しずく照らす光   作:シベ・リア

4 / 8

みなさんこんばんは!
今回はいよいよ演劇会の本番!色々ドキドキしますね!今回の話はとくに力を入れて書いた話の1つになります!
早く読んで欲しいので早速、どうぞ!!




第3話「たったひとつの思い〜後編〜」

 

 

 

『しずく照らす光』

 

第3話「たったひとつの思い〜後編〜」

 

 

 

━━━━━1週間後。

 

━━━━━大ホール。

 

 

そしてついに虹ヶ咲学園本校分校合同演劇会の本番の日を迎えた。

その朝早くに、栞子と透はホールでシャンデリアの設置業者に立ち会っていた。

 

「大変申し訳ございませんでした」

「いえ。お忙しい中対応してくださりありがとうございます」

 

シャンデリアの設置を任された業者の1人が栞子に頭を深々と下げたが、栞子は冷静に軽く頭を下げていた。

 

「そんな……!私共の都合で設置が遅れてしまったこと、本当に申し訳ないです」

「いやいや、多くの従業員の方がインフルエンザに罹ったなら仕方ないですよ!」

「しかし、予定より数日遅れてしまって…….練習の都合にも影響が出たと思うと大変申し訳なく……」

「そのお気持ちだけでも大変ありがたいですし、こうしてちゃんと設置もしてくださったので問題ありませんよ」

 

そう、実は本番の2日前には完了する予定だったシャンデリアの設置だったが、業者の従業員の殆どがインフルエンザに罹ってしまったため、業務に人手不足が原因で遅れが出てしまい、この設置についても予定より2日間遅れて当日の設置になってしまったのだ。この業者はシャンデリアの設置だけではなく、色んなステージの照明や電気関連の工事等をしているので、現在動ける人数だと結構ギリギリのスケジュールになってしまっていた。

栞子や透が気にしていないと言っているのにも関わらず、業者の担当者は何回も深々と頭を下げ続けていた。

 

「先輩。設置終わりました」

「おっ、そうか!」

「無事に終わったようで何よりです」

「まぁ、こうして設置も完了したようですし、大丈夫ですよ。後の現場も頑張ってください」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

栞子と透の激励を受けた業者の2人は荷物を持って次の現場へと向かうためホールを後にした。

 

 

 

 

 

━━━あれ?耐久の確認したっけな……?

 

 

「おーい!何してる?!早く行くぞ!」

「あ、はーい!ふわぁ………」

「おいお前、まだ疲れ抜け切ってないのか?まぁ、仕方ないか……次の現場まで寝てても大丈夫だぞ」

「はい……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

━━━━━1時間後。

 

「よーし!午後の本番に向けて最終確認するぞ〜!」

『はい!』

 

合同演劇会の第1公演が始まる時間まで数時間に迫る中、全員総出で照明や音響などの確認、受付等で使う備品の確認、外に看板を出したりと本番に向けた最終準備が行われた。

 

「……雨、降りそうだね」

「あぁ……なんとか持ち堪えて欲しいな」

「うん……」

 

外に看板を出した輝林と大和は、どんよりとした雲が空いっぱいに広がっている空を見上げてそう呟いた。

 

「……絶対に、成功させような。するんだろ?演劇会が終わったら」

「うん、するよ。ちゃんと決めた」

「ふっ、そうか……」

 

 

━━━決めるのが遅いんだよ。待たせすぎだ。

 

 

大和はそれから何も言わずに輝林に向かって拳を突き立て、輝林はそれに気付くと笑顔を浮かべてその拳に向かって自分の拳を突き立てたを

 

「絶対成功させような……親友」

「うん、成功させよう……親友」

 

"親友"と呼び合う2人は拳をコツンと合わせて、演劇会の成功を誓った。

 

 

 

━━そんな2人が出会ったのは、輝林が分校に入学して間もない頃だった。

輝林は演劇部に入学早々に入部していて、先輩から教えてもらった良い休憩場所である屋上で音楽を聞いていた。

 

「走〜り出した!思いは強くす〜るよ……」

 

輝林はせつ菜のゲリラライブを初めて見た時から、そこで歌われていた『CHASE!』をずっと聞いていて、屋上に誰もいない時は聞きながら歌詞を口ずさんでいた。

それだけ輝林はあの時のせつ菜に衝撃を受けていたのだ。演劇の中にも歌を歌うものもあるため、あのように歌えたらもっと劇を良いものにできると思っていた。

 

「なぁ、それって優木せつ菜の曲だろ?」

「えっ……!?」

「ああ、ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」

「ううん、全然」

「てかお前も知ってるんだな、優木せつ菜!」

「う、うん!この前ゲリラライブを見て、それから」

「え!?まじか!俺まだ見たこと無いんだよな〜」

 

そんな輝林の口ずさんでいた曲に反応して声をかけたのが大和だった。そこから2人はせつ菜の話題に華を咲かせてすっかり意気投合した。

 

「輝林はなんか部活に入ったのか?」

「僕は演劇部に入ってるよ。昔から演劇やってたから」

「ふーん、演劇なぁ……」

「大和くんは━━」

「━━大和でいいよ。"くん"はなんだかムズムズする」

「……そっか。じゃあ……大和は何か部活やらないの?」

「うーん、これと言ってしたいこともないしなぁ。演劇部見学してみようかな」

「ほんと!?じゃあ部長に言っておくね!」

「おぉ、話が早いな……」

 

成り行きで演劇部を見学することになった大和は、練習で見せた輝林の演技に感銘を受けて、その場で入部を決めた。

 

「輝林マジですげぇな!!こんなに感動したのは久しぶりだ!」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう」

 

帰り道も途中まで一緒なこともあり、2人は一緒に帰っていた。

 

