しずく照らす光   作:シベ・リア

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みなさんこんばんは。
この1週間、毎日投稿というわけではありませんが、土日は連続で、話が変わる時は隔日で更新させていただきましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
あとから見つけてくださった方も、リアルタイムで追ってくださった方も、本当にありがとうございます。この作品を見つけてくださり、読んでくださったことが本当に嬉しく思います。
感動的なフィナーレを迎えたこの"やがてひとつの物語"ですが、ついに今回で最終話……エピローグを迎えました。このエピローグも、今までのお話全てにも私の大好きが詰まっております。だから是非みなさんにも、この作品をまだ読んでない方にも、それが伝わればいいなとオタクの血が騒ぎます。
さてさて、一体どんな結末を迎えるのか……ぜひ最後まで、お楽しみください。





最終話(エピローグ)「ずっと側で」

 

 

『しずく照らす光』

 

 

━━しずくの人生という名の舞台を照らし続けた輝林。

 

━━そんな輝林の理想のヒロインであり続けたしずく。

 

━━2人はこれまで過ごしてきた中で、変わらないたったひとつの想いを持ち続けていた。

 

━━しかし輝林は突然亡くなってしまい、しずくはこの舞台にひとり残されてしまったが、それでも輝林はずっと側でしずくを照らし続けた。

 

━━しずくは転んでも、迷っても、その歩みを止めなかったのは、スクールアイドル同好会や演劇部の皆のおかげでもあったが、でも1番は輝林のおかげであった。

 

 

最終話

 

 

━━そんなひとつの物語は、ついにクライマックスへ向かう。

 

 

『ずっと側で』

 

 

 

━━━━━ 江東区大文化ホール。

 

 

あの感動的なライブから数週間後、1人の死亡者を出した事故が起こってから諸々の修復等が終わったこの場では虹ヶ咲学園本校演劇部による公演が行われていた。

当初は別の場所で行う予定になっていたこの公演だが、この場所を希望したのは他でもないしずくであった。しずく自身も被害者であり、何より目の前で好きだった幼馴染の輝林を亡くした現場であるため、演劇部の人達やスクールアイドル同好会の皆も反対していたが、そんなしずくの必死のお願いに折れて今に至る。

 

そんな公演での演目は『幕末怪異討伐〜乙女(うたひめ)達の戦い〜』であった。

しずくは合同演劇会が中止となったこの劇の再公演に向けての練習で舞台に上がれなくなり、一度はその主演を後輩の月に譲っていたが、そんな月たっての希望で再び主演を務めることになっていた。これは虹ヶ咲学園両校や世間でも話題を呼んでいて、その影響もあって会場は満席になっていた。その中には勿論、卒業生を含めたスクールアイドル同好会等の本校の生徒、分校の演劇部の生徒達、そしてしずくの両親や輝林の両親もいた。

 

そんな会場を埋め尽くす程の観客達が見つめる中、公演は既に始まっていて、その劇は物語の終盤……永きに渡る眠りから復活し、京を我が物にしてから日本を支配しようとするかの有名な妖怪、玉藻前(たまものまえ)こと九尾の狐の軍団と彼岸花の決戦に差し掛かっていた。

 

「みんな!私に続けッ!!!!」

 

しずくが演じているサクラが刀を天高く掲げて皆を鼓舞すると、和楽器が目立つイントロが流れ出して、この劇で数々歌われている隊員をイメージした曲の1つで、その中でもこの劇のメイン楽曲になっているサクラのイメージ曲『エイエ戦サー』が始まった。

他の隊員達が傷付いてもそれらを庇いながら大勢の妖怪相手に歌いながら戦うサクラを皆は見つめていて、それに鼓舞されたかのように月が演じるキクも立ち上がって敵に立ち向かった。

ここで本校演劇部が合同演劇会でこの劇をやると決めた時に、分校演劇部から教わった刀を使った大立ち回りを披露して、分校の人達にも負けないほど綺麗で技術が磨かれており、観客達もそれを教えた分校演劇部の面々も唸り声をあげた。

 

「副長!私も戦います!だから早く九尾のところへ!」

「キク……ありがとう!でも死なないようにね」

「はい、わかってますよ……っ!」

 

キクの援護を受けながら、サクラは軍団の先で余裕の表情を浮かべる九尾の狐に向かって切り進んで行った。段々と近付いてくるサクラを見て、九尾の狐の表情も焦りが見えてきた。

 

「お前達!何をしておる!こんな人間如き、早くやってしまえ!」

『っ……副長?!』

 

九尾の狐の声でさらに妖怪達の勢いは増し、鬼の副長と呼ばれ、数々の妖怪や怪異を斬ってきたサクラも遂には負傷して距離を取るように後ろに下がってしまった。

そんな終盤の台詞パートを言い終える直前のところで曲のメロディは止まってしまい、観客達にもサクラがピンチであるということが伝わって固唾を飲んで舞台を見守った。

 

「私は負けるわけには、立ち止まるわけにはいかないんだ……!だって私はここの副長で、みんなを守らないといけないんだッ!!!」

『副長……!』

「そうか、副長がこれまでずっと厳しかったのは私達を守るため……?!」

「なのにそれを知らないで私達は文句ばかり言っていた……!」

「くっ……!みんな、行こう!」

『そうだ!』

「副長に続け〜〜ッ!!!」

『ホ()サ〜〜ッ!!!』

「っ……みんな……!」

「副長、行きましょう!」

 

『っ……絶対 負けないわ〜〜〜!!!!』

 

そのサクラの力強い声を合図に曲のメロディは再び流れ出してまた歌い始めると、隊員全員で妖怪達をどんどん斬り捨てて行き、ついにサクラは九尾の狐と対峙した。

そして曲のラスサビに合わせるかのように九尾の狐の妖術で出した炎を避けながら近付いて両断すると、九尾の狐は灰となって消えていった。

 

「ば、バカなぁぁぁああああ!!!」

 

『そう 失う事恐れずに〜〜!!』

『ホ戦サ〜〜!!』

 

そして九尾の狐を討伐したサクラは刀を天に向かって掲げ、鬨をあげるかのように他の隊員達もサクラに続いて刀を掲げてそう叫んだ。

 

 

それから劇はラストシーンとなり、彼岸花隊が京都を離れて他の地域の怪異を退治しに行くところで終わりを迎えた。

最後には出演者全員で『天皇直轄極秘部隊 彼岸花隊歌』を歌って劇はカーテンコールを迎えた。

 

「━━局長ウメ役、九尾の狐役……星見 陽向!」

 

「そして、主演!副長サクラ役……桜坂しずく!」

 

