しずく照らす光   作:シベ・リア

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こんばんは!本日2回目の投稿です!
前回のプロローグから時間を進め、アニメ本編でいう1年後のお話になります!
今回は前回話にも出ていた"合同演劇会"の話が本格的に始まってきます!どんな風になるんでしょうか?
それでは、お楽しみください!




第1話「あなたの理想の幼馴染(ヒロイン)

 

 

━━━あなたと話す度に胸の中が幸せに包まれる。それはまるで喜劇を観終えたような感覚。

 

どんなに1人で『あなたが好きです』という言葉を練習しても、それは演劇のように上手くいかなくて、あなたの顔を見ると言えなくなってしまう。

 

 

でも、それでも……

 

 

『あなたが好き』という気持ちには嘘は付けなくて、私のこの恋心に気付いて欲しいから電車の中で寝たフリをしてもたれたりしてしまう。

 

 

ねぇ………

 

 

 

私は、あなたの理想の幼馴染(ヒロイン)になれていますか?

 

 

 

『しずく照らす光』

 

第1話「あなたの理想の幼馴染(ヒロイン)

 

 

 

 

━━━4月。

 

しずくと輝林は2年生となり、ついに来月に控えた虹ヶ咲学園本校と分校の合同演劇会のミーティングや準備も着々と進んでいた。

2人はこの企画が始まってからの話し合いに参加していて、演劇会のスケジュールや各自で披露する演目と合同でやる演目、開催する日時や場所などを決める為に少なからず貢献した。

 

しすぐの所属するスクールアイドル同好会のライブや前3年生の卒業式などが終わり、ある程度落ち着いて来た頃にそのミーティングは隔週から毎週になっていて、本番が近づいて来る毎にその内容は本格的なものになっていった。

 

今日はまだ春休み中ということもあり、各自練習や準備を朝から行っていた。

ミーティングは午後から本校で行われていて、ある教室の一室には輝林やしずくはもちろん、各部長や副部長、書記や会計の役割を受け持っている部員、さらには立ち会いやスムーズな進行・取り纏めのために各生徒会長が同席していた。

しずくと同じスクールアイドル同好会に所属している三船 栞子(みふね しおりこ)は本校の生徒会長であるためここに同席している。

 

「会場は本校(わたくしたち)が責任を持って抑えておりますので、皆さんお手元の資料で確認をお願い致します。加えてステージ設置の業者、当日のお弁当や飲み物も手配済みです」

「何か不備等があればすぐに対応するので言ってもらえればと思います」

 

会場や当日の必要物などはミーティングで決めていたが、その許可や手配は各生徒会が協力してくれており、栞子と分校の生徒会長美空 透(みそら とおる)が資料を使ってその報告をした。

参加する生徒達はそれに目を通して最終確認をしたが特に不備はなく皆頷いた。

 

「今のところは大丈夫そうね。三船さん、美空さん、ありがとうございます」

「いえ当然のことをしたまでです」

「ですです!この演劇会は演劇部だけじゃない、各校にとっても重要な催しになりますからね!」

 

この演劇会は今までにない試みで、これによりお互いの部活の交流も増え、虹ヶ咲学園の校風や成果を伝えることができると考えられているため生徒会や教職員、それにOBOGも所々で協力している。それだけ色んな人からの期待があるということで、各演劇部の生徒達もより活発的な練習や準備を行なっている。

 

「チケットの販売も順調で完売も見えてきてます。もぎりや誘導も各校の生徒会や希望者で確保済みです」

「あとは会場の規約で数名警備員の方が派遣されるみたいですね」

「それは安心ですね。万が一ってこともありますから」

「あと必要なのは……協力してくれる方々へのお礼とかですかね?」

「あとは足りない備品も出てきてるから、それの買い出しだな」

「確かに。うちの方でもいくつか足りないものも出てきていますから、どこかでまとめて買いに行った方が良さそうですね」

 

話題は会場まわりのことから備品のことに移った。

備品というと演劇で使う小道具、またはそれを製作するにあたっての部品や資材など様々なものが必要になってくる。それぞれの演劇部で用意できるものがあるが、消費具合や演劇会の規模を考えると予備としてあっても無駄にはならない。

各校で足りないものや数が心許ないものは既にリストアップを各自で行っており、そのリストを見ながら皆が考える表情を浮かべた。

 

「そうですね……ペンや紙に関しては生徒会で保管しているものがあるので足りるかと思いますが……」

「あとは演劇で使うものが買う必要がありそうですね」

「それに食べ物や飲み物も、用意してくれるもの以外に必要なものがあれば買っておかないといけませんね」

「木材等大きなものは生徒会でネット注文しておきますね」

「ありがとうございます」

 

各々で買わなくて良いものや後日買わなければいけないものなどをわかりやすくリストに書き込み始めた。特に栞子はネットで注文するものをわかりやすく印をつけ、それを忘れないようにした。

 

「木材とかは本校の生徒会が買ってくれるとして……衣装と演目に使う小物や布とかは各自買い出しに行きましょうか」

「そうですね………あ、折角ですしそれぞれの演劇部で一緒に行きません?」

「じゃあ、うちのしずくとそちらの紅葉さんとで行ってもらうのはどうでしょうか?」

「確かに。2人は幼馴染ですし適任かもしれませんね」

「「え……!?」」

『(超ナイス……!)』

 

新しく本校演劇部の部長になった陽向の提案にしずくと輝林が驚く中、各演劇部の面々はその提案に心の中で賞賛を贈った。

2人で買い出しに行かせることは即ち"デート"と言える。それは"ひかしず信者"にとって正に喉から手が出る程に欲しい"供給"になるということは言うまでもないだろう。

 

「では、そちらの買い出しはしずくさんと紅葉さんがお願い致します」

「「わ、わかりました……」」

 

