しずく照らす光   作:シベ・リア

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みなさんこんばんは。
さて、いよいよ今回のお話も後編となります。次回はエピローグを予定していますので、実質今回が最終回のつもりで書かせていただきました。
何かを考えていた同好会や演劇部の面々……そして"演じている"しずく。
歌うことも、ステージに上がることもできないまま同好会でのライブの日を迎えました。一体どうなってしまうのか………!

ぜひ、見届けてください。よろしくお願いします。





第6話「大女優〜後編〜」

 

 

━━━━━数日後。

 

━━━━虹ヶ咲ホール。

 

 

そして時は流れ、ついにスクールアイドル同好会のライブの日を迎えた。

会場は本校分校の生徒、各演劇部とその関係者、そして同好会のメンバーの関係者をできる限り多く招待するために、虹ヶ咲学園が保有する中規模のものを使用し、来れない人や他のファンのために配信も行う予定だ。それに会場のそこら中には『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会〜SOLO PARADE〜』と書かれた看板やポスターが掲示されていた。

 

しずくはあのようなことがあってライブには出ないため、今回は裏方……演出を考えたり、本番では音響周りの担当をすることになっていた。いつものように生徒会や有志の生徒達に加え、今回は演劇部OGの百々、同好会OGのミア、果林、彼方、エマも裏方で協力していた。

 

直前のリハーサルも終え、しずくは百々や侑などと共に音響や演出等の最終確認を行い、後は本番を待つのみとなった。

 

そんな中、しずくは1番後方の席に座って、どこか寂しそうな表情を浮かべながらスクリーンや様々な飾りが設置されているステージを見つめていた。

 

「しずく」

「あっ、部長……」

「だから、もう部長じゃないって」

「そうでした……百々先輩」

 

そんなしずくの肩を軽く叩いた百々は優しい声色でそう言いながらしずくの隣の席に座った。そんな百々をしずくは目で追い、隣に座ってステージを見つめる百々を確認してからまた視線をステージへと戻した。

2人はお互いの顔を見ず、ライブが行われるステージを眺めながら会話をした。

 

 

「………しずく、今ちょっと寂しいでしょ?」

 

「……少しだけ。百々先輩にはお見通しですね」

 

「1年間ずっとしずくを見てきたからね。それぐらいわかるよ」

 

「ふふっ、先輩にはお世話になりましたもんね」

 

「懐かしいな……留年すれば良かったかな?」

 

「もう!そんな冗談はよしてくださいよ!」

 

「はははっ!でも、そう思っちゃうぐらい楽しかったんだよ?特にあの1年間は」

 

「色々ありましたもんね」

 

2人はそんな会話をしながら、共に過ごした1年を思い返していた。演劇部での活動は勿論そうであるが、同好会での活動でも百々は何かと手伝い等をすることもあり、ライブではしずくに頼まれて音響の操作をよく担当していたため、その時のことを思い返していた。

 

「そうだね。しずくの演技も、スクールアイドルのステージもよく覚えてるよ」

 

「……折角手伝いに来てもらったのに、見せれなくてすみません」

 

「えっ!?いいのいいの!そんなつもりで言ったわけじゃないから!」

 

「ですが………」

 

「しずくが責任を感じることじゃないって!だってしずくは演劇もスクールアイドルも嫌いになったわけじゃないんでしょ?」

 

「はい!勿論です!」

 

「ふっ……それを聞けただけで十分だよ」

 

「……?」

 

しずくはどこか満足そうに笑みを浮かべる百々を不思議そうに見つめて首を傾げた。

するとホールの外から誰かが廊下を走る音が聞こえ、それからすぐに扉を開ける大きな音がホールに響き、しずくと百々はその扉の方に視線を向けた。

 

「しずくちゃ〜ん!いたいた!」

 

「侑先輩?そんなに慌ててどうかされたんですか?」

 

「大変なんだよ!かすみちゃんの衣装がほつれちゃたからしずくちゃんに見て欲しいって!」

 

「えっ!?わ、わかりました!では百々先輩、行ってきますね!」

 

「うん、行ってらっしゃ〜い」

 

「早く行こう、しずくちゃん!」

 

「は、はいっ!」

 

しずくは慌てる侑に急かされるように控え室へと向かった。侑は百々にアイコンタクトを送ってからしずくの後を追い、百々はそんな2人が去っていった出口の方を見つめて笑顔を浮かべた。

 

 

「私達は待ってるからね、しずくがこの舞台に帰ってくることを」

 

 

━━━だから、大丈夫だよ。

 

 

 

 

 

━━━━━控え室。

 

「かすみちゃん!」

 

「しず子……!」

 

「衣装がほつれたって聞いて……!大丈夫?!」

 

しずくは控え室の扉を勢いよく開き、力細い声を出したかすみの元へ駆け寄った。そんなかすみの手には普段ライブで着ている衣装が握られており、しずくはかすみの背中の方からその衣装を覗いた。

 

 

━━━あれ?ほつれなんて……

 

 

「しず子……ごめんね」

 

「え?」

 

しずくがかすみの持っている衣装にほつれが見当たらないことに戸惑っていると、そのかすみのひと言を合図にして侑は控え室のドアの鍵を閉めてしまった。

そしてそのことに戸惑うしずくの両腕をすかさずエマとミアがガッチリと捕まえ、不気味な笑顔を浮かべた果林と彼方がしずくに歩み寄った。

 

「しずくちゃ〜ん、大人しくしててね〜」

「しずく、観念しなさい!」

「み、皆さん……!?きゃぁぁぁぁ〜!」

「しずくちゃん、暴れないの!」

「しずく!Freeze!」

 

しずくの叫び声やミア達の声が響く中、その光景を少しの間見届けたかすみや侑はそっと控え室を出て行き、もうすぐ開場になるライブの準備を始めた。

 

 

 

━━━━━数時間後。

 

 

「……はい、出来た」

『おぉ……!』

「流石は果林だ!Excellent!」

 

4人は無理矢理制服を脱がせ、しずくが『Solitude Rain』で着ていた白と黒が基調になっているドレス衣装に着替えさせていた。さらにそれから逃げないように椅子に固定していたしずくに果林は化粧をして、それが終わると他の3人は目をキラキラさせて素晴らしい化粧を施した果林を讃えた。

しずくは最初こそ抵抗していたが、それが無駄だと悟ると抵抗を辞めて大人しく果林達の好きなようにさせていた。

 

「………もう良いですか?」

「うん、大丈夫だよ!ごめんね」

 

エマはしずくの着替えに化粧と全ての準備が終わると、そのしずくを拘束していた縄を椅子から解いた。やっと解放されしずくはひと息を吐き、何故このようなことをされたのかと思考を巡らせた。

 

「あ、待ってしずくちゃん。最後にこれ〜」

 

「っ……!」

 

彼方は立ち上がったしずくを静止させ、制服を脱がせた時にポケットに入っていたネックレスを、しずくのために同好会の皆で製作したブレスレットの上から掛け、しずくは驚いた表情を浮かべてそのネックレスに優しく触れた。

 

「わぁ……!綺麗!」

 

「良いNecklaceだね……!」

 

「大切なものなんでしょ〜?」

 

「…………はい、とても」

 

しずくはエマ、ミア、彼方が誉めてくれたネックレスを愛おしそうな目で見つめながら、甘い声でそう答えると皆は笑顔を浮かべた。

 

「そう……それが紅葉くんに貰ったネックレスね」

 

「………はい」

 

そのネックレスはしずくが輝林に誕生日プレゼントで貰ったもので、しずくは肌身離さずそれを持ち歩いていて、校則的に掛けていると没収される可能性もあったため制服を着ている時はポケットに入れていた。しずくはそんなネックレスを、輝林に貰った時のことを思い返すような目で見つめ、そんなしずくを皆は優しく見つめていた。

 

「だと思ったわ。だとしたら何も怖がる必要なんてないわよ」

 

『うん!』

 

「っ……皆さん……!」

 

「だってしずくには私達も、同好会のみんなも、演劇部のみんなも……そ・れ・に、紅葉くんも付いてるんだから」

 

「っ……果林、さん……!」

 

「そうそう、きっと紅葉くんもしずくちゃんのこと見守ってくれてるよ!」

 

「だからDon't worryだ、しずく。僕達もいるからね!」

 

「み〜んな、しずくちゃんの味方だからね〜」

 

「エマさん、ミアさん、彼方さん……!ありがとう、ございます……っ!!」

 

そして4人の言葉に涙を浮かべたしずくをエマと彼方は頭を撫で、果林とミアは笑みを浮かべてそんなしずくを見つめた。その4人の目には少し涙が浮かんでいた。

 

「じゃあ、しずく……行きましょう」

 

「えっ!?行くって……どこへ!?」

 

「決まってるよ!」

 

「うんうん!」

 

果林がしずくの手を取り控え室の外へ連れて行こうとし、戸惑うしずくだけがその行き先を知らず、それを知っている皆は笑顔を浮かべていた。

控え室の出口が近付いてもどこへ連れて行かれるのかわからずしずくは困惑していたが、そんなしずくにミアはキメ顔でその行き先を告げた。

 

「Stageだよ!しずくの……New stageだ!」

 

 

 

 

 

 

『みなさんの"大好き"の声!私に聞かせてください!!!』

 

「大好きだーーーーー!!!!!!!」

 

「大和うるさい」

 

「え〜!?ライブなんですから良いじゃないっすか!」

 

「今日ええんちゃうか?折角のライブやしな」

 

「ですよね!流石は白部先輩!せつ菜ちゃーーーん!!」

 

大和は最推しのせつ菜の登場に1曲目にも関わらずテンションが爆上がりしており、隣の席の明良はそんな大和の声に若干引いていたが、利明が宥めると明良は「仕方ないな」と言わんばかりに微笑み、さらに騒ぐ大和とは違って静かにペンライトを振ってステージで歌い踊るせつ菜を見つめた。

しかしテンションが爆上がりしているのは大和だけではなく、他の観客達もそれは同じで地響きのような歓声が会場に響いていた。

 

そんな中、しずくは果林達に連れられてステージの袖に来ていて、代表的である今披露している『CHASE!』の衣装を着ているせつ菜のパフォーマンスと観客達の盛り上がりに圧倒されていた。

 

 

━━━やっぱりせつ菜さんは凄い……!

 

 

そしてしずくが思い出したのは、初めてスクールアイドルの……せつ菜のライブを見た時の輝林の顔だった。その目を輝かせる輝林を見て、そうさせるせつ菜に対抗心を沸かせて自分もスクールアイドルを始めることにした。

 

『………優木せつ菜先輩。あなたを超えるスクールアイドルになりたいからです!』

 

それからせつ菜の前でそんな強気な発言をしたが、そんなせつ菜のパフォーマンスは見ている人達をここまで盛り上げることができ、しずくは若干自信を失っていた。

だが、そんな自分のパフォーマンスを好きと言ってくれる人達がいた。1番好きだと言ってくれた輝林(ひと)がいた。ありのままのしずくで良いのだと言ってくれた同好会の皆がいた。だからこそしずくはしずくのパフォーマンスを続けていた。

 

 

━━━でも、もうそのステージには……

 

 

しかし、輝林が亡くなったあの日のことがあってからステージに登れなくなっていて、しずくは静かに歯を食いしばった。

 

『足を踏み出す 最初はこわいかも

でも「進みたい」 その心があれば!』

 

「っ……!」

 

 

━━━わ、私は……っ!!

 

 

そんなしずくの心に『進みたい』という思いが、まるで炎が燃え始めたかのように生まれ、しずくはキュッと胸を片手で握った。あんなことがあってステージに立つことができなかったが、しずく自身は「進みたい」と願っていたのだ。

 

サビが盛り上がるにつれ、ステージの前方から火柱が何度も噴き出していて、観客のボルテージも上がり、パフォーマンスをしているせつ菜も汗をかきながらそれに力が入っていた。

 

『Oh,Yeah〜〜〜〜〜〜〜ooh〜〜〜〜〜!!!』

 

そしてこの曲の1番の見せ場と言っても過言ではないラスサビでのせつ菜のロングトーン。それはいつも皆の心に響くようなものだったが、しずくの心はいつもよりもさらに強くそれが響いていた。

ロングトーンが終わってから事前に収録していたせつ菜の歌声があるため少しの間があるが、そこでせつ菜はステージ袖のしずくに向かって笑顔を向け、しずくもそれに気付いてハッとした表情を浮かべた。

 

 

「皆さん!まだまだ行けますよね〜〜?!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!』

 

「『LIKE IT!LOVE IT!』!」

 

1曲目が終わるとせつ菜は観客達を煽り、その2曲目のタイトルコールの後すぐにイントロが流れ出し、観客達の歓声も1曲目からさらに大きなものになっていた。

せつ菜の聞いている皆にエールを贈るようなその歌声や曲に元気をもらう人は少なくない。せつ菜自身もそうであることを願いながら、皆の心に届くようにパフォーマンスをしていた。

 

『ココロの中 迷子になってしまう そんな時もあるよね 思い出して!本当の気持ちを』

 

その歌詞はしずくの心に刺さるものだった。

今のしずくのココロ(・・・)の中はまさに迷子になってしまっている。だからこそせつ菜はこの曲で、自分のパフォーマンスでそんなしずくの背中を押そうとしていたのだ。

 

「次が私の最後の曲です!私の全力の歌声をあなた(・・・)に届けますっ!『MELODY』!」

 

そして2曲目が終わっても観客達の歓声や興奮がおさまらない中、次曲のイントロが流れ出した。そのイントロ中にせつ菜がタイトルコールをすると歓声はさらに大きく会場に響いた。

 

 

━━━しずくさん、あなたの心に届いてますか?私の全力の歌声が!私がしずくさんがまたステージに立てるように、この歌声で背中を押してあげます!

 

だからッ!!!!!

 

 

「声出して〜!!はい!はい!はい!」

 

『はい!はい!はい!はい!はい!』

 

そしてせつ菜は自身も腕を何度も突き上げながら観客達に呼びかけ、大空に……そしてしずくの心に届くような声を出させた。その声で会場にもしずくの心にも大きく響いた。

 

『ほら届け〜〜〜!!!!