そこで出演者の皆の名前が呼ばれる度に一歩前へ出て拍手に応えるように手をあげたりお辞儀をしたりしていたが、しずくが最後に紹介されると誰よりも大きな拍手が会場に鳴り響いた。その拍手に感動して目に涙を浮かべながらそれに応えて手を振っていて、そんなしずくをしずくと輝林の両親や同好会のメンバー達も少し涙を浮かべながら拍手を送っていた。

 

そんなしずくの胸にあるペンダントがキラリと光って、まるで輝林も劇の成功を祝っているように感じられた。

 

 

 

 

━━━そうして、さらに1年の時が流れた。

 

演劇部では同じ2年生だった生田 双葉(いくた ふたば)さんが部長になって、様々な公演を行っていった。演劇部としての最後の1年ということもあって、私も双葉さんも、それに勿論他の新3年生もその練習や講演に力が入った。

最後の公演では今の私に出来る最高の演技を……輝くんが見てもきっと「僕の大好きなしずちゃんらしい演技だったよ」って言ってもらえるぐらいのものが出来た。

あっ、そういえば双葉さんも、その公演を見てくれた同好会のみんなも泣いてたっけ?

 

そしてスクールアイドル同好会は私達の卒業をもって同好会は解散することになっていた。

私達の活躍もあって新たにスクールアイドル部が設立されたの。本当は同好会を部に昇進させてっていう話もあったんだけど、卒業生を含めた13人みんなで相談して、このスクールアイドル同好会の名前を無くしたくないし、そこに私達以外の人達が入ることも考えられないって結論に至ってこの決断をした。そのことで一悶着はあったんだけど、結果的に『この同好会の名前を残していくのはこの方法が1番だ』ということで全員の意見が一致したの。

 

………寂しくないかと言えば、とても寂しい。でも、これで私達の今までの活動や『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の名前が未来永劫残ることになるのなら、私は良いと思った。

それに、学園内の活躍した部活動のトロフィーや賞状とかを展示いる『虹ヶ咲メモリアル』では、私達同好会が優勝した大会、特に目立った活躍をしたスクールアイドルに贈られる『ベスト・オブ・スクールアイドル』のトロフィーと賞状、そして卒業前に部室の前で撮った13人の写真が残ることに決まった。だから私達が歩んだ軌跡と証はずっとこの虹ヶ咲学園に残ることになったし、これで良かったんだって思える。

 

 

そんな本当に色んなことがあった学園生活も、ついに今日、クライマックスを迎える。

 

 

 

 

━━━━━虹ヶ咲学園本校、大体育館。

 

 

春、桜の木々が静かに風に揺られる中、ここでは卒業式が行われていた。

虹ヶ咲学園の卒業式は分校が出来た当時から本校との合同で行われていて、本校分校の3年生やその家族、さらには両校の教職員達や在校生の数十名がこの場所に集まっていた。

拍手と吹奏楽部の演奏が入場してくる卒業生達を迎え、その姿を見た卒業生の両親の中には既に泣いてしまう人もいた。

その後国歌や校歌の斉唱等が行われ、早くもメインのひとつである卒業証書の授与の時間になっていた。

 

『卒業証書、授与』

 

 

━━━皆さん、良い顔をしていますね。

 

 

この合同卒業式での卒業証書授与は、各校の代表者が1名ずつ前に出てきて理事長から卒業証書を受け取るものになっていた。その卒業証書を渡す役割を持っている理事長は、舞台の上から卒業生の顔を見回してとても感慨深い気持ちになっていた。

 

『本校代表、国際交流学科……桜坂しずく!』

 

「はい!」

 

その本校代表に選ばれたのはしずくだった。スクールアイドル、そして演劇部での活躍があれば当然の人選というべきであろう。そんなしずくは名前が呼ばれると席から立ち上がって大きな声で返事をして、その声は静かな体育館に綺麗に響いた。

 

『分校代表、国際交流学科……紅葉輝林……っ!』

 

『……はい!!!』

 

そしてなんと、分校代表に選ばれたのは昨年の事故で亡くなった輝林だった。この人選は他の生徒達の強い希望があってのものであった。今回、卒業式に出席している輝林の両親もその光景に溢れる涙を抑えられなかった。

そのここにはいるはずもない輝林の代わりに立ち上がって返事をしたのは分校の卒業生全員で、中には涙声も混じっていた返事は体育館に大きく響いた。

 

 

━━━輝林、良かったわね……!

 

━━━良い友達を持ったな、輝林……!

 

 

そして輝林の写真を持った大和が前へ駆け足で向かい、舞台へ向かうレッドカーペットの中央に立つしずくの元へそれを届けて手渡した。

 

「桜坂さん……お願いします」

 

「はい」

 

大和は輝林の写真をしずくに手渡すと、方向転換をして自分の席へと駆け足で戻っていき、その背中を見届けることなくしずくは舞台に向かって輝林の写真を持って歩き始めた。

 

『っ……卒業生、起立!』

 

しずくが舞台へ繋がる階段に足を乗せると、司会役の先生が涙を抑えてそう号令を掛け、卒業生全員が立ち上がってジッと舞台を見つめた。

 

そして理事長が卒業証書を読み上げてしずくに手渡す前にマイクを横にズラして、しずくに語りかけるように言葉を贈った。

 

「桜坂さん、貴女の活躍は皆に感動を与えるものでした。本当に卒業おめでとう。よく頑張りましたね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

しずくは輝林の写真を一度、分校の校長に託して卒業証書を受け取り、一礼してからその卒業証書と交換するように再び輝林の写真を受け取った。

理事長はそんな輝林の写真を見て零れそうになった涙を拭いて、ハッキリとした声で卒業証書を読み上げ、しずくは輝林の写真を持ちながら再び前へ出た。

 

「紅葉くん……貴方はちゃんと高校を卒業しましたよ。貴方の功績、頑張りは忘れることはありません。本当におめでとう」

 

しずくはその理事長の言葉に対して返事をすることはなかったが、きっと輝林は元気よく返事をしているだろうことをその会場の誰もが信じていた。

そしてしずくは輝林の代わりにその卒業証書を受け取り、一礼をしてから一歩後ろに下がった。

 

「っ……そ、卒業生……礼っ!!!」

 

司会の先生が涙声でそう言うと、卒業生や壇上の理事長、本校分校の校長が礼をすると、壇上に理事長を残して皆は席へと戻っていった。

会場内ではすすり声や涙を流す声が聞こえており、この卒業式はきっと印象深いものとして語り継がれることになるだろうと感じる人もいた。

 