そして意図せずとも進行を担当している栞子が淡々とそれを決定させ、演劇部の人達はそれを聞いて心の中でガッツポーズをしたり雄叫びを上げたりして歓喜の嵐に包まれていた。

 

「ぷっ……」

「(美空先輩……!)」

「(ははっ、すまんすまん)」

 

輝林は1年生の時から何かと世話になっている透とは1年先輩後輩の関係ではあるが仲が良く、笑いを堪えずに少し吹き出してしまった透を睨んだ。透はそんな輝林と視線に気付いて片手を顔の前で伸ばし顔と手だけで謝罪を表していたが、実際はそこまで悪いことをしたと思っていない。どちらかと言うとこの流れを面白いと思っているのである。

 

「他に何かございますか?」

「いえ、自分からは何も」

「うちも大丈夫です」

「こちらも大丈夫です」

「では本日のミーティングはこれで終了と致します。次回は来週の土曜日に分校での開催になります。皆さん、お疲れ様です」

『お疲れ様です(でーす!)』

 

 

 

 

 

「美空先輩!あの場で揶揄(からか)うのやめてくださいよ!」

「いいじゃんいいじゃん。実際お前ら仲良いし、他の人に頼んで変な空気になるよりはいいだろ?」

「…………確かに、そうですけど……」

「会長の言う通りだ。それにもう決まったことなんだし、つべこべ言わずに覚悟決めろ〜」

『うんうん』

「部長達まで……」

 

分校までの帰り道に輝林は透に先程のことを話すが、部長である天堂 明良(てんどう あきら)や他の皆の賛同によって彼は追い込まれてしまった。しかし買い出しの件に関して別に反対ではないがその思惑には気付いていて、あのミーティングの場で揶揄われたことに対して憤りを覚えていたのだ。

 

「でも、2人になら安心して任せれるのは本音だ」

「はい、わかってます……」

「それにお前、桜坂さんの誕生日も練習とかでろくにゆっくりお祝いとかできてないだろ?」

「あ……」

『はぁ……』

 

しずくの誕生日は4月3日であるため、少し前にその日は過ぎてしまっている。合同演劇会本番の1ヶ月前となれば練習や準備も忙しくなるため、誕生日プレゼントは用意できておらず、当日のお祝いは言葉だけで済ませてしまっていたのだ。

その事実を知るや否や、輝林以外の面々は呆れてため息を吐いた。それを聞いた輝林も、やっぱりまずかったな、と思い他の人の目を見ないように目線を斜め下に向けて首筋に左手を当てた。

 

「で、ですが、当日はしずくもスクールアイドルの方で誕生日会があったみたいで、僕は遠慮したんですよ……!」

「紅葉、大人気ないぞ〜」

「うっ……」

「ええ機会や。その買い出しの日を上手く使うんやな」

「わ、わかりました……」

 

輝林は渾身の言い訳をしたがそれはあまり得策ではなかった。その後すぐに明良と副部長の京極 左京 (きょうごく さきょう)によって完全に追い込まれてしまい、言い訳の余地は無くなってしまった。

 

「あっ、でもあんまイチャイチャし過ぎて買い出しは忘れんようにな」

「わ、わかってますよ……!というか、イチャイチャしません!」

『ハハハハハッ!』

 

さらに揶揄う左京に輝林が顔を赤くすると皆が笑い声をあげ、輝林はその声を聞いてさらに顔を赤くするのだった。

 

 

 

 

そんな様子をしずくは部室まで繋がる廊下の窓から伺っており、輝林が同じ演劇部の人達と楽しそうに話しているのを嬉しそうな眼差しで見つめて微笑んだ。

 

「……分校の方達ですね」

「わっ……!し、栞子さん……」

 

栞子が隣に立って話しかけると意識を外に向けていたからか、しずくはとても驚いた様子で体を浮かせてしまった。

 

「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」

「ううん、大丈夫」

 

栞子もそこまで驚くとは思わなかったので少し困惑の表情を浮かべ、その後にまた視線を外に戻した。しずくもまたその栞子の視線を追うように窓の外へ視線を戻した。

 

「実は、あの時しずくさんと紅葉さんが戸惑ってたので、余計なこと言ってしまったのではないかと心配してたんです」

「ううん、そんなことないよ。妥当な指名だと思うし、それは輝くんも同じ考えだと思う」

「そうですか……!それは安心しました」

「ごめんね?部長達が変なこと言ったから」

「いえ、そんなことは!ただ……」

「ただ……?」

「ずっと一緒にいる幼馴染は羨ましいなと、思っただけです……」

 

栞子は一旦言葉を止めると息を大きく吸ってから懐かしそうな目をして、幼馴染と過ごした日を思い出した。その幼馴染とはしずくや栞子と同じスクールアイドル同好会の鐘 嵐珠(しょう らんじゅ)のことだ。

栞子と嵐珠は幼い頃に出会い毎日のように遊んでおり、その中で2人はお互いがかけがえの無い唯一無二の友達となった。実際、嵐珠にとってはスクールアイドル同好会に入るまでは栞子が唯一の友人であった。

2人が幼い頃、嵐珠が上海へ引っ越してからは連絡を取り合っていなかった。再会したのは虹ヶ咲学園に入学し、その後のオープンキャンパスの日であった。嵐珠が許可なしでゲリラライブを行うという衝撃の再会ではあったが、長年会えてなかった友達と再会したことに栞子はとても嬉しく思っていた。

そう、長年会えてなかった(・・・・・・・・・)のだ。嵐珠が上海に行ってしまったあの日から再会するまでの空白の凡そ10年間、一度も。だからこそ前々から同じ同好会の侑や上原 歩夢(うえはら あゆむ)のこと、そしてしずくと輝林のことをとても羨ましく思っていた。幼馴染で、ずっと一緒にいる彼女らがとても、心の底から。

