黒騎士、エルデの地の紀行 作:ゆでエビ
問題はDLCに間に合うわけがねーって点だ
ようやく落ち着ける場所が見つかったので、この手記を記す。
はっきり言って、状況はまだつかめていない。
この手記を書くことで情報を整理する一助とする。
突然の状況、不可思議なシチュエーション。
そして自身の記憶の不連続性。
これらを鑑みて、まずは自身が何者であるかについてを記す。
自分は、太陽の光の王、グウィンに仕える騎士だ。
中でもデーモンを狩る部隊の所属だった。
自らよりも強大な相手を屠るための剣技を鍛え、巨人の鍛えた特別な武具に身を包んでいた。
そして、それらは今も己と共にある。
少なくとも、明らかに強力なこれらの武具とそれを自在に操れる腕前は本物であると断言できる。
故に、己の記憶は、妄想の産物などではないはずだ。
そして肝心なことに、自分には死の記憶がある。
我が王は消えゆく最初の火を再び織りなすため、己の身を火に焚べた。
デーモンを狩る部隊は、古くから王と共にある親衛隊のようなものであったと記憶している。
だからこそ騎士の中でも意匠の繊細な上質の鎧を賜り、扱いの困難な武器を使うことが許された。
そして我が部隊は、一様に王に強い忠誠を誓う者たちであった。己も例外ではない。
故にこそ、我々は王の旅路を追った。
そして……偉大なる王を薪に、最初の火が織りなしたとき。
我々は焼かれ、灰となった。
それが、私に残っている最後の記憶だ。
最初の火の炉と呼ばれる地で、我々は灰と散った。
いま私の手元にあるすべての装備品は、剣も盾も鎧も、ことごとくが黒炭のように黒く燃え焦げている。
私の記憶では、これらは全て陽をまばゆく反射する美しい銀の色をしていたはずなのに。
この黒く焦げた装備品が、私の最期がいかなるものであったかを雄弁に語っていた。
ここまでが、私が覚えている自分のすべて。
この先は、今の状況について記そう。
私は故も知らぬ洞窟で目を覚ました。
暗い洞窟ではあったが、芽生えた黄金の若木が光を放っており、周囲の様子を窺えた。
辺りにはおびただしい数の棺が散乱しており、白骨化した死体にまみれていた。
私のいた棺には、黄金の瓶が二つほど転がっていた。
中にはそれぞれ緋色と青色の雫が満ちていた。
どうも、この雫は強い再生の力があるようだ。
私が意識を取り戻したのにも、この力によるところなのかもしれない。
私は訳も分からず、けれど辺りを探索することとした。
洞窟は何らかの遺跡と繋がっており、やがて私は地上に向かう昇降機を発見した。
そしてその先、鉄扉の向こうには、外の世界が広がっていた。
正直に言って、それは私にとって、衝撃的な光景だった。
目を見張る程に巨大な黄金の樹が、そこに根ざしていたからだ。
枝は空に蓋をするほどに広がり、幹は視界を塞ぐほどに太く、黄金の輝きで世界を煌々と照らしていた。
私はこの黄金樹を見た時、自分が異なる世界に迷い込んだのだと、そう確信した。
呆けて黄金樹を見上げる私に、声をかけるものがいた。
白面をつけたその者は私を「褪せ人」と呼び、彼は私がエルデンリングを求めてこの地に来たと決めつけて話を進めた。
更に彼は私が「巫女無し」であると言い、あたかも落伍者かのように扱った。
故に導きを知らず、ルーンの力を得られず、円卓に招かれぬと。
そして白面、ヴァレーと名乗ったその男が言うには、褪せ人には祝福なる黄金の灯が見えるらしい。
なるほど確かに私には傍らの地面に灯る黄金の光の塊が見えていた。
ヴァレーの言葉が確かなら、私は「褪せ人」とやらなのであろう。
この祝福の光というのは光の筋を伸ばし、その導きを辿ることがエルデンリングを得ることに繋がる。
だから断崖の上の城に住まうデミゴット、接ぎ木のゴドリックを目指せと言うではないか。
白面の言葉の全てを鵜呑みにはできないが、ひとまずはそれが私の行動指針となるだろう。
彼の発言には、耳馴染みのない言葉が多分に含まれていた。
情報を集め、その言葉の意味を探る必要もあるだろう。
私は手始めに、目下に見える半ば廃墟と化した崩れかけの教会に立ち寄った。
そこでは新しい祝福の灯と、赤い装いの者がいた。
その者は大荷物を乗せたロバのような生き物とともに、焚火を囲っていた。
話しかけると、どうも流浪の商人であるらしい。
カーレと名乗った彼には、大変親切にしてもらった。
特に、この世界で使われるルーンについて教えてもらったことは大きい。
落ちていた頭蓋をうっかり踏み砕いたときに手に入れたものなのだが、まさか通貨だったとは。
この手記と筆記具も、彼から購入したものだ。
身一つの長旅を案じ、ツール鞄も購入したかったのだが、生憎とルーンの手持ちが足りなかった。
まとまったルーンが手に入ったら再びここを訪れて購入するべきだろうな。
まだ何をすべきかも定まっていない。
けれど、きっと長旅になる。
また落ち着ける場所があれば、この手記の続きを記すとしよう。