そしてそれからも理事長等の式辞、来賓として出席していた区長等の言葉、来賓や祝電の紹介、さらには両校生徒会長の送辞、両校前生徒会長である栞子と明良による答辞も粛々と行われ、短くもあり長くもあった卒業式は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

「………これでこの部室ともお別れだね」

 

『うん……』

 

しずく達3年生は最後のHRの後、スクールアイドル同好会の部室の前に集まって、名残惜しそうにかすみが外した同好会のプレートを、卒業証書を入れている筒を持ちながら見つめていた。

中の片付けは今日までに終了していて、年度末をもってここはスクールアイドル部に引き継がれることになっていた。しずくも演劇部へ挨拶も済ませていてこのスクールアイドル同好会の部室を最後にこの学園を去る予定である。

 

「……色々ありましたね」

 

「うん。私、この同好会に入って良かった」

 

「私も同感です。同好会に入らなければ、スクールアイドルを始めなければ見れなかった景色が何個もありますから」

 

栞子と璃奈はそのスクールアイドル同好会での日々を思い返すように言葉を紡ぎ、笑顔ではあったが今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

 

「私も……最初は演技の幅を広げる為に入ったけど、みんなと過ごしていくうちにスクールアイドルが楽しくなってた」

 

「私も、と〜〜っても楽しかった!同好会が無くなるかもって時にみんな来てくれて本当に良かったし、最後までスクールアイドルできたもん!

だから………っ!!」

 

『かすみさん……!』「かすみちゃん……!」

 

いよいよスクールアイドル同好会を去ると決まった実感が湧いたのか、かすみの涙はダムが決壊したように溢れ出し、3人もそれに釣られて涙を流した。

 

「っ……!かすみさん!」

 

「しず子……?」

 

そんなかすみを見ていたしずくはかすみの手を優しく握ってその顔をしっかりと見つめた。

 

「かすみさんはこれからアイドルになるんだよね?私は演劇の大学に進むけど絶対に大女優になってみせるから!だからかすみさんも、絶対に超人気アイドルになってね!ううん、絶対なれるから!」

 

「っ……当たり前じゃん!私を誰だと思ってるの?こ〜んなにかわいいかすみんだよ?!超人気になるに間違いないって……!」

 

「っ……私も、大学へ進んでなりたい自分に必ずなります……!」

 

「私も……大学に進んで研究を続けて、みんなが楽しめるゲームとかマシンをいっぱい作る!」

 

皆は夢を語り、そして涙を流しながら笑顔を浮かべ、それぞれの門出を祝いながらこれまでの感謝の言葉を言い合った。

 

『ありがとう……!』『ありがとうございます……!』

 

 

━━皆の心はずっと側にあることを誓って。

 

 

 

━━━━━数時間後。

 

━━━━━鎌倉、墓地。

 

 

制服に身を包み、卒業証書を入れた筒と、一輪の花2つとレジ袋を持って真っ直ぐと目的地に向かう1人の男がいた。名は大空大和。同じ演劇部に所属していた輝林の親友である。

大和は目的地……輝林の墓の前に立つと、寂しそうにしばらく見つめてからしゃがんで持っていた花を2つ置き、レジ袋を漁ってスポーツドリンクを置いてからマッチで線香に火をつけて手を合わせた。

 

「輝林。お前確かこれよく飲んでたよな?好きだと思って買ってきた。この花は卒業祝いで先生と在校生の奴らとかがくれたやつで、こっちは演劇部のみんながくれたやつ。しっかりとお前の分も用意してくれてたよ……」

 

 

━━━そうなんだ。そんなのいいのに……

 

 

「………なぁ輝林、もう俺卒業しちまったよ」

 

 

━━━知ってる。おめでとう。

 

 

「お前がいなくなって、俺、めっちゃ悲しかったんだぜ?一緒に演劇して、卒業しようなって言ってたのによ……」

 

 

━━━うん……ごめん。

 

 

「しかもよ、お前、桜坂さんに告るとか言っといてその前に死ぬとか……最低だよ」

 

 

━━━そうだね。でも大和が知らないだけで僕はちゃんと告白したよ?

 

 

「………俺さ、悩んだんだよ。お前に教えてもらったこの演劇という世界に残るかどうか……お前と一緒の劇団にも行こうとか考えてたけど、今はもうお前はいなくて……」

 

 

━━━大和……!大和は、大和の道を進んでくれていいんだよ?本当に。

 

 

「でもさ、でもよ……!俺、やっぱり……演劇が好きみたいだ……っ!」

 

 

━━━っ……!

 

 

「いや、本当に1年の時にノリで入ったよ?丁度何に入るか迷ってたし、それでお前について行って見学した時に一気に"演劇"っていう世界に夢中になっちまったんだ……!」

 

 

━━━嬉しいよ、大和……!

 

 

「だから俺な……大学でもっと演劇を勉強して、お前に負けない舞台俳優になってやる!だから天国で見とけよ輝林!死んだこと後悔させてやるからな……ッ!!!」

 

 

━━━大和……っ!

 

 

「っぐ……クソッ!もう泣かないって決めたのにな……ッ!」

 

大和は墓に向かって独り言ように輝林に話しかけ、その様子を輝林は墓にもたれて聞いていて、大和には聞こえないがその言葉に返答をしていた。そして大和が大粒の涙を流すと、輝林は心配になって墓の裏から顔を覗かせた。

 

━━そんな2人の会話を邪魔するものは何もなかった。

 

 

━━━ごめん、大和を置いて逝って。僕も大和ともっと演劇したかったよ……!

 

 

「……すまん、輝林。見っともないところ見せちまったな。ははっ……」

 

大和は涙や鼻水を拭きながら笑うと、輝林はそんな顔を申し訳なさそうに見つめていた。大和に触れることができるのなら……とその手を大和に向かって伸ばしたが、大和の肩にそれは触れることはなく通り抜けて行った。

 

 

━━━そりゃそうだよね……

 

 

輝林が頭をかきながらそう言って笑うと、涙を拭き終わった大和は立ち上がって大きく、そしてゆっくりと深呼吸を1回して空を見上げてから輝林の墓に視線を戻した。

 

「……じゃあ、俺もう行くわ」

 

 

━━━うん、元気でね。早く来ちゃダメだよ?体に気をつけてね?