 

「栞子!」

「っ……嵐珠……?!」

 

そんな思いを馳せる栞子に少し離れたところから声をかけてきたのはそんな幼馴染の嵐珠だった。

今日はこのあと同好会でのミーティングがあるため部室に向かう途中であった。栞子としずく以外は練習をしていたため、嵐珠も練習用のジャージを着ていた。

どこか寂しい思いをしていた栞子であったが、今は幼馴染の嵐珠と共にスクールアイドル同好会に入ってる。ここで2人は、あの時の過ごせなかった期間を埋めるような時間を過ごせている。

 

 

━━━だから私は、もう大丈夫なんです。

 

 

「なによ。なにか良いことでもあった?」

「………いいえ、別に」

「そう?」

「そろそろミーティングの時間ですし、早く行きますよ」

「私は演劇部の部室に行ってから行くね」

「わかりました。行きますよ、嵐珠」

「あ、栞子待って!じゃあしずく、また後で!」

「はい。また後で」

 

栞子はどこか嬉しそうな表情を浮かべて部室に向かって足を進め、嵐珠はそんな栞子を慌てて追いかけて隣で歩速を合わせた。

しずくはそんな2人の背中を見送ってから視線を外に戻したが、もうそこには輝林達の姿はなく、そこにいる理由も無くなったため静かに演劇部の部室に向かって足を進めた………

 

「ねぇねぇ栞子」

「なんですか?」

「さっきしずくが見てた外の人が噂の男の子(・・・・・)?」

「ふふっ……そうですよ」

「ふ〜ん、付き合わないのかしら?」

「……さぁ?」

「へぇ〜……さっさと付き合えば良いのに」

 

………そんな2人の会話を知る由もなく。

 

 

 

 

 

 

 

━━━虹ヶ咲学園本校、演劇部部室。

 

「ということで、しずくが輝林くんと買い出しに行くことになりました!」

『キャーーーー!!』

 

ミーティングを終え、陽向の報告を聞いた部員達は歓喜の悲鳴をあげ、中にはあまりの供給の大きさに幸せそうな表情を浮かべて倒れる者もいた。

 

「しずく!チャンスよ!」

「な、なんのですか?」

「決まってるわよ!アタックチャンス!」

「ア、アタックチャンス!?」

「そうよ!ここで輝林さんにアタックして……後は言わなくてもわかるわよね?」

「っ……!!!!」

 

しずくはその後がわかったため顔を真っ赤に染め上げた。そんなしずくを部員達はニヤニヤとした表情で見つめた。

 

「しずく〜頑張りなさいよ」

「も、もう……!私、同好会の方に行ってきますっ!」

 

しずくは逃げ出すように演劇部の部室を足早に出てスクールアイドル同好会の部室に早歩きで向かった。

その後の演劇部の部室内はしばらくお祭り騒ぎだったことは言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

━━━スクールアイドル同好会、部室。

 

 

「━━━では、今後のスケジュールはこれで行きますっ!」

『はーい!』

 

同好会のメンバーの1人の優木 せつ菜(ゆうき せつな)、本名中川 菜々(なかがわ なな)はホワイトボードに話し合いの結果決まった今後のスケジュールを書いて皆をまとめた。流石は"元"生徒会長というべきだろう。

 

「あ、ひとつよろしいですか?」

「はいっ!栞子さん!」

 

栞子がその中で挙手をしてせつ菜が指定すると、皆の視線が栞子に集まった。するとその栞子は視線をしずくへと移し、しずくは何故こちらを向くのかと首を傾げた。

 

「しずくさん、紅葉さんとの買い出しはいつ行くのですか?練習の日などは含まれてますが、その日は確か含まれてないですよね?」

「えっ……!?そ、それは……」

 

しずくは栞子の親切な意見を聞いて嫌な予感を感じて視線を周りの他のメンバーの方に移した。するとその予感は的中しており、皆がニヤニヤしたり驚いた表情でこちらを見つめていた。

 

「しずくちゃん、それってつまり……!」

「まさか……!」

「デートイベント来た〜〜〜!!!」

「なんだ……やるじゃない、しずく!」

「こ、これは演劇部のただの買い出しですから……!そ、その、デ、デートという訳では……」

「応援しますよ!しずくさん!」

「せ、せつ菜さんまで〜!」

 

3年生の歩夢と侑は頬を赤く染めて手で口を覆いながら驚いた表情を浮かべていた。さらに宮下 愛(みやした あい)は何故か立ち上がって両腕を突き上げて声を張り上げ、嵐珠は関心したように片肘を机につきその拳を頬に当ててニヤリとした表情を浮かべていた。そしてせつ菜は何故か応援することに張り切りムードであった。しずくはそんな新3年生達にあわあわしながら顔を真っ赤にしていた。

 

「いやぁ〜しず子も隅に置けませんなぁ〜」

「うんうん。璃奈ちゃんボード『ニヤニヤ』」

「も、もう……!2人ともっ!」

 

同じ新2年生で部長である中須(なかす) かすみは悪魔の角や尻尾が見えるようなニヤニヤとした表情で、同じく2年生の天王寺 璃奈(てんのうじ りな)は"璃奈ちゃんボード"という『ニヤニヤ』とした表情を書き込んだスケッチブックを顔の前に掲げて彼女を見つめ、しずくにそんな2人に顔を真っ赤にして若干頬を膨らませた。

 

「……私、また何かやってしまいましたか?」

「う、ううん!そ、そんなことないというか……あるというか……」

「……?」

 

栞子は目を合わせずに苦笑いをするしずくを見たが、さっぱりこうなった原因がわからず首を傾げた。そうしている間も、他の皆からの視線にしずくはたじたじになっていた。

 

