黒騎士、エルデの地の紀行 作:ゆでエビ
ひとまず、私は土の露わとなっている道を辿ることにした。
整備された道ではないが、この教会に繋がっている以上、さかんに人の往来がある道のはず。
実際にその予想は正しく、少し歩けば赤と緑のサーコートを着た一人の兵士と出会った。
残念ながら、彼は私を見るや否や剣を抜き放ち斬りかかってきたので、やむなく返り討ちにした。
装備の質はそこそこだったが、兵としての練度は低い。所属は知れぬが、一般兵だとすればこんなものだろうか。
その先でも同じサーコートの兵が崩れた荷車を物色していた。
勘違いでなければ、私には略奪を働いているように見えた。
試しにわざと物音を立てて私に気づかせれば、この者もまた一目散に私に襲い掛かってきた。
どうやら、この地の兵にとって私は排斥対象のようだ。
道は崩れた建物の連なる廃墟に繋がっていた。
サーコートの兵が多数駐在し、物資が集積されていた。廃墟を再利用した軍の臨時的な駐屯地だろう。
迂回しようかとも思ったが、中に祝福の灯が見えた。
結果として、私はこの近辺の兵を蹴散らすことになった。
私を視認するやいなやラッパを吹き、総出で私に襲い掛かってきたのだ。
人数はもちろん、飼いならした犬もいて、地形をうまく使わねば危なかっただろう。
中にはこの部隊の隊長と思わしき実力者もいた。
金装の大盾を装備した騎士で、中々骨のある相手だった。
それと、近くの床に興味深い走り書きがあった。
端的に、廃墟には地下室がある、と記されていた。
兵を掃討した後に探索してみれば、確かに地下に通じる階段を見つけた。
この地の建築様式なのだろうか? またこのような廃墟を見つけたら探してみよう。
地下には安置された宝箱があり、中身は文字の刻まれた砥石と灰だった。
詳しく調べてみると、この灰は戦士の技が記憶されており、砥石はそれを武器に込める道具のようだ。
この灰は「嵐脚」という、踏み込みと共に一陣の嵐を巻き起こす技が記憶されていた。
地下の宝箱に丁重にしまわれていたのにも納得だ。
それから、この近辺の地図も入手した。
街道沿いにオベリスクがあり、そこに地図が収められていたのだ。
旅人への配慮だろうか。ありがたく拝借した。
このあたりはリムグレイブ、という地名のようだ。
今後も街道沿いを探し地図を集めるのもよいだろう。
そうして祝福の灯に腰を降ろしたのだが、私の元に近づく影があった。
黒衣を纏った女は、名をメリナと名乗った。
淡い桃色の髪で、閉じた片目の瞼に痣があるのが特徴的だった。
彼女は私に取引を持ち掛けてきた。
要約すると、指巫女の代わりをするから、旅の同行を許し、ゆくゆくはあの黄金樹のふもとまで連れて行ってほしい、と。
取引は断った。
指巫女ができるというルーンを力とする業にも興味がなかったからだ。
しかし彼女に諦めた様子はなく、しつこく粘られたあげく、熱意に根負けして結局契約を結んでしまった。
だが興味深い話もいくつか聞けた。
彼女は自らを売り込むため、いくつかこの地に関する知識を私にもたらした。
ここはエルデの地というらしい。
女王マリカが大いなるエルデンリングの力によって治める世界だと。
そういえばここに来る路傍に、小さな女の像があった。
今にしてみれば、あれがそのマリカの像だったのかもしれない。
そのマリカとやらが乱心してエルデンリングを自ら砕き、マリカの子ら……デミゴットたちが破片たる大ルーンを手に破砕戦争を起こしたと。
その戦も、結局勝者がおらず、この世界には今、王が不在であるそうだ。
破砕戦争の余波もあり、このエルデの地は荒れ果てている。
どこもかしこも廃墟にまみれているのはそういう事情があったらしい。
ともあれ、私はこのメリナを黄金樹のふもとまで連れて行かなければならなくなった。
まあ、よいだろう。
どうせ、あてもなく放浪するだけの旅だった。
元の世界に帰ろうという意志だって、私にはない。
我が王は既に薪となった。
王の無い世界に望みを抱けなかったからこそ、我々は灰になるのを承知で王の火継ぎを追ったのだ。
かの地、ロードランへの未練はない。
しばしの道連れだ。
ほんのひと時、彼女の使命を借りてエルデの地を旅することにしよう。