 

 

「ふっ……お前のことだから、きっと俺のこと心配してくれてるんだろうな」

 

大和はそう言って笑顔を浮かべて墓に背を向けてその場から去ろうと歩き始めた。

触ることができないが、この声だけでも大和に届けることが出来ないかと辛い表情を浮かべてその背中を見つめた。

 

━━その時、優しく撫でるような風が吹いて、その墓地に植えてあった桜等の木々が綺麗な音を立てて葉を揺らした。

 

大和はその風を気持ち良さそうに受けて、思わずその視線は葉が揺れている桜の木に目を奪われて、どこか寂しそうな目でそれを見つめていた。

 

 

━━━大和、頑張ってね。僕、応援してるから……

 

 

「っ……!?輝林……?」

 

すると大和はそんな風に乗るように輝林の声が聞こえてきたように感じ、驚いた表情を浮かべて勢いよく輝林の墓の方に振り向いた。

輝林は自分の声が届いたのだと大和の反応でわかり、その声を届けてくれた風……神風とも呼べる奇跡(・・)に感動を覚えた。

 

「っ……そうか、お前はずっと……ッ!!」

 

しかしその言葉に輝林からの返答は聞こえてこず、最初は大和は気のせいなのかと考えたが、きっとそれは奇跡的に聞こえたのだと感じて涙を目に浮かべた。

 

 

━━━大和、僕はずっと君を見てるから。

 

ううん………

 

 

君たち(・・・)をずっと見守ってるから。

 

 

 

そして大和は、まるで輝林が天からしっかりとこちらを見下ろせるかのように雲ひとつない青空を見上げ、拭いても拭いても流れ続ける涙を頬に垂らしながら微笑んだ。

 

━━その笑顔の自分の顔を輝林に見せつけるように。

 

 

「……ずっと見とけよ、輝林。約束だからな。

今度は(・・・)俺との約束、破るんじゃねーぞ……っ!!」

 

 

 

━━━うん、ずっと側で見てるからね……親友。

 

 

 

 

━━━━━3年後。

 

━━━━━紅葉家。

 

 

大学3年生になったしずくは、今日はお盆であるため紅葉家を訪れていた。

しずくは輝林が亡くなってから法事には毎回顔を出しており、輝林の両親もしずくをもう1人の家族として迎えていた。法事では無くても、たまに紅葉家に訪れる度に仏壇に手を合わせたり、お墓参りも輝林の両親の代わりに行っていることもあった。

 

「しずくちゃん、今日もありがとうね」

「いえ、私の好きでやってることですから」

「そう……きっと輝林も喜んでるわ。大好きなしずくちゃんに会えて」

「もう、瞳さんったら……でも、そうかもしれませんね」

 

しずくは仏壇のある部屋で用意されている机に向かって座布団の上に座っていた。そこへ瞳がお茶を運んできて、話しかけながらその目の前に置くと、しずくは会釈しながらそれに返答をした。

飾られている輝林の遺影は、まるでそんなしずく達を微笑ましそうに見ているように、またそのないように照れているようにも感じられた。

 

そんなしずくはお経が終わってしばらくの間その場から動けずにいた。

 

━━その理由はしずくの脚にあった。

 

「しずくちゃん、しんどくない?」

 

「いえいえ、全然大丈夫です!」

 

「そう……?」

 

「……いつものことですから」

 

瞳は心配そうにしずくの脚の方に視線をやると、しずくも優しい目を浮かべながら微笑んで自分の脚の方に視線を向けた。

 

その視線の先には………

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

しずくに膝枕をされて気持ちよく眠っている女の子がいた。お経が唱えられている最中に眠ってしまってからずっとこの状態で、しずくはそのためそこから動けずに偶にその女の子の頭を撫でたりしながらゆったりとした時間を過ごしていた。

 

彼女の名前は紅葉 燈林(あかば あかり)。輝林が亡くなった翌年に生まれ、火のように周りを明るく照らし、そして「林」は輝林の字にも使われているためこの名が付けられた。

忙しい瞳や楓の代わりにしずくや涼が面倒を見ることも少なく無く、しずくもその時以外にも燈林の世話をしているため彼女はしずくに懐いているのだ。それはしずくの膝枕で安心したように気持ちよく眠る燈林を見れば一目瞭然だろう。

 

「ふふっ……本当に小さい頃の輝くんにそっくり」

「そうよねぇ……」

 

しずくは燈林の頭を優しく撫でながらその寝顔を見つめ、瞳と共に幼い頃の輝林の顔を思い出して少ししんみりとした空気が流れた。

そんなことは幼く、そして眠っている燈林はわかるはずもなく、ただただ心地良い睡眠を堪能していた。

 

 

 

 

 

 

「……美味しい?」

 

「うん!美味しい!」

 

「それは良かった」

 

ある花に囲まれたところの円形の机に、ある2人の人物が向かい合って座っていた。その片方の女の子は美味しそうに苺を頬張り、それを向いに座っている男が嬉しそうに微笑みながらコーヒーを飲んでいた。

 

あかり(・・・)ね、いちご大好き!」

 

「ふふっ、そうだね。いつも(・・・)食べてたもんね」

 

「え〜!知ってたの〜!?」

 

「うん。いつも見てたからね」

 

「みてた……?どこから見てたの?」

 

「ん〜……お空から」

 

「そうなんだ〜!」

 

「うん」

 

女の子……燈林は幼いながら、瞳やしずくから聞いていた死んだ人(・・・・)がお星様になり、お空から見守っているということが本当であると理解できた。そんな燈林を向い側に座って見守っている男は勿論、死んだはずの輝林であった。

燈林は兄である輝林にしずくと遊んだことや両親と過ごしたこと等楽しい思い出を苺を食べながら話し、輝林はそれを嬉しそうにリアクションしながら聞いていた。

 

「……そういえば、ここはどこなの?」

 

「ここ?ここはね、燈林の夢の中だよ」

 

「夢の中なの〜!?すご〜い!」

 

「ははっ、でしょ?それで燈林とお話してみたかったから、ちょっと僕がお邪魔してるんだ」

 

「ふ〜ん……お兄ちゃんってなんでもできるんだね!」

 

「まぁ、ある程度は。でもよく僕がお兄ちゃんだってわかったね?」

 

「だってお写真みたことあるもん!」

 

「あ〜なるほど」

 

「それでね、いつもしずくお姉ちゃんがお兄ちゃんのこと教えてくれるんだ〜!」

 

「そう……」

 

「……かなしいの?」

 

「悲しいというより、寂しい……かな?もう僕はあまりお母さんとお父さんとも、燈林とも……それにしずちゃんともお話できないから」

 

輝林は少し寂しそうな表情を浮かべて、生きている時に過ごした日々を思い出しながらコーヒーを口に含んで、そのカップの中身が無くなったことがわかるとその隣にあったコーヒーポットで新たにコーヒーを注いだ。