「で?で?!いつ行くの!?」

「ひ、日にちは決まってませんが、早めに行ってもいいんじゃないかな〜ってさっき話してて……」

「なるほど。限られた時間は少ない、と……」

「な、なんのですか……?」

「そんなの決まってるよ!」

『ね〜?』

「い、嫌な予感……!」

 

愛、かすみ、歩夢は息を合わせて何かを企んでおり、しずくはそれで何かを察知して立ちあがろうと椅子を下げた。

 

「し・ず・く・ちゃ・ん〜?」

「ゆ、侑先輩……」

『フフフフフ……』

「は、ははは、はは………」

 

しかしそんなしずくは侑に両肩を押さえられて立ち上がることはできず、不適な笑みを浮かべた4人の圧に汗を一滴垂らして引きつった笑みを浮かべた。

 

 

━━━しずくさん、すみません………

 

 

そんな様子を見た栞子は心の中でしずくに誠心誠意の謝罪を送り、皆を止めることができずにただその光景を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━虹ヶ咲学園分校、演劇部部室。

 

「━━━ということで、輝林と百合ヶ咲の桜坂さんの生徒会と演劇部公認のデートが決まったぞぉぉぉおおおお!!!」

『うおおおおおおおおおおおお!!!!』

「やばい!やばすぎる!(吐血)」

「もう……無理だこれ……(昇天)」

「おい!!!しっかりせい!!!おい!!!」

「はぁ……めんどくさ……」

 

部長の明良が輝林としずくが共に買い出しをすること、もといデートを報告すると部員達は歓喜の渦に包まれて各々喜びを露わにしていた。それを見た輝林は溜息を漏らし、部員達とは違い落胆の表情で頭を押さえた。

 

「ついに……この時が来るんだな、輝林」

「どの時だよ」

「そりゃあ……付き合うんだろ?桜坂さんと」

「っ……ゴホッゴホッ!」

『おぉ〜!』

 

大和が輝林の肩に手を置いて当たり前かの様にそう言うと輝林は咳き込み、他の部員達は目をキラキラさせてそんな輝林を見つめた。

 

「そうか……やるんだな、男として」

「遅すぎる気もするけどな」

「部長達まで……」

 

輝林は明良と左京にもそう言われ、流石に"しない"とは言えなくなり言葉に詰まり、そのモヤモヤをぶつけるように頭を掻いて唸り声を漏らした。

 

「まぁでも、そこらへんは輝林ちゃんに任せましょうや」

「白部先輩……っ!」

 

そんな時に皆を鎮め輝林の肩を持ったのは、細い目が特徴的な3年生の白部 利明(しらべ としあき)で、輝林が尊敬する先輩の1人である。基本的に誰にでも優しく演劇やそれ以外のことも何でも相談に乗り、そして部内でも先輩後輩の間を取り持つ役割を担っている。さらに左京とは同じ関西出身で、地元が近いということと演劇部だという共通点もあって付き合いが長い。

そういうこともあり、利明の静止に誰も意を唱える者はいなかった。

 

「でも、このチャンス逃さない方が良いっすよ!だ・か・ら……」

「や、大和なにを……!?」

「そうやなぁ。ちと指導(・・)が必要そうやしな」

「あ〜……まぁ、それぐらいならええか」

最後の希望(白部先輩)まで!?」

 

輝林は利明がどこか納得したように離れると大和や左京達によって囲まれてしまい、何をされるのかという不安を感じながら苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━紅葉家、輝林の部屋。

 

「はぁ、疲れたぁ……」

 

お風呂も済ませ、ご飯を食べ終わった輝林は部屋に戻るなりベッドに大の字で寝転んだ。そして天井を見上げながら今日あったことを思い出した。

ミーティングのこと、そのミーティングでしずくと一緒に買い出しに行くことになったこと、それをデートだと揶揄われたこと、部活の時に大和や先輩達から色々レクチャーしてもらったこと、そして帰りにしずくと相談した結果、その買い出しが明後日になったことも。

 

 

━━━デート?しずくと?僕が?

違う違う。これは買い出し。ただの買い出し。

先輩達が余計なこと言うから変に意識してきた……

 

 

輝林はそんなことを考えて頭を掻いてからベッドから立ち上がり、机の引き出しを開けて1枚の写真のようなものを取り出した。

 

「………この気持ち、伝えるべきなのかな」

 

それはスクールアイドルをしているしずくのプロマイドで、そこにはステージで歌っている姿のしずくが写っていた。輝林は密かにグッズも集めているのだが、このことは本人以外知らないし、誰にも話していない。

そのしずくのプロマイドを見つめながら輝林は自らの抱えている気持ちに葛藤していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━2日後。

 

ついに買い出し、もといデートの日がやってきた。

しずくからの要望(同好会のメンバーの指示)と、輝林が午前中に用事(演劇部員からの指示)があったため、13時ごろにショッピングモールの入り口にて待ち合わせることになっていた。

しずくはひと足先に着いており、ショッピングモールの前にあるアニメに出てくる、まるでユニコーンのようなツノが特徴的なロボットを再現したオブジェクトの付近で輝林の到着を待っていた。

しずくは白いハイネックのセーターと黒のチェック柄のスカートを着ていて、リボンも春に合わせて桜色の物を付けていた。これらは2日前に同好会のメンバーに連れられて今日のために買った服だ。スマホの画面に輝林からのメッセージがないかチェックをして、ついでにそこに表示される時間を確認した。

 

「ちょっと早く来すぎたかな……?」

 

そんなことをしずくは呟いて鞄の中に入れてあった小さな手鏡で自分の髪型が乱れていないかチェックしてから輝林の到着を気長に待つことにした。

 

