石連寺小が2年連続となる全国大会出場を決め、怜は地味に増えた新入部員達と麻雀を打ち続ける。複数盤面の未来視にも慣れた結果、怜はノールックで多面打ちをしていた。……一度も手牌や河を自分で見に行かず、他人に自分の手牌から打牌をさせていた。
「竜華ー、次は二筒切りでリーチや」
「……なるほどなあ。何となく怜と同じ視点持てるようになって来たで」
「せやったら次にツモる牌を当ててみい」
「西の方?」
「ビンゴ」
怜は怜の方の対局を打ちながら、一切竜華の方の局面を見ないで打牌だけ指示する光景はもはや異次元だった。当然ながら竜華の方の対局でもツモ切りリーチからの一発ツモを披露し、竜華は何となく怜の打ち方、それも他家を利用する打ち方について理解を深める。……怜は能力の特性上、この他家の利用が極めて上手い。
新入部員達の目的は怜と打つことなのだが、この力を利用すれば一度に7人、10人、13人と怜は相手にすることが出来る。この複数盤面での未来予知という能力を呼吸と同程度の感覚で使えるようになるべく、怜の鍛錬は続く。
「いやこれ化け物やろ」
「しんちゃん次は中切りやで。あと葉子は九筒」
「……どこにカメラがあるのですか?」
「心の中や」
自動卓4つを使用した明らかに異常な多面打ちは、校内で話題となり見物客も多くなる。その中には麻雀部へと入る生徒もおり、結果的に怜の下の世代の麻雀部員数はとても多いものとなった。怜達が卒業する来年以降も、部としての存続については心配しなくても良くなった。
『全国大会までまだ結構時間あるし、色んなことを試してみたいな』
(そんなことより修学旅行や修学旅行!
絶対【怜-Toki-】の原作でイベントあるやろ。小学生最大の行事やで?)
『あー。原作キャラ登場ありそうやな。
……名古屋で原作キャラいたっけ?インターハイが東と西で分かれてるけどどっちも高校の名前憶えてないし』
(東海王者の対木もこがおるやろ。何でお兄さんが把握してへんねん)
『対木もこは愛知だったか。……会う確率は低そうやし、そもそも麻雀始めて5か月で東海王者だからまだ麻雀のルールすら知らん時期ちゃう?いや、だからこそ怜達に会わせやすいかも』
怜は時折【怜-Toki-】の原作シーンの一部が流れ込んで来ているが、大抵はもう既に終わっているイベントのことを視たり、前後の流れが不明瞭過ぎてイマイチ知識として使い辛いものばかりである。また、意識的に視た原作シーンは竜華が二条泉に水鉄砲をぶっかけられたシーンと、その後の麻雀シーン。そして江口と竜華の初会話シーンの3つであり、翌日まで身体的に辛い高熱が続く代償の割に合わないと封印した。
石連寺小は修学旅行で名古屋へ行くため、そこで原作キャラとの邂逅なんてものもあるかと妄想を膨らませる怜だが、そんなものは特になく原作でも1コマでの描写だけでスルーされた修学旅行は何のトラブルもイベントもなかった。
(よー考えたら毎年夏に東京行っとるから名古屋って近場やんな。修学旅行で遠出したって気分にならへんで……)
『新幹線で通り過ぎる場所やしな……。
あと怜ちゃん思考インドア派過ぎない?水族館であそこまでテンション上がらない小学生いる?』
(林間学校でも水族館行ったし……原作からして班分けの際に最後の一人に残らないか不安になるようなぼっち陰キャ怜ちゃんやで?)
『今でも介護人の竜華と葉子ちゃんとしんちゃんがいないとわりとぼっちだしな』
(お兄さんの前世のこと考えたら3人友人いれば十分やろ!)
『……十分や!』
一泊二日の修学旅行では、水族館を竜華に引きずられながら歩き回ったり、同じ部屋になった竜華の布団に入り込む怜。その最中に原作が流れ込み、元々竜華とは正反対な人間だと思っていた怜は、原作でもそのように思うシーンがあってホッとしている。
「林間学校は二泊三日やったしキャンプファイヤーとか花火とか楽しかったんやけど……修学旅行ってスケジュール詰め込みすぎやない?」
「そやなあ。自由時間が少ないって感じはするわあ。
……じっと見つめてきてどうしたん?」
「いや……うちと竜華って人間として何もかも違うなあって」
「全く同じ人間なんていないし当たり前ちゃう?」
林間学校が二泊三日で長く感じたのに対し、修学旅行は一泊二日で短く感じる怜はそのことを竜華に愚痴り……竜華を見つめる。麻雀以外の色んな面で竜華に劣る怜は、竜華が傍にいてくれることについて改めて感謝しようとする。
「竜華……好きやで」
『あっ』
(いつもありがとうなって言おうとしたらミスったで!?)
『何で陰キャってすぐ告白するん?』
「……うちも好きや」
(通じ合えたで!)
『いつも麻雀でサンドバックにしているのにそれでも好いてくれる聖人。完璧超人かよ』
……竜華と怜は1年以上麻雀打ち続けて、怜が四麻で竜華に負けたのは練習試合の時の1局だけ。負け続けているのにそれでも仲良く出来ていることに、怜は改めて感謝した。