LALALA〜LALA Oh,Yeah〜〜〜!!!!』

 

せつ菜の力強いロングトーンがまた会場に響き、そして曲の終わりに合わせてジャンプをして着地と同時にギターを弾くようにポーズを決めた。

 

「ありがとうございました!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!』

 

観客達はせつ菜のパフォーマンスを讃えるかのように歓声と拍手を送り、せつ菜は礼を言ってから出てきた方とは逆側……しずくの方へと走っていった。

 

「しずくさん!」

 

「せつ菜さん……!」

 

「ふふっ……"その溢れる感情は嘘なんかじゃない"ですよね?」

 

「っ……!」

 

「……待ってます!」

 

汗を大量に垂らしながら息を切らして近付いてきたせつ菜は、しずくの胸にポンと拳を優しく当てて『LIKE IT!LOVE IT!』の歌詞にもあるその言葉を伝えてから控え室へと戻っていった。そんなせつ菜の言葉にしずくは目に涙を浮かべ、まるでヒーローのように去るせつ菜の背中を見えなくなるまで見つめた。

 

「……ありがとう、せつ菜さん」

 

そうしずくが呟くと、次のメンバーの1曲目のイントロが流れ出し、しずくはまたステージへと視線を向けた。

 

 

「みんな〜?せつ菜のパフォーマンスで疲れたなんて言わせないわよ?嵐珠のパフォーマンスに身惚れなさい!『Eutopia』!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!!』

 

そしてせつ菜のハイボルテージなパフォーマンスからまるで息をつかせないように、チャイナ服をアレンジしたような『Queendom』の時の衣装に身を包んだ嵐珠がステージ脇から登場し、1曲目である『Eutopia』を披露した。最初の間奏で嵐珠がそう観客達を煽ると、その歓声はせつ菜の時に負けないぐらい大きなものとなり会場に響いていた。

この曲は昨年の本校でのオープンキャンパスの時にまだ嵐珠が同好会のメンバーではない時にゲリラで披露した曲だ。そのパフォーマンスにしずくを始め同好会のメンバーは圧倒されたのをしずくは覚えていて、嵐珠がチラッとしずくの方に視線を向けるとその時の感情が蘇ってくるように感じた。

ライトが眩しいほどに会場を色々に照らし、嵐珠のパフォーマンスに誰もが圧倒されていた。

 

『胸に手を当ててみたなら探して 本当の心を 絶えず突き上げる振動が 告げる真実を

ほらバイアスや 思い込みが 邪魔をしても目を閉じないで 私は逃げない!最高をみせたい!貫くよ』

 

「っ……!」

 

その歌詞にしずくは胸に手を当ててドクドクと激しく振動する鼓動を感じ、嵐珠のパフォーマンスに賭ける思いと自分の隠せない思い……本当の心を感じた。

嵐珠はどんなことがあってもこのステージからは逃げない、皆に最高を魅せたい(・・・・)からこそ貫くのだと、そんな強い思いをパフォーマンスに込めていた。しずくにも勿論その気持ちがあった。本当はステージでパフォーマンスをしたい、舞台で演じて皆を……輝林を魅せたい。そんな本当の心をしずくは感じながらパフォーマンスを続ける嵐珠を見つめた。

 

「続けていくわよ!『夜明珠(イエミンジュ)』!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「ッシャキタァァァァァァア!!!」

 

『Doki-Doki Doki-Doki……』

 

1曲目が終わってから息をつかせないようなタイトルコールの後、嵐珠の吐息のような歌声が流れ出し観客達は歓声を上げ、その嵐珠の甘い歌声とパフォーマンスに観客達は見惚れていた。

 

「好きだ………」

 

「どうした急に?」

 

「俺、嵐珠さんに恋をしちまったかも……」

 

それを聞いていた分校演劇部の1人の部員は嵐珠のパフォーマンスに心を奪われ、愛おしそうにステージで歌い踊る嵐珠を見つめていた。隣でやり取りをしていた部員も少し呆れながらも微笑ましそうに肩を揺らし、ステージに視線を向け直した。

 

『我的人生由我来决定』

 

しずくは中国語ばかりの嵐珠の曲の歌詞の意味を演技の参考にしたいからと本人から聞いたことがあり、この歌詞の意味は「私の人生は私が決める」というもので、今のしずくの心には激しく響いた。ここでステージに立つことができないまま終わっても良い。これは自分の人生だから。だが本当にそれで良いのか?と現状に、自分の人生に自問をするように感じたのだった。

 

 

━━━しずく。私は私らしく、私のパフォーマンスで背中を押させてもらうわ!だから、無問題ラ!

 

 

しずくはそんな嵐珠のアイコンタクトとパフォーマンスに込められた思いを感じ、瞬きすらもすることなく嵐珠のパフォーマンスを見続けた。

 

「これが嵐珠の最後の曲よ!最後まで目を離すんじゃないわよ〜?!『5201314』!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!!』

 

そして2曲目が終わると続けて中華風を感じさせるイントロが流れ出し、嵐珠はそれに合わせて舞うように踊り、一旦それが止まって再度流れ出して盛り上がるタイミングでタイトルコールをすると観客達は大歓声を上げた。

 

「あっ………愛してる………」

 

「おい!しっかりしろ!!!」

 

先程、嵐珠に心を射抜かれた分校演劇部の部員は『5201314』の隠された意味を知っていたのと、嵐珠のウインクを受けて天に召されるように椅子に座り込み、隣で見ていた部員はその肩を揺らした。

『5201314』とは中国で愛の告白として使われる数字であり、さらには嵐珠のパフォーマンスも合わさり、まさに見ている人の心を魅了し射抜いていたのだ。

そしてしずくはそんな見ている人の心を射抜くような嵐珠のパフォーマンスに、自分も輝林を魅了させたくて演劇もスクールアイドルも始めたことを改めて思い返させられた。

 

「ありがとう!謝謝!」

 

「ありがとーー!!!大好きだーー!!!!」

 

歓声に混じって分校演劇部員の熱い声援が混じる中、嵐珠は手を振ってそれらに答えながらしずくのいる方のステージ袖に堂々とブーツの音を鳴らしながら歩いて近付いた。

 

「しずく!」

 

「嵐珠さん……!」

 

「私に"よく見せて"ちょうだい。"本当のアナタの姿を"ね。待ってるわよ」

 

「っ……うん!」

 

嵐珠はしずくの肩に優しく手を触れながら『5201314』の歌詞を交えて耳元でそう声をかけてから、しずくの顔をしっかりと確認することなく真っ直ぐ控え室へ戻って行った。それは嵐珠がしずくならステージに戻ってくることを信じているからこそのものであった。しずくはそんな嵐珠の意図を受け止めて心が温まる感覚を感じた。

 

 

少し間隔が空いた後、デジタル音のようなイントロが流れ出し、ステージ後方にあった城の設置物から滑り台が生えてきて、そこから灰色が基調になっている『ツナガルコネクト』の衣装を着た璃奈が両手をあげて滑って登場した。それを見た観客達は璃奈を迎えるように歓声を上げ、璃奈もそれに答えるように手を振った。

 

「次は私の番。1曲目は『ドキエポ⭐︎エモーション』!」

 

璃奈は自身の特製である刀の鍔のようにアンテナが付いているペンライトを左右に振りながら曲を披露し、観客達もペンライトを同じように振りながら声援を送った。

 

 

━━━しずくちゃんに私の歌で思いを伝えることは難しいけど、精一杯伝えるからね……!

 

 

璃奈はそんな思いを胸に秘めて、まさに"思いを届ける"ように懸命に、そして楽しそうにパフォーマンスをした。

 

『R-I-N-A-C-H-A-N B-O-R-D 璃奈ちゃんボード!』

 

璃奈はアンテナ型のペンライトを観客達にも向け、背後のスクリーンに映し出される文字を観客達も巻き込んでいつもより2回ほど多く、しずくに楽しさを伝えるように声をあげた。

 

『きらきら輝く あのステージで待ってる』

 

「っ……!」

 

さらにしずくはその歌詞を聞いて口を片手で押さえていたが目には涙が浮かび、それはステージのライトに照らされてキラキラと輝いていた。しっかりとステージでパフォーマンスをする楽しさはしずくに伝わっていたのだ。

 

「次はこの曲……『アナログハート』!」

 

『オオオオオ!!!』

 

1曲目が終わると今度はポップなイントロが流れ出し、その中で璃奈はタイトルコールをすると観客達は歓声を上げた。この曲は全体的にポップで軽快なメロディをしていて聞いていてワクワクする曲で、観客達も楽しそうな笑顔を浮かべてステージでパフォーマンスをする璃奈を見つめていた。

しずくはそんな璃奈のパフォーマンスで楽しそうな笑顔を浮かべる観客達を見て、璃奈の魅力と思い、そして自分のパフォーマンスや演技を見て笑顔になってくれる人達の顔を思い出した。

さらに璃奈は先程と同じようにサビ部分でもアンテナ型のペンライトを左右に振って、さらに観客達も同じようにペンライトを振った。そんな光景を見たしずくは目をキラキラとさせてその光の海を見つめ続けた。

曲終盤前の間奏部分では璃奈はロボットダンスを披露し、しずくはそのダンスを見てジーンとさせていた。それもそのはずで、このダンスは演劇でロボット役を演じたしずくにアドバイスを貰いながら共に練習したもので、まさにこれは璃奈としずくをツナゲル(・・・・)ものであった。そしてそんな中で璃奈ちゃんボードの隙間から目が合った璃奈としずくの心はコネクト(・・・・)したのであった。

 

「次が最後の曲だよ。みんな盛り上がってね〜!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「『ツナガルコネクト』!」

 

そして2曲目が終わって璃奈が次の曲のタイトルコールをした後、最初から握っていたアンテナ型のペンライトのボタンを押すとアンテナ部分が閉じ、璃奈はそれをベルトに挟んでからそれを合図として曲が始まった。

 

『思ったようにいかなくて ポッキリ折れてったココロもう一度 踊らせていきたいんだ』

 

『ヒトリで カンペキじゃなくていいんだ… みんなと一緒にGoing』

 

璃奈はこの曲を初披露したあの日、無表情な自分に悩み逃げ出してしまったことから、同好会の皆と共に前に進んでいく璃奈の強い思いが込められている曲で、今前に進むことができないしずくに向けての思いも込められていた。

 

 

━━━しずくちゃんの逃げ出したい気持ちもわかる。でも、私達が付いてるから……!

 

 

そんな思いとしずくがステージに戻ってきて欲しいという願いを込め璃奈は曲を披露した。

そして曲が終わると璃奈はぴょんぴょんと跳ねながら手を振って、しずくのいるステージ袖に下がっていった。

 

「しずくちゃん」

 

「璃奈さん……!」

 

「………はい。握って」

 

「え?う、うん……」

 

璃奈はしずくに取り外した璃奈ちゃんボードを掴ませてから目を瞑ったが、しずくは何をしたいのかわからず首を傾げた。

 

「"カガヤクアナタノハート、ヨロコブヨワタシノハート"」

 

「っ……!」

 

「"うまくいくおまじない"かけたから大丈夫だよ。待ってるよ、しずくちゃん」

 

「うん、うん……!ありがとう、璃奈さん……!」

 

そう、璃奈はしずくに取り外した璃奈ちゃんボードを掴ませて自分とコネクトさせて『アナログハート』の歌詞にもあるおまじない(・・・・・)をかけたのだ。そして璃奈はそう言い残してから璃奈ちゃんボードを持って控え室に戻っていった。しずくはそんな璃奈の言葉に涙を滴らせ、頬から流れ落ちそうになる涙を指で拭った。

 

「おっ、ついに彼方ちゃんの出番だね〜」

 

その後、彼方がラジコンを操作するリモコンのようなものを持ってしずくの横に立ってそれを操作し始めた。するとイントロに合わせて手拍子をしながら小型のゴンドラに乗ってステージの向こう側からチアリーダーのような『サイコーハート』の衣装に身を包んだ愛がステージに現れ、観客達もそんな愛に合わせて手拍子をして彼女を出迎えた。

 

「次は愛さんの番!最初はこの曲!『めっちゃGoing!!』!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「待ってましたーーー!!!」

 

『みんなよろしくね "愛"してるよ "愛"だけに Everybody,are you ready? foo!』

 

そしていつもより長めに設定したイントロ部分で盛り上がった観客達の声援を受けながらそう言った愛は、ゆっくりと走り続けるゴンドラから降りながら1曲目である『めっちゃGoing!!』を歌い始めた。

 

「お疲れ様〜」

 

そのゴンドラはノンストップでしずく達の方へ向かってきていたが、彼方がリモコンでストップボタンを押すとそれは止まり、彼方はその璃奈ちゃん印のゴンドラを撫でて短く重要な役割を終えた出演者(・・・)を撫でて労いの言葉をかけた。

 

『下向いてたら地面しか見えないよ

だから上と前を向いて青空を見よう』

 

『流した涙は"どんくらい"? でももうお願い "Don't cry"』

 

愛のパフォーマンスは見ている人を元気に笑顔にするもので、この歌詞にもまるで太陽のように皆を照らし笑顔にさせる愛の心情とも言えるものがしずくにも伝わってきていた。それらの歌詞には現在下ばかりを向いてしまってるしずくに対して言われているようにも感じていて、しずくは一旦下を向いたが前を見つめてそんな愛のパフォーマンスを見つめた。

 

「迷った時は大きな声で言ってみよう Everybody say, "Going Going"!」

 

『Going Going!!』

 

「Moving Moving!」

 

『Moving Moving!!』

 

「まだまだ〜!Going Going!!」

 

そして曲の終盤前で観客との掛け合いのところはいつもよりも何回か多く設定していた。その掛け合いは愛と観客達、さらにしずくの近くにいた彼方達も一緒になって行い、しずくが前を向いて進めるようにという願いがそれには込められていた。それを聞いたしずくにも笑顔が宿り、そんなしずくを見た彼方達も笑顔を浮かべてしずくを見つめた。

 

「みんなありがと〜!続いてはこの曲だ〜!『楽しいの天才』!!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「キタコレェェェェエエエエエエ!!!」

 

ステージ全体を使って手拍子やジャンプを交えながら曲を締めた愛が次の曲のタイトルコールをすると、"観客"達は"歓喜"の声を上げた。

 

『さぁまたまたブチあげていくよ〜!Everybody ついてきて Come on!!』

 

愛の曲は殆どが愛らしい元気な曲だが、この曲は特に愛らしい曲と言えるだろう。観客達もステージで楽しそうにパフォーマンスをする愛を見て楽しくなり、ノリノリでペンライトを振り続けていた。

 

 

━━━しずしず。愛さん不器用だからこんな風にしかできないけど、愛さんのパフォーマンスを見てしずしずの背中を……いや、手を引いてあげる!だって"愛"さんは"アイ"ドル!だからね!

 

だから!!

 

『挫けそうな時には 振り向けば皆が いるから大丈夫 ワタシ(・・・)一人じゃないもんね』

 

「っ……?!」

 

そして愛は、しずくがいるから自分は1人ではないからしずくも同じであると、愛らしい歌とパフォーマンスしずくに向けてエールを送り、しずくもそれに気付いて思わず喉に息を溜めて口を両手で押さえた。それはしっかりと愛の思いはしずくに伝わった証拠であった。

 

「さぁ!次が愛さんの最後の曲だよ!みんな〜?盛り上がる準備できてるか〜い?!」

 

『いえ〜〜〜〜い!!!』

 

「いいね〜!じゃあ盛り上がっていくよ〜?『友&愛』!!」

 

そして愛の煽りでさらに盛り上がった観客達の声に応えるように愛がタイトルコールをすると3曲目のイントロが流れ始め、愛はステージ全体を使って全ての観客の笑顔を見るようにパフォーマンスをした。そんな愛は感極まって泣いてしまってる観客を見つけると、指差しをしてから「笑顔」と言うように両手の人差し指で頬を上げ、その観客は笑顔になるとOKサインを出してまた移動してパフォーマンスを再開した。

 

━━ここにまた愛のガチ恋勢が増えてしまった瞬間である。

 

『だって 君がいない愛だけじゃ You(・・・)&I()って "言えな〜い"』

 

「っ……!」

 

そして愛は曲の終盤前の台詞の『You』のところでしずくを人差し指で指差し、さらにその後『I』のところで自分を親指で指差して、しずくは衣装の胸部分をギュッと掴んで力強く頷き、愛もそれを確認して笑顔をしずくに届けた。

 

「みんなありがと〜!楽しかったよ〜!"愛"してるよ!"愛"だけに!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「オレモーーーー!!!!!」

 

パフォーマンスを終えた愛は熱烈な声援に笑顔と大きく手を振って答えながらしずくのいるステージ袖に下がっていった。

 

「しずしず〜!」

 

「愛さん……!」

 

「イエーイ!」

 

「い、いえーい……?」

 

「………しずしず」

 

「え!?あ、愛さん……!?」

 

愛はステージ袖で戸惑うしずくとハイタッチをしてからギュッと首の後ろに腕を回して優しく抱きしめたが、しずくは突然のことに頬を少し赤く染めてビックリしていた。

 

「"ネバギバ魂"だよ……しずしず。愛さん、待ってるからね」

 

「愛さん……!はいっ!」

 

そして愛は『めっちゃGoing!!』の歌詞にもある言葉をしずくの耳元で優しい声で呟くと、抱きしめたいしずくの返事を聞いてからそんなしずくに向かって笑顔を贈って控え室へ戻って行き、しずくはそんな愛の背中を温かくなった心を感じながら見えなくなるまで見つめ続けた。

 

 

それからしばらくしてピンクのドレスのような『Dreamin with you』の衣装を着た歩夢が大きな歓声と共にお城の設置物の開いた扉から出てきてステージの真ん中に立つと、ピンクのスポットライトがそん歩夢を照らした。

 

「聞いてください……『Say Good-Bye涙』」

 

『Fooooooo!』

 

歩夢は出てきた時は真剣な表情をしていたが、タイトルコールして1曲目の明るいイントロが流れ出すと笑顔を観客達に向けてパフォーマンスを始めた。

 

歩夢はその曲を歌いながら、しずくが屋上でその抱える辛さをぶちまけた時のことを思い返していた。

 

 

━━━あの時、私はしずくちゃんに何も言ってあげることができなかった。

しずくちゃんの辛さは、きっと私には想像できないぐらいのもので、だから何も言えなくて、何も出来なくて……『しずくちゃん、頼りなくてごめんね……』ってそんなしずくちゃんを見て心の中で言ったの。

 

でも、それは嫌だった。

私は、私達はしずくちゃんの友達だから……仲間だから、何かしてあげたかった。

 

だから私は、私の歌でしずくちゃんを励まして、背中を押すよ……!!