「あ、輝く〜ん!」

「あ、しずく」

「え!?お前あんな可愛い子と知り合いなのか!?」

「しずくは幼馴染だよ。虹ヶ咲学園の本校の方に通ってるんだ」

「先輩達が言ってた百合ヶ咲の方か……良いなぁ」

「じゃあ、また明日!」

「おう、またな!」

 

 

━━━絶対好きじゃん。わかりやすすぎ。

 

 

そして大和は輝林としずくが2人で話しながら帰る時に見せた輝林の表情を見て、輝林としずくがお互いに好意を寄せていることを察した。

翌日にそのことを輝林に話すとそのことは図星で、大和は輝林としずくの仲を応援することを決意した。

つまり、ひかしずのカップリング推しの第1号は大和なのだ。

 

それから大和は初心者ながら演劇部の練習に積極的で、輝林はその熱に応えるように個人練習にも付き合い、せつ菜のファン同士ということもあってめでたく2人は親友になった。

 

 

━━大和はそんなことを思い出しながら、ついに勇気を出して告白することを決意した輝林を心から嬉しく思っていた。

 

 

━━━輝林。今度は俺の番だ。お前が俺の練習を見てくれてたように。

 

「よ〜し!!」

「うおっ!?急にどうしたの……?」

「気合いを入れてたんだよ!絶対晴れろよ〜!!!」

 

大和が気合い十分で空に向かって叫ぶと、雲が晴れて間から太陽が顔を覗く…………

 

ことはなく、激しい雷鳴と共に大雨が降り出した。

 

『………………………』

 

2人はその光景に唖然として空を見上げた。

 

「雨降ってきたね……土砂降りの」

 

「なんでだよ〜〜〜!!!!!????」

 

そんな頭を抱えて叫ぶ大和の声を掻き消すかのように雷が激しく鳴り、無情にもその雨もさらに強くなっていった。

 

 

 

 

 

━━━1時間後。

 

 

「よし!そろそろ最終リハ始めるぞ〜!」

「天堂さん。まずは『宝石と星』の舞踏会のシーンをやるのはどうでしょう?」

「あ〜確かに。シャンデリアありでやったことないですからね」

 

午後からの本番に備え、ホールでは最終リハが行われようとしていた。

陽向の提案もあり、まずは午前中で設置されたシャンデリアがある状態での立ち位置の確認や、照明の確認をするために『宝石と星が輝く夜に』のリハーサルを先にすることになった。

 

「ねぇねぇ、しずく呼んできてくれる?」

「はい!わかりました!」

「輝林は……あ、いたいた!輝林〜!『宝石と星』のリハ先にやるから準備しろ〜!」

「あ、はい!」

 

陽向は近くにいた女子部員にしずくを呼んでくることを頼み、明良は近くにいた輝林に声をかけた。それから輝林はリハーサルの準備を始め、女子部員は駆け足でしずくを呼びに向かった。

 

 

━━━控え室。

 

「しずくちゃん!いよいよだね!」

「はい!うぅ……緊張する……」

「しずしずなら大丈夫だよ!」

「愛さん……ありがとうございます」

 

しずくは侑や愛の励ましでその緊張が少し解けた感覚を覚えた。

今回同好会のメンバーはお客さんの整列やチケットのもぎりなどの雑用を任されていて、しずくはその準備を手伝っていた。

 

「あ、ミア達も会場に向かってるみたいよ!大雨だけど」

「急に降り出しましたもんね……迎えに行けたら良かったんですが」

「誰か雨乞いでもしたのかな〜?な〜んちゃって!」

「流石にそれは無い……と思う」

 

嵐珠はスマホで、今年卒業して演劇会を見るために会場に向かってるミア・テイラーから連絡をもらうと皆にその報告をして、栞子としずくと璃奈は突然雨が強く降り出したことを不思議そうに話した。

 

 

「ハックション!!!」

「大和、風邪?」

「いや、なんか鼻がムズムズして……誰か俺がかっこいいと噂を……!?」

「それはないやろ」

「やな」

「先輩達酷いですってそれ?!」

 

ホールでは、栞子達が雨のことを話したからか大和が大きなくしゃみをして、輝林はティッシュを渡したが左京や利明はそんな大和を揶揄っていた。

 

 

 

「でも、皆さんに久しぶりに会えるの楽しみですね!」

「そうだね!卒業ライブ以来だもんね!」

 

せつ菜や歩夢は、旧3年生の面々の卒業ライブ以来に会えるということを楽しみにしていた。

卒業した後、ミアはアメリカの大学に戻って音楽の才能を磨くために勉強をしていて、エマ・ヴェルデは一旦故郷のスイスに帰ったがこのタイミングで再び日本へ帰ってきていた。さらに近江 彼方(このえ かなた)は料理人を目指して大学へ進学していて、朝香 果林(あさか かりん)はモデル活動を本格化させて人気急上昇中だった。

4人とも今日のために都合を合わせて揃ってこの会場に向かっていた。

 

「でも良かったね!チケット完売だったんでしょ?!」

「はい。両校の演劇部は有名ですから」

「それに〜、しずくもいるしね〜?」

「わ、私ですか!?」

 

愛がニヤニヤとしてしずくにそう言うと、しずくはびっくりした表情を浮かべた。

 

「そりゃあしず子はスクールアイドルだよ?!ファンも沢山いるし!」

「うんうん!璃奈ちゃんボード『エッヘン!』」

「で、でも、輝くんもいるし!輝くんは演劇を知る人の中で結構有名人ですから!」

『へぇ〜』

「な、なんですか……?!」

 

