!?」

「遅いぃっ! 自分で時間決めておいて、これもう“今来たところだよ”って言ったらわたしも盛大に遅刻してるよ!」

「カナって地味に痛いところ突いてくるわよね。まあ、確かにあの言葉はお約束だけどどっかおかしい。待った? って言ってるのに今来たところだよはほぼほぼ遅刻だ」

「にしたって遅い! 一時間も待たせる!? わ、わたし、好きでもない架空の男の子に待ちぼうけくらわされた地味子、みたいに周囲から笑われてたんだから!」

「うわー……うん、それはごめん。でも地味子の部分は謝らない」

「噛み千切るよ?」

「ごめん、それはせめて“殴るよ?”にして。ていうか噛むって何処を?」

「二枚舌」

「素直にごめんなさい。あと軽口ばっかでそれもごめん」

「はぁ……うん、はい、許します」

「わお! カナ大好きー!」

 

 雫ちゃんががばちょって抱き着いてくる。溜め息を吐きつつも受け止めてみれば、「でも遅いとかメールも飛ばさず待っててくれるカナとかもういじらしくて惚れちゃいそう……!」とか言ってくる。

 イラッときたので、抱き着いている雫ちゃんの脇腹に、立てた親指をドズゥと「おぐぅ!?」埋めた。効果は抜群だ。

 

「いたたたたた……! よ、よし、じゃあ気を取り直してまずは服から! 美容院の予約にはもうちょい時間あるから」

「んー……ほんとに買うの? わたしこれで全然いいよ?」

「地味以前の問題だこのばかちん! なんなのそのダルダルでモッサい服! デブい姉のおさがりです♪ って言われたら10人中10人完璧に“あ~”って返すわ!」

「い、言っとくけどすっごい勉強とか捗るんだからね!?」

「今時の女子高生が部屋着のまま外に出るんじゃないの!! もーいいもーわかった! 言っとくけどショップに着いてもあんたに選ばせたりしないからね!?」

「えぇ……!? わたし、前から平常心Tシャツとか気になってたんだけど……」

「却下!」

 

 その後、わたしは肩を怒らせ歩く雫ちゃんに先導されて、ぶ、ぶー……ぶてっく? に。

 そこで店員さんに声をかけて、振り向いた店員さんがわたしを見てびくりと停止して、挨拶をしてくれる様をボーゼンと見ていた。

 

「ほら、絶対店員さんにも“うわモサッ!”って思われたわよ」

「モサってなによぅ……」

「えーと、店員さん。この娘、こういうワケ有りのクソ女子高生なもんでして」

「へ? あ、ちょっ!」

 

 雫ちゃんがわたしの眼鏡をシュパンと取って、ついでに髪までも無断でほどいてしまう。

 その上で店員さんに向き直させて、長めの前髪をバッと持ち上げられて……

 

「あぁ……これはもったいないですね。もしやこのあと?」

「ええ、美容院です。なのでこの娘に合いそうなコーデをお願いしたくて」

「なるほどなるほど、お任せください。男も女も、デビューには一生がかかっているって言えるくらいですから」

「ですよねですよね」

「し、雫ちゃ……っ! 返してぇ~……!」

 

 眼鏡を取り戻そうとするも、わたしの手はきゅっと店員さんに握られて、奥へ奥へと衣服の森へと引きずりこまれてゆく。

 その奥で、わたしは軽く髪の毛を整えられて、髪を持ち上げられたまま固定させられてしまった。

 視界が明るいと落ち着かないのに……。

 

「これはなかなかやりがいが……! ん、んんっ! では始めますね?」

「うう……よろしくお願いします……」

 

 お金、足りるかなぁ……。

 ちらっと見た服のお値段、目玉飛び出るかと思ったんだけど。

 このあとは美容院とか……お金、本当に大丈夫かなぁ。

 

……。

 

 結局その日、服を買って小物を買って、美容院に行って……なんということでしょう、“しかしイケメンに限る(女性バージョン)”が完成してしまった。

 ちなみにあのブティックに、平常心Tシャツはなかった。

 

「どーよ! やっぱカナは磨けば光るタイプだったわね~♪」

「馬鹿にしてきた陰キャ(笑)系ラノベ主人公たちになんと謝罪すればいいか……! ごめんなさい……ごめんなさい……っ……ごめっ……ごめんなさい……!!」

「なんでガチ泣きしてんの!?」

「モッサくてよかったのに……! こんな事実知らないままでいた方が、能天気でいられたのに……!」

「心配しなくても容姿変えたくらいじゃアンタのモッサい精神は変わりゃしないわよ」

「雫ちゃんの鬼畜辛辣娘!!」

「せめて鬼畜か辛辣かどっちかにしなさい!」

「この魔王様!」

「ならよし」

「いいの!?」

 

 そうはいうけどこれはない。

 前髪で顔隠して三つ編み眼鏡でよかったのに。

 

