欧州選手権。1年間の総決算として行われるこの大会は、世界ランクの高い選手と今年の世界大会の優勝者、準優勝者等々が招待され、計128人がシード枠などなしのトーナメント形式で戦う。
この大会における、大きな特徴としては持ち点が5万点でスタートする点と役満の複合がある点。……世界ランク上位同士の対決故にダブル役満やトリプル役満が出ることもあるため、簡単に飛ばないよう5万点スタートとなっている。
その決勝卓に、白築はいた。観戦席に座る怜は、隣にいる戒能や三尋木とあーだこーだ言いながら観戦を始めるが、欧州選手権の決勝卓は異常だった。
特に決勝卓のメンバーであるニーマンは、魔法を使う。中でも強力なのは記憶を消す魔法であり、麻雀関連の知識をごっそり失わせることすら出来てしまう。これまで最も楽に勝ち上がって来た選手であり、しばらくは世界大会に出ていなかったため世界ランクは3位にまで落ちているが、元世界ランク1位は伊達ではない。
その魔法を飛んで回避した白築とニーマンで決勝卓では殴り合いが起き、結果として南2局までの間に他2人の選手の点棒は10000点を切る数字となっていた。南3局開始時点で、白築は10万を超えている。それを2位のニーマンが8万点台で追っており……。
『……白築プロが振り込む未来が視えたで』
(あかん。完全に操られてる。さっき翼出して羽ばたいていたのに……何か罠でもあったんやろか?)
南3局という白築の得意な場で、白築がニーマンに倍満を振り込む。これにより、順位は入れ替わりニーマンがトップに。その点差は12600点とそれなりにあるが、ラス親は白築のため、満貫ツモで再逆転となる場面。普通であれば、まだ希望の芽はある。
……しかしながら、白築は南3局でとうとうニーマンの魔法にかかり、麻雀の知識の大半を忘却した。自力での解除は、難しい。シノハユでは白築慕の母親である白築ナナがニーマンの魔法にかけられており、娘のことを何年も忘却させられている。
(昨日ニーマンと戦ったすこやんが言ってたけど、麻雀に関わる知識を忘却させられるって本当かいな)
『まあ世界トップクラスになると五感を奪われたり呪文で精神を崩壊させられたりするぐらいは覚悟してたけど……記憶消すとか本当の化け物やないかい』
(あれ、待って。未来が視えへん。オーラスで何が起こるんや?)
『……何かめっちゃ白築プロからオーラ出てるんやけど窓ガラス割れてってない?というか揺れとる。地震が珍しいヨーロッパで地震が起きとる!?』
迎えたオーラス。地震が起きたり2階席の観客席のガラスが謎の突風で割れたりする中、白築の親番での南4局が始まる。その最初の手牌を見て、白築は打牌をしなかった。元から、完成していたためだ。東南西北が3枚ずつに、一索が1枚。そして一番右端にある牌は、一索。この大会は全ての試合で配牌まで行う自動卓を使用しており、天和の時の第一ツモは右端の牌と規定されているため、天和と四暗刻単騎は複合する。
天和、大四喜、四暗刻単騎の5倍役満。親の5倍役満は8万点オールとなり、ニーマン以外の他2人はぶっ飛ぶ。最終的な白築の点数は、32万8200点。ここまで点数が稼がれたことは欧州選手権の長い歴史の中でも初めてのことであり、当然ながら白築の32万8200点は過去最高得点として記録される。白築には世界王者の称号と、ワールドレコードホルダーという二つ名がつくようになった。
『……天和とかむちゃくちゃや。いや、南4局が一番強くなる白築プロは、タコス神と対極の存在というか、南2局までは能力乗らないと考えると範囲が狭い分強力なオカルトってことやしあり得ないこともないか』
(……インターハイ決勝に向けて調整したように、白築プロもこの対局がピークになるよう調整はしとった、か。それなら天和は納得やけど……)
『まあ風牌送りとかやってるからある程度は風牌を操れるんやろうし、一索に至っては説明要らんから最初からこの場での5倍役満を狙っとったとしか……』
(狙ってこんなんされたら凡人はたまらんで!?……この前の東風フリースタイル、白築プロにとっては調整試合やったんやろうけど勝ってて良かったわあ。しばらく勝ち逃げしたろ)
少なくとも数年、下手すれば数十年と破られない記録だろう。しかしながら怜は、理論値ではないことに僅かな希望を持つ。
『5倍役満よりも上、6倍役満が存在する以上、白築プロの上がりは理論値やない』
(……八連荘はないから四槓子、四暗刻単騎、大四喜、字一色の6倍役満か天和、四暗刻単騎、大四喜、字一色の6倍役満が理論値やな)
『つまりあの記録は、更新可能や。
……更新するとしたら宮永咲なんやろうな』
(……四槓子、四暗刻単騎、大四喜、字一色の方なら何か可能性ありそうで怖いな)
5倍役満も非現実的だが、6倍役満はもっと非現実的だ。……支配力にも調子の波がある以上、弱い方が強い方に勝つこともある。目指すべき頂の遠さを知った怜は、これまで以上に能力の強化に努め……とうとう、意識的に【怜-Toki-】の原作を視ようとするようになった。