しずくが照れ隠しのために輝林の名前を出したが、それを聞いた同好会の面々はニヤニヤとした表情でしずくに視線を向けた。それにしずくは困惑した表情を浮かべた。

 

「本当にしずくは彼のことが好きみたいね」

「ちょっ……嵐珠さんっ!」

 

しずくは嵐珠にそう言われて顔を赤く染めて少し怒った様子を見せた。

 

「も〜!早いとこ付き合っちゃえばいいのに〜!あはは〜なんちゃって!」

 

「…………………」

 

「……………………え?」

 

かすみがいつものテンションでしずくを揶揄おうとしたが、顔を真っ赤にして何も言い返さないしずくを見て目を丸くした。他の皆もかすみと同様にしずくのことを見つめた。

 

『付き合っちゃうの!?』

 

「いや!まだそうと決まったわけでは……あっ……」

 

『まだ!!??』

 

侑、歩夢、愛がしずくに詰め寄ると、しずくが思ったよりガチ目な反応をしたことにより、そこにかすみを加えた4人がさらにしずくに詰め寄った。

 

「まだ……ねぇ?」

「璃奈ちゃんボード『ドキドキ』」

「しずくさん。これは白状しないといけなさそうですね」

「うぅ……実は………」

 

しずくは嵐珠、璃奈、栞子にも見つめられて、諦めて合同練習初日の輝林のことを話した。

 

「絶対告白されるやつじゃん!!」

「ト、トキメいちゃう……!」

「なんだかロマンティック……!」

「はわわわわ!」

「か、かすみちゃんがショートしてる……!」

「やっと付き合うのね!」

「しずくさん、おめでとうございます」

「栞子さん、まだ早いよ〜……」

 

しずくは皆に色々言われて顔を真っ赤にしていた。すると頭から煙を吹き出していたかすみはブンブンと頭を振って真剣な表情でしずくを見つめながらその手を両手で握った。

 

「しず子!」

「ど、どうしたの……?」

「………頑張ってね!応援してるから!」

「かすみさん……!」

 

「しずく先輩!部長がリハーサル始めるからホールに来て欲しいらしいです!」

「わかった!すぐ行くね!」

 

しずくがかすみの言葉に胸を打たれていると、1年生の演劇部員の子がしずくを呼びに来たため立ち上がった。

 

「じゃあ、行ってきます!」

『行ってらっしゃ〜い!』

「しずくちゃん!頑張って!」

「っ……はい!」

 

そして皆はそんなしずくに声を出して見送り、しずくはその声援を受けながら控え室を出ていった。

 

「でも、かすみちゃんがああやって言うのちょっと意外かも」

「え!?」

「かすみんなら『スクールアイドルなんだから恋愛はダメですっ!』って言うのかと思った」

「そうね。良いとこあるじゃない」

 

璃奈、愛、嵐珠にそう言われると、かすみは驚いた表情をしていたが大きく息をしてその表情を微笑みへと変えて出口の方を見つめた。

 

「だってしず子は………大好きな親友なんですもん。応援するに決まってますよ」

 

そんなかすみを皆は温かい目で見つめてその言葉に同意した。

 

 

 

━━━ホール。

 

「じゃあ次は舞踏会のシーンから!みんな位置について〜!」

『はい!』

 

陽向が場面転換の時にそう声をかけると、部員達は舞踏会用の舞台装置を運んだり、役がある人達は各々の待機位置に着いた。

ラピス役のしずくはまずは王子達に囲まれるシーンのためステージの真ん中に立ち、アルタイル役の輝林は後々の登場になるため舞台袖で待機した。

 

「あ、しずく!もうちょっと左に!シャンデリアの真下に立つ感じ!」

「あ、すみません!」

 

まだシャンデリアがある状態の舞台に慣れていないしずくは、この劇の為に作成された王座がある2階部分の舞台装置で待機していたメイド役の陽向から言われ、シャンデリアの位置を把握してからその真下へと移動した。

 

「OK!じゃあ、合図出して〜!」

「は〜い!舞踏会のシーンまで!3!2!……」

 

そして裏方の部員が開始の合図を出すと、音響係が舞踏会用に用意されたクラシックを流して、リハーサルが再スタートした。

 

 

そうしてリハーサルは順調に進み、いよいよラピスとアルタイルが中央で踊る場面になった。

いつもの照明に加えて、シャンデリアもあるためかより一層2人の姿が輝いて見えていて、ステージを客席から見ている部員達も、音響等を担当している部員達も、他の役のためステージで立ち位置に着いている部員達も皆それに見惚れていた。

 

そして何より、輝林としずくもお互いの姿に目を奪われていた。普段から意識しているが、シャンデリア等の照明で照らされていて、よりその姿が愛おしく、光のように輝いて見えていたのだ。お互いが演じている役の2人も恋心を抱いていて、今その気持ちはその"役"を演じているからなのか、それともそれは"自分"の気持ちなのか。恋は盲目という言葉があるように、2人はどちらが真実なのか気付いているはずなのだがわからなくなっていた。それは2人の演技の才能故のものなのかもしれない。

 

「……天堂さん、セリフ」

「あっ……すみません。

ゴホン……ん?あの男は……?」

「あの方はローズ王国の王子かと……」

「そうかローズの……良いではないか」

 

それはリリー王国の王様アレキサンド役の明良も例外ではなく、踊る2人に見惚れて台詞を言うのを忘れてしまっていて、陽向に指摘されると咳き込んでから不敵な笑みを浮かべて台詞を言った。

そしていよいよ利明が演じるペテルギウス達が舞踏会の会場に突入してクーデターを起こすシーンに入ろうとしていた。舞台袖とホールのドアの外側では何人もの部員達がその出番に備えて身構えていた。合図役の部員は舞台袖とホールの外側にいて、インカムでやり取りをする手筈になっている。