「あれ、しずく?」

「えっ……?」

 

そう思っていたも束の間、背後から聞き慣れた声がして振り返ってその声の主の姿を確認した。

それはしずくが予想した通り待ち合わせをしていた輝林であった。手にはストロー付きのプラスチックの蓋がしてある紙コップを持っており、とても驚いた表情をしてこちらを見つめていた。

 

「しずく早かったね……!まだ12時だよ?」

「輝くんこそ……!」

 

そう、しずくが到着したのは待ち合わせ時間の1時間前。輝林と2人で買い物をすることが楽しみで早めに家を出てしまったのだ。

 

「あっ、飲み物買ってくるからこれあげる。ちょっと待ってて」

「う、うん。ありがとう」

 

しずくがきょとんとしていると輝林は素早く手に持っていたドリンクを渡し、新たにドリンクを買いにショッピングモールの中へと速足で入って行った。そんな輝林の後ろ姿をしずくは表情を変えずに見つめてその場で待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「飲み物、それでよかった?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 

少し離れたところにあるベンチに2人は腰掛けて先程輝林が買ってきたドリンクを飲んでひと息ついていた。そこは周りに花が植えられており、春の空気と相まってのどかな雰囲気に包まれていた。

 

「もしかしてちょっと待たせちゃったかな?」

「ううん、さっき来たところだったから。輝くんの方こそ待ったんじゃない?」

「僕も全然待ってないよ。まだ来ないだろうから飲み物でも飲んで待ってようと思ってたところだったし」

「そうなんだ」

 

2人この買い出しに緊張しており、話し終えるとストローで飲み物をその緊張感を解すように吸い込んだ。

 

「……良い天気だね」

「うん、そうだね……」

『あはははは……』

 

そう2人は話題に困っていた。輝林はそれを誤魔化すために天気のことを話題に出すが、それは話題らしい話題にはならずまた沈黙の時間が訪れ、苦笑いを浮かべ合った2人はその気まずさを誤魔化すようにまたストローで飲み物を吸い込んだ。

 

 

━━━どうしよう………!

 

 

輝林は気まずい沈黙の中、一昨日に大和や左京に言われたことを思い出していた。

 

 

『輝林、まず大事なのは"見た目を褒める"ってことだ』

『見た目……?』

『服装とか髪型とかのことだ。これ結構大事だぞ』

『そうやで。女の子はこういう時にオシャレしてくるもんや。男はそれを褒めなきゃいかん』

『なるほど……』

『それにちょっとしたところに気付けたら最高だな。よく言うだろ、前髪切った〜?とか』

『わかるかなぁ……?』

『まぁなかなか難しいよな。とりあえずは、服とかオシャレしてそうなとこを見つけたら言ってあげればええと思うで』

『………善処します』

 

 

━━━って言ってもなぁ………

 

 

素直に褒めれば良いものを何故か輝林は迷っていて、隣で飲み物をストローで啜るしずくに目をやった。輝林は大和が言っていた"ちょっとしたところ"に気が付いていたが、それを指摘できずいたのだ。その理由は明白で、普通に気持ち悪いと思われるかもしれないからだ。

 

 

━━━言っても良いものなのかな?香水かリンス変えた?って。

 

 

輝林はしずくと合流し、ここまで歩いている時からほのかに香っていた"いつもとは違う"匂いが気になって仕方なかった。

その匂いをまた感じると頬を少し赤く染めて目線をしずくから逸らし、その感情を誤魔化すように近くの花に目をやった。

 

 

そんな輝林をしずくはストローを啜りつつ横目に見ながらかすみと歩夢それに愛や侑に言われたことを思い出していた。

 

 

『しず子!ぜ〜ったい!自分から「新しい服買ったの〜」とか言っちゃダメだからね!』

『な、なんで!?』

『勿論、相手に"気付かせる"ためだよ!』

『気付かせる……?』

『そうそう!しずくは相手が気付くのを"静か"に待てば良いんだよ!"しずく"だけに!』

『あははははっ!愛ちゃん面白すぎ!』

『輝くん気付いてくれるかなぁ……』

『流石に気付くって〜』

 

 

 

━━━でも、中々言ってくれないなぁ……

 

 

しずくはずっと新しく買った服やリボンなどを褒めてくれない輝林にモヤモヤとしながらストローを啜っていた。何度か輝林の方に視線を向けたのだが、彼はこちらを見向きもせず近くに植えてある花ばかりを見ていたのだった。しずくはそれを再度確認し、頬を少し膨らませてストローから息を通して小さく聞こえない程度に飲み物をプクプクと鳴らした。

この2人を見ている皆が(・・)気付いているだろうが、しずくは度々輝林が目線を向けていることも褒めようか迷っていることも知らず、また輝林もしずくが褒めて欲しいということも自分が目線を逸らしている時に自分に目線を送っていることも知らないのだ。

 

「━━━あのっ!」

「っ……!?」

 

その長い沈黙を破るかのような輝林のひと言にしずくは驚き、目を丸くして輝林の顔を見つめた。しかし、当の本人は堪らず声を出したのだが、その先の言葉が出てこず目を泳がせていた。

 

「え〜っと……その〜……」

「………?」

 

しずくは首を少し傾げて輝林の顔を伺うように見つめていたが、輝林は腹を括ったように真っ直ぐとこちらに顔を向けた。

 

「その……服、似合ってるよ。新しく買ったんだよね?そのリボンも」

「っ……うん!そうなの!」

 

輝林がしずくの服とリボンをやっと褒めると、その言葉を待っていたしずくは溢れんばかりの嬉しさを満面の笑みで表現した。そんなしずくの笑顔に輝林は胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

 

「だ、だよね!あっ、そのマニキュアも似合ってるよ」

「あ、ありがとう……えへへへへ」

 