「んー、ところでカナ? ラノベとかだと女性がこういうことすると、そのあとどうなるの?」

「え? えと……付き合ってた男の子が居る場合、その人が地味だったりすると、クラスの上位カースト男子たちに声をかけられて、調子に乗って彼氏をイジメたりとか……」

「…………カナっておだてても調子に乗ってくれない困ったちゃんだものね」

「わ、わたしだって調子に乗っちゃうことくらいあるよぅ」

「へー……たとえば?」

「え、えっとね? 朗くんに眼鏡と三つ編み似合ってるねって言われてから、朝に一時間以上かけて髪型キメるようになったり、思い出して家で燥いでたらタンスの角に小指ぶつけちゃったりとか……」

「断言するわ。アンタ容姿がいくら変わってもカナだわ」

「なんかわたし自身が蔑称扱いされてない……?」

「いーからいーから。んじゃ、明日とりあえずトドくん呼び出して告白ね」

「なに言ってるの雫ちゃん! 朗くんあんなにカッコよくなっちゃったんだよ!? ただでさえもう日にち経っちゃってるんだから、思い立ったが吉日なんだよ!」

「はい待ちなさい。アンタはその“意識が向けば突如としてやってくる吉日”になにを仕出かす気?」

「もちろん告白!」

「アンタ正気か!? やっ……わかりやすいっちゃわかりやすいかもだけど!」

 

 そう、時間は待ってはくれない。

 もしや今日、今この時にでもどこかで告白でもされているかもしれない。

 もしくは誰かがそうしようとしているかもしれない。だったら自分から突撃しなくちゃ恋じゃない!

 恋とは───同じ人を好きになれば、一人しか幸せになれない恐ろしきものなのだから───! ……両方玉砕もあるけど。

 

「GO!」

「あ、ちょ、このばかー! 走ったりしたらいろいろ整えたのが台無しになるでしょーがー!」

「ほらー! 邪魔になることばっかだよ雫ちゃん! ありのままの自分で好きになってもらえないなら、そんなのなんの意味もないじゃん!」

「いいからちょっと落ち着きなさいこの馬鹿! ……トドくんの連絡先とか知ってる? なんならもう呼び出すわよ。告白場所はどこがいい?」

「朗くんの家の前!」

「やめろっつーてんでしょーが!」

「雫ちゃん……」

「……あによ」

「恋は───戦いなんだよ!」

「意味わかんないわよちょっ───待ちなさいっつーの! 待ちっ……速ぁああーっ!?」

 

 本ばっかり読んでいると不健康になるわYOと母親に言われたわたしに隙はない。運動しなきゃお小遣い滅ぼすわYOと言われたわたしにも隙はない。

 さあ、この勢いのままに、彼の家まで行って───この想いを、断ってしまった恥ずかしさの分だけ思い切り届けよう!

 そう……恋は戦いなのだから───!!

 

 

 

-_-/三木奏(超再):訳:【ごめんなさい、あなたが好きなのであなたとは付き合えません】

 

 で。

 

「す、好きです! わたしと付き合ってください!!」

「ごめんなさい、好きな人が居るので無理です」

「ドゥウェッヘェエエエァッ!?」

 

 我が胸に 無情なまでの ゲイ・ボルグ

 川柳があっさりと出来上がるほどの悲しみがわたしを襲いました。肛門じゃないだけまだマシです。

 けれどもめげません! あがきます! どこぞの大仏なこばちさんだって『A☆GA☆KE!』と仰ってましたし!

 

「だだだ誰ですか!? どなたですか!? いったいどんな方に───」

「え、っと……ハハ……三木奏さん、っていうんだ。もう、好きで、好きで……はは、フラレちゃったんだけどね。女々しいよね」

(ギャーアーッ!! わたしアホォオオーッ!!)

 

 でも好きって言ってもらえて口角が上がってしまうのを止められない!

 ああ、兄さん、カナは、カナは……カナは幸せです……!! でも阿呆でもあるのでほんとどうしたらよいのか……!

 い、いや、違うよね、うん! ここでまごまごして言い出さないのはラノベキャラだけで十分だよ! 燃えろ青春! 駆け抜けろ恋の花道!

 

「あ、あのっ、それ、わたしっ……わたし、ですっ……! 声、聞き覚え、あると思います……!」

「………」

(困った顔と苦笑が胸に苦しい! あ、そ、そうだ眼鏡! 眼鏡つけて三つ編みにすれば!)

 

 そう思ってバッグを探る。探って探って……さぐ……さ…………

 

(雫ちゃぁあああああああああん!!)