 

「そうなんだ……じゃあ、あかりが楽しかったこととか、い〜っぱい!お話してあげるね!」

 

「……ありがとう、燈林」

 

 

『燈林……燈林……そろそろ起きなさい。お昼ご飯よ』

 

 

「あっ、お母さんの声だ!」

 

「……そろそろ帰る時間みたいだね」

 

「え〜っ!?あかり、もっとお兄ちゃんとお話した〜い!」

 

その姿は見えないまま瞳の声が聞こえてくると燈林は一旦笑顔を見せたが、それが夢から現実へと帰らなければいけない事実を知ると、頬を膨らませて寂しそうな表情を浮かべた。

 

「………燈林、会えて良かったよ。お母さんもしずちゃんも待ってるよ」

 

「お兄ちゃんは……?」

 

「お兄ちゃんは…………お星様になったからもう帰れないんだ。だからずっとみんなのことを、燈林のこともずっと見てるよ」

 

「そっか……」

 

輝林は席を立って、残念そうな表情を浮かべながら帰ろうとしない燈林に近付いてから優しくその頭を撫でた。燈林はそうされるととても嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「……燈林、最後にハグしてもいいかな?」

 

「ハグ……?あっ、ぎゅ〜っ!ってこと!?いいよ〜!」

 

「ありがとう」

 

そして椅子から立ち上がった燈林は輝林のお腹あたりに飛び込んで背中に向かって手を伸ばし、輝林もそんな燈林を優しく抱き寄せ、しばらく2人は味わうようにハグをした。

 

「……お兄ちゃん、温かくない……」

 

「ここは夢だし、それにもう僕は死んでるからね……」

 

「そうなんだ……」

 

そんな輝林の体からは肉体的な温かさを感じることはできなかったが、燈林はどこか温かい(・・・)ものを感じていた。それが一体なんなのか燈林はわからなかったが、十中八九肉体的な温かさではなく輝林からの愛情の温かさと言えるだろう。

 

「ねぇ、燈林……」

 

「なぁに?」

 

「お願いがあるんだ。聞いてもらってもいい?」

 

「お願い?いいよ!」

 

「………僕は見守ることしかできないから、お母さんやお父さん、それに……しずちゃんを支えてあげてね」

 

「うーん……よくわかんないけど、わかった!お兄ちゃんの代わりに、あかりがお母さんとお父さんもしずくお姉ちゃんもささえる?ね!」

 

「ありがとう、燈林。あっちの道を行けば戻れるから、気をつけて帰るんだよ」

 

「うん、わかった……」

 

輝林は燈林に高さを合わせるようにしゃがんでお願いをすると頭を撫でてから、少し開けている先が光で明るく輝いている道を指を刺したが、燈林は名残惜しそうにその場を動こうとしなかった。

 

「燈林。お母さんもお父さんも、それにしずちゃんも待ってるから、ね?」

 

「でも………」

 

「大丈夫だよ。僕は燈林のこともずっと側で見守ってるから。そんな顔しないで?」

 

「ほんと!?約束だからね!」

 

「うん、約束する」

 

輝林の言葉にパァッと笑顔になった燈林は、優しく微笑む輝林と小指を交わして約束をして、満足したように先程輝林が指差した道に向かって走り出した。

 

「お兄ちゃんばいばーーーーい!!」

 

「うん、バイバイ!」

 

「約束だからね〜〜!!!」

 

燈林は元気よく跳ねながら大きく両手を振り、輝林も片手を大きく振りながらそれに応え、燈林が走って行って見えなくなるまでその手を振り続けた。

 

「……さて、僕も戻らないと。また閻魔様に怒られちゃう」

 

手を降ろして空を見上げた輝林は、自分を迎えにきた茄子の形をした物に跨って空に向かって飛び立ち、誰もいなくなったその場所は先程までの騒がしさが無くなって静かにあり続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「………ん〜?」

 

「やっと起きた……ほら、お昼ご飯食べるわよ」

 

「おはよう燈林ちゃん」

 

「ん〜?う〜ん……」

 

燈林は起き上がってまだ完全に頭が覚めていない状態で呆れ顔を浮かべる瞳や、微笑んで見つめるしずく、そして部屋を見回した。

 

「燈林ちゃんとっても気持ち良さそうに寝てたよ?どんな夢見てたの?」

 

「ゆめ……?」

 

「ふふっ、まだ寝ぼけてるんだね」

 

燈林は目を擦りながらその頭を徐々に覚醒させ、先程まで見ていた夢を思い出していった。

 

「……あ!あのねあのね!」

 

「うん?」

 

「あかりね、お兄ちゃんとお話してたの!」

 

『えっ……!?』

 

その目が覚めて元気よく話し始めた燈林の言葉にしずくと瞳は驚いた表情を浮かべてそんな燈林を見つめた。そんな驚いた2人を放って燈林は淡々と先程まで見ていた夢……輝林と会ったことを話し始めた。

 

「あのね!お兄ちゃんがね、いちごくれてね!とてもおいしかったの!」

 

「あ、あぁ……燈林ちゃん好きだもんね、苺」

 

「うん!それでね!お兄ちゃんにねいっぱい教えてあげたの!お母さんと遊んだことも、しずくお姉ちゃんと遊んだことも!」

 

「そうなんだ。輝くん……お兄ちゃんは何か言ってた?」

 

「えっとね……しずちゃん(・・・・・)も変わらないな、って言ってたよ!」

 

『っ……!?』

 

しずくや瞳は燈林の話し始めたことに驚きを隠せなかった。燈林は輝林の写真を見ていたし、今まで彼のことを聞いていたから夢を見ただけと思っていたが、燈林が知るはずもないその呼び方(・・・・・)を口にした為、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。そして瞳は何かを察したように目に涙を浮かべた。

 

「あ!そうだ!お兄ちゃんにお願いされたの!」

 

「お、お願い……?」

 

「うん!あのね━━━」

 

 

『お母さんやお父さん、それに……しずちゃんを支えてあげてね』

 

 

「━━━って!それにね、ずっと見守ってくれるって指切りげんまんもしたよ!イヒヒッ!」

 

燈林は輝林と約束を交わした小指を出して笑顔を浮かべると、しずくの目からは込み上げるように涙がひと滴ひと滴と零れていった。

 

「っ……そう……!」

 

「しずくお姉ちゃん……泣いてるの……?」

 

「っ……ご、ごめんね?」

 

そんな涙を流してしまったしずくを見た燈林の脳内には輝林からお願いされた言葉が蘇ってきて、それから自然と手が伸びて優しくそんなしずくの頭を優しく撫でた。

 

「しずくお姉ちゃん、泣かないで……?」

『しずちゃん、泣かないで』

 

「っ……!?」

 

しずくはそんな燈林の言葉が輝林の声と重なって聞こえ、さらにその手からは輝林と同じ温かさを感じた。

 

 

━━━そうか、輝くんはずっと側にいてくれてるもんね……!