しずくは今日のために嵐珠や愛にしてもらった(させられた)マニキュアを褒められ、体を小さくしながらその真っ赤な顔を輝林に見えないようにしていたが、その表情はとても嬉しそうであった。

 

 

━━━よし、喜んでくれたみたいだ。良かった……

 

 

輝林はしずくの喜んでいる様子を見て心から安堵して、その顔を愛おしそうに見つめた。そしてその顔を見続けるにつれて"しずくのことが好き"であるということをさらに強く想っていった。

そしてそのことをしずくに悟られない様にするためか、それとも照れ隠しのためなのか、飲み物を一気に飲み干して勢いよく立ち上がった。

 

「そろそろ行こっか!買い物」

「うん、そうね!」

 

2人は中身を飲み終えたカップを近くのゴミ箱に捨てて、先程合流したショッピングモールへ向かって歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━ ショッピングモール内。

 

 

「ありがとうございました〜!またお待ちしておりま〜す!」

 

あれから2人は雑貨屋や手芸屋、文房具屋などを巡って順調に買い出しを行っていた。

しずくは店を出てからチラッとスマホで時間を確認すると、既に合流してから数時間が経過しており、2人で過ごす時間があっという間に過ぎ去ったことを実感した。

 

「そろそろ休憩する?疲れたでしょ?」

「そうだね。あそこに座るところあるし、そこで休憩しましょう」

 

2人は店の近くにあった休憩コーナーへ足を進め、長い間歩き続けていたので休むことにした。

輝林は歩き続けているしずくに気を遣って提案したが、しずくも輝林に買い出しの荷物を持ってもらっているため彼を気遣ってその提案を飲むことにしたのだった。

 

━━そしてその背後をヒソヒソと追う人影もまた、その2人の後を付けるのだった。

 

 

 

 

「しずくごめん、先生から電話来たからちょっとしてくるね」

「うん、わかった」

 

輝林は休憩コーナーの椅子や机に荷物を置くと、顧問の先生からの着信に気付き一旦席を離れ、そこにはしずく1人になった。しずくは離れていく輝林の背中を目で追いながらその帰りを待った。

そしてその姿を、侑、歩夢、愛、かすみも離れた位置に座って鞄で顔を隠しながら伺っていた。

 

「……焦ったいなぁ」

「そうだね……」

「でもいい雰囲気じゃない?」

「しず子も折角2人なんだしもっとアタックすれば良いのに……!」

 

4人は勝手に2人を付けておきながら不満たらたらで、バレないようにこそこそと話していた。

この4人……というよりスクールアイドル同好会はとある組織……ひかしず親衛隊から、今度虹ヶ咲学園で行われる春の文化祭で大講堂のステージが使えることを条件に、2人の今日の行動を監視と記録をする任務を受けていた。

顔を隠しながらしずくを睨みつけるかすみが被っているクロッシェには同じ同好会のメンバーの璃奈特製の小型カメラが備え付けられており、かすみは常にしずくや輝林がカメラに映るように調節する役割を担っていた。

 

「あ、かすみちゃん!あのしずくちゃんの表情いい感じだよ!撮って撮って!」

「わかってますよ〜!意外に映るようにするの難しいんですから〜」

 

侑はしずくが輝林を見つめる表情にトキメキを覚えたようでかすみにそれを映すことを勧めるが、かすみはその表情を映せるように小型カメラ付きクロッシェを調節するのに苦労しているようであった。

 

『あ…………』

「ん?どうしたんですか?」

 

かすみがクロッシェの調節でしずくから目を離していると他の皆がひと声あげて気まずそうな表情を浮かべており、その状況をかすみは飲み込めずに不思議そうな表情を浮かべた。

 

━━その刹那、かすみはどこからか伝わってくる殺気を感じた。

 

そして恐る恐るそれが伝わってくる方向……しずくがいる方に顔を向けた。かすみは他の3人と同様、その黒い笑みを浮かべてこちらを見つめるしずくに恐れ(おのの)きながら苦笑いを浮かべた。

そのすぐ後、4人のスマホの通知音が鳴ったため体をビクッとさせてそれぞれのスマホに目線を向けた。そこには………

 

ずっと(・・・)何をしているんですか?』

 

『ヒッ……!』

 

しずくからメッセージアプリの同好会のグループへメッセージが送信されていて、4人はそれを確認すると小さく恐怖の声をあげた。

 

「しずくお待たせ〜って、何かあったの?」

「……ううん、別に」

「ん……?あ、とりあえずお水入れて来たよ」

「……………(まぁ、もういいかな……)」

 

輝林は戻ると明らか不機嫌そうになっていたしずくの理由がわからなかったが、特に追及はせずに帰りに入れてきたしずくの分の水を机の上に置いて席についた。

輝林が戻ってきたことで、しずくは同好会のメンバーが付けてきた件の詮索を諦めて輝林が入れてきてくれた水をひと口で飲み切った。

 

「しずく、怒ってる……?」

 

 

━━━輝くん、もしかして私が機嫌悪いのを気にしてるのかな?輝くんが悪いわけじゃないけど………あ、そうだ。

 

 

輝林はしずくが思った通り、しずくが怒っている原因が自分にあるのでは?と気になっていた。もちろん原因は輝林にあるわけではないが、しずくは何か思いついた様で少し口角を上げた。

 

「………まぁ、そんなところかな?」

「えぇ!?な、なにかやっちゃったかな……?」

 

『……!?』

 

そんな2人の様子を助かったと安堵して記録を続けていた4人は驚きと期待の眼差しを向けた。

 

━━流れが、変わった。

 

「……名前」

「名前……?」

「輝くん、高校に上がる前からずっと私のこと"しずく"って呼んで、全然前みたいに呼んでくれないから……」

「えっ……?!(今!?)」

 

 

━━━か、かわいい……!!