 

だから……っ!!!

 

 

『"頼りなくて ごめんね"なんて もう二度と言わないよ 絶対』

 

そう自らの決意を込めてラスサビを歌った歩夢は、小指を立てて前に出してからその指を会場全体に見えるようにぐるっと大きく体や腕ごと半周させ、最後にはしずくがいるステージ袖に小指を向けてから胸に当て、それはまるでその決意を見ている人達としずくに"約束"したようだった。

 

「歩夢さん……っ!」

 

しずくはその歩夢の意図は最初わからなかったが、今まで皆が自分に向けてパフォーマンスでメッセージを送ってくれていたように、それが自分に向けられていることとわかると目に涙を浮かべてキラキラさせながらステージでパフォーマンスをする歩夢を見つめた。

 

「続けて聞いてください!『夢への一歩』!」

 

『おおおおおおお!!』

 

1曲目のパフォーマンスが終わり会場が大きな拍手と歓声で包まれる中、歩夢が2曲目のタイトルコールをすると、歩夢の優しく綺麗な歌声に包まれた観客達は、静かにペンライトを上下にゆっくり振りながらその歌声に聞き入るように耳を傾けた。

 

『一人で夢を見るより 一緒のほうが楽しくて

辛い事ははんぶんこ 嬉しい事は無限大

友達とか親友を超えた 切磋琢磨できる「仲間」さ』

 

この曲の歌詞は全体的に歩夢自身がその"一歩"を踏み出すための勇気や決意、そしてその一歩を支えてくれる"仲間"に対する感謝を表しているようなもので、聞く人によっては自分自身も一歩を踏み出す勇気をもらい、応援されているようにも感じられる。そしてそれは今のしずくにとっても同じことが言え、ステージや舞台に再び立つための"一歩"の背中を押そうとしてくれているように感じていた。

その歌詞にもある"仲間"にはしずくも勿論含まれていて、歩夢はそのことをしずくに伝えて"一歩"を後押しするように『夢への一歩』を歌い上げた。しずくにもその気持ちは十分に伝わり、胸のあたりで両手を包み込むようにギュッと掴んでステージの歩夢から目を離す事はなかった。

 

曲が終わると大きな歓声が会場と歩夢を包み込み、しずくだけではなく観客の中にもこの曲で勇気を貰った人もいて、そんな人は涙を流したり元気溢れる表情で歩夢を見つめたりしていた。

 

「次が私の最後の曲です!みなさんも私と一緒に歌ってください!この歌が花を咲かせようとする人(・・・・・・・・・・・)に届くように!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「っ……!」

 

歩夢が観客に向けてそう呼びかけるとそれに賛成するような歓声が沸き起こり、しずくはその"花を咲かせようとする人"というのが自分のことであると、歩夢が口角を上げてこちらに向かって頷いたことで気付いて驚いた表情を浮かべた。

 

「………『開花宣言』!」

 

そして歩夢が再び前を向いてタイトルコールをすると、綺麗なイントロと優しい歩夢の歌声で3曲目が始まった。

歩夢のその殆どの曲が歩夢自身を支えてくれいるあなた(・・・)へ贈るもの、さらには夢を追う人、挑戦する人への応援(エール)を贈るものであり、言わずもがなこの曲もそのうちの1つである。

この曲を共に歌う者、感動して涙を流す者、歌おうとしているが歩夢の歌声に聞き入る者がいたりと観客達の反応は色々だったが、ペンライトを勢いよく振るのではなくゆっくりと振っていることは共通していた。

 

 

━━━お客さんをみんな巻き込んで……歩夢さん、やっぱり凄い……!

 

 

しずくは歩夢の観客を巻き込んだパフォーマンスを見ながらそれに感動していて、その聞く人の心を掴んで勇気を与える歩夢の強みと言えるものに改めて感心していた。

 

「さぁ!みんな歌おう!」

 

『ラ〜ララ〜ララ〜ララ〜……』

 

曲の終盤、歩夢の掛け声と共にメロディの音量が下がって照明が客席を照らす中、歩夢や観客達、さらには控え室にやステージ袖にいた同好会のメンバーや卒業したエマ達、そして会場内にいる百々を始めとしたスタッフと参加している生徒達の大合唱となった。しずくはその光景に初めは驚いた表情を浮かべたが、微笑みながら目を瞑ってその歌声に耳を傾けて、胸が暖かくなる感覚を味わうように感じた。

 

『━━━咲かせましょう 大輪の花』

 

歩夢も皆の歌声をよく聞くためにインイヤーモニターを外して歌い続け、ラスサビの最後の最後まで再びそれを付けず、最後は自らの歌と両手を蕾から大輪の花が咲くように広げる振り付けで曲を締めると、場内は拍手喝采の嵐となった。

 

「みんな、ありがと〜!歌声、ちゃんと私達(・・)に届いたよ〜!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

歩夢はそう手を振りながら言うとしばらく観客達に向けて深く頭を下げ、そして頭を上げてから大きく手を振りながらしずくがいるステージ袖へと戻っていった。

 

「歩夢さん……!」

 

「しずくちゃん!聞いてくれた?私の……みんなの歌声!」

 

「っ……はい!しっかりと!」

 

しずくはパフォーマンスを終えた歩夢を涙を目に浮かべながら出迎え、その表情は歩夢のパフォーマンスに勇気を貰って少し笑顔が浮かんでいた。

 

「ん〜〜〜っ……!!」

 

「あ、歩夢さん……?!」

 

そしてそんなしずくの言葉を聞いた歩夢はしずくの両手を自らの両手で包み込むように握って、さらにそれを額に当ててまるで力を込めるような唸り声を上げ、しずくはそんな歩夢を驚いた表情で見つめた。

 

「ん〜〜〜………よし!これでしずくちゃんに私の勇気をあげたから、大丈夫だよ!」

 

「歩夢さん……っ!」

 

「しずくちゃんが"一歩"踏み出せるのを、ステージに帰ってくるのを私……ううん、みんな待ってるから……!」

 

「っ……はい……はい!」

 

歩夢はしずくに勇気と言葉を授け、それを受け取ったしずくの返事と顔を確認すると控え室に戻っていき、しずくはそんな背中を歩夢の暖かさが残る手を握りながら見えなくなるまで見つめ続けた。

 

 

それから間も無く、和風ロックな雰囲気のイントロが流れ出し、それをバックにステージの下部から上昇するリフトに乗らながらポーズを取っていた白い浴衣のような1つ目の曲の衣装を着た栞子が現れ、会場には大きな歓声が響いた。

 

「……『決意の光』」

 

そのイントロ始めの部分はいつもより長く設定されていて、栞子にスポットライトが当たってタイトルコールをすると本格的にイントロが盛り上がり1曲目が始まった。

栞子の前に踏み出す決意をあらわしたような歌詞とそれに合う力強く美しい歌声は、聞いた人の中にはこの曲に勇気をもらうように感じる人もおり、さらには曲調や演出、振り付けも曲をさらに盛り上けるものであるため観客の声量にも力が入っていた。

 

『進んでゆく 迷いの向こう側へ

揺るぎないキズナ胸に 物語は次の舞台へ』

 

『立ち上がろう 幾度つまづいたって

揺るぎないキズナ胸に 目の前に広がる舞台で』

 

それらの歌詞は栞子がステージに立つための決意をあらわしていたが、しずくにもそれは共感できるものでもあり、さらには自分へのメッセージのようにも感じれた。つまづいて立てなくなってしまったがそれでも立ち上がり、そしてそれで迷ってしまっていても栞子達同好会のキズナを胸に再びステージに、舞台に立って欲しいんだという願いのメッセージを。

 

終盤前のギターソロの間奏で、栞子は観客を煽るように右腕を上下に振っていて、それはしずく達からのライブを盛り上げるためのアドバイスを受けてのパフォーマンスで、しずくのおかげで今の自分があり、そして成長できているということを伝えたかったのであった。

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

曲が終わると観客達は興奮冷めやらぬ声をあげ、栞子はそれを受けて彼女らしい丁寧なお辞儀をしてそれを浴びるように感じていた。

 

「ありがとうございます。それでは続けて聞いてください……『(あお)いカナリア』」

 

栞子はその歓声を味わった後、笑顔で目をキラキラとさせながら客席を見回してからタイトルコールをすると、それから間も無く2曲目を歌い始めた。

その曲は先程の曲とはまた雰囲気が違っていたが、力強くもあり前を向こうとする歌声や曲調、そして歌詞は栞子の特徴と言うべきであろうか、それが感じられるものであった。その歌詞は籠の中から外を羨ましむ三船栞子(カナリア)がそこから出ようと思い、そして決意し飛び立とうとするものが感じられ、聞く人に挑戦をする勇気を与えるようなものであった。

 

『誰のものでもない 未来 未来 未来 未来まで

果てしなく広がる空 自由の羽広げて 飛び立つける』

 

「っ……!」

 

しずくはその歌詞を栞子からの自分へのメッセージであるかように感じた。それは正にしずくが感じた通りで、栞子はこの曲のカナリアを今のしずくに例え、この曲でしずくの背中を押し、そして誰のものでもないしずく自身の未来に向かってその羽を広げて自由にステージに飛び立って欲しいという願いを込めて力強く、しずくの心に届くように歌い上げた。

曲が終わると観客達の歓声を受けた栞子はポーズを解いてお辞儀をした。

 

「皆さん、大きな声援をありがとうございます。残念ではありますが次が私の最後の曲になります。私の歌声が、皆さんの心に届くように歌わせて頂きます……」

 

『おおっ!!』

 

「それではお聞きください……『EMOTION』」

 

栞子が短いMCの後にポーズを取ると観客達は期待の声をあげ、タイトルコールの後に観客達の歓声と共に3曲目の洋風と和風が混ざったようなイントロが流れ始めた。その曲は静かで悲しそうな雰囲気が感じられたが、曲が進むに連れてそれでも前を向いて進もうとし栞子の決意と聞く人の心に自分の歌が届くようにという願いが感じられるものであった。

そして栞子はパフォーマンス中にこちらを見つめるしずくを横目に映しながら、歌声にそんなしずくに対する思いを込めていた。

 

 

━━━しずくさん、すみません。私が弱いばっかりにあの日、しずくさんを傷つけてしまったかもしれません。ですがあの時、しずくさんは真実(・・)を知りたがっていました。だからこそ、いずれわかったことを何も言わずにいることもできなかったんです。

ですがその日のこと考えると申し訳なく感じて、なんと言葉を掛けたらいいのかわかりませんでした。それにこんなことにもなってしまって……私のせいではないかとずっと心の中に自責の念を感じていました。

 

ですが、私は信じています。しずくさんがこの深い悲しみ、辛さから立ち上がり、このステージに戻ってくることを……願っています。

 

だからそんな願いを、そしてこんな私の歌でもしずくさんの背中を押せるように、しずくさんの心に届くように歌わせて頂きます。

 

 

『あなたに届け……

あなた(・・・)に届け……!EMOTION!』

 

「栞子さん……っ!」

 

栞子はラスサビで客席に向かって手を伸ばし、それからその逆の手をステージ袖からこちらを見ているしずくに伸ばし、そしてまた客席の方の奥の方を見ながら両手を広げて歌い曲を締めた。

それを見ていて優しい目をした栞子と目があったしずくは、その栞子の"思い"が届いて心に響き、その目を揺らしながらキュッと胸を掴んだ。

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「っ……ありがとうございます!皆様の心に、私の歌声が届いていれば幸いです……!では、最後までライブを楽しんで行ってください!」

 

栞子は観客達の歓声と拍手に心を振るわせながら最後のMCを終え、深くお辞儀をしてからしずくのいるステージ袖に向かって去って行こうとしたが、途中でファンサービスを忘れないようにと嵐珠やかすみに言われたことを思い出し、恥ずかしそうに小さく手を振ってから去って行った。

それを受けた観客達の中には黄色い歓声や昇天する者もいて、破壊力は抜群であった。

 

「っ………?!?!?!」

 

「会長……?」

 

「……俺、三船さんのこと好きになっちゃったかも」

 

「……まじか」

 

「良いですよね!わかります!」

 

「多分ファンになった(そういう意味)やないと思うけどな」

 

「……え?」

 

それを受けて見事に心を射抜かれた明良と、そんな彼を見た左京や大和、利明はステージを去っていく栞子から目を離して会話に花を咲かせていた。

 

 

「しずくさん……」

 

「栞子さん……」

 

『………………』

 

ステージ袖に着いた栞子とそれを出迎えたしずくは気まずそうな雰囲気を漂わせながら沈黙した。

2人は栞子がしずくに輝林が亡くなったことを告げてから、その一連の件についてしっかり離しておらず、お互いにモヤモヤを抱えたまま今日を迎えていた。

 

「あ━━━」

 

「あのっ……!」

 

『━━━あ………』

 

しかしそんな2人は同時に言葉を出してしまってお互いの顔を目を丸くして見つめ合い、しばらくしてから2人とも思わず笑い声を溢してしまった。

 

「しずくさん、あの時はすみませんでした」

 

「ううん、謝るのは私の方。栞子さんは私のことを考えて輝くんのこと教えてくれたんだよね?でも、あの時の私はそんなことを考える余裕もなくて、あんなことを……だから、ごめんなさい」

 

「しずくさん……!」

 

栞子が初めに頭を下げると、しずくは首を横に振ってからあの日を思い返しながら栞子と同じぐらいに深々と頭を下げ、栞子は顔を上げてそんなしずくの頭を見つめた。

 

「私もずっと気にしてたの。私が未熟で、弱かったから栞子さんに酷いこと言って、傷付けてしまったんじゃないかって」

 

「そ、それは私もです……!しずくさんがこうなってしまったのも私が━━━」

 

「━━━そんなことない!これは、私が悪いの!」

 

「いいえ私が!」

 

『…………ふふっ』

 

2人はお互いの思っていたことをぶつけ、そして真剣な顔でお互いを見つめ合い、徐々にそのことがおかしくなってしまい笑い合った。

そんな2人を見たミア達も安心したような表情を浮かべていた。

 

「おかしいですね。お互いに思ってることは同じだったなんて」

 

「そうだね……!ふふっ、本当に」

 

栞子は安心したような笑顔を浮かべ、人差し指で目から零れ落ちそうになる涙を拭きながら笑顔を浮かべるしずくを見つめた。

 

「………しずくさん、貴女は強い方です。私もしずくさんのパフォーマンスや演技力が羨ましくて、大好きなんです!」

 

「栞子さん……!」

 

「今日の私のパフォーマンスにその憧れも、願いも、全て込めさせていただきました……!私も、しずくさんの背中を押したくて!」

 

「うん、しっかり届いたよ……栞子さんの思い」

 

「良かったです……!だからしずくさん、あと一歩です。"一歩前に踏み出してみれば、明日は変わる"んです!」

 

「栞子さん……っ!」

 

そんな栞子の『決意の光』の歌詞を交えた言葉をしずくは受け取り、先程拭き取ったはずの涙がまた少し零れ落ちた。そんなしずくを見た栞子は優しい笑みを浮かべ、しずくの涙が伝染したようにひと雫の涙を流した。

 

「しずくさん、貴女がこのステージに戻ってくることを、お待ちしてます……!」

 

「うん……!」

 

そして栞子はそう言い残すとしずくと笑顔を送り合って、控え室に戻りながらその零れてしまった涙を拭き取り、しずくはそんな栞子の背中を見えなくなるまで見つめた。

 

 

しばらくすると照明が消えており見え辛いステージに、後方の城の設置物の扉から大きな旗を持ち、黄色が基調の『Poppin'Up!』の衣装に身を包んだかすみがゆっくりと現れ、それが薄らと確認できた観客達は期待の声をあげた。

かすみはステージの中央に立つと、その旗を近くにあった台座にセットしてステージ袖のしずくに顔を向けて笑みを浮かべながら頷くと、しずくはそんなかすみから目を離せなくなった。

 

 

━━━しず子、見ててね……!