 

 

そしてしずくは首からぶら下がる輝林からもらったペンダントを優しく抱きしめて、輝林がずっと見守ってくれていることを、側にいてくれていることを改めて実感した。

 

「燈林ちゃん、ありがとう」

 

「っ……本当に、あの子は……!」

 

それを見ていた瞳も、きっと燈林の夢に現れた輝林は本物の彼自身であるとわかって涙を流していた。

 

「輝くん……ありがとう……」

 

しずくは涙を拭き取ってお礼の意味を込めて燈林の頭を撫でながら、輝林の遺影を笑顔で見つめた。さらにそんなしずくを側で見守り、そして「大丈夫だよ」と声を掛けるようにペンダントはキラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━時は流れていき、皆は様々な思いを胸にそれぞれの道を歩んで行った。

 

 

陽向を始めとした本校演劇部の人達はその殆どが劇団や芸能事務所に所属しており、さらにそれは大和達分校演劇部の面々も同じであった。無念にも道半ばで亡くなった輝林の分まで、皆は今日も全力で演劇に身を投じていた。

 

同好会のメンバー達はそれぞれの夢へ向かって各々進んでいき、その報告等を兼ねて年に何回も集まったりもしていて、高校生の時と変わらず仲が良かった。

 

 

「喰らいなさい!スカーレット……ストォォォォォム!!!」

「……はいOK!次のシーン行こうか!」

「はい!お願いしますっ!」

 

せつ菜……もとい菜々は卒業後、大学に通いながらヒーローショーのMCスタッフのアルバイトをしていた。その様子を見かけた声優事務所の社長にスカウトされ、そこから声優として活動を続けていた。菜々の出演するアニメやゲームだけではなく、キャラソンやアニメのop等歌声の面でも高く評価されていた。さらに学生時代に使っていた『優木せつ菜』の名前は、歌の活動の時に名乗り続けていた。

 

 

 

「ただいま〜」

「おかえり、歩夢!」

「侑ちゃんもお疲れ様!すぐに晩ご飯作るね……!」

「ううん、今日は私が作るよ!」

「えっ……?」

「だって今日は……私達の結婚記念日でしょ?歩夢には今日ぐらい楽して欲しいし!」

「侑ちゃん……っ!」

 

侑は卒業後大学に進み、現在は音楽家として活動をしている。そして歩夢は卒業後海外へ留学し、そして帰国後に侑とめでたく結婚して、現在は商店街の花屋で働いている。

 

 

 

「………流石ミア!いい曲ね!」

「Thanks!これぐらい当然さ」

「やっぱりミアを相棒に選んで良かったわ」

「日本に行く時に誘っておいて途中で辞めるとか言い出した口がよく言うよ」

「そ、それは随分前のことじゃない?!」

「はははっ!わかってるさ。またよろしく頼むよ、Buddy!」

 

嵐珠は卒業後一度帰国してから日本を拠点として、1人の音楽家として世界に名を轟かせつつあったミアと共に世界を巡ってライブイベントに出たり、音楽番組に出たりと活動をしている。

 

 

「愛せんせ〜!あそぼ〜!」

「ちょっとちょっと!もう大丈夫なの!?」

「うん!せんせーがちょっとなら遊んでも大丈夫って言ってた!」

「そうなの!?良かったじゃん!じゃあ愛さんと遊んじゃおうか!」

 

愛は卒業後大学へ進み、美里のことがあり病院で患者さんを笑顔にできる看護師を目指した。そして資格を取得した現在、ある病院で看護師として子供から大人まで色んな患者さんを笑顔にしている。

 

 

「果林さん!もう少し視線をこちらに!」

「こう?」

「そうですそうです!良いですよ〜!う〜〜セクシー!」

「ふふっ、ありがとう」

 

果林は卒業後からモデルを中心に活動を続けていて、今となっては雑誌やテレビ番組に引っ張りだこの有名モデルになっていた。

 

 

「8番テーブル、オムライス5!」

『はい!』

「よぉ〜し、張り切っていこぉ〜!」

「近江さんの声じゃ力抜けちゃいますよ〜!」

「でも、良い感じにリラックスできるし良いよね!」

「そこ〜、口じゃなくて手を動かして〜」

『はい!すみません!』

 

彼方は卒業後料理のスキルを学び、そして今は有名ホテルの厨房で料理長を任されており、そのホテル内外でもその手腕や味は絶賛されていた。

 

 

「は〜い!みんな集まって〜!お歌の時間だよ〜!」

『は〜い!』

「わたし、エマせんせ〜のお歌の時間好き〜!」

「ぼくも〜!」

 

エマは日本に戻って保育士の資格を取り、保育園でもその歌が子供達や親御さん、他の保育士からも人気が高い保育士となっていた。

 

 

 

「天王寺さん、また開発したアプリがバズったらしいよ」

「しかもあの大手メーカーからロボット開発を手伝って欲しいって話も来たらしいよ」

『すごすぎ……』

「璃奈ちゃんボード『えっへん!』」

 

璃奈は卒業後大学へ進み、在学中から現在まで様々なアプリや機械を開発して、それは就職先の会社内や世間からも認められる開発者になっていた。

 

 

 

「三船教授!先程の講義で質問が……」

「はい。どこですか?」

「三船教授って美人だよなぁ……」

「俺、教授がスクールアイドルしてる時の動画持ってるんだけど……トブぞ?」

「あの八重歯がたまらん……」

 

栞子は卒業後大学を主席で卒業し、その後大学の教授となり生徒や他の教職員からも人気も信頼も厚く、さらに論文も数々出しておりその専門分野でもその名が知られる教授になっていた。

 

 

 

「さて、続いては今話題のアイドル、かすみんこと中須かすみさんです!」

『うおおおおお!!!かすみーーーーん!!!』

「いやぁ、凄い人気だねぇ」

「ありがとうございます!」

 

かすみは卒業後、芸能事務所にスカウトされてから努力を続け、数々の音楽番組やバラエティ等にも出演しており、その名を知らない者はいない大人気アイドルとなっていた。

 

 

 

━━━みんな、それぞれの道を歩んで頑張ってる。

 

だから、私も……

 

 