 

「姫……私はあなた(・・・)のことを心の底から愛しております。ずっとあなたのことが頭から離れないほど、あなたのことが好きなのです」

 

「っ……!」

 

しずくはその輝林の台詞にドキッとしてしまった。それは合同練習の初日に輝林から言われたことを意識していて、その台詞が"アルタイルからラピス"ではなく、まるで"輝林から自分自身"へ言われているように感じたからだ。

輝林の頬はその台詞の時に赤く染まっていて、しずくはそのことに、優しく抱き寄せられていたのと、照明の光が明るいためはっきりとわかってしまった。本当にそれは台詞なのだろうか?輝林は演技で頬を染めているのか?そんな考えをしずくは頭の中で巡らせていた。

 

「……しずく、台詞」

 

「………あっ、ごめん。

私も同じ気持ちです。ア……えっと………王子」

 

輝林は周りから見ればキスをしていると思えるほど顔を近付けて、しずくはさらに頬を赤く染めた。勿論その唇は重なることはなく、輝林の顔はしずくの唇の前あたりにあった。

 

『OKです』

「了解です。先輩、OK出ました!」

「よっしゃ!ほな、みんな行くで!」

『はい!』

 

輝林としずくのダンスが終わってその台詞と動きを確認した部員達は合図を出し、それを聞いた利明は号令を掛けると、部員達は息を合わせて勢いよくホールのドアを開けた。

 

 

 

━━━数分前。

 

「いい音楽だね」

「クラシックかぁ……舞踏会の雰囲気にぴったりだね」

 

同好会のメンバー達は控え室から耳でリハーサルが順調に行われていることを感じていた。

歩夢や侑は微かに聞こえてくるクラシック音楽に耳を傾けながら感動の声を漏らしていた。それは他の皆もそうであった。

 

「こういうの聞いてると早く見たくなるわ」

「しずくさんが、どうしても私達には本番で完成した劇を観てほしいと言ってましたからね」

「愛さん、ちょっと覗いてこようかな?!」

「愛さん、ダメ。璃奈ちゃんボード『プンプン』」

「も〜わかってるよ〜」

 

皆、しずくが出演する劇を観ることを心から楽しみにしていた。

しずくは栞子が言ったように、演劇会で自分が出演する劇は皆に完成したものを観てほしいと伝えていて、皆はその気持ちを汲んでリハーサルや練習には一切顔を出していない。しかしそれに不満や不安は一切無く、逆にそれを観る時の楽しみが増幅していて、しずくなら完璧な劇を魅せて(・・・)くれるだろうと確信していた。

 

「しず子………」

 

かすみは親友であるしずくの劇の成功、そして何より、演劇会を成功させてしずくの"望み"が叶うことを願ってその名を呟いた。

 

皆は控え室でそれらの期待を抱えて笑顔を浮かべながら作業をしていた。

 

 

 

 

 

 

━━━大きな音と悲鳴が会場中に響くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━ホール出入口。

 

「よっしゃ!みんな行くで!」

『はい!』

 

時は戻り、利明の合図でドアを開ける役の生徒達はドアに手を掛け、息を合わせて勢いよく開いた。

 

「アレキサンド!!貴様の圧政もここで(しま)いや!!」

 

「利明、関西弁……」

 

「あ、すまん……

アレキサンド!!貴様の圧政もここで終わりだ!!」

 

『ウ、ウオオオオオオオ!!!』

 

「何やってるんだあの人……」

 

「ははは……」

 

勢い余って関西弁が抜けていなかったことを兵士役の左京に指摘された利明を見て輝林は呆れた表情を浮かべ、しずくは気まずそうに苦笑いを浮かべた。

それは王座に座っていた明良もそうで、デコに指を当てて首を振ってから表情を驚いたものに変えた。

 

「何っ!?あればペテルギウス?!皆の者!奴等を捕らえよ!!……なっ、メイドは?!兵士はどこじゃ!!??」

 

他の役の部員達はその場を離れて舞台袖に行っていて、その様子をそこから眺めていた。

 

 

「………!?」

 

そして続いては2人がその場を去るシーンだったが、輝林は台詞を言おうとはせずにしずくを抱き寄せたまま急に表情を変えて驚いていて、しずくは不思議そうに見つめてその様子を伺おうとした。

 

 

「ん?輝くん、ど━━━」

 

 

「━━━ごめん、しずちゃん……」

 

 

「━━━え………?」

 

 

急にそう呟いた輝林は、何が起こっているのか理解できていないしずくを両手で強く突き飛ばした。

 

 

その顔はどこか悲しそうで、辛そうで、だがいつものように優しい笑顔でしずくを見つめていた。

 

 

「━━━━━━」

 

 

「えっ………?!」

 

 

そして輝林が"何か"を言った。

 

 

しずくは驚いた表情を浮かべた。

 

 

そして…………………

 

 

 

 

 

 

…………………その姿は見えなく(・・・・)なってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━私はやっぱり輝くんのことが好き。

 

しずくは共に踊る輝林の顔を見ながらその恋心を改めて確信していた。

 

幼い頃から共にいて、共に出掛け、共に遊び、高校も同じようなところに行き、そしてその天性の才能とも言うべき演技力に憧れて、同じ舞台に立つという夢を目指した。

 

 

━━━その夢が今日ついに叶うんだ。

 

 

そのことだけで胸がいっぱいな気分を感じていたが、さらに自分が輝林に寄せる想いと同様のものを輝林が持っているかもしれないということがわかり、これが色んなドラマや演劇でも言われている「幸せでお腹がいっぱい」ということなのだと初めて理解した。

 

 

━━━ダンスも前より上手くなってる……流石だなぁ。

 

 

輝林のダンスは、1番初めに練習した時よりも、さらには合同練習初日のあの時よりもずっと上手くなっている。役に入った時が彼の実力が1番発揮できるのはしずくが1番わかっていたが、こうして共に踊っているとそれがよりわかった。

 

 

━━━そんな輝くんの"隣"に立てるように私も今までも、そして今も頑張ってる。

輝くん、今の私はあなたの隣に相応しいかな?