 

 

しずくがそう語ると輝林は驚き、それを遠目から見ていた4人は(勿論今回怒っている理由というのは嘘ではあるが)しずくの言動に注目した。

 

「ねぇ、なんで呼んでくれないの?」

「え〜っと………それは…………」

「それは〜?」

 

しずくにまさかのことで言い寄られた輝林は目を泳がせ、さらに冷や汗をかいて困惑した表情を浮かべながら"その理由"を話すかどうかを迷っていた。別にそれが不都合というわけではなく、ただ単純に恥ずかしいのだ。

恐らくしずくは引き下がらないし、このまま不機嫌そうにして欲しくもない。さらには少し怒っているしずくの表情も魅力的に感じていて、本能では言ってあげたいと思ってしまっていてもう喉まで出かかっていた。

 

 

━━━諦めて言うしかないかな……これは。

 

 

そして輝林はゆっくりと1回深呼吸をして言う決断をしたが、顔を見て言うのは恥ずかしいと思ったからか真横を向いて頰を赤らめながら言葉を紡いだ。

 

「は…………恥ずかしい、から……!そ、それだけ!本当に……!」

「っ〜〜〜!(か、かわいい〜!)」

 

『おぉ……!』

 

そんな輝林を見ながらしずくは歓喜し、そして愛おしく思い、4人はまさにUR級の輝林の照れ顔に歓喜してその様子をバッチリと記録した。

 

「ほ、本当だよ……!?でも、それで不安にさせちゃってたら……ごめん」

「ふ、ふーん………」

 

輝林は今すぐにでも沸騰しそうな顔で頭を下げ、しずくはそんな彼を見てニヤケそうな口を手で隠しながら何か考え事をした。

 

「し、しず━━━」

「━━━じゃあ」

「………??」

「じゃあ、2人っきりの時は呼んで。前みたいに」

「えっ……!?」

「……イヤ?」

「い、嫌じゃないよ……!全然!」

「じゃあ……呼んで?」

 

しずくの提案に輝林は驚いた表情を浮かべたが、"好きな人"に上目遣いでそうお願いされては断れるはずはなく、輝林は何度か深呼吸をしてから、本当に久しぶりにしずくを昔の様に呼んだ。

 

「わ、わかったよ。し……しずちゃん(・・・・・)……!」

「っ………!!」

 

輝林はしずくを前呼んでいたように"しずちゃん"と少し照れながら言うと、しずくは嬉しさのあまり声を出しそうになるのを抑えながらも喜び、それを見ていた4人まで顔を赤らめて興奮していた。

 

「こ、これで良いでしょ……!み、水入れてくるね!」

 

輝林は余程恥ずかしかったようで顔を真っ赤にしながらしずくと自分の分のカップを持って、浄水器に水を入れに急ぎ足で向かって行った。

しずくはそんな輝林の背中を目で追ったが、サッと顔を下に向けて両手で口を覆いながら顔を真っ赤にしてとても嬉しそうな表情を浮かべて、脚を小さくパタパタとしていた。

 

それを確認した4人は目で合図をし合って言葉を交わさずとも皆の意見の合致が確認できたようで、満足そうな顔を浮かべながらその場を去っていった。

 

 

 

 

━━━数時間後。

 

「ふぅ……疲れたねぇ」

「そうだね〜。荷物持ってもらってありがとう」

「ううん、大丈夫だよ」

 

輝林としずくは、ショッピングモールの駐車場で分校演劇部の顧問である北条 康太郎(ほうじょう こうたろう)の車に買った荷物を乗せ終わった後、個人的な買い物を済ませて帰路についていた(殆どしずくの買い物であるが)。

もう日も落ちかけていて、綺麗な夕陽と周りに装飾されている色鮮やかなライトが道行く人たちを照らしていた。

 

「……ありがと」

 

しずくは歩きながら、買い物を荷物を持ち歩く速度を自分に合わせてくれている輝林を一瞬見てから視線をずらし、聞こえない程度にボソッとそう呟いて頬を少し赤く染めた。

 

「ん?しずちゃん、何か言った?」

「えっ……と……綺麗だなって!お、お花が!」

「お花……?あぁ!確かにね」

「ほ、ほら!あのお花も!」

 

しずくは周りの人の話し声で聞こえないと思っていたが、輝林はしずくが何かを話したことは聞こえていた。それを誤魔化すようにしずくは近くに植えられている花に小走りで向かい、輝林はそんなしずくの背中を見て微笑んでから同じ方向へ歩いた。

輝林は腰を(かが)めて花を見つめているしずくの斜め後ろに立ち、その視線の先にある花壇に目を向けてそこに植えられている花々を見渡した。そしてしずくが見ている花に目をやると、そこには見覚えのある綺麗な紫の花があった。

この駅からショッピングモールまでの道では、それぞれの季節の花を植えるイベントもやっていて、現在は春の花が沢山植えられていた。

その中のひとつがしずくの見つめているサクラソウだ。それは4月28日の誕生花のひとつにもなっていて、そして花には花言葉というものが存在することはご存じであろう。

 

 

━━━確かサクラソウの花言葉は………

 

 

 

 

『初恋』

 

 

 

 

その花言葉を思い浮かべた輝林は愛おしそうな表情でサクラソウを見ているしずくを見つめ続けた。

そして輝林は鞄に入っているある物(・・・)に目をやってから静かに深呼吸をして、何かを決意したような声を漏らした。

 

「しずちゃん、ちょっといい?」

「ん?どうしたの?」

 

しずくは不思議そうに視線をサクラソウから輝林の顔に移すと、夕陽に照らされているからなのか、それとも別の理由があるからなのか、頬を赤く染めて真剣そうに彼は自分を見つめていた。