しずくは控え室で目を瞑りながら、それぞれの道を歩む皆の顔を思い浮かべ、自分も頑張ろうと士気を高めて目を開けて鏡に映る自分を見つめた。

 

水色のドレスに身を包み、化粧とその顔立ちが相まって大人っぽい雰囲気で、しっかりとした目付きでそんな自分を見つめていた。

 

そして首からは大切にメンテナンスもしている、輝林に高校生の時にもらったペンダントが掛けられていて、しずくはそのペンダントを右手に取って優しい目で見つめて笑みを浮かべた。

 

そんな時、コンコンコンと控え室の扉を叩く音が聞こえて、しずくは目線を扉の方へ向けて返事をした。

 

「はい、どうぞ」

 

「しずくさん、入ります!」

 

そこへ入ってきたのは、スーツを着て大人の雰囲気が漂う燈林であった。成長した燈林は幼い頃に夢で聞いた輝林のお願いを覚えており、さらにはそれを守り続け、現在はしずくのマネージャーを勤めていて、しずくの女優活動を支えている。

 

「……もう会見の時間?」

 

「はい!記者の皆さんもお集まりで、しずくさんをお待ちです」

 

「わかった、すぐに行くね」

 

そうして立ち上がったしずくはゆっくりと控え室から出て、燈林と共に記者会見の会場へと向かって行った。

 

しずくは卒業後、演劇等が学べる芸能大学へ進み、そのまま日本でもかなり有名な劇団に所属して、数々の劇にも出演。さらにはバラエティ等の番組、ドラマや映画の俳優、そしてアニメの声優と幅広く活動をして、そのほぼ全てで結果を残す大女優になっていた。

 

 

━━━これも輝くんが側にいてくれたおかげかな?

 

 

しずくがここまで頑張れたのは燈林を始めとした周りの人の支えがあってこそだったが、何よりも大きい理由は、輝林がずっと側で見守ってくれているという安心感からであった。その証拠に、輝林から貰ったペンダントは肌身離さず持ち歩いており、そしてそのペンダントの左側としずくの左手の薬指には同じ形をした指輪がはめられていた。

この指輪は、輝林が亡くなるまでに貯めていたお金と、しずくが大学の劇団や女優になって稼いだお金を合わせて買った物で、内側にはアルファベットでそれぞれの名前が彫られていた。

 

「しずくさん、緊張してます?」

 

「ううん、どちらかと言うと楽しみかな?あと今は2人だけだしいつもの呼び方で大丈夫だよ?」

 

「そう、ですか……?しずくお姉ちゃん、お兄ちゃんの指輪は持ってる?」

 

「うん、しっかりと持ってるよ」

 

しずくは燈林に尋ねられると、服のポケットから黒い指輪ケースを取り出してからそれを開き、輝林の分の指輪を燈林に見せた。

 

「お兄ちゃんがいれば大丈夫か。

……お兄ちゃん、しずくお姉ちゃんね、今から記者会見なんだよ。しずくお姉ちゃんが演出と脚本をしてる舞台の」

 

今日の記者会見は、大女優として活躍するしずくが初めて制作に関わった舞台の発表が行われ、その会場に足を運んだ記者達や世間の人達もそのことをまだ知らない。その為、何の発表が行われるのか首を長くしてその時を待っているのだ。

 

「完成したら、輝くんにも観せてあげなきゃね」

 

「うん!絶対喜ぶと思う!」

 

2人がそんな会話をしていると会場の入り口が見えてきて、その前では数名のスタッフ達が2人を出迎えた。

 

「……じゃ、行ってくるね」

 

「うん……じゃなかった。はい!ここから会見を見ておきますね!」

 

「ありがとう、燈林ちゃん」

 

「桜坂さん入られま〜す!」

 

しずくはシャッターの音が響き、フラッシュが光る会場へゆっくりと入っていき、舞台監督や主演を務める利明や百々等のメインの出演者が待つ壇上へと進んで行った。

その中には大和や月の姿もあり、登壇こそしていないが、出演者の中には当時演劇部部員であった人達が多く採用されていた。勿論これは推薦ではなく厳正なオーディションで選ばれていて、皆が夢を叶えてそれぞれの道を歩んでいる証拠である。

 

「では、今回演出と脚本を務められます、桜坂しずく様よりひと言頂戴致します。桜坂さん、お願い致します」

 

そしてしずくが壇上に立つとスタッフからマイクを手渡され、皆が注目する中しっかりと前を見つめて言葉を紡いだ。

 

 

「ただいまご紹介に預かりました。今回の舞台……『ラピスとアルタイル』の演出、脚本を担当します、桜坂しずくです」

 

そうしずくが告げた演劇のタイトル『ラピスとアルタイル』は、自身が高校生の時の虹ヶ咲学園本校分校合同演劇会にてする予定で、その後あの輝林が亡くなった事件が原因でお蔵入りとなってしまっていた『宝石と星が輝く夜に』にさらに手を加えたものであった。

 

 

━━━輝くん、見てる?

 

輝くんが愛してくれた……ううん、愛してくれてる桜坂しずくは、みんなが認めてくれる程に、立派な大女優になったよ……!

 

 

しずくは眩しいほどのフラッシュ、割れんばかりの拍手を受けながら、そのフラッシュにも負けない美しい笑顔を浮かべながらいつも側で見守っている輝林に胸を張るように言葉を贈った。

 

そしてふとしずくから視線をずらして開場の奥を見た利明は優しい笑顔を浮かべて笑い声を漏らした。

 

 

━━━後方彼氏面とはこのことやな。いや、後方夫面……って言うんかな?知らんけど。

 

 

その視線の先には壁に背をついて腕を組んで壇上のしずくを見つめる、あの時のままの姿をしている輝林がいた。

 

 

━━━うん、しずちゃん。ずっと見てるよ。

 

やっぱりしずちゃんは、永遠に僕の大女優だよ。

 

おめでとう、しずちゃん。

 

…………愛してるよ、ずっと。

 

 

色んな人が見つめ、そして見守る中、しずくはしっかりとした声で言葉を紡いでいき、記者からの質問にも答えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━そしてその先の、ずっと先。

 

どれぐらいの時があれから流れたのだろうか。

 

 

 

『今ミーティング終わったのですぐに行きますね!』

 

『わかった。気を付けてね』

 

『スタンプ「了解」』

 

 

━━とある高校の中庭にあるベンチで、スマホのメッセージアプリで誰かとやり取りをする男子がいた。その男子は相手から送られてきた、流行しているロボット猫のスタンプを見て思わず笑みをこぼした。

 