 

 そういえば返してもらってなかった。もう泣いていいと思う、わたし。

 ピッ、ぷるるるるる……

 

『あ、カナ!? どうだった!? ていうかもうほんと突撃したの!? どう───』

「あなたを殺す」

『え? えちょっ、カナ!? カナちょ、なに!? え!? コロ』

 

 ブツッ。ツーツー……ドえらく低い声が自然と出た。もちろん本気じゃないし、八つ当たりというか、行き場の無い気持ちをなにかにぶつけたかっただけだ。とりあえずの心の平穏は得られたんだと思う。では───

 

「あの……」

「はひぃっ!? 殺さないで!?」

「こここ殺しません! 殺しませんから!」

 

 ほんのちょっぴりの心の平穏が裸足で逃げてった。サザ(こう)さん! おさかなくわえたドラ猫のついでに、ちょっとその平穏捕まえてください! ……無理でした。好きな人に告白したあと、殺さないでって言われる女の子って滅多に居ないと思います。

 

「とにかく! わわわわたしはっ! 三木奏は! 登戸朗くんのことが大好きですから! 大好きですからぁあっ! 痩せたくらいで見分けがつかなくなってごめんなさい! ならわたしもってイメチェンしたのに気づかれなくてざまぁみろですわたし! うわぁあああん!!」

「え……え!? えっ……ほんとに!? 本当に三木さ───ってちょっと待っ……速ぇええええっ!?」

 

 逃げました。泣きながら。相思相愛だってわかったのにこんなのってありません。

 今すぐ雫ちゃんから眼鏡を奪い返して、元のわたしに戻らなきゃ、きっとこの恋は成就しないんだ。

 だから元来た道を戻った。戻って戻って、何処か怯えた顔でやたらと周囲を警戒している雫ちゃんを発見した時、相思相愛だと認識して持ち上がりかけていた口角は、ウォーズマンスマイルへと変貌したんだと思います。コーホー。

 

「雫ちゃぁああん!!」

「ひぃカナ!? ごごごごめんなさい殺さないで!? 私、ただカナには幸せになってほしくて! 本当にそれだけで! ごめんなさいごめんなさい! 殺さないでぇええ!!」

 

 親友にヒィと言われてしまった。そりゃ、住宅街の道路の先からウォーズマンスマイルの親友が、事前に殺す宣言までして走ってきたら悲鳴だってあげます。

 

「そんなこといいから眼鏡返して! 眼鏡!! わたしもアホだけど雫ちゃんも大概アホだよぅ! せっかく勇気出して告白したのに、気づいてもらえなかったんだから!」

「え……や、そりゃそうよ。だから止めたじゃない私。そういうのはガッコにでも行った時に、まずは周囲驚いてもらってからしっかり告白するもんでしょ。“え!? あの人が三木さん!?”なんてトドくんが認識してからが理想的だったのに、この恋愛戦争娘は……」

「だだだってラノベで!」

「ラノベ基準で物事考えない! ……たしかに経験とかで語られる物語だってそりゃああるでしょーよ。けど現実なのよここ。そんなんで勝ち取れるなら、世界中恋人だらけだっつーの」

「うう……」

 

 それは、そうかもしれない。

 現実に自分は自分だと理解すらしてもらえず、あっさりフラレたのだから。

 なのに相思相愛なことが嬉しくて頬が緩む。なので返してください。わたしをわたしたらめる眼鏡を、返してください。

 

「……もう、いいから。わかったから、眼鏡返して」

「え? 眼鏡? あー……」

「雫ちゃん?」

「ごめんカナ。そのコンタクト買う時、下取りだとかなり安くなるとかで、その───」

「そういうこと普通真っ先に本人に確認するよね!? 雫ちゃんは馬鹿なのかな!? ていうかお店の人も普通確認くらいとるよね!? 大丈夫なのその眼鏡屋さん!」

「やっ……こればっかりはほんとーにごめんっ!」

「こればっかりって……! もうやだー! もー!!」

「あ、はい……こればっかりどころか、結構やらかしてるわね私……ごめん」

 

 そう高くはない眼鏡だけど、結構愛着あったのに。

 ていうかお金出したのわたしじゃないし、お母さんになんて説明すればいいのか……! ……素直に雫ちゃん連れて行って説明したほうがいいね、うん。

 

「はぁ……踏んだり蹴ったりだよぅ……お金も飛んじゃうし、陰キャ(笑)ラノベ主人公には謝らないとだし……」

「や、後半はむしろどうでもいいでしょ」

 

 溜め息が出る。ああ、学校行きたくない……。

 雫ちゃんがコンタクトケースを握らせてきた時から嫌な予感はしてたのに、恋に盲目になっていたわたしが愚かだった。

 なんてがっくりしていたら、後ろから駆けてくる音。

 ジョガーな人かな? なんて一応の警戒として振り向いてみると、

 

「み、見つけた……! はぁっ、はぁっ……!」

 

 息を切らした登戸朗くんがそこに居ました。

 ……わあ、幻覚が見える。なんでこんな状況に? ひょっとして未練? 未練が作り出した幻覚でござるか?