 

 

かすみが目を瞑って深呼吸をすると、照明が点いてステージの中央に立つかすみとその名前が書いてある黄色い旗がはっきりと見え、観客達は大きな歓声をあげた。そんな歓声はかすみのパフォーマンス開始を告げるドラムの音が流れ出すとさらに大きくなった。

 

「みなさ〜ん!お待たせしました〜!ついにかすみんの出番ですよ〜!」

 

『イエエエエエエエエエエイ!!!』

 

「みなさんの元気な、会場ぜ〜んぶに響くぐらいの"かすみんコール"聞かせてくださいね〜?!『ダイアモンド』いきますよ〜?」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「ワン!ツー!ワンツースリーフォー!」

 

 

━━━かすみさん、流石だ……!

 

 

かすみは最初の言葉で観客達を取り込むと、会場は一気にかすみの独壇場になり、しずくはかすみのパフォーマンスの凄さを改めて実感した。

そしてそんなかすみの指を使った掛け声と共に1曲目のイントロが始まった。

 

『Hey! Love! Come on! かすみん!』

 

この曲はかすみの代表曲と言われるうちの1つだ。かすみらしい可愛さや元気さ等が感じられる曲調や歌詞、さらには観客達を巻き込んだコールがこの曲が人気である理由だろう。観客達はそんな曲と、かすみの煽りを含むパフォーマンスに笑顔を浮かべ、楽しそうにコールをしたりペンライトを振って大盛り上がりを見せていた。

しずくはそんなかすみのパフォーマンスと会場の盛り上がりを見て、そのかすみの凄さとライブの楽しさを改めて感じていて、心が躍るようにワクワクして笑顔を溢していた。

 

「は〜い、みなさ〜ん!声出す準備はいいですか〜?」

 

『イエエエエエエエイ!!!』

 

「"L-O-V-Eかすみん"!いきますよ〜?!せーのっ!L!O!V!E!かすみん!」

 

『L!O!V!E!かすみん!』

 

「L!O!V!E!かすみん!」

 

そして曲の2番が終わると恒例であり、この曲1番の盛り上がりポイントである通称"かすみんコール"の時間になり、かすみの掛け声の後に観客達がかすみに続いてかすみんコールをいつもより多く叫んだ。ステージ後方のスクリーンにも『L-O-V-E かすみん!』と映し出されており、それが一層盛り上げる要因となっていた。その観客達の盛り上がりは会場がその声で揺れるほどのもので、初めて体験する人もそうでない人もその光景に感動していた。

 

『Fooooooo!!!』

 

そして曲が終わるとかすみはポーズを取り、観客達の割れんばかりの歓声を受けて、それに応えるように手を大きく振って会場全体を見回した。

 

「みなさん、ありがとうございま〜す!みなさんの"かすみんコール"しっかり届きましたよ〜!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!』

 

「では、2曲目も聞いてください……『Margaret』」

 

『おぉ……!!』

 

観客達はそのかすみのタイトルコールにペンライトを振って興奮を見せた。

1曲目と比べると雰囲気がガラリと変わったように感じる曲調だが、どこかかすみらしい可愛くて元気そうな雰囲気も残っていて、さらにその歌詞は心打つものがあった。

さらにサビ部分や間奏部分では、かすみがステージを移動しながら客席に向けて左右に手を振ると観客達も同じ方向にペンライトを横に振り、かすみらしく観客達を巻き込んだパフォーマンスも1曲目とは変わらないところだった。

 

 

━━━しず子が落ち込んでる時、私は何をしてあげれたらいいかわからなくてずっと考えた。

 

だって私はしず子のこと………桜坂しずくのことが大好きだから……っ!

 

紅葉くんのことを思って、そして舞台に上がれなくて歌えなかったことを悔しがって泣くしず子を抱きしめることしかできなかった。

 

でも私は……しず子の大親友で中須かすみは、このステージを、パフォーマンスを頑張るって決めたんだよ。しず子のために……!

 

だから、この歌に全部乗せて届けるから!頑張るからっ!聞いててね……しず子!

 

 

この曲の歌詞はかすみがしずくに対して思っていることも、しずくが輝林の一件で落ち込んでしまっている時のかすみの気持ち、そして今かすみがライブに臨んでいる理由と心持ちを表すものであった。しずくも勿論そのことを感じていたが、同時にこの歌詞に自分が前までも、そして現在も輝林のことを想う時の気持ちともリンクさせていた。

 

 

━━━いくら輝くんに「私は魅力的か?」って聞いてもその"応え"は帰ってこない。でも輝くんが悲しむから、笑顔を絶やさないように1人部屋で考えて、演じることにした。

 

輝くんにとって、私を好きでいてくれた輝くんにとって私が1番でありたかった。私の全部を見て欲しかった。

 

聞いて欲しかった……私の気持ちを、全部っ!

 

でも、私は舞台に登ることも歌うこともできなくて………

 

ううん、違う………

 

頑張らなきゃ……頑張って輝くんに届けなくちゃいけないんだ……!

 

 

「ありがとう、かすみさん……!」

 

しずくはかすみの気持ちを受け取り、頑張ることを決意した表情を浮かべてステージでパフォーマンスをするかすみをしっかりと見つめた。

 

『これからも頑張ろう。君のために!』

 

そしてかすみは曲の最後にしずくのいる方に手を伸ばして優しい顔で少しだけ見つめ、しずくの表情で彼女に自分の気持ちが伝わったのだと確信すると白い歯が見えるぐらいの笑顔を浮かべた。

 

かすみがパフォーマンスを終えると客席から歓声と共に拍手も聞こえてきて、かすみは素早く一礼をしてそれに応えた。

 

「ありがとうございました!残念ながら、次がかすみんの最後の曲になります!」

 

『え〜!?』

 

「かすみんもも〜っとしたいですけど、この最後の曲でみなさんにかすみんからの応援をプレゼントしちゃいますっ!」

 

『おぉ……!?』

 

するとかすみは最初に台座にセットした旗を持ち上げると、それを片手に持って床に突き立ててしっかりと踏み込んで前を見つめた。その姿に誰もが"可愛いかすみん"ではなく"カッコいい中須かすみ"を感じた。

 

「聞いてください……『TO BE YOURSELF』」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!!』

 

かすみが先程までとは違い低いトーンでタイトルコールをすると、重音が特徴的なイントロが流れ始め、さらには照明の演出も先程までとは違って明るいものではなくどこかカッコよさを感じさせるもので、観客達は興奮を隠しきれないような歓声をあげた。そしてその曲の振り付けも先程までとは違いステージいっぱいに使ったものではなく、その場で旗を持ったまましっかりと踏み込んだまま片手で拳を握ったり、旗を持つ方とは逆の右脚を曲に合わせて上下させながらのものだった。

そんな力強い歌声やパフォーマンスに観客達はかすみにまた別ベクトルの魅力を感じ、その興奮をペンライトで表現していた。

 

「…………だ」

 

「ん?なんて?」

 

「……まるでジャンヌ・ダルクだ。旗を掲げながら皆を導き、引っ張る。その姿は正にオルレアンの乙女……いや、虹ヶ咲学園の乙女、ジャンヌ・カスミン・ダルクだッ!!!

うおおおおおおお!!!!かすみ〜〜ん!!!」

 

「お、おう……」

 

とある分校演劇部部員がステージのかすみに見惚れながら訳の分からないことを言っているのを隣にいた部員は若干引き気味で聞きつつ、2人はペンライトを振り続けていた。

 

 

━━━しず子、聞いてる?しず子の背中を押す、この歌を……!

 

本当は自分でも気付いてるんでしょ?しず子がステージへ上がれる勇気も、歌える勇気も持ってるってこと!だからあとはしず子次第だよ!

 

その勇気を止めないで!ステージや歌に対する思いも、紅葉くんへの思いも、全部、全部全部!この旗のように掲げて……このステージで掲げて!

 

だって私は、桜坂しずくが………

 

しず子の歌も演技も、大好きだからッッッ!!

 

 

『Ah〜〜〜!!!』

 

かすみのそんな思いのこもった歌声はその歌詞と共にしずくの心と体に激しく響き、それはまるでしずくの内に目覚めつつあった勇気をさらに解き放たせるものであった。

この曲の歌詞は全体的に聞く人を勇気付けるもので、それを歌うかすみはとある演劇部員が言ったように、かのジャンヌ・ダルクのように皆を歌で引っ張るように感じるものだった。その証拠に、観客達の中にもこの曲を聞いて勇気が湧いてきて挑戦してみようと決断する人もいた。

 

そして曲が終わると、カッコよくポーズを決めるかすみを大歓声と大きな拍手が包み込んだ。かすみはポーズを解くと客席の隅々まで届くように手を振ってその歓声に応えた。

 

「みなさ〜ん!ありがとうございま〜す!!次が(・・)いよいよ最後のメンバーです!みなさん最後まで盛り上がっていきましょうね〜!かすみんでした〜!」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

「かすみーーーーーーーーん!!!!」

 

そんな大歓声を受けながら、かすみは旗を台座に戻してステージ脇に下がっていき、ステージの照明が暗転するとスタッフの生徒達数名がその旗と台座を回収していった。

 

「ねぇ、次って多分、桜坂しずくだよね……?」

 

「でも確かしずくちゃんってあの事故で……」

 

「噂ではステージに上がれなくなったって聞いたよ……?」

 

「えぇ〜!?大丈夫なのかな……」

 

「……………」

 

 

━━━しずく先輩……信じてますから……!

 

 

そんな他の生徒達の会話を近くにいた月は黙って聞いており、しずくへの思いを胸に秘めながら誰もいないステージを見つめ続けた。そしてそれは他の本校分校の演劇部員達も、機材席にいる百々やスタッフの生徒達も一緒だった。

 

ざわざわした空気が漂う中、ステージ袖に下がっていったかすみはしずくと対面していた。

 

「……しず子」

 

「……かすみさん。私……!」

 

「うん、その顔見ればわかるよ。行きたいんだよね、あのステージに!」

 

かすみはしずくの決意した表情を見て笑顔でそう言うと、しずくはしっかりとその言葉に対して頷いた。

 

「うん!私、行かなくちゃ……ううん、行きたい!またステージに上がって、歌いたい……!」

 

「しず子……っ!だったらその勇気、止めちゃダメだからね!強くて美しい、しずく自身でいて!だから私、待ってるから……っ!!」

 

「うん……!」

 

『しずく!』『しずくちゃん!』「しずしず!」

 

「みなさん……!」

 

『TO BE YOURSELF』の歌詞を交えたかすみの言葉に目に涙を浮かべながらも力強く返事をしたしずくの元に、控え室にいた同好会のメンバー達が駆けつけ、そこにいた果林達と共にそんなしずくを笑顔で見つめた。

 

「はぁはぁ……間に合った……!」

 

「侑先輩……!」

 

そして機材席にいた侑も全力疾走で来たようで、切らした息を整えて皆と同じようにしずくを見つめた。

 

「しずくちゃん、私が合図を出したら1曲目を流す段取りになってるから!あとはしずくちゃんが一歩を踏み出すだけだよ!」

 

「私が……一歩を……」

 

しずくは侑の言葉を受けて視線を先程まで皆がパフォーマンスをしていた真っ暗なステージを見つめた。そして客席ではファン達がイメージカラーであるライトブルーのペンライトを振って、しずくの出番を待っていた。

 

ミア達を含む同好会のメンバー達は、大きく深呼吸をしてからステージに一歩、また一歩と近づいて行くしずくを見つめた。

 

 

 

━━━心臓の鼓動が聞こえる。

 

私が足を進める度に、その鼓動はどんどんと早くなっていた。

 

こんなに緊張するのはいつぶりだろうか?

 

落ち着け、落ち着いて桜坂しずく。

 

大丈夫、大丈夫……大丈夫。

 

私は、大女優なんだから……

 

輝くんが大好きな、桜坂しずくなんだから……!

 

 

『しずくは僕にとって大女優だよ!』

 

 

『僕、しずくのパフォーマンス大好きなんだ!だから次のライブも絶対見に行くからね!』

 

 

『大好きだよ。しずちゃん……』

 

 

 

「っ………?!」

 

順調にステージに向けて一歩一歩進んでいたしずくだったが、その足はまたもやステージの手前で止まってしまい、しずくは驚いた表情でそんな動かない震えた脚を見つめた。

そんなしずくの鼓動はさらに早くなり、冷や汗や息切れ、それに耳鳴りも起こし、さらに頭が痛くなってくるのを歯を食いしばって足元を悔しそうに見つめていた。そんな悔しそうな目からは大粒の涙がひと粒ひと粒、雨の降り始めのように床に落ちていっていた。

 

 

━━━なんで?!

 

みんなにこんなに応援してもらったのに、勇気をもらったのに……どうしてよッ!!!

 

動け、動け……動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!動いてよッ!!!

 

 

「どうして……どうしてなのよッ!!!」

 

しずくがその怒り、苦しみ、悔しさを自らの脚に向かってぶつけるように拳を力一杯に振り上げて殴ろうとした。

 

「……しずくちゃん」

 

「っ……ゆ、侑先輩……」

 

そんなしずくの手を侑が掴んで優しく首を横に振ると、しずくはその顔を驚きの表情で一瞬見てから気まずそうな表情で逸らした。さらにはそんなしずくを他の皆も心配そうに見つめており、しずくはさらに気まずそうな表情を浮かべた。

 

 

━━━みなさんが、私を元気づけようとパフォーマンスをしてくれたのに……なんで、私はまだ……っ!!