 

 

しずくはそのことに多少の不安は抱えていて、それまでは想いを伝えることはしていなかった。

しかし、その前に輝林は動いた。そのことはしずくの不安を和らげるもので、輝林自身は『隣に立つのはしずくが良い』のだと、それに相応しいのだと思っているということだったのだろう。

 

 

「私はあなたのことを心の底から愛しております」

 

 

━━━それって……?!

 

 

輝林が言った劇の台詞。これは果たして本当に"ラピス"に言ったことなのだろうか?それとも"しずく"に言ったことなのか?しずくはどちらかわからず困惑していて、その答えを後で聞こうと思っていた。

 

輝林がしずくを抱き寄せている手はとても心地よく、今まで感じてきたものよりも1番近く、暖かい感覚。しずくはその『一生感じていたい』と思ってしまうほどその感覚をずっと味わっていたかった。

 

そして、キスシーンになるとその顔はより近くなり、今にでも本当にキスをしてしまいそうに感じていた。

 

 

━━━本当にされるかと思っちゃった〜!期待しちゃったの顔に出てたかな?!

 

 

しずくは輝林と顔を近付けながら1人脳内で大騒ぎしていて、次からのこと、そして今の状況を上手く理解できていなかった。

 

 

 

━━━そう。何も(・・)見えていなかった。

 

 

 

「━━━━━━」

 

 

「えっ………?!」

 

 

輝林に突き飛ばされて、そう言われるまでは。

 

 

 

「輝………くん…………?」

 

 

 

 

 

 

 

━━━僕はしずちゃんのことが好きだ。

 

 

輝林は共に踊るしずくを見ながら、その恋心をより強く想っていた。

 

小さい頃から一緒にいて、いつか絶対に同じ劇で共演したいと願っていた。

 

 

━━━その夢は今叶おうとしてる。

 

 

ずっと好きで、心の底から愛していて、共に過ごす度にその気持ちがより大きくなっていくのを感じていた。

 

いつしかその気持ちを抑えられなくなっていたが、この想いを伝えることを恐れていた。

 

この想いを伝えてしまえば、今までのしずくとの関係が壊れてしまうかもしれない。そんな不安があって仕方なかった。

 

だがその不安は先輩である利明によって払拭された。

 

 

━━━そうだ。しずちゃんとはそんなことで壊れてしまう関係じゃない。

 

僕は何を怖がっていたんだろう。

 

ごめんね、しずちゃん。

 

僕は、勇気を出すよ。この1歩を踏み出すよ。

 

 

『………桜坂しずくに、この演劇会を成功させることができたら、伝えたいことがあります……!

だから、この演劇会が終わったら、必ずそれを聞いてください……!』

 

 

これは輝林にとって逃げ道を無くす為のある種呪いみたいなものであり、まさに背水の陣を敷くものであった。しずくに、そして自分自身に嘘をつかない為に。

 

この大事な演劇会を絶対に成功させてしずくに想いを伝える。そのことを叶えることを自身の心に、利明に、大和に……そしてしずくに誓った。

 

 

「私はあなた(・・・)のことを心の底から愛しております」

 

 

━━━僕は、ずるいことをした。

 

想いを伝える前に我慢できなかった。

 

だから“アルタイル"という仮面を被ってしずちゃんへの想いを漏らしてしまった。

 

誰にもしずちゃんを渡したく無かったから。

 

 

だから………

 

 

ごめん、しずちゃん。

 

 

輝林はその手を離したくなかった。

 

愛しいしずくを抱き寄せているこの手を。

 

そして何より、他の誰にも渡さずに1人締めしたい。それはこの“呼び方"にも現れている。

 

そのことに気付かされたのは、奇しくも最近にしずくから言われたことにあった。

 

 

 

 

 

━━━━数年前。

 

 

 

輝林としずくの出会いは小学生になる前だった。

 

桜坂一家が紅葉宅の近くに引っ越してきて、たまたま母親との散歩中に出逢った。それはまさに運命の出逢いであった。

 

母親同士も意気投合して度々お茶をするようになり、それに輝林やしずくも付いて行っていて、その度に一緒に遊んでいた。

 

そして2人が小学校低学年のある日、2人の母親が名前のことについて話している時。

 

「そういえば、輝林くんのこの漢字の組み合わせって珍しいわよね」

「ふふっ、そうでしょ?中々にイケてると思ってるの」

「どうしてこの漢字に?」

 

「……『輝』は太陽の『輝き』。『林』は風に揺れる『木々』のこと。この子が産まれた時はその頃でも特にチョベリグな天気で、病室から眺めていた木々がサーッと音を立てて揺られている光景にとても癒されたの。

だからこの子も、太陽のように輝きみんなを照らし笑顔にして、風に揺れる木々のように癒す存在であって欲しいって思って、光照らすから"ひかり"。それに文字を当てて『輝林』って名前にしたの」

 

「へぇ〜!とっても良い理由ね!」

「でしょ〜?我ながら良いセンスしてるって思ってるもの」

 

瞳は鼻から煙が出るかのように胸を張り、涼はそんな瞳を見てお淑やかな笑いの声を出した。

そんな会話を遊びながら聞いていた輝林やしずくはジーッと2人を見つめていた。

 

「よくわからないけど、すごいね!太陽さんみたいにだって!」

「うん!ぼくもこの名前大好きなんだ!