 

「あっ、立花さんっ!? っ……丁度良かった! えっとその、ごめんっ! すっごい失礼なことを確認させてください!」

「えっ、あ、うん。なに? ええと、雰囲気ほんと変わったけど、登戸朗くん……でいいのよね?」

「は、はい! 以前はデブメガネだった登戸朗! 通称トドローでしゅ! ぁ、で、です!」

「あ、うん。そのどもり方はトドくんだわ。でもほんと変わったね。やっぱりアレ? カナに告白したかったから?」

「う……っ……そ、そうですとも! おれっ……俺は、眼鏡トドな俺は、三木奏さんが好きになりました! でも眼鏡デブのままじゃ絶対に無理だと思ったから頑張って痩せて、あ、その……痩せまして、その……」

「はいはい、言いたいこと急ぎすぎて早口になってる。どもりの原因って大体そこだとか言われてるんだから、まずは落ち着きなさいって、逃げないし逃がさないから」

「雫ちゃん!?」

 

 がっしと雫ちゃんに肩を掴まれた。その上で視線が朗くんに向くように固定されて、顔に熱が集まっていくのを感じながら……わたしはただただ震えた。

 

「……じゃあその、失礼な質問を。三木さんの親友の立花さんに訊ねむぁ、たず、訊ね……ぇ、ますっ、んんっ! ……すいません」

「やっぱイメチェンくらいじゃどもりは治らないわよねぇ」

「~……」

「ほ~ら、気にしてないから話す話すっ。どもりなんて人であれば出るもんでしょ」

「はい。え、と……その。そちらの綺麗な人は、ちゃんとその……三木奏さんで、間違いないのでしょうか」

「うん。奏。ちょっと前にトドくん、この子に告白してくれたでしょ?」

「ドゥグッ!?」

「や、どぅぐ、ってどんな反応? まあいいケド。で、この子ったらその時、キミがトドくんだって気づかなかったのよ。だからせっかくの告白を断って、後悔しまくって、じゃあ今度は自分が変わる番だーって。で、変わった瞬間にじゃあ告白してくるーって、トドくんの家まで走ったわけで」

「雫ちゃん!? しずっ……なんなななななんでなんで言っちゃ……あーっ!! あーっ!!」

「~…………」

 

 朗くんが顔を真っ赤にして俯く。

 わたしの顔をちらちらと見て、戸惑いがちに視線をそらしては、また赤くなって。

 

「ごっ……ごめん、三木さん。俺、三木さんだとは気づかなくって……! す、好きな人の顔がわからないなんて、好きだ、なんて言えたもんじゃ……」

「えっ!? う、ううん!? それは違うよ! わたしだって気づかなかったもん! 急に呼び出されて、知らない人に告白された気分になって、怖くて、緊張して……」

「え……あ、だからあの時、怯えたような顔で…………はは、そっか、嫌われたわけじゃなかったんだ」

「嫌うなんて! ……あ、あの。外見なんかで気づけず怖がっちゃったわたしだけど。……あのっ、あああ朗くんのこと、ずっと好きでした! 太ってたって眼鏡だって構わないです! わわわわたしのこいっ……恋人になっていただけないでしょーかーっ!!」

「……我が親友ながらなんつー告白……」

「い、いやっ……俺の方こそ、こんな綺麗な人に告白されるなんて、絶対になにか裏があるに違いないとか思って距離取っちゃって……! ご、ごめんなさい! 面影にも気づけなかった俺だけど、どうか俺と恋人になってください! ずっと……ずっと好きでしたぁーっ!!」

「………」

 

 すぐ傍で告白大会を視聴していた雫ちゃんは、にっこり笑顔でわたしの背をググイグイグイと押しまくってきました。

 頑張れ、って激励どころかとっととくっつけコノヤロウと言われてる気分です。

 そうして……わたしは、朗くんと手を繋ぐことで恋人同士になりました。

 

 

 

-_-/三木奏(金輪再):日常が楽しいって思えりゃそれが青春それがハッピー

 

 月曜、学校にて。

 

「カナー、おは───モッサ!? うわモッサ! ちょっとカナどうしたのよ! コンタクトは!? 髪は!? なんでまたモサいカナに戻ってるの!」

「あ、うん。あれから朗くんとばいばいして、家に帰ったらね? 突然の変貌に驚いたお兄ちゃんが教えてくれたの」

「……なんかあんまり聞きたくないんだけど」

「お前このままじゃガッコでチャラ男に脅迫されて寝取られるぞって」

「直球で聞きたくない想像そのものが来たよもう!」

 

 そうだろうか。私は目から鱗だったけど。なんなら鱗が滝のように出て左近次だったけど。いや意味わかんないから。

 チャラくしていればチャらい人が集まる。綺麗にしていれば綺麗な人が寄ってくる。人ってそういうものだと思う。なら今までのままなら今までのままの人しか寄ってこないに違いない。

 

「お兄ちゃんいわく、初体験を済ませた後辺りが一番あぶないんだって。もしくは告白が成功して、浮き足立ってる時とか。わ、わたしと朗くんはまだまだ初体験とかそんなんじゃないけど、脅迫とか怖いし」