その男子は待ち人がやってくるのを校舎を見つめながら待っていると、奥から急いで靴を履きながら鞄を肩にかけてこちらに駆け寄ってくる人影が見えてきた。

 

「はぁ、はぁ……お待たせしました!先輩!」

 

「いいよ、そんなに待ってないから」

 

息を切らしながらやってきて謝るその女子を、男子は優しい笑顔を浮かべながらその女子を見つめた。、それから女子は息を整えて、肩からズレ落ちそうになっていた持ち紐を肩の奥まで直すと、そのまま2人は帰路についた。

 

 

━━2人が出会ったのは、男子が演劇部の練習がないため、誰もいない校舎の隅にある階段の踊り場で自主練をしていた時だった。

たまたまそこを通った女子と出逢い、そしてお互いに目を合わせた瞬間、どこか運命的なものを感じて2人は間も無く恋人の関係になっていった。

しかし、2人は何故惹かれあったのか、こんなにもお互いのことを出逢った瞬間に意識し始めたのか心当たりが全くなかった。以前に会った覚えもないし、どこかで見かけて目で追ってしまったということもなかった。それにも関わらずここまで惹かれてしまうということは、もしかすれば運命の相手(・・・・・)なのかもしれないと感じていた。

 

そんな2人は一緒に桜並木の道を横並びで話しながら歩いていた。その日の深夜には少し雨が降っていて地面がまだ濡れており、近くにある草からも雨しずくが垂れていた。

 

「いい天気だねぇ」

 

「そうですね。夜中に雨が降ってたみたいですけど、それが嘘みたいです」

 

「ほんとにね。雲ひとつない青空で気分が良いよ」

 

「私は先輩といるといつも気分が良いですよ?」

 

「なっ……!!」

 

「あっ、先輩照れてる〜」

 

「う、うるさい……っ!」

 

「ふふっ……」

 

女子は男子が照れて腕で隠した真っ赤な顔を見て笑みを浮かべた。男子はそんな女子を睨んでいたが、それからは恨みは感じられないものだった。

 

「……………」

 

「………先輩、どうかしたんですか?」

 

するとどこか気掛かりそうな表情を浮かべている男子を見て、女子は首を傾げてその顔をじーっと見つめた。

 

「……いや、付き合っても先輩呼びは変わらないんだな〜って思ってね」

 

「ふーん……もしかして、名前で呼んでほしいんですか?」

 

「そっ、そんなんじゃないって!ちょっと気になっただけだから……!」

 

「ふ〜〜〜ん……?」

 

女子はそんな言い訳をする男子をまるで小悪魔な表情を浮かべながら見つめると、男子はその目から自分の目を誤魔化すようにズラした。

 

「っ〜〜〜はいはいそうですよ!悪いか!」

 

「ふふっ、全然ですよ?━━━くん」

 

「っ………!!!!」

 

「あっ、また照れた」

 

そして女子が男子の名前を呼ぶと、男子は顔だけではなく耳先まで真っ赤にした。女子はそんな男子を見てさらに笑顔になって、男子もどこか悔しそうにそんな笑顔の女子を見つめた。

 

「━━ちゃんだってちょっと顔赤いぞ?」

 

「えっ……!?」

 

「ははっ、お互い様だね」

 

「……そうみたいですね、先輩」

 

「やっぱりその呼び方の方がしっくり来るわ」

 

誰もいないその桜並木の道には、そんな2人の笑い声だけが響いていた。

 

そんな2人を照らすように太陽は輝いていて、未だに残るしずくも照らされてキラキラと輝いていた。しかし、それに負けないぐらいの輝きを放っていたのはその女子と男子の笑顔であった。

 

 

「━━ちゃん、大好きだよ」

『しずちゃん、大好きだよ』

 

 

「━━くん、私も大好きだよ」

『輝くん、私も大好きだよ』

 

 

2人はそうしてお互いの気持ちを伝え合ったが、その言葉と重なって別の(・・)言葉が聞こえたことは、2人とも気が付かなかった。

 

しずくを照らす光は、まるでそうして手を繋いで歩いて行く2人を見守るようにずっと輝いていた。

 

 

 

そう……この物語は、やがて"ひとつ"の物語だ。

 

 

 

その物語は、永い時を経て"ひとつ"になったのであった。

 

 

 

 

〜〜『しずく照らす光』完〜〜

 

 

 

 

 





ありがとうございました!

……ついに終わってしまいました。こうして投稿を完了すると、なんだか寂しいような気もします。実はこの作品を書くきっかけはあるラブライバー親友との会話がきっかけでした。キャラの恋愛ならこんな話もいいよね〜と話していて、曇らせならしずくの前で彼女を庇ってシャンデリアの下敷きになって死んでまう主人公良くない?となりました。いや、最初にシャンデリアの下敷きって言い出したのはこの親友ですからね。えぇ。でもシャンデリアの下敷きとかどんなシチュエーションやねんと考え、演劇の演目中だと。そしたら男はしずくと同じ演劇部。でも虹ヶ咲は女子校やからその男子校を分校で作って……といろいろアイデアが思いついていき、今回の作品のような形になりました。
個人的にいわゆるキャラの死亡と残された人の物語、みたいなのは好きな方なのです。辛いですけど。このお話を書いてる時も正直辛かったですし、そこからの立ち直りを思いついた時は「俺、天才やん」と思ってしまいました。そして"生まれ変わり"とかそういうネタも本当に好きで、こういうラストにしてみました。いいですよね、運命っていうのは。
それに、この作品では所々にしずく楽曲の歌詞から連想したものを入れたり、重ねたりしてみました。見つけれてない方は是非探してみてくださいね!『エイエ戦サー』もネタ曲扱いされてますが、本当に素晴らしい曲ですよ。そんな私の思いはこれを読んでくださればわかると思います。

さてさて長々とこの作品の書くきっかけから語ってしまいましたが、いかがでしたか?私は書きながら、この作品を、この短い間のお話ではありますが、とても好きになりました。輝林くん等オリキャラ達にも、既存キャラ達にも、同じくらいの愛着があります。恐らくメイン作品のキャラたちと同じぐらいに。
やっぱりラブライブ!って良いですよね。この作品を書きながら、やっぱり俺はラブライブ!が好きだわ!と感じました。
みなさんの感想、是非聞かせてください。ハーメルンでも勿論、Twitterでも教えてもらえるととても喜びます。

それでは、評価や感想、Twitterでの読了報告やフォロー等お待ちしてます!

今後、メイン作品の方も書いていきますのでお楽しみに!何回でもこの作品を読んでください!私もしずく楽曲とか聞きながら読もうと思います!
ではみなさん、さようなら!

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