でも………」

「でも……?」

 

しずくは笑顔になっていた輝林が急にシュンとし出して不思議そうに見つめた。そんな輝林は少し気まずそうに重たい口を開いた。

 

「あのね……みんなが『女の子みたいな名前だな』っていうんだ……」

「え〜!?」

「ぼくは大好きなのに……」

 

今にも泣きそうな顔でそう言うと瞳や涼はオロオロとしていたが、しずくは少し怒っていた表情から何か考えているようなものに変えていた。そして何か思いついたようで立ち上がって涼の方へと早足でトテトテと向かっていった。

 

「ねぇねぇおかあさん!けーたい貸して!」

「携帯?いいわよ」

「ありがとう!えっと……ひかる、はこれ!あっ!やっぱり!はい、返すね!」

「もういいの?」

「うん!」

 

しずくは涼の携帯で何やら検索をして、それを調べ終わるとすぐに返して、トテトテと輝林の方へと戻っていった。

何を調べたのか検索履歴を見た涼と瞳は、しずくの賢さに感心して驚いた表情を見せた。

 

「ねぇねぇ!」

「なぁに?」

「ひかりくんの名前の漢字を調べたの!それでね、その漢字の読み方に『てる』ってあったの!」

「てる……?そうなんだ……!」

「だからね、わたしこれからひかりくんのことを"てるくん"って呼んでいい?」

 

それがしずくが輝林のことを『輝くん』と呼び始めた瞬間であった。しずくは携帯で『輝』という漢字が『てる』とも読むことを調べ、そう呼ぶことにしたのだ。それは、輝林が「ひかり」と呼ばれることを嫌と思って欲しくないという幼いながらに感じたからであった。

 

「てるくん……?!うん、もちろんいいよ!」

「やったー!」

「あ、じゃあぼくもしずくちゃんのことを、えっと、えっと……"しずちゃん"ってよんでもいい?」

「っ……うん!」

 

「あらあら」

「なんだかカップルみたいなやり取りね……!これは将来結婚しちゃうのかしら?」

「ふふっ、どうでしょうね?」

 

そして輝林もまたしずくのことを『しずちゃん』とこの日から呼び始め、2人は嬉しそうに笑い合った。そんな2人を見ていた瞳と涼も微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

━━━僕は『しずちゃん』と呼ぶことが好きだったけど、中学に上がってしばらくして「その呼び方恥ずかしくねーの?」と同級生に言われてから、何故か僕はその呼び方を辞めてしまっていた。今考えるとそれは、しずちゃんのことが好きだったからこその思春期の恥ずかしさからだったんだろう。

きっとしずちゃんはそのことに不満を持っていただろうけど、当時は何も言ってこなかったんだ。でもあの日、ああして言ってくれたから僕はその呼び方を再びすることができたし。

 

それに……

 

"僕だけの特別な呼び方"なんだって気付くことができた。この呼び方をしている時に、ものすごく幸せな気分になれるんだ。

 

そう言えば、しずちゃんは他の人が僕のことを『輝くん』と呼ぶことは嫌がっていた。しずちゃんのお母さんでさえ呼ぼうとしたら……

 

『だめ〜!"てるくん"って呼んでいいのはわたしだけなの〜!』

 

……って言ってたし。

 

きっとしずちゃんにとってもこの呼び方は特別なものだったんだ。悪いことしたなぁ……ごめん、しずちゃん。

 

だから僕はこれから先(・・・・・)もずっと、しずちゃんって呼び続ける。そう決めたんだ。

 

この演劇会が終わったらしずちゃんに告白をする。そして、ずっと『しずちゃん』って呼び続けたいって思ってるんだ!

 

 

だからずっと………

 

 

僕だけの(・・・・)しずちゃんでいて欲しい。

 

 

 

輝林は共に踊るしずくを愛おしそうに見ながら思っていた。

キスシーンでは、本当にキスをしたいという欲望を抑えながら顔を近づけていた。

 

 

━━━めっちゃいい匂いする……

 

あ〜絶対しずちゃんに心臓の音うるさいの聞かれてるよ。

 

本番では本当にキスしちゃいそうだなぁ……ははは……

 

ってそんなこと考えちゃダメだ!次は突入のシーンだ。ここからしずちゃんを連れて舞台袖に……

 

 

輝林は目を開けて自分がこれからしずくを連れて去る予定の舞台袖を確認しようとした。

 

 

 

━━━ん?

 

 

その時だった。

 

輝林は床に映るしずくとの影を見て、自分達を照らしている照明が少し揺れていることに気がついた。

 

そこを照らしているのは………

 

 

━━━シャンデリア……!?

 

 

輝林はその照明がシャンデリアであることに気付いてその方向へ目線を移した。

 

それを確認した輝林は顔を青ざめた。

 

何故ならばその自分達の真上にあるシャンデリアが…………

 

 

 

揺れていたからだ。

 

 

 

━━━やばい!これもう落ちるぞ!?

 

何やってんだよ業者は!!!???

 

声を上げる時間もない!

 

しずちゃんを連れてこの場を離れるのは……無理そうだ。

 

 

そして輝林の脳裏には最悪の事態(・・・・・)がチラついた。

 

 

━━━こんなの当たったらタダじゃ済まないぞ!

 

大怪我……で済めば良い方だ。

 

 

最悪………

 

 

"死ぬ"………!!!