「……一応訊くけど、脅迫ってたとえば?」

「えーと、忘れていった鞄にコンドーさんが入ってたのを見られたり、ラブホテル入るのを写真撮られてたり。それを教師にチクられたくなかったら~なんて脅迫から始まって、どんどん抜け出せなくなるんだって」

 

 なんて恐ろしいんだろう。世の中にはそんな人が居るのか、って頭が痛くなったりもした。そんなんで脅迫が成立しちゃうもんなんだ、って。

 

「……あんた、コンドーさんとかラブホの写真程度で躊躇する? 脅迫成り立つ?」

「あの、雫ちゃん? わたしだってそういうのは怖いんだからね? ていうかわたしのことなんだと思ってるの?」

「だってあんたあんまり体裁とか気にしなさそうだし。それら見せられても“はぁ……だからなんですか?”とか平気で言いそう」

「失礼だよ雫ちゃん! そりゃ、わたしだけの問題だったらそんなこと軽く言えるけど、その場合朗くんの進退問題にも関わるんでしょ!?」

「あちゃ、あんたの場合はそれがあったか。え? じゃあなに? 脅されるがままになっちゃうわけ?」

「なんで? 好きな人以外に体を委ねるくらいなら、コンドーさん問題だろうがラブホ問題だろうが耐え抜くよ?」

「今までの問答なんだったのよ!!」

 

 心外である。一途少女は脅迫くらいで体を開いたりなどいたしません。むしろ体が目当てなその相手のことを、先生様に報告してでも生き延びます。コンドーさん? その人が勝手に入れたことにいたしましょう。脅迫なんてしてくる相手に遠慮などしていたら、この世界は生き残れません。この世界は……とっくに残酷なんだから……!

 つまり。

 

「脅迫に怯えるのと問題に立ち向かうのとじゃ違うよ?」

「じゃあトドくんの進退はどうなるのよ」

「あはは、そもそもそんな、脅迫されるような状況作らないから大丈夫だよ? わたし、そんな迂闊なこと学校でしないから」

「ラブホは?」

「いかないよ? お金もったいないもん」

「……ITONAMIは?」

「それは……その。初めては彼の部屋で、とか……えへへへへ」

「いっぺんドつくわよコノヤロウ」

 

 どうしろっていうんだろう。ていうかラブホテルとか、べつに行きたくないです。

 そういうのはほら、誰に遠慮することもない年齢とか関係になってからでもいいと思うのだ。

 家庭に守られている内にそんなことをしては、親に迷惑がかかりまする。

 

「なんだかトドくん、苦労しそうだなぁ……」

「わたしだって頑張ってるよぅ。トドくんに相応しい自分でいられるように、日々努力の積み重ねです」

「これ以上努力重ねて、あんたいったいなにになりたいのさ」

「え? えー……え、えへへ……お嫁さん……♪」

「あ。なんか今壁殴り代行を求める気持ちがちょっとわかったかも」

「なんで!? 幸せになれとか言ってたくせに理不尽だよ雫ちゃん!」

 

 でも、いいのだ。努力をしたいのは本当。彼のために、彼にもっと好きになってもらうために、もっともっと自分を磨きたい。兄曰く、そういう少女の気持ちに付け込んで、チャラリーナさんというのは潜り込んでくるので気を付けること、だそうで。

 あと、綺麗になった自分に自惚れて、容姿の変わらない彼氏を見下す女は地雷だから、そんなクズにはなるな、とのこと。見下さず、一緒に綺麗になろう、成長していこうと思える女性こそが、男性に好まれるのだとか。コミュ悪魔の兄は言うことが違うなぁと思った。

 ただし男側が拒んだ場合はその限りではない。努力をしない男は切ってよろしい、らしい。

 たしかにざまぁ小説とかの主人公は、付き合ってる内に好かれる努力をしないのだ。幼馴染関係の場合は子供の頃の約束があるからー、なんて考えて好きでいてもらう努力をしない。そのくせ、ざまぁしようってことになった途端、作中一番の努力を見せたりする。あれは……なんというか恋人さんが可哀想だ。特に、きちんと別れましょうと言ってくれた女の子とかは。

  なので、まず最初に努力をしてから私に告白をした朗くんのことを、兄は結構気に入っているっぽい。

 などということを自慢げに話と、雫ちゃんは頭に手を当てて、天上を仰いだ。

 

「雫ちゃん?」

「……ちょっと待って。なに? あんたトドくんとのこと、陽介さんに報告してるの?」

「進展が気になるんだって。雫ちゃんみたいだよねぇ」

「ぐっは! 反論できない……! ~……でもさ、カナ? もしそうして報告連絡相談してて、陽介さんが“んんんんんー、許るさーん!”とか言い出したらどうする気?」

「ちゃんと話し合うよ? うん。我が家は話し合いが基本です。怒り任せや恥ずかしさのあまりに怒鳴って叫んで誤魔化すことを、我々は許しません」

「……ほんと、トドくん苦労しそうだぁ……あ。それでそれで? その後の二人の関係はどんな感じなの?」

「文通から始めました!」

「おい」

 

