「江口さんは少し黙っててな。
まずは1年生から2人もレギュラーに選んでくれることにお礼言わなあかんで。
ただ……補員は残った面子から実力順に選んで貰えますか?」
「補員を?
それは別に構いませんが、普通はレギュラー陣と入れ替えたりしないですよ?」
「それと……うちが『このままだと負ける』と判断した場合、補員と入れ替えて貰いたいです」
怜はまず、補員についてはレギュラー陣以外で実力順に並べろと言い、そのことは曽根崎も受け入れる。元々曽根崎も、そのつもりではあった。大抵の場合、補員は試合に出ることがないからだ。
そのことを確認した上で、怜は「負けそうだと怜が判断したら負けを回避するための交代を受け入れろ」と曽根崎に突き付ける。残念ながらこの件については、曽根崎は拒否をする。そもそも怜には現状、何の権限もない。
「園城寺さんは、未来が視えるとでも言いたいの?」
「そうやなあ……。
部長、一度勝負しましょう。ああ、麻雀ではないです。そんな大人げないことしません。牌当てゲームです。
部長が14牌、好きに選んで裏側で並べてください。うちも14牌選ぶんで……完全一致したら、さっきの件を認めてくれませんか?」
「もし1つでも当たらなかったら?」
「1年生の枠は0で良いです」
そして怜は、曽根崎に勝負を申し込む。牌を14牌、互いに選び、一致するか否かのゲーム。普通であれば、曽根崎の勝率は99%を超えるであろう勝負。……曽根崎は、怜のこの勝負を受け入れる。普通であれば、絶対に負けようがないゲームだからだ。
「怜、あんな勝負を挑んで大丈夫なんか」
「江口さんも分かってるんとちゃいます?怜のこの手のゲームの勝率、100%ですよ」
「前に竜華に負けてませんでした?」
「あ、あれは私もずっこしたから……」
怜の後ろがガヤガヤ喋り始めるが、勝負を挑んだ怜は目の前の曽根崎に集中し、何重にも未来を視る。怜にとって、99%勝てる勝負だから挑んだ勝負ではあるが……目の前の存在が、未来視を改変出来る存在であるかは結局勝負することでしか分からないからだ。
(まあ曽根崎部長が未来視を逸脱出来る実力者なら素直に従うで)
『……それなり程度の打ち手でしかないことは最初の反応で見破ったくせに。
というか四索を3つ選んでくるとかちょっと嫌らしいことしてるな』
(同一セットから選んでたら四索足りひんで。……たぶん、逸脱はないな)
『まあ向こうもこれ全部は当てられへんやろって普通は思うからな。だから勝負を受け入れたんやろうけど』
「こっちは選んだけど……何でそっちはもう並べてあるの?」
「部長……未来はもう、決まってるんやで」
曽根崎が14牌を選び終わる前に、怜はずらっと14牌を目の前に並べる。……この手のゲームで、当てる側が先に選出し終えていることは稀だろう。曽根崎は怜の目の前に並ぶ14牌を見て、2牌ほど入れ替えを行い……互いに、14牌を選び終えた。
「……これで当てられるようなら、それこそ園城寺さんに全権を任せますよ」
「そこまではええです。さて、開けていきましょうか」
左から、互いに1牌ずつめくっていき……1牌めくるごとに、麻雀部員達のざわめきは大きくなる。その光景を見て、ドン引きしていないのは竜華と葉子だけだった。江口ですら、怜が恐ろしい存在に思えた。
「……全牌一致や。約束は守って貰うで」
「……なるほど、わかりました。
怜さんが勝てないと判断した時に、補員の1年生と交代する。よく考えてみれば、一番理に適っていますね」
怜の提案は、何もレギュラー陣を全員降ろせじゃない。むしろ、3年生への配慮の方が大きい。最後の大会、勝てる試合は勝って、負けることはないのだから。
そもそも大阪府大会の優勝を目標に掲げているのに、怜達を使わないという選択肢はない。要望が通ったことに怜は安堵し……先輩達は恐怖に怯える。
「……昨年度の全小トップ勢ってこんな化け物と戦ってたの?」
「世界ランカー怖い……」
「除ヶ口さん小学生の時怜さんとよく打ってたって本当……?」
「何かめっちゃ怖がられてるで」
「うちも怜にアレやられた時、最初は恐怖やったからなあ。今は3回に1回は勝てるけど」
その後は区大会のレギュラー決めのための総当たり戦を開始し、怜は竜華と江口と葉子の3人に、合計収支で勝った奴がレギュラーやと煽り……怜自身は、±0を狙い始めた。
『どうせ竜華と江口が1位2位になるやろうから1年生の中で3位になるのを狙うだけの簡単な作業や』
(葉子と比べるとセーラの方が火力あるし、葉子とセーラの総合収支対決ならセーラが上やろな。
さて、最初は±0の練習や。……いや咲ちゃんこれを息するように出来るのおかしいやろ)
『どう足掻いても±0に出来ないこともあるしな。……とりあえず±0続けて、上位陣がどれぐらいの収支になりそうか把握したら5位辺りに滑りこもか』
(実力ならさっき見せつけたしなー)
総当たり戦を開始すると、竜華、江口、葉子の3人が各卓で暴れ、時には点棒を食い合う。そんな中、一人±0を続け、最終局とその1つ前の局だけで+120という数字を叩き出した怜は、無事に総合5位に滑り込んだ。