 

 

「ごめん、なさい……みなさん、ごめんなさい……っ!」

 

しずくは皆が自分を元気付けようとライブを開き、そしてパフォーマンスをしてくれたのにも関わらず、ステージへの一歩を踏み出せないことに罪悪感を覚え、その言葉を絞り出しながら涙を流した。

 

━━その時だった。

 

「侑先輩、音楽お願いします」

 

「OK!愛城さん、音楽お願いします」

 

『了解』

 

「……え?」

 

かすみが侑に頼み、その侑が無線で機材席にいる百々に次曲開始の合図を送り、そのやり取りを聞いていたしずくは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 

「……しず子、大丈夫だから」

 

「かすみ、さん……?」

 

そんな状況を理解できず困惑するしずくに、かすみは優しく語りかけるように声をかけ、ヘッドマイクを外してマイクを手に取ってからしずくの背中に優しく手を当ててから照明がまだ付いていないステージへ向かっていった。

 

『オオオオオオ……!!!???』

 

「え?あれってかすみんじゃ……?」

 

「しずくちゃんじゃ、ない……?!」

 

そしてステージに照明が付くと観客達は待ちかねたような歓声を上げたが、ステージに見えたのがしずくではなくかすみの姿であると認識するとその声は困惑の声に変わっていた。そんな観客達の声を置き去りにするように次の曲のイントロが流れ出した。

 

━━それは落ち着いた雰囲気で、聞いているだけで心地良い感覚になるイントロダクションだった。

 

「え?え……?」

 

そんなかすみの勇ましく、その身長よりも大きく見えた背中に続いて、同好会のメンバー達もマイクを持って次々にしずくの背中を優しく叩いてからステージに向かっていき、しずくはまだ状況を理解できずに驚いた表情を浮かべながら困惑の声をあげた。

 

「みんな!ライトブルーを振ろう!!」

 

「……そうか、ライトブルーだ!」

 

「そうだ!しずくちゃんの色を!」

 

「うん!!」

 

かすみ、そして次々に出てくるメンバーを見て最初は何色のペンライトを振るべきかざわざわして迷っていた観客達だったが、前方の席にいた月のひと言でその周りの観客に伝染していくようにライトブルーのペンライトを振っていき、次第に会場全体がライトブルーに染まっていった。

観客達はそのイントロに合わせてペンライトを波のように横にゆっくりと振り続けた。

 

 

━━━しず子。

 

 

━━━しずくさん。

 

 

━━━しずくちゃん。

 

 

━━━しずしず。

 

 

━━━しずく。

 

 

━━━しずくちゃん。

 

 

━━━しずくさん。

 

 

━━━『私達が、最後に背中を押してあげるから』『……あげますから』

 

 

そんな願いを胸に、同好会のメンバー達はしずくの曲である『あなたの理想のヒロイン』を歌い始めた。

 

『人気のない放課後の 廊下の隅 踊り場は』

 

『私だけの舞台 誰も知らないステージ』

 

『いつものようにひとりきり 汗まみれの稽古中』

 

『偶然通りかかった あなたに出逢った』

 

『話すたび 胸の中 まるで喜劇を観終えたような』

 

『感情が溢れ出してくるの』

 

『幸せに包まれる』

 

かすみ、璃奈、栞子、歩夢、愛、嵐珠、そしてせつ菜は順番に前へ1歩踏み出して気持ちを込めて歌い、ステージ袖から驚いた顔で口を開けながらこちらを見つめるしずくに最後のエールを送った。

 

その光景を見たしずくの力は徐々に抜けていき、侑がそれを感じて手を離すと、しずくの膝や手はゆっくりと下がっていき床に着地した。

 

サビ部分はその全員が声を合わせて歌い、その色々の歌声が心地良いハーモニーとなって、観客達は心地良い感覚に心を震わせながらペンライトを振り続けた。

 

そしてそのサビを歌っていたのはステージにいた同好会のメンバー達だけではなかった。

果林、彼方、エマ、ミア、そして侑も歌っていて、しずくはそんな皆の顔を1人ずつ見回して唖然とした表情を浮かべていた。

 

そんなしずくの脳内には、パフォーマンスを終えた皆の言葉が蘇っていた。

 

『……待ってます!』

 

『待ってるわよ』

 

『待ってるよ』

 

『待ってるからね』

 

『待ってるから……!』

 

『お待ちしてます……!』

 

『待ってるから……っ!!』

 

 

━━━せつ菜さん、嵐珠さん、璃奈さん、愛さん、歩夢さん、栞子さん、かすみさん……

 

 

『しずく』『しずくちゃん』

 

「侑先輩、果林さん、彼方さん、エマさん、ミアさん、百々先輩……」

 

『しずく』『しずく先輩』『桜坂先輩』『しずくちゃん』『桜坂さん』『桜坂』

 

 

━━━行かなくちゃ。

 

 

同好会のみんな、ライブに協力してくれてる皆さん、そしてライブを見に来てくれてる皆さんが私を待ってくれてるんだ。

 

背中を、押してくれてるんだ……!

 

 

『いつものようにひとりきり 汗まみれの稽古だって』

 

『もう辛くなんてないよ あなたに出逢って』

 

先程まで床に膝や手を付いていたしずくは、3年生の合唱と2年生の合唱、そして同好会や百々達の合唱を聞きながらゆっくりと立ち上がった。

 

 

━━幼馴染で、愛していた紅葉輝林という存在を失い深く悲しみ、立ち直ったかに思えたが舞台やステージに上がれず、さらには歌うこともできなくなってしまった演技派スクールアイドル、そして大女優の桜坂しずくの物語の第2章が始まった。

 

━━その幕は、しずくが脚を震わせながらゆっくりと伸ばした右手と共に静かに上がっていった。

 

 

━━━私、ステージに上がりたい……!

 

歌を歌いたい……!!

 

だから、勇気を振り絞れ、桜坂しずく……ッ!!!

 

 

「そうよ、私は……大女優……っ!

 

輝くんの、大女優で………

 

みんながこうして応援してくれる、演技派スクールアイドルの……

 

桜坂しずくなんだから………っ!!!!!」

 

 

 

 

 

『そうだよ。だから行こう。みんなも待ってる、しずちゃんのステージへ』

 

 

 

 

「え…………?!」

 

 

曲が間奏に入ると、しずくは何か(・・)に手を引っ張られるように………

 

 

"踏み出すことができなかった一歩"を踏み出した。

 

 

そんなしずくをステージ袖にいた侑達は驚き、そして嬉しそうな表情を浮かべた。

 

ステージに上がったしずくの目に飛び込んで来たのは笑顔で涙を浮かべながらこちらを見つめるかすみ達、そしてライトブルーに染まった客席と歓声や涙を浮かべる本校演劇部を始めとした観客達だった。

 

「しずくちゃん……!っ……行こう!」

 

そして歩夢は今にも泣きそうな表情を浮かべながら笑顔でしずくの手を取ってステージの中央へ連れていった。

 

 

━━━今のは……?

 

 

しずくは何故か(・・・)困惑の表情を浮かべていたが、そんなことは誰も気にすることはなかった。というより、気付かなかったのだ。

 

━━ステージをその細い目を見開いてステージ脇を見つめる利明を除いては。

 

「今のは……」

 

 

『誰かを笑顔に 出来る人になりたい

でも一番はあなたを 笑顔にしたい』

 

そして歩夢に連れて来られてステージの中央に立ったしずくを、皆はその背中をさらに押すようにしずくを見つめながら歌い始めた。

 

「しず子……!」

 

かすみは自分の持っていたマイクを微笑んでしずくに渡し、栞子の隣に移動してそのマイクが自分の歌声を拾うように歌ってしずくを見つめた。

 

しずくはステージやその脇にいる皆の顔、そして客席の隅々まで見渡してから胸のところで拳を握って、大きく息を吸って、マイクを自分の口へと近付けた。

 

 

 

 

 

 

『あ……!?ア……ァ………!』

 

 

 

 

 

 

『っ………!?』

 

しかし、その口からこの曲のサビの歌詞が歌われることはなく掠れたような声が会場に響いてしまい、会場にいた誰もが驚いた表情でしずくを見つめた。

そんな雰囲気の中、この曲のメロディのみが悲しそうに会場に響き続けていた。

 

 

━━━なんで……っ!?

折角ステージに上がれたのに……なんで歌えないの……っ!!!???

 

 

しずくは喉を抑えて俯きながら大きく目を見開いてその瞳を揺らした。

 

『高咲さん、どうする?音楽止める?』

 

「うーん……でも……」

 

「このままじゃ、しずくが余計に辛くなるだけよ……」

 

「うん、止めた方がいいと思う……」

 

「うん……」

 

「ベイビーちゃん……」

 

機材席の百々は無線で侑に判断を煽り、迷った表情を浮かべる侑に果林、エマ、彼方、それにミアが悲しそうな声で意見を述べた。

 

「そう、だよね……それじゃあ音楽を━━━」

 

━━侑がしずくのために音楽を止めて幕を一旦下ろそうと判断して指示を出そうとした刹那、突然会場の照明が全て消えて、音楽もブツンと切れてしまった。

 

そんなハプニングに会場中の誰もが困惑し、ざわざわとした声が会場に響いた。

 

「侑ちゃん!マイクが……!!」

 

「え!?なんで突然……!?」

 

ステージでマイクを叩いて音が出ないことを確認した歩夢が大声で侑にそれを報告すると、侑はこの事態の理由がわからず冷や汗を流しながら辺りを見回した。

 

『キャーー!!』『オオウ!?』『ワァ!?』

 

そして会場に大きな雷鳴が鳴り響き、観客達や同好会の皆は驚きの声をあげ、中には耳を塞いでいる人もいた。

 

「What's!?」

 

「雷……!?びっくりしたぁ……」

 

「もしかしてこれが原因……!?」

 

「雷でブレーカーが落ちたってこと!?」

 

ステージ脇ではミア、彼方、果林、エマがブレーカーが落ちた原因が雷であるかもしれないと顔を見合わせて話していた。

 

『あーあー、聞こえる?』

 

「っ……はい!聞こえます!」

 

『良かった……無線にして正解だったね。とりあえず何人かでブレーカー見に行かせたから』

 

「ありがとうございます!」

 

そして無線で百々から報告を受けた侑は一旦皆をステージ袖に下げた方が良いと判断して、ステージに向かって手を振って戻ってくるようにジェスチャーをした。

 

「……みんな、侑ちゃんがこっちに来てって」

 

「わかりました。ですが……」

 

歩夢はその意図を察して皆にそれを伝えたが、せつ菜はステージの中央に視線を向けて心配そうな目を浮かべた。

 

「しず子……」

 

「しずくさん……」

 

「かすみさん、栞子さん、皆さん……ごめんなさい、私……私っ……!」

 

かすみと栞子はステージ中央で喉を抑えて俯きながら涙を流して謝るしずくの肩に、心配そうな表情でその顔を覗き込みながら手を置いていた。

 

「とりあえずゆうゆうのところに連れて行こう?」

 

「そうだね。しずくちゃん、動ける……?」

 

「……………」

 

「参ったわね……これは抱えて連れて行くしかないようね」

 

愛は皆に提案し、璃奈はしずくに声を掛けたがしずくは呆然として反応はせず、嵐珠はそんなしずくを見て提案すると皆は頷いた。しずくは皆がここまで背中を押してくれたのに歌えなかった現実に悔しさを覚えて歯を食いしばった。

 

「しずく……」「しずく先輩……」「桜坂先輩……」「しずくちゃん……」

 

そしてそんなしずくを本校演劇部の部員達は心配そうに見つめ、その名前を呟いて何も助けることができないことを悔やんでいた。

 

「っ………!」

 

「月ちゃん……?」

 

そんな中、唇をギュッと絞って涙を浮かべながらステージで立ち尽くすしずくに顔を向けた月を七奈は不思議そうな表情を浮かべて見つめた。

 

「みなさん……しずく先輩を応援しましょう!」

 

「応援、って言っても……」

 

「愛城先輩や同好会の皆さんが提案してくれた"サプライズ"をもう一度、今やるべきだと思うんです!」

 

『ええっ!?』

 

「でも、今は……」

 

月以外の部員達は、月が言った提案に驚きの表情を浮かべた。

 

そんな月も言っていた百々や同好会の皆が提案したサプライズはいくつかある。

まずはこのライブの前にしずくを拉致して衣装を着せてライブを近くで見せること。そのライブをしずくの心に届くように精一杯、一生懸命に盛り上げること。しずくの曲が始まってもしずくが出て来なくても客席のペンライトをライトブルーに染めること。『あなたの理想のヒロイン』のサビを合唱すること。そしてこのことをしずくに悟られないようにすることであった。

合唱については先程同好会の皆と共に歌ったのだが、月が言っているのはもう一度歌ってしずくを応援するということであった。

しかし、他の部員達は突然のトラブルでどよめく観客達とこの雰囲気、ステージには上がれたが歌えなかったしずく、ステージから去る流れになりつつある同好会の皆を見て、そんな余裕は無いのではないか?と疑問を浮かべていた。

 

「今だからこそです……!しずく先輩が折角ステージにまた上がれたのに歌えなくて、このままライブが終わるなんて嫌です……!そんなの、そんなの……っ!」

 

「しずくも、天国にいる紅葉くんも悲しんじゃう……ってことでしょ?」

 

「っ……部長!」

 

大粒の涙を流しながらそう思いを告げる月の肩を持って陽向は笑顔でそう言うと、月は涙ながらに笑顔を見せ、その鶴の一声に他の部員達も賛成の声を次々にあげていった。

 

「ふっ、決まったみたいね。じゃあ、折角だし他の皆さんにも協力してもらいましょ?」

 

「っ……!いいと思います!」

 

そして陽向の提案により演劇部の部員達は各々で協力して前後左右の人達にこのサプライズを伝言していき、その伝言は後方の席にいた分校演劇部の部員達にも届いていた。

 

「へぇ……面白そうだな」

 

「やばいですよ……想像しただけで涙が……!」

 

「早いわ大和!なぁ、利明?………利明?」

 

「………あぁ、そうやな」

 

明良や大和、そして左京がその伝言されてきたサプライズに盛り上がる中、利明はどこか難しそうな表情を浮かべ、どこか上の空でステージをその細目で見つめていた。

 

 

「しず子……行くよ」

 

「っ……!」

 

そんな中、ステージではかすみが他のメンバー達と協力して立ち尽くすしずくをステージ袖に連れて行こうとしていたが、しずくは依然として何も話すことはなく、ただ歌えなかったことに対する悔しさを感じていた。

 

「っ……!みんな、見て……!!」

 

すると突然、何かに気付いた愛が皆に呼び掛けてその視線を客席の方へ向かすと、皆は驚いた表情を浮かべて目をキラキラとさせながら客席を見つめた。

 

「しずくさん、客席を見てください……!」

 

「客、席……?