 ドスの効いた声が、雫ちゃんの喉からまろびでた。

 

「え? なに? オテガーミは人と人を結ぶ、とても尊いコミュだよ?」

「いや……お手紙って。あんたスマホ持ってるでしょーが」

「……雫ちゃん? 交換日記の甘酸っぱさも知らないで、恋人語ろうなんて100年早いんだよ?」

「あんた今オテガーミ言ってたでしょうが」

「うん。お手紙には伝えたい想いをたっぷり書いて、日記と一緒に渡すの」

「ギャア乙女! 乙女がおる! でででもさカナ!? 交換日記なんて、そんなん学校にもってきたら、それこそ誰かに見られて冷やかされたり───」

「はっ? 交換日記? 今交換日記っつった? ぶっふ! 今時交換日記って!」

「───あ?」

 

 雫ちゃんと話していると、近くを通った男子が耳聡く足を止めて、寄ってきた。

 見るからにニタニタした、嫌な感じ。名前は……なんだっけ?

 

「おい新田てめぇこらこの野郎。それ以上話題欲しさに女の行動に口出ししたら、女子全員からドチャクソ嫌われるって理解してから口開けよコラ」

「───……キ、キノセイデシタ。スイマセン、タチバナ=サン」

 

 新田くん? が青い顔をして去っていった。……雫ちゃん、行動早い。

 

「……ほら! あんな感じで絡まれたりするんだからね!? ただでさえ今のカナはモッサいんだから、男子どもにしてみりゃい~いイジメ相手なの! わかる!?」

「うん。男子って馬鹿だよね。人を蹴落とす行動ばっかしてて、それで女子が好感もってくれるって本気で信じてるのかな? それさえしなければ憧れのあの人に好かれたかもしれないのに、ちょっと気が向いたから~って“これはいじめじゃありません! いじりです!”なんて言い訳して他人に攻撃するの。本人がどう言おうが他人から見ればいじめなのにねぇ」

 

 <ガターン

 <アアッ、オカノガクズレオチター!

 <センゲツ、シンジョウサンニコクハクシテギョクサイシタオカノガー!

 <オカノ!? オカノー!!

 

「あー……岡野、峰岸のことイジメてたんだっけ?」

「うん。峰岸くん、新庄さんと家族ぐるみの付き合いらしいもんねぇ」

 

 やめて、って言っても「こんなんジョーダンだろうがよー♪」とか言って殴ってたらしい。やめてって言ってるでしょ、と軽く怒れば「なにムキになってんだよ。冗談だっつってんだろ?」と逆ギレ。うん、人としてどうかなぁ。

 そんな彼が、校舎裏で「目を瞑って?」と新庄さんに言われ、ドキドキしながら目を瞑って、ドラゴンフィッシュブローをくらったのはあまりにも有名な話だ。

 急に殴られて怒った彼に、新庄さんはこう言ったそうな。「こんなの冗談でしょう?」と。なお、キレて襲い掛かったところ、アイキ=ジツで完膚なきまでに叩きのめされたらしい。ナムサン。

 

「まあほら、岡野は自業自得として。交換日記の他には? なんかないの?」

「手を繋ぎました……!」

「なんで敬語? ああまあいいやうん、それでそれでっ?」

「手が……手がねっちょりってなりました……!」

「うわ、もしかしてトドくん、緊張で手汗とかほとばしる派?」

「……ワタシノ手汗デシタ……!!」

「あんたちょっといい加減にしなさいよコノヤロウ」

 

 それでも乙女かー! と雫ちゃんは言うけれど、イエス私乙女です。

 お、乙女だって手汗とかすごいもん! 乙女だから汗かかないとかそんなんあるわけないじゃないのさ!

 

「はぁ……それで?」

「慌てて朗くんの手を掴んで拭いてあげて、いいよいいよと言う彼の手をそれはもう強引に引っ張って、とにかく綺麗にしなきゃって布でごっしごっし拭ったら……!」

「……なに」

「…………拭ってた布が、ワワワワタシノ、スカートデシタ……!!」

「──────」

 

 雫ちゃんが、このメスの将来、大丈夫なんだろうか……って悲しい視線を向けてきた。

 

「い、いいよいいよって引っ張り合いながら拭った結果、布も大分持ち上げてオリマシテ……!! ワ、ワワワワタシノ、ワワワワワ……!」

「……朝から妙にテンションがおかしかったのはその所為かこのばかちん」

「ばかだもん! どうせ告白した翌日のお出かけで、溢れ出す手汗をねっちょり握り込ませてスカートで手を拭きながらお気に入りのショーツ見せちゃうおバカだもん!!」

「うーわー……改めて聞くと凄まじいほどの馬鹿っぷり……ご覧ください、これ、私の親友です……」

 