 

 

 

━━その間、数秒。

 

頭で考えて、口でこのことを皆に伝えることよりも先に体が勝手に動いていた。

 

それは一瞬脳裏によぎったことで、それが正解なのかどうかということすら考える余裕さえなかった。

 

 

「━━━ごめん、しずちゃん……」

 

 

「━━━え………?」

 

 

輝林はそう呟いてから抱き寄せていたしずくから体を離して、両手でしずくの胸の辺りを強く押してこの場から遠さげた。

 

しずくはこれで怪我をしてしまうかもしれない。

 

だが、この場にいた方がよっぽど大きな怪我をしてしまう。

 

だから輝林はしずくを強く、出来るだけ遠く飛ぶように突き飛ばした。

 

その反動からか、輝林は少し後ろに下がってしまう。

 

目線に先程まで揺れていたシャンデリアが目に入り、それは完全に支えるものを失っていて……

 

 

…………急降下を始めていた。

 

 

━━━あぁ。終わった(・・・・)かなぁ………

 

 

そして輝林の脳内にフィルムのように流れ出した━━━

 

 

━━━今までの記憶(・・・・・・)

 

 

家族との日々。

 

 

演技を極めるために練習した日々。

 

 

学校での平和な日常、生活。

 

 

大和をはじめ、演劇部員達との練習や日常。 

 

 

この合同演劇会に向けて練習や準備を重ねた日々。

 

 

スクールアイドルに興味を持ち始めて好きになったせつ菜のゲリラライブ。

 

 

何度も見に行った虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブ。

 

 

そして…………

 

 

輝林の想い人、初恋の人である桜坂しずくとの日々。

 

 

好きだと感じた時、一緒に笑った時、一緒に練習した時、何も用事はないがただ話したかった夜などなど。

 

 

後悔はないなんてことはない。

 

 

もっとしずくといたかった。

 

 

一緒に過ごしたかった。

 

 

演劇会が終わったら告白して、恋人になって、これからどんどん2人の時間を重ねたかった。

 

 

━━━しずちゃん。

 

 

僕は…………

 

 

僕は………………!

 

 

想いを伝えれないなんて嫌だよ……!

 

 

だからさ、ごめん。

 

 

言えないかも(・・・・・・)しれないから言わせてよ。

 

 

━━そして目線を、急に突き飛ばしてきた輝林を驚いた顔で見つめているしずくに向けた。

 

 

 

「僕はしずちゃんのことが、ずっと大好きでした。

愛してるよ」

 

 

 

「えっ………?!」

 

 

━━━その瞬間。

 

 

輝林にシャンデリアが直撃し………

 

 

輝林の姿はシャンデリアの下敷きになり見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「輝………くん…………?」

 

輝林に強く突き飛ばされて、尻餅をついて少し後ろに滑ってしまい、それから両手を背後の床に付けていたしずくは、先程まで自分がいたところを見つめて困惑の声を出した。

 

何が起こったのか、しずくには理解できなかった。

 

キーンという音が響き、周りの音は聞き取り辛くなって、視界も若干揺らいでいて、ただただ困惑したまま輝林がいたところを見つめ続けていた。

 

『きゃぁぁぁぁあああ!!!!!』

 

「輝林ぃぃぃぃいいいい!!!!」

 

「しずくッッッ!!!!」

 

その光景を見た明良と陽向は悲鳴があがる中すぐにステージ中央に向かって駆け寄り、他の部員達も一緒に駆け寄る者、そしてあまりにも衝撃的過ぎる事故にその場に立ち尽くしてしまう者がいた。

 

「救急車!警察!!なんでもええからはよ呼べぇぇ!!!」

 

「は、はい……!」

 

左京が近くにいた女子部員に向かって珍しく声を荒げてそう言うが、その女子部員は体が震えて上手くスマホを操作できなかった。

 

「っ……私が呼んできます!」

 

すると悲鳴と爆音を聞いて駆け付けてきた栞子がそう言って助けを呼びにスマホを操作しながらホールの外へ向かった。

 

「っ……しず子っ!」

 

『しずくちゃん!』『しずく!』「しずくさん!」

 

そしてその栞子とは別に駆け付けてきたしずく以外の同好会全員は急いでしずくがいるステージに走って向かった。

 

 

「おい!輝林ッ!!返事しろッッ!!!」

 

「輝林ちゃん……くっ……!紅葉輝林ィ!!お前何やっとんねん!!!はよ返事せんかい!!!」

 

「お前ら下がれ!ここは危ない!」

 

ステージの中央に向かって駆け寄り、叫ぶ大和や利明達を康太郎は現場から引き離そうと近寄った。

 

「でもッ!!輝林が………輝林があのシャンデリアの下にいんだよ!!!」

 

「わかってる!でもここは危ない!お前達まで何かあったらどうするんだ!!」

 

「うっ……クソォォォオ!!輝林っ!お前ふざけるなよ!!絶対演劇会成功させようって約束したじゃねーか!それに、桜坂さんにも告るんじゃなかったのかよッ!!!」

 

康太郎に言われて少しその場から後退した大和がそう叫ぶと、血溜まりに浮かぶ輝林の手が少し動いたように見えて、それを見ていた皆は驚きの声を上げた。

 

「おい!今手が動いたよな!?」

 

「ってことは……まだ助かるかも!?」

 

「お前ら、シャンデリアを今動かすと余計に危なくなる!だから今は俺たちにできることを……紅葉を呼び続けるんだ!」

 

『輝林!』

 

「紅葉!」

 

『輝林先輩!』

 

「輝林ちゃん!」

 

康太郎の冷静かつ必死なひと言を聞き、その周りにいた演劇部員達は輝林の名前を叫び続けた。

 

 

「しずく!しっかりして!しずくっ!!」

 

しずくの元き駆け付けた陽向はただ呆然としたまま前を見つめる彼女の肩を揺らしながら名前を呼び続けたが、反応は返ってこず陽向はどうすることもできない悔しさや事態の辛さを感じさせる表情を浮かべていた。