っ……これ、は……!?」

 

俯いたままのしずくも栞子に肩を何度か優しく叩かれて客席に目を向けた。

 

 

 

 

 

━━そこに広がっていたのはライトブルーに染まった客席だった。

 

 

 

 

 

 

「凄いわね……」

 

「So beautiful……!」

 

それはまるで光の海のようで、しずくを始めステージにいた皆も、ステージ脇にいた皆も驚き、そして目を輝かせて感激していた。

 

 

「せーーーーーーのっ!!!!」

 

 

そんな感激してその光景に見惚れている皆を置き去りにするように、月が大声でそう叫ぶと観客達はペンライトを横に振り━━━━

 

 

『あなたの理想のヒロイン いつの日にかなれますように━━』

 

 

━━その叫び声を合図に一斉に『あなたの理想のヒロイン』のサビを歌い始めた。

 

その観客達による大合唱を聞いた皆は驚いた表情でその光景を見つめ、その歌声に耳を傾けた。

 

「これは……!」

 

『……すごいでしょ?演劇部の子達が提案したみたいだよ』

 

「っ……演劇部の人達が!?」

 

「そうなんだ……!」

 

「とっても素敵だね……!」

 

侑は無線で百々により伝えられたことに驚いて、それを一緒にステージ袖で聞いていたミア達も驚いた表情を浮かべ、彼方やエマも感動の声を漏らした。

 

『……ブレーカーも上げてるし、あとは合図を貰えたら大丈夫だよ』

 

「っ……わかりました!」

 

 

「みな、さん……っ?!」

 

ステージでその光景に目を奪われていたしずくは驚きのあまり涙が引っ込んでいて、ライトブルーに染まり皆がこちらを見て歌っている観客達がいる客席を見渡した。照明が落ちているため暗くて奥の方は見辛かったが、手前に座っている本校演劇部の部員達の顔は確認できた。その部員達の中には笑顔を浮かべる者、涙を浮かべる者もいて、しずくはその皆の表情にさらに勇気をもらえた気がした。

 

『しずくちゃん、聞こえる?』

 

「っ……侑先輩……!」

 

さらにしずくはいつの間にか回復していたインイヤーモニターから聞こえてきた侑の声に驚き、それを押さえながらその声に耳を傾けた。

 

『……みんな、しずくちゃんの歌声を待ってるんだよ。もちろん、私も』

 

「侑、先輩……っ!」

 

『勿論、私達も待ってるわよ』

 

『そうだよ!』

 

『彼方ちゃん、しずくちゃんの歌を早く聞きたいなぁ』

 

『しずく、歌ってくれ!』

 

「果林さん、エマさん、彼方さん、ミアさん……!」

 

『私もだよ、しずく。私も、みんなも、しずくの歌が大好きだから歌って欲しいんだ。だからさ、歌ってよ……待ってるから』

 

「っ……百々、先輩っ……!」

 

そのインイヤーモニターから聞こえてきた声に、ステージ脇や奥の機材席の方を見回したしずくは胸にグッと来るモノを感じ、唇を絞って胸で拳を握って真っ直ぐと前を見つめて重い足を動かして、一歩ずつステージの前方へ進んだ。

 

 

━━━しずちゃん、歌って。

 

 

そしてしずくは大きく息を吸い込むと、不思議と喉に先程まで感じなかった温かい感覚を感じた。

 

 

━━━みんな、しずちゃんの歌を、歌声を待ってるから。

 

 

スクールアイドル同好会やそのお手伝いをしている人達、それに演劇部の人達、そして他の観客達も祈るようにしずくを見つめた。

 

 

━━━僕の大好きなしずちゃんの歌声を、聞かせてよ。

 

 

そして「歌える」と、しずくはその時に直感的に感じた。

 

 

『━━演じさせてください』

 

 

しずくはOFFになっていたマイクのスイッチをONに変えて、そのマイクを口元に持ってきた。

 

 

『……あなたの理想のヒロイン いつの日にかなれますように━━』

 

 

━━歌った。桜坂しずくは笑顔で涙を浮かべながら、歌った。

 

 

「ふっ……しずくはいつも遅いんだよ」

 

 

━━そんなしずくの歌に合わせて、ライトブルーのスポットライトはしずくを照らし、その曲のメロディも流れ出した。

 

 

「しずくちゃん……!」

 

 

━━侑やみんなは目をキラキラさせて嬉しそうにしながら、そんな楽しく嬉しそうに歌うしずくを見つめた。

 

 

「しずく先輩……!」

 

 

━━観客達での合唱を提案した月も涙を浮かべながらそんなしずくを見つめ、観客達はその歌声に感動しながら揺れるように優しくペンライトを横に振り続けた。

 

そんなしずくの歌声は嬉しそうで、そして気持ち良さそうだということが感じられ、強く聞く人の心を撃つものだった。

 

 

『━━ずっと側で ただの後輩を 演じさせてください〜〜……っ!!!』

 

そしてラスサビを歌い切ったしずくは口元を押さえながら大粒の涙を流した。

 

「しず子〜〜っ!!」

 

『しずくちゃん!』『しずくさん!』「しずく!」「しずしず!」

 

「皆さん……っ!ありがとうございます……!」

 

そんなしずくにステージにいた同好会の皆も駆け寄り、大きな拍手と歓声がそんなしずく達を包み込んだ。

しずくはそんな同好会のメンバーや観客達を見回してお礼を言ってから、深々と客席に向かって頭を下げると、さらに拍手や歓声は大きなものとなった。

 

「しず子っ!もっと相応しい言葉があるでしょ?」

 

そんなしずくにかすみが涙を浮かべながら微笑んでそう言うと、他の同好会の皆も同じように微笑んでしずくを見つめた。しずくもそんな皆の表情を改めて見回した。

 

「っ……!桜坂しずく、ただいま帰りました……!」

 

そしてしずくはそのかすみの言葉を聞いて目に涙を浮かべながらとびきりの笑顔でそう言うと、同好会の皆や観客達は温かい言葉をしずくに返した。

 

『おかえり!』『おかえりなさい!』

 

すると同好会の皆や観客達からさらに大きな拍手が贈られ、それに応えるようにしずくは再び同好会の皆や客席に向かって再び頭を下げた。

それを確認してから侑が今後の展開を察するようにステージ脇から出てきてしずくにヘッドセットマイクを付けて、その持っていたマイクを回収してから他のメンバー達を連れてステージ脇へと下がっていった。

 

 

「みなさん、ありがとうございます」

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』『しずくーーーーー!!!』

 

そしてステージで1人になったしずくがまたお辞儀をすると、さらに大きな歓声と拍手が巻き起こった。

 

「沢山の声援、ありがとうございます!

……皆さんご存知の通り、私は大切な幼馴染を亡くして、ステージに上がれず、そして歌えなくなってしまいました。ですがこうして、同好会や演劇部の皆さん、そして今日来てくださった皆さんのおかげで……またこうして"桜坂しずく"としてステージに立って歌うことができました。本当に、ありがとうございます……!」

 

そのしずくのコメントを会場にいる皆は静かに聞き、中には鼻をすする者もいて、しずくがまた深々とお辞儀をするとその人達は優しく大きな拍手をした。

 

「……愛城さん、お願いします」

 

『っ……了解』

 

侑が無線でしずくがこれからセトリ通りにパフォーマンスをできるように百々へ合図を送ると、それを聞いた百々は涙を拭き取ってから返答をした。

 

「皆さんがこうして私の背中を押して、そして力をくれた。だから私から皆さんに、そのお礼をさせてください……!」

 

『おおおおおっ!!』

 

しずくはそう言うとまだ目に残る涙を拭き取ってからポーズを取ると観客達は拍手と共に期待の歓声をあげた。明るくステージを照らしていた照明も少し控えめになり、いよいよしずくの次の曲が始まろうとしていた。

 

「それでは聞いてください……『Solitude Rain』」

 

 

━━━しず子っ……!

 

 

かすみも、そして皆もそうしてパフォーマンスに臨むしずくを嬉しそうに見つめた。

 

『雷鳴が胸に鳴り響いて 閉じ込めていた感情が溢れ出していく

もう見失ったりしない 私だけの思いを』

 

ピアノの綺麗な旋律が基調のイントロとしずくの台詞で曲が始まり、メロディは悲しくもありどこか前に進んでいくようなものが感じられた。照明はまるで雨が降っているかのようにそのステージとパフォーマンスをするしずくを照らしていた。

その曲は昨年に行われた虹ヶ咲学園本校と藤黄(とうおう)学園の演劇部の合同演劇会で、しずくが主演を務めた演目の最後でしずく自身が披露した曲だ。自分の本当の気持ちを仮面で隠し、それから逃げずに向き合って行くという決意が表れた歌詞で、そのしずくの力強い歌声も同じものが感じられるようなものであった。

 

━━これを初披露した当時のしずくは一度この劇の主演を降ろされて、自身の弱さと演じる(・・・)ということに悩んでいた。しずくが演劇をする理由のひとつは"輝林を自分の演技で魅了させたい"ということだが、それにはもうひとつ理由があった。しずくは古い映画や小説が好きで、同年代の人達とは違ったそんな趣味を持っていることを悩んでいて、その時に出会ったのが演劇だ。演技をしている時にはそんな自分を忘れられる、嫌なことを忘れて没頭できたというのもその理由のひとつであった。

そしてしずくは主演を降ろされたこと、演技で悩んでいることを輝林にも相談したが……

 

『う〜ん……僕はしずくが自分で答えを見つけるべきだと思うな。これは演劇の先輩としての紅葉輝林からのアドバイス』

 

……そう言われ、しずくはさらに答えを見つけようと模索するが、一向にその答えは見つからないまま時間ばかりが過ぎていった。そんな時にかすみの言葉がありその答えに辿り着き、しずくは輝林の前以外でも自分を曝け出し、そしてどんな自分も認めて演じることが出来て、主演を再オーディションの結果再度任されることになり、その演目とその曲をやり切った。

演じる(・・・)ということは自分を偽ってするというイメージも感じられるが、しずくにとっては"その登場人物の感情と自分を重ねて演じる"ことが当てはまり、それがしずくの演技の良さであった。そして輝林も、他の人の前でも自分を曝け出していき、自らの演技の良さにしずくが気付いたことを嬉しく思っていた。

 

『そうだよ。それが僕の大好きなしずくの演技なんだ』

 

『なら、初めから言ってくれたら良かったのに』

 

『それでも良かったんだけど、やっぱりこういうのは自分で見つけてこそ意味があると思うから』

 

 

━━そんなこの曲にまつわる出来事を思い出しながら、しずくは全力でパフォーマンスをした。その表情は前を向いて進んでいく決意や、ステージでパフォーマンスが出来る嬉しさが感じられた。しかしそれにはどこか悲しそうで寂しそうなものも感じられたが、それを見ている人に感じさせない程に抑えられていた。実際、観客達や見ている同好会メンバーでさえもそのことには気付かず、しずくの復活のパフォーマンスを見て感動していた。

 

『世界でひとりきりの私になる覚悟ならできているからその瞳に映して

私の色で私だけのリアルであなたの心に触れたい』

 

しずくはそんな歌詞を愛おしそうに、そしてどこか辛さを感じさせるような表情で歌った。それはまるで、ここにはいない誰か(・・)に向かって言っているように感じることができた。

輝林が亡くなってからこの世界に独りになったように感じているしずくは、まだその苦しみから抜け出せずにいて、どうにかして輝林の心に触れたいという願いもその歌声に込められていた。

 

 

━━━輝くん……私まだまだ弱いみたい。輝くんがいないと、私は………

 

 

『……しずくちゃん、平気?何かあった?』

 

曲が終わり、歓声と拍手を浴びながらポーズを取るしずくは輝林を思って悲しい顔を浮かべており、少しその様子をおかしく思った侑はインイヤーモニターを通して確認をした。

 

 

━━━あっ、いけない!今はライブに集中しなくちゃ……!

 

 

それを聞いたしずくはハッとして、ステージ脇にいる侑の方を向いて首を横に振ると、侑はそれを「大丈夫です」というサインだと感じて胸を撫で下ろした。

 

「ありがとうございます!ですが、次の曲がこのライブの最後の曲になります」

 

『エー!イマキタバッカリー!』

 

「ふふっ、そうですよね。私ももっとライブがしたいです。ですが、これからも私達虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は沢山ライブを続けます!応援してくれる皆さんに感謝と、そして私達からもエールを贈れるように!

………この最後の曲で、皆さんに精一杯の桜坂しずくを届けます……!」

 

『オオオッ!』

 

「これはある少女の物語。聞いてください……『やがてひとつの物語』」

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

しずくがポーズを取りながら最後の曲のタイトルコールをすると、観客達からは期待を含む歓声が聞こえてきた。

 

『Uh〜〜〜〜…………』

 

綺麗な落ち着いたイントロと共にしずくは美しい歌声でハミングを奏で、それがこのライブ最後の曲の始まりを告げた。

この曲のメロディは全体的に落ち着いた雰囲気が特徴的で、歌詞はまるでラブソングのようなものが感じられた。さらにこの曲の歌詞ではひとつの物語が書かれていて、しずくもそこに出てくる少女を演じながら歌っていた。

しずくはそんな曲をどこか悲しそうで辛そうな目をしながら歌っていて、他の人から見ればそれは見事に曲に出てくる少女を演じているように思えた。しかし、当のしずくは歌いながら亡くなった輝林のことを思ってそのような表情を浮かべていた。

 

ある日出逢ったある少女と少年が歩んでいく物語という名の"道"は別々のものであったが、その2つの道はやがてひとつになるものだった。それはしずくと輝林も同じであった。

スクールアイドルと大女優として歩むしずく、俳優を目指して歩む輝林。2人が歩む別々の道の先ではその2つの道が交わっていて、やがてひとつになるということは明らかであった。そのことを2人も心から望み、願っていた。

 

━━しかし、その願いは叶うことはなかった。

 

その道が交わる時……本校分校の合同演劇会の日、その交差点に立っていたのはしずくのみであった。周りを見ても誰もおらず、輝林が歩んでいたはずの道を覗いてもその先は真っ暗で何も見えず、さらにはこれからの道の先を見ても薄暗く、とても"ハッピーエンド"に向かう道だとは思えなかった。

 

 

━━━やっぱり、輝くんがいないと、私は……!

 

不安で、怖くて……寂しいよ……!

 

独りは、嫌だよ……っ!

 

 

「しず子……?」

 

そんな思いを抱きながら歌い踊るしずくの目には少しキラリと光るものが浮かんでいて、それが見えたかすみは少し不安な気持ちを抱きながらそのステージを見つめていた。

 

曲はあっという間2番へと移ったがしずくは変わらない表情でパフォーマンスをしており、それを聞く人達もそんなしずくの気持ちが歌に乗って届いているようで、中には目に涙を浮かべる人もいた。しずくは内心落ち込みながらも、その感情を歌声に乗せてパフォーマンスをしていた。

 

しずくは輝林の死によってその事故がトラウマとなってしまい、ステージにも上がれず歌も歌えなかった。それは先程、同好会や演劇部、観客の皆のおかげで克服したと言い切れる。しかし、その根本的な問題はずっとしずくの心に残ったままだった。

 

━━幼馴染で、ずっと恋心を寄せていた輝林の死。

 

それはしずくの心に深く傷を付けており、そのことを未だ受け入れ切れず、そして前に進み切れないような気持ちが残り続けていた。

このことを忘れたいということではない。忘れてはいけないのだ。忘れてしまうことは亡くなった人に対しても、その人と関わった過去の自分にも失礼になってしまう。だから忘れることは決してない。しかしながら、それを気にしずきて何も手につかなかったり、落ち込んでしまうことも死人からすれば申し訳ない気持ちになってしまう。だからこそ、残された人にできることは、その人のことを忘れることなく自分らしく生きることだ。

しかし、今のしずくにそれはできていなかった。

 

そして曲の2番もサビに向けて中盤に入ろうとしていた。この曲のサビ以降ではバレエのように1人で踊るようなパフォーマンスをしていて、1番の時も素晴らしいダンスに歓声が上がっていた程だ。2番も1番とは少し違うがそのパートへ入り、ここから踊り出そうとしずくは腕を上げた。

 

 

━━その時だった。

 

 

━━━え……?

 

 

しずくの伸ばした手が何か(・・)に引っ張られるようにそのサビのダンスを踊り始めた。そのダンスは1番とは違い、バレエのようなものというよりは2人(・・)で踊る……舞踏会のようなもので、予定とは違うダンスをするしずくにステージ袖から見ていた皆は驚いた表情を浮かべていた。

 

「このタイミングでアドリブ……!?流石はしずくちゃん!」

 

「そうだね!」

 

ツインテールをピコピコとさせるように喜ぶ侑を見て、歩夢達も嬉しそうにステージを見つめていたが、かすみは何か違和感を覚えたようで難しい表情を浮かべていた。

曲中に振り付けや歌い方等、盛り上げる為にアドリブで変更するのはよくある話だ。なので今回のしずくの振り付けの変更も特に問題はない。その変更した振り付けはまるで……いや、しずくが輝林と踊るはずだった劇中の舞踏会でのダンスそのもので、特に両校の演劇部員達にとっては嬉しいビックサプライズであった。さらにはその劇を観ることができなかった人達にとっても、それは"念願"とも言えるものであった。

しかし、そんなしずくの表情は困惑しているのが伺うことができ、その表情を確認できたかすみはそれに違和感を覚えたのだ。

 

ステージでパフォーマンスを続けるしずくは、困惑した表情を浮かべつつも歌ったりすることを辞めずに目の前の虚空を見つめ続けていた。

そんな困惑するしずくとは違い、その体はダンスの動きをわかってるようにパフォーマンスをしていた。

 

しずくは手から伝わる温かい感覚、そして腰辺りからも伝わってくる同じ温かさ、感じていてどこか安心するような温かさは初めて感じるものではなく、懐かしく久しぶりに(・・・・・)感じるものであった。さらにその温かさは、ステージに再び上がれた時にも感じたものだった。

 

そしてしずくの脳内にある考えが浮かび上がり、ハッとした表情でその虚空を見つめた。

 

 

━━━もしかして、輝、くん……?!