 

「…………目を、瞑って欲しいんだ」

 

「え……?」

 

しずくは輝林に言われたことに鳩が豆鉄砲をくらったような表情を浮かべ、頬を赤く染めた。

このシチュエーション、この表情……しずくは既視感を覚えていた。

 

━━それはある日に読んだ少女漫画の最終話。

主人公の女の子の幼馴染の男の子は、ずっと思いを寄せていたその女の子に告白することを決意した。そして2人で出掛けた帰り道で女の子に目を瞑るようにお願いをして、キスをしたのだ。それから告白があり、その物語は2人は結ばれて結婚式のカットで終わりを迎えた。

 

その物語にしずくは胸をキュンキュンとさせて、同時に憧れも抱いたのだった。そしてこの状況はその漫画と同じで、しずくの頭にはある可能性がよぎっていた。

 

 

━━━もしかして私、輝くんに"キス"されちゃうの……!?

 

 

しずくは困惑の表情で頬をどんどん赤く染め、一切目を逸らさずに真剣な表情でこちらを見つめてくる輝林の顔を見ていた。しずくはそんな輝林とは違って自然と目を泳がせてしまう。

 

「……いい、かな?」

 

「えっと…………」

 

しずくは輝林のことが好きだ。

 

その恋は、見つめ合う2人の隣で見つめるように咲いているサクラソウの花言葉と同じ"初恋"だ。

 

もしも輝林が自分と同じ気持ち(・・・・・)であるのなら……

 

そのつもり(・・・・・)で輝林が今、自分を見つめているのなら……

 

 

━━━応えたい。

 

 

「…………しずちゃん」

 

そして名前を呼ばれたしずくは深呼吸をして決意の表情を浮かべて、輝林の目を真っ直ぐと見つめた。

 

「………わかった」

 

しずくは緊張しながら目を瞑り、顔を斜め上に向けて"それ"を受ける心と唇の準備をした。

 

「ありがとう……」

 

 

━━━心臓の音がうるさい。

 

周りの音が心臓にかき消されて何も聞こえない。

 

輝くん、どんな顔してるんだろう?

 

輝くんも緊張してるのかな?

 

でも、本当に輝くんがそのつもり(・・・・・)なら、私は……!

 

 

━━輝林が自分に近づいてくる感覚がする。

 

輝林の息が、存在が、先程よりも近く感じる。

 

 

しずくがそんなことを感じ、考えていたその時…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しずくは首元に何か少し冷たい物が当たる感覚を感じ、体を一瞬ビクつかせた。

 

 

「………大丈夫だよ」

 

「え………?」

 

しずくは唇に当たる感覚がしなかったため、困惑した気持ちのまま目を開けた。

 

そして先程冷たい感覚がした首元を触ると、そこにはその瞬間までにはなかった物がある触感があった。さらに手でなぞると胸の辺りで少し重さを感じ、さらにそれを手のひらに乗せて顔をそれ(・・)へと移した。

 

「これは………ペンダント?」

 

しずくは驚いた表情を浮かべ、手のひらに乗せた水色の石が銀色の金属で囲われているペンダントを見つめた。

 

「うん。少し遅くなったけど、誕生日プレゼント」

 

しずくはその言葉を聞いてさらに驚いた表情で輝林に視線を移した。彼は優しく微笑んで、少し照れているような表情を浮かべていた。

 

「誕生日、プレゼント……?」

 

「うん。当日はちゃんとしたお祝いできてなかったから」

 

「もしかして、輝くんが早く来てたのって……」

 

「……うん。しずちゃんにあげる誕生日プレゼントを探してたんだ。はは……バレちゃった」

 

輝林は照れ笑いを浮かべて後頭部を手で軽く掻いた。予想していたキスではなかったが、しずくはそれと同じぐらい、それ以上に嬉しい気持ちになっていた。

 

「輝くん、ありがとう……!」

 

「っ……うん!」

 

2人はお互いに微笑み合った。

しずくはプレゼントをくれた感謝を、輝林は喜んでくれた嬉しさを込めて。

 

そんな2人を見つめるように夕陽は照らし、花達は風に揺られていた。

 

 

 

 

 

 

━━━僕の夢は演劇で見る人を笑顔にすること。

 

 

 

でも1番は…………

 

 

 

大好きなしずちゃんを笑顔にさせたいんだ。

 

 

 

 

━━輝林にとってしずくは"理想のヒロイン"だった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜次回予告〜〜〜〜〜

 

 

ついに訪れた合同演劇会の日。

 

私も輝くんも、勿論演劇部の皆さんもその日が近付くにつれて練習に熱が入っていて、色んな準備も万全に整っていた。

 

え?1番難しかったところ?

うーん、1番苦戦したのは舞踏会のダンスシーンかな?

本番の日の午前中も輝くんと一緒にみんなが見つめる中で、本番で使うステージで入念にリハーサルを重ねるぐらいだよ。

 

うぅ……輝くんの顔が近い……

"あのこと"もあったから意識しちゃう……

 

その日の天気はあいにくの雨だけど、お客さんいっぱい来てくれるかな?

 

 

次回『しずく照らす光』

 

第2話「たったひとつの思い〜前編〜」

 

 

━━━しずちゃん……この演劇会が終わったら、伝えたいことがあるんだ。

 






ありがとうございました!
いやぁ、ひかしず……いいですね!早く結婚しろ!呼び名を2人の時だけ変えるとか良くないですか!?めっちゃ好き!え?地の文がキモい?ありがとうございます!キモくなるように書いてますから!

評価や感想、Twitterでの読了報告やフォロー等お待ちしております!
次回の投稿は明日の22時となります!ドキドキしながらお待ちください!

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