 泣きたくなった。泣かないけど。

 そして、そっと離れようとする親友の手を、わたしはムンズと掴んだ。

 

「わたしたち……ずっと友達だよね!?」

「……イメチェンしない?」

「しない」

「まあ、イメチェンしてもカナだもんね。告白した次の日にはもうパンツ見せる女とか、あんた一日でどんだけレベルアップしてんの。トドくんが愛した、図書室の照れ屋さんな天使様は何処に行ったのやら……」

「図書室に天使なんて居ないよ?」

「まあね。堕天してることくらい私でも知ってるけどね」

「?」

「ま、これでひとまずハッピーエンドってことで。イメチェンして告白し合って結ばれるー、とか、結局カナもラノベ展開でくっついたわけかー」

「友人に眼鏡売られた所為で告白失敗するのがラノベ展開……?」

「ゴメンナサイ」

 

 まあでも、ともかく。恋人が出来ました。相思相愛です。

 これからどんなことをしていこうか……それを考えるだけでもドキドキするしわくわくもする。と、とりあえずお昼に一緒にご飯たべることから始めて、図書室で落ち合って、一緒に帰ったりなんかしちゃったりなんかしちゃって……!

 

「よしカナ、とりあえず次の休みまでにぶっちゅまで行ってみよっか?」

「ぶっちゅ!? ななななに言ってるのもう雫ちゃん! 交換日記の次は手を握ることでしょ!?」

「え? なに? ルールなんてあるの?」

「当たり前だよ! 手を繋いで、恋人繋ぎして、腕組んで、いちゃいちゃして、そこからようやくほっぺかおでこにちゅーしたりして、次に口にキスだよ!? 最初からフレンチなんてハレンチな人はどこぞのかぐやさんだけでじゅーぶんだってば!」

「で、ディープが済んだらいよいよカナもおっぱい揉まれたりするのか―……」

「雫ちゃん。お花詰みに行くついでにウェスタンラリアットしていい?」

「なんで?」

 

 雫ちゃんは恐ろしい人だ……気づけば恐ろしい知識を植え付けられている……!

 わ、私の胸なんて……ねぇ?  たたたただの脂肪の集まりっていうか……! そりゃ、朗くんもそういうのに興味あるかもだけど。そんな、私達にはまだ早いと思う。

 

「ま、カナが料理とか作ってあげればトドくんなんてイチコロでしょ。カナ、和食とか得意だったわよね? 前に食べさせてもらった肉じゃがは絶品だったわぁ~」

「フフフ、おばあちゃん仕込みのわたしの料理に隙はないのだよ。あ、でもババ臭い料理が嫌い、唐揚げ作れよ唐揚げとか言い出す男に作る料理はないかな」

「ちなみにトドくんの好みとか、聞いた?」

「ふふっ……ふ、むふふふふ……♪ 実は既に胃袋掌握済みにございます……! ふふっ……うふひゅふふ、ウヒヒヒヒヒ」

「だからこの子はまったくもう……なんでこう所々で残念かなぁ」

 

 朗くんは和食が好きだった。おばあちゃん子だったわたしは、母よりもおばあちゃんに料理を習って、“お台所は女の戦場”スピリッツをしっかりと受け継いでいるのです。炊事洗濯掃除、お裁縫などなんでもござれ。我が戦闘服はエプロンに非ず。由緒正しき昔ながらのあの白き割烹着であるぞ。

 加えて言うなら、だるんとした衣服が好みなのもおばあちゃんの影響だ。部屋着で外に出る? なんの問題ですか?

 というわけで、わたしは一途です。好きになったら真っ直ぐに、好きになってくれたならその人と添い遂げます。ともに白髪の生えるまで。他は知らないけど、わたしの中の愛って、そーゆーのです。

 

「はー……恋かー、いいなぁ、私もそういうのしてみたいわー。ねぇカナ? 実は相思相愛同士って、滅多に見られるもんじゃないって、知ってる?」

「まあ、うん。どんなに仲がよくても、実際はどちらかが我慢してるから成り立ってる関係だ~って話でしょ?」

「そ。難しいわよねー。どれだけ自分は相手が好きなんだ~って思っても、確かにどっかで遠慮してたり恐れたりしてるところ、あるんだな~ってなんとなくわかるし」

「わたしは……」

「トドくんのことで、苦手なものとか、ある?」

「……照れて恥ずかしがってるところに、天然で余計に照れるようなこと伝えてくるとこ……!」

「あんたらもう結婚しなさいよ」

 

 雫ちゃんがどこか疲れた顔で言う。結婚……結婚かぁ。むふふん。

 

「んへへー。おばあちゃんが味方についてくれたから、もう敵無しだよ?」

「ちょっと待て、アンタなにした?」

「おばあちゃんが、朗くんの人となりを調べる、って言ってね? 偶然を装って道に迷ったお婆様を道端で演じたの。朗くん、デート中でもわたしに断りを入れてからおばあちゃんに駆け寄ったんだ。それからしばらく問答してたみたいなんだけど……」