 

 

しずく心の中でそう呟いたその声は届かないと思っていた。

 

━━しかし、しずくが数回瞬きをすると、その先程までは虚空だった視線の先には2度と見ることはないだろうと思っていた輝林の姿が映った。

 

 

『……しずちゃん』

 

 

━━━っ……!!輝くん……っ!

 

 

『しずちゃん、ライブ中なんだから泣いちゃダメだよ?』

 

 

輝林は優しい笑顔を浮かべながらしずくの手を引いて踊っていて、しずくが驚いて浮かべていた涙を優しく指で拭った。しずくは自分の心の中の声が輝林に届くことがわかり、そんな輝林ともう交わせないと思っていた会話を続けた。

 

 

━━━ごめん……でも、輝くん、なんで……?

 

 

『……しずちゃんが心配だったんだ。僕が死んでからしずちゃんは落ち込んでたし、それにあんなことにもなって………だから、ごめん』

 

 

━━━そんな……!あれは私が……っ!

 

 

しずくが申し訳無さそうな表情を浮かべる輝林に向かってそう言ったが、輝林は首を横に振った。

 

 

『……だから僕、しずちゃんがステージに上がれなかった時とかに後押ししてあげたくて』

 

 

━━━やっぱりあれは輝くんだったんだね。

 

 

『うん。それに今も……ライブ中なのにごめんね?』

 

 

━━━そんなことない!私、すごく嬉しいよ……!輝くんのおかげでステージに上がれたし、歌えたんだよ?!それにこうして輝くんとまた話せて……!

 

 

輝林はしずくがステージに上がれない時も手を引き、そして歌えなかった時もその想いで力を与え、さらに今も落ち込むしずくとダンスを踊っていて、しずくがまた今まで通り過ごして欲しいと強く願っていた。その願いが今回のような"奇跡"を起こせたのかもしれない。

そしてそんな奇跡のおかげで輝林と話すことができたしずくの表情は、困惑したものから笑顔に変わっていて、かすみもそれを確認して安心した表情を浮かべていた。

 

 

━━━な〜んだ、大丈夫じゃん。

 

 

 

「う゛っ゛……!ううっ……うぐっ……!!」

 

「おいおい大和、泣きすぎだって。まぁ、確かに桜坂さんのパフォーマンスは凄く良いし……」

 

「ち、違うんすよ!」

 

「……違う?」

 

「は、はひ゛!桜坂さんがっ……!桜坂さんが、輝林と一緒に踊ってるように見えるんすよ……っ!」

 

「………そうだな」

 

大粒の涙を流しながら涙声でそう言う大和の背中を明良は優しく叩きながら優しく、そして輝林がいた時を懐かしむような表情を浮かべていた。

 

「っ……利明、まさか……!?」

 

「……あぁ、そうや。あいつはおる(・・)で」

 

そんな大和の言葉を聞いた左京は何かに気付いたように利明に声をかけると、利明は普段は見えない瞳をそのステージに向けていて、その目には涙が浮かんでいた。

 

━━白部利明。その先祖を辿ると平安時代のある陰陽師に辿り着く。それ故に利明やその父親、祖父等は霊感が強く、幼い頃から霊が見えたりしていた。利明の父親や祖父はその霊感に加えて除霊師や霊媒師のような能力を持っており、現在はそれを仕事としている。そんな利明は常に霊の気配を感じることができ、普段は細目であるがその瞳を開けている時は霊をぼんやりと見えることができた。さらに霊によってはその姿をはっきりと確認することもできるのだ。

つまり利明はしずくがステージに上がった時、そして現在も"霊"の気配を感じていて、はっきりとその霊の……輝林の姿を確認できていた。

 

そんな利明の事情を知る左京は、大和の言葉と先程までの利明の様子から輝林がステージにいることを察して声をかけたのだ。

 

「……やっぱりそうか。ははっ、あいつ未練タラタラやんけ」

 

「そうやな……ほんまに桜坂さんのこと好きすぎやねん、輝林ちゃんは……」

 

左京と利明は静かに涙を流し、その涙を自らの指で拭ってステージを見つめていた。

 

 

しずくと輝林はその2人だけのステージ、2人だけの時間を味わうように踊っていた。その時間が永遠に続けば良いのにと願っていたが、曲もついに2番の終盤に差し掛かっていて、その終わりの時は刻一刻と近付いていた。

輝林と話す中でしずくはパフォーマンスや歌うことを止めておらず、殆どの観客はそんな"奇跡"が起こっていることなど思いもしなかった。

 

 

『やっぱりしずちゃんの歌声、大好きだなぁ。しかもこんなに近くで聞けるなんて』

 

 

━━━ありがとう、輝くん。私、輝くんの好きなスクールアイドルの……大女優の桜坂しずくになれてる?

 

 

『………うん、勿論だよ』

 

 

━━━輝……くん?

 

 

しずくは輝林の反応に違和感を覚えてその顔を見つめ続けた。しかし、客席の方を向く振り付けのところになると、しずくは一旦そんな輝林に笑みを向けてから前を見て左手で輝林の手を握りながら右手を前へ伸ばした。

 

 

『………あのね、しずちゃんはちょっと勘違いしてるよ?』

 

 

━━━勘違い……?

 

 

『うん。僕が死んでから、僕はずっとしずちゃんを見てたからわかるんだ。しずちゃんが部屋に籠って落ち込んでる時も、僕のために"今まで通りのしずちゃん"を演じている時も……ずっと』

 

 

「もう迷わなくていい 今の気持ちがそう答えだ」

 

 

『……しずちゃん、迷わなくて良いんだよ。今のその気持ちを押し殺して、スクールアイドルで大女優のしずちゃんを演じなくても良いんだ』

 

 

━━━今の……気持ち……?

 

 

しずくは歌いながら、輝林が言う自分の気持ちに向き合った。

 

━━輝林が亡くなり、落ち込んでいた日々。

そしてその輝林が好きだと言ってくれたスクールアイドルの、大女優の桜坂しずくでいようと今まで通りの自分を演じた。しかし心までは演じ切れず、ステージに上がれず歌も歌えなくなってしまっていた。

だが今日のライブで色んな人の支えがあって、またステージに上がれ、歌もこうして歌えるようになった。

 

しかし、輝林はそんな自分に「迷っている」「今の気持ちを見て」と言っていた。

 

 

━━━迷ってる……?私、は……?

 

っ……私は、ただ……!

 

 

しずくの目は涙が浮かべながらうるうると震えだした。輝林はそれを見て、しずくが"今の気持ち"に気付いたことを察して笑みを浮かべた。

 

 

━━━私はただ……

 

ただ輝くんがいてくれるだけで良かったのに……っ!側にいてくれるだけで良かったのにッッ!!なんで……死んじゃったのよ………置いて、行かないで……っ!!

 

 

「あなたが側にいれば それだけで強くなれる」

 

 

しずくは輝林に向かって、胸の奥底に見えないように隠していた本当の気持ちをぶつけた。

 

 

『……うん。ごめんね、しずちゃん』

 

 

そのしずくの心からの言葉を受け取った輝林は優しく、そして申し訳無さそうな表情を浮かべながらしずくの頭を優しく撫でた。

 

 

━━それは紛れもないしずくの本心だった。

 

スクールアイドルの桜坂しずくでも、大女優の桜坂しずくでもない……

 

紅葉輝林の幼馴染であり、その想い人である"桜坂しずく"としての本心。

 

 

しずくはその本心を隠すように過ごしていて、ずっと演じて、ステージに上がれなくなったりしていたのもそれが原因のひとつであった。

輝林はそのことに気付いてもらおうとこうして現れしずくと言葉を交わしていて、それを聞いた輝林は安心したような表情を浮かべて歌うしずくを優しい目で見つめた。

 

 

━━━それを聞けたら、もう僕は……

 

 

『……しずちゃん。聞いて』

 

 

輝林はラスサビを歌い、パフォーマンスをするしずくに優しく語りかけた。しずくもそれに頷いて耳を傾けながらパフォーマンスを続けた。

 

「重ねようあなたと私のストーリー」

 

 

『しずちゃんはもう大丈夫だよ』

 

 

━━━そんなことない!私、輝くんがいないと……1人じゃ何もできないよ!

 

 

『………違うよ、しずちゃん』

 

 

━━━え?

 

 

 

「やがてひとつの物語」

 

 

『しずちゃんは1人なんかじゃない。わかるでしょ?』

 

 

━━━あ……!

 

 

しずくはその輝林の言葉で、今またこのステージに立って歌えていることが同好会や演劇部、観客達といった色んな人達の支えがあったからだということに気が付いた。

輝林がいなくなって"ひとりきり"になってしまったと思っていたが、しずくの周りには支えてくれる人が沢山いた。しずくは1人ではないのだ。

 

 

『……ね?だから、もう大丈夫』

 

 

「人生という名の 大きな舞台を 輝せたい」

 

 

━━━でも、輝くんは舞台(ここ)にはいない……!輝くんがいてくれるから私は今まで頑張ってこれたんだよ?!私は、輝くんと一緒がいいのっ!!

 

 

『……僕もだよ。しずちゃんがいたから、僕の人生は……舞台は輝いていたんだ。だから僕も一緒にいたいよ』

 

 

━━━だったら……!

 

 

「きっと一緒ならどんな結末でも」

 

 

『………だから僕はずっと一緒にいるから。しずちゃんの側に見守ってるから』

 

 

━━━え?

 

 

『だから、大丈夫。しずちゃんはもう、大丈夫だから……』

 

 

すると先程までしずくと共に踊っていた輝林の体は光って、その姿は徐々にしずくの目からも見えなくなっていった。

 

 

━━━輝くん……!?嫌だ……嫌だよ!!

 

 

『安心して、しずちゃん。僕はずっとしずちゃんの"側にいる"よ。ずっと、見守ってるから……』

 

 

「ハッピーエンドに変わる」

 

 

そしてその光はしずくが歌い終わると完全に消え、しずくはそれを掴むように手を伸ばした。しかしその光は掴むことはできなかったが、しずくの胸元のペンダントに集まっていき、しずくはそれを見てやっと輝林の言葉を理解した。

 

 

━━━そうか、輝くんはずっと側にいてくれるんだね。これからも、ずっと……!

 

 

しずくは歌い終わるとアウトロ中にその胸元のペンダントを優しく包み込むように手を重ね、涙を流しながらスッキリとした表情を浮かべて最後のポーズを取ってしっかりと客席の方を見つめた。

 

曲が終わるとそんなしずくのパフォーマンスに感動した観客達が惜しみないほどの拍手と歓声を贈り、それを見ていた同好会やライブの手伝いをしていた百々を含むスタッフ達も拍手を贈っていた。

 

「しずく〜〜!サイコ〜〜〜!!」

 

「うわ゛ぁぁぁぁぁん!!し゛す゛く゛せ゛ん゛は゛〜゛い゛!!」

 

「月泣きすぎだって……」

 

陽向や月、七奈達演劇部の部員達も涙ながらにしずくに拍手を贈っていた。月が大粒の涙を滝のように涙を流しながら拍手をしてきて、七奈は目に涙を浮かべながら微笑んでその背中を優しく叩いた。

 

そしてステージでそんな歓声や拍手を全身で浴びながら、観客1人ひとりに向かってするように何度もお辞儀をしていたしずくの表情は、先程までとはまるで別人のよう……否、こう言う方が正しいだろう。

 

━━"桜坂しずく"らしい表情を浮かべていた。

 

 

そんなしずくの目から溢れる涙は止まらず、しずくは笑顔を浮かべながらその涙を指で拭き取り続けた。

 

「しず子!」

 

「っ……かすみ、さん……!皆さん……!」

 

「皆さんに挨拶しないと、ですよ」

 

しずくはかすみや栞子に慰められるようにそう言われると手で目を拭ってから頷き、まだ涙が少し浮かべながらも真っ直ぐ前を見つめた。

 

「っ……みなさん、本日は本当に、ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!』

 

そして皆は横1列に並んで手を繋ぎ、その両手を上げてから下げるのと同時に頭も下げると、観客達からは割れんばかりの歓声と拍手が贈られた。

するとステージの幕がゆっくりと閉まっていき、それが閉まり切るまで同好会のメンバー達は手を振り続け、観客達もペンライトを振る腕を止めなかった。

そんな幕が閉まり切った後でも名残惜しそうに大きな拍手が鳴り響き、幕裏では皆は余韻に浸るようにその拍手の音に耳を傾けていた。ステージ袖にいた侑達も皆に駆け寄って労いの言葉を掛け、かすみの胸元で声を上げて泣くしずくを安心したような表情で見つめた。かすみはまるで子供のように泣きじゃくるしずくの頭を撫でながら安堵した表情を浮かべていた。

 

━━しずくのその涙と声は収まることを知らず、それは輝林との別れを認めれたからこそのものであり、今までそれを認めれていなかった分もしずくは思いっきり声を出しながら泣いていた。それに加えて、やっとステージに上がれて歌い切ったことに対する嬉しさもあり、皆はそんなしずくの気持ちに共感して寄り添うように見つめ、微笑んだり、また涙を目に浮かべたりもしていた。

 

『……お取り込み中悪いけど、お客さん達の声を聞いてみてよ』

 

「っ……え?」

 

すると無線機から聞こえて来た百々の声に、侑や他の皆も幕の向こうから微かに聞こえてくる歓声に耳を傾けた。

 

 

『━━━コール!アンコール!アンコール!』

 

 

徐々にハッキリと聞こえて来たアンコールの声に、皆は嬉しそうな表情を浮かぜて見つめ合い、そして頷き合った。しずくも顔を上げて溢れ出る涙を拭き取り、嬉しそうにやる気の満ちた表情を浮かべるかすみと目を合わせてお互いに頷き合った。

 

「……あっ、みんな!」

 

「どうしたの、侑ちゃん?」

 

「お客さん達の声、聞いてみてよ」

 

そうして皆がアンコール曲として全員でのパフォーマンスをしようと決意した時、侑が何かに気付いたように皆を止め、再び観客達の声に耳を傾けさせた。

 

━━止まることを知らないアンコールの声。

 

それを徐々に塗り替えていくかのように大きく会場に広がり、響いていく声に皆は笑顔を浮かべていった。

 

『━━━く!しずく!しずく!』

 

「っ……私、の、名前……?」

 

その声はしずくの名を呼んでいて、皆が笑顔を浮かべる中、当の本人であるしずくは驚いた表情で閉じている幕で見えない客席の方を見つめていた。

 

「……どうやらお客さん達はしずくを待ってるみたいね」

 

「やっぱり皆さん、しずくさんの歌を聞きたいんですよ!」

 

「えっ、ですが……」

 

嵐珠やせつ菜も戸惑うしずくの背中を押すように声をかけたが、しずくはアンコールで自分だけ出ることに少し抵抗を覚えてさらに戸惑った表情を浮かべた。

 