 

「とりあえず医務室に運びましょう!そこ!手伝って!」

 

『は、はい!』

 

そこへ顧問の葵子も駆け付けて、近くで立ち尽くしている女子部員達を呼んでしずくを医務室へと運ぼうとその体に手を掛けていた。

 

「しず子っ!!」

 

かすみはどの同好会メンバーよりもいち早くステージに駆け付け、ステージの縁に手を掛けながらしずくに向かって叫んだ。

 

「て、輝……くん……?」

 

そんな色んな叫び声等が聞こえる中、その状況が理解できていなかったしずくも徐々にそれを理解し始めた。

 

先程まで近くに、目の前にいたはずの輝林がおらず、その先程まで彼と自分がいたステージ中央に見えるのは、天井からぶら下がっていたはずのシャンデリアだった。

そんなシャンデリアも電球が割れていたりと壊れていて、その下には血溜まりと、人の腕や脚等が見えていた。

 

『━━━ごめん、しずちゃん……』

 

「い、嫌………」

 

そしてしずくは先程までの状況も思い出していった。リハーサル中で、舞踏会のダンスを踊り終わった後に突然輝林がそう言って自分を突き飛ばして………

 

『僕はしずちゃんのことが、大好きでした。

愛してるよ』

 

「イヤ…………っ!」

 

輝林はあのシャンデリアの下にいるということを、しずくは遂に理解してしまった。すると、そんなしずくの目からは大粒の涙が流れ出した。

 

 

━━━あそこに、いるんだ……!

 

 

「イ……イヤァァァァァァアア!!輝くん!!!輝くんッッッ!!!!!」

 

「しずく!?っ……しずく!落ち着いて!!」

 

「嫌っ!!輝くん!!!輝くんッッッ!!!!」

 

先程まで微動だにしなかったしずくが急に甲高い声で輝林の名を叫び、彼がシャンデリアの下敷きになっているステージ中央に行こうと動き出すと、しずくを運ぼうとしていた葵子や陽向はそんなしずくを力いっぱい抑えた。

 

「桜坂さんダメよ!今そっちは危ないからっ……!」

 

「嫌……っ!!だってあそこに輝くんが……輝くんがいるんですッ!!!」

 

「っ……気持ちはわかるけどッ!とりあえず危ないから一旦離れよう?!」

 

「嫌!!イヤイヤイヤッ!!!!輝くん!!!輝くんっっっ!!!」

 

その陽向達の静止を振り切って輝林の元へ行こうとするしずくの悲痛な叫びはホールにも、そして皆の心にも痛く感じてしまうほどに響き渡った。

 

輝林はまだ生きているのだと、助かるはずだと誰もが信じていて、しずくもそのことを疑うことなく信じていた。

 

━━信じていたかった(・・・・・・・・)のだ。

 

しかし、その脳裏には自分を突き飛ばした輝林の表情やその言葉が思い出されていて、その最悪の展開(・・・・・)が過ぎっていた。

 

 

━━━私を庇って、輝くんは………っ!!??

 

 

「輝、くん…………っ!」

 

「しずく?……しずく!?ちょっと!しっかりして!!しずくッ!!!」

 

すると先程までステージ中央に向かおうと暴れていたしずくが急に力が抜けたように大人しくなり、陽向はそれを不思議に思って様子を確認すると、しずくは気を失い、陽向や葵子が持っていなければそのまま倒れてしまいそうな状態だった。いくら陽向が呼び掛けて揺らしてもしずくから言葉は返って来ることはなく、皆の表情もさらに焦りが強まっていることが感じられた。

 

「っ……意識を失ってる!とりあえず早く医務室に運びましょう!」

 

『はい……!』

 

そんなしずくを葵子や陽向、そして手伝いに駆け付けた女子部員達はしずくを協力して抱えて、医務室へと運んで行った。それを見守るように同好会のメンバー達はしずくに呼び掛け続けながら付いて行き、その集団がホールから出るのと入れ替わるようにレスキュー隊や救急隊が入ってきて、懸命な輝林の救助活動が行われようとしていた。

 

 

━━雨音や雷鳴が鳴り響く中、それをかき消してしまう程のサイレンの音が街に響いていた。

 

それを聞いた人達は不吉さを感じる天気も相まって妙な胸騒ぎを感じていた。

 

会場でも、意識を失ってしまったしずくに呼び掛ける声、救急隊やレスキュー隊の必死な声、シャンデリアの下敷きになって救助されている輝林の名を叫ぶ声、そしてこのあまりの事態に泣いてしまう人達の泣き声等が所々から聞こえていた。

 

 

━━━なんとか命は助かって欲しい。

 

 

誰もがそんな"たったひとつの思い"を、願いを抱える中、輝林は救急隊によって病院へと搬送されていった。

 

 

「………輝くん……」

 

皆に運ばれているしずくはそう呟いていたが意識を失ったままで、それは輝林が助かることを願っているしずくが無意識のうちに口から漏れてしまった一途な思いであった。

 

 

━━そんな皆が"たったひとつの思い"を胸に浮かべる中、雨も止むことを知らずさらにその勢いを強めていて、その時間も永遠に感じられる程ゆっくりと過ぎていった。

 

 

━━━しずちゃん。しずちゃんは………

 

しずちゃんだけは、どうか無事でいて。

 

 

━━そんな"たったひとつの思い"は誰にも届くことはなかった。

 

 

 

次回『しずく照らす光』

 

第4話「この世界でひとりきり」

 

 

 





ありがとうございました。
評価や感想、Twitterでの読了報告等お待ちしております。
次回の投稿は明後日の22時を予定しております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。