「だけど……?」

「デートも終わって家まで送ってもらったら、お婆ちゃんが既に待っててね? 逃がすんじゃないよ、ありゃあ今時珍しい本当にいい子だ、って言うの」

「わたしゃ気に入られた云々より、おばあさんの瞬間移動が気になって仕方がないんだけど」

「え? ……あ、ややや、違う違うっ、おばあちゃんを道案内したあと、ちゃんとデートの続きしたの! そのあと帰ったからなの!」

 

 言われてみれば、言い方がちょっと端折りすぎてたかもだ。おばあちゃんは確かに足腰ピンとしてるけど、走ったりもするけど、瞬間移動なんて芸当はさすがに……できない、と思う。なんか昔からいろんなこと出来る人だったから、言われても違和感がないのがスゴイ。おばあちゃんスゴい。

 

「まあ予想はついてたけどさ。いずれ家に招いたらマッチポンプだった~とか嫌われない? それ」

「大丈夫。ちゃんと道案内するって段階で、わたしのおばあちゃんだよって説明したから」

「はー……いや、ほんとトドくん苦労しそうだー……ちゃんと支えてやんなさいよ、カナ」

「? うん、もちろんだよ? わたしに出来ることで支えられるなら、いろんなこと頑張っちゃうからっ」

 

 むんっとガッツポーズをとってみせると、雫ちゃんは「うへー……」って感じで疲れた顔を見せた。そこらへんで先生が教室に入ってくる。

 

「っと、ここまでか。陽介さんじゃないけど、なんか進展あったら教えてね」

「進展って。そんな報告するほどのことなんてきっとないと思うけどなぁ」

「あるでしょーが、好奇心旺盛の若人ならいろいろ。付き合って何日でチッスした~とか、実は先日、ITONAMIいたしちゃいましたーとか」

「あっはは、やだなぁ雫ちゃん。他の人はどうあれ、初めてのITONAMIは初夜にするものだよ?」

「え?」

「え?」

 

 ……え?

 

「あの……雫……ちゃん? まさか、経験がおありで……?」

「ないわよ失礼な! ただカナのことだから、トドくんにズズイと迫られてお願いされたら許しちゃいそうだなって思っただけ! こちとら彼氏居ない歴更新中の独り身じゃい文句あっかコノヤロー!!」

「ももも文句はないけど……! でも、意外だなぁって。雫ちゃんモテそうなのに」

「フッフフ、この立花雫、告白された数なら両手を使わなければ足らぬほどの猛者よ」

「え? じゃあどうして?」

「……なだったのよ」

「え?」

「みんな女だったのよ! 告白してくるヤツみんな!! ぬぁ~んにが“私のお姉さまになってください”よふざっけんじゃねーわよ! 断ったら断ったで、”義妹枠は三木さんがいらっしゃいますもんね……!”とか潤んだ瞳で言ってくるしどちくしょー!!」

 

 そういう雄々しい態度が問題なんだと思うけどなぁ。

 

「ていうかカナあんた、初体験は彼の部屋でとか言ってたじゃない。結婚するくらいになったらいい加減同棲とかもしてるだろうし、彼の部屋でもなにもないでしょーよ」

「え、え? ……あの。彼の実家の、とか……だめかな」

「ご両親が気まずすぎて泣くからやめなさい」

 

 と、こんなことを話していたら先生に注意されたところで、会話は終了した。

 

「……ま、頑張んなさい。邪魔するヤツが出てきたら私が成敗してくれるから。応援してるわよ、親友」

「……ん。本当にありがとう、雫ちゃん。頑張って幸せになるね?」

「おう、なれなれー」

「立花、三木ー、さっさと席につけー!」

「「シュワルツミー!!」」

「なんの返事だ!」

 

 とりあえずお昼休みになったら朗くんの教室に突撃してみようと思う。あたかも、古き良き時代にやきそばパンを求め、授業の終了と同時に駆けだす男子高校生のように。

 これからきっと楽しくなる。もっともっと楽しくしよう。

 高校生活を、青春を謳歌するって、きっとそんな感じだろうから。

 

 ……なお。その日から恋人に寄り掛かり、甘え、受け入れられ、甘やかされることにドはまりし、彼氏に尽くすのが好きになってしまうのは、また別のお話。

 

*1
バッキャローとバッファローマンを合わせた肉ダジャレ。ちなみにダジャレは駄洒落と書く。駄がついてる時点で駄目なんだよ……。ていうかそもそも馬鹿野郎ってなんでバッキャローになったんだよ。え? 訛り? ……訛りなら仕方ねーズラ




 恋人に甘えるおなご、大好物です。
 それはそれとして、女性同士の友情とかもジッサイスゴイ。ユウジョウ!
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