「しずくさん、気にしないでください」

 

「うん、栞子ちゃんの言う通り」

 

「ずっと前のライブでもこういうことあったんだし、気にすることないって!」

 

そんなしずくに栞子や璃奈、そして愛も背中を押すように説得した。

皆の頭に思い出されたのは、ミア達が卒業する以前のライブで、アンコールでもう1度聞いてみたいメンバーのペンライトを観客達に振ってもらい、それが多いメンバーが披露するという演出をしたことだった。それは各メンバーがソロを中心で活動をしていて、お互いを仲間でありライバルであると考えている虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会らしいものであった。

 

「そうだよ!みんなはしず子の歌を聞きたがっているんだから、しず子が行くべきなんだって!」

 

「っ……皆さん……!」

 

しずくがかすみの言葉を受けて皆の顔を見回すと、勿論全員が賛成だと言わんばかりの笑顔を浮かべていて、しずくは目をうるうるとさせ、そして決意したように微笑んで頷いた。

 

「……決まりだね!」

 

「と、いうことで……」

 

「えっ?えっ?」

 

それからエマと果林がしずくの両腕を掴むと、しずくは困惑した表情を浮かべて自分を取り囲む卒業生達の顔を見回した。

 

「早く着替えるよ〜」

 

「しずく!Hurry up!」

 

「え……えぇぇぇぇええ!?」

 

そしてしずくは4人に連れられて控室へと引っ張られて行った。

そんな驚きの声を浮かべながら引っ張られていくしずくを見て、ステージに残された皆は安心したように笑顔を浮かべてそんなしずくを見つめていた。

 

いつもの(・・・・)しずくちゃんだね」

 

「うん……!」

 

「本当に、良かった……!」

 

侑と歩夢のその目はまるで子供を見つめるような温かいもので、かすみは少し涙を浮かべながら苦難を乗り越えた親友を嬉しそうに見つめた。

 

 

 

 

 

━━━━━数分後。

 

『しずく!しずく!しずく!』

 

しずくは1人幕裏で目を瞑りながら自分の名を呼び続ける観客達の声を聞き、大きく深呼吸をした。そんなしずくを同好会の皆はステージ袖から見つめていた。

 

しずくの心臓は大きな音を立てて鼓動を奏で、汗がひと滴額から垂れて床に落ちていった。

 

しずくは茶色のロングコートを身にまとい、手汗で少し濡れた手でその緊張やワクワクした気持ちを込めて閉じている水色の傘の持ち手をギュッと握っていた。

 

そして胸にはあの(・・)ペンダント……輝林から貰った大切なもので、輝林が"見守ってくれていること"の証。

 

 

━━━僕はずっとしずちゃんの側で見守ってるから。

 

 

それがキラリと輝いたように感じ、しずくはそのペンダントを優しく握った。

 

「……うん、そうだよね」

 

しずくはそう静かに呟いてから大きく深呼吸をもう1度して、ステージ袖にいた侑の方を見て頷き、それを合図に侑は再び幕を上げる指示を無線機で出した。それからしずくは目を閉じて幕が開くのを待った。

 

 

━━━僕が好きなのは、スクールアイドルのしずちゃんでも、大女優のしずちゃんでもない。 

 

 

「……そうよ、私は━━」

 

 

━━━僕が好きなのは、僕の幼馴染で、何よりも、この命よりも大切な"桜坂しずく"なんだよ。

 

 

幕が開いてしずくの姿が見えると観客達は待ってましたと言わんばかりに大きな歓声をあげた。

 

「━━スクールアイドルの、大女優の……輝くんが大好きな、桜坂しずく……!」

 

 

 

『しずく照らす光』

 

 

第6話「大女優〜後編〜」

 

 

 

そしてしずくは目を開き、スポットライトが自身を照らす中、数歩前へゆっくりと歩いて持っていた傘を開いて肩にその棒を置いた。

 

 

━━その幕開けは、桜坂しずくの第3章の始まりを告げていた。

 

 

『憧れのオードリー だってきっとSo Lonely━━』

 

しずくが大きく息を吸って歌い始めると、それに合わせるかのようにピアノが基調のメロディが流れてアンコール曲が始まった。

そう、この歌はあの時、屋上で歌おうとして歌えなかった曲……『オードリー』だった。

 

この曲は侑がしずくをイメージして作ったもので、去年のライブで初披露した曲だ。

これはある少女が大女優(オードリー)に憧れ、悩みながらも目指していくような歌詞で、しずくもその少女を演じながら自身と重ねて共感し、歌っていた。そんな歌詞や歌声、メロディからも、悩みながらも少女(しずく)が大女優になろうとする前向きな気持ちが伝わってくるように感じられた。

そしてさらにそれは今日(こんにち)までのしずくとも重なるものであり、しずくはパフォーマンスをしながらこれまでのことを思い返していた。

 

瞳に憧れて演劇の道に進み、何度も自分の演技に悩みながらも、その憧れに近付こうと練習を重ねた。

瞳の演技もそうだが、しずくはずっと近くにいた輝林の演技にも憧れていた。輝林の"登場人物を生きているような演技"はしずくにとって"理想の演技"であり、そのために努力を重ね、その演技に近付いていくことができ、今のしずくの"登場人物の気持ちを自分と重ねる演技"に繋がっていった。

 

そうなるまでに過ごしてきた努力し悩んでいた日々を思い返しながら、しずくはこの曲を歌っていた。その表情からは先程までの悲しそうな、辛そうなものは感じられず、しっかりと客席を見つめ、何かを決意したように前向きで、そして"大女優"を……「これが桜坂しずくだ」と言わんばかりに観る人に見せつけるようなものに感じられた。

 

『人はそんな強くない 誰も怖がりなんだ

弱さを乗り越えてやがて輝く Oh〜〜』

 

その会場に響いたしずくのロングトーンには、輝林が亡くなって弱い自分に改めて向き合い、そのことを怖がっていたことから乗り越えていくというしずくの決意が表れていた。

そのあとの間奏でしずくは傘を掲げて踊り、間奏の終わりが近付いてくると雨が上がったことを確認するような仕草の後にその傘をステージの後ろへ向かって投げ、そして真っ直ぐと客席を見つめた。

 

『━━でも輝く眼差しから想像も出来ない』

 

そしてしずくはラスサビの盛り上がりに合わせて着ていたコートを脱ぎ捨て、その内に着ていた『あなたの理想のヒロイン』の衣装が姿を現した。

その衣装はしずくの代表的なもので、純白さ、清楚さが感じられ、さらにイメージカラーのライトブルーも使われていて、まさにしずく自身を表したかのような衣装である。

今回の演出は、大女優を目指してその大女優が着ていたようなコートを真似したけれど、自分らしくあることが大事だと気付いてそのコートを脱ぎ捨てて、自分らしい衣装を身に纏って演じるという決意が感じられた。もしくは、自分の演技に悩んで心の雨が止んで晴れやかな気持ちで自分らしく演じていくという感情が感じられたとも言えるだろう。

そんな神がかったとも言える演出に、見ていた観客達も思わず声を漏らしてしまい、ステージでパフォーマンスをするしずくに目を奪われてしまっていた。

 

━━その姿は、まさに"大女優"と言うに相応しいものだった。

 

しずくはそんな大女優たる自分の姿を客席にいる観客達に見せつけ、そしてきっと見守ってくれているであろう輝林に見せるように歌い踊った。

 

 

━━━輝くん、見てる?これが輝くんの好きでいてくれた、大女優……桜坂しずく!

 

 

そんなしずくが見つめる客席の後ろの方には立ってこちらをじっと見つめる人影があり、しずくはそれを見つけるとまるで時が止まったかのようにその人(・・・)と目を合わせ、その目をうるうるとさせてから微笑んだ。

 

 

━━━うん、ちゃんと見てるよ。しずちゃんは、やっぱり僕の大好きな大女優だよ……!

 

 

「………ふっ」

 

利明はしずくの視線と気配で後ろの方に輝林がいることに気が付き、その姿を確認すると目に少し涙を浮かべながら笑顔でそんな輝林に念じるように言葉をかけた。

 

 

━━━良かったな、輝林ちゃん。安心して成仏するんやで。

 

 

そうして曲のメロディもしずくの歌声にも力が入り、この曲もついにラストスパートを迎えた。照明も目一杯しずくを眩しいほど照らし、しずくの汗や笑顔もキラキラと輝いていた。

 

『━━そうよ』

 

 

━━━私はずっと輝くんが亡くなったことを引きずって、スクールアイドルも演劇もできなくなって……それで皆さんにも、輝くんにも心配をいっぱいかけちゃってた。

 

でも皆さんのおかげで、輝くんのおかげで、私はまた桜坂しずくとしてステージに立つことができた。こうしてまた歌うことができた。

 

同好会、演劇部、ライブを手伝ってくれた皆さん。このライブを見てくれてる皆さん。

 

そして……輝くん。

 

 

『そうよ』

 

 

━━━そう、これがスクールアイドルの、大女優の桜坂しずく。

 

輝くんが好きでいてくれた桜坂しずく!

 

だから、伝えさせてください。

 

もう私は………

 

 

『私は大女優』 ━━━私は大丈夫。

 

 

そんなしずくの言葉はきっと見ている皆にも、そして輝林にもしっかりと伝わったことだろう。

その証拠に、アウトロが終わってポーズをするしずくを今日1番の拍手と歓声が包み込んでいた。しずくは息を切らして汗を流しながらその体勢のまま受けていたが、息を整えてから立ち上がって客席に向かって何度も頭を下げていった。

 

そしてそんなしずくの目に会場の後ろから拍手をしながらこちらを見つめる輝林が映り、しずくはそんな輝林に向かって力強い表情で頷いた。

すると輝林は満足そうな笑顔を浮かべ、しずくが一瞬視線をずらして汗を拭いてまたその方を向いた時には輝林の姿は見えなくなっていた。

それからしずくは胸の辺りで輝くペンダントを優しく握って胸に当てて嬉しそうに微笑んだ。

 

するとしずくは肩を優しく叩かれた感覚を感じ、その方を向くとかすみが嬉しそうにこちらを見つめていて、さらにその周りを見ると同好会の皆がステージ袖から出てきてしずくを真ん中にして横一列に並び始めていた。

 

そしてしずくはメンバー1人ひとりと目を合わせてから、ヘッドセットマイクのマイクブームの部分を持って声がよく観客達の耳に聞こえるようにライブを締めくくる挨拶をした。

 

「……皆さん、アンコールありがとうございました!皆さんの声にお応えして、最後に私、桜坂しずくが『オードリー』を披露させて頂きました!いかがでしたか?!」

 

『ウオオオオオオオ!!』『最高〜〜!!!』

 

「ありがとうございます!こうしてまた私がステージに立ててパフォーマンスできたのも、アンコールに応えることができたのも、私を支えてくれたここにいる皆さんのおかげです!本当に、ありがとうございます!」

 

『ワァァァアアアア!!』

 

しずくのその言葉に観客達は大きな歓声を上げ、観客や同好会のメンバー達を含めた会場にいる皆はそんなしずくに拍手を送り、ある者は涙を流し、そしてある者は優しい笑顔を浮かべていた。

 

「本日は本当に………本当に、ありがとうございました!」

 

『ありがとうございました!』

 

そして同好会のメンバー達は手を繋いでそれを挙げ、お礼の言葉と共に一斉に下げて深々とお辞儀をして、そんな皆に観客達は惜しみない拍手と歓声を送った。同好会のメンバー達は顔を上げると全身で浴びるように手を挙げ、手を振ったり笑顔を向けたりして、それを幕が閉まり切るまで続けた。

 

━━そうしてそのライブは終わりを迎えた。

 

ステージに立てなくなったしずく(なかま)のために背中を押すようにパフォーマンスをして、それは勿論その仲間にも、見ていた人達にも勇気を与えるものであった。そしてしずくによる復活のパフォーマンス、それを支えた観客達のサプライズ。それらは深く皆の心に残り、そのライブは終了直後からネット上でも話題になり、それはテレビでも取り上げられる程であった。

 

さらにこのライブは、日本のスクールアイドルを管理している団体が主催したこの年で1番盛り上がった、印象に残ったライブにも選ばれ、後世にも語り継がれる"伝説のライブ"の1つに数えられるようになったのだった。

 

 

しずくはこの日の出来事からまた歌うことがらでき、さらにステージや舞台にも上がることができるようになった。

 

その首からはいつも輝林から貰ったペンダントがぶら下げられていて、まさにしずくは輝林と共に(・・・・・)今日もスクールアイドルとして、そして大女優として活動を続けていっていた。

 

そして舞台で演じるしずく、共に演じていた陽向、さらにそれを客席から見ていた百々1年前のある日に演劇部での会話が思い出されていた。

 

 

━━それは、しずくが演劇への努力を欠かさない理由であった。

 

 

 

『しずくって本当に凄いよね』

 

『えっ……?そう、ですか?』

 

『そうだよ!こんなにメモがぎっしりと……ですよね、部長?!』

 

『うん。入学したての1年生でここまでしてる子は中々いないし、しずくみたいな演技が出来る子は私もそう見たことないよ』

 

『あ、ありがとうございます……!』

 

『でも気になるなぁ……しずくがここまで努力を続ける理由』

 

『あっ、それ!私も気になります!』

 

『理由……ですか……?』

 

『うん。演劇が好きだから……っていうのもあると思うけど。他にも何か理由があるんでしょ?』

 

『え〜っと……そうですねぇ……』

 

『なになに?!』

 

『陽向、それだとしずくが話しづらいよ』

 

『あっ、そうですよね。ごめんね、しずく』

 

『い、いえ!でも、強いて言うとするなら……』

 

『『言うなら……?』』

 

 

 

 

 

『私の演技で夢中にしたい……釘付けにしたい人がいるからです』

 

 

 

 

 

━━━━━次回、最終話。

 

 

 

〜〜〜〜〜次回予告〜〜〜〜〜

 

 

 

みんなが背中を押してくれて、輝くんも手を引っ張ってくれて、みんなが支えてくれて、私はまた"スクールアイドル桜坂しずく"としてステージに立つことができた。

 

それに演劇の舞台にも上がることが出来て、また"大女優桜坂しずく"として演劇をすることができている。

 

 

みんなもそれぞれの道へ歩んで行き、私も……

 

そう、輝くんは私の側でずっといてくれる。

 

だから私は………

 

"桜坂しずく"でいることができる。

 

でも、もしも生まれ変わりがあるとするならば、私はきっとまた輝くん(同じ人)に恋をするんだろうなぁ……なんちゃって。

 

 

次回『しずく照らす光』

 

最終話「ずっと側で」

 

 

━━これは、やがてひとつの物語。

 

 





ありがとうございました!
うおおおおおおおお!!良かったぁぁぁぁぁああ!!!しずく!!!お前が!!!大女優だ!!!!!
今回のお話は1番長いお話でした。みなさんお疲れ様でした。そしてありがとうございます!
同好会のメンバー達ならきっとしずくを曲で元気つけてくれるだろうと考えて、こんな感じに仕上げてみました。そしてしずく自身がまたステージに上がれた時、歌えた時のシーンがお気に入り。というかしずくパート全体的に結構お気に入りです。というかライブシーン全般めっちゃ好きを詰め込ませて頂きました。是非今回のお話は該当の曲を聞きながら読んで欲しいですね!私も何回もそうやって読んでました。是非お試しあれ!

さて、次回はいよいよ最終話と言う名のエピローグです!ここまで本当に色々あった物語はついに終わりを迎えます!
そんな最終話は明後日……ではなく、明日22時に投稿予定です!

それでは、感想や評価、Twitterのフォローや読了報告等お待ちしてます!


楽曲使用追加 725-0587-7 730-8925-7 256-5507-8